平成二十一年東京都議会会議録第十八号

○議長(田中良君) 六十番高倉良生君。
   〔六十番高倉良生君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○六十番(高倉良生君) 初めに、文化芸術振興への取り組みとして、アール・ブリュッについて質問いたします。
 日本での印刷物等の表記ではアール・ブリュットとしておりますけれども、フランス語で、感じたままを表現する、生の芸術という意味で、主に知的障害者や精神の病がある人などが創作する芸術であります。
 スイスのローザンヌには、この作品の世界的な拠点であるアール・ブリュッ・コレクションという美術館があります。日本では滋賀県近江八幡市に、国内作品を収蔵するボーダーレス・アートミュージアムNO-MAという美術館などが存在いたします。
 昨年、アール・ブリュッ・コレクションと日本の作品を一緒に紹介する展覧会が、東京など国内三カ所で開催されました。私もそのときからアール・ブリュッに関心を持ってまいりましたが、すばらしい作品が多く、障害者にとって、作品づくりは、あすに向かって生きる大きな力になっております。
 昨年の展覧会と時を同じくして滋賀県で行われた事業の中で作品の全国公募が行われ、知的障害者施設などから五百五十人が作品を寄せました。この中から六十四人の作品が選ばれ、来年三月からパリでアール・ブリュッ・ジャポネ展が開催されます。東京からも二人の作品が展示されます。
 私は、こうした芸術が活発になり、より多くの理解が進むよう願っている一人であります。物事を率直に評価する子どもたちが、アール・ブリュッの作品を見ると、大変すごいと感動することも多いようであります。
 文化芸術振興に先駆的な東京から、アール・ブリュッを積極的に発信する環境づくりを進める必要があります。作品の調査、発掘を進めるNPO団体などとの連携を進めるとともに、都内での作品紹介の機会がふえるような応援をすべきであります。
 全国には、障害者施設同士が連携したり、特別支援学校の美術教師が力を合わせて作品づくりの現場を運営している例があり、東京都内でもアトリエでの活動を進めている団体があります。作品制作現場の環境づくりとともに、将来はアール・ブリュッ・コレクションや、NO-MAと連携した東京への拠点づくりも必要であります。例えば、東京都現代美術館やワンダーサイトなどで取り上げてみてはどうかと考えます。
 障害のあるなしにかかわらず、芸術の芽はだれもが持っています。そのような視点が根づいてくれば、すべての人の生き方が変わってくるはずであります。アール・ブリュッの発展に向けた取り組みについて、石原知事の所見をお伺いいたします。
 次に、医療施策についてであります。
 血糖調節の異常による糖尿病は、国民病としてよく知られています。同じように血糖調節の異常で引き起こされる低血糖症があります。日本には低血糖症の潜在的な患者は一千万人以上いるとも指摘をされております。しかし、認知度は低く、医療関係者の間でも理解が進んでいません。
 過激な食事制限、過食、ストレスも原因といわれ、現代病でもあります。低血糖状態になると冷静な思考や判断が難しくなり、血糖値を上げようと分泌されるアドレナリンなどで精神症状も引き起こされます。こうした点から、みずからを傷つける自傷行為、自殺、うつ症状など、さまざまな精神症状と低血糖症との関連が指摘されております。
 低血糖症治療の会の顧問を務める柏崎良子医師が日本で初めて公表した、低血糖症と統合失調症との関連データがあります。他の医療機関で統合失調症と診断された百二十八人のうち、百二十四人が低血糖症でありました。アメリカの少年施設でも、糖の量を調節した食事をとらせたところ、みずからを傷つける行為や暴力が大幅に減り、自殺未遂がゼロになったとの報告もあります。
 低血糖症の診断には耐糖能精密検査で五時間ほどかける検査が必要ともいわれ、治療体制の拡充とともに、高額な検査費用への支援が必要であります。現代病ともいえる低血糖症への理解を深めるとともに、実態の調査を進めるべきですが、所見を伺います。
 福岡に久保田史郎先生という産科、麻酔科の専門医がいます。出生直後の赤ちゃんが低体温、低血糖に陥る危険性を指摘し、病院開業以来すべての出産データを記録し、周産期医療での予防医療に力を注いでいます。
 具体的には、新生児の低血糖、極度の体重減少、重症黄疸などは、摂取カロリーが基礎代謝量に満たない低栄養が原因と指摘し、低体温になることを保育器で防ぐとともに、出生直後から糖水や人工乳などで栄養を補い、低血糖を防いでいます。
 同医師は、新生児の低血糖症が怖い理由は、大人と違い、けいれんなどの症状がなく、見えないところで低血糖が静かに進行し、脳神経細胞の発育に障害を与えるからであると、保育管理の重要性を訴えています。さらに、妊産婦の生活習慣を整えること、例えば、運動不足を補う水中散歩や食生活改善も強調しています。
 周産期医療の中に低血糖予防の視点を取り入れることは大変重要と考えますが、見解を求めます。
 平成二十年第一回定例会で私は、職域でのがん検診推進を訴えました。これに対して都は、二十年度に職域での実態調査を行い、効果のあった事例を企業や保険者に紹介していくと答弁しました。
 企業で働く人には配偶者、家族がおり、職域検診を進める中にそれを含めることで、すそ野が大きく広がります。配偶者、家族まで視点を広げ、検診の普及を図るには、従業員へのがん教育を進める必要があります。
 配偶者、家族へも拡大したがん検診の取り組みについて、広く都内企業に普及啓発すべきであります。あわせて、受診率向上に積極的な企業をモデルとして示し、紹介すべきと考えます。所見を伺います。
 東京都庁も職域の一つであり、職員に対するがん検診の推進は受診率向上にも寄与すると考えます。都みずからの検診の状況と課題について明らかにすべきであります。
 また、職域としての都の受診率向上に向けた取り組みについて、見解を伺います。
 次に、公明党が推進し、今年度から実現した女性特有のがん検診推進事業は、乳がん、子宮がん検診の無料クーポン券と検診手帳を特定年齢の方に配布するものです。この事業は、女性の受診率の向上に大きく資するものであります。都としても、区市町村の検診事業への取り組みを積極的に支援していくべきでありますが、所見を求めます。
 がん検診の最後に、子宮頸がんについて伺います。
 公明党が推進をしてきた子宮頸がんを予防するワクチン使用が承認され、早ければ年内から任意接種が始まります。都民に対し、しっかりとした情報提供を行う必要がありますが、見解を伺います。
 次に、救急医療に有効な医療情報キットの普及について質問します。
 ひとり暮らしの高齢者が急病になったとき、駆けつけた救急隊がその患者の医療情報を把握することが難しいケースがあります。救急隊が迅速適切な救命処置ができるよう、かかりつけ医、緊急連絡先、持病、診察券、健康保険証のコピーなどの情報を入れた専用キットを冷蔵庫に保管し、ステッカーを張っておく事業が注目されております。ほとんどの家庭のすぐわかるところにある冷蔵庫に着目したアイデアであります。
 災害時にも効果的であることから、実施を検討している自治体が都内にもあるようです。昨年からこの事業を実施している港区から都に対して、先駆的な取り組みに適用される補助金の申請が行われていると聞いています。救急医療情報キットが都内全域で普及するよう区市町村を支援すべきと考えますが、所見を伺います。
 次に、水害対策についてであります。
 東京都豪雨対策基本方針に基づき、都は、水害が頻発している七流域について、関係自治体と協議を重ね、神田川など七流域すべてで計画が策定されましたが、この計画に基づいて取り組む豪雨対策の具体的な内容と期待される効果を伺います。
 基本方針では、地下鉄や大規模地下街での浸水対策にも重点が置かれています。特に、東京、新宿、渋谷を初め都内主要ターミナルには大規模な地下街があり、数多くのビルや地下鉄、公共駐車場などとネットワーク化した都市空間が形成されています。大規模地下街が一たび浸水をこうむると、東京の都市機能が麻痺するなど大きな影響が懸念されます。大規模地下街等での浸水対策について見解を求めます。
 また、四年前の集中豪雨で大きな浸水被害が発生した妙正寺川では、上流域の中野区白鷺一丁目の都営住宅建てかえとともに、新たに調節池が設置されることになっています。この鷺の宮調節池の概要と今後のスケジュールについて伺います。
 中野区は調節池の上部利用を進めるべきとして、十カ年計画の見直しに当たり、調節池上部を人工地盤とすることを明記しました。上部空間をオープンスペースとして日常的な利用を図っていくことは効果的でありますが、都の取り組みについて見解を求めます。
 最後に、環境施策として高尾山のトイレについて質問いたします。
 高尾山はミシュラン三つ星観光地になり、外国人を含め年間二百五十万人以上が訪れる、山としては国内有数の観光地であります。私は日本山岳会会員として登山を楽しむ一人でありますけれども、この秋も登山客で大混雑する高尾山の様子がさまざまなところで紹介され、改めて驚きました。
 多くの観光客が訪れる高尾山では、トイレの増設が必要であります。特に休憩して飲食をする山頂では急務であります。現在、下水道管は薬王院山門までしかなく、そこから頂上まで一キロメートル以上の延伸が課題となっています。
 環境保護と登山客の利便性向上のためにトイレの増設を急ぐべきでありますが、所見を伺い、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 高倉良生議員の一般質問にお答えいたします。
 アール・ブリュの発展に向けた取り組みについてでありますが、人間は、どんなハンディキャップを負っていようと、それぞれ異なる個性、能力を持っておりまして、周囲の支援やみずからの努力によって、それが大きく開花する秘めたる可能性があります。
 アール・ブリュは、障害を持った方などによる、既成の概念にとらわれない、感情の発露が生み出す芸術でありまして、現代芸術の一つのありようとして極めて重要であります。
 東京都現代美術館でも平成十七年に、依頼を受けまして、宮城まり子さんが主宰しているねむの木学園の子どもたちによる作品展を開催しまして、非常に好評を博しました。障害のあるなしにかかわらず、東京に集う芸術家たちが切磋琢磨しながら芸術文化活動ができるよう、都の文化施設の活用も含めて、アール・ブリュなどの新しい芸術文化や才能の支援を図っていきたいと思っております。
 他の質問については、技監及び関係局長から答弁いたします。
   〔東京都技監道家孝行君登壇〕

○東京都技監(道家孝行君) 鷺の宮調節池に関する二点のご質問にお答えをいたします。
 まず、調節池の概要と今後のスケジュールについてでありますが、河川の整備に当たっては、下流から順次拡幅を行うのが原則ですが、妙正寺川の環状第七号線から上流区間の整備には長期間を要するため、さまざまな工夫が必要でございます。
 このため、都営鷺の宮アパートの建てかえにあわせて調節池を整備し、調節池下流の治水安全度を早期に向上させるとともに、上流側の河川の拡幅が可能になるなど、一時間五〇ミリの降雨に対応する整備のスピードアップを図ってまいります。
 貯留量は約三万五千立方メートルを計画しており、早期の完成を目指し、平成二十二年度に工事に着手する予定であります。
 次に、調節池の上部利用についてでありますが、調節池の整備に当たっては、治水機能を確保した上で上部空間の有効利用を図ることも必要でございます。このため、都は、これまでも地元と調整を行いながら、公園や住宅用地として活用を図ってまいりました。
 鷺の宮調節池の上部についても、日常的な憩いの場として利用できるよう運動広場機能を備えた多目的広場や、災害時の広域避難場所として、中野区が整備することとしております。
 今後とも、都民の命と暮らしを守るため、調節池などの整備に当たっては財源の確保に努め、治水安全度の向上に向けて全力で取り組んでまいります。
   〔福祉保健局長安藤立美君登壇〕

○福祉保健局長(安藤立美君) 六点についてお答えを申し上げます。
 まず、低血糖症への理解促進についてでありますが、お話の低血糖症については、病気の概念や診断基準が確立をしていない状況であり、国や専門医等の動向を見守ってまいります。
 なお、都では、都民の健康づくりを進めるために、健康的な生活習慣に関する普及啓発や環境づくりの取り組みを行っているところであります。
 続きまして、周産期医療における低血糖予防についてでありますが、低出生体重児などの低血糖のリスクのある新生児は、出生後の状態に応じて、低血糖予防の視点を取り入れた医療的ケアが一般的になされております。一方、リスクのない健康な新生児への対応については、議論があると聞いております。
 次いで、職域におけるがん検診についてでありますが、都民の受診率向上のためには、区市町村が実施するがん検診とあわせて、職域においても受診促進の取り組みを強化することが重要であります。
 都は、今年度新たに職域がん検診支援事業を開始し、検診に積極的な企業における従業員の受診率向上策や扶養家族に対する検診の取り組みを広く紹介するなど、受診率向上に取り組んでまいります。
 また、がん検診の内容や重要性を伝えるリーフレットを作成し、普及啓発に活用するなど、職域における取り組みを推進してまいります。
 次いで、区市町村のがん検診についてでありますが、都はこれまで、包括補助事業を活用することなどにより、区市町村の受診率向上の取り組みを支援してまいりました。
 また、お話の女性特有のがん検診推進事業につきましても、円滑な事業実施に向けて、区市町村に対する積極的な情報提供を行ってまいりました。さらに、今年度は四区市に対しまして、地域の実態に合わせた効果的な受診率向上策を提案し、それぞれの区市でモデル的な取り組みを実施しております。
 今後とも、区市町村におけるがん検診受診促進を積極的に支援してまいります。
 次いで、子宮頸がんについてでありますが、その原因といわれておりますヒトパピローマウイルスのワクチンが、国において十月に承認され、販売に向けての手続が進められていると聞いております。
 都は、ホームページを通じてワクチンの対象者や接種方法等について周知を図るなど、都民への積極的な情報提供を行ってまいります。
 最後に、救急医療情報キットの区市町村への普及についてでありますが、お話のありました救急医療情報キットは、ひとり暮らし高齢者等の安心・安全を確保するために、緊急連絡先、かかりつけの医療機関、既往症などの情報を専用容器に入れ、一定の場所に保管しておくことにより、救急搬送などの緊急時に備えるものでありますが、都では、本事業につきまして、本年度から包括補助事業により支援をしており、今後、事例発表会や事例集の配布などを通じて取り組みを紹介するとともに、新たに本事業に取り組む区市町村に対し支援をしてまいります。
   〔総務局長中田清己君登壇〕

○総務局長(中田清己君) 都職員のがん検診に対する取り組みについてでございますが、職員の健康管理の観点から、一般健診とともに、がんの早期発見のため、胃がん、肺がん、大腸がん、子宮がん、乳がん、前立腺がん、この六種類のがん検診を実施しておりまして、庁内放送などによりまして、健診全体の受診の勧奨を行っております。
 その結果、平成二十年度の受診率でございますが、子宮がん検診及び乳がん検診で五〇%を超えるなど、全体でおおむね五〇%を上回っておりますが、一方、大腸がん検診は三〇%台にとどまっております。
 今後も職員の健康を保持増進するためには、ご指摘のとおり、がん検診による早期発見の重要性に関する認識を高める必要がある、そのように考えております。
 そのため、健康診断の実施時期に合わせた効果的な情報提供の実現に向けまして、庁内ネットワークシステムを活用するなど周知方法に工夫を凝らし、受診率のより一層の向上に努めてまいります。
   〔都市整備局長河島均君登壇〕

○都市整備局長(河島均君) 豪雨対策に関する二点のご質問にお答えいたします。
 まず、豪雨対策計画の具体的な内容と効果についてでございますが、本計画では、対策を急ぐ神田川など七流域におきまして、浸水被害の状況や流域の特性を踏まえ、河川や下水道の整備及び雨水の流出を抑制するための流域対策を定めております。
 具体的には、平成二十九年度までに、時間五〇ミリ相当の降雨に対応するため、河川においては護岸整備や白子川地下調節池の建設等を行うとともに、下水道では王子西一号幹線など基幹施設の整備に取り組んでまいります。
 また、時間五ミリ相当の雨水流出抑制効果を発揮させるため、公園や学校、病院等の公共施設や個人住宅で雨水浸透施設の設置を促進してまいります。これらの対策を総合的に進めることによりまして、おおむね時間五五ミリの降雨までは、床上浸水や地下浸水被害を可能な限り防止することを目指します。
 今後とも、本計画に基づき、関係区市や都民と連携して、豪雨対策の取り組みを一層推進してまいります。
 次に、大規模地下街等での浸水対策についてでございますが、主要ターミナルにある大規模地下街は、地下鉄や公共駐車場等と接続しており、複数の施設管理者の連携による総合的な取り組みが重要でございます。
 都は昨年度、東京都地下空間浸水対策ガイドラインを策定し、地下街の施設管理者や区に、共同で浸水被害の防止や軽減に取り組む体制の確立を促してまいりました。
 これを受け、八重洲地下街におきましては、近々、関係する施設管理者や区と協議会を立ち上げ、具体的な浸水対策計画の検討に着手することとなっておりまして、今後、こうした動きを他の地下街にも拡大してまいります。
 引き続き、関係する局や機関と連携いたしまして、大規模地下街等の浸水対策に取り組み、都市機能の確保とともに地下街の安全性向上に努めてまいります。
   〔環境局長有留武司君登壇〕

○環境局長(有留武司君) 高尾山のトイレについてお答えいたします。
 春と秋の行楽シーズンには、多くの人々が高尾山を訪れ、山頂のトイレも混雑しております。このため、地元関係団体の協力により、仮設トイレを設置して対応しておりますが、お話のように常設トイレの増設が必要と考えております。
 山頂付近では、地形的に新たな浄化槽の設置スペースを確保できず、現行方式でのトイレ増設は困難ですが、下水道が山頂付近まで延長されれば増設が可能となります。このため、トイレの増設に向けまして、現在、地元の下水道事業を担っている八王子市と協議を行っているところでございます。