平成二十一年東京都議会会議録第十四号

○副議長(鈴木貫太郎君) 十七番栗林のり子さん。
   〔十七番栗林のり子君登壇〕

○十七番(栗林のり子君) 初めに、薬物問題について質問します。
 青少年に多大な影響力を持つ有名芸能人の薬物事件が相次ぎ発覚し、警察庁長官による異例のコメントが発表され、また、行政と芸能業界との意見交換会が初めて開催されるなど、薬物対策の強化はこれまでにも増して重要な課題となっております。
 公明党の主張を受けて、都はこれまでに、取り締まり強化、司法機関などとの連絡会設置、また、全国初の脱法ドラッグ規制条例の制定、人体に健康被害をもたらすものを知事指定薬物と定めることで製造、販売禁止するなどの取り組みをしてまいりました。加えて、製造や販売、授与などにも罰則が科せられるようになっております。
 こうした取り組みを高く評価するものですが、薬物汚染の低年齢化という、若者を取り巻く環境は、ますます危険ゾーンに陥っております。都内で薬物乱用防止に取り組むボランティア団体が、本年三月、十代から三十代までの二千名を超える若者に薬物意識調査を行いましたが、その結果は、とても衝撃的なものでありました。このアンケートでは、薬物の使用経験者は六・九%、薬物使用の誘いを受けた経験者は一八・六%。そして、身近に使用している人がいると答えた人は一七・一%、さらに十人に一人が、みずから使用してみたいと思ったことがあると答え、どこで入手できるか知っているかとの問いには、五人に一人が知っているという驚くべき結果となっております。
 二〇〇七年の国立精神・神経センターの調査でも、大学生の二・九%が薬物使用経験があると答えており、大麻検挙者の約九割は十代から三十代の若者という実態で、想像以上に若者に薬物が蔓延していることを示しております。全庁挙げてのさらなる薬物防止に向けた緊急対策が必要です。
 知事は二十三歳の若さで文壇デビューされ、当時の若者に戦後新時代の風俗やモラルを提示され、当時の若者文化を牽引し、新しい時代を切り開かれました。今日、危険情報がはんらんする中で、薬物から若者の命と未来を守るという観点から、知事の所見を伺います。
 薬物に手を染める若者は、好奇心から手を出すケースが多いと指摘されておりますが、その若者の好奇心を押さえ込み、怖さ、恐ろしさ、そして何よりも薬物使用は犯罪であるということを教育の現場でまず教えていく一次予防策が重要であります。
 現在、小中学校や高等学校では、それぞれの授業の中で、酒、たばこ、薬物について取り上げており、さらに学校によっては、授業とは別に、薬物乱用防止教室を開催しております。中には、警察官が学校に出向き、実際の検挙、補導事例や、ビデオ、アルバム、薬物見本を紹介したり、キャラバンカーを活用するなど、生徒の心にインパクトを与えているとのことです。薬物汚染の低年齢化を学校現場で防ぐためにも、各学校の判断で開催しているこの薬物乱用防止教室を全校で一〇〇%実施するとともに、さらに内容を充実させていくことが必要と考えますが、都の見解を求めます。
 薬物対策にとって大事なことは治療後の予防策であります。薬物に手を染めた後、何とか更生した人たちが二度と薬物に手を出さないためには、更生した人たちを支えるサポート体制の整備が必要であります。
 先日、全国に五十カ所の施設を運営するダルクという薬物依存症のリハビリ施設を視察させていただきました。運営するスタッフがかつては薬物依存症だったという経験を生かし、入所者と病気の分かち合いをしながら回復、成長を進め、リハビリ後の就職までサポートする取り組みをしており、大きな効果を上げております。こうした民間団体を都として強力なパートナーとして位置づけ、施設の整備や運営面での財政支援も拡充すべきであります。見解を求めます。
 あわせて、女性専用のリハビリ施設も不足しております。子育て中の母親の場合は、子どもの保育場所や心のケアなど、よりきめ細かな支援も必要です。多角的な支援を要望しておきます。
 次に、若者の相談体制についてであります。
 昨今の若者は、やり場のない不安や孤独感、人間関係の悩みなどを抱え込んでいる人が少なくありません。このような悩みが原因となり、薬物使用だけでなく、さまざまな非社会的行動が引き起こされています。若者の過度の不安や深刻な悩みを解消することは、極めて重要な課題であります。
 都は、公明党が提案した東京都若者総合相談、いわゆる若ナビを七月にスタートさせました。主に十八歳以上の若者を対象に、人間関係の悩みや漠然とした不安、孤独感など、さまざまな相談に電話で対応しています。相談に応じてくれる時間は午前十一時から午後八時とのことですが、その時間では十分な受け皿となりません。夜回り先生として有名な児童福祉運動家の水谷修先生は、みずからの経験上、若者からの相談は午前二時前後が多いと指摘しています。
 そこで、若ナビにおいては、電話受け付けだけでなく、若者が利用しやすく、深夜でも相談事を受信できる、メールでの相談体制も早急に確立する必要があります。その上で、制度の利用状況から、電話相談受け付け時間の拡充も検討するべきであります。今後の都の取り組みを伺います。
 また、こうした相談体制については、若者への周知が必要です。大学やカラオケ店、ライブハウスやネットカフェ、コンビニなどの若者が手にしやすい場所に若ナビカードを設置するなど、周知の拡充が必要です。見解を求めます。
 次に、保育所待機児童の解消策について質問します。
 都は、保育所待機児童の解消に向けて、多様な保育サービスを組み合わせ、年齢別の保育ニーズに見合ったサービスを提供するなど、平成二十年度から三年間で一万五千人分を整備する保育サービス拡充三カ年事業をスタートさせております。特に今年度は、当初予定の五千三百三十五人の目標を八千人に拡充し、取り組みを強化したことを高く評価するものであります。
 その上で、今年度の整備目標八千人の達成に向けては、サービスの担い手の確保や専門職の能力アップなど、質の向上も重要と考えます。都の見解を求めます。
 さて、待機児童については、ゼロ歳から二歳までの待機児童が全体の九割を占めていることなどから、その解消策には、地域特性に応じた保育サービスの提供がより重要となってまいります。
 私の地元世田谷区では、先駆的な取り組みとして保育室制度を立ち上げ、待機児童の解消を進めてまいりました。都は、この保育室を認証保育所へと移行するように進めておりますが、施設面積などの要件に当てはまらず、現在残された保育室については、認証保育所への移行が難しい現状であります。これまで地域の中で保育室が担ってきた待機児童解消の実績も踏まえ、移行が困難な保育室が引き続き保育サービスを継続できるような新たな対応策を検討することを要望して、次の質問に移ります。
 次に、特別支援教育について質問します。
 都は、平成十六年度に東京都特別支援教育推進計画を定め、これまで第一次、第二次と、障害のある児童生徒の多様なニーズにこたえる教育環境の整備に努めてきました。しかしながら、知的障害の児童生徒数の急増に伴い、教育環境改善の取り組みが追いついていない実態があるのも否めません。
 先日視察をした矢口特別支援学校では、三十五年前学校建設されたときは二十八学級規模でつくられていましたが、現在五十六学級となっており、当時から比べると二倍近くに達している状況でした。中野特別支援学校においても同様で、もはや教室不足は避けては通れません。それぞれの学校では、図書室や美術室、または相談室を普通教室に転用し、最後は転用する教室がなく、普通教室をカーテンで仕切るなどして対応している現状であります。
 障害のある児童生徒数の増加等について都としてきちっと調査を行い、実態に合った対応を第三次計画にも盛り込み、具体的な改善策を示すべきであります。見解を求めます。
 最後に、区市町村の保健医療施策への支援について質問いたします。
 このたび、都立梅ケ丘病院が府中に移転することを踏まえ、区部の小児精神医療の新たな機能を確保するため、都立大塚病院に児童精神外来が開設されました。また、世田谷区では、国立成育医療センターの敷地内に発達障害相談・療育センターを設置するなどの整備を推進したところです。
 いよいよ来年三月には梅ケ丘病院が移転となる予定ですが、人口八十四万人の世田谷区にとって、この移転後の跡地を有効利用して保健福祉サービスの拡充が進められることに区民からも大きな期待が寄せられております。
 現在、世田谷区では、子ども初期救急医療診療所や新たな保健センターの設置、介護老人保健施設、通所リハビリテーションや療養通所介護施設、また、障害者の地域生活支援拠点である地域生活支援型入所施設や短期入所療養型施設、自立訓練施設など、さまざまな保健医療福祉サービスを提供する機能を一体的に整備する検討をしております。
 このように、サービスの利用者である住民に最も身近な区市町村が、実情に応じた、区の独自性あふれる主体的な施策を展開することは、これまで以上に重要になってきています。都においては、従来の保健医療の基本となるサービスに加え、区市町村の創意工夫による先駆的な事業を積極的に支援していく必要があると考えます。
 具体的な支援策を伺いまして、私の質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 栗林のり子議員の一般質問にお答えいたします。
 若者の薬物乱用についてでありますが、薬物の乱用は、心身をむしばみ、次代を担う若者の一生を台なしにするばかりでなくて、学校、職場、社会の秩序を乱すものでありまして、その害悪というのははかり知れないと思います。
 昨今、芸能人やスポーツ選手による薬物事犯が相次いでいることや、インターネットの上で有害な情報がはんらんしていることは、若者の薬物への好奇心を助長するなど、極めて憂慮すべき事態であると思っております。
 こうした状況を踏まえて、若者が安易に薬物に手を出さないよう、青少年を対象とする徹底した啓発活動、インターネット取引といった乱用実態に対応した指導、取り締まりなど、対策を一層強化していくべきだと思います。
 今後とも、行政、警察、地域が一体となりまして、薬物の恐ろしさをあらゆる機会をとらえて繰り返し訴えるなど、薬物乱用の根絶に全力を尽くしていきたいと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長大原正行君登壇〕

○教育長(大原正行君) 二点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、薬物乱用防止教室についてでございます。
 現在、児童生徒は、小学校の段階から、保健の授業において、飲酒、喫煙、薬物乱用による健康被害について学習をしております。
 また、授業の内容を深め、より実践的な態度を養う効果がありますことから、多くの学校で外部の専門家などを講師に招いて薬物乱用防止教室を実施しておりますが、全校の実施には至っていない状況でございます。
 学校現場においてはより一層の対策強化が必要でございまして、今後、一〇〇%、すべての公立学校において、薬物乱用防止教室や薬物乱用を取り上げたセーフティー教室を必ず年一回実施するよう指導してまいります。
 さらに、こうした教室の実施に当たりましては、児童生徒が薬物乱用をしないという意思決定や行動選択ができるようにしていくことが必要でございます。お話のように、講話や映像教材の活用など、指導方法の工夫を積極的に働きかけ、内容の充実を図ってまいります。
 次に、都立特別支援学校の教育諸条件の整備についてでございます。
 都教育委員会は、障害のある児童生徒の一人一人のニーズに応じた教育環境の充実や、自立と社会参加に向けた教育の充実などを基本理念といたします、東京都特別支援教育推進計画を平成十六年度に策定をいたしました。現在、第一次、第二次の実施計画を着実に推進しているところでございますが、この間、発達障害者支援法、障害者自立支援法や改正学校教育法の施行など、特別支援教育の役割、重要性も増加し、特別支援学校への都民の期待も高まりつつあります。
 こうした中で、知的障害のある児童生徒数の増加傾向が著しいことから、各学校の現況や、今年度実施いたします推計調査などを踏まえまして、来年度策定予定の第三次実施計画において、学校施設や設備などの教育諸条件など、特別支援教育の充実策について検討してまいります。
   〔福祉保健局長安藤立美君登壇〕

○福祉保健局長(安藤立美君) 三点についてお答えを申し上げます。
 まず、薬物依存症者を支援する民間団体についてでありますが、薬物依存症からの回復を目指す人たちに対して、現在、NPOなどの民間団体がきめ細かな支援を行っており、都はこれらの団体が運営する入所施設や通所施設に対して運営費などの補助を行っております。
 回復の過程においては、薬物の入手経路を完全に断つなど、かつての住環境から遠く離れることが効果的な場合もあることから、これらの施設は都道府県を超えて利用されております。このため、国に対して薬物依存症からの回復をより広域的に支援する総合的な対策を提案要求しており、今後も引き続き働きかけてまいります。
 次いで、保育サービスの担い手の確保と質の向上についてでありますが、都は今年度、保育人材確保事業を創設いたしました。本事業では、離職した保育士の再就職支援研修と就職相談会を一体的に行うほか、新たに配置する保育士再就職支援コーディネーターによりまして、求人、求職双方のニーズを調整し、円滑な再就職を支援することといたしております。
 また、人材育成の新たな取り組みとして、認証保育所の施設長に対する研修を開始したほか、保育士等の専門職を活用した認証保育所の運営指導など、サービスの質の向上にも取り組んでおります。
 引き続き保育サービスの拡充に積極的に取り組んでまいります。
 最後に、区市町村の保健医療施策への支援についてでありますが、都は、地域の実情を踏まえたきめ細かい福祉、保健、医療サービスの展開を支援するため、福祉保健区市町村包括補助事業を実施しております。特に、区市町村の創意工夫による先駆的事業につきましては重点的な支援を行っており、住民が主体的に取り組むメタボリックシンドローム対策や、在宅療養患者のリハビリテーションなどの取り組みが行われております。
 さらに、こうした先駆的な事業をまとめた事例集の作成や事例発表会の開催など、普及啓発に努めているところであります。
 今後とも、地域のニーズを踏まえた区市町村の施策展開を積極的に支援してまいります。
   〔青少年・治安対策本部長倉田潤君登壇〕

○青少年・治安対策本部長(倉田潤君) 東京都若者総合相談についてであります。
 都は、主に十八歳以上の若者の不安や悩みの解消を図り、ひきこもりや若年無業者などの非社会的行動を未然に防ぐことを目的として、東京都若者総合相談、通称若ナビを本年七月に開設し、電話による相談を行っております。この間、二十代及び三十代を中心とする若者から、自分に自信が持てない、人間関係がうまくいかないなど、さまざまな相談が寄せられております。
 電話相談の受け付け時間は、若者の生活実態を踏まえ、午前十一時から午後八時までとしておりますが、今後、メールによる相談につきまして、相談状況の推移を踏まえて検討してまいります。
 また、広報につきましては、事業開始時にイベントを開催し、集まった若者に電話番号等を記載した携帯カードの配布等を行いましたほか、ポスターを関係機関や大学等に配布し、相談窓口の周知を図りました。
 今後はさらに民間事業者の協力を得て周知を進めますとともに、都内各地の若者が集まる場所で広報活動を実施するなど、あらゆる機会を通じて積極的に広報を展開してまいります。

○副議長(鈴木貫太郎君) この際、議事の都合により、おおむね十五分間休憩いたします。
   午後五時五分休憩