平成二十一年東京都議会会議録第十四号

○議長(田中良君) 二十四番早坂義弘君。
   〔二十四番早坂義弘君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○二十四番(早坂義弘君) 日本一の山である富士山は、我々の心のふるさとであります。その富士山は、実は活火山であり、専門家によると、噴火の可能性が十分あるといいます。現に、東京都が本年六月に修正した、この東京都地域防災計画火山編において、富士山噴火の章が新しく加えられたばかりです。
 そこで、富士山が噴火した場合の東京都における影響と対策について伺います。
 富士山の噴火の歴史を振り返ると、最近二千年の間に少なくとも七十五回の噴火が発生しています。平均すると三十年に一回以上の頻度で噴火している計算になります。後ほど述べる三百年前の一七〇七年、宝永の大噴火以来、一度も噴火していないということは、この間、十回分のマグマが地下に蓄積されている可能性が高いといえます。そして、間もなく活発な火山活動期に入るという有力な予測があります。
 災害はしばしば、我々の想定を大きく超えて発生します。その代表例が、十八世紀初頭の二つの大地震と一つの噴火であります。一九二三年、大正十二年に発生した関東大震災の一つ前の関東地震は、一七〇三年、元禄十六年に発生しました。これは元禄地震と呼ばれ、江戸時代の絶頂期ともいわれる元禄時代を終わらせることになりました。極めて甚大な被害が発生したので、元禄から宝永に改元せざるを得なかったのです。この地震は、大正十二年のときよりも、さらに一回り大きいものだったと推定をされています。
 その元禄地震からわずか四年後、一七〇七年、宝永四年に、我が国が歴史時代に体験した最大規模の地震である宝永地震が発生したのです。東海地方から紀伊半島、さらには四国にかけて大災害をもたらし、人口の少ない当時でも二万人を超える死者が発生をいたしました。今でいう東海地震、東南海地震、南海地震が同時に発生したのであります。
 さらに続いて四十九日後、富士山が大噴火を起こしました。これが宝永の大噴火です。これはたまたま偶然に地震と同じころに噴火をしたのではなく、大地震が噴火を誘発したというのが専門家の見解です。
 この宝永の大噴火では、直径四、五十センチの火山弾、焼け石が山ろくに絶え間なく降り注ぎました。その焼け石は、地表に落下すると、粉々に砕けて燃え上がり、周囲を焼き尽くしました。さらには、その焼け石が三メートル以上も降り積もり、家や畑があっという間に埋まり、川をせきとめました。つまり、噴出物による直接的な被害と、それによる飢饉の発生、そして大水害という甚大な被害をもたらしたのであります。
 一方、富士山の火口から百キロ離れている江戸にも、偏西風に乗って数センチの火山灰が降り積もりました。江戸のまちは日中でも真っ暗になったといいます。
 このように、大正十二年の関東大震災や平成七年の阪神・淡路大震災をもはるかにしのぐ超巨大地震がわずか四年の間に連続して発生したこと、そしてそれが誘引となって二カ月後に富士山が大噴火を起こし、これまた甚大な被害をもたらしたこと、地震と噴火発生のサイクルから考えると、前回から三百年が経過した今日、地震も噴火も、そろそろ起きておかしくはないと考えられます。そして、もし同じことが今日発生したら、東京は、そして日本はどうなるかと震撼せざるを得ません。
 歴史の話はこれくらいにして、今日、富士山にこれと同レベルの噴火が発生した場合の被害について考えてみます。
 一つは、交通インフラの全面麻痺であります。東名高速道路、東海道新幹線はもとより、航空機もストップとならざるを得ません。これにより、我が国の経済は大打撃に直面します。
 そのほかに、火山灰が成層圏に達した場合の地球環境への影響が考えられます。
 東京都内でも、降灰による気管支炎などの健康被害。パソコンなど精密機械への影響。火山灰が河川や下水道に流入することによって生ずるせきとめなどの影響。農地や山林など都市の緑に対する影響。そして、降り積もった膨大な量の火山灰の処理をどうするか。東京に五センチ積もっただけで、都内だけで東京ドーム七十二杯分になると想定されます。これをだれが集めて、どこに捨てるのか。その場合、民有地は自己責任か。
 こういった一つ一つの影響を指折り数えていくと、富士山噴火による火山灰の影響は、百キロ離れた東京においても、とてつもないものだということがわかります。しかも、こうした事態に対して、我々はどう対処すべきかという経験を持っていないのです。
 もちろん、これだけの事態には、ひとり東京都だけの対策で処理できるはずもなく、国を挙げて、さらには官民一体となっての対策が求められます。
 危機管理は、被害の甚大さと発生可能性との掛け算で考えるべきであります。被害の甚大さでいえば、例えば、台風や地震の被害は比較的局所に限られるのに対し、富士山の噴火は、影響する地域が極めて広く、かつ甚大な被害が予想される。しかも、航空機も含めた交通インフラの全面麻痺によって、救援の手が届きにくい状況が想定されます。
 一方、発生可能性は、今日直ちに噴火の兆候があるというわけではありませんが、いつ起きてもおかしくないとされる東海地震に誘発される可能性は否定し得ません。
 また、二〇〇〇年、平成十二年には、富士山直下で、マグマの活動を示す低周波地震が相次いで観測されました。そして、それがきっかけとなり、国が中心となっての富士山ハザードマップが作成されたのであります。
 こう考えると、富士山噴火への備えは、決して絵そらごとではなく、今すぐ起きるという切迫性こそないにせよ、知事、私たちが生きている間に起こり得るものとして、十分に検討に値するものだと考えます。
 本年六月に修正された東京都地域防災計画火山編にある内容は、あくまで総論のみであって、いかに対処するかという各論の作成が今後必要だと考えます。
 いうまでもなく、溶岩流に巻き込まれて犠牲者が発生することの想定ではなく、火山灰による甚大な社会的影響についての検討です。都内に数センチの雪が降り積もっただけで都市機能に影響があります。ましてや火山灰は微細で、どこにでも入り込み、かつ、消えてなくならないのです。
 東京都は、世界で最も多くの活火山を有する自治体です。というのも、全世界におよそ八百の活火山がありますが、そのうちの百八は我が国にあり、さらにそのうちの二十一が東京都にあるからです。そういう立場から、先駆的な火山噴火対策を講じていくのは、世界の自治体のトップリーダーである東京都の役割としてもふさわしいものと考えます。
 そこで、富士山噴火に対する知事のご見解を伺います。
 次に、土砂災害防止対策について伺います。
 都内には、土砂災害が発生するおそれのある危険な箇所が多数あり、東京都はこれまでも、急傾斜地崩壊対策事業や砂防事業などを行っています。しかし、土砂災害の危険がある箇所すべてでハード対策を行うことは、時間的にも費用的にも困難であります。
 こうした状況のもと、被害を軽減するため、東京都は土砂災害防止法に基づき、土砂災害警戒区域の指定を進めていますが、現在までにどれぐらい指定したのか、また、今後の見通しについて伺います。
 本年七月、山口県防府市では、土石流により、特別養護老人ホームの一階が土砂で埋まり、入所者七名が死亡しました。
 社会福祉施設は、比較的大きな土地を必要とし、建設に当たっては地域住民との調整も必要であるという事情もあり、地域住民の少ない山間地や、急峻な地形のところに建てられる場合が少なくないようであります。
 施設の管理者は、立地などの特徴を十分に理解し、日ごろより職員や利用者の防災意識を高めるとともに、被害が予想される場合には、早目の適切な避難行動が求められます。そのためには、住民に身近な基礎的自治体である区市町村の取り組みが重要であります。
 そこで、現在、都内の土砂災害の危険がある区域に存在する社会福祉施設などの入所者の安全確保のために、東京都は区市町村を支援すべきと考えます。ご見解を伺います。
 次に、新型インフルエンザ患者の救急搬送について伺います。
 都内における救急車は、昨年、平成二十年度には、およそ六十万人の傷病者を医療機関に搬送しています。
 多くの病人やけが人を搬送する救急車が、新型インフルエンザの流行期において、インフルエンザ感染の有無が未確認の人を意図せず搬送することも考えられます。
 狭い救急車内において患者に密接した救急活動を行う救急隊員は、何の対策も講じなければ、非常に高い罹患の可能性があることは否めません。救急隊員の感染を防止し、新型インフルエンザの流行期においても、救急車の活動を確保することは極めて重要であります。
 先般、厚生労働省は、新型インフルエンザのワクチン接種についての素案を発表しました。その中では、優先接種対象者の第一優先として、救急隊員を含む医療従事者が考えられています。
 しかしながら、予防接種により、一〇〇%の感染防止、流行阻止が保障されるものではありませんから、予防接種だけでなく、複数の対策を実施すべきであります。
 また、救急車は、毎日、何人もの患者や同乗者が利用します。こうした人々が、救急車内を媒介にして感染する可能性も否定できません。救急車を利用した人々への感染拡大の防止も重要な課題です。
 そこで、東京消防庁では、救急活動における新型インフルエンザ感染防止として、どのような対策を講じているのか伺います。
 厚生労働省から示された新型インフルエンザの流行シナリオによれば、新型インフルエンザに感染し、かつ発症する確率は、通常のインフルエンザの二倍であり、国民全体の二〇%から三〇%の発症を見込んでいます。さらに、都市部では発症率がより高くなる可能性も指摘されています。都内において新型インフルエンザの患者数がふえれば、救急搬送の要請もふえるだろうと想定されます。
 そこで、感染拡大の懸念が高まっている中、新型インフルエンザ流行期における救急車出動要請増加への対応体制と、救急活動の感染防止策の準備状況について伺います。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 早坂義弘議員の一般質問にお答えいたします。
 聞くだに恐ろしい質問でありますけれども、富士山の噴火についてでありますが、日本は、アラスカ、カムチャツカに発して、アリューシャンを経て日本列島で分岐して、片方はフィリピン、片方はマリアナに至る世界最大のファイアリング、環太平洋火山帯の上に位置しているわけでありまして、我々日本人は、火山列島の上に住んでいることを忘れてはならないと思います。
 万葉集にも火を噴く山と歌われておりました富士山は、おっしゃるとおり、三百年前、そう遠い昔でもありませんが、宝永年間に爆発して、いわゆる宝永山ができたわけですけれども、今日、一たび噴火すれば、広域な地域に甚大な被害をもたらすことは必定であります。
 国の富士山ハザードマップ検討委員会報告によりますと、都内では大体二センチから十センチ程度の降灰があるだろうということでありますが、これは都民生活だけでなくて、社会経済活動が停滞し、国家の機能の維持にも非常に致命的な大きな影響を与えかねません。
 実は、私、就任してすぐ起こりました三宅島の噴火のときにも、いろいろ相談をいたしました地震学の権威の人たちが一番気にしたのは、あの地震が富士山と連脈があるかないかということで、これは実際にはありませんでした。そういうふうに、専門家はやっぱりいつもこれに注目しているわけですけれども、この大自然の営みであります噴火災害には、国、自治体、関係機関のみならず、地域や都民の一人一人の役割として対策をそれぞれが講じること、その積み重ねが不可欠であると思います。
 都としては、総合的な降灰対策の策定を国に対して働きかけていくとともに、自助、共助、公助の連携のもとに、噴火による被害を最小限に抑えるために、人知を尽くして必要な取り組みを進めていきたいと思いますが、しかし、この時代、いつ起こるかわからぬ大災害にどうやって備えていいか、これはなかなか、非常に難しい問題でありますな。
 他の質問については、技監及び関係局長から答弁いたします。
   〔東京都技監道家孝行君登壇〕

○東京都技監(道家孝行君) 土砂災害警戒区域の指定についてのご質問にお答えいたします。
 土砂災害から都民の命を守るためには、土砂災害の危険性を都民に周知するとともに、避難体制の基礎となります土砂災害警戒区域の指定を進めることが重要でございます。
 指定に当たりましては、現地調査などにより詳細な区域案を作成した後、住民の皆様の理解と協力を得るために、地元自治体とともに町会ごとにきめ細かな説明を行っております。このため、調査から指定までにおおむね三年を要します。
 都は平成十七年度から、土砂災害の危険箇所が多い西多摩地域から区域指定を進めておりまして、これまでに六百八十三カ所の指定を完了しております。
 二十一年度は、区域指定のスピードアップを図るため、事業の推進体制を拡充しまして、既に約四百カ所分の地元説明を終えており、これまでに指定した数の倍に当たる約千二百カ所を指定していく予定でございます。
 引き続き、八王子市や町田市など、指定する地域を順次拡大しまして、二十六年度に都内約八千カ所の区域指定の完了を目指してまいります。
 今後とも、地元自治体と連携して土砂災害警戒区域の指定を推進し、都民の安全確保に努めてまいります。
   〔福祉保健局長安藤立美君登壇〕

○福祉保健局長(安藤立美君) 土砂災害警戒区域等の施設入所者の安全確保についてでありますが、都内の警戒区域に存在する社会福祉施設等は十一施設ございます。
 都は、今回の防府市における事故後、速やかにこれら十一施設に対して個別に連絡し、入所者の安全確保に努めるよう、改めて要請をいたしました。
 また、地元市におきましても、指定された警戒区域や土砂災害の起こる可能性がある地域の施設に対し、説明会を開催するなど、きめ細かな取り組みを行っている例もございます。
 今後、関係局とも連携し、風水害時における施設入所者の安全確保が図られるよう、区市町村に対する支援を検討してまいります。
   〔消防総監新井雄治君登壇〕

○消防総監(新井雄治君) 救急活動における新型インフルエンザ対策に関する二点の質問にお答えをいたします。
 初めに、新型インフルエンザ感染防止対策についてでありますが、救急活動における感染防止対策は大変重要であると認識しております。
 このため、当庁では、平素からの感染防止対策に加え、新型インフルエンザの特性を踏まえまして、すべての救急活動にゴーグル並びにN95マスクを携行し、新型インフルエンザが疑われる傷病者で、激しいせき症状を呈している場合や、器具を用いた気道確保などの感染危険が増大する救急処置を行う場合には、直ちに着装することとしております。
 また、新型インフルエンザが疑われる傷病者とその同乗者に対しましては、サージカルマスクを着用していただき、感染防止の徹底を図っております。
 さらに、搬送後におきましては、救急車内及び使用資器材の消毒を確実に実施するなど、救急活動における感染防止対策の万全を期しております。
 次に、新型インフルエンザ流行期における救急活動についてでありますが、当庁では、増大が予想される救急要請への対応といたしまして、一一九番通報受信体制の強化、非常用救急隊の編成、高機能な新型感染防止衣の導入などにより、活動の万全を期することとしております。
 また、救急活動に必要な感染防止用資器材といたしまして、本年九月現在、N95マスク五十八万枚、消毒薬六万八千本などを備蓄しており、さらに計画的に整備を進めているところであります。
 今後とも、総合的な感染防止対策の徹底を図ってまいります。