平成二十年東京都議会会議録第四号

  午後一時開議

○議長(比留間敏夫君) これより本日の会議を開きます。

○議長(比留間敏夫君) この際、あらかじめ会議時間の延長をいたしておきます。

○議長(比留間敏夫君) 次に、日程の追加について申し上げます。
 知事より、東京都収用委員会委員の任命の同意について外人事案件三件が提出されました。
 これらを本日の日程に追加をいたします。

○議長(比留間敏夫君) 昨日に引き続き質問を行います。
 四十七番田代ひろし君。
  〔四十七番田代ひろし君登壇〕

○四十七番(田代ひろし君) 脳梗塞の特効薬である組織プラスミノゲン・アクチベーター、略してt―PAの使用により、四割近い方がほぼ後遺症なく社会復帰ができます。しかし、このt―PAは、発症後三時間以内に治療を開始しなくてはならないという制限があり、いつ倒れたのか、いつまで健康な状態であったのかということを通報者がきちんと把握しておくことが非常に重要です。また、三時間以上経過しても、脳梗塞は早期治療の効果が大きいことを広く都民に啓発していくことが大切だと思います。
 現在、消防庁は現場まで六、七分、病院到着まで三十分程度ですので、画像診断などに要する一時間を考慮しても、十分に治療を行うことができるはずです。しかし、的確な病院選択システムがないために、最近報道されているようなたらい回しになり、タイムリミットを超えてしまうという現実があります。
 そこで、日本脳卒中学会の施設基準に基づいたCTまたはMRI検査が二十四時間実施可能で、専門医とスタッフが常駐する設備の整った病院のみを登録した輪番システムをつくれば、効率よく搬送先を検索することができます。こうした脳梗塞の取り組みを含めた脳卒中の一貫した医療体制をどのように構築するのか、都の見解を伺います。
 現在、特定健診・保健指導は全体像が示されてはおりますが、細部は固まっておりません。早急に国に対して整備を急ぐよう要望すべきと考えますが、見解を伺います。
 と同時に、効果的な健診の実施に向けて、医療関係七団体との協力や連携が一層不可欠ですが、都の考え方を伺います。
 後期高齢者医療の診療報酬体系は、高齢者の特性を踏まえた医療サービスに対する評価をする方針で、新たに策定されたものと聞いております。しかし、主治医が十分に機能を発揮し、国の設計どおり、他の保健医療福祉サービスとの効果的な協力体制が組めるかどうか、各事業体の連携が不十分である現段階では、疑問なしとはいえません。
 また、終末期における情報提供等の点数評価が新設されておりますが、病状や心情が揺れ動く終末期にあって、話し合いの機会の算定回数を一回限りとしていることなど、四月以降実態を注視していく必要を感じます。
 日本人の死因第四位である肺炎の半数は肺炎球菌によるもので、近年、耐性菌が増加しています。このため、戦後一貫して減少し続けてきた肺炎の死亡者数が増加に転じました。肺炎球菌ワクチンを接種することにより、死亡率を六〇%下げることができるとされています。
 しかし、海外の主要国では接種率が六割を超えるのに対し、日本では数%とまだ認知されておりません。一回の接種で五年から八年は効果が持続する肺炎球菌ワクチンを接種することにより、医療費の削減にも大きな効果を期待できますが、その普及について、都の見解を伺います。
 一九七六年、アフリカのスーダンでエボラ出血熱という病気が発見されました。高熱や出血などの症状の後、約七割という高い致死率を持つこの感染症は、いまだに有効なワクチンや治療法は見つかっておらず、ある意味では、エイズ以上に恐れられている恐怖の感染症です。しかし、接触感染のみのエボラ出血熱は、今のところ幸いにもアフリカという限られた場所での発生を見るにすぎません。
 この恐怖の感染症エボラ出血熱と同様に高致死率であり、さらに空気感染、飛沫感染をも起こす新興感染症が、今人類の目前に迫っている可能性が高いと叫ばれています。
 一九九七年五月に、香港で三歳の少年が高熱とせきで入院しました。そして、亡くなりました。その少年の血液検査で、H5N1型鳥インフルエンザウイルスが検出されました。種の壁を超えることがないといわれていた鳥のインフルエンザウイルスが人間に感染を起こしたということで、大変ショッキングなニュースとして全世界に伝わりました。
 鳥インフルエンザウイルスは、本来カモを中心とした水鳥にしか感染しませんが、インフルエンザウイルスは非常に変異しやすく、人類が一千万年かかる進化を一年でなし遂げるために、徐々に鶏にもうつり、多くの動物にも感染するという変化を遂げてきたわけです。
 さらに、一たび鳥インフルエンザウイルスが人に感染すると、人から人へ感染する新型ウイルスへ変化するのは時間の問題といわれています。
 また、もともと鳥の病気なので人は免疫を持っておらず、免疫系が働かないため重症化し、一たび流行すると、瞬時に大陸を越えた地球規模での大流行、パンデミックを起こす可能性を持ちます。
 さらに、発症後五日目からウイルスを振りまくといわれているSARSと違って、このH5N1は発症前からウイルスを出すため、サーモグラフィーなどを使用した現在の空港や港の検疫システムでは、侵入をとめることは、ほぼ不可能です。
 現在、高病原性強毒型の典型例であるH5N1型鳥インフルエンザウイルスが、人から人へ感染する新型インフルエンザになるのは、イフ、もしかするとではなく、ホエン、いつの問題であると、WHOは警鐘を鳴らしています。しかし、このWHOの認識は日本ではほとんど理解されておらず、政府による新型インフルエンザに対する危機管理対応準備もなかなか進んでいません。
 また、次の新型インフルエンザが強毒型ウイルスH5N1とは限らないのではないかという声もありますが、たとえ別のウイルスがはやったとしても、H5N1は独自に変異をし続け、パンデミックが起きるまでは決着がつかないのです。そのため、二〇〇三年から世界じゅうで三億三千万羽の鶏などを殺処分するなど、莫大な資金と労力を費やし、人への感染と新型への変異を防いできたわけです。
 インフルエンザウイルスは、たんぱく分解酵素プロテアーゼがある場所でしか感染、増殖をすることができません。弱毒型ウイルスの開裂部位に合うプロテアーゼは、呼吸器と消化器にしかありません。
 これに対して、強毒型ウイルスの開裂部位に合うプロテアーゼは、全身すべての細胞にあるゴルジ体に存在するため、あらゆる臓器で感染、増殖を引き起こし、さらに血流中にも侵入してウイルス血症を引き起こすため、代謝や免疫活動が活発な若年者においては、サイトカインストームと呼ばれる過剰な生体防御反応が起こり、正常な細胞までも破壊するため、弱毒型ウイルスである通常のインフルエンザでは高齢者の死亡率が高いのに対して、多臓器感染を起こす強毒型H5N1では、青年、児童の死亡率が非常に高いのです。また、ウイルスの胎児・胎盤感染も確認されています。少子高齢化が急速に進行する我が国において、働き盛りの年代と小児を失うことは、国家存続の危機にもつながりかねません。
 マウスを使った実験では、二〇〇〇年以前のH5N1だと、マウスの臓器への感染はほとんど認められず、発症していませんでした。しかし、現在のH5N1では、マウスの致死率は一〇〇%です。また、人に対しても病原性が非常に強くなっていることが証明されています。
 二〇〇四年、バンコクのトラ動物園で飼育されていた約三百頭のトラの何頭かに感染した鶏をえさとして与えたところ、そのうちの八十頭が死にました。このとき、鳥からトラへ感染したH5N1が、トラからトラへ感染できるウイルスへと変化したことが確認されています。これは、図らずも人と同じ哺乳類で実験をしたことになり、人類の間でも同様の事態が起きると予想されています。
 政府による我が国の死者数の試算は、最高でも六十四万人です。六十四万人とは、スペイン風邪における被害を現在の人口比に合わせた推定値です。
 一九一八年に流行したH1N1型のスペイン風邪では、世界で約一億人の方が亡くなりました。当時我が国は、人口五千五百万人だった日本で四二%の方が罹患し、四十五万人の方が亡くなりました。過去最大といわれているこのスペイン風邪でさえ弱毒型のウイルスで、致死率はわずか二%ですが、それに対して、感染力の強い強毒型H5N1の致死率は、現在六〇%を超えております。弱毒型のスペイン風邪とは全く別のものなんですね。
 当時に比べ、人口は約二・五倍にふえ過密化し、さらに、全国に張りめぐらされた交通網ができたにもかかわらず、政府試算での感染率は二五%です。弱毒型スペイン風邪でさえも四二%であったわけですから、この試算が理論破綻していることは明らかです。
 オーストラリアのロウィ研究所では、日本の死亡者数は二百十万人と試算されています。さらに、アメリカ政府が机上訓練で設定した二〇%の致死率をそのまま我が国に当てはめれば、四百万人以上の方が亡くなる計算になるわけです。
 また、我が国の行動計画では、感染時に自宅療養ということになっておりますが、通常のインフルエンザのように肺炎だけではなく、出血、多臓器不全、脳炎を起こしている患者さんが自宅療養ということがあり得るでしょうか。
 他の先進諸国では、このH5N1に対するWHOの警告に対して、H5N1新型インフルエンザ問題を、医療問題ではなく、国家安全保障にかかわる重要課題と位置づけて、最悪の事態を予測し、その対策が強く推進されています。
 アメリカでは、二〇〇五年の十一月にブッシュ大統領が、H5N1新型インフルエンザ対策をテロ対策と同格に位置づけて、管轄を保健省から国務省へ引き上げ、ホームラウンドセキュリティーと認定しました。大統領が最高責任者となり、年間九千億円の予算が投入され、最近の情報では、アメリカは既に三億三千万人分のプレパンデミックワクチンの備蓄が完了したとのことです。
 スイスでも、全国民分のプレパンデミックワクチンの備蓄が終わり、接種が間もなく始まる予定です。
 二十世紀の新興感染症の大流行は、世界では平等でした。どの国もすべからく被害をこうむったわけです。しかし、二十一世紀は違います。各国の対応状況により、被害には大きな差が生じるのです。
 では、この迫りくる新型インフルエンザのパンデミックに対して、我が国の政府は何を行えばよいでしょうか。それには、三つのワクチンがあります。
 一つ目は、パンデミックワクチン。パンデミックワクチンとは、パンデミックが発生した後、罹患した患者さんからとったウイルスをもとにつくるワクチンです。日本のガイドラインでは、発生後六カ月から一年以降に製造するということになっておりますが、供給できる体制が現在はなくて、具体的な製造計画も示されておりません。
 では、事前に予防するためにはどうすればよいかということで開発されたのが、二つ目のプレパンデミックワクチンです。これは、H5N1型の今の鳥インフルエンザウイルスからつくったワクチンです。このワクチンを打つことで、その流行規模と健康被害をかなり低下させることが期待できます。さらに、国民の七割以上にプレパンデミックワクチンを打った場合には、その国ではパンデミックが起きず、一般のインフルエンザの流行程度にしかならないという研究結果が出ています。
 このプレパンデミックワクチンを、日本ではまだ一千万人分しか用意できておりません。抗生物質は全く効果がないため、抗ウイルス剤タミフルが必要であるにもかかわらず、実際には九百万人分の備蓄しかありません。副反応の可能性をきちっと説明した上で、希望するすべての国民に早急に接種をできるように計画すべきです。この生産コスト約千七百億円は、社会機能の停滞や崩壊による経済被害二十兆円に比べたら、圧倒的に安上がりです。
 そして三つ目は、知識のワクチンです。パンデミック発生前に、必要な情報とあらゆる選択肢を国民に広く示して、開かれた議論を重ねていくことにより、納得と同意を得ることが大切なのです。それを通して心の準備をさせるのです。この知識のワクチンが、本物のワクチン同様に人を救うといわれています。
 今回、多大なご指導をいただいた我が国の感染免疫学の第一人者である国立感染症研究所の岡田晴恵博士は、最新の著作の中で、今必要なのは、H5N1型鳥インフルエンザウイルスを科学的に正面から見据え、この鳥型ウイルスがどのような性質の新型インフルエンザに変化していくのか、その可能性を科学的に直視して見きわめ、危機管理、国家安全保障の問題として最善の準備対応対策を早急に講じることではないか、それこそが新型インフルエンザ大流行の大災害から多くのとうとい人命を救い、国の未来を守る二十一世紀の真の英知となる、新型インフルエンザは出てみないとわからないというのはサイエンスではない、科学を放棄した無責任な言動である、我々は、サイエンスの教えを真摯に受けとめ、かけがえのない生命を守っていくべきであると述べられています。
 この質問が、我が国の政府を動かすきっかけとなる最初の知識のワクチンとなることを願い、知事のお考えを伺い、質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
  〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 田代ひろし議員の一般質問にお答えいたします。
 新型インフルエンザ対策についてでありますが、今や新型インフルエンザは、いつ発生してもおかしくない差し迫った危機でありまして、最悪の事態を想定した対策を早急に講じる必要があると思っております。
 新型インフルエンザの脅威から国民を守ることは、まさに国が、国家の危機管理として対応すべき重要な課題であると思います。しかし、国の動きはまだまだ鈍く、プレパンデミックワクチンの備蓄も一千万人分と不十分でありまして、また、感染の拡大防止に不可欠な外出や事業活動の規制についての法整備は極めておくれております。
 都は国に対して、ワクチンの接種体制の整備や行動規制による徹底した封じ込めの実施など、新型インフルエンザ対策の確立を強く求めていきたいと思っております。
 都としても、都民の生命を守ることを最優先に、せめてご指摘の知識のワクチンの普及を徹底させること等で、感染の拡大防止に全力を尽くしてまいりたいと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。
  〔福祉保健局長安藤立美君登壇〕

○福祉保健局長(安藤立美君) 四点についてお答えをいたします。
 まず、脳卒中の医療体制についてであります。
 脳卒中は死亡率が高く、命を取りとめても重大な後遺症が残る可能性が高いことから、t―PAを含めた急性期の専門的治療の提供と、その後のリハビリや在宅療養を支える体制が重要であります。
 このため、都内全域で患者が速やかに急性期の治療が受けられるよう、医療機関や東京都医師会、東京消防庁等から成る協議会を来年度早期に設置し、ご提案の輪番制を含めた専門医療機関の確保や、救急隊と情報を共有した搬送受け入れ体制の構築について検討を行ってまいります。さらに、二次保健医療圏ごとに検討会を設置し、地域において、急性期から在宅に至るまで切れ目のない医療連携体制の構築に努めてまいります。
 次に、特定健康診査等に関する国への要望についてであります。
 これまでの区市町村の基本健康診査にかわり、平成二十年度から医療保険者が実施主体となって、特定健康診査・特定保健指導を実施することとなりました。都民の健康づくりの体制が大きく変わることを踏まえまして、都は国に対し、受診者にとって利便性の高い健診等の仕組みづくりや必要な財政支援等について、提案要求をしております。今後、特定健診等の円滑な実施に向けて必要な情報提供を行うよう、引き続き国に求めてまいります。
 次に、特定健康診査等の実施に向けた関係団体との連携についてでありますが、都民の健康の保持増進のためには、生活習慣の改善を目的とした特定健診等が円滑に実施されることが重要でございます。
 都では、東京都健康推進プラン21の推進に当たりまして、特定健診・保健指導検討部会を設置し、医師会など医療関係団体とともに、その実施に向けたさまざまな課題について、鋭意検討してまいりました。今後とも特定健診等が効果的に実施されるよう、区市町村や医療保険者、医師会等の関係機関との連携をより一層強化をしてまいります。
 最後に、肺炎球菌ワクチンの普及についてであります。
 肺炎球菌ワクチンは、我が国では現在、主として高齢者の肺炎予防を目的に、任意の予防接種として実施をされております。
 国は、平成十七年の予防接種に関する検討会中間報告書におきまして、肺炎球菌ワクチンを予防接種法の定期接種に位置づけることを検討するに当たっては、さらに知見を収集することが必要であるとしてございます。海外では、肺炎球菌ワクチンの有効性を示唆する研究が報告されておりまして、都としては、ワクチンの有効性、安全性、費用対効果等について早期の検討を行うよう、国に対し働きかけてまいります。