平成二十年東京都議会会議録第三号

○議長(比留間敏夫君) 七十五番門脇ふみよし君。
  〔七十五番門脇ふみよし君登壇〕
  〔議長退席、副議長着席〕

○七十五番(門脇ふみよし君) 杉並区永福に昨年四月、永福学園高等部が開校いたしました。名称だけですと普通の高校のようですが、ご承知のとおり、都立知的障害特別支援学校の高等部です。学校要覧には、「将来の職業的自立を目指した教育を行うことにより、知的障害が軽い生徒の自己実現と社会参加・自立を促進し、社会に貢献する人材を育成する学校」と書かれています。
 軽度の障害を持つ生徒全員が企業就労を目指した学校で、しかも一学年百名、全学年で三百名もいる学校は恐らく全国初ではないでしょうか。
 発達障害の問題は、最近教員の中でもやっと理解が進んだ程度で、日本においてそのような障害のある子どもたちへの支援は、アメリカなどと比べ、まだ十分とはいえません。この状況の中で、都立学校に、軽い知的障害があることを入学要件としながらも、発達障害に伴う生徒のための学校ができたということは、高い評価に値するものと考えています。
 先日、私は永福学園に行ってまいりました。学校の実習室での現実に即した勉強も有意義と感じましたが、小林進校長の、一人一人が税金を納められる人間に育てたいという言葉に心を打たれました。
 一昨年の予算特別委員会でも申し上げましたが、障害のある子どもを持つ親にとって、親が亡くなった後のことは大変気がかりです。ですから、働いて、しかも税金が納められるほどの社会人になってくれたら、これ以上の喜びはありません。
 軽度の障害の生徒は、日常会話も成立しますし、中学までは普通学級に通っていた生徒も多いのですが、現実には、重度の生徒よりもむしろメンタルな部分で難しいところが多くあり、指導が難しいのが現状です。障害を理解し、生徒一人一人を肯定的に受け入れ、自尊感情、自己効力感を高め、その上で就労に向けて努力を惜しまない生徒を育てていこうとする永福学園には大いに期待を寄せているところであります。
 以下、提案と要望を含めて、何点か質問します。
 永福学園では、就労に向けて本格的な実習を行っています。実習には市民講師としてその道の専門家を呼んでおり、本物に触れることで、より社会に役立つ知識、技術を学び、学校社会と社会とのギャップを埋めようとしています。私が伺ったときにも、訪問介護士による介護実習が行われていました。生きた授業が行われており、このような実習授業はとても大切なことだと思いました。
 さて、現在、その市民講師の講師代は予算に計上されていますが、恒常的ではないと伺っています。生徒全員の就労を目指すならば、実習の講師代は必要不可欠な経費であると考えています。単年度予算制度の仕組みは理解できますし、都内に同様の高等部がこれから新設される計画もあることから、予算確保は容易ではないと理解していますが、せめて学園の機能が安定し、卒業生が社会に出て、評価が戻ってくるまでのしばらくの間、講師代に関してきちんとした予算措置が組まれることを強く望みたいと思います。
 また、お金は幾らあっても足りないのが教育現場かとも思います。特に永福学園のような学校では、普通の都立高校と比べ物にならないほど経費、特に人件費がかかっています。現行では、寄附金を単独校で集めることはできません。何とか学園の理念に賛同する企業、個人からの寄附金を学園のためにプールする仕組みができないものなのか、法規の整備を含めて、今後極めて重要な検討項目になると思います。
 次に、現状では実習先が不足しています。今後、就職先を見つけていくのも大変なことだと思います。幸いにも興味を持っている会社は多いようで、中小企業を含め今日まで約五百社ほどが学園に見学に来ているそうです。生徒たちの現状を見て、軽度の障害を理解する企業関係者、経営者も少なくありません。
 学校現場でも懸命に努力をしていますが、教育委員会や知事部局として、中小企業を含む経営者団体などに対して、学校見学などにより就労支援体制を整えていただきたいと思いますが、そのお考えをお示しください。
 昨年には、「十年後の東京」に掲げられた、十年間で障害者雇用三万人以上の増加の実現を目指し、各関係機関が連携を図り、障害者の企業での就労を促進するため、東京都障害者就労支援協議会が設置されました。現在までは先進的な企業による事例紹介などをしているようですが、今後、この協議会が障害者雇用の中心的役割の一部を果たしていくことは間違いがありません。内部組織ではないだけに、既存の概念にとらわれない活発な議論を期待していますが、同時に、事務局を担当する三局、福祉保健局、産業労働局、そして教育庁の連携を、この協議会の審議の過程を踏まえ、強化する必要があるでしょう。
 軽度の障害の生徒は、環境さえ整えられれば、企業の戦力にもなり得る子どもたちです。私は、軽度の障害の生徒の就労を支援するためにも、障害者雇用を一定のレベル行っている会社へのステータスを与えるべきであると以前から申し上げてまいりました。一昨年の一般質問では、ISO障害者版のようなシステムを創出すべきと提案をいたしました。一つの案としては、一定以上の採用を決めた会社へ優良マークを与えてはどうかというものです。そうすれば、企業の社会的責任の観点から、大手企業のみならず、中小企業も採用に向け重い腰を上げてくれるのではないかと思っています。
 そこでお尋ねいたします。昨年暮れに発表された実行プログラム二〇〇八には、障害者を多数雇用する企業を対象とした登録制度について書かれているのですが、具体的なイメージがわいてきません。雇用率の達成度合いに応じたランクづけや優良マークを公募するのもよいことではないかと私は思っています。現在までに都として検討している内容についてお伺いをいたします。
 また、現実として中小企業の採用に関しては、優良マークよりは助成など経済的施策をしてもらった方がいいという場合もあると思います。厳しい中小企業の現状を考えれば、あるべき論だけでは雇用は先に進みません。
 そこで、東京都の新たな助成制度についての考えをお聞きいたします。
 実行プログラム二〇〇八では、障害者雇用に取り組む企業に対して画期的な新規事業が載せられています。今までのこれに関連するすべての施策、事業の集大成といっても過言ではないでしょう。離職率の高い当初三年間の賃金を都独自に助成するものです。障害者にとっても、雇用する会社にとっても期待が高い制度ですが、現状で考えている具体的な内容をお示しください。
 さて、この項の最後に、私の思いを込めて、要望を申し上げます。
 先ほど、学園に係る経費は普通の都立学校と比べられないほどであると申し上げました。必要な経費であり、否定はいたしませんが、やはり一般企業であれば、採算を度外視することはできません。
 私は、卒業生の就職率、転職率、賃金など、卒業後約十年間は検証する必要があると思います。特に軽度の障害者の転職率は高く、再就職時にはアルバイトのようなことになることも珍しくありません。これでは、自立した社会人とはいえません。三年間手塩にかけた生徒を卒業させ、卒業させたら、その後はケアしたくてもケアができないというのでは、学園をつくった意味はないと思います。私はあえて、卒業後三年間、すべての生徒への相談、アドバイス、そして同時に企業への相談、アドバイス、アフターケアの行き届いた学園である必要があると思います。
 同時に、社会に出た生徒の現状を把握し、次の生徒への教育プログラムに生かす、このような取り組みも大切です。生徒を育て、社会に送り出し、障害のない人と障害のある人の相互理解を深め、障害のある人も生き生きと社会で働けるように、すべてが連続している仕組みをつくる必要があると考えています。
 私たち議員も関係セクションの皆さんも、あるべき制度や施策、事業の内容について、そんなに大きな隔たりはないと思います。文字どおり、東京の強みを生かした障害者雇用三万人増の実現に向けてともに活動することを共通認識として、次の質問に移ります。
 十七日に開催された東京マラソンは、昨年の雨風が強かった悪天候とは打って変わり、抜けるような青空のもと、風も穏やかで、すばらしいコンディションで行われました。私も、都庁第一庁舎前のスタート地点から少し離れた場所で、最後のランナーが通り過ぎるまで手を振って、行ってらっしゃいと応援しました。昨年も同じ経験をしたのですが、ことしは良好な天候もあり、大変多くの参加者が手を振って、行ってきますと笑顔でこたえてくれました。
 見送った後、地下鉄で十キロマラソンフィニッシュの日比谷公園に移動しましたが、既に伴走者の協力をいただいた私の三男はゴールをいたしておりました。
 発表されているとおり、今回の東京マラソンでは、ランナー三万二千人、ボランティア一万二千人、そして、大マラソン祭りの観客を含めると二百二十六万人の観衆が参加されました。大会事務局の皆さんには、あれだけの規模の大会を事故なく成功させたということは大変なことだったでしょう。警視庁の警備も、要人警護以外は余り前に出ないという配慮が感じられました。
 また、大会ボランティアの皆さんの献身的な活動に対する感謝も当然ですが、今回、改めてわかったことがありました。それは、ボランティアの皆さんの中にはランナーの姿を全く見ることができない方々が少なからずいらっしゃったということです。文字どおり縁の下の力持ちであります。
 そこで、まず知事にお伺いします。このマラソンの創設責任者として、今回の大会に対する評価、また、次回に向けての抱負について率直な思いを教えてください。
 私は、ゴール地点の東京ビッグサイトの巨大展示スペースで、お疲れさまですと申し上げながら、会場をゆっくりと歩いていました。そこで、こんなことを話しているランナーの声が聞こえてきました。東京ってさ、何か気取ってて、お金いっぱい持ってて、嫌な感じだったけど、おれたち、東京のど真ん中の道路を走らせてくれたんだから、ありがたいよな、沿道の応援もうれしかったし。私は、偶然でしたが、この一言を聞き、うれしい思いでいっぱいになりました。このように感じてくれた多くの皆さんが地方へ、そして、母国に帰り、東京のよさを伝えてくれる小さな親善大使になるかもしれません。
 今回の質問では関連させることを避けますが、来年の東京マラソンから約半年先には二〇一六年オリンピック開催都市が決定いたします。今回の大会にも国際スポーツ団体の関係者が視察に来ていたようです。来年は、いろいろな立場の方が、いろいろな形で視察に来るでしょう。単なる市民マラソンだけではない評価が国内外から行われることになると思います。私は、大会ランナーとして参加された皆さんのすがすがしい表情を見て、その四倍ものランナーの方々が走りたくても走れなかったという実情を改めて強く認識いたしました。
 そこで、お伺いいたします。汗をかいてくれた大会事務局を中心とするスタッフの皆さんの立場からすれば、そんなに簡単に参加者をふやすことはできないというのも理解できます。また、仮に来年の大会を五万人にしたら、将来は七万人、十万人にするのかという別の意味での問題点も出てくるでしょう。しかし、やはり参加ランナーをふやすことは十分に検討すべき課題ではないでしょうか。
 先ほども触れましたが、今回の東京マラソンタイトルは、「東京がひとつになる日。」でした。私は、都心を移動しながら、ランナーも、ボランティアも、沿道の観衆の皆さんも、障害者も、若者も、お年寄りも、そして外国の皆さんも、東京がこれだけの笑顔であふれかえったことは、間違いなく過去になかったと実感いたしました。一人でも多くの笑顔を見たい、その思いを込めて、参加者増についての見通しをお伺いいたしまして、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
  〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 門脇ふみよし議員の一般質問にお答えいたします。
 東京マラソンについてでありますが、今回の東京マラソンは、澄み切った青空の下で、三万二千人のランナー、二百二十六万人の観衆、そして一万二千人のボランティアが、それぞれ走る喜び、応援する楽しみ、支える誇りを実感しつつ、東京がまさに一つになった感動的な大会でありました。まさに、人間は信じられるなという感慨を得ました。
 東京マラソンは、今や単なるマラソン大会の枠組みを超えた、首都東京を舞台とする一大イベントでありまして、二〇一六年のオリンピック開催都市決定に向けて大きな契機となる大会であったとも確信しております。
 今後は、ランナーやボランティアの声も聞いて、さらなる改善を図りますが、参加者すべてに対してホスピタリティーあふれた運営に心がけるとともに、環境への配慮も徹底して行い、質量ともに世界的なビッグイベントに育てていきたいと思います。
 なお、参加定員の増加については、まさに同じ考えでありまして、この場をかりて警視総監に陳情いたします。
  〔教育長中村正彦君登壇〕

○教育長(中村正彦君) 就労支援体制の整備についてであります。
 障害のある生徒の就労支援体制を整備していくことは大変重要でございます。都教育委員会は、お話にありました永福学園を初め、知的障害特別支援学校高等部の生徒の就労を確保、促進するため、企業向けセミナーを実施してまいりました。来年度からは、知事部局との連携を一層強化いたしまして、より多くの企業を対象としたセミナーの開催を予定しております。
 さらに、すべての特別支援学校高等部において就労先を拡大するため、商工会議所を初め、経営者団体の協力が得られるよう働きかけるとともに、新たに民間を活用した就労先の企業開拓を行ってまいります。
 こうした就労支援体制を確立することによりまして、障害のある生徒に対する企業側の理解もより一層進み、就労確保が進むというふうに考えております。
  〔産業労働局長佐藤広君登壇〕

○産業労働局長(佐藤広君) 障害者施策に関する二点のご質問にお答えをいたします。
 まず、障害者雇用企業の登録制度についてでありますが、この制度は、障害者雇用に積極的な企業に登録をしていただきまして、その企業名や取り組み内容を広く都民に公表することで企業の障害者雇用の促進を図ることを目的として、二十年度から開始する予定にしております。
 具体的には、まず登録制度の名称、またシンボルマークを公募することによりまして、制度自体を広く都民に周知してまいります。その後、登録企業によるシンボルマークの活用や、障害者雇用に関する取り組み内容の都のホームページへの掲載を通じまして登録企業のPRを行ってまいります。今後、実施に向けまして、登録企業の選定基準等について検討を進めてまいります。
 次に、障害者雇用に取り組む中小企業への賃金助成についてでありますが、都内における障害者雇用のすそ野を広げるためには、障害者雇用が進んでいない中小企業への支援を行うことが重要であります。
 このため、都では、障害者を雇用した中小企業を対象に賃金助成制度を設けまして、国の助成金支給終了後二年間、障害の程度に合わせて助成をいたします。こうした施策を通じまして、障害者雇用の促進に努めてまいります。
 〔生活文化スポーツ局長渡辺日佐夫君登壇〕

○生活文化スポーツ局長(渡辺日佐夫君) 
 東京マラソンの参加定員についてでありますが、参加定員につきましては、交通規制時間、スタートやフィニッシュエリアの容量、コースとなる道路の幅員などを勘案し、関係機関、団体と調整の上、東京マラソン組織委員会において三万人と決定したものでございます。
 第二回大会を終え、今後、各方面からの報告を受けて、次回大会に向けた課題を整理してまいりますが、参加定員拡大につきましては、いろいろと制約条件がございますが、知事の発言の趣旨を十分踏まえて、関係機関、団体と真剣に検討してまいります。

○副議長(石井義修君) この際、議事の都合により、おおむね十分間休憩いたします。
   午後五時五分休憩