平成二十年東京都議会会議録第三号

○副議長(石井義修君) 五十四番くまき美奈子さん。
  〔五十四番くまき美奈子君登壇〕

○五十四番(くまき美奈子君) 東京都における救急車の現場到着時間は、最近では平均で六分程度ですが、深刻な状況にある救急患者に対しては一刻も早い対応が必要であり、救急車が到着するまでの間の応急手当てが重要であることはいうまでもありません。一連の応急手当ての中でも、AEDを使用した蘇生効果は既に多くに知られているところです。
 昨今、官民を問わず、多くの人が利用するさまざまな施設においてAED設置の取り組みが急速に進んでいますが、AEDを使用した蘇生へのタイムリミットを考えると、残念ながら、満足な数にはいまだ達していないといわざるを得ません。
 町じゅうにAEDが目につく状況にまで設置され、それを使える人を育てていき、いつでも、どこでも、だれでもがAEDを効果的に使用できる環境を整えることが望まれます。
 こうした観点に立ち、都有施設を管理する各局においては、都民のとうとい命を守るため、今後ともみずからの管理施設へのAED設置を積極的に進めていただきたいと思います。特に都庁舎のAED設置に関しては、東京都の施設の手本となるよう整備されることを望みます。
 AEDの普及とあわせて、実際の救急現場において的確にAEDを使用できるという指導も必要ですが、このAEDを使えば命が救えるという、命のとうとさを学ぶ観点も重要であると考えます。その一例として、幼年期から段階を追って命のとうとさに触れ、高学年に進むごとに心肺蘇生法やAED講習を学ぶという、アメリカ・シアトルでの命の教育システムは大きな成果を上げていると聞いています。
 そこで、教育庁は、都立学校のAEDの設置状況及び各校内においてどのような場所に設置しているのか、また、生徒や教職員に対してはAEDの機能や操作方法をどのように周知しているのか、それらの現状と今後の取り組みについて伺います。
 私の地元板橋区では、民間企業の協賛を得て、企業の広告つきAEDを区有施設に無料で設置していくという取り組みを始めています。都施設の中でも、駅や体育館、動物園、美術館など、人が多く集まり、広告宣伝効果の高い場所には、板橋区のようなAED設置の取り組みも考えられるのではないでしょうか。
 現在、都営地下鉄では、全駅にAEDが一台ずつ設置されていると聞いていますが、利用客の多い駅や広い駅では不十分ではないかと思われます。そこで、交通局として、AEDの増設や更新時などに企業の広告つきAED設置の取り組みを検討してはどうかと考えますが、見解を伺います。
 まちじゅうへの配置を進めるためには、警察施設やコンビニエンスストアなど都民の認知度が高い施設が考えられます。中でも警察施設への設置は、都民の安心・安全を守る上で極めて必要だと考えますが、現在の警察施設の設置状況と今後の設置計画について、警視総監の所見を伺います。
 さらに、救護の場でAEDが効果的に利用されるためには、AEDの設置場所があらかじめ都民一人一人にわかりやすく伝えられることが重要です。そのためには、東京都として、都有施設のAED設置情報を取りまとめ、積極的に都民に提供していく必要があると考えますが、見解を伺います。
 次の質問です。
 この一月から施行された配偶者からの暴力防止法、いわゆるDV法によって支援対策の拡充が図られたところですが、最近では、婚姻関係がなく、内縁関係とまではいい切れない若年層の男女間で起きる暴力について、デートDVという概念が提示され始めています。
 デートDVは、以前から厳然として存在しながら、ほとんど社会的に問題にされてきませんでしたし、被害者自身が被害意識を持つことさえ困難な場合があるようです。一般的なDVの特徴に加えてデートDVは、思春期、青年期の特徴的な心理や性意識、行動が影響しているといわれます。
 昨年十一月、内閣府は、若い恋人同士の間で起きるデートDVに関する初めての調査結果を発表しました。それによると、通信手段のはずの携帯電話が、相手に干渉したり束縛したりする道具になり、精神的被害を与えているケースもあったということです。
 日本DV防止・情報センターが行ったデートDVの被害者に関する調査では、相談したり打ち明けたりする相手の半数以上が友人という結果でした。しかし、被害者と同年代の友人が相談を打ち明けられても、問題解決に対処できるはずもなく、被害者とともに右往左往してしまうのが実情です。
 デートDVの相談は、悪質で緊急の高いものだけでなく、非常に細かい具体的な相談に乗りながら解決していかなければならない場合も多くあります。
 これらのことを踏まえ、暴力に苦しむ若い被害者の気づきから相談対応に向けた一貫した対策が重要であると考えます。そこで、暴力についての認識が十分でない若い世代への東京都としての対策について所見を伺います。
 また、昨年、北海道では、妻などが配偶者に暴力を振るう被害が激増したという報道がありました。二〇〇六年に内閣府が発表した男女間における暴力に関する調査報告書によれば、女性全体で、DVの被害に複数回あったとしたのは一〇・六%だった一方、男性では二・六%、一、二回あったを含めると、男性では一七・四%がDV被害の経験者という結果になっています。女性に比べれば少ない割合ですが、男性にもDVの被害者がいるという現状があるということです。
 さらに、被害の相談については、どこにもだれにも相談しなかったは、女性の四六・九%に対し、男性では八四・四%と、男性のほとんどは、DVの被害に遭っても相談しないという傾向が見られることから、男性被害者の割合は調査結果を大きく上回ることも推測されます。
 このようなことから、東京都は、男性被害者の相談体制など、どのように対応しているのか伺います。
 次に、動物との共生社会の実現について伺います。
 中国産の冷凍ギョーザを端緒として、食品の安全をめぐる議論が頂点に達している感がありますが、ついにここに来て、ペットの食の安全にも大きな動きがありました。有害物質を含むペットフードの製造、販売、輸入の禁止などを盛り込んだ法案の概要が二月二十日に明らかにされたことです。
 これは、昨年、アメリカで有害な中国産原料を含んだペットフードを犬や猫が食べて死んでしまった問題をきっかけとして、日本でもペットの食の安全に対し不安の声が高まってきたのを受け、検討されたものです。これはまさに、少子高齢化や核家族化の進展の中で、ペットが家族の一員として存在することを示す動きといえるのではないでしょうか。
 動物は愛玩の対象となるだけでなく、その存在自体が飼い主の孤独をいやし、あるいは家族のきずなを強めるものとして、個人や家族間に作用しています。しかも、ペットフード工業会の推計によれば、平成十八年度の全国の飼い犬の数は、十歳未満の子どもの数を上回る千二百九万頭にもなっているといいます。今やペット動物は、家族の一員としての枠を超え、社会の構成要素の一つとしてとらえる時代になったといっても過言ではない数字です。
 実際、介助犬や盲導犬などは、一定の使命を与えられ、社会に貢献していますし、動物の持ついやしやぬくもりの効果を活用した精神生活の安寧など、いわゆる動物介在活動や動物介在療法が有効的な効果をもたらすという報告がなされたり、私たちの生活や社会の中で動物は大きな役割を果たしています。
 そうした動物の増加によって、従来の地域の環境問題への取り組みや、子育て、教育問題などでつながるコミュニティと同じように、これからは、動物の存在を軸とするコミュニティが、性別、職業や年代を超えた広がりを見せてくるのではないかと思われます。
 こうした中、都は昨年四月に、家族の一員から地域の一員へをキーワードとして、人と動物との調和のとれた共生社会の実現に向け、今後の動物愛護管理行政を方向づける東京都動物愛護管理推進計画を策定しています。
 動物の存在がかつてないほどに社会性を持つようになってきている現状を踏まえるとするならば、動物を構成メンバーに入れて、地域社会のあり方につき明確なイメージを持って施策を展開していくことが必要になってきているのではないかと思います。
 そこで、まず、東京都が動物愛護推進計画によって目指す、人と動物との調和のとれた共生社会とはどのようなことをいうのか、伺います。
 また、共生社会というからには、人も動物も生かされなければなりませんが、そのためには、終生飼養、つまり、動物の面倒を最期まできちんと見届けるということを社会共通の価値観としていくことが重要であると思います。
 というのも、単身者や高齢者によるペット飼育が増加するにつれ、飼い主が病気になったり、不幸にして亡くなられた場合などに、飼われていたペットが路頭に迷うという現実を耳にするからです。ひとり暮らしの飼い主が亡くなられた末、発見されるまでに何日もかかり、衰弱した状態で保護された悲惨な例もあったと聞きます。
 もちろん、動物を飼う以上、万が一の場合に備え手当てをしておくことが飼い主の責務であるとは思いますが、なかなか現実はそううまくいかないことがあるようです。そのようなときに動物が行き場を失ってしまうようでは、共生社会も残念ながら絵にかいたもちといわざるを得ません。
 そこで、飼育が困難になった場合の対応など、地域社会の中で高齢者等の動物飼育を効果的に支援していく方策を検討すべきと考えますが、所見を伺います。
 最後の質問です。仕事と生活の調和、いわゆるワークライフバランスについて伺います。
 二〇〇六年十二月の将来推計人口によると、二〇五五年には総人口は八千九百九十三万人、合計特殊出生率は一・二六、出生数は五十万人を下回り、高齢化率は四〇・五%になるとして、より一層の少子高齢化の進行を予測しています。
 子どもの数が減ることで、世帯構造にも変化が出ています。二十年前には、十八歳未満の未婚の子どもがいる世帯は全世帯の四六・二%でしたが、二〇〇六年には二七・三%と大きく低下しています。今後、ひとり暮らしの世帯数が日本の全世帯の類型のトップになると推計され、もはや夫婦二人と子ども二人という家庭は標準的な姿ではなくなってきています。
 政府は、二〇〇三年に少子化対策基本法を制定、二〇〇四年に子ども・子育て応援プランをつくり、女性だけではなく、男性の働き方の見直しや若者の自立支援まで、施策の範囲を広げました。このように法整備が進むとともに、さまざまな両立支援のための制度を導入する企業もふえてきています。
 東京都男女平等参画審議会専門調査会の報告によると、現状ではこれらの制度が十分に活用されているとはいいがたく、企業における働き方の改善が進まないために、ワークライフバランスの定着も進んでいないのが実情とあります。
 また、人材紹介大手のリクルートエージェントによる調査で、一月当たりの許容できる残業時間を聞いたところ、三十代では三十一から五十時間が四四%で最も多かったのに対し、十代から二十代は三十時間までが四二%で最多であったとのことです。残業に対する世代間の考え方の違いが鮮明にあらわれています。
 そこで、施策の実効性を高めるためにも、いわば職員を雇用している大事業主たる東京都が、都職員のワークライフバランスについて環境を整えることが必要だと考えます。
 こうした観点から、都は、事業主として都職員のワークライフバランスの推進に積極的に取り組むべきと考えますが、見解を伺い、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
  〔警視総監矢代隆義君登壇〕

○警視総監(矢代隆義君) くまき美奈子議員の一般質問にお答えいたします。
 警視庁における自動体外式除細動器、いわゆるAEDの設置状況及び今後の設置計画についてでありますが、警視庁では平成十八年に、警視庁本部庁舎、警察博物館及び運転免許更新事務を扱う警察署等、平素から多くの方が来庁される二十四カ所の警察施設に合計二十五台を設置しているところであります。
 今後の設置計画でありますが、平成二十年度から二カ年計画ですべての警察署に、また、平成二十年度中に、災害発生時に救出救助活動に当たる全機動隊に配備する予定であります。
  〔教育長中村正彦君登壇〕

○教育長(中村正彦君) 都立学校のAEDについてでありますが、都教育委員会は、児童生徒等の心停止事故に備えるため、昨年の十二月末までに、すべての都立学校にAEDを設置いたしました。
 設置場所は、緊急事態が起こった際、直ちに対応できるよう、正面玄関や保健室付近など、わかりやすい場所といたしました。また、施錠されている場所には設置しないようにしております。
 都教育委員会は従来から、教職員を対象にAEDを用いた救命講習会を実施しておりまして、AEDの全校配置に際しましては、各学校において操作説明会を実施するとともに、AEDの操作説明DVDを配布し、教職員や生徒が操作方法を理解できるようにいたしました。
 今後とも、救命講習会を拡充するとともに、各学校におきまして、必要に応じ消防署と連携いたしまして講習会を開催するなど、教職員や生徒等が操作法を身につけられるよう取り組んでまいります。
  〔交通局長島田健一君登壇〕

○交通局長(島田健一君) 都営地下鉄におけるAEDの増設等についてでございますが、交通局では平成十八年六月に、他の交通事業者に先駆けまして、都営地下鉄が管理するすべての駅にAEDを設置しております。これまでに九件の使用実績があり、駅で心肺停止状態に陥ったお客様の救急救命に大きな役割を果たしてきたものと考えております。
 今後、AEDの増設等につきましては、広告つきAEDを含め、各駅の状況等を勘案しながら、その必要性について精査してまいります。
  〔福祉保健局長安藤立美君登壇〕

○福祉保健局長(安藤立美君) 三点についてお答えをいたします。
 まず、都有施設のAED設置情報についてでありますが、万一、心停止状態となった人がいた場合、そばに居合わせた方ができるだけ早くAEDを使用することは、救命率の向上に寄与するものであります。そのため、都有施設におけるAEDの設置状況に関する都民への情報の提供について、今後検討を行ってまいります。
 次に、人と動物との調和のとれた共生社会とはどのような社会かということについてでありますが、都内におきましては、ペット数の増加や飼育状況の変化等により、人と動物との距離が縮まり、飼い主以外の多くの都民もさまざまな場面で動物とのかかわりを持つようになってきております。
 こうした状況を踏まえまして、東京都動物愛護管理推進計画では、動物を家族の一員から地域の一員へと位置づけまして、動物の愛護管理の推進と地域の活性化とが相まって進展していく社会、このことを人と動物との調和のとれた共生社会としてございます。
 最後に、高齢者等の動物飼育への支援についてでございますが、都では現在、やむを得ない事情により飼育が困難となった動物の引き取りを行っておりますが、その三割以上が飼い主の健康上の理由によるものでございまして、高齢化や核家族化の進行に伴い、その割合はふえていくものと想定をされております。
 こうした状況を踏まえ、今後、動物愛護相談センターや動物愛護推進員等が、地域の実情を把握しております区市町村や民生委員などと連携をいたしまして、動物飼育に関する助言指導や、飼育が困難となった場合の一時預かりなどを行う仕組みを検討することとしてございます。
 〔生活文化スポーツ局長渡辺日佐夫君登壇〕

○生活文化スポーツ局長(渡辺日佐夫君)
配偶者暴力対策に関する質問にお答えいたします。
 まず、若い世代への対策についてでありますが、配偶者暴力防止のため、都では、東京ウィメンズプラザ等で若い世代を含む女性のさまざまな相談に応じるなど、被害の早期発見と情報の提供に努めております。
 また、関係各局、警視庁、区市町村のほか、東京都医師会、日本司法支援センター、民間シェルターなどの参加により、東京都配偶者暴力対策ネットワーク会議を設置しており、情報交換や事例検討などを通じた関係機関の相互理解、円滑な協力を図っております。
 今後とも、ネットワーク会議を活用して、若い世代を含め、配偶者暴力の防止に連携、協力し、対応してまいります。
 次に、男性被害者への対応についてでありますが、東京ウィメンズプラザでは、外部の専門家に委託し、週に二日、男性専用の電話相談を実施しております。この相談では、配偶者暴力の被害に関する相談も含め、男性が抱えるさまざまな悩みに対応しております。
 なお、平成十八年度の配偶者暴力の相談件数については、男性被害者からの相談が二十三件でありましたが、女性からの相談は四千八百二十八件でありました。
  〔総務局長押元洋君登壇〕

○総務局長(押元洋君) 都の事業主としてのワークライフバランスへの取り組みについてのご質問にお答えをいたします。
 都では、平成十七年三月に、次世代育成支援対策推進法に基づき、事業主としての立場から、東京都職員次世代育成支援プランを策定し、子育てを支援するさまざまな制度が職員に適切に活用されるよう周知いたしますとともに、これらの制度を利用しやすい職場環境の整備や雰囲気づくりに取り組んでまいりました。
 今後とも、職員のワークライフバランスを確保する観点から、この支援プランに基づき、職員の仕事と子育ての両立支援を積極的に進めてまいります。

○副議長(石井義修君) この際、議事の都合により、おおむね二十分間休憩いたします。
   午後三時四分休憩