平成二十年東京都議会会議録第三号

○議長(比留間敏夫君) 五十六番増子博樹君。
  〔五十六番増子博樹君登壇〕
  〔議長退席、副議長着席〕

○五十六番(増子博樹君) 初めに、行財政改革の今後の方向性について伺います。
 知事が本会議で、かつて景気変動の影響を受けて、数千億円単位の税収減に見舞われ、塗炭の苦しみをなめながら都議会の皆様と手を携え、財政再建を果たしてまいりましたとおっしゃったように、東京都は、財政の緊急事態から脱出するために、行財政改革実行プログラムに基づいて、限られた財源でふえ続ける都民需要にこたえるべく行財政改革に取り組んできました。これらの改革は、全国自治体の模範ともなるべきものであり、大いに評価されてしかるべきものと思っています。
 そこでまず、これまでの行財政改革の取り組みと成果について伺います。
 現在進行中の行財政改革実行プログラムは、平成十八年度から二十年度をその対象としており、来年度中にはその先の行財政改革プランの策定を目指して、現在、調査研究中だと思いますが、進行中のプログラムにおいても検討の必要があると思われるものが散見されます。
 昨年行った指定管理者制度導入後、初の評価である平成十八年度東京都指定管理者管理運営状況評価結果では、調査した二百一施設中、二百施設がおおむね適切な状況にある施設となっていますが、例えば、障害者施設である北療育医療センター城南分園は、平成二十年度には指定管理者制度を導入する予定でしたが、少なくとも平成二十年度の指定は見送られる公算が高いと見ています。
 この背景には、福祉分野の人材難があると思われます。特に診療報酬改定以後は、看護師の大病院集中化が進み、障害者施設に限らず看護師を探すことは容易ではありません。
 また、PFI事業については、東京都でも今後の導入予定がメジロ押しですが、全国的には、事業者が破綻した際のリスク管理や、高知医療センターのような贈収賄事件を未然に防ぐ方策など、多くの問題点が発生しています。
 東京都は、都民の安全・安心を確保しつつ、民間でできることは民間にゆだねるとの原則のもと、行政サービス提供主体の再検討を実施してきました。指定管理者制度や地方独立行政法人制度、市場化テスト、PFIなど、できるものから実施し、成果を上げてきたと思いますが、これらに対しては適切に検証を行うことが重要です。
 このような行政分野の民間開放に対する評価について、都はどのように取り組んでいくのかを伺います。
 また、例えば健康安全センターは毒ギョーザ事件で脚光を浴びましたが、この施設が、高度な分析能力のある首都圏で数少ない施設であることが判明しました。ユニークな研究も行っており、老朽化による建てかえに際して、研究体制の強化がむしろ望まれていると思いますが、人員削減をしてきており、食の安全を確保する観点から不安が残ります。
 都立病院についても、公社化などの改革を進めてきましたが、その後の臨床研修医制度の変更などもあり、医療人材の確保が一層困難な状況になっていると思われます。
 また、私立幼稚園教育振興事業費補助など、第二次財政再建推進プランによって削減が続いてきたものがありますが、財政を健全化する中で行われてきた改革の中には、おおむね財政の健全化が達成しつつある現在の状況を見ると、削減について一定の歯どめが必要なものもあるのではないかと思います。
 このように、社会情勢の変化により、当初の想定と異なる事態になっている分野や事務事業については、これからの行財政改革を進めるに当たっては十分な検討を行うべきなのではないかと思います。あわせて、行革の結果、都民にどのような利益がもたらされたのか、質の向上や住民満足度、よりよいサービスの形なども研究する必要があると思っています。
 ところで、行革先進国である英国においても、サッチャー政権の急進的な緊急避難的改革から、メージャー、ブレア政権と、少しずつベストバリューを重要視するいわば質の改革へと変化してきています。
 日本においても、リストラなどを中心とした経営再建型の改革から、トヨタ自動車の「カイゼン」に象徴されるように、生産性を向上させる経営の質を高める改革へと大きくシフトしています。行政においてもこのような転換が求められていると思います。
 東京都は、業務運営の効率化やマネジメント機能の強化などを重視し、量の行革から質の行革への移行を唱えていますが、今後、最少の経費で最大の効果を目指しつつ、量と質のバランスを勘案しながら、住民満足度や社会情勢の変化をどのように受けとめて行財政改革を質的に展開していくのかを伺います。
 次に、転院問題について伺います。
 議員活動をしていると、時々、病院から退院するようにいわれたが、この病院に引き続きいられないでしょうかとか、転院先の病院を探してほしいといった相談を受け、対応に困ることがあります。
 入院患者さんの場合、病状に応じて急性期から回復期へ、そして維持期の病院や介護施設に移ったり、その後の病状の変化によっては再度急性期の病院に入院することもあります。
 このように、転院等をする場合、適切な病院に移ることができない、もとのなれた病院に戻れないなど、患者さんの希望に沿わないことが多々あります。また、転院先を探せないといったことも出ています。
 この転院問題の背景には、診療報酬上、入院期間が三カ月を超えると入院基本料が下がるということがあり、これは医療の機能分化と連携を図るために講じられたものですが、退院を迫るという事態はこのために起きているといわれています。患者さんと家族からすると、退院しなければならないということは、自分で療養できるだろうか、転院先が見つかるだろうかなどの不安が募ります。
 最近、こういった問題に対する試みとして、異なる機能を持った病院を持つ幾つかの医療法人がネットワークを組んで、それぞれの病院が機能に合わせて治療できる仕組みをつくっていると聞きました。こうした仕組みが東京都の全域にあればよいのではないかと思いますが、実際には、都内には六百を超える病院があり、また、それぞれが独立して経営していることから、独自性や経営上での情報公開の問題などがあり、現時点では難しいこととは思いますが、こうしたネットワークづくりの支援についてぜひとも研究課題としていただきたいと思います。
 現行の病院での入院患者さんへの対応は、患者さんの病状や置かれている状況などに応じて他の病院や施設を紹介してはいますが、専門的な知識や経験を有するメディカルソーシャルワーカーを専任で配置している病院から、事務職員が他の業務の合間に転院先を探す病院まで、その対応には大きな違いがあるようです。中には、いついつまでに退院していただかないといけませんので、こちらも探しますがそちらでも探してくださいなどというところもあるようです。
 私は、率直にいって、転院業務の制度化を図ることによって病院間の違いをなくす必要があるのではと思うくらいです。ただ、機械的に転院調整ができないのも十分わかります。
 そこで、患者の退院調整を担当するメディカルソーシャルワーカー等がレベルを上げるために、転院先の選定や調整のためのノウハウを得たり、業務を行うに際しての必要な医療機関情報を容易に取得できるように、都として後押しをしていく必要があると考えますが、ご所見を伺います。
 また、いきなり転院するようにいわれたら、患者さんやご家族は、だれしも今後どうしてよいかもわからず、途方に暮れてしまいます。各医療機関には、それぞれの機能や役割、転院、退院後の治療などについて患者さんやご家族に丁寧に説明することが必要です。
 最近、地域連携クリティカルパスという言葉をよく耳にするようになりました。地域連携クリティカルパスとは医療の羅針盤ともいえるもので、急性期や回復期といった、地域の医療機関の間で共通に使われる疾病ごとの診療計画のことをいいます。
 つまり、診療に当たる複数の医療機関が、役割分担や診療内容、スケジュールをあらかじめ患者さんに提示し、説明することにより、患者さんがより安心して医療を受けることができるようにするもので、転院に対する不安や不満が和らいだ、万一転院先でぐあいが悪くなっても戻ってこられるという安心感が持てるようになったなどの声が聞かれます。
 国の社会保障審議会においても、転院に対する患者、家族の不安、不満の解消が図られた、診療内容に関する医療機関間での説明の不一致の解消が図られた、診療の目標やプロセスを共有することにより、より効果的で効率的な医療が行われ、平均在院日数の短縮が図られた、電子化により状況分析を行うことが容易となり、連携医療の質と効率の向上が図られたなどが導入効果として報告され、転院の不安解消に関する効果も確認をされています。
 都は、転院問題の解決策の一つとして、この医療連携クリティカルパスの普及を図るべきと考えますが、見解を伺います。
 最後に、動物愛護についてですが、動物の殺処分を炭酸ガスから麻酔薬を用いる方法に変更を求めるという点で、ただいまの自民党、山加議員の質問と趣旨がおおむね重複しますので、私からは意見、要望とさせていただきます。
 ただいまの議論でもありましたように、動物の殺処分方法をめぐっては、ヨーロッパなどでは既に動物に対しても人道上の配慮が求められていますし、国内でもさまざまな動きが出ています。
 ちょうど先日、奈良県動物愛護管理推進計画が発表されました。この計画によると、現行の殺処分の方法は、動物をガス室に追い込み、炭酸ガスを用いて同時に安楽死させるものでありますが、動物に恐怖心を与えるなどの理由から、殺処分に対する誤解を生み出す原因ともなっています。現状ではこれにかわる方法を見出すのは困難でありますが、返還、譲渡頭数をふやし、殺処分頭数を減少させることにより、例えば個体ごとの麻酔薬による安楽死措置を施すなどを実践していきますとされていて、いよいよ殺処分方法の変更に踏み出すことをうたっています。
 担当の方にお話を伺ってみましたが、処分方法の変更については、県民からだけでなく、獣医師職員の方々からの要望もあったそうであります。コストについては頭数次第ですが、むしろ麻酔薬の方が下がると試算しているようです。課題は職員間の意識の共有化とのことでありました。
 また、国においては昨年来、中央環境審議会動物愛護部会において、動物の処分方法に関する指針の改定に当たって議論がなされています。昨年十月十六日に行われた会議の議事録の未定稿版によると、基本的には、ガスだけでなく、麻酔薬を使ってやる方法が一番苦痛を与えないので、麻酔薬と併用して殺処分を行うよう指導されたい、麻酔薬の安定供給について関係官庁の協力を求めたいといった発言がなされています。
 課題とされると思われる獣医師職員のケアについては、PTSD対策を取り入れた研修の充実や一日当たりの処分頭数の規定づくり、ローテーションのあり方などが考えられると思います。
 東京は、二〇一六年のオリンピック誘致を目指しています。殺処分に対する東京都の対応について、世界にはどのように映るか心配です。国の指針改定を待たずしても処分方法の変更は可能です。一刻も早い対応を期待して、要望とさせていただきます。
 以上で私の質問を終わります。ご清聴ありがとうございました。(拍手)
  〔総務局長押元洋君登壇〕

○総務局長(押元洋君) 増子博樹議員の一般質問にお答えを申し上げます。
 まず、行財政改革の取り組みと成果についてでございますが、都はこれまで、職員定数の削減や事業の聖域なき見直しなどにより歳出を切り詰めるとともに、独自の徴税努力を含む多様な歳入確保策を展開するなど、国や他の自治体を上回る徹底した行財政改革を進めてまいりました。また、民間の経営ノウハウを積極的に活用するとともに、新たな公会計制度の導入により職員のコスト意識や実務感覚を高めるなど、内部改革を強力に推進してまいりました。
 これらの改革により、危機に瀕していた都財政の再建を果たしますとともに、政策面では、認証保育所の設置やディーゼル車の排出ガス規制など、国に先駆けたさまざまな取り組みの展開につながっており、都民が実感できる成果を上げてきたと考えております。
 次に、行政分野の民間開放に対する評価についてでございますが、都は、民間開放手法である指定管理者制度や市場化テストなどについて、事業の安全管理やサービス水準を確保していく観点から都独自の評価の仕組みを構築し、チェック機能を強化してまいりました。
 具体的には、所管局による一次評価に加え、外部有識者が過半数を占める委員会により二次評価を行う複数評価制度を導入するとともに、実施状況のモニタリングや事業全般の公正性や客観性などを監視する仕組みを構築してきたところでございます。
 今後とも、都として適切な事業執行を確保し、都民サービスの一層の向上を図るため、民間開放事業に対する評価制度を必要に応じて見直し、適切に運用してまいります。
 最後に、行財政改革の質的展開についてでございますが、行財政改革の推進に当たりましては、組織のスリム化やコスト縮減などの量的な改革とともに、社会構造の変化や都民ニーズの多様化に対応した行財政運営の体質改善という質的な改革が必要でございます。
 都では、このような観点から、新たな公会計制度や民間の経営改革手法を積極的に導入することなどにより、行財政運営の戦略性を高め、都政の政策対応力を向上させる改革を進めてまいりました。
 今後は、こうした質的改革をより一層推進するため、業務プロセスの見直しやマネジメント機能の強化を含め、都庁の足元からの業務改革を着実に推進することによりまして、都民満足度の向上につながる、より一層質の高い行財政運営に取り組んでまいります。
  〔福祉保健局長安藤立美君登壇〕

○福祉保健局長(安藤立美君) 医療政策に関する二点についてお答えを申し上げます。
 まず、円滑な退院調整についてでありますが、患者が安心して退院するためには、退院後も適切なケアを継続的に受けられるよう、病院みずからが転院先との十分な調整を行うことが必要であります。
 こうした取り組みを支援するため、都は、退院調整の中心となる病院のソーシャルワーカー等を対象にスキルアップのための研修会を開催しているほか、事例検討や情報交換の場を設けるなど、退院調整のための知識や技術の向上に努めております。
 また、医療機関案内サービスであります「ひまわり」でも、平成二十年度からは、対応できる疾患や専門外来などの診療情報を拡充する予定でありまして、退院調整にも資するものと考えております。
 次に、地域連携クリティカルパスの普及についてでありますが、ご指摘の地域連携クリティカルパスは、地域の医療機関などが相互に連携し、治療計画を共有するものであり、入院の早い段階から治療計画を示すことで、患者、家族の不安を和らげるとともに、転院を含めた退院調整にも有用なツールでございます。
 このため、現在、改定を進めております保健医療計画におきまして、がんや脳卒中などの主な疾病について、地域連携クリティカルパスの導入を促進することとしております。