平成十九年東京都議会会議録第十八号

○議長(比留間敏夫君) 九十八番酒井大史君。
   〔九十八番酒井大史君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○九十八番(酒井大史君) 多摩地域における高付加価値産業の創出と地域振興、それに伴う交通基盤整備について質問をいたします。
 まず初めに、高付加価値産業の創出について伺います。
 都は、「十年後の東京」並びに多摩リーディングプロジェクト改訂版の中で、圏央道の開通や横田基地の軍民共用化を契機とした多摩地域における産業拠点の地位向上に向け、多摩シリコンバレーの形成を提唱しています。この多摩シリコンバレーは、多摩が有する潜在的な能力を生かし、多摩地域における高付加価値産業の創出にもつながることであり、大いに期待をしております。
 そこで、現状における本計画のイメージを確認させていただいた上で、具現化に向けての課題について質問をさせていただきます。
 まず、多摩シリコンバレーのイメージについて、「十年後の東京」におけるイメージ図を見ると、多摩北西部から南西部にわたる広いエリアを想定しているようですが、都が考える多摩シリコンバレーは具体的にどのエリアまでを想定しているのか、また、どのようなコンセプトを持って形成をしようとしているのか明らかになっていません。
 この広いエリアには、先端技術を有する企業や工業団地、大学が存在し、都立短大の跡地には多摩における都の産業支援の拠点も建設されています。これら既存の企業や研究機関等を核として、新規事業の創出や高付加価値産業の集積、それに伴う雇用の創出までをも目指した一大産業集積地としてのシリコンバレーを目指すのか、それとも、この地域は先ほど述べたような既存企業、施設が点在していることから、とりあえずこの地域を多摩シリコンバレーと呼んでしまおうというものなのか、ぜひとも前者であってほしいと思いますが、都のイメージ、コンセプトをお伺いいたします。
 このシリコンバレーの形成に当たっては、一つの参考事例として、スウェーデンのストックホルム市を中心に形成しているシスタ・サイエンスシティーを紹介させていただきたいと思います。これは、先般の海外調査報告でも、原田大議員より報告をいたしましたが、本年十月に現地調査を行ってきたものです。
 このシスタ・サイエンスシティーは、ストックホルム市が二〇〇〇年にIT構想を打ち上げたことを契機に二〇〇一年より建設が始まりました。二〇〇三年からはエリクソンも本社をシスタに移し、現在、総面積二百万平方メートルを有し、千三百五十社が活動しています。
 また、このサイエンスシティーの特徴としては、住居エリアを併設していることであり、これにより、研究開発エリアという側面だけではなく、ショッピングセンターをも有する一大先進都市を形成していることにあります。それに伴い、エリア内外を結ぶバス路線や道路が整備され、さらに高速市電も整備されつつあります。
 行政のかかわりとしては、行政主導によって進められ、当初の一、二年は関係するコミューンが補助金を出し、その後、ストックホルム市や企業等が参加する財団が設立され、運営株式会社とともに運営しております。ストックホルム市においては、土地を十年間無償で貸し付けているとともに、企業等が立地しやすいよう、不動産が投機の対象にならないような配慮をしているとのことでした。
 このような取り組みにより、二〇〇三年時点でのシスタ・サイエンスシティーにおける雇用者総数は三万人を有し、さらに二〇〇七年にはICT企業だけでも二万人に達しています。また、ICT企業は、二〇〇五年四百二十七社であったものが、二〇〇七年には五百二十社と、二〇%も増加している状況にあります。
 以上のように、北欧のシリコンバレーといわれるシスタ・サイエンスシティーは、ストックホルム市のイニシアチブによって世界有数の産業集積地となり、世界のITを牽引しているのみならず、域内の雇用や住宅需要の喚起にも貢献していることは、多摩シリコンバレーにも大いに参考になるものと思います。
 都も、多摩シリコンバレーを形成する以上、世界のシリコンバレーとまではいわないまでも、アジアのシリコンバレーたらんとの気概を持って取り組んでほしいと思いますが、そのためにはさまざまな課題があります。具体的には、産業集積を図り新事業を創出していくためには、都がインセンティブを与えるようなことも考えていかなければなりません。
 ストックホルム市とは不動産に関する状況が異なるので、同様な対策は不可能でありますが、税制の面での優遇やまちづくりの点での配慮は可能なのではないかと思います。
 また、インフラについては、高速通信網の充実を初め、交通インフラの充実も欠かせない課題です。都も国道一六号線の拡幅を指摘しておりますが、この地域の物流インフラは不足していますし、都が建設している、昭島、立川の市境に位置する多摩産業支援拠点とのアクセスについても課題があると思います。
 さらに、シスタ・サイエンスシティーでは、ITに特化し、世界のITをリードするための大学として、ITユニバーシティーが二〇〇一年に設立され、産学連携が活発に行われています。こうした産学連携の取り組みも多摩シリコンバレーの課題であり、海外の先進事例に学ぶ点が多いと考えますが、以上、都としての多摩シリコンバレー形成に向けての課題についてお伺いをいたします。
 次に、多摩地域におけるもう一つの課題である横田基地の軍民共用化に関して、これが実現に至ったときのインフラ整備について伺います。
 横田基地の軍民共用化については、騒音の問題等、地域住民への配慮が必要なことはもちろんでありますが、これが実現に至ったときの地域に与える効果は、多摩地域のみならず、隣接する県の住民の利便性拡大、さらには多摩シリコンバレーとも連携しつつ、地域経済の活性化、雇用創出など、はかり知れないものがあります。現在外交交渉中のため、具体的な進展が目に見えてこない状況にありますが、石原知事の所信表明等の中でも、改めて早期実現に向けての強い意思表示がなされたことに大いに期待するものであります。
 そこで、都としても外交交渉を見守り、また、共用化に向けてのアクションを起こしていくのとあわせて、共用化が実現した際、取り組まなければならないインフラ整備などの課題についてどのように想定しているのか、質問をいたします。
 このインフラ整備については、軍民共用化が実現し、ターミナル等の位置が確定するまでは具体的な想定は難しいのかもしれませんが、インフラ整備には時間もお金もかかることですので、何通りかの想定をしておくことも必要と考えます。横田基地の軍民共用化が実現し、民間空港として活用することになった場合、一般的には、ターミナルの建設のほか、鉄道や道路などのインフラ整備が必要となります。横田基地の軍民共用化により、国内あるいはアジア地域との航空利便性は飛躍的に向上することが予想されますが、一方、横田基地へのアクセスという面から見ると、現状の道路計画、整備状況では不十分といわざるを得ない状況にあると思います。
 また、国内外の都市における空港を見てみますと、その多くにおいて、空港近くまで鉄道及び自動車専用道路が整備されています。現実に諸外国では、空港からインターチェンジへ十分以内で到達できるところも多いことから、空港と直結した鉄道や自動車専用道路の整備も必要と考えます。
 そこで、横田の軍民共用化に当たり、都としては横田基地へのアクセスを中心とした交通網整備についてどのように考えているのか、知事にお伺いいたします。
 以上、多摩地域における二つの課題について質問いたしましたが、いずれにおいても、その計画が現実のものとなったときに必要とされるのは、人、物、経済の流れをつかさどる道路を初めとした交通網の整備であります。
 都も、多摩リーディングプロジェクトの中で幹線道路の整備促進などをうたっていますが、多摩地域の道路整備はまだまだ進捗していない状況にあります。平成十六年度末時点で、多摩の都市計画道路は延長千四百二十五キロメートルが計画されていますが、完成率は五一%にとどまっています。そのため、多摩地域の交通は、ピーク時旅行速度が時速十五キロメートルを下回る区間も多いことから、移動に多大な時間とエネルギーをかけざるを得ない状況になっています。
 私の地元である立川市には広域防災基地がありますが、この中央を通る都道の南進計画も実現のめどが見えず、防災基地への陸路の確保という点では、機能的に不十分な状況にあります。
 そこで、多摩地域における都市計画道路の整備について、今後どのような計画を持って取り組んでいくのか、見解をお伺いいたします。
 以上、何点かにわたり質問をいたしましたが、本日取り上げた課題に対応するための一つのアイデアとして、自動車専用道路の建設を提案させていただきます。もちろん、自動車専用道路については、一般的には国等が主体となって行う事業でありますが、都も都市計画決定等に関与する場合もあるので、一つのアイデアとしてお聞きいただきたいと思います。
 この自動車専用道路の具体的な路線は、パネルをごらんいただきたいと思いますが、中央自動車道国立府中インターチェンジ付近から、広域防災基地、横田基地を通り、圏央道青梅インターチェンジを地下で結ぶものです。総延長は約二十一キロメートル、地下道路の仕様としては、道路構造令に準拠し、設計速度は時速八十キロ、道路区分は第二種第一級とします。
 土地買収費を極力かけないルートとして、当初、多摩川堤防下、残堀川地下を通るプランを考えましたが、現行法のもとでは河川下の道路構築は非常に難しいとのことですので、都道下や大深度地下を活用し、図にもあるように、大型車も通行可能な直径十三メートル口径の大型トンネル一本、あるいはIT技術を活用し、フランスのA八六号線のような規格の、乗用車や四トン小型貨物車のみが通行可能な直径六・六メートル口径の小型トンネルを二本建設するものです。
 この地下自動車専用道路の建設により、横田基地へのアクセスが確保されると同時に、現在、国立府中インターから青梅インターチェンジ間の延長約二十一キロにおいて、時速三十キロ走行時七十分かかる所要時間が、控え目に見積もっても、八十キロ走行により所要時間三十分と、四十分も短縮することができ、その結果、来年開催予定の洞爺湖サミットにおけるテーマの一つと想定されるCO2排出量の削減も可能となります。
 建設費の想定に関しては、シールドの断面積によって変わってきますが、専門家の話では、先ほど紹介した大型トンネル一本で掘った場合、用地買収費やシステム費を除き、約三千八百億円。また、小型トンネルを二本掘った場合は、約半分の一千八百億円とのことです。
 いずれにしても、膨大な建設費であり、都が単独で行い得る事業ではありませんが、大口径のトンネルについては、走行面下の余剰空間を防災基地における防災機能の向上にも活用できるメリットがあり、また、小口径トンネルについては、我が国においては新たなチャレンジとなりますが、建設コストを削減できるメリットとともに、事故発生時の避難用トンネルとしてもう一方のトンネルを活用できることから、防災面でも注目すべきトンネルとなります。
 いずれの計画にしても、平成十七年度道路交通センサスを参考に推定をすると、中央自動車道の国立付近では毎日約四万五千台が通行しており、そのうち、仮に三〇%程度が利用するだけでも、現状で一日一万台の利用が想定されることから、十分利用度の見込める道路と考えられます。横田基地へのアクセス道路、多摩地域の交通網拡充の一つのアイデアとして、知事におかれましては、ぜひご記憶にとどめていただければと思います。
 以上、質問事項に対する知事並びに関係局長の答弁を求め、質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 酒井大史議員の一般質問にお答えいたします。
 横田基地の軍民共用化に伴う交通網整備についてでありますが、航空機の利点は、遠距離の目的地に短時間で到達できることでありまして、出発地から空港までのアクセスが十分に確保されていなければ、この利点を生かすことはできません。
 横田基地は都心から約三十八キロメートルと、成田の半分程度の距離に位置しておりまして、周辺には既に鉄道や幹線道路が整備されております。
 軍民共用化の具体化に当たりまして、こうした横田周辺の既存の交通インフラも生かしながら、空港までの到達時間を可能な限り短縮して、利用者にとっていかに便利な空港とするかが重要な課題であります。
 この問題を左右するのは、例えばもっと大規模に空港が軍民共用化で活用されたときに、恒久的なターミナルを基地のどちら側に使うかによってかなり条件が違ってくると思いますが、また、軍民共用化が実現すれば、地元の多摩地域や横田に近接する隣県の活性化が促進されまして、人や物の動きが従来以上に活発になることが見込まれます。このために生じる新たな交通需要にも対応していくことが必要だと思います。
 今後は、軍民共用化の日米協議の進捗に合わせまして、国とも連携しながら、軍民共用化に伴う交通網整備について検討を進めてまいります。
 他の質問については関係局長から答弁いたします。
   〔産業労働局長佐藤広君登壇〕

○産業労働局長(佐藤広君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、多摩シリコンバレーについてでありますが、多摩地域は大学や研究機関、先端技術を有する企業が集積しており、また、都内製造品出荷額の五割以上を占めるなど、大きなポテンシャルを有しております。
 圏央道の全面開通や横田基地の軍民共用化により、産業のポテンシャルが高まる広域多摩エリアを多摩シリコンバレーととらえ、この地域を、アジアを代表する高度で多様なものづくり産業の集積地として発展させることを目指しております。
 次に、多摩シリコンバレーの形成に向けた課題でありますが、多摩シリコンバレーの形成に当たりましては、圏央道や多摩南北道路など、産業を支える都市インフラの整備を契機といたしまして、産学公連携をより一層活発化させることなどによりまして、新事業の創出を図っていくことが重要であると考えております。
 このため、平成二十一年度開設予定の多摩産業支援拠点におきまして産学公の交流センターを設置し、コーディネート機能を拡充していくとともに、中小企業に対する技術、経営両面からの支援を強化してまいります。
   〔都市整備局長只腰憲久君登壇〕

○都市整備局長(只腰憲久君) 多摩地域の都市計画道路についてでございますが、都は、多摩の二十八市町と共同して、昨年四月に、多摩地域における都市計画道路の整備方針を策定いたしました。
 この整備方針におきましては、都市計画道路の計画的な整備を進めていくため、交通混雑の緩和、防災機能の強化、物流を支える道路網の形成などの評価項目に照らしまして、第三次事業化計画として、平成二十七年度までに優先的に整備する路線を選定してございます。
 今後とも、関係市町と連携し、多摩地域の発展に資するよう、骨格幹線道路を初めとする都市計画道路ネットワークの早期形成に努めてまいります。