○副議長(木内良明君) 七番福士敬子さん。
〔七番福士敬子君登壇〕
○七番(福士敬子君) かつて知事は、ディーゼルエンジンの規制に際し、所信表明の中で、私たちは車社会によって便利な生活を享受する一方、代償として日々命を削っていると発言されました。そして、アメリカの作家で科学者でもあるレイチェル・カーソンの「沈黙の春」での警告を紹介し、もはや環境問題は経済とのトレードオフではなく、生命とのトレードオフだとおっしゃっています。実に格好いい言葉です。
二十世紀にレイチェル・カーソンが警告した環境破壊は、特に都市ではヒートアイランド現象や局地豪雨となって都民の生活を脅かすまでに至り、その対策に財源をつぎ込むというイタチごっこを招いています。レイチェル・カーソンの提唱は、利便性の追求ではなく、自然との共存を目指すスローライフでした。しかし、知事は、オリンピックの招致を掲げ、環境という言葉を使いつつ、都市の発展、経済の発展を進めておられるように見えます。レイチェル・カーソンの警告や、ご自身の発言に沿ったまちづくりのイメージは見えません。
二十一世紀は、人間の生き残りも含め、都市環境の回復を最優先に考えるべきだと思います。知事は、レイチェル・カーソンの警告をどのように受けとめ、都の政策に反映されているか、お伺いいたします。
「十年後の東京」に描かれた東京は、世界を代表する成熟都市としながら、最初に掲げられた問題点が二十世紀の負の遺産解消で、三環状道路の整備です。さらには、知事もいわれた、便利な生活の代償として日々命を削るはずの車社会の都市生活が描かれています。
今回のデータでは、二〇一五年までの東京の人口増に沿ってまちづくりを考えられているようです。私の周辺では、ガレージはあっても車を持たない後期高齢者がふえました。その方々の人口比率の高さや、その後の全体人口減少に向けたイメージも、この「十年後の東京」には必要かと思いますが、都市像としてはどのようにとらえ計画策定されたのか伺います。
東京都の戦災復興計画は、住宅増加計画のまちづくりでした。しかし、それでも、戦前に計画された緑地帯を引き継ぎ、杉並南部のように建築を規制する広大な緑地地域を設置し、都市における山紫水明の実現を目指したものでした。この計画では、都市計画道路も単なる自動車交通手段だけではなく、幅員を広くとり、並木や遊歩道が配された緑地帯を兼ねる位置づけとなっていました。
現在、この復興計画の精神は失われ、都市計画道路は環境を破壊する開発の手段ないし目的となり、細切れの形で、アセスメントすらなされずに建設される状態が続いています。そして、わずかに残された緑地帯の開発及び周辺の地域開発が道路開発にあわせて行われ、住環境の悪化という矛盾も続いています。
そこで、一九三九年の東京緑地計画協議会による東京緑地計画が下敷きとなった戦災復興計画に照らして、今日の公園緑地計画はどのように考えられているのか、所見を伺います。
杉並区においても、災害時の広域避難場所となっている、いわゆる三井グラウンドの開発計画が進められました。一種住専地域の中に建つ六階建てのマンションに囲まれたところが避難場所に指定されています。今や、震災に強い東京の都市づくりを目指していても、避難面積確保も危うい状況です。オリンピックにつぎ込む財源で緑地の確保をし、避難エリアを残すことも可能なはずです。
国土交通省による首都圏白書では、東京は中心部には緑地が多いが、五キロから二十キロ圏の森林面積はパリの三分の一程度と、周辺部の緑地が少ないことを指摘しています。戦前に策定された東京緑地計画では、東京を取り巻くグリーンベルトが計画されていました。本来残すべきであった緑地帯の多くは開発によって失われてしまいましたが、グリーンベルト地帯に残されたわずかな緑地は、未来に引き継ぐべき貴重な過去の遺産です。
「十年後の東京」では、新たな緑づくりにも取り組もうとしています。ところが、グリーンベルトとして計画されていた地域も、現実には開発され続けています。現在の東京において、かつてグリーンベルト構想があった区部周辺の貴重な緑地を保全することは喫緊の最重要課題と考えますが、見解と対策をお伺いします。
わずかに残っているグリーンベルト地帯の緑地は、きちんと行政の都市づくりの中で位置づけるべきです。杉並区にある、グリーンベルトを構成するNHKグラウンドも閉鎖されましたが、区民の手でことし二月からとりあえず開放が始まりました。しかし、このグラウンドが残される保障はありません。区からも都に都市公園としての公園づくりの要望を出しているようですが、お考えを伺います。
環状八号線周辺では、祖師谷公園など都市計画公園の整備も進められています。このように、一方で新たに緑地を整備しつつ、一方で三井グラウンドその他の大規模空地の開発を行うことは大きな矛盾です。新たな大規模開発を進める場合の緑の確保について、都の見解を伺います。
また、人々にとっては、変わらぬ風景の中で暮らし続けることが、特に高齢者などにとっては、豊かな生活環境と精神面での安定を保障することになります。ヨーロッパでのまちづくりの規制は、その意味も含めて強められているようで、人々の住むまちの原風景を保存することに価値があります。しかし、現実には、低層住宅地域の一部に虫食いのような開発が進められ、まちが変わるという問題があります。
緑豊かな住宅地の価値ある原風景ができる限り保全されるよう、さまざまな都市計画制度の活用により開発の抑制を図るべきと考えますが、見解をお伺いします。
「十年後の東京」では、東京を諸外国の都市と比較し、環状線の整備率が低いことが三環状の整備を急ぐ根拠とされています。しかし、比較例として出される諸外国の都市は、東京と都市構造が大きく異なります。例えばパリは、東京に比べ市の面積が狭く、人口密度が高い、ロンドンは、中心部の規模は東京とほぼ等しいが、市域面積が極端に広く、周辺部には大規模なグリーンベルトがとられているというように、全く状況が違います。
環状道路整備率の比較表には、東京が三五%、他都市が九〇%前後といった数値が並び、いかにも東京の整備がおくれているように見えます。しかし、東京の環状道路計画総延長は五百二十二キロです。一環状しかないロンドンの百八十八キロ、同じ三環状であるパリの三百十三キロなどに比べて極端に大きくなっています。その上、東京の場合は、一般道として山手通り、環七、環八の環状線がほぼ完成しています。これらの道路がカウントされていません。
このように、市街地面積、人口、道路計画総延長が異なるまま比較し、東京の数値を低く見せることはアンフェアだと強く申し述べておきます。
また、二〇〇四年三月、区部における都市計画道路の整備方針では、都市計画道路の見直し候補区間としては、わずか五区間、五キロメートルしか挙げておらず、大方の道路計画はそのままです。
かつての復興計画による都市計画道路は、グリーンベルトが存在していることが前提で定められた計画です。しかし、緑地帯の消失に合わせて都市計画道路自体の目的が異なってきているように思われます。環状八号線に見られるように、数車線の道路ができれば、沿道開発が行われ、緑被率もどんどん下がっていきます。
区部の都市計画道路の計画総延長は約千七百キロですが、現在完成しているのはそのうち約千キロです。未着工区間のうち、今後十年間で完成または着工されるのはわずか百三十三キロです。百年かけても全面開通がおぼつかない都市計画道路に建築制限がかかっています。
また、さきに述べたような部分的開発に合わせて、住宅地の真ん中に予定外であった細切れの都市計画道路が建設され、それによって周辺地域の開発が広がる可能性を持つような状況は、地域の住民に不安を与え、人々の生活を覆すようなことにもつながります。これは、都市計画道路が計画された当初の精神から大きく離れたものではないでしょうか。
百年後の東京のあるべき姿を見据え、全面的に都市計画道路を見直す時期に来ていると思いますが、お考えを伺います。
次に、母子家庭の貧困連鎖の脱却という視点から伺います。
都内の母子世帯の収入状況は、平成十四年度東京都社会福祉基礎調査などの調べによると、七割が年収四百万円未満であり、その半数が二百万円未満となっています。都内一般世帯の平均年収七百七十三万円に比べ著しく低い状況になっており、生活保護の受給母子家庭も多いと思われます。
自立の促進という観点では、既に母子家庭の場合、八五%の方が何らかの形態で就業しています。そのうち五五%の方は常勤で働いていますが、三七%の方は、就業経験が少ないその他の理由で、パート、アルバイトで働かざるを得なくなっています。
このような状況で、貧困、特に子どもの貧困は教育の機会平等に大きく影響してきます。現在、重要な問題に掲げられている格差についても、貧困家庭の子どもは、所得の低さから高等教育を受ける機会を奪われ、再び低所得の職業に甘んじざるを得ず、貧困の連鎖が起きています。
東京大学出版会の「子育て世帯の社会保障」によると、生活保護者の中でも、母子だけで暮らしている世帯の子どもの貧困率は六五から七〇%にも達しています。親族と同居の母子世帯では約三〇%、一般的な有子世帯では一〇%程度であることと比べると、いかに独立母子世帯の子どもの貧困率が高いかがわかります。
話が飛びますが、ホームレス支援をしている知人から、ホームレス当事者の多くが中卒あるいは高校中退者で、ひとり親家庭出身も多い、だからこそ、ひとり親家庭の子どもには教育をし、正規雇用を目指せることが必要だと熱を込めていわれました。
近年、やっと、母子家庭の子どもたちにも、高校あるいは大学への進学を後押しする制度が発足しました。ところが、規定にはさまざまな形の障害を課しています。母子福祉資金貸付金の中で、修学資金及び就学支度資金については連帯保証人が必要です。独立生保母子家庭で連帯保証人を見つけるのは困難です。まず入り口でつまずかざるを得ません。次に、子が借り主で母が連帯保証人になることも可能ですが、この場合も、生保受給者の母は返済能力なしと見られ、なかなか認められません。
このように、せっかくの教育確保制度ですが、絵にかいたもちのまま格差社会からの脱却にはつながり得ません。今や、高卒でもなかなか就職は難しく、パート等の低所得労働を強いられます。子どもの教育力を上げることで貧困家庭からの脱却を支えることも考慮すべきと思います。
子どもの教育の機会を確保するために、母子自立支援員などが母子家庭への適切な情報提供をすべきですが、所見を伺います。
また、これまでに述べてきたように、生活保護を受給しているなど収入状況の厳しい母子家庭にとって、就業や教育、住宅など、その子どもの世代までに大きく影響を及ぼしかねない課題が山積みしています。子どもの世代にまで貧困を連鎖させないよう、母子家庭の母のさまざまな悩みを受けとめ、自立に向け都として総合的に支援していくべきと考えますが、お考えを伺います。
時間がなくなりましたので再質問をいたしませんが、ぜひしっかりしたご答弁をいただきたいと思います。よろしくお願いします。(拍手)
〔知事石原慎太郎君登壇〕
○知事(石原慎太郎君) 福士敬子議員の一般質問にお答えいたします。
レイチェル・カーソンの警告についてでありますが、大分以前、講演で聞きました宇宙科学者のホーキングの言葉を思い出します。
我々が、この地球で、小説では読んだり、映画でも見たりしますけれども、実際にほかの惑星から来た宇宙人に会わないのはどういうわけだろうかという質問が出ましたときに、そんなことができる前に、ある程度文明の進み過ぎた惑星というのは、星というのは、そのものが自壊してしまうといっておりました。
文明のもたらした大きな便益と引きかえに、みずからの生息地であるこの地球を私たちは失ってはならないと思いますが、しかし、最近の異常気象を見ると、非常に恐ろしい道をたどっているような気がいたします。
環境の危機が加速度的に高まる中、「十年後の東京」では、こうした文明批判の視点に立って、緑と澄んだ大気の大都市東京を目指すことを明らかにしております。同時に、世界最高レベルの温暖化対策の展開により世界の諸都市をリードしていき、こうした取り組みを通じて、東京から地球を救う一助になりたいと思っております。
他の質問については、関係局長から答弁いたします。
〔知事本局長山口一久君登壇〕
○知事本局長(山口一久君) 高齢化や人口減少を踏まえた都市像についてのご質問でございますが、全国の人口が既に減少に転じる中、東京の人口は今後十年程度は増加し続け、その後は減少に転じると見込まれます。また、団塊世代が高齢期を迎え、元気な高齢者がふえる一方、七十五歳以上の後期高齢者も急増いたします。
このため、「十年後の東京」では、三環状道路などの都市インフラの整備を着実に進めるとともに、渋滞解消によって生じる交通インフラのゆとりを生かし、バスの利便性の向上や自転車道の整備を図ることといたしました。また、だれもが暮らしやすいユニバーサルデザインのまちづくりや駅を中心としたコンパクトなまちづくりなど、将来の超高齢化や人口減少に備えた政策を打ち出しております。
〔都市整備局長柿堺至君登壇〕
○都市整備局長(柿堺至君) 五点のご質問にお答え申し上げます。
まず、公園緑地計画についてでございますが、昭和二十一年策定の戦災復興計画は、都市機能の回復と無秩序な市街地の拡大を抑制する目的で立案されました。このうち、公園や緑地については、有機的に放射、環状を連携させた点に特徴がございましたが、その後の急激な市街地の進展などにより、この計画は縮小されるに至りました。
しかしながら、今日の公園や緑地の計画には、戦災復興計画で構想した緑地の考え方が受け継がれており、例えば二十三区の周辺部に環状に配置された公園と河川や道路などの緑をつなぐ緑のネットワークづくりに反映されております。
次に、二十三区の周辺部の緑地を保全することについてでございますが、かつての戦災復興計画の中で環状に配置された篠崎公園、和田堀公園、神代公園などの大規模な公園は、今日においても緑のネットワークを形成する上で重要な位置づけにございます。
このため、引き続きこれらの公園の整備を推進するとともに、この地域に散在する農地や屋敷林などの緑についても、生産緑地や市民緑地制度などを活用し、区市とも連携して、できる限り緑の保全に努めてまいります。
次に、市街地における緑の確保についてでございますが、緑豊かな市街地の形成を図るには、公共による都市計画公園等の整備に加え、民間開発においても緑の保全や創出に配慮することが重要でございます。
大規模開発のうち、例えば三井グラウンドの開発においては、既存樹林地の大部分約二万九千平方メートルを保全するとともに、新たな緑を創出することにより、合わせて約三万六千平方メートルの緑を確保する計画としております。
今後とも、地元自治体と連携を図りながら、開発事業者の協力を得て、適切に緑が確保できるよう取り組んでまいります。
次に、住宅地の保全と開発についてでございますが、まちづくりを進めるに当たって、それぞれの地域が持つ魅力や個性を生かすとともに、住環境の保全や防災性の向上、必要な都市基盤の整備などに取り組んでいくことが重要でございます。
このため、地域の保全や開発について定めた都市計画マスタープランに沿って、用途地域や市街地開発事業などの都市計画制度を活用することにより、開発や土地利用の適切な誘導を行っております。
今後とも、地元自治体と緊密に連携し、地域特性に応じた、安全で住みやすいまちづくりを進めてまいります。
最後に、都市計画道路の見直しについてでございますが、都市計画道路は、人や物の円滑な移動を確保するとともに、防災性の向上や良好な都市空間の形成を図る上で不可欠な都市基盤でございます。
このため、都はこれまでも、社会経済情勢の変化を踏まえ、長期的視点に立ち、数度にわたる都市計画道路の見直しに取り組んでまいりました。平成十六年には区部、十八年には多摩地域について都市計画道路の整備方針を策定し、改めてその必要性を検証の上、第三次事業化計画として優先整備路線を選定いたしました。
今後とも、これらの事業化計画に基づき、都市計画道路ネットワークの早期整備に向けて着実に取り組んでまいります。
〔建設局長依田俊治君登壇〕
○建設局長(依田俊治君) NHK富士見ヶ丘運動場についてでありますが、杉並区久我山にあるNHK富士見ヶ丘運動場は、計画面積十七・四ヘクタールの都市計画高井戸公園の区域内に位置しております。
都立公園の整備につきましては、平成十八年三月に策定いたしました都市計画公園・緑地の整備方針において、水と緑のネットワーク形成など、整備の重要性や事業の効率性の観点から、平成二十七年までに整備に着手する重点公園を定めております。
杉並区内では、和田堀公園や善福寺川緑地などを重点公園と位置づけ、このうち計十三ヘクタールを優先的に整備する方針であり、現在、計画的に事業を進めております。
したがって、NHK富士見ヶ丘運動場を含む高井戸公園については、当面、事業に着手する予定はございません。
〔福祉保健局長山内隆夫君登壇〕
○福祉保健局長(山内隆夫君) 二点のご質問にお答えいたします。
初めに、母子家庭への適切な情報提供についてでございますが、都はこれまでも、母子家庭などひとり親家庭の自立を支援するため、区市町村の母子自立支援員などを通じ、生活全般に関するさまざまな情報の提供に努めており、子どもの進学、修学についても各種奨学金制度の紹介などを積極的に行ってまいりました。
引き続き、母子家庭に対し適切な情報提供に努めてまいります。
次に、母子家庭への支援についてでございますが、都は、平成十七年四月に策定いたしましたひとり親家庭自立支援計画に基づき、母子家庭のさまざまな悩みに対応する電話相談などを行う母子家庭等就業・自立支援センター事業を実施するなど、自立に向けた支援を総合的に行っております。
今後も、関係機関と緊密に連携しながら、こうした取り組みを一層推進し、母子家庭の生活の安定と向上に努めてまいります。
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