平成十九年東京都議会会議録第四号

○議長(川島忠一君) 十番原田恭子さん。
   〔十番原田恭子君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○十番(原田恭子君) このたび発表された「十年後の東京」における都市像の描き方は、従来の価値観の延長上のもので、新しい時代の社会像を示唆するものではありません。自然との共生を視野に、持続可能な資源循環型社会、多様な価値観を容認する人権の尊重される社会のあり方など、成熟した地球市民としての暮らし方、社会のありようを示すことが求められています。成熟化の視点も踏まえ、策定に当たっての知事の基本的な考えを伺います。
 「十年後の東京」では、道路という言葉が全部で百四十二回、三環状というかなり特殊な用語さえ二十九回も登場するなど、道路整備への知事の入れ込みがあらわれています。逆に、鉄道という言葉は二十二回、鉄道の役割を評価した記述は皆無に等しいものです。
 東京の交通体系の特徴は、発達した鉄道網といわれており、特に都心への通勤では四分の三の人が鉄道を利用しています。その結果、東京圏での交通での消費するエネルギー、あるいはそれに伴って排出される二酸化炭素の一人当たりの量は、工業国の中で最も低い水準にあります。
 公共交通が都市交通を支えるのはアジアの都市の特徴ですが、中でも東京は三千三百万人という世界最大の都市圏と、それを支える発達した鉄道網という点で、まさに巨大都市のモデルとなり得るものです。
 そこで、今後の東京圏における鉄道と自動車交通の役割分担など、そのあり方について、運輸大臣も経験した知事の見解を伺います。
 東京では、発達した公共交通のおかげで、膨大な数の車がガレージで眠っていますが、もし走れるスペースが増加し、かつ経済性も高まれば、たちまち鉄道から自動車への利用の転換が起こりかねません。今後、人口減少によって通勤交通が次第に減少していく中で、鉄道やバスなどの公共交通の利便性、快適性、安全性を高めていく努力を一層強めなければ、公共交通が客を失い、不便になるという悪循環に陥っていくおそれがあります。
 都は、みずから経営する地下鉄、バス、路面電車、新交通などのみならず、民営の鉄道やバス会社とも協力して、公共交通を中心として東京の交通網の質を向上させていくことを最も重要な政策と掲げるべきと考えますが、見解を伺います。
 次に、自転車について伺います。
 警察庁自転車対策検討懇談会が自転車の安全利用の促進に関する提言を発表し、これに基づいて道路交通法の改正案を通常国会に提出する予定で各方面で議論を呼んでいます。また、都もこの一月、自転車の安全利用推進総合プランを策定して、自転車利用者のルールやマナーの改善等に取り組む姿勢を明らかにしました。
 しかし、自転車は、車道を走るか歩道を走るかの、この質問に正しく答えられる人はどれくらいいるでしょうか。日本以外の先進国で自転車が歩道を走っている国はありません。例えばロンドンでは、自転車とタクシー、バスだけの専用レーンがあり、フランスやドイツでは、自動車の速度を三十キロに制限するゾーン三〇という地域を市街地につくり、優先順位を人、自転車、公共交通機関、一般の乗用車などとする施策が実施されています。
 しかし、日本では車道は自動車専用であり、自転車が歩道を走ることにより歩行者の安全が脅かされているのが現状です。都市計画道路を計画していく過程において、自転車利用も十分配慮することが必要と考えますが、見解を伺います。
 現在、都内には三十七万人の外国人籍の方が生活していますが、さまざまな課題を抱え、地域で安心して暮らすための支援はいまだ十分であるとはいえません。特に、仕事や研修、結婚という形で東京に暮らす外国人にとっては、子どもの教育は大きな問題となっています。ある支援団体によると、都内の公立中学から都立高校への進学は、外国籍の生徒にとっては、言葉のハンディが入試の大きなハードルになっているとのことです。
 さらに、外国籍の子どもの三、四割は、学習困難などの理由で就学していません。日本語を読み書きできない子どもは、就職もできないのです。東京に今いる外国籍の人たちに、日本の学校できちんと日本語を学び、職業支援も積極的に行うような人材育成型施策が必要です。
 そこで、「十年後の東京」で策定した在住外国人に対する施策の基本的な考えと今後の取り組みの方向について伺います。
 阪神・淡路大震災では、死者の八割が自宅の倒壊による犠牲となりました。この教訓から、耐震化の大切さがわかり、耐震診断や耐震補強への関心が高まりました。しかし、耐震改修には、最低でも百万円近く必要といわれています。新車の百万円は出せても、古びた我が家に百万円を支出するのはためらったりすることから、その取り組みはなかなか進みませんでした。
 このたび発表された東京都耐震改修促進計画の素案では、地震により想定される被害の半減を目指して、都内の住宅、建築物の耐震化を促進し、住宅については平成二十七年度までに耐震化率を九〇%とするとしています。
 平成十八年三月に生活文化局が行った防災に関する世論調査では、耐震診断、耐震補強を行う場合の条件として、信頼できる専門家による相談、助言を多くの人が望んでいます。一方で、点検と称して高齢者宅を訪問し、基礎にひびが入っている、このままほうっておくと大変なことになるなどというリフォーム詐欺の被害も深刻です。
 都民の不安を払拭し、安心して耐震相談や補強を行えるように、身近な自治体の相談窓口の整備や信頼できる専門家の紹介など、相談体制の充実を図るべきと考えますが、見解を伺います。
 次に、在宅医療について伺います。
 介護保険制度、障害者自立支援法、いずれも地域生活を重視しているものです。東京の福祉保健の新展開二〇〇七においても、キーワードの一つが在宅です。
 また、昨年の医療制度改正における療養型病床の改変や在宅療養支援診療所の創設などは、今後の在宅医療の必要性を浮き彫りにしています。高齢化率がますます高まる中で、住みなれた自宅でできる限り自分らしく生きていきたいと願う人は、今後もふえ続けるでしょう。
 介護が必要になれば、当然、医療の必要性も高まっていきます。国の指針に従って二〇〇七年度策定される地域ケア整備構想にも、在宅医療のあり方が検討課題として挙げられています。
 こうした状況にあって、患者や家族が自由意思で自分に合った在宅医療を選択できるよう、在宅医療の充実が求められると考えますが、見解を伺います。
 自宅などで療養している人が安心して療養生活を送るためには、医療、看護、介護など多くの職種がかかわり、連携していくことが不可欠です。また、生活の場で切れ目なく質の高い医療が受けられる体制づくりは、医療従事者はもとより、市民の力を生かすなど、地域全体で在宅医療を支える体制をつくり出していくことが必要です。
 具体的なシステムづくりは、身近な自治体が、その実情に合ったものを確立することが望ましいと考えますが、みとりを含めた在宅ケアをさらに普及、定着させていくために、今後、都は在宅医療の充実に向けてどのような施策を展開していくのか伺います。
 次に、多様な働き方について伺います。
 自立支援法成立以来、障害者の一般就労は当面の大きな課題です。イタリアでは、社会、保健、教育サービスを提供するA型社会的協同組合と、身体ないし精神に障害がある人、薬物依存者、アルコール中毒、家庭問題を抱えている年少者、保護観察にある受刑者など、不利な立場にある人々の就労支援を行うB型社会的協同組合が既に実働しています。全労働力の少なくても三〇%に、このような立場の人の参加を義務づけています。
 協同組合、ワーカーズコレクティブなど、参加者がみずから出資し運営していくことで、対等で自立的な就労を可能にし、なおかつ社会の中で必要な事業をつくり出していくという就労のスタイルを、多様な就労の場として位置づけ、普及していく必要性を感じますが、所見を伺います。
 滋賀県では、二〇〇五年十月、障害者参加という社会的目的のためにつくられた事業所を社会的事業所と位置づけ、支援を始めました。障害者従業員は五名以上二十名未満で、雇用割合が五〇%以上、障害者自身の経営への参加、労働法規の全面適用などを要件とした社会的事業所に対し、職業訓練などの経費補助や、経営力を強化するための補助などが行われ、福祉の枠組みを超えた労働の創設を打ち出した点で画期的なものです。
 障害のある人もない人もともに働く社会的事業所の試みは、多くの障害者の共感を得、全国に波及しています。障害者の就労の場として、社会的事業所も含め、多様な働く場の創出は大きな課題と考えますが、見解を伺います。
 最後に、臨海副都心事業について伺います。
 一月三十一日、東京臨海熱供給株式会社の単独株式移転により、株式会社東京臨海ホールディングスが設立されました。今後、臨海における監理団体が順次子会社化され、平成二十一年度からは本格稼働する予定です。ゆりかもめとテレポートセンターは株式交換の手法で、ビッグサイトは株式の現物出資により、それぞれ子会社化し、設立したホールディングスの社長は熱供給の社長が兼任と、寄り合い世帯です。子会社が必ずしも利益追求でない場合もあります。
 特に、今まで公共性が強いとされてきた埠頭公社の民営化と子会社化のメリットについて伺います。
 また、持ち株会社化で各子会社の経営の実態がますます見えにくくなるのは自明の理で、そこで、情報公開が大きな課題といえます。加えて、臨海地域全体を視野に入れたエリアマネジメント機能を発揮するための設立という責任は大きく、その上、新たに五十億円という都の無利子貸付金も用意されています。
 このようにホールディングスが担う責任の重さを考えると、今後、都の関与、責任の所在はどうなるのか、見解を伺います。
 不採算部門の清算をするに当たっては、都民に対して十分な説明責任を果たすことが必要です。事業内容をさまざまな段階で評価し、公共事業や税金の投入の是非を問う材料を公開していく姿勢が大事です。
 臨海三セクの民事再生手続がほぼ完了した今、この事業の設立目的、経過を含め、都の関与がどうだったのか、しっかり点検し、報告書を作成、公表すべきと考えますが、見解を伺い、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 原田恭子議員の一般質問にお答えいたします。
 成熟化を踏まえた「十年後の東京」についてでありますが、「十年後の東京」では、東京が近未来に向け、都市インフラの整備だけではなく、環境、安全、文化、産業などさまざまな分野でより高いレベルの成長を遂げていく姿を明らかにいたしました。
 拡大、成長のステージを経て成熟を遂げつつある東京が、さらに高いレベルの成熟を目指すためには、まず、交通渋滞の解消など、現実に残された二十世紀の負の遺産を三環状道路の整備などにより克服していくことが必要であります。
 また、渋滞解消により生まれる都市空間のゆとりを生かし、ユニバーサルデザインのまちづくりを進めるなど、快適で利便性の高い都市生活を実現していきます。
 さらに、水辺からの眺望を重視した景観形成や集中的な震災対策など、美しいまち、安全なまちを実現して、東京の価値や信用力を高め、そのレガシーを次代に継承していきたいと思っております。
 東京が持つ有形無形の大都市力を存分に発揮しながら、魅力のある東京の近未来図を実現していきたいと思っております。
 次いで、鉄道と自動車交通のあり方についてでありますが、人や物の交流こそが都市の活力の源泉でありまして、その礎をなす鉄道や道路は、それぞれの特徴に応じて複合的、重層的に整備していくことが肝要であります。
 東京の鉄道は、明治以来、近代文明の先駆たる多量輸送機関として整備が進められ、今日では、世界に類を見ない高密度で正確な、安全なネットワークを形成しております。
 一方、自在性の高い自動車交通は道路整備を上回る勢いで増加し続け、渋滞による都市の機能不全は今や東京の最大の弱点となっております。
 都は引き続き、三環状を初めおくれている道路整備を強力に推進するとともに、あわせて鉄道の利便性向上を図ることにより、成熟した都市の新しいあり方を世界に示していきたいと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁します。
   〔都市整備局長柿堺至君登壇〕

○都市整備局長(柿堺至君) 三点のご質問にお答えいたします。
 まず、公共交通の質の向上についてでございますが、公共交通は、都民の日常生活や経済活動にとって不可欠な都市インフラであり、都はこれまでも、交通事業者とともに、相互直通運転などによる利便性の向上、公共車両優先システムなどによる定時性の確保、地下鉄駅でのホームさく設置などによる安全性の確保、施設整備におけるユニバーサルデザインへの配慮など、公共交通の質の向上を推進してまいりました。
 一方、高齢化社会においては、公共交通のみならず、自在性の高い自動車交通も重要な役割を担うことから、道路の充実も不可欠でございます。
 今後とも、総合的な観点から東京の交通政策を推進してまいります。
 次に、都市計画道路における自転車利用への配慮についてでございますが、自転車は、身近で便利な交通手段として、近年、その利用は増加傾向にございます。
 都は、都市計画道路の計画や整備に際し、これまでも環状六号線や調布保谷線などにおいて、地域特性を踏まえ、自動車はもとより、自転車や歩行者の通行確保にも努めております。
 今後とも、限られた道路空間ではございますが、だれもが安全で快適に利用できる交通環境の実現に向けて、都市計画道路の整備に取り組んでまいります。
 最後に、住宅の耐震化に関する相談体制についてでございますが、都は、区市町村に対し、耐震診断、耐震改修に関する相談窓口の充実を要請するとともに、診断方法や改修工法に関する技術的な助言などを行っております。
 また、信頼できる建築士事務所を登録し、その情報を広く都民に提供するなど、今後とも相談体制の強化に努めてまいります。
   〔知事本局長山口一久君登壇〕

○知事本局長(山口一久君) 「十年後の東京」における在住外国人に対する基本的な考え方でございますが、経済のグローバル化の進展などを背景に、都内の外国人数はアジア諸国を中心に急増しておりまして、在住外国人を地域社会の構成員として受けとめることが必要となっております。
 このため、「十年後の東京」では、在住外国人を地域の活動へ積極的に受け入れ、多文化共生を推進していく考え方を明らかにいたしました。
 在住外国人と日本人の相互理解、交流に向け、生命にかかわる災害情報の多言語化や住宅確保面での支援、外国人と日本人のお互いの言葉の学習など、さまざまな取り組みを区市町村と連携しながら展開し、在住外国人が地域の一員として生き生きと暮らせる環境を整備してまいります。
   〔福祉保健局長山内隆夫君登壇〕

○福祉保健局長(山内隆夫君) 二点のご質問にお答えいたします。
 初めに、在宅医療の充実についてでございますが、本格的な高齢社会を迎え、在宅での療養を希望する人が、必要な医療サービスを受けながら、地域で安心して暮らせるようにするためには、在宅医療の充実が重要であると認識しております。
 このため、都は、区市町村や関係団体とも、訪問診療を行う在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションなど在宅医療に係るさまざまな機関が相互に連携して、切れ目のない医療を提供する体制の整備に努めているところでございます。
 次に、在宅医療の充実に向けた施策の展開についてでございますが、在宅医療の充実のためには、医療従事者の資質向上が重要でございます。このため、都はこれまでも、地域の医師等を対象とした在宅医療推進のための実地研修などを行ってまいりました。
 さらに、平成十九年度には、医師、看護師等の医療従事者に向けて、在宅医療に係る最新技術の情報や他機関との具体的な連携方法をわかりやすく解説した在宅医療マニュアルを作成するなど、一層の支援に努めてまいります。
 また、こうした取り組みに加えまして、住民に身近な区市町村が、医療関係者や住民等の力を生かしながら、地域の特性を踏まえて実施する在宅医療の施策に対して、新たに創設する包括補助事業を活用して支援してまいります。
   〔産業労働局長島田健一君登壇〕

○産業労働局長(島田健一君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、多様な働き方の普及についてであります。
 近年、NPO、ボランティア、起業、創業など、都民の働き方は多様化してきており、働く人がともに出資し事業を行うワーカーズコレクティブもその一つと認識しております。
 都はこれまでも、しごとセンターにおいて、さまざまな働き方について、セミナーや相談窓口での情報提供等を行ってまいりました。引き続き、これらの事業に取り組みまして、都民ニーズにこたえてまいります。
 次に、障害者の多様な就労の場の創出についてであります。
 都においてはこれまで、障害者雇用促進に向けた事業主への普及啓発や、障害者に対する企業合同説明会の開催などを通じまして働く場の確保に努めてまいりました。
 本年度からは、さらに、障害者職域開拓支援事業を開始し、障害者の職域拡大につながるモデルとなる取り組みを選定し、助成や専門家派遣などの支援を行っております。
 お話にあります社会的事業所の取り組みにつきましても、本事業の要件を満たせば、審査の対象となります。
 今後、選定された取り組みを優良事例として広く周知するなど、本事業の充実に努め、障害者の働く場の拡大に取り組んでまいります。
   〔港湾局長津島隆一君登壇〕

○港湾局長(津島隆一君) 臨海副都心開発について三点のご質問にお答えいたします。
 まず、東京港埠頭公社の民営化のメリットについてでございますが、これまでの認可制による国の規制が緩和されることから、東京港の状況により適合した効率的な経営体制に移行するとともに、出資も可能となることから、関連分野への事業多角化を図るなど、強い財務体質を構築してまいります。
 こうした取り組みによる成果を利用者に還元し、港湾コスト低減やサービス向上などを実現し、港湾物流の担い手として高い公共的役割を引き続き果たしてまいります。
 また、持ち株会社の子会社となるメリットについてでございますが、グループ全体の経営資源の相互融通を通じ、一層の物流機能の充実強化に取り組んでいくとともに、臨海地域における港湾物流と都市機能との調和を図り、臨海地域のエリアマネジメントに貢献してまいります。
 次に、持ち株会社に対する都の関与についてでございますが、持ち株会社グループは、臨海地域のエリアマネジメントを都と一体となって行っていく重要な役割を担っております。そのため、都は、経営戦略の策定など、本社機能を担う持ち株会社を通じ、グループ全体に適切な指導監督を行ってまいります。
 なお、透明性の確保については、持ち株会社に加えて、グループ全体と子会社の財務諸表についても、毎年度、議会にご報告することを既に明らかにしており、引き続き説明責任を果たしてまいります。
 最後に、臨海三セクの民事再生に係る報告書を作成、公表すべきとのお尋ねでございます。
 民事再生の実施に当たりましては、これまで、議会において、事業の経過等につき必要な報告を行い、慎重な審議を経た上でご承認されたものでございます。また、再生計画案の概要等については、マスコミやホームページなどを通じて広く公表しており、都は十分説明責任を果たしてきたと認識しております。
 なお、新会社は持ち株会社グループに参加いたしますが、今後とも経営状況等を適切に議会に報告してまいります。