平成十九年東京都議会会議録第三号

   午後三時四十六分開議

○議長(川島忠一君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 六十八番村上英子さん。
   〔六十八番村上英子君登壇〕

○六十八番(村上英子君) 二〇〇七年問題といわれているように、いよいよ団塊の世代が大量に退職期を迎えようとしています。一方、少子化の進行にはいまだ歯どめがかからず、間もなく四人に一人が六十五歳以上の高齢者という超高齢時代がやってまいります。また、家族の世帯構成を見ても、核家族が一層進んでいるばかりではなく、若者から高齢者に至るまで、単身家族がふえ続けています。
 こうした時代だからこそ、私は、家族の果たす役割が極めて重要であると考えます。石原知事は、日本の伝統文化を大切にしようと常々いわれておりますが、その基本は家族のあり方だと思います。
 昔は、おじいちゃん、おばあちゃんとの同居は当たり前、ともすれば、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃんとの同居もありました。それがいつのころからか、家つき、カーつき、ばばあ抜き等の言葉の流行とともに、家族の形が変わってまいりました。
 かつては、食事のマナーや社会生活のモラルなどを家庭で教わり、高齢者や小さな子ども、弱い者をいたわる思いやりの心も自然と身についたものです。また、日本の文化、風習なども、四季の移り変わりの中で家族に教えてもらったように思います。
 しかし、最近では、都市化が進む中で、家族そのものが崩壊してきているように思えてなりません。残念なことに、家族内での殺人という痛ましい事件も相次いで発生いたしました。
 また、いわゆる独居老人のような高齢単身者の孤独死という問題も明るみになってきています。家族を持たない単身者は、元気な間は何も問題もなく、気兼ねなく自由に暮らすことが可能ですが、一度疾病などの課題を抱えれば、自分だけでは何も解決できなくなり、医療、介護、住宅など、さまざまな公的サービスを受けざるを得なくなってしまいます。
 元気な高齢者の地域参加を、また待機児童の解消を促すためにも、改めて家族の持つ機能の大切さをとらえ直し、家族の支援に取り組むとともに、身寄りのない都民に対しては、行政が公的サービスによって代替、補充していくことも必要と考えます。
 石原知事は、家族の変容や家族機能の希薄化という現状をどのように認識しておられるのか、ご所見をお伺いいたします。
 先日、医師会の先生方との勉強会の中で、資料を提供していただき、いろいろとお話を伺った中から、幾つかの質問をさせていただきます。
 まず、療養病床について伺います。
 現在、国の医療制度改革の一環として、療養病床の再編成が進められております。療養病床には、医療の必要性が必ずしも高くない患者が多く入院し、実質的に高齢者介護の受け皿となっているという社会的入院の解決は、もとより必要な改革であります。
 しかしながら、患者や医療関係者不在の議論により、平成二十三年度までの六年間に、全国で三十八万床を十五万床にするなどと、病床削減の数だけが先行し、いわゆる介護、医療難民の発生を懸念する声もささやかれております。
 しかも、東京は、全国に比べて療養病床や介護施設の高齢者人口に対する割合が低く、必ずしも国が示しているような割合で一律に療養病床を削減する必要はないのではないかと思います。
 そこで、療養病床再編成に対する都としての対応について、基本的な認識を何点か伺います。
 まず、約五千人余りの都民が埼玉県など近県の療養病床に入院しているとの報道もあり、医療必要度の高い患者を受け入れる医療療養病床については、ふやすことも含めて、必要数を確保していくべきと考えますが、ご所見をお伺いいたします。
 次に、療養病床から介護施設などへの円滑な転換についてですが、現行の高齢者保健福祉計画では、都内十三の老人保健福祉圏域ごとに平成二十年度までの介護保険施設の定員数の上限が定められており、都では、国の療養病床再編成の方針を踏まえ、地元区市町村の同意があれば、療養病床がこの計画数を超えて介護保険施設へ転換することができるという運用方針を示しています。
 この対応は、療養病床が介護施設などへの転換を図る上で、現行の枠組みの中では最大限に柔軟な方針と評価いたしますが、しかしながら、区市町村の同意が得られない場合には、転換したくてもできない事態の発生も懸念されるところです。
 そこで、療養病床から介護施設への転換が円滑に図られるよう、高齢者保健福祉計画の改定など、今後の都の取り組みについてお伺いいたします。
 最後に、昨年五月に都が公表した保健医療に関する世論調査によれば、脳卒中の後遺症や末期がんなどで長期の療養が必要となった場合、自宅で療養を続けることを理想と考える方が四五%いらっしゃいますが、しかし、この方々が実際に自宅での療養が可能と考えているのは二〇%にすぎません。その理由として、家族への配慮や住宅事情などとともに、在宅医療体制への不安も大きな割合を占めているのです。
 社会的入院は、単に療養病床を削減するだけでは、本当の意味での解決にはならないと思います。在宅に関しては、平成十九年度の地方税制改革の中で、高齢者や障害者などが住む既存の住宅に関しバリアフリー改修工事を行った場合、固定資産税が減額される特例措置が創設されることとなっております。在宅医療に関しても、サービスを一層充実し、自宅や住みなれた地域で療養生活を続けたいという都民の希望にこたえていく必要があると思います。
 受け皿となる在宅医療を担う医師、看護師などの育成に取り組むとともに、地域で在宅医療に取り組む方々をきめ細かく支援していく必要があると考えますが、ご所見をお伺いいたします。
 次に、平成二十年度から実施される特定健康診査・特定保健指導についてお伺いいたします。
 昨年六月、医療制度改革関連法が成立し、疾病の予防の重視と医療費適正化の観点から、生活習慣病予防が一つの柱として位置づけられました。この改革により、老人保健法は高齢者の医療の確保に関する法律に改正されることとなり、これまで区市町村が住民に実施してきた基本健康診査は、生活習慣病の予防にターゲットを絞った特定健康診査・特定保健指導として引き継がれることになり、区市町村国民健康保険、健康保険組合、政府管掌保険などの医療保険者には、その実施が義務づけられることとなりました。
 特定健康診査・特定保健指導の質の確保は大切な課題であり、都道府県には、医療保険者に対する助言や援助、健診・保健指導のマンパワーの確保や、生活習慣病対策に取り組む地域、職域関係者間の総合調整が求められていると聞いております。
 都はこれまで、区市町村とともに基本健康診査を着実に進めるとともに、糖尿病予防のモデル事業に取り組むなど、生活習慣病対策の新たな取り組みも行っていると聞いています。都は、こうしたこれまでの取り組みを生かし、特定健康診査などの実施体制の整備を進めていくべきと考えます。
 平成十九年度における医療保険者の第一の課題は、特定健康診査等実施計画の策定であります。計画には、健診受診率や糖尿病有病者率の減少等に関する数値目標や、健診などの具体的な実施方法等の記載が義務づけられています。しかし、多くの医療保険者は、健診・保健指導事業の経験が少なく、健診の実施や計画策定を担う専門職も不足しているのが現状であります。
 都においては、円滑な実施に向けて、医療保険者に対し、具体的にどのような支援を行っていくのか、お伺いいたします。
 次に、特定健康診査・特定保健指導実施に伴う人材の確保についてお伺いいたします。
 新たな健診が都民の生活習慣病の予防、重症化防止に有用となるためには、計画の立案、実施から評価までを行う医師、保健師などの養成が必要となります。特に、今回の法改正では、保健指導を適切に行うことができる専門職の確保が必要となります。
 そこで、都は、実施に必要な人材の確保を進めるため、どのようにして質の高い人材を養成していくのか、お伺いいたします。
 次に、特定健康診査・特定保健指導の確実な実施のためには、医療保険者が努力するだけではなく、広く都民や関係者に対し、効果的に生活習慣病予防の普及啓発を行うことが必要と考えます。特に職域においては、労働安全衛生法に基づき、労働者の健康管理を担う事業主の協力が必要不可欠であり、健康づくりに対する事業主の意識啓発に努める必要があります。
 また、特定健康診査などを受診する都民の側にも、健診の意義や健康づくりの実践を継続することの必要性を呼びかけていくべきだと考えます。
 都は、生活習慣病予防の普及啓発にどのように取り組んでいくのか、お伺いいたします。
 最後に、都民に身近な、そして都民のだれもが頼りにしております救急業務についてお伺いいたします。
 消防機関の行う救急業務は、昭和三十八年に法制化されて以来、我が国の社会経済活動の進展に伴って、その体制も逐次整備され、住民の安全を確保する上で必要不可欠な行政サービスとして、その重要性はますます高まってきております。
 平成十八年版の消防白書によりますと、十七年中の救急車の出動は、全国で約五百二十八万件に達し、前年に引き続き五百万件を超え、過去最多であったようであります。今後も、高齢化がさらに進展し、都民の意識も多様に変化して、救急車の出動はふえ続け、このままでは、救急要請時に近くに救急車がいないため、より遠くから救急車が来ることになったり、さらには、交通渋滞などにより救急車の到達時間が徐々に遅くなる傾向となっていくことも予想されます。
 首都東京においても、実情は同様であります。昨年の東京消防庁の救急出動件数は、十年前と比較すると、約一・五倍に増加したとお聞きいたしました。
 そこでまず、東京消防庁では、増加してきた救急要請に対し、これまでどのような対策を講じてきたのか、お伺いいたします。
 さらには、マスコミでも取り上げられているように、心ない一部の人には、緊急性のないことで救急車を呼ぶ人や、タクシーのかわりに救急車を使う人もいるようであります。このようなときに、近くで生命に危険が及ぶ、いっときを争うような事故や急病が発生した場合、救える命も救えなくなってしまうことは自明の理であり、都民にとって大きな問題であるといえます。
 東京消防庁では、緊急出動の件数の増加などにより、救急車が現場に到着するまで時間がかかり、今後、緊急への影響が心配されることから、医療関係者や大学教授などの有識者が委員となっている救急業務懇話会に、救急業務における傷病者の緊急性に関する選別(トリアージ)及びその導入のための環境整備について検討していただき、その答申が出されたことと伺いました。
 東京消防庁では、この救急業務懇話会の答申を受け、今後、どのような対策を考えているのか、消防総監のご所見をお伺いいたします。
 また、私の母が、昨年十一月の末に、緊急で広尾病院に入院をいたしました。その折、大変消防庁にはお世話になりました。
 そしてまた、私が申し上げたいのは、広尾ERの救急車の待機の時間でございます。私が知っている限りでも、救急の待機は五台、六台と待機をしておりました。それだけ救急車の要請が多いといわれております。ぜひこのトリアージを大いに活用していただいて、本当に必要とされている患者さんに対応していただきますようにお願い申し上げ、私の質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 村上英子議員の一般質問にお答えいたします。
 家族の現況についてでありますが、国家が人間同士の連帯の最大のユニットであるように、家族は人間社会における最小の単位でありまして、最も根源的な連帯の形であると思います。その家族が自壊してしまい、機能不全に陥っていることは、今やだれの目にも明らかでありまして、中でも父性の失墜は目を覆うような状況にあります。
 モラルの崩壊や社会規範の希薄化など多くの問題が、家族あるいは親と子の関係に起因しているといわざるを得ず、家族の立て直しこそ、最も差し迫った課題であると思っております。
 でき得れば、おっしゃったように、親子三代が一緒に住むということで、人間同士のかかわりの中で、立場を超えて、時代も超えて、垂直な価値観として伝承されていかなくてはいけないものが伝わりにくくなっている。三代一緒に住めといわれても、家屋の問題、住居の問題なんかもあるでしょうが、こういう状況というものを、何とか何かの形でてこ入れして、立て直していきたいものだと思っております。
 都としても、青少年の健全育成や教育改革はもとより、地域と一体となって家族の再生に取り組んでいきたいと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。
   〔福祉保健局長山内隆夫君登壇〕

○福祉保健局長(山内隆夫君) 福祉医療に関する六点のご質問にお答えいたします。
 まず、医療療養病床の確保についてでございますが、今般の療養病床の再編成は、いわゆる社会的入院の解消に向け、今後は、療養病床は医療の必要度の高い患者を受け入れるものに限定し、医療の必要度の低い患者につきましては、介護施設などで受け入れていこうというものでございます。
 この再編成の中で、急性期の医療を終え、回復期にある患者を受け入れ、密度の高い医学的管理などを行う医療療養病床の役割は、今後とも重要でございます。
 都としても、医療機関の動向を的確に把握しながら、今後策定する地域ケア整備構想を踏まえまして、医療計画の策定の中で適正な病床数について検討してまいります。
 次に、療養病床の転換についてでございますが、療養病床の再編成に当たっては、その受け皿となる介護施設等への転換を円滑に進めることが不可欠でございます。
 このため、都は、本年秋までに策定する地域ケア整備構想において、現在取りまとめ中の療養病床実態調査の結果や、今後国から示される予定の新たな参酌基準に基づきまして、療養病床の転換を含む再編成への対応の方向性を明らかにいたします。
 さらに、これを踏まえ、平成二十一年度に高齢者保健福祉計画を改定いたしまして、その中で、療養病床から介護施設等への転換の動向を適切に見込んだ上で、平成二十三年度までの介護施設等の定員数を定めてまいります。これによりまして、療養病床の転換に支障が生じることのないよう、万全を期してまいります。
 次に、在宅医療への支援についてでございますが、医療を受けながらも、できるだけ自宅や住みなれた地域で療養生活を送りたいというのは多くの都民の願いであり、地域における在宅での療養を支える体制を整備していくことは重要でございます。
 このため、都はこれまでも、在宅医療に取り組む医師向けの研修事業を実施するとともに、来年度は、医師、看護師等の医療従事者向けのマニュアルを作成するなど、一層の支援に取り組んでまいります。
 また、区市町村が地域の医療関係者や患者会等と協議しながら地域の実情を踏まえて取り組む在宅医療の充実策について、新たに創設する医療保健政策区市町村包括補助事業を活用して、きめ細かく支援してまいります。
 次に、医療保険者への支援についてでございますが、平成二十年度から導入される特定健康診査・特定保健指導が円滑に実施されるためには、各医療保険者において適切な特定健康診査等実施計画が策定されることが必要でございます。そのため、都は、都内全医療保険者に対しまして、計画策定に係る企画、立案、評価のための研修を実施することといたします。
 また、これまで区市町村が老人保健事業の中で蓄積してきました地域の医療機関等との連携のノウハウや、効果的な保健指導のためのガイドラインを医療保険者に提供してまいります。
 次に、特定保健指導に係る人材の養成についてでございますが、生活習慣病有病者及び予備群を減少させるためには、確実に生活習慣の改善に結びつく保健指導が重要でございます。そのため、都は来年度から、最新の科学的知見に基づいた指導技法を有する質の高い専門職の養成を行ってまいります。
 具体的には、特定保健指導に携わる医師、保健師、管理栄養士等を対象に、身体活動や食生活について個人の特性に応じた指導が行えるよう、医療保険者の代表により構成する保険者協議会や医師会などの関係団体と協力いたしまして、保健指導に関する専門的な研修を実施してまいります。
 最後に、生活習慣病予防の普及啓発についてでございます。
 都は、平成十七年度に東京都健康推進プラン21後期五か年戦略を策定しまして、糖尿病の予防を重点課題の一つとして位置づけ、生活習慣病対策を積極的に推進しております。
 今後とも、このプランに基づき、広く都民を対象に、特定健診等の意義、疾病の知識、生活習慣改善の重要性などについて理解を促進するため、適切な情報提供を行い、生活習慣病予防の普及啓発に努めてまいります。
 また、職場の健康管理については、地域ごとに、商工会や事業者の代表、医師会等のメンバーにより設置される戦略会議の中で、健康づくりのための具体的な実践方法を検討しまして、生活習慣病予防に対する意識の向上を図ってまいります。
   〔消防総監関口和重君登壇〕

○消防総監(関口和重君) 救急体制に関する二点の質問にお答えいたします。
 初めに、増加する救急需要に対するこれまでの取り組みについてのお尋ねですが、増加する救急要請に対しまして、東京消防庁では毎年、救急車の増強を図るとともに、救急車の適正な利用を促進するため、医療機関の案内やポスターの掲出、プロモーションビデオの放映等の各種広報活動を行ってまいりました。
 さらに、平成十七年度には、緊急性の低い転院、入退院や通院等におきまして、民間の患者等搬送車両や救命講習を修了した乗務員が乗務しているタクシー、サポートキャブの利用が促進されますよう、東京民間救急コールセンターを整備いたしました。
 これらの取り組みにより、平成十八年中の救急出場件数は三十年ぶりに前年を下回りました。
 次に、救急業務懇話会答申を受けての対策についてのお尋ねですが、昨年度の東京消防庁救急業務懇話会答申では、救急需要対策の一環として、救急現場における傷病者の緊急度、重症度に応じたトリアージ制度の必要性が示されました。
 本答申に基づき、東京消防庁では、東京都メディカルコントロール協議会と連携し、一一九番通報により出場した救急隊による容体観察の結果、救急車による緊急搬送の必要性について医学的見地から判断する基準を策定しているところであります。
 この基準により、例えば指先の軽微な負傷のような場合で、意識、呼吸、脈拍に異常がないなど、緊急搬送の必要がないと判断された傷病者に対しましては、現場で応急処置をした上で、必要により医療機関案内などを行い、傷病者自身による通院を促す救急搬送トリアージを、都民の理解を得ながら進めてまいります。