平成十八年東京都議会会議録第十七号

○議長(川島忠一君) 二十八番山口文江さん。
   〔二十八番山口文江君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○二十八番(山口文江君) 初めに、都政運営について伺います。
 知事は、オリンピックをてこに、今後明らかにする二〇一六年の東京の都市像を都市戦略と位置づけ、平成十九年度重点事業は、この長期的な都市戦略のキックオフとしています。
 生活者ネットワークは、これまでも、目指す都市像が示されないまま、政策の総合的、体系的な展開が弱いと指摘してきましたが、オリンピック招致に当たってようやく長期構想の必要性を認識されたのではないかと思います。オリンピックに向けて喫緊に取り組むべきとしている環境対策や都市基盤整備だけでなく、東京の未来を担う子どもたちが希望を持って生きられるよう、子育て、教育などについても、オリンピックと同様の強い意欲を持って、全局を挙げて取り組んでいただきたいと思います。
 重点事業に掲げられたそれぞれの事業を見ると、一つの局だけで対応できるものはほとんどありません。環境問題や子育て支援など、今求められている都政の課題は、一つの局、一つの分野、さらにいえば行政だけで解決できないことは明らかです。都民の視点に立って、行政の縦割りを乗り越えた政策展開が必要と思いますが、知事の見解を伺います。
 また、重点事業は、市民と行政のパートナーシップで取り組む必要があります。行政の施策が一方的なものになるのではなく、都民が都政への関心を高めるように、これまでやってきた成果をきちんと都民に示して施策を推進すべきと考えますが、所見を伺います。
 次に、認定こども園について伺います。
 就学前の子どもについては、幼稚園と保育園の二つの施策体系があり、幼保一元化、幼保一体化については、長く議論が行われる中で、二〇〇三年、地域のニーズに応じ、就学前の教育、保育を一体としてとらえた一貫した総合施設の設置を検討するという方向が示されました。この構想を具体化し、法制化されたものが認定こども園です。
 少子化問題、就労形態の多様化、待機児童への対策、子育て不安といった社会現象への対策として、都は既に認証保育所を独自の補助制度で実施し、待機児を減らすことには一定の効果を上げていますが、保育の質、保育料の適正化等については、まだ十分な理解を得られているとはいえません。保育に欠けるかどうかで子どもを区分するのではなく、今こそ子どもの最善の利益を優先し、子ども自身が育つ力を引き出すための教育、保育のあり方について根本的な議論が必要です。
 そこで、都は、就学前の保育、教育を提供する認定こども園についてどのように考えて取り組もうとしているのか伺います。
 いじめが原因と思われる子どもの自殺が相次ぎ、大きな社会問題となりました。東京都教育委員会では、今回の自殺予告に対して、緊急措置として二十四時間受け付けの専用電話を設置しましたが、多数の相談や情報が寄せられ、幸いに自殺に至る事例は生じませんでした。
 その後、教育相談センターでの電話相談に移行していますが、残念ながら時間も短く、フリーダイヤルではありません。民間では、平成十年ごろからチャイルドラインなどの電話相談が始まり、全国に広がっています。悩みを持つ子どもにとって多様な相談窓口が必要であり、子どもみずからが相談するには、当然無料にすべきです。
 一方、福祉保健局においては、平成十年から子どもの権利擁護専門相談事業を実施しています。小中学生を初めとして、年間の相談件数もかなりの数に上り、実績を上げていると聞いております。このような機関を常設してきた都の姿勢は高く評価されるものです。 そこで、子どもの権利擁護相談事業について、その成果を伺うとともに、今後、電話回線や電話相談員をふやすなど、機能をさらに強化し、総合的に子どもの権利を守るオンブズマンとして、その活動をもっとPRすべきではないかと考えますが、見解を伺います。 今回のいじめによる自殺への対応として、政府の教育再生会議が発表した緊急提言では、いじめを放置した教員は懲戒処分、加害者側には登校停止や社会奉仕などが挙げられていますが、本当にこのような対応でいいのでしょうか。子ども自身が解決する力をつけない限り、いじめによる自殺などを防ぐことは困難です。
 イギリスなどでは、中高生がピアカウンセリングを行い、いじめ防止に効果を上げているといわれています。同年代の若者が相談に乗る立場に立つことで、他人の気持ちを理解し、共感する力がついていくと考えられます。
 生活者ネットワークは、子ども自身が身を守る方法を身につけたり、嫌だという意思表示をするトレーニングのシステムを取り入れるよう提案してきましたが、大阪府教育委員会は、来年度から、いじめ防止対策として、暴力から身を守る力を引き出す教育プログラム、子どもエンパワーメント支援指導の導入を決めたということです。いじめによる自殺などの痛ましい犠牲者をなくすためには、対症療法だけではなく、根本的ないじめ未然防止対策が必要であると考えます。都としてどのように取り組んでいくのか伺います。
 最後に、エイズ対策についてですが、世界的に見ると、先進国といわれている国々ではHIV感染者が減少しているにもかかわらず、日本における感染者は年々増加しています。特に十代後半から二十代前半の若者の感染が拡大しています。昨年報告された感染者及び患者の報告数千百九十九件の約三五%に当たる四百十七件が東京の件数となっています。こうした状況に対して早急な対応が求められる東京都の役割は重要です。しかし、エイズ対策に係る都の予算は、ここ数年減少しています。
 都はこれまでも、ポスター、パンフレットなどの配布やインターネットによる情報提供などを行ってきていますが、特に十代など若い世代を対象として、正しい知識や感染予防の取り組みを進めることが求められています。そのためには、NPOなど民間団体との協働で、繁華街でのイベントや街角相談、マスコミを利用したPRなどのキャンペーンが必要と考えますが、見解を伺います。
 東京では、二十三区の全保健所、南新宿検査・相談室、多摩地域では三保健所でHIV感染の検査と相談に対応しており、検査件数、相談数も年々ふえています。病院で検査するのとは違い、無料の上、匿名で検査が受けられるため、多く利用されています。しかし、匿名ゆえに、判定が陽性となった人へのフォローは個人の意思に任されてしまい、感染ルートの判明や感染防止ができない状況です。
 そこで、感染が明らかになった人への対応として、告知の際に、二次感染を防ぐための対応、生活や健康管理の支援が必要ですが、見解を伺います。
 都議会において、行き過ぎた性教育の名のもとに政治が教育現場に介入し、必要最低限の性教育も萎縮させてしまいました。若者のHIV感染の増加は、正しい性の知識がないまま成長している子どもの現状を浮き彫りにしています。中学、高校での性教育が最も必要であり、エイズ対策の現場である福祉保健局との連携を深め、効果的なエイズ対策を進めるべきです。
 教育庁では、性感染症・エイズ予防の一環として、都立高校での新たな取り組みを実施していると聞いています。この実施状況と、今後の福祉保健局との連携も含めた対策について伺い、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 山口文江議員の一般質問にお答えいたします。
 行政の縦割りについての問題でありますが、かつて哲学者のヤスパースが、いかなる歴史もすべて重層的なものだということを申しました。重層的というのは、いろいろ解釈があるでしょうけれども、物事が単純じゃなしに複合的である以上に、その複合が複合に重なった重層性ということだと思いますけれども、私たち政治が扱っている現実も、あすになればきのうの歴史でありまして、つまり、私たちの扱っている現実も重層的なものであります。
 しかるに、我が国の役所では、長年にわたって官僚主義が縦割りの行政で続けられてまいりました。こうした縦割りの弊害を打ち破り、機動的・戦略的な行政運営のできる執行体制を構築するため、都では知事本局を設置いたしました。
 世界に先駆けてCO2半減都市モデルの実現を目指す環境対策や、仕事と子育ての両立を初めとする子育て支援など、重点事業は、まさに組織の壁を超え、縦割りを超えた、複合的、重層的に政策展開を図るためのものであります。
 今後とも、都は、現場を持つ強みを生かしまして、局をまたいで、あらゆる分野で重層的に効果的な政策を展開していきたいと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長中村正彦君登壇〕

○教育長(中村正彦君) 二つの質問にお答え申し上げます。
 いじめ未然防止に向けての今後の取り組みについてでございますが、いじめは決して許されないことであります。どの学校でも起こり得ると、こういう前提に立ちまして、学校教育に携わるすべての関係者が改めてこの問題の重大性を認識し、日ごろからいじめの兆候をいち早く把握し、迅速に対応していくことが重要でございます。
 十一月の八日から十二日まで実施しましたいじめ等問題対策室の緊急電話相談では、子どもや保護者からの相談のほかに、教職員の不適切な対応、家庭の教育力の向上の必要性など、さまざまな意見が寄せられました。
 今後、これまで東京都教育委員会が蓄積してきましたいじめ問題の解決の方策に加えまして、緊急相談の新たな相談内容等を整理、分析しまして、資料にまとめ、いじめの未然防止に向けて、教員研修だけでなく、保護者会等でも活用するよう働きかけてまいります。
 次に、都立高校の性感染症・エイズ予防についての取り組みですが、学校におきます性教育は、学習指導要領に基づき、発達段階に即して性に関する基礎的な学習内容を正しく理解させ、適切な意思決定や行動選択ができるよう充実していくことが重要であります。
 都教育委員会は、若年層のHIV感染者が増加している現状を踏まえまして、福祉保健局の協力を得まして、性教育の手引やエイズ理解・予防に関するパンフレットを作成、配布しまして、性教育、エイズ教育の充実を図ってまいりました。
 また、平成十七年度から、東京都医師会や東京産婦人科医会の協力のもと、希望する都立高校に産婦人科医を派遣しているところでありますが、今後も引き続きこの事業を推進するとともに、今年度新たに、保健所と都立高校との連絡会を地区別に開催するなど、地域保健機関との連携を強化した取り組みを進めてまいります。
   〔知事本局長山口一久君登壇〕

○知事本局長(山口一久君) 重点事業の進め方についてのご質問でございますが、重点事業につきましては、昨年、いわゆるPDCAサイクルを強化するため、三カ年の展開をアクションプランとして示し、毎年度検証を経て改定することといたしました。
 そこで、今回の平成十九年度の重点事業は、十八年度重点事業のうち可能なものについて検証を行い、実績と評価を明らかにしたところでございます。
 都といたしましては、引き続き全庁的な視点に立って進行管理を行っていくとともに、こうした仕組みをさらに充実し、重点事業を着実に推進してまいります。
   〔福祉保健局長山内隆夫君登壇〕

○福祉保健局長(山内隆夫君) 子ども対策など四点の質問にお答えいたします。
 まず、認定こども園に対する取り組みでございますが、認定こども園は、就学前の子どもに対する教育及び保育の一体的な提供や、地域の子育て支援の機能を担うものであり、地域の多様な保育、教育ニーズに柔軟に対応することが期待されております。
 こうしたことから、都は、認定こども園が都民ニーズにより的確に対応したものとなるよう独自の認定基準を定めるとともに、その機能を十分に発揮できるよう必要な財政支援を行っていく予定でございます。
 次に、子どもの権利擁護専門相談事業についてでございますが、この事業では、子どもや親からの悩みや訴えを、相談員がいわゆるフリーダイヤルで直接受けるとともに、いじめや体罰などの深刻な相談に対しては、専門員が個別の支援を行っております。
 相談件数は、平成十年度の事業開始以来、約一万二千件に上っており、その約八割は子ども本人からの相談であります。すべての相談のうち、専門員が実際に家庭や学校への訪問等を行い、問題解決に当たった困難ケースは約三百件となっております。
 都では、毎年、都内の小学校高学年から中学生、高校生を対象に、事業を紹介したPRカードを配布するとともに、学校や関係機関へリーフレットを送付するなど、積極的な周知に努めておるところでございます。
 次に、エイズに関する普及啓発についてでございます。
 HIVの感染拡大を防止するには、特に感染者の報告数が増加している若い世代を対象とした普及啓発が重要でございます。
 このため、都ではこれまでも、十代、二十代の若者がエイズに対する理解を深め合うピアエデュケーションや、エイズ予防月間を中心としたキャンペーンなどを実施してまいりました。加えて、本年の六月から八月まで、池袋に、地元区やNPOなどの協力を得て、若者がエイズについて主体的に考え、学び、交流する普及啓発の拠点を設置したところでございます。
 今後、こうした拠点の充実を図るとともに、予防に関する情報発信を繁華街で実施するなど、若者を対象としたより一層効果的な普及啓発の実施に努めてまいります。
 最後に、HIV検査についてでございますが、保健所などにおける検査では、結果の告知の際、医師や保健婦がカウンセリングを実施しております。特に、感染が明らかになった方に対しては、不安を和らげるよう留意しながら、エイズに対する正しい知識や治療方法、二次感染の防止を含めた生活上の注意などについて十分に理解できるよう、きめ細かく対応しております。また、医療機関で確実に受診できるよう必要な支援を行うとともに、悩みや差別などについて相談できる機関や団体の情報も提供しております。
 今後とも、検査を受けた方々の状況に応じて、助言、指導を適切に行い、特別区とも連携し、HIVの感染拡大防止と感染者の健康管理を支援してまいります。