平成十六年東京都議会会議録第九号

○議長(内田茂君) 三十五番小松恭子さん。
   〔三十五番小松恭子君登壇〕

○三十五番(小松恭子君) ハンセン病国家賠償請求訴訟で、熊本地裁が強制隔離政策の誤りを厳しく断罪し、国と国会の責任を全面的に認める判決が確定して三年がたちます。しかし、ハンセン病回復者の奪われた人生は余りにも重く、人権回復と社会復帰には厚い壁が何重にもあります。
 東京には、私の住む東村山に国立療養所多磨全生園があり、約四百五十人の方々が暮らしており、平均年齢は七十七歳。手厚い支援がなければ、社会復帰はいきません。この方々の人生がどんなにつらい、悲しいものだったか、知事は想像できますか。
 ハンセン病は、感染力が弱い病気で、感染しても発症することはほとんどなく、戦後は薬で治るようになりました。ところが、日本では、らい予防法が廃止された一九九六年まで、百年にもわたり、世界で例がない強制隔離政策が続いたのです。
 すべて患者は家族とふるさとから引き離されて、全国十五カ所の療養所に終生収容され、自分の名前さえ奪われ、偽名を強要され、子どもをつくらせない断種手術や人工中絶が強制されました。戦前戦中は、国民総動員型で患者を探し出す、無らい県運動を国と自治体が率先して推進した、このような政策が怖い病気というイメージを根づかせ、差別と偏見をつくったのです。全生園の納骨堂を案内していただいたとき、僕たちは死んで骨になってもふるさとへ帰れない。だから納骨堂があるんだよといわれた一言、私は忘れることができません。
 ところが、都の対応は、らい予防法時代とほとんど変わらず、余りにも不十分です。他県では前進が始まっています。私が訪ねた熊本県は、ハンセン病療養所菊池恵楓園入所者の健康、生活実態、県に対する意見、要望の調査を行い、県営住宅への優先入居、社会復帰支援相談会、県民意識アンケート、小中高校生の啓発教育資料集の作成、恵楓園への訪問交流事業など実施しています。潮谷知事は、毎年、恵楓園を訪ね、ハンセン病対策予算を、地裁判決前の百二十万円から十倍以上の千五百万円にふやしています。これに対し、都の予算は二百万円です。
 私は、次の二点を石原知事に求めます。
 第一に、全生園を訪問し、世界に例がない国家による人権侵害を受けた被害者の方々の要望をじかに聞くことです。副知事を行かせたからといいますが、関東近県の知事はほとんど全生園に来ています。ある知事は、県人会と懇談をし、県出身の寝たきりの方の病室を見舞い、形だけの謝罪ではなく、心から見舞ってくれたのがうれしかったと喜ばれました。都知事にぜひ来てほしいという全生園の方々の切なる願いに、ぜひともこたえてください。
 第二に、ハンセン病対策事業の全面拡充です。人権回復と社会復帰に向け、都がやるべき課題は、住宅、医療、福祉、教育など多くの分野にわたっており、今までの延長線上でない政策転換を行う知事の決断が求められています。知事、お答えください。
 次に、具体的課題について提案します。
 まず、社会復帰を希望する方の住まいの確保。都は、五十歳未満のハンセン病療養所入所者等の単身者に都営住宅の応募資格を認めているだけで、対象者はほとんどいません。都営住宅への優先入居制度を直ちに検討していただきたい。
 地域の医療機関にハンセン病の知識を持った医師、看護師が少ないことや、医療費の負担も切実な問題になっています。医療機関に対する研修事業及び香川、山口県が実施している医療費補助制度の実施を求めるものです。
 差別、偏見をなくす取り組みも重要です。都教委の人権教育プログラムでは、HIV等という表題の中で、ハンセン病に触れているだけです。直ちに充実するとともに、独自の副教材や教師向け指導書を作成すべきです。さらに、都が作成したリーフレットを活用し、広く都民に啓発を行うべきと考えますが、どうか。また、全生園にある全国唯一のハンセン病資料館をPRし、都民の啓発の場として活用することを提案します。お答えください。
 あわせて、ハンセン病という病気について、都の認識を伺います。
 全生園入所者及び社会復帰者の実態と要求調査は欠かすことができません。都は、東京出身者の要望は聞いていますが、他県出身者も含め、全生園の入所者全員が東京に住民票がある都民であり、都として支援が必要です。見解を伺います。
 最後に、十一万坪という広大な敷地を持ち、緑豊かな全生園を人権の園として残すことを国に要望するとともに、都独自の努力を求めるものです。お答えください。
 次に、業種別の産業振興、とりわけ不況の直撃を受けている中小建設業の振興について伺います。
 都内建設業は、バブル崩壊後の長期の不況のもとで、民需の減退が進み、過当競争によるダンピングや大手ゼネコンによる下請いじめなど、中小業者の経営と、そのもとで働く建設労働者の生活は本当に深刻です。東京都の生活密着型公共事業からの撤退や、採算割れ前提の低価格入札制度の導入による影響も顕在化しています。仕事はちゃんとしたのに、代金が支払われない。低価格入札だから我慢してくれと単価を値切られ、賃金が払えないなど、業者の皆さんの相談はいずれも深刻です。そこで、業者の皆さんから寄せられた切実な要望に絞って提案を行うものです。
 まず、建設業の振興を業種別産業対策として進めることです。建設業は、民需と官公需があり、複雑な下請構造や、労働者が不安定な雇用状態に置かれていることなど、他の産業とは違った要素を有し、その実態に合わせた振興策が求められるからです。ところが、業界の方が東京都に相談したくても窓口がありません。というのは、産業労働局が三年前の組織改正に当たって、皮革関係など一部を除いて業種別支援の仕組みを廃止してしまったからです。これは、産業振興にとって重大な後退といわざるを得ません。
 そこで、原点に立ち返って、建設業を初めとする業種別振興を都の産業政策の柱の一つとして位置づけ、必要な体制を確立すること、建設業の振興プランを策定することを提案するものですが、どうか。
 また、厳しい経済環境のもとで、建設業界は生き残りのための技術の更新や経営の合理化などの経営革新を図ることが緊急の課題となっています。このため、ある県では、全国に先駆けた新たな産業構造の構築を目指して、建設産業構造改革支援プログラムを策定し、中小建設業者の経営革新による競争力強化と、業種転換の場合の支援などのプログラムを策定し、支援委員会を立ち上げるとともに、本庁や出先事務所ごとのチームによる支援などを進めています。東京都も建設業の経営革新のための支援プログラムを策定し、必要な支援に踏み出すことを求めるものです。知事の見解をそれぞれ伺うものです。
 以下、対策が急がれる幾つかの問題について伺います。
 第一に、中小企業に対する官公需の発注をふやし、公共入札におけるダンピングを是正することは、焦眉の課題となっています。
 都の最近の公共事業の発注を調べてみると、大手ゼネコンが受注する大規模工事の場合の落札価格の多くは、予定価格の上限に張りついており、平均でも九五%であるのに対し、多数の業者が応募する中小業者の場合には、業者間のたたき合い、ダンピング競争などによって低く抑えられ、中には六〇%台という最低落札価格を大きく下回るもの、くじ引きによる業者の決定も少なくありません。これによって連鎖倒産、下請代金や賃金の引き下げと未払いなどを日常化させる要因となっているのです。また、安上がりの発注は欠陥工事を助長しかねないという危惧の声も上げられています。
 都市整備公団は、落札予定最低価格は積算価格の八五%とし、中小企業庁は積算価格の原価率を九〇%と見込むなど、適正な入札のための措置を行っています。都としても、低入札価格調査制度による工事の追跡調査を行い、第三者の評価機関による適否の判断を行うこと、同時に、少なくとも採算割れが確実な低価格入札をやり直すことなどは直ちに実施すべきと考えますが、いかがか。
 中小企業の受注機会の拡大について、最近、東京都の公共工事は、大型化とともに、効率化の名により分離分割発注の縮小が進められ、中小業者の参入の機会が減少しているといわれています。そこで、都発注の工事について、分離分割発注を堅持し、拡大することを求めるものです。答弁を求めます。
 さらに、中小企業の受注機会の多い生活密着型公共事業の拡充は、東京都がその気になればすぐにできるものです。しかし、石原知事は、都市再生路線のもとで、大企業が受注を独占する大規模公共事業に予算が優先配分され、都営住宅の建設や福祉施設、生活道路などを大きく後退させていることについて、改善を求める声が上げられています。この声にこたえるべきではありませんか。見解を伺います。
 民需を拡大する上では、私の地元市、東村山、東大和、武蔵村山市などが実施している住宅リフォーム助成や、静岡県が始めた個人住宅の耐震補強助成などが、利用者に喜ばれるだけでなく、町場の建設業者の仕事確保の上からも有効な方法です。
 これらの要望にこたえ、住宅改修、補強の助成に踏み出すよう、知事の決断を求めるものですが、どうか。答弁を求めます。
 最後に、工事の丸投げ、ブローカーの介在、請負代金の未払い、採算割れ工事の押しつけ、契約不履行など、下請問題の解決も業者の切実な要望です。そこで、元請企業に末端までの下請企業の登録と適正な監督指導、文書による契約書の作成などを義務づけること、実際には仕事をせず仲間で利益を横取りする、いわゆるブローカーを排除すること、現金支払いで行われている官公需について、下請業者への支払いを手形決済をやめさせ、現金支払いとすることなどの改善に踏み出すこと、加えて、都としてこれらのルール化を図ることや、下請相談窓口を設置することなどを提案するものです。答弁を求め、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 小松恭子議員の一般質問にお答えいたします。
 多磨全生園への訪問についてでありますが、入所者の皆様に対してはこれまで、都の職員が定期的に訪問をするなどして、都としてすべきことはしてまいっております。
 また、基本的にはこれは国の施設でありまして、しかし、いわく都から国に取り次ぐべきことがあれば、その労を決していとうものではございません。
 今、都の責任においてすべきことがあって緊急に訪問しなければならない状況とは考えておりません。
 次いで、業種別振興及び建設業等の振興についてでありますが、平成十一年の中小企業基本法の改正は、中小企業を弱者として画一的にとらえて一様に保護、育成するのではなく、その強みを我が国経済のダイナミズムの源泉ととらえておりまして、中小企業政策を大きく転換いたしております。
 都も国と同様の考え方のもとに、経営革新や創業等、みずから頑張る中小企業者などの前向きな事業活動に対し支援をしてまいっております。
 業種別振興を改めて産業政策の柱とする考えはございません。また、建設業振興プランを策定するつもりもございません。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) ハンセン病患者等にかかわる人権の教育についてのお尋ねでございますが、学校教育におきまして、児童生徒に人権尊重の理念を正しく理解をさせ、さまざまな人権課題について認識させることは重要でございます。
 都教育委員会としましては、東京都人権施策推進指針に基づき、人権教育プログラム、これは学校教育編でございますが、その中にハンセン病患者等への理解を図るための指導事例を掲載しまして、今後の学習指導に継続して活用できるよう、都内公立学校の全教員に配布してまいりました。
 今後とも、この指導事例を活用しまして、研修会や学校訪問等を通して、ハンセン病患者等への理解について啓発を図り、人権教育の一層の推進に努めてまいります。
   〔健康局長平井健一君登壇〕

○健康局長(平井健一君) ハンセン病対策につきまして、六点の質問にお答えいたします。
 まず、人権回復と社会復帰に向けた政策についてでございますが、ハンセン病患者の強制隔離や外出制限などを定めた、らい予防法の存在自体が、差別、偏見を生み出したことから、基本的には国の責任において対応すべき課題と考えております。
 都は、今後とも、ハンセン病の正しい知識の普及啓発に努めてまいります。
 次に、地域の医療機関に対する研修事業や医療費助成についてでございますが、これらの課題につきましても、歴史的な経緯から、国の責任において取り組むべきものと考えております。
 次に、ハンセン病に対する認識についてでございますが、この病気は感染力が弱いため、日常生活での感染はほとんどございません。それにもかかわらず、らい予防法の廃止までの間、国は、患者の隔離等を主体とした政策を継続したため、差別、偏見を生み、患者、家族に多くの苦しみを与えたものと考えております。
 次に、多磨全生園入所者等への調査についてでございますが、多磨全生園には、毎年、都の職員が直接訪問いたしまして、都出身の入所者の方の要望等を伺っております。
 また、既に療養所を退所した方々へは、相談窓口を設置し、申し出があれば相談に応じる体制をとっております。
 なお、退所した方々への調査につきましては、プライバシー保護の観点から適切でないと考えております。
 次に、多磨全生園入所者に対する都としての支援についてでございますが、ハンセン病対策は、過去の歴史的経緯から、基本的には国が対応すべき問題と考えております。
 都は、全国の療養所に入所している都出身者の方々に対しまして、郷土訪問等社会交流事業を行うなど、引き続き支援を行ってまいります。
 最後に、多磨全生園を人権の園として残すことについてでございますが、多磨全生園は国立の施設でございますので、多磨全生園の今後のあり方につきましては、国が適切に対処すべきものと考えております。
   〔都市整備局長梶山修君登壇〕

○都市整備局長(梶山修君) 三点のご質問にお答えいたします。
 ハンセン病療養所入所者等の都営住宅への入居についてでございますが、その入居資格につきましては、既に五十歳未満の者でも単身で都営住宅に入居できることとしたほか、収入基準も心身障害者や高齢者と同じ水準まで引き上げを行ったところでございます。
 今後とも、都営住宅への入居が適切に行われるよう努めてまいります。
 次に、住宅リフォームや耐震補強への助成についてでございますが、住宅リフォームにつきましては、これまでマンションの共用部分の改良工事に対して助成を行ってきました。
 また、耐震補強につきましても、木造家屋の簡易診断法の周知、耐震診断機関の紹介、都民への普及啓発にこういうことで取り組んでまいりました。
 お話しの住宅リフォームや耐震補強に関する助成は、既に多くの区市において実施されていることから、今後ともこうした制度の活用が図られていくことが重要と考えており、都として、独自の制度を新たに創設する考えはございません。
 最後に、下請問題における指導についてでございますが、都はこれまで、建設業法に基づき、施工体制台帳や施工体系図の作成、書面による契約の締結、一括下請禁止など、請負工事の適正化に取り組んでまいりました。
 また、請負契約についての紛争は、東京都建設工事紛争審査会において、あっせん、調停及び仲裁を行っております。
 一方、下請代金の支払いについては、手形決済も認められていることから、現金のみでの支払いに限定することは困難であると考えております。
 今後とも、建設業法の趣旨にのっとり、発注者など関係機関との連携を図り、適切に対応してまいります。
   〔総務局長赤星經昭君登壇〕

○総務局長(赤星經昭君) ハンセン病に関します二点の質問にお答え申し上げます。
 まず、ハンセン病や回復者の方々への理解を促進するための取り組みについてでございますが、さきの定例会で既に答弁申し上げたとおりでございますが、これまで「広報東京都」やテレビの人権に関します特別番組で取り上げましたり、講演会の開催、本年一月には新たにリーフレットを作成するなど、幅広く啓発を行っております。
 今後とも、都民や企業に対しまして効果的な啓発に努めてまいります。
 次に、ハンセン病資料館についてでございますが、ハンセン病や回復者の方々に対する理解を深めていただくために、都民を初め多くの方々が、国内外の豊富な資料を展示しております高松宮記念ハンセン病資料館を訪れることは意義があるものと考えます。
 このため、リーフレットなどで見学の案内をしておりますが、今後とも、資料館と連携しながら、都民へのPRに努めてまいります。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 建設業に対する支援プログラムについてお答えいたします。
 知事から先ほど答弁申し上げましたとおり、ご要望にはおこたえできません。
 都は、今後とも、建設業に限らず、みずから頑張る中小企業の意欲ある取り組みに対し、経営革新支援事業等を通じて必要な支援を行ってまいります。
   〔財務局長櫻井巖君登壇〕

○財務局長(櫻井巖君) 中小建設業の振興に関する三点のご質問にお答えいたします。
 まず、公共工事における低入札価格調査制度の取り組みについてでありますけれども、都は、低入札調査対象工事において調査基準価格を下回った応札企業に対し、低入札価格審査委員会を設け、積算内容、施工体制及び経営状況など、履行能力の調査を行い、落札決定の判断を行っております。
 これまでの調査では、低入札で応札する案件は、資材や資金の調達など、経営者の経営努力の結果によるものであります。また、都は、工事の施工管理におきましても成績評定制度を設けるなど、適正な履行の確保に努めておりまして、低入札価格調査の対象工事に現在までのところ特に問題はなく、第三者の評価機関による適否の判断を求める必要はないものと考えております。
 次に、公共工事の分離分割発注についてでありますが、都は、いわゆる官公需法に基づきまして、中小企業の受注機会を確保するため、積極的に中小企業への発注を行っており、その件数は全発注件数の約八割に及んでおります。
 これまでも、分離分割発注、中小企業を構成員とする共同企業体及び事業協同組合などの活用によりまして、縮小しているということはございません。
 今後とも、分離分割発注を初め、こうした取り組みに引き続き努めてまいります。
 最後に、公共事業についてでございますが、これまでも、生活、福祉関連事業などを含め、事業の緊急性や必要性に応じまして、さまざまな都市基盤整備に着実に取り組んできております。
 都財政が依然として厳しい状況にある中、将来にわたって都民生活を安定的に支えるためには、都民が真に必要とする事業を選択し、限りある財源をそこに重点的、効果的に配分することが重要であります。
 今後とも、都市基盤の整備に当たっては、こうした考えのもと、都民ニーズにこたえまして、的確に進めてまいります。

○議長(内田茂君) この際、議事の都合により、おおむね二十分間休憩いたします。
   午後三時三十六分休憩

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