平成十六年東京都議会会議録第三号

○議長(内田茂君) 三十番柿沢未途君。
   〔三十番柿沢未途君登壇〕

○三十番(柿沢未途君) まず、目の成人病ともいわれる緑内障に対する都の対策について伺います。
 緑内障は、タイプによっても異なりますけれども、眼圧の上昇などにより視神経に異常が起きるため、視野がだんだん欠けてくる病気です。しかも、一度失われた視野はもとには戻らないため、放っておけば失明につながる恐ろしい病気でもあります。
 プライベートなことで恐縮ですが、私の母も、今から十年余り前に緑内障を患っています。医者にかかるのが遅かったため、左目は完全に失明、右の視野も九〇%が欠けるという深刻な事態になってしまいました。当時、私はまだ高校生でしたけれども、緑内障という病名も全く知られていませんでしたので、最初、白内障のように、手術をすれば治るんだろうというふうに思いました。ところが、一度失った視野はもとには戻らない。完全な視覚障害者です。白いつえを持って、手帳を持ってくださいというふうにいわれて、頭の中が真っ白になったことを思い出します。
 こんなことになってしまったのも、緑内障と気がつくのがおくれたからです。厄介なことに、緑内障には、目の痛みなど自覚症状がほとんどありません。視力が悪くなるのと違って、視野が欠けていくというのは、こうやって片目に手を当てていただければわかりますけれども、視力が落ちるのとは違って、なかなか本人が気づきにくいものです。視野欠損が広がってから、初めて異常に気がつくというケースも多いのです。私の母も、緑内障と診断される直前まで、自分で車を運転していました。今から考えると恐ろしいことです。
 発見のおくれが失明という最悪の事態につながったみずからの経験を踏まえて、私の母が中心となって、平成十二年に緑内障フレンド・ネットワークという団体ができました。緑内障の患者団体であるとともに、緑内障早期発見のためのキャンペーンを行っております。
 日本全国で、緑内障患者は約三百万人いるといわれています。日本緑内障学会が二〇〇〇年から二〇〇一年までの間に行った広範な疫学調査によりますと、緑内障を患っている人は、四十歳以上の実に十七人に一人に上ることがわかりました。さらに七十歳以上では、何と七、八人に一人が緑内障患者であるということで、緑内障が、中高年ならだれでもかかり得る病気だということが改めて認識をされました。
 さらに、緑内障は、糖尿病網膜症と並んで中途失明の二大原因とされており、年間で約二千人が、この緑内障が原因で失明いたしております。ところが、日本では、緑内障患者のうち実際に眼科で治療を受けている人はわずか二〇%にすぎません。五人のうち四人が、自分が緑内障を患っていることにすら気づかないまま、医者にもかからず、放置されているのです。アメリカでは五〇%が治療を受けているということですから、日本の二〇%という数字は著しく低いものといわざるを得ません。
 先ほど申し上げたように、日本全国では、緑内障の患者数は約三百万人といわれております。単純計算ですが、都内には三十万人もの緑内障患者がいることになります。そして、その八割が今も治療を受けないまま放置されていることになります。
 こうした状況を、都民の健康を守る立場として、都はどのように受けとめているかを、まずお伺いいたします。
 さて、緑内障フレンド・ネットワークのおととしの調査によれば、都内の自治体で緑内障を見つけるための検査を行っているのは、五区三市の合わせて八自治体だけだそうです。さらに多くの自治体で緑内障の検査が行われるようになれば、緑内障の早期発見がより進むものと期待されます。
 しかし、こうした自治体が行っている緑内障検査の方法は、いずれも眼圧検査や視野検査、眼底写真による検査であり、最近では、その有効性に疑問が持たれつつあります。特に、多くの自治体で行われている眼圧検査については、先ほどの日本緑内障学会による疫学調査の結果、緑内障患者の何と半数以上が正常眼圧緑内障であるという調査結果が出ていることから、眼圧検査では、緑内障を発見するスクリーニング検査の役割を果たせないということが明らかになっています。
 正常眼圧緑内障を含めた緑内障のスクリーニング検査については、これまで適切な実施方法が見当たらないことが課題となってまいりましたけれども、最近では、網膜にレーザーを当てて神経線維層の厚みを調べるという方法で、わずか一秒足らずで緑内障の可能性があるかどうか検査できるという新しい検査機器も開発をされているところです。
 こうした最新の検査機器を導入するなどして、都民を対象とした緑内障のスクリーニング検査を早期に行うべきだと考えますが、所見を伺います。
 都は、都立病院という医療の現場を持っています。中高年のだれもがかかり得る病気であり、中途失明につながるリスクの高い緑内障について、最新の機器の導入を含めて診療体制の充実を目指すべきと考えますが、所見を伺います。
 今、中途失明の問題が世界的にクローズアップをされています。WHO、世界保健機関も、二〇二〇年までに全世界から中途失明をなくそうという、ビジョン二〇二〇というプロジェクトをスタートさせています。そんな世界的潮流の中で、この先進国である日本で、中途失明のリスクが高い緑内障の患者の五人に四人が、自分が緑内障であることも気がつかないで放置されているのは、非常に恥ずかしいことではないでしょうか。
 何度もいうようですけれども、緑内障は早期発見、早期治療が決定的に重要です。発見がおくれて失明という最悪の事態に至った私の母のような人をつくらないためにも、都が緑内障対策に本格的に取り組むよう強く要望しまして、次の質問に移ります。
 次に、新たな住宅施策の展開について伺います。
 都の住宅局といえば、都営住宅の供給、管理を主として行ってきました。しかしながら、今や都内の住宅の総戸数は五百六十七万戸と、総世帯数五百万を既に一割以上も上回っています。今後、世帯数がさらに減少していくことなどを考えますと、都営住宅の直接供給を中心としたこれまでの住宅政策を根本的に転換して、量的には住宅ストックの九割を占めていながら、質の面では十分とはいえない民間住宅部門に対する施策を積極的に展開していくことが重要です。
 そうした意味では、今回、民間賃貸住宅に対する都独自の取り組みとして、賃貸借にかかわる紛争防止のための新たな条例を今定例会に提案し、安心して貸し借りのできる賃貸住宅市場の整備に乗り出したことは大いに評価できるところです。
 そこで、まず、新たな住宅政策を展開する上で、今回の条例制定にどのような意義があるのか、知事の所見を伺います。
 昨年から知事は、今度は住宅をやる、質の高い住宅を大手より二、三割安くやってみせるという発言をして、広くて質がよく、安価な民間住宅を供給するための仕組みづくりに意欲を示しています。これを受ける形で、都は持ち家に対する施策として、平成十六年度重点施策として、東京の住まい向上作戦を展開することとしております。
 まずは戸建て住宅について、良質で安価な住宅を供給する取り組みを行うということですけれども、どのような取り組みを考えているのか、お伺いをいたします。
 また、東京の住まい向上作戦では、良質な中古住宅の流通促進を掲げています。都内における中古住宅の流通量は、毎年一万三千戸にすぎず、新築住宅の八万六千戸に比べて大幅に少なくなっています。アメリカやヨーロッパでは新築住宅の何倍もの中古住宅が流通しているのと比べれば、中古住宅のストックが活用をされていないことは明らかです。これには、中古住宅の構造や設備の状態、修繕やリフォーム等の実施状況など、中古住宅に関する情報が入手しづらいため、買い手である消費者が中古住宅の品質に不安を抱いていることなどが背景にあるといわれています。
 中古住宅の流通が進まないせいもあって、日本の住宅の平均寿命はわずか三十年足らずにとどまっています。どうせ売れないからといって中古住宅をどんどん取り壊して、新築住宅をどんどんつくり続けているわけで、これは経済性の観点からだけではなくて、環境負荷の面からも大変問題があるというふうに考えます。
 そこで、今後、中古住宅の流通促進に向け都はどのように取り組んでいくのか、お伺いをいたします。
 また、中古住宅の市場を活性化させるには、それだけ長もちする良質な住宅をつくっていかなければなりません。建物の体を外側から断熱材で覆う外断熱工法は、建物体の温度変化が少ないことなどから建物の劣化が少なく、また、結露の防止や室内環境の快適化に有効であるということがいわれております。しかし、日本においては、壁の内部に断熱材を充てんする内断熱工法が主として行われており、外断熱工法は余り普及をしておりません。外断熱工法によって、たとえイニシアルコストが多少割高になったとしても、建物の寿命が大幅に延びるということを考えれば、この工法を採用していく意義があると考えます。
 このように、外断熱工法は内断熱工法と比べて有効性があると思いますが、都の所見をお伺いいたします。
 次に、公共工事の資材価格調査の見直しについて伺います。
 この問題については、昨年二月の都議会本会議の私の一般質問において、公共工事の予定価格が高過ぎることが、丸投げによる利益の中抜きの温床となっていること、そもそも予定価格の積算のベースとなっている資材単価が市場の実勢より大幅に高くなっていること、そうした高い資材単価をもたらしているのが、国土交通省などが所管する二つの財団法人が事実上独占をしている資材単価の市場調査であることを指摘いたしました。その上で、都として二つの財団を通さない独自の単価調査を行い、高過ぎる資材単価を実勢に近づけることを提案いたしました。その後、この二つの財団法人、建設物価調査会、そして経済調査会は、まさにその公共工事の資材価格調査業務をめぐって談合を繰り返していたとして、昨年六月、公正取引委員会から排除勧告を受けています。
 これを受けて、国や都道府県は、二つの財団法人を指名停止とする措置をとりました。ところが国は、二つの財団が指名停止になっている期間には発注そのものを行わないなどの方法で、今も、談合をした二つの財団にほぼ事実上の独占状態を続けさせているのです。結局、指名停止の期間中に、この二つの財団以外の業者が国による単価調査業務を受注したケースは、何と一件もなかったということです。指名停止処分そのものを形骸化させるような国の行動は大変問題であると私は思います。
 都でも、昨年七月二十九日から六カ月間の指名停止処分を先ほどの二つの財団に対してとったと聞いております。この件については、昨年の一般質問でも、最大のハード部局として建設局長の見解を伺いましたので、今回も、建設局長である都技監の見解を伺います。
 先ほど見たように、国が今も二つの財団にほぼ事実上の独占状態を続けさせている中、都は二つの財団の指名停止の期間中どのように対応したか、伺います。
 また、公共工事の資材単価を市場の実勢に近づけるために、今後、都としてどのように取り組んでいくのか、これを伺って、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 柿沢未途議員の一般質問にお答えいたします。
 民間賃貸住宅に係る条例の政策的な意義についてでありますが、住宅が量的に充足された現在、住宅に関する政策の基本的方向は、市場を活用し、多様化した都民の住宅ニーズに的確に対応していくことだと思います。
 今回の取り組みは、都の全世帯の四割が居住する民間賃貸住宅を対象に、現場を抱える都が、具体的事例を踏まえて実効性のある条例を提案し、賃貸借をめぐる紛争を未然に防止するためのものであります。
 今後とも、住宅市場が円滑に機能するための仕組みづくりなどによりまして、市場の整備、誘導を図り、総合的な住宅政策を展開していくつもりでございます。
 その他の質問については、技監及び関係局長から答弁いたします。
   〔東京都技監小峰良介君登壇〕

○東京都技監(小峰良介君) 公共工事の資材価格調査についての二点の質問にお答えいたします。
 まず、価格調査について、国が所管する財団法人の指名停止期間中の都の対応についてでございますが、都は今年度独自の資材価格調査を実施するに当たり、お話しの指名停止した二つの財団法人を除き民間調査会社に発注することにいたしました。
 委託契約に当たりましては、民間調査会社の新規参入を促進し、競争性を一層向上させるため、事前に業務内容説明会やアンケート調査を実施し、希望制指名競争入札方式を採用いたしました。その結果、民間調査会社が現在調査を実施中でございます。
 次に、価格調査に関する今後の取り組みについてでございますが、都独自の価格調査は、市場価格を公共工事の資材単価に反映していく上で重要な調査でございます。第二次財政再建推進プランにおいても、コスト管理の徹底やコスト縮減を図る観点から、都独自の調査の実施が位置づけられております。
 今後とも、市場の動向を的確に把握していくため、民間調査会社の参入を促進し、競争性のある調査を実施してまいります。
   〔健康局長平井健一君登壇〕

○健康局長(平井健一君) 緑内障について二つのご質問にお答えいたします。
 まず、緑内障についての認識でございますが、緑内障は中高年の有病率が高く、失明した場合、精神的な苦痛に加えまして、ご家族を含めた日常生活に及ぼす影響も大きいものでございます。緑内障は、早い段階で発見し、適切な治療を行うことによりまして、その進行をおくらせることができますが、自覚症状がないため、治療を受けていない方も多いといわれておりまして、早期発見、早期治療が重要であると考えております。
 次に、緑内障のスクリーニング検査についてですが、緑内障の検査機器につきましては、かつては精度が十分でなく、緑内障を発見できない場合も多かったのでございますが、ご指摘のとおり、最近、性能が向上してきていると聞いております。
 緑内障の早期発見の重要性につきまして、引き続き都民への普及啓発に努めますとともに、検査体制を含め、早期発見に向けた有効な方策を幅広く検討してまいります。
   〔病院経営本部長碇山幸夫君登壇〕

○病院経営本部長(碇山幸夫君) 都立病院における緑内障の診療体制の充実についてでございます。
 緑内障により失われた視野や視力は回復が困難であることから、治療をできるだけ早期に開始し、病勢の進行を防止していくことが極めて重要でございます。眼圧の変化や視野狭窄などの症状を診断いたしまして、適切な治療を行うために、必要な機器の整備等も含めまして、診療体制の充実に向けた検討を行ってまいります。
   〔住宅局長高橋功君登壇〕

○住宅局長(高橋功君) 住宅政策につきまして、三点のご質問にお答えをいたします。
 最初に、良質で低廉な戸建て住宅を供給する取り組みについてでございます。
 市場における戸建て住宅の供給は、設計、資材調達、施工など生産過程の各段階における合理化のおくれなどによりまして、都民が求める品質や価格を実現できていない状況にございます。したがいまして、住宅の仕様の標準化、資材流通経路の短縮、工程管理の高度化などを進めていくことが必要でございます。
 都といたしましては、品質の確保とコストの縮減を図るための合理的な住宅生産の仕組みづくりに向けまして、鋭意検討を進めてまいります。
 次に、中古住宅の流通促進についてでございますが、多様化しております都民の住宅ニーズに的確に対応していくためには、中古住宅の流通を促進いたしまして、住宅の選択の幅を拡大していくことが重要であると考えております。しかしながら、中古住宅は、購入に際しまして住宅の質や状態がわかりにくいことに加えまして、購入後の保証の仕組みが不十分であることなど、課題を抱えておりますことから、流通が進まない状況にございます。
 そのため、都は、関係団体によります連携組織の立ち上げなど、こうした取り組みによりまして中古住宅性能評価・保証制度の活用を促しますとともに、融資面での優遇を働きかけるなど、中古住宅の流通促進に向けた取り組みを進めてまいります。
 最後に、外断熱工法についてでございますが、この工法は、外壁などが直接外気に接する内断熱工法に比べまして、建物の体の外側を断熱材で覆うことにより体の劣化が進みにくいとされております一方で、コスト面などに課題があるともいわれております。また、省エネルギーという面におきましては、冷暖房の終了後も効果が継続しやすい一方、開始時には、冷暖房の効果が上がるまでに時間がかかるという側面もございます。
 外断熱工法と内断熱工法との比較につきましては、地域の特性や住まい方、個々の建築物の設計条件などによりまして判断されるものと考えておりますが、今後とも技術動向には十分注目してまいります。

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