平成十六年東京都議会会議録第三号

○副議長(中山秀雄君) 十九番ともとし春久君。
   〔十九番ともとし春久君登壇〕

○十九番(ともとし春久君) 初めに、東京の東部地域の都市整備について伺います。
 知事は、昨年の第四回定例会で、社会学者のスーザン・ハンレーの言葉を引用し、「江戸は、上水道が完備され、近郊農村を背景としたリサイクルの仕組みや寺子屋などの教育システムが整った先進都市でありました」と述べ、江戸の先進性を評価いたしました。ところが、現代の東京の東部地区は、先進性を誇るどころか、大幅な都市基盤整備のおくれに悩まされています。具体的にいえば、区画整理、公園整備、そして連続立体交差化などの交通網整備が進展せず、地域の活力を阻害しています。区部東部地区の都市基盤整備を都政の重要課題として取り組むべきでありますが、知事の所見を伺います。
 次に、下水道事業における都市型水害対策について伺います。
 下水道局は、これまで、水害対策として下水道幹線やポンプ所など基幹施設の整備を進め、浸水被害を減少させようとしてきました。しかし、近年は、一時間に一〇〇ミリを超えるような局所的な豪雨が発生し、くぼ地や坂下などで繰り返し浸水被害が発生しています。このような近年の都市型水害に対応するためには、地域や対策を重点化した取り組みが不可欠です。そこで、下水道局は、雨水整備クイックプランを策定し、新たな浸水被害への対策を進めており、一定の成果を上げてきています。引き続き努力していただきたいのですが、今後は、こうしたハード面の対策だけではなく、きめ細かで効果的な情報提供など、ソフト面からの対策が必要になります。
 そこで、何点か質問いたします。
 昨年の第一回定例会において、私は、降雨状況をリアルタイムに把握できるレーダー雨量システム、東京アメッシュの情報が、より広範な都民に利用されるようにシステムを改善し、都市型局地豪雨への対応力を高めるべきであると主張しましたが、下水道局の今日までの取り組みと、東京アメッシュの利用状況を明らかにしていただきたいと思います。
 次に、下水道管内の水位情報について伺います。
 局地型豪雨への対応力を高めるためには、地上に降った雨がどのような経路で流れ、浸水被害の危険箇所では水位がどのように変化するかを予測することが重要であります。そのためには、降雨情報に合わせて、下水道管内の水位情報を提供する必要があります。
 下水道は、河川などと異なり、地下に埋設されていることから、下水道管内の水位が上昇する様子をじかに見ることができません。下水道局では、処理場やポンプ所の運転管理業務を行うために、下水道管内の水位情報を的確に把握できる光ファイバー水位計システムを開発しています。このシステムは、リアルタイムの水位情報を活用することで、浸水被害発生の危険性を瞬時に精度よく予測することができ、浸水被害の事前予測システムとしては大変有効であります。
 かつての水路にふたかけをした下水道幹線は、地表に近いところにあるため、豪雨時には雨水が突然地上にあふれるという現象がたびたび発生します。こうした場所での下水道管内の水位情報を、水防管理者である区などに提供すれば、防災対策上、大変に有効です。既に中野区など二区に提供していると聞きますが、今後、二十三区全体に拡大すべきであります。所見を伺います。
 浸水被害を防ぐためには、下水道などの施設整備だけでは限界があり、地下、半地下家屋や地下街に対する浸水防止指導や、先ほど申し上げたような降雨に関する情報提供など、ソフト対策の充実が不可欠であります。そのためには、浸水対策施設の整備とともに、都民や区市町村などと連携を図った総合的なソフト対策をまとめるべきであります。下水道局の見解を伺います。
 次に、硼素、弗素の排水規制について伺います。
 日本経済は、設備投資の前向きな動きなど、明るい兆しが見られますが、中小企業や地方経済ではまだまだ厳しい状況であります。東京には、ものづくりを支える多くの中小企業が立地しており、現下の厳しい経済事情の中で必死に頑張っているのであります。
 このような地場産業の振興は、我が党がかねてから主張しているところであり、この中小企業を元気にしていくことこそ、東京の元気につながるものであります。
 中でも、メッキ業は、東京のものづくり産業を第一線で支える代表的な業種であります。東京都区部には、全国のメッキ業の四分の一に相当する約五百社が集中しております。まさに、東京における重要な地場産業として長い歴史を経てきており、とりわけ近年においては、排水対策などの環境保全に最大限の配慮と努力を重ねております。
 しかし、新しい法律による規制や対象物質の拡大、基準値の強化などが行われ、厳しさが増す一方であります。平成十三年には、国の定める排水基準に硼素、弗素が有害物質として追加されましたが、メッキ業に対しては、排水基準を直ちに達成させることが困難なため、暫定基準が設けられました。この暫定基準は、本年六月三十日で終了し、より厳しい本則基準へ切りかわることになっております。
 そこで、最初に、硼素、弗素を排出するメッキ事業場に対する、これまでの下水道局の対応について明らかにしていただきたいと思います。
 メッキ業は、その作業工程の上で、一部には硼素や弗素を使用しない工法もありますが、その多くは、硼素や弗素などの化学物質を多量に使用して製品を生み出す産業であります。したがって、メッキ業の排水にはどうしても硼素、弗素が含まれます。
 平成十二年十二月の硼素、弗素の排水規制に関する中央環境審議会答申では、国として、新しい処理技術の開発、実用化に技術支援を行い、それら技術の評価、普及促進などの措置が必要であるとしております。しかし、いまだ処理技術は開発途上であり、十分な処理対応ができない現実があります。都としても、硼素、弗素の排水対策に関する技術支援が必要と考えますが、取り組み状況について伺います。
 現在は暫定基準が適用されておりますが、本則基準が適用となった場合には、都が平成十四年に調査を行った結果、硼素や弗素を使用しているメッキ事業者約二百社のうち、硼素で約一割、弗素で約三割が基準を超えるおそれがあるとされております。こうした状況で厳しい基準が適用されれば、都内でメッキ業を営むことが困難になることが予想され、その対応に困惑しております。
 そもそも、その規制基準自体に矛盾があります。硼素の場合、河川区域では一〇ppmであるのに対し、海水区域は二三〇ppmまで認められています。その理由は、東京湾にある火力発電所が石炭を洗うのに大量の硼素を流す国家プロジェクトがあるためとされています。明らかに矛盾です。
 こうした中、都議会公明党としても、国に是正を求めるべく、先月二十四日、小池環境大臣に申し入れをしたところであります。大臣からは、四月を目途に暫定処置の期間なども検証し、暫定期間延長も含め、見直すべき点は見直すという前向きな回答を得ました。
 東京の地場産業振興の観点から、都としても、国に対して、メッキ業界の実情を十分踏まえた対応を図るよう、強く働きかけていくべきであると考えますが、見解を伺います。
 次に、高度浄水について伺います。
 近年、世界的に、ボトルウオーターが急速に普及しております。日本も例外でなく、その市場は、この十年で四倍という急成長を遂げました。
 ボトルウオーターは、健康志向、ファッション性、嗜好の多様化などの中で普及した、新しい形の商品であります。この商品を買うか買わないかは消費者の選択であり、私は、ボトルウオーターの普及自体を否定するものではありません。
 しかしながら、ボトルウオーターは、水道水に比べて非常に値段が高いこと、高齢者にとっては重くて運ぶのに大変であることなどから、必ずしも都民のだれもが容易に購入できるものでありません。また、ペットボトルの多くがごみとして捨てられ、地球環境への影響も与えていることも問題として指摘されています。
 こうしたことを考えると、蛇口をひねれば、安全でおいしい水が手に入るということは大変重要であり、私は、水道という既存のインフラを使った高度浄水処理を導入し、飲料水としての水道水の質を向上させていくことが必要であると考えます。
 そこで、まず初めに、水道局における、これまでの高度浄水への取り組みについて伺います。
 私の地元である足立区や区部の東部地域の住民二百五十万人に供給される水は、金町浄水場でつくられます。金町浄水場は、江戸川を水源としていますが、一昔前は、支流の坂川で発生するカビ臭がひどく、水道水がまずいという苦情が数多くありました。今では、高度浄水処理の導入などの取り組みが功を奏し、大変に改善されています。
 しかし、いまだカルキ臭いなどと苦情が出ております。その理由は、浄水場の能力の三三%しか高度浄水施設が整備されておらず、家庭まで届く水は、高度浄水処理した水と通常処理の水とのブレンド水となっているためであります。これでは、安全でおいしい水を求める都民の期待に十分こたえられていないのではないでしょうか。水道局は、こうした状況についてどう認識しているのか、見解を伺います。
 私も、先日、一〇〇%の高度浄水処理水を飲む機会がありましたが、これは大変においしく、塩素消毒がなされているにもかかわらず、カルキ臭も全く感じられません。都民は、より安全でおいしい水の供給を望んでおり、高度浄水処理の一層の拡大が求められているところです。
 特に、金町浄水場では、利根川水系の最下流に位置しているため、河川水の質も悪く、通常の浄水処理では、カルキ臭のもとになるアンモニア等を完全に除去することは難しいと聞いております。したがって、優先的かつ早急に金町浄水場に高度浄水処理を全量導入していく必要があると考えます。見解を伺い、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) ともとし春久議員の一般質問にお答えいたします。
 区部東部地区の都市基盤整備の取り組みについてでありますが、おっしゃるとおり、かつての江戸は、上水道も完備されまして、近郊農村を背景としたリサイクルの仕組みや寺子屋などの教育システムが整った、まさに世界の先進都市でありました。
 比べて、現在の東京では、水道の普及率は一〇〇%にはなりましたが、一方、都内の都市計画道路の整備率はまだわずか五四%、ボトルネックの踏切も三百六十カ所も残っております。都市基盤の整備では、かつて世界に誇った江戸の先進性に比ぶべくもない現況でございます。
 この東部地区は、水辺に近く、非常に歴史的に、かつて成熟した地区でもありましたけれども、いろんな点でご指摘のような、他に比べてもハンディキャップを持っているわけでありますが、都としましてもそれを十分認識しておりますし、こういったものは、都民の要求にかなうような整備が進むようにこれからも努力していくつもりでございます。
 他の質問については、関係局長からお答えいたします。
   〔下水道局長二村保宏君登壇〕

○下水道局長(二村保宏君) 下水道事業に関する四点のご質問にお答えいたします。
 初めに、降雨状況をリアルタイムで把握できます東京アメッシュについてでございますが、昨年四月に、より精度の高い降雨情報が提供できるよう、当局の地上雨量計データに、関係機関が保有しておりますデータを加える改良を行いました。また、同じく八月には、操作性を向上させるために、お客様の意見をもとに画面の構成を変えるとともに、ご提案のありました英語版の配信も追加し、外国人の方にも利用していただけるように改善したところでございます。
 なお、平成十五年の一年間におけるアクセス件数は、ホームページで約二百八十万件、携帯電話で約三百三十万件、合わせまして六百万件を超える多くのお客様にご利用いただいております。
 次に、下水道管内の水位情報についてでありますが、これまでの取り組みとしては、平成十四年六月から立会川幹線などを品川区へ、平成十五年三月から桃園川幹線を中野区へ提供しております。また、本年四月を目途に、蛇崩川幹線などを世田谷区及び目黒区へ、さらに、渋谷駅周辺の地下街は、浸水が発生した場合の危険度が高いことから、駅周辺の幹線を渋谷区へ水位情報を提供する予定でございます。
 今後、このような取り組みを踏まえ、関係区等と調整を図りながら導入を拡大してまいります。
 次に、総合的なソフト対策の取り組みについてでありますが、浸水対策を効果的に進めていくためには、施設の整備だけでなく、お客様である都民の方々や区などと連携したソフト面の対策が重要であります。このため、六月を浸水対策強化月間と定めまして、区と連携した雨水ますなどの点検、清掃により排除機能を確保するとともに、過去に被害のあった地域の方々を戸別訪問し、注意を呼びかけるなど、浸水への備えや水防活動に役立てていただく取り組みを行っております。
 今後とも、経営計画二〇〇四で掲げましたリスクコミュニケーションの充実の視点から、浸水に関するさまざまな情報を都民の方々や区に提供するなど、総合的なソフト対策の充実を図ってまいります。
 最後に、硼素、弗素を排出するメッキ事業場に対するこれまでの取り組みについてでございますが、メッキ事業場排水の水質について実態把握に努め、排水基準を超えるおそれのある事業場に対して、個々の実情に応じた作業工程の改善など、きめ細かい指導を行ってまいりました。また、平成十三年に新たな排水基準が導入された硼素、弗素の排水処理に対するメッキ業界の取り組みを支援するため、関連する処理技術の効果やコスト等の情報を提供してきたところでございます。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 硼素などの排水対策に関する二点のご質問にお答えいたします。
 まず、硼素、弗素の排水対策の取り組み状況についてでございますが、産業技術研究所では、硼素、弗素の排水処理技術の開発に取り組むとともに、硼素の代替剤として、環境負荷の少ないクエン酸によるメッキ液を開発いたしました。これらのメッキ排水に対する研究成果につきまして、講習会や工場での実地指導などを通し、普及に努めてまいっております。今後さらに研究を進めまして、排水対策に対する技術支援を行ってまいります。
 次に、排水規制に対する国への働きかけについてでございますが、メッキ産業は、東京のものづくり産業を代表する重要な地場産業の一つであると認識しております。都といたしましては、これまでも国に対し、メッキ業の実情を説明するとともに、中央環境審議会答申に示されている、中小企業に導入可能な、より安価で信頼性のある処理技術の開発と普及促進を行うよう、国に求めてまいりました。暫定期間の終了する六月末を目前に控え、ご指摘を踏まえ、今後、処理技術の開発動向や東京の特性を踏まえた適正な対応を図るよう、国に十分理解を求めていきたいと考えております。
   〔水道局長飯嶋宣雄君登壇〕

○水道局長(飯嶋宣雄君) 高度浄水に関する三点のご質問にお答え申し上げます。
 高度浄水の取り組みについてでございますが、オゾンと生物活性炭による高度浄水処理は、臭気原因物質等の除去に高い効果を上げております。
 水道局では、これまでに、金町浄水場と三郷浄水場の一部に高度浄水処理を導入してきております。また、現在建設を進めております朝霞浄水場におきましては、平成十六年度から、三園浄水場におきましては、平成十八年度からの稼働を予定しております。さらに、東村山浄水場につきましても、平成十六年度から建設に着手することとしております。
 次に、高度浄水処理と通常処理とのブレンド水の供給についてでございますが、金町浄水場及び三郷浄水場への高度浄水処理の導入以降、それまで多く寄せられておりましたかび臭に関する苦情は、ほぼ解消されました。
 しかしながら、モニターアンケート調査によりますと、高度浄水処理を導入している浄水場の給水区域におきましても、いまだカルキ臭などに関する不満が寄せられております。このため、いわゆるブレンド水では、より安全でおいしい水の供給を求める都民の期待に十分にはこたえられていないと認識しております。
 最後に、金町浄水場への高度浄水処理の全量導入についてでございますが、金町浄水場におきましては、他の浄水場に先駆けて高度浄水処理を一部導入し、かび臭を解消することができました。しかし、原水水質の状況や都民要望の実情等を踏まえますと、ご指摘のとおり、高度浄水施設を早期に拡充する必要があると考えております。
 一方、金町浄水場は多数の施設がふくそうしている上、老朽化が進み、耐震性の低下した施設も存在しているため、再配置を含めた施設の更新が必要となっております。このため、老朽化した施設等の更新計画との整合を図りながら、平成十六年度から、まず取水ポンプ所など関連する施設の整備に着手し、これに引き続き、高度浄水処理の全量導入に向けた施設整備を着実に推進してまいります。

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