平成十六年東京都議会会議録第三号

   午後三時五十一分開議

○議長(内田茂君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 二十七番臼井孝君。
   〔二十七番臼井孝君登壇〕

○二十七番(臼井孝君) 映画「ラスト サムライ」は、評判でございます。若者に大きな感動を与え、この日本の個性は、外国の人をも魅了しています。私は、侍のふるさと江戸に思いをはせながら、本日、東京の観光について質問をいたします。
 世界は今やグローバリズムが定着をし、まさに大交流時代を迎えています。世界の人々は、こうした環境にあって、国際観光に新しい価値を見出そうとしております。全世界の外国人旅行者数は、現在の七億人から、二〇二〇年には十六億人になるといわれております。これは、九百兆円の大市場が開かれるということであります。
 日本人は、年間一千六百五十万人が現在海外へ旅行をし、日本を訪れる外国の旅行者は、海外に出かける日本人の三分の一以下であります。国際旅行収支は、約二兆九千億円の赤字となっています。
 このような時代状況をとらえて、石原知事は、三年前の所信表明において、観光産業を育成し、既成概念にとらわれずに積極的に観光振興に取り組んでいくと表明されました。
 本年一月に、小泉首相は施政方針演説で、二〇一〇年までに日本を訪れる外国人を倍増させる、という考えを表明しました。国も、ようやく観光立国構想を本格的に取り組み始めた模様であります。
 さて、世界に秀でた観光国であるフランス、アメリカ、あるいは中国などを見れば、皆立派な歴史を持った先進国です。それぞれの民族がつくり上げた文明、文化の遺産が、さん然と輝きを放って、訪れる人々を魅了します。
 これらの都市には、例外なく、一度訪れた人々が忘れがたい記憶を刻む、偉大なモニュメントが存在しています。パリのベルサイユ宮殿、ニューヨークの自由の女神、あるいは中国にあっては万里の長城などです。しかし、日本の表玄関である東京には、残念ながら、人々を魅了する圧倒的な観光資源、歴史的遺産は見当たりません。首都東京の観光といいながら、画竜点睛を欠くといわざるを得ないのであります。
 ともすれば、日本を訪れる外国人が日本の古きよき歴史を訪ねようとすると、京都などの寺社が主流となっているのです。現在、東京を訪れる外国人の数はふえているものの、その割合は、ピーク時よりも二〇ポイント以上に落ち込んでいて、低下傾向にあり、対策が急務であります。
 国の観光立国懇談会で、最近、日本国籍を取得したというある委員が、外国の友人に東京を紹介するときに目玉がない、江戸城が再現できればすばらしいとおっしゃっていました。外国人といわず、我々日本人にとって、日本の歴史の中で輝きを放っているのは、長く続いた侍の時代だと思います。その中でも、江戸二百六十余年の歴史は、歴史を経て、日本人の精神のあり方に大きな影響を与えてきました。明治維新後の世界史に残る偉業は、江戸時代の遺産によるところが大きいといわれています。
 江戸時代の理解は極めて大切で、そのよすがとして、将軍の政所である江戸城は、その時代の姿形を知る上で最もふさわしいシンボルであります。江戸城を通して、日本の伝統ある歴史や精神風土について生きた学習ができるばかりでなく、日本人として、武士道のふるさとである江戸の歴史に誇りを持つことができます。外国人にとっても侍の時代、徳川最後の将軍をしのぶことができ、日本の最大の観光スポットになるに違いありません。
 東京駅におり立ち、お堀越しに、あの大手門から天守閣を仰ぐことができれば、それは見事なものに違いないのです。今の北の丸には天守閣、あるいは松の廊下の礎石を見るだけであります。
 江戸開府四百年は終わり、これから五百年に向けて、百年の歴史が始まります。このときに、日本の心、日本の原風景江戸の姿を再現する方策として、江戸城再建、これを検討を始める値打ちがあると考えますが、石原知事の所見を伺いたいと思います。
 次に、私たちの生活している大都会の下には、大昔からの自然の歴史が眠っています。その昔、江戸城まで海が迫っていたこと、武蔵野がうっそうとした雑木林に覆われていたこと、人間はどれだけ自然の恩恵を受け、守られてきたかを考えなければなりません。それを忘れている現代社会は、今日、地球温暖化や大気汚染、あるいは感染症など、さまざまな困難な問題に直面しています。私たちの環境は、確実に悪化の方向に進んでいます。それは自然のしっぺ返しなのかもしれません。いま一度、謙虚に学習をし直さなければならないように思います。
 そこで、東京の自然の観光について考えてみたいのです。
 この大東京の一角に、手を触れることができ、目に触れることのできる豊かな自然があります。私が推奨するところの、秋川谷と呼ばれるところは、檜原村の都民の森に源を発する秋川の流域です。この緑の自然の中には、縄文以来の人間の遺跡や営みがあり、里山も残っています。太古の昔には、鯨が泳いだ海が奥多摩の山際まで入り込み、岸辺をステゴドンが歩いていたことを、化石が伝えています。さらに、鍾乳洞や断層、数百万年の地層などが見られ、大地の成り立ちを学ぶことのできる、地球規模の自然の歴史の宝庫です。
 この大自然の中に、歴史に触れると、悠久の時間の中で、人間の存在は小さいものであることを認識するはずです。そして、自然との共生は大切なこれからの生き方であることを教えられます。特に子どもたちには、豊かな自然に遊び、触れさせ、自然環境の学習ができるようにさせたいと思うのです。
 したがって、この秋川谷を、自然と歴史の観察のできる観光のモデル地区として都が指定することの意義はきっと大きいと思われますが、所見を伺います。
 次に、森や川を東京の貴重な財産として、また観光資源としていくためには、観光客が安全に、安心して、そして快適に訪れることのできるのが基本です。そうした点では、新年度に予定されている東京都レンジャー、これには意義があると思います。その活躍により、適正な利用が進み、自然が保護され、都民が森林浴やハイキングを楽しめるようになり、ひいては、多摩の観光の促進に貢献できることが期待できます。多摩地域にもレンジャーが配置されると聞いていますが、その目的と行動内容について伺います。
 さて、森林産業の発展なくして東京の森を守ることはできません。木材は、人に優しい、再生可能な自然素材であります。近年、学校や福祉施設において問題となっているシックハウス症候群の対策として有効といわれます。
 都が多摩産木材の利用の拡大を図り、民間の先導役を果たしていくことは、地球温暖化の防止や、地球循環型の社会の形成にも資するものであります。国においては、まず隗より始めよということで、昨年、農水省は木材利用拡大行動計画を策定し、また林野庁においては、国産材の流通加工システムについての検討委員会を設置し、検討してきたと聞いています。
 このような状況を踏まえ、都としても、今まで木材利用推進連絡会において行ってきた取り組みを、さらに発展させる必要があります。例えばその連絡会を拡充するなど、推進体制の強化を図り、都として木材利用プログラムを策定するなど、木材利用拡大施策の一層の充実を検討すべきと考えますが、所見を伺います。
 次に、実際、木材を利用した事業について伺います。
 秋川など、自然豊かな川では、既に護岸工事に石や木材を用いた伝統工法を採用しており、川の生態系や魚族の生育に成果が上がっているといわれています。また、このような伝統工法を区部の河川においても取り入れることを検討すべきだと考えますが、所見を伺います。
 昨年、多摩の木材を積極的に使っていただくために、多摩産木材の認証制度創設の支援について提案をさせていただきましたところ、早速検討していただきまして、感謝しております。
 東京は最大の消費地であり、地産地消のシステムが確立されれば、森林産業の活性化にとって、大きな力になるはずであります。そこで、認証制度の進捗状況について伺います。
 次に、東京の木のふるさとである多摩地域の森林では、深刻なシカの被害が出ています。シカの生息密度が高い奥多摩町を中心に、樹木が育たない山がふえており、その対策が喫緊の課題となっています。シカの生息数と被害の実態、今後の駆除対策としてどのように取り組むのか、伺います。
 これまで、森林の管理は森林所有者の自己負担を原則としてきましたが、このところ、木材価格が低迷して所有者の管理意欲が失われ、森林の機能が損なわれるにつれて、都民の森林保全への関心が高まっています。
 都の世論調査によると、約九割の都民が森林管理への税負担を許容するようになりました。森林を将来にわたって守っていくためには、森林を公益的財産としてとらえ、所有者だけでなく、澄んだ空気や都市を潤す水など、森の恵みを受けている都民全体で費用負担をする考え方を確立し、定着させることが大事であります。今後、森林を守るための負担のあり方や、森林環境税などの財源について、早急に具体的な検討を進め、その成果を得たいと考えておりますので、このことを強く希望しておきます。
 次に、現在の我々の快適な生活はエネルギーの大量消費、大量廃棄の上に成り立っています。一方で、その代償として資源の枯渇や、大量の産業廃棄物の問題が顕在化しております。
 そこで伺います。都が葛飾区の都営新宿六丁目住宅で行っているリサイクルモデルプロジェクトは、現在進行中でありますが、このリサイクルの結果と、取り組みの内容をお知らせください。
 さらにこれから十年間、二十万戸を超える分譲マンションが建てかえの対象となってくるといわれています。今回のプロジェクトで得られたリサイクル等の成果が大いに活用されるべきと考えますが、特に、取り組みのおくれている中小の建設事業者への普及が大切です。どのように取り組まれるか、所見を伺います。
 最後に、消防団は江戸時代の町火消しを起源とし、昭和二十二年の制度発足以来、自分たちの地域は自分たちで守るという精神に基づき、専業の職業を持ちつつ、消防活動を行っています。
 消防団は、有事の際の活動だけでなく、地域コミュニティの担い手として、活躍もしております。消防団員の数は、全国的に今、減少しているのでございますが、都内においては一定の規模が維持されております。団員に占めるサラリーマンの比率は、しかしながら大きくなってきております。したがって、消防団の活動を確保するためには、サラリーマンである団員の参加が欠かせません。それには、団員が勤めている事業所の理解と協力が必要です。
 そこで、企業や自治体に勤務するサラリーマンが消防団に入団しやすいように、そして活動しやすいように、東京都の立場で事業者への働きかけが必要ではないかと思います。
 所見を伺って終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 臼井孝議員の一般質問にお答えいたします。
 江戸城再建の検討についてでありますが、東京には、江戸開府以来の歴史や文化を伝えるさまざまな観光資源がございます。中でも、もし江戸城が依然として存在するならば、当時の日本における政治、経済、文化の象徴であったわけでありまして、聞くところ五層五階、高さ六十メートルという巨大なものだったようでありますが、世界に誇る日本の伝統ある歴史や文化、武士道に代表される精神風土の象徴であったと思いますし、また、ベネディクトが、あの有名な日本人論の「菊と刀」で賞賛しましたように、そういったシンボルでもあったと思います。
 ただ、現今では、武士道を象徴した菊と刀の菊もいささかしおれ、刀もさびてきたような気がいたしますが、いずれにしろこれは後世に伝えるべきものと、認識しております。
 江戸開府五百年に向けての江戸城再建のご意見は──開府五百年ですよ、四百年じゃありませんよ、今後の観光振興を考える上で貴重なご提案だと承りました。ただまあ、だれがどうやってお金を出すかということで、これは大分お金がかかりますなあ。
 その他の質問については、東京都技監及び関係局長から答弁いたします。
   〔東京都技監小峰良介君登壇〕

○東京都技監(小峰良介君) 河川における伝統工法についての二点の質問に、お答えいたします。
 伝統工法の評価についてでございますが、平成十三年度から西多摩の秋川や平井川など十一カ所で、水の勢いを弱める聖牛工や護岸基礎の補強、川底の低下を防止する床固め、そういったところに木工沈床などを試行的に設置しております。
 これらの工法は周辺の自然環境と調和し、魚がすみつき、子どもたちの水遊び場となるなど、自然豊かな川づくりに極めて有効であることから、地域の方々や漁業関係者などから高い評価を得ております。
 今後も伝統工法を活用し、周辺の景観や生態系に配慮した、安全で親しめる川づくりを進めてまいります。
 次に、区部の河川整備における伝統工法の採用についてでございますが、区部の野川や石神井川などでは、良好な水辺環境を創出し、親しまれる川づくりを進めてまいりました。その一環として、自然環境の再生に有効な伝統工法の採用も検討してまいりました。平成十六年度には、野川の最下流部において、堤防の洗掘防止に、多摩産の木材を使った木工沈床を試行的に設置いたします。
 今後も、可能な箇所において、伝統工法の採用に努めてまいります。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 観光など四点のご質問にお答えいたします。
 まず初めに、秋川谷を自然観光のモデルとすることについてでございます。
 秋川谷とも称せられる秋川流域は、野趣豊かな景観のみならず、鍾乳洞や石器時代の遺跡なども点在し、さまざまなアウトドア体験ができる自然観光の宝庫であると認識しております。
 都は、これまでウェブサイト「東京の観光」や、ウエルカムカードで秋川流域を広くPRしてまいりました。今後とも秋川流域の多様な観光資源に光を当て、次代を担う子どもたちも十分に楽しみ、学べる自然観光のモデルルートをつくるなどしまして、秋川流域をより一層PRしてまいります。
 次に、多摩産材の利用拡大についてであります。
 東京の森を守り、資源循環型社会を形成していくためには、木材の利用を進めることが大変重要であると認識しております。
 平成十年度から関係局による東京都木材利用推進連絡会を設置し、都関連工事での多摩産材の利用拡大に努めてまいりました。今後、この連絡会を拡充し、シックハウス対策としての木材の活用などを検討してまいります。
 また、民間と協働いたしまして、公共施設などでの木材の活用事例を収集し、PRし、利用の機運を高めるほか、区市町村に小中学校の木質化を働きかけるなど、多摩産材の利用促進につなげていきたいと考えております。
 次に、木材の認証制度の進捗状況についてでございますが、多摩産材の利用拡大、流通促進にとって認証制度は有効であることから、都はこれまで、林業、木材関係者などに制度の創設を働きかけてまいりました。昨年六月、都民に信頼される認証制度の確立に向けて、森林所有者や製材業者などによる準備会が設置され、検討が進められてまいりました。今後、本準備会を、外部委員も参画する協議会へ発展させると聞いております。
 都は、認証制度の早期実現に向け、この自主的な取り組みを引き続き支援してまいります。
 最後に、シカの被害実態と駆除対策についてであります。
 多摩地域に生息するシカは、平成十四年度の調査では約二千五百頭であり、この十年間で約六倍と急激に増加しております。奥多摩町や青梅市などの山林では、杉やヒノキの苗木がシカの激しい食害を受け、裸山の三分の一以上がシカ被害地と見られております。また、雲取山周辺では自然林にまで食害が及び、生態系保全の上からも被害は深刻であります。
 今後、地元猟友会による駆除に加えまして、都が新たに委託する駆除隊により、適正な頭数管理に努めてまいります。
   〔環境局長小池正臣君登壇〕

○環境局長(小池正臣君) 東京都レンジャーについてのご質問にお答えいたします。
 都内の自然公園などでは、利用者のマナー違反などにより、貴重な自然が損なわれつつあります。このため、都独自のレンジャー制度を創設し、東京の貴重な自然やすぐれた景観を守り、その適正な利用を図っていくことといたしました。
 平成十六年度には、多摩地域と小笠原諸島にレンジャーを三名ずつ配置し、その活動内容といたしましては、観光客や登山客への利用マナーの普及啓発、希少動植物の密猟や盗掘の監視、安全確保のための遊歩道や案内板などの点検、応急補修などを予定しております。
 新たな取り組みであり、平成十六年度の活動状況を踏まえ、制度の充実を図ってまいります。
   〔住宅局長高橋功君登壇〕

○住宅局長(高橋功君) 住宅におきます環境問題につきまして、二点のご質問にお答えいたします。
 最初に、都営新宿六丁目団地におきますリサイクルのモデルプロジェクトについてでございます。
 このプロジェクトは、都営住宅の建てかえにおきまして、解体から建設工事までを一貫といたしましたリサイクルの取り組みによりまして、ゼロエミッションを目指したものでございます。
 既に完了した解体工事におきましては、現在進行中の建設工事での再利用を含めまして、コンクリート塊や内装材などの廃材をほぼ全量リサイクルいたしました。
 また、建設工事では、くいの工事から発生いたします泥土の現場内での再利用や、資材の梱包の簡素化等によりまして、廃材の発生量を抑制いたしますとともに、発生した廃材につきましても、ほぼ全量のリサイクルを目標として取り組んでいるところでございます。
 次に、中小の建設事業者への普及についてでございますが、このモデルプロジェクトで得られましたノウハウにつきましては、昨年作成いたしました解体工事編に続きまして、建設工事編を年度内にマニュアルとして取りまとめることとしております。今後、これらのマニュアルを活用いたしまして、再資源化しやすい建材の使用や資材の梱包の簡素化など、リサイクルの具体的手法につきまして、広く情報提供を行ってまいります。
 さらに、建設事業者団体と連携いたしまして、研修の支援を行うなどによりまして、建設リサイクルの取り組みにつきまして、中小の建設事業者への普及を図ってまいります。
   〔総務局長赤星經昭君登壇〕

○総務局長(赤星經昭君) 消防団の活性化についての質問にお答え申し上げます。
 都内の消防団全体では、団員の約四五%は、企業に勤める人及び公務員など、いわゆるサラリーマンでございますが、これらの方々が消防団員としての使命を果たすためには、家族の協力はもとより、職場におきます理解と協力が極めて重要でございます。
 消防団活動の活性化を図るため、消防団員を雇用する事業者等に対しまして、関係機関と連携して、消防団活動の意義や効用などにつきましてPRするなど、一層理解と協力を深めていただくよう働きかけてまいります。

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