平成十六年東京都議会会議録第三号

○議長(内田茂君) 七十番野田和男君。
   〔七十番野田和男君登壇〕

○七十番(野田和男君) 近年のIT関連の技術進歩は目覚ましいものがあり、それを応用してICカードというものが開発、実用化されていることは周知のとおりであります。
 そこで、交通事業を初めとする都政におけるICカードの普及促進について何点かお伺いいたします。
 小型のICチップを内蔵したICカードは、これまでの磁気カードと比較して、カード自体でもデータ処理が可能であること、高度なセキュリティーが確保されること、格段に大きい記憶容量を持っていることなどの特徴を持っており、運輸、流通、金融等、異なる業種間を結ぶ複雑なネットワークの運用にもたえることから、これまでの磁気カードにかわる有望な情報記憶媒体として、さまざまな分野で導入が進められようとしております。
 身近なところでは、平成十三年十一月に、JR東日本が導入したICカード、Suicaの発行枚数は、既に八百万枚を超えているようでありますし、また、鉄道以外の分野においても、住民基本台帳カードや高速道路のETCカード、各種クレジットカード、企業の社員証など、多彩な分野、業種でICカードが使われるようになっているのであります。
 ICカードは、偽造防止の観点から、早くからヨーロッパで開発、使用され、近年は、韓国や香港、シンガポール等で普及が進むなど、海外では既に広く使われておりますが、一方、日本ではICチップなどの高い製造技術を持っているものの、実際の利用段階では立ちおくれているともいわれております。
 私は、かねてから、これからはICカードの時代であり、まずは都民にとって身近な交通系ICカードの普及を進めるべきであると考えておりました。このため、地下鉄、バス、路面電車と三種類の交通事業を経営している交通局が、他の事業者に先駆けて、地下鉄やバスなど各事業に共通するICカードの導入に取り組むことによって普及が進むと考え、過去にも都議会を通じて働きかけてきたところであります。
 これに対して、交通局から、他の事業者との連携を図りながら積極的に検討を進めていくという答弁をいただいたところでありますが、昨年七月になって、ようやく営団地下鉄や大小の公営民鉄各社などから成るパスネット発行事業者、バス共通カード発行事業者、そしてJR東日本等のSuicaの発行事業者の三つのグループが、お互いのICカードで関東圏の鉄道、バスを自由に乗りおりできる相互利用を実現することで合意するに至りました。
 そこで、まず交通局として、今回のICカードの導入をどのようにとらえているのか見解を伺います。
 交通系のICカードは、JR東日本のSuicaのほかにも、平成十五年十一月にはJR西日本がICOCAを導入し、関西では、阪急電鉄や京阪電鉄などもPiTaPaの導入に向けて着々と準備を進めていると聞いております。また、北海道、九州などの地方のバスカードにも既に導入されており、平成十八年度から順次導入していくという関東の動きは遅きに失した感もあります。
 もちろん、ICカードは一事業者単独で導入するよりも、多くの事業者間で共通で使用できた方が利便性も増し、相乗効果によりカードの発行コストも抑えられるということは十分理解できますが、一都民としては、十八年度といわずに一日でも早く導入していただきたいと思います。
 そこで伺いますが、平成十八年度のICカードの相互利用に向け、現在どのような取り組みをしているのか、また、今後どのようなスケジュールで準備を進めていくのかお聞きいたします。
 次に、ICカードの発行を平成十八年度から順次実施していくとした場合、円滑に準備を進めていくためには、今から相互利用のためのシステム開発を初め、駅の自動券売機や自動改札機、バスの料金機などの改修、新設などを計画的に進めていく必要があると思います。
 これについて、例えばICカード対応のシステム開発に係る国庫補助制度は、関西において既に適用されていると聞いております。それについて、関東についても適用するとともに、その拡充を国に働きかけ、整備促進を図ることも検討すべきだと思います。
 今回のICカードの相互利用が実現すれば、恐らく世界最大規模の交通系ネットワークになると思われますが、JRも含め、四十九もの交通事業者が参加する大プロジェクトですので、各社それぞれの思惑や利害も絡み、調整も大変であろうと思います。
 また、このような大規模なシステムにおいては、システム開発はもちろんですが、運用上でもコストの縮減やトラブルへの対応など課題は少なくないのではないでしょうか。
 そこで、関東圏におけるICカードの相互利用に不可欠な大規模ネットワークシステムを構築、運用していくために、これからさまざまな課題をどのように克服していくのか伺います。
 さて、首都圏の公共交通は、景気低迷や都市構造の変化により、定期客が減少しており、高齢社会に対応したバリアフリーの推進や乗り継ぎの利便性向上など、これまで以上にきめ細かいサービスを行うことで、利用客の増加を図ることが求められております。乗車券のICカード化を実現したからといって、増収、増客につながるわけではなく、メリットはないという意見もありますが、そうではありません。
 IC化によって、これまでJRと民鉄、バスでそれぞれ別のカードで乗車していたものが共通化され、乗り継ぎの利便性が飛躍的に向上し、公共交通のネットワークが強化されることになります。
 また、非接触型のICカードは、自動改札機にかざすだけで通れることから、乗客の流れもスムーズになり、ラッシュ時の混雑緩和にも寄与することとなります。
 さらに、自動券売機の前や改札口、乗車券の購入や提示に苦労しているお年寄りや車いすを使用される方々にとっても、交通機関の利用が容易となり、バリアフリー化を進めることになると考えます。これらの結果として、鉄道やバスが首都圏住民の足として活用されることにつながるはずであります。
 また、JRでは、今月二十二日から、Suicaを使って駅構内の店舗や駅ビルなどでショッピングができるサービスを開始するそうですが、このように運賃だけでなく、駅の売店や飲食店など、関連施設においてもICカードで決済できるようにすれば、交通事業者の売り上げの増加にも寄与すると考えます。
 このIC化の効果を高めるためにも、IC乗車券を広く普及させることが必要であります。Suicaでも実施していない小児用のカードや福祉乗車証等を設けることや、多機能化により使い勝手を向上させ、その魅力を高めることが重要であり、ひいては、それが首都圏の公共交通の発展につながるものと考えます。
 そこで、今回のICカードの相互利用を機に、交通局は公共交通のさらなる利用拡大のため、積極的にその役割を果たすべきと考えますが、交通局の所見を伺います。
 さて、都が設立を予定している新銀行も、ICカードを活用したサービスが可能になるようであります。すなわち、銀行がカードを発行し、公共交通はもとより、地域商店街や百貨店などと提携し、ポイントサービスとのカード提携や自動販売機でのキャッシュレス決済ができるようにするとともに、都の関連施設での利用料決済などを可能とするとしております。
 ICカードの持つポテンシャルを十分に発揮させるには、こうした業種、業態の垣根を越えてカードの共通化、多様化を進め、一枚のカードで多彩なサービスを受けられるようにすることが重要であります。
 都の行政分野を見渡すと、交通事業や文化、教育施設などの料金収納のほかにも、各種申請手数料の支払いや都税の徴収、都庁の内部管理の分野など、ICカードを導入する余地は十分にあると思います。都がみずから率先してICカードシステムを用いたサービスを開発し導入することで、ICカードの普及促進にもつながっていくと考えます。
 また、ICチップを利用した製品は、カードのほかにも、ICタグとして普及が始まっております。
 従来のバーコードとは比較にならないほどの情報量を持ち、耐久性にもすぐれているなどの特徴を持っております。特に、超小型のチップも開発されており、ICタグを利用した製品の在庫管理や販売管理のシステムが開発されております。ICタグの普及によって、業務効率の向上と新しい情報のネットワークサービスが可能になり、今後のユビキタス社会を形成する基盤となるといわれております。
 このICタグは、行政サービスにも応用が可能であります。超小型で製品などに埋め込むことも可能であるという特徴を生かし、食品や廃棄物の追跡管理が可能となるほか、道路などの公共施設に埋め込むことで、視覚障害者のための位置案内や災害情報収集など、また、文化財や図書館の本につけることで、文化財の利用や管理など、行政の各分野において活用の可能性が広がっております。
 そこで伺いますが、現在、都庁でこのICタグを利用した業務やサービスの検討は行われているのでしょうか。また、今後の実現可能性についてどのようなお考えか、お聞きいたします。
 ICを初めとしたIT技術を行政サービスに応用する試みは、今、国を挙げて推進されております。近ごろでは、公的個人認証サービスが開始され、都民が自宅のパソコンからインターネットを使って、国税の申告やパスポートの申請などの行政手続ができるようにするための基盤が整えられつつあります。都もこうしたIT技術の動向を見きわめ、機敏に取り入れ、より進んだ電子都庁の実現を図っていただきたいと考えます。
 そこで、日進月歩の情報技術の進展を踏まえ、これからの都のIT施策のあり方について、最後に知事の所見をお伺いいたします。
 以上で私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 野田和男議員の一般質問にお答えいたします。
 これからの都のIT施策のあり方についてでありますが、歴史を眺め直してみますと、グーテンベルグの印刷技術でありますとか、ワットの蒸気機関車など、新しい技術は常に新文明を促進し、社会の本質を変えてきました。
 しかし、どんな革新的技術が生み出されても、それを積極的に使う人間がいなければ意味がないわけでありまして、こういったすぐれた才能を生み出した技術を認めて、積極的に利用することが肝要だと思います。
 例えば、日本人が開発しました青色発光ダイオードなどは、日本ではほったらかしにされておりましたけれども、私は視察に行きましたついでにシンガポールで、同行した唐津先生に指摘されて初めて気がつきましたが、シンガポールなどでは、既にこれを積極的に活用しておりまして、こういった省電力、しかも、寿命の長い信号機を敷衍しておりましたが、東京でもこれをまねて、発光ダイオード式の信号機を導入するようになりました。
 日本を再生するために、革新的な技術は極めて重要でありまして、今後、都においても、IT技術を積極的に活用していきたいと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。
   〔交通局長松尾均君登壇〕

○交通局長(松尾均君) ICカードの普及促進に関します四点のご質問にお答えいたします。
 まず、ICカードの導入についてですが、今回、交通事業者が連携してICカードの導入を図ることにより、平成十八年度以降、一枚のカードで関東圏の鉄道、バス、四十九事業者の路線を利用することが可能になります。これにより、お客様の乗り継ぎ利便性が飛躍的に向上し、また、交通局におきましても、これまで懸案であった都営地下鉄、都バス、都電の三事業を共通して利用できるカードが実現できることから、大変意義のあるものと認識しております。
 次に、相互利用に向けた取り組み及びスケジュールについてですが、本年二月に、大手私鉄九社はICカードを発行、運営するための新会社、パスネット・バスICカード株式会社を設立し、交通局におきましても、平成十六年度に同社への出資を予定しております。また、三月に入り、同社と東日本旅客鉄道株式会社は相互に発行するICカードを処理するため、株式会社ICカード相互利用センターを設立いたしました。
 今後、これらの会社を中心として必要なシステム開発等を行い、約一年間の運用テストを経て、平成十八年度中の稼働を目指してまいります。
 次に、相互利用実現に向けての課題の克服についてですが、ICカードシステムは四十九の交通事業者が参加する大規模かつ高度なネットワークシステムでございます。このようなシステムで一たんトラブルが発生すると、社会に与える影響は大きく、このため運用面、セキュリティー面での信頼を確保できる安定的なシステムを構築することが極めて重要でございます。
 今後、交通事業者間でより一層連携を密にし、十分な運用テストを行った上で、平成十八年度の稼働に支障を来さないよう万全を期してまいります。
 最後に、ICカードの相互利用を機に、公共交通の利用拡大に積極的に取り組むべきとのご提言についてでございますが、交通局といたしましては、このたびのICカードの相互利用の実現は、お客様の利便性の向上はもとより、公共交通の利用拡大に大きく寄与するものと認識しております。
 今後は、ご指摘のとおり、ICカードの付加価値を高めていくため、多機能化なども視野に入れながら、関係機関とも連携し、積極的に取り組んでまいります。
   〔総務局長赤星經昭君登壇〕

○総務局長(赤星經昭君) ICタグを利用いたしました業務やサービスについての質問にお答え申し上げます。
 ICタグは、電子的な荷札でございまして、超小型のICチップを利用して、情報の読み出しや書きかえが行えます新しい技術でございます。
 現在、超小型と申し上げますのは、〇・四ミリ角のものも市販されております。将来は、バーコードをはるかにしのぐ多様な用途に利用できる可能性を持っております。現在、ご指摘のような視覚障害者の方のための誘導案内などを含めまして、東京都技術会議におきまして技術面を中心に都政への活用の可能性を検討しております。
 今後、各局におきます導入の可能性を調査した上で、実現できる活用策を検討してまいります。

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