平成十五年東京都議会会議録第十八号

○議長(内田茂君) 十番伊沢けい子さん。
   〔十番伊沢けい子君登壇〕

○十番(伊沢けい子君) それでは、私は一番目に八ッ場ダムについて、そして二番目に教育行政について質問をいたします。
 まず、八ッ場ダムについてです。
 十月末に群馬県に住む私の友人から電話があり、群馬では長い間にわたって住民が反対運動をしてきた八ッ場ダムという大きなダムの計画があるが、群馬県の人たちだけではとてもとまらないので、水の利用者となる東京の方でもぜひ関心を持ってほしいし、この問題に取り組んでほしいといわれました。
 その矢先に都議会では、事業費が二千百十億から四千六百億円と二倍になって示されたこの計画が、早速議事の中に入っていたので、私は大変驚きました。
 八ッ場ダムについて、東京ではマスコミでもほとんど報じられておらず、都民の中でもほとんど知られていないというのが実情だと思います。一方、群馬県ではこのことは連日のようにマスコミでも報道をされており、今、大問題となっています。予算的な規模も大変大きく、私たちの日々の水利用に大きく関係してくるこのような重大な問題について、十一月末に国から示された計画を、都民の中でもほとんど知られない間に決定してしまうこと自体に疑問を感じます。近隣の県議会では今回議事に含まれておりませんが、なぜ都議会では今回このことを諮ることにしたのか、その経緯を教えてください。また、国土交通省に対して返事をする期限というのがあるのでしょうか。
 八ッ場ダムは、一九五二年、昭和二十七年に計画が立てられました。戦時中に森林を大々的に伐採したことから、キャサリン台風が来たとき洪水が起こり、治水のために計画が立てられました。しかし、その後、森林は回復されており、そのとき以上の水量になることはないので、出発点の必要性がまず失われております。
 また、ここは、吾妻渓谷という美しい自然があり、ダムができれば、この自然は破壊されることになります。また、ここは、長年にわたって集落がつくられており、ダムができれば、三百四十戸の家が水没することになります。そのために現地では長い間反対運動があり、今も、代替地などの交渉に応じた人もいるが、本当の意味でこの計画に賛成している人はいないと、私は群馬県の人から聞きました。
 このように、環境が破壊されてしまうこと、そして、三百四十戸もの家が水没してしまうという多大な犠牲について、東京都はどう考えているのでしょうか。
 また、この計画は、事業費が二千百十億円から四千六百六十億円と二倍になって示されました。東京都の負担分も当然二倍になり、六百三十四億円と示されました。しかし、実際に関連事業費や利息なども含めると、市民団体では、東京負担分だけで千二百億円と試算しております。東京都では、関連事業や利息を含めた場合、幾らと試算しておりますか。
 また、八ッ場ダムを建設した場合、東京都民の水道料金の負担が事業費負担からはね返ってくると思いますが、どれくらい水道料金は値上げになると予想しているのでしょうか。
 次に、このダムは欠陥ダムといわれる、ダムに適さない自然環境にあります。ここは草津温泉のすぐ近くですが、水の酸性度が高く、大量の石灰を使って中和しなければならず、近くにある品木ダムというダムは、中和した沈殿物と土砂でもう既に満杯になっていると聞いています。また地盤も弱い場所で、ダムには適しておりません。
 そして、最大の問題は、現在、東京ではダムの必要性の最大の根拠となっている東京都における水の需要が年々減少していることです。つまり、東京都が現在持っている水源が足りている。いい方を変えれば、東京では水が余っているということです。このことは、水を買う予定となっている他県にも当てはまり、埼玉県や千葉県でも、近い将来に人口の増加のピークを迎えること、そして水洗トイレの普及率がもうすぐ一〇〇%に達することから、水の需要の増加はすぐに頭打ちになるということです。したがって、水需要という最大の必要性がなくなっています。
 そして、ダムの水、つまり川の水に頼らずやっていくためには、東京都でこれまでも保有してきた地下水を今後とも維持していくのかどうかが重要となってきます。地下水は、私の住む三鷹市でもこれまで大切にされてきており、そのおかげで、水の質も長年保証されてきました。多摩地域では、三鷹市では六〇%、昭島市では一〇〇%など、たくさんの市で現在も地下水が利用されています。三鷹市自身も地下水をこのまま維持していくことを望んでいます。毎年、多摩の市長会でも地下水利用の継続が要望されておりますが、今後とも東京都は、現在の地下水をこれまでと変わらず利用していくお考えですか、お答えください。
 現在は、世界的に見ても、ダムは、一度建設したものを壊すというぐらい、脱ダムの流れの中にあります。ダムというのは寿命があり、土砂など堆積物、沈殿物でいっぱいになると無用の長物となってしまいます。アメリカでは一九九四年、開墾局のピアード総裁が、ダムの時代は終わったといって、今後はダムをつくらない方針を示したそうです。むしろ、治水のためには、利根川流域の森林を守り、緑のダムの発想がこれからは大事です。今こそ、政、財、官の癒着によって自然や人々の生活が犠牲になるような無用な計画をなくしていくときです。
 ぜひ、都民の代表である知事、都議会が、結論をこんなに急ぐのではなく、十分な調査、確認を行い、都民の声をよく聞いた上で、将来に禍根を残さない決断をされることを望みます。そして、ダム建設をやめた金額を都内の福祉、教育など、都民にとって優先順位の高いところに回すべきだと私は思います。
 次に、教育行政についてお尋ねいたします。
 私は、特にことしに入ってから都の教育委員会が行ってきた幾つかのことについて、子どもの教育を守る立場から非常に危機感を抱いております。
 その前に、私の基本的考え方を申し上げます。私の祖父は、今話題にします高校教師を戦中、戦後にわたって務め、英語と社会を教えていました。そして、戦時中は、日の丸・君が代のもとにたくさんの教え子たちを戦場に送り込む結果となってしまったのです。そして、その教え子たちは、アジアの侵略した先々で多くの人たちを殺したと思います。また、戦死した人も多数いると思います。つまり、戦争の加害者となってしまったのです。これは私も孫としても耐えがたい事実です。そして同時に、多くの日本人は家を焼かれ、ひもじい思いをし、大変な被害に遭いました。
 知事がきのうおっしゃったみたいに、戦争は映画やゲームではありません。私たち庶民は多かれ少なかれこの苦痛を味わいました。この体験を二度と繰り返してはならない。つまり、日本は二度と戦争による加害者にも被害者にもならないということを世界に発信すべき立場にあります。だからこそ、憲法九条を支持し、教育基本法をつくったのです。
 今イラクへの自衛隊派遣が取りざたされておりますが、絶対に米軍追随のイラク派兵を許してはなりません。このままでは泥沼の戦争に入っていってしまいます。そして、二度と、教育を一部の人たちの意のままとなる場所としてはならないと私は思います。
 教育の場は自主性、そして創造性が尊重される場にしていくことが大切です。この立場から私は質問をさせていただきます。
 まず最初に、十月二十三日、都教育委員会は、都立高校及び都立盲・ろう・養護学校に対して、入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施についてという通達を、都立学校の校長に対して出したことについてです。まず、この通達を出すに至った経緯、そして目的をお答えください。
 また、この通達は、対象が卒業式、入学式などと書かれておりますが、具体的にこの、などという言葉が指している行事をすべてお答えください。
 ところで、この実施指針は校長の職務命令となっており、この実施指針に従わない教職員の服務上の責任を問われるとされております。しかし、私は、このように教育内容に実施指針を細かに示し、それに従わない者は処分も免れないというやり方自身が、教育の場に最もふさわしくないものだと思います。教育の場こそ、自分の力で考えられるよう情報を提供し合う、相互理解、そして納得の上で行動するということが重視されるべき場所だからです。
 まず、このように書面で通達を出し、それに教育内容を指定し、同時に、従わない場合は服務上の責任を問うというようなものを教育委員会で今まで過去に出したことがありますか。あれば、その時期、内容を教えてください。
 都職員に対しては、この実施指針は、実行しなければ服務上の責任に問われることから、明らかに日の丸・君が代の強制となります。
 では、子どもたちにとってはどうでしょうか。このように、会場において先生から国歌斉唱、そして起立と号令がかかれば、なかなかこれを拒否するのは難しい状況に置かれます。もし拒否すれば、先生からつけられる内申書に響くのではないかと考えたりして、自由な行動がとりづらいという声も聞いています。
 そうすると、本来、教育で尊重されるはずである子どもたちが自由な発想に基づいて考え、自己決定をし、そして自分の責任に基づいて行動するということが、ほかからの圧力によって、著しく損なわれることになります。これは、教育上とてもマイナスといわざるを得ません。子どもたちの内心の自由がこれで守られているといえるのでしょうか。
 そもそも、国旗・国歌法は一九九九年に制定されていますが、そのときの政府見解は、日の丸・君が代は、これを強制しないというものでした。
   〔発言する者多し〕
   〔傍聴席にて発言する者多し〕

○議長(内田茂君) 速やかに退場してください。

○十番(伊沢けい子君) 私たち国民の中でも、過去の歴史的経緯から日の丸・君が代については議論が分かれており、それぞれどう考えるかは個人の思想、信条の自由に該当するという判断があったからです。
 学習指導要領でさえ、今回の実施指針のような細かなことは記述されておりませんし、罰則も設けられておりません。今回の実施指針は、政府見解も指導要領をも逸脱し、日の丸・君が代を子ども、教職員に強制するものと思いますが、見解をお伺いいたします。
 教育は上から押しつけるものではありません。そして、愛国心もそうです。以上のように、学校における教育内容の内容決定の自主性を侵害し、力でもって上から押しつけるような……
   〔傍聴席にて発言する者あり〕

○議長(内田茂君) 傍聴規則にのっとり、速やかに退場してください。

○十番(伊沢けい子君) 趣旨となるような今回の通達の撤回を求めます。
 これらの質問につきまして、知事並びに関係部局の答弁を求めます。(拍手)
   〔発言する者多し〕
   〔傍聴席にて発言する者多し〕
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 伊沢けい子議員の一般質問にお答えをいたします。
 まず、国旗・国歌に関する通達を出した経緯と目的についてですが、都教育委員会は、これまでも学習指導要領に基づき、入学式、卒業式等を適正に実施するよう学校を指導してまいりました。
 その結果、平成十二年度卒業式より、すべての都立高等学校、都立盲・ろう・養護学校で国旗掲揚、国歌斉唱は実施されましたが、国旗が参列者から確認できない位置に掲揚されたり、指導すべき立場の教員が国歌斉唱時に起立しなかったりするなど、実施対応にさまざまな課題がございます。
 今回の通達は、こうした状況を改善し、入学式や卒業式などの儀式的学校行事が適正に実施されるよう、新たな通達を行ったところでございます。
 次に、入学式、卒業式等の儀式的行事の範囲についてですが、儀式的学校行事は、学校生活に有意義な変化や折り目をつけ、新しい生活の展開への動機づけを行うものでございまして、入学式、卒業式を初め、周年式典、開校式、閉校式、落成式も含まれております。都教育委員会は、これらの行事につきましても、学習指導要領や通達に基づいて、国旗・国歌の指導が適正に行われるよう、各学校を指導しているところでございます。
 次に、教育内容にかかわる通達と処分についてですが、平成十一年度に出しました国旗・国歌に関する通達においても、教職員の服務について示しております。教員は教育公務員としての身分を有し、法令や学習指導要領に基づいて教育指導を行う責務がございます。
 また、一般に教育指導に関する通達は、法令や学習指導要領に基づき、教育指導を適正に行うことを命ずる職務命令でございます。したがって、この通達やこれに基づく校長の職務命令に違反した場合は、処分も含めて厳正に対処していくのは当然のことであると考えております。
 次に、国旗・国歌の指導にかかわる内心の自由と政府見解についてですが、学校教育は学習指導要領に基づき、児童生徒が生涯にわたって豊かに生きることができるよう必要な教育内容をひとしく教えるためにございます。国旗・国歌の指導につきましても、学習指導要領に示された内容でございまして、すべての児童生徒に対し、国旗及び国歌に対する正しい認識を持たせ、それらを尊重する態度を育てるために、社会科や音楽、特別活動において行われております。
 このことは児童生徒の内心にまで立ち至って強制しようとする趣旨のものではなく、あくまでも教育指導上の課題として進めているものでございます。こうした考え方は、学校教育における国旗・国歌の指導に関する政府見解と異なるとは考えておりません。
 最後に、通達が学習指導要領を逸脱しているのではないかという指摘についてですが、学習指導要領には、入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものと示されております。
 今回の通達は、学校における入学式や卒業式などの実施対応が学習指導要領に示された儀式的行事のあり方に照らして、さまざまな課題があることから、地方教育行政の組織及び運営に関する法律に基づく都教育委員会の権限において示したものでございまして、学習指導要領を逸脱しているとは全く考えておりません。
  〔都市計画局長勝田三良君登壇〕

○都市計画局長(勝田三良君) 八ッ場ダムに関するご質問にお答え申し上げます。
 まず、今議会に付議した理由等でございますが、水を安定的に供給することは、自治体、国の責務でございまして、八ッ場ダムは不可欠なダムであるということから、都といたしまして、将来の水需要について見直すとともに、国から提示のありました事業費について、可能な限り検証を加えまして、国に対して徹底したコスト縮減の取り組みを求めました。その結果、今議会に付議することが適当であると判断したものでございます。国への回答に特段の期限といったものはございませんが、今議会の議決を経た上で、都としては速やかに回答したいと考えております。
 次に、八ッ場ダム建設に伴う環境への影響についてのご質問がございました。八ッ場ダムは将来にわたり安定的な給水を確保し、渇水に対する安全性を確保する上で不可欠なダムでございます。
 ダム建設に当たっては、自然環境に配慮し、生態系に与える影響を極力抑えるよう、十分配慮して施工されております。昭和六十年に建設省通達に基づきます環境影響評価が実施され、その後、さらに平成十一年に施行されました環境影響評価法に準じまして、猛禽類の保全対策などの各種調査も行われております。
 都といたしましては、工事施工に当たり、なお一層周辺環境に配慮するよう、国に申し入れを行っております。
 次に、八ッ場ダム関連の都の実負担総額についてでございますが、ダム建設費や水没関係住民の生活再建支援を目的といたしました、法に基づく事業の経費と基金事業の既支出分を合わせまして、約七百七十三億円と試算しております。
 また、八ッ場ダムについての反対というご指摘がございましたが、八ッ場ダムにつきましては、長い間の議論があったことは事実でございますが、この間、群馬県が国と地元の間に仲介に入りまして、生活再建等の議論が尽くされまして、覚書として締結されました。昭和六十一年には現在の基本計画が策定され、平成十三年には補償基準の妥結に至っております。現在はつけかえ道路等の工事が地元との了解の上、速やかに進んでいる、こういう状況でございます。
   〔水道局長飯嶋宣雄君登壇〕

○水道局長(飯嶋宣雄君) 二点の質問にお答えいたします。
 まず、八ッ場ダムの建設に伴う水道料金への影響についてでございますが、平成十四年度決算における給水原価は、一立方メートル当たり二百十七円であり、このうちダムなどの水源関係費は二十五円となっております。
 この水源関係費は、これまでに完成したダムなどの元利償還費が今後減少していくことから、八ッ場ダムの事業費を織り込んだとしても、ほぼ横ばいで推移すると見込まれております。したがいまして、八ッ場ダムの建設に伴う水道料金への影響は少ないものと考えております。
 次に、地下水の今後の活用についてでございますが、地下水につきましては、揚水規制が実施され、地盤沈下は沈静化してまいりましたが、地域によりましては、依然として再発の危険があり、今後も揚水規制の継続が必要とされております。また、水質についても、トリクロロエチレン、ジオキサンなどが検出されたことから、一部の井戸の使用を中止してきた経過がございます。
 このように、地下水は地盤沈下や水質の面から長期的に見て、水源としての安定性に欠ける面がありますが、身近に利用できる貴重な水源でございます。
 したがいまして、今後とも、地盤沈下や水質の動向に十分配慮しながら、可能な範囲で活用を図ってまいります。
   〔十番伊沢けい子君登壇〕

○十番(伊沢けい子君) それでは、再質問をいたします。
 この日の丸・君が代の件について、こういう形で処分を前提とする通達というのは過去に、平成十一年と今回と二回だけということです。なぜ、そうなるのでしょうか。ということは、ほかの教育課程のものは、自主性が尊重されており、そして現場の教職員また保護者などの意見などを踏まえて自主的に行われているはずです。このことについてお答えください。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) ただいまのご質問でございますが、いずれにしましても、卒業式、入学式における国旗・国歌の問題というのは非常にこれまで混乱しておりまして、その混乱状況を正常化するために、教育内容に関し、通達を行ったものでございます。

○議長(内田茂君) 以上をもって質問は終わりました。

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