平成十五年東京都議会会議録第十四号

○副議長(中山秀雄君) 十八番野上じゅん子さん。
 〔十八番野上じゅん子君登壇〕

○十八番(野上じゅん子君) 初めに、子育て支援についてお伺いいたします。
 具体的な問題に入る前に、みずからも四人のご子息を立派に育て上げられた石原知事に、ご自身の子育てについての考え方をまずお聞きします。
 昨日の本会議でも、次世代育成支援に関して活発な議論が展開されましたが、私は、次世代育成支援の取り組みを真に実りのあるものとするためには、それぞれの地域での子ども家庭支援センターなどを拠点とした、豊かな知識を持った経験者やOBを含めた教育関係者などによる、子育てに関する啓発やきめ細かな相談、あるいは子育て情報の相互発信などの取り組みが必要と考えます。
 都が策定する行動計画の中で、このような取り組みを盛り込むべきと考えますが、いかがでしょうか。
 また、次世代育成支援の取り組みには、行政はもとより、地域社会や企業を含めた社会全体で取り組むべき機運を高めることが、何よりも重要です。
 そこで、次世代育成支援対策推進法の行動計画の策定に先立ち、都みずからが率先して、子育ての意義について広範な都民の理解が深められるよう、シンポジウムなどの啓発活動を行うことが、今すぐにでも必要と考えます。あわせて所見を伺います。
 次に、年金教育について伺います。
 公的年金は、すべての国民を対象にした制度であります。高齢社会にあって、老後を社会全体が支える公的年金の意義と役割はますます重要になってきております。
 ところが、若い世代には年金は遠い先の話であり、自分の老後の時期には、この年金制度が破綻して受給できなくなるのではないかという不安があり、年金の未払いが約四〇%に達している現実があります。特に若年層にあっては、転職したり、フリーターに代表される就労形態が多く見られます。職場や住所を変えるたびに公的年金に関する必要な手続をとっておかなければ、けが一つしても障害年金を受けられないこともあります。世代間で支え合う年金の仕組みや社会的意義を、中学生や高校生の段階からしっかりと理解させる必要があります。
 同じ視点からいえば、租税教育に対する取り組みは行われてきており、税務署員などが学校を訪問して行う租税教室は、昨年度、都内小学校では二百九十四校、中学校では百五十五校で実施しています。
 そこで、都教育委員会の年金に関する教育への認識と、学校での実施状況について伺います。
 葛飾区では、社会保険労務士の方が講師となり、年金についての授業を推進し、わかりやすくおもしろかった、将来しっかりと自分は負担したい、などの感想が寄せられています。
 次の時代の担い手である子どもたちに、国民としての責務を的確に理解させることは、十年河清を待つとの箴言を引用するまでもなく、極めて重要な教育の課題と考えます。
 都においては、この趣旨を踏まえ、関係機関と区市町村教育委員会と連携し、年金教室の充実を図るべきと考えますが、いかがでしょうか。
 次に、都営交通について伺います。
 東京の治安は、犯罪発生件数の増加、検挙率の低迷など、悪化の一途をたどっています。知事も所信表明の中で、街角に安全を取り戻さない限り、東京の治安が回復したとはいえません、都民が安心して町を歩けるようにするため、今後あらゆる手だてを講じてまいりますと、治安回復への決意を表明しておられることに、同じ思いを禁じ得ません。
 さて、女性にとって、日々通勤する満員電車の中で、身動きができず、痴漢などの耐えがたい迷惑行為をされると、不快感が一日じゅう続くものであり、最近では、痴漢に加え、携帯電話による車内での盗撮の実態も報告されております。
 警視庁によると、電車の中での痴漢発生は、検挙数だけでも、平成十四年度は千六百十三件、十五年度上半期には八百五十件にも上っており、被害届を出さずに泣き寝入りをしている女性の数は、はかり知れません。
 そこで私は、女性にとってより安全で快適な車両環境づくりを目指す上から、都営地下鉄に、朝のラッシュ時などに、時間を特定して女性専用車両を導入することを主張するものであります。
 ちなみに、国土交通省のアンケートでも、男性六六%、女性七七%が女性専用車両の導入を要望しております。
 都においては、相互乗り入れをしている他社との調整を図り、都営地下鉄の路線の中でまず試行的に実施することを、重ねて強く求めるものであります。所見を伺います。
 次に、性同一性障害についてであります。
 自分の体の性別について不愉快や不適当であるとの意識を持ち、反対の性のジェンダーアイデンティティーを持つ性同一性障害については、近年、医学的な解明が進められ、原因として、胎児期に受けたホルモンの影響が挙げられています。自分の体がどちらの性別かということは十分にわかっていても、なお反対の性別に対して一体感や所属感を感じ、逆に自分の体を嫌悪し、体の性別を変えたいと願うケースがほとんどです。
 ことしの七月十日に、国会では、性同一性障害の性別取り扱い特例法が全会一致で可決成立しました。初めて戸籍の変更を可能にする道が開かれ、性同一性障害というものを国が認めたという意味で、評価できるものであります。
 法制定によって、婚姻していないこと、現に子がいないこと、生殖腺の機能を失っていることなどの諸要件を満たす場合、家庭裁判所に性別変更の審判を請求できます。
 しかしながら、性同一性障害の当事者は、本人にとって望ましい性で暮らすことができるとはいえ、社会活動に必要な住民票、パスポート、社会保険関連等の公的書類においては、性別が、外見や社会生活上の性別と食い違っているため、今なおさまざまな不利益や差別をこうむっている実態があります。
 住民票によって出生時の性別がわかってしまうため、いわれのない差別を受け、就職の意思や能力があっても職を得ることができない、賃貸住宅の契約が結べないなど、生活困難となる当事者が数多くいます。生活上の性別と戸籍が周囲に明らかになった場合、地域社会での生活に障害が生じ、例えば、本人確認の際のトラブルを避ける余り、投票に足を運べないなど、実質的に基本的な権利が奪われる現実もあります。
 そこで伺います。
 第一に、都として、人権擁護の観点から、性同一性障害への正しい認識を社会的に周知すべきです。
 第二に、各種申請書や行政文書から性別記載が不必要なものを削除するなどの行政的配慮を求めるものです。
 第三に、性同一性障害を理由として職場での差別が行われないように、企業等に理解を求める措置も必要です。所見を伺います。
 次に、音楽療法についてです。
 音楽を通して知的、精神障害者や痴呆性のお年寄りの心をケアし、心身の機能回復を促す音楽療法については、医学的な立証も進み、アルツハイマー病の予防や治療に効果があることが、治験による科学的データとともに先ごろ発表されました。音楽療法により、心身の活性化を促すといわれる二種類の性ホルモン、テストステロンとエストラジオールの分泌量が増加することが報告されています。音楽療法に対するニーズは各地で高まってきておりますが、音楽療法士が国家資格でないことから、職業的な身分が安定せず、このことが音楽療法の導入をおくらせる大きな原因にもなってきました。
 平成九年度の都議会審議において、都は音楽療法導入への取り組みを検討することを表明しております。そこで、これまでの取り組みと進捗状況を明らかにされたいと思います。
 都は、こうした経過を踏まえ、さらに今後、音楽療法を積極的に活用することで、高齢者はもとより、精神疾患患者や心身障害児の治療や機能回復に役立たせるべきであると考えます。所見を伺います。
 最後に、地元葛飾区の水元公園の利用についてであります。
 都内有数の広さを誇るこの公園は、水と緑と自然にあふれ、四季折々の豊かな景観とともに、区民はもとより幅広い都民の方々に憩いと安らぎを与え続けてくれています。近年特に、花ショウブ園、芝生公園、バードサンクチュアリー、メタセコイアの林などの魅力も相まって、家族連れや若いカップルなどの息吹が満ち、桜やショウブの咲き誇る季節には、かつてないほどのにぎわいを見せるのが常となっています。
 ところが、残念なことに、来訪者の飛躍的な増加に比べ駐車場が不足しているため、周辺道路では、片側の道路をふさぐ数珠つなぎの車や住宅街の迷惑駐車で、地域住民の怒りを買っております。来訪者の不便さはいうまでもなく、いやしの施設であるにもかかわらず、画竜点睛を欠く結果となっています。より愛され利用しやすい公園にするため、附帯設備としての駐車場の増設を強く主張するものであります。見解を伺います。
 また、水元公園は、今後、幅広い都民の要請に的確にこたえて、より一層の整備が図られなければなりません。そのためには、都と区、地元関係者などによる連絡会などの協議の場を設け、その推進に努めるべきであります。見解を伺います。
 ありがとうございました。(拍手)
 〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 野上じゅん子議員の一般質問にお答えいたします。
 教頭先生まで務められた野上さんが、昨今の子どもの育て方についていろいろ憂慮されているのが、本当に痛いようにわかりますが、何といっても、子育ての本当の責任者は、学校の先生じゃなしに親だと私は思います。やっぱり親は何といっても自分で産んだ子どもですから、それを真っ当な人間に育てる使命がありますし、責任があります。
 そしてまた、人間にとって本当に大切なものは、子どもがそれぞれ違った形で備えている個性だと思いますし、それを存分に伸ばす配慮というものが、有形無形、親がすべき最大の責任の履行であると思うんです。
 私は若いころ世の中へ出て、物書きで非常にへんぱな生活をしていたものですから、専ら母親に子どもの育児といいましょうか、任せておりましたが、大事なことは、やっぱり家庭で子どもと親が、触れ合うといったって、いろんな触れ合い方があるんでしょうけれども、このごろは、昔みたいに一つの新聞を全部が読むとか、そんなものじゃなしに、本だって少のうございましたけれども、今は、本もたくさんある、雑誌も来る、テレビもあって、それぞれが自分の趣向のままに家ですることが多過ぎて、実は接触がない。
 私はやっぱり、特に男親というのは外で働いて、子どもと会う機会が少のうございますから、端的に親が子どもにとにかく触ることが必要だと思うんです。触るだけでも、とにかく言葉じゃなしに、つながるものがあると思いまして、そういう習慣というものを、私、本にも書いたことがありますけれども、あるところで話したら、若いお母さんたち、なるほどとうなずいてくれましたが、そんな工夫といいましょうか、私はごく自然に――触るといったって、時にはつねったりかじったこともありますけれども、まあやっぱり本当の触れ合い、つながりというものをどうやって家庭で形成していくかということは、言葉の対話、会話じゃなくて、もっと端的に率直にできることがあるのじゃないかと思っております。
 その他の質問については、教育長、東京都技監及び関係局長から答弁いたします。
 〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 年金教育に関します二点の質問にお答えします。
 まず、年金に関する教育についてですが、少子高齢化社会が進展する中で、年金制度を安定的に運用していくことが求められておりまして、中学生、高校生の時期から、年金の役割であるとかあるいは仕組みを理解していくことは重要なことでございます。
 年金につきましては、中学校では社会科、高等学校では現代社会や政治経済で、少子高齢化や生存権の保障の問題との関連を踏まえまして指導が行われております。
 今後とも、二十一世紀の社会を担う生徒が、社会を支える年金を自分の問題としてとらえ、これからの福祉社会の目指すべき方向について考え、行動していけるよう、指導の充実を図ってまいります。
 次に、年金教室の充実についてでございますが、年金教室は、年金の役割や仕組みをわかりやすく学習させるため、東京社会保険事務局の職員等が学校を訪問して行っておりますが、この授業は平成十四年度から始められたものでございまして、まだ一部の公立中学校、高等学校での実施にとどまっております。
 今後とも、年金に関する教育の重要性を踏まえまして、東京社会保険事務局や区市町村教育委員会と連携しまして、多くの学校が年金教室を実施するよう取り組んでまいります。
 〔東京都技監小峰良介君登壇〕

○東京都技監(小峰良介君) 水元公園に関する二点の質問にお答えいたします。
 まず、駐車場整備についてでございますが、公園の駐車場は広域的な利用にこたえるとともに、障害者や高齢者の公園へのアクセスを容易にするなど、重要な役割を果たしております。
 水元公園には現在、公園北側に二百十台余りの常設駐車場を設置しており、ショウブ祭り等でにぎわうときには九百台以上の臨時駐車場を確保しております。
 今後さらに駐車場をバランスよく配置するため、十六年度開設を目指し、南側の水産試験場跡地に八十台の駐車場を新たに整備いたします。
 次に、公園整備の推進についてでございますが、これまでも都は、地元区や関係団体と話し合いながら、メタセコイアの森や小合溜など、自然の特徴を生かした公園づくりに取り組んでまいりました。
 現在、水郷景観の復元をコンセプトに、水産試験場跡地を、貴重な水生植物の保護や、水辺環境との触れ合いの場となるよう、整備を進めております。
 今後、水元公園の一層の活性化に向け、地元区と連絡会を設置し、公園利用者や関係団体の意見を聞きながら公園整備を推進してまいります。
 〔福祉局長幸田昭一君登壇〕

○福祉局長(幸田昭一君) 子育て支援についてのお尋ねにお答えいたします。
 家庭や地域の養育力が低下し、少子化が進む中では、社会全体で子育てを支援する仕組みを構築することが重要であると認識しております。
 これまでも都は、子ども家庭支援センターなどを拠点といたしまして区市町村が地域住民と連携して行う、子育てに関する啓発や相談援助活動などを支援してまいりました。
 来年度予定しております次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画の策定に当たりましては、お話しの、地域での子育て支援策の充実につきましても検討してまいります。
 また、社会全体で子育てを支援する機運を高めていくことは、ご指摘のとおり大変重要でございます。都みずから率先して、計画策定に先立ち、本年十一月にシンポジウム「子育て応援団in東京」を実施いたします。
 〔交通局長松尾均君登壇〕

○交通局長(松尾均君) 都営地下鉄への女性専用車両の導入についてお答えいたします。
 現在、女性専用車両は、車掌が乗務している各社の単独路線において導入されているのが実情でございます。導入に当たりましては、専用車両以外の車両がラッシュ時にはより混雑するなどその対策が必要となること、このほか案内整理要員の確保や、専用車両の運行方法などについて相互乗り入れ他社との合意が求められるなど、さまざまな課題がございます。
 今後とも、犯罪防止の啓発放送等を実施するとともに、他社の動向を踏まえつつ、女性専用車両の試行的導入の可能性について検討してまいります。
 〔総務局長赤星經昭君登壇〕

○総務局長(赤星經昭君) 性同一性障害に係る二点の質問にお答え申し上げます。
 日本精神神経学会の定義によりますと、性同一性障害とは、自分の肉体の性をはっきり認知しながら、人格的には自分が別の性に属していると確信している状態とされております。この七月には法令上の性別の取り扱いを変更できる法律が成立するなど、社会的に認知され始めてきております。
 東京都では、平成十二年に策定いたしました人権施策推進指針の中で、性同一性障害のある方々に対する偏見や職場における差別などの問題を取り上げておりまして、今後とも、さまざまな機会を通じまして啓発を行うなど、理解の促進に努めてまいります。
 次に、行政文書への性別記載についてでございますが、行政サービスの提供や資格証明を行う際、行政文書への性別の記載がなされるのは、基本的には合理性があるものと考えております。しかし、性同一性障害のある方々にとって著しく配慮を欠く場合があれば、個別、個々のケースについて検討してまいります。
 〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 性同一性障害を理由とした職場における差別についてご質問がございました。お答えいたします。
 都は、性同一性障害を含む障害のある人に対する差別を初め、職場でのあらゆる差別解消のため、啓発冊子の発行や雇用主研修会の実施により、企業に対して広く普及啓発を図っております。さらに、実際に職場での差別があった場合には、労政事務所において相談等を行っているところでございます。今後とも、啓発や相談に当たっては、引き続き不当な差別をなくすように努めてまいります。
 〔健康局長平井健一君登壇〕

○健康局長(平井健一君) 音楽療法へのこれまでの取り組みと、今後の普及についてお答えいたします。
 都は、平成十年度及び十二年度にボランティアとして病院などで活動する都民を対象に、音楽療法の普及啓発のための講演会を実施いたしました。
 今後とも、都内のリハビリテーション医療機関における音楽療法の実施状況の把握を行うとともに、ご指摘の点も踏まえまして、講演会の開催など、必要な事業を実施いたし、その普及啓発に努めてまいります。