平成十五年東京都議会会議録第十四号

○議長(内田茂君) 十五番河野百合恵さん。
 〔十五番河野百合恵君登壇〕

○十五番(河野百合恵君) ことしは、関東大震災から八十年、阪神・淡路大震災から八年目の年に当たり、ちょうど二カ月前の七月二十六日には宮城県北部連続地震も起きました。また、けさ、北海道で震度六弱の地震が起きています。
 東京でも、この二十年近くの間に、震度五の地震が二度起きており、日本列島が地震活動期に入ったといわれる中、いつ東京が大地震に襲われても不思議ではないといわれています。しかも、東京は超過密都市ですから、その被害は、阪神・淡路や宮城県北部などとは到底比較にならない規模のものとなることが想定されます。それだけに、東京における震災対策は、過去の地震災害の教訓に深く学ぶとともに、大都市に固有の、またこれまでだれも経験したことのない災害がもたらされる危険を踏まえたものとしなくてはなりません。
 私は、先日、学校や個人住宅など大きな被害を受けた宮城県北部地域を訪ね、地震被害の現状をこの目で見てきました。本日は、この調査も踏まえながら、地震は避けられないが、地震による被害を防ぐことはできるという立場に立って、震災予防対策に絞って質問します。
 まず、学校の耐震化について伺います。
 最初に伺った宮城県河南町の北村小学校は、耐震補強が実施されていませんでした。このため、強い縦揺れで被害を受け、校舎の中は、窓が落下して、あたり一面にガラスが飛び散り、戸棚は倒れ、鉄製の防火扉も外れて廊下がふさがれていました。また、鉄筋が切れた壁は崩落、男子トイレの間仕切り板は外れて飛び、床に落ちていました。
 地震が起きたとき学校にいた校長先生は、実際に体験した地震のすさまじさとともに、夏休みの早朝で子どもたちがいなかったことが救いだった、授業中であったら大惨事は避けられなかったと率直に話してくださいました。私たちが訪れた日、たまたま学校に来ていた卒業生は、母校の余りの変わりように涙を流していました。
 知事、万が一にも子どもたちを地震による被害に遭わせるようなことがあってはならないと思いますが、どうですか。
 隣町の矢本町では、耐震補強がされていた中学校はほとんど被害がなく、未実施の中学校は、十七教室のうち十一教室が使用不能になっていました。私は、子どもたちの学びの場であり、災害時には避難所になる学校がこれでいいのかと率直に思いましたし、東京の現状を考えると、他人ごととは思えませんでした。
 私が住んでいる江戸川区では、現在、二十校の耐震診断が未実施で残され、そこに学ぶ児童生徒は約七千六百人もいます。全都的にも、耐震補強が必要と思われる小中学校が多く残されているといわれています。
 耐震補強が進まない理由の一つに、区市町村にとって重い財政負担ということが挙げられます。それだけに、都としての支援が待たれているのです。
 今回聞いたところでは、宮城県では来年度から、県として、小中学校の耐震化に財政支援を行う検討を始めたとのことでした。そこで、東京都としても、公立小中学校の耐震補強を一日も早く終わらせられるように、区市町村に思い切った補助を行うよう制度を創設すべきときと考えます。見解を伺います。
 体育館の改修も急がれます。北村小学校では、耐震補強をしていなかった体育館も全壊で使用不能になりました。国の緊急五カ年計画では、体育館はかさ上げ補助の対象になっていません。災害時には住民の避難所になる大切な施設ですから、これは納得がいきません。国に対して、体育館をかさ上げ補助の対象に加えるなどの対策強化を要望すること、あわせて東京都としても必要な支援を行うよう求めるものですが、答弁を求めます。
 地震に備えて、日常的に学校施設の安全を確認しておくことが大切です。学校防災マニュアルの学校施設、設備の点検リストについて、ガラスの飛散やトイレの間仕切りの脱落など、宮城県北部連続地震の被害に基づいて必要なものを補強し、区市町村の小中学校を初め全都で一斉に安全点検を行うこと、また予算措置を含めた支援を行うことを求めるものですが、どうでしょうか。
 宮城県の地震では住宅の被害も深刻で、損壊した家屋は一万一千五百六十棟に及びました。これが人口密度が高い東京なら大惨事になっていたことでしょう。阪神・淡路大震災では、木造住宅の倒壊によって圧死した人は死者の八割に及び、その後の火災とあわせて被害を拡大しました。
 一方、東京には約三万ヘクタールにも及ぶ整備対象地域が残されており、しかも、そこに住む住民の多くが高齢者や低所得者、借家や借地の人で占められており、これらの人への支援と対策を抜きに改善を進めることは困難です。
 また、事業の推進には、用地の確保など公共の関与が不可欠ですが、東京都は、防災都市づくり計画の見直しで、指定地域を縮小して民間主導の再開発にシフトさせるなど、改善事業を後退させようとしていることは問題です。
 木造住宅密集地域の改善には、家や土地を借りている人など、弱い立場の人のための公共住宅の建設や住宅再建のための種地の確保は欠かせません。また、建てかえや住みかえなどへの行き届いた支援の仕組みがあって初めて整備が前進するのではないでしょうか。見解を伺います。
 木造住宅密集地域の整備が進まないのは、東京都が必要な予算を確保してこなかったことも原因の一つです。江戸川区内では、西瑞江、篠崎地域などの木造密集地域で区画整理事業が進められていますが、東京都はその予算を年々削り、逆に臨海部の道路建設などに回しているではありませんか。
 木造密集地域の改善を重要な課題として位置づけ、予算を抜本的に拡充することが必要です。さらに、木造密集地域整備に当たっている区市町村への財政支援を強めることを求めるものですが、それぞれ答弁を求めます。
 これまでの地震で倒壊、大破した木造住宅の多くは、縦揺れで柱が土台から抜けたり、開口部が破壊されたり、重いかわら屋根で家が押しつぶされるなど、共通した特徴が見られます。
 しかし、このような木造住宅でも、建てかえなくても、土台と柱の結束、柱の間の筋交い、壁の補強、屋根の軽量化などの耐震改修を行うことで倒壊を防ぐことができます。また、不燃、耐火の改修も被害防止に大きな効果を発揮します。
 しかも、これらの耐震、耐火工事は、そんなに高額ではなく、一定の補助を行うことで促進することは可能です。実際に、震災対策が進んでいる静岡県では、改修補助を実施しており、横浜市でも、上限額五百四十万円までの耐震改修補助制度を導入しています。
 家屋の倒壊から都民の生命と財産を守ることは、最優先の課題です。木造個人住宅の耐震補強、耐火改修工事への助成制度を創設すること、また、その前提となる耐震診断助成制度を実施することを求めます。
 加えて、都民の防災意識の向上と地震に強い住宅づくりを促進するために、わかりやすいパンフレットを作成し全都民に配布することなど、区市町村と協力して啓発を強めるように求めます。それぞれ答弁を求めます。
 巨大過密都市東京が大地震に襲われた場合、はかり知れない規模の被害が起こることが想定されます。しかも、東京の場合は、林立する超高層ビルや広大な地下街、縦横に走る地下鉄など、都市型災害の危険と隣り合わせの開発が進んでいます。また、ビルパニック、帰宅困難者、高層住宅での孤立など、まだ解明されていない混乱や被害が発生することが想像されます。
 まず、超高層ビルの耐震安全性の問題です。
 一つは、揺れによる被害です。研究では、東海地震が想定された規模で起きた場合、四十階の超高層ビルの最上部では、最大八十センチ近い振幅に襲われると見られています。この場合、室内の家具の倒壊やテレビなどの散乱、壁への激突によるけがなどの発生が心配されています。
 ビルそのものの安全性も問題が指摘されています。現在の超高層ビルは、短い周期の波動の地震に対応するように設計されていますが、実際には、長い周期の波動の地震の発生の可能性も否定できないこと。その場合、長い周期の地震波を受けた超高層ビルでは、共振現象や大きな横ずれによるビル破壊の危険も考えられるということです。
 阪神・淡路大震災で被害がなかったからといって、超高層ビルの安全性が保障されたわけではないという学会の見解も示されています。超高層ビルの安全度、地震時のコンピューターの機能停止やエレベーターの故障のおそれ、ビルパニック、高層住宅内の安全問題など、多くの問題が未解明のままです。建築基準が満たされていればよいということではなく、これらの問題の解明を急ぎ、超高層ビルでの被害を未然に防ぐ対策が急がれていると考えますが、見解をお聞かせください。
 阪神・淡路大震災では、地下鉄にも被害が出ました。開削工法による建設だったことが原因でしたが、地下鉄は安全であるといわれてきたことに疑問を抱かせる被害でした。一方、東京の地下鉄は、総延長二百三十九キロのうち、耐震補強が終わったとはいえ、開削工法によるものが七〇%を占めています。
 また、都内には営団と都営の地下鉄が合わせて十二路線走っており、大手町や新宿などのように、複数の路線が集中している駅が数多くあります。地下鉄の耐震設計は一路線ごとに完結していることから、複数の路線が交錯している駅全体の耐震性は考慮されていないといわれています。開削工法の安全性、複数路線駅の耐震性、震度七の対応、縦揺れ対策など、研究と対策が急がれます。地下街も同様です。国に働きかけて、これらの地下都市施設の安全確保のための取り組みを始めることが必要ではないでしょうか。答弁を求めます。
 知事が進めている都市再生のもとで、超高層ビルや地下鉄、地下街などの都市施設が次々に建設され、東京は急激な膨張を続けています。ところが、東京都は、これらの大規模な複合施設のもとでの地震災害について、調査も被害想定も行っていません。これでは、都市災害に無防備な状態といわれても仕方ありません。直ちに調査を行い、被害想定を策定すること、その上で必要な対策を講じるよう提案します。答弁を求めます。
 最後に、東京を安全な都市として再生していく上で、都市の災害への備えは極めて重要であると考えますが、知事の答弁を求め、質問を終わります。(拍手)
 〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 河野百合恵議員の一般質問にお答えいたします。
 震災時における子どもたちの安全対策についてでありますが、学校は、我が国の将来を担う子どもたちを育成する場所でありまして、何よりも子どもたちの身体、生命の安全確保を第一として安全対策に取り組んでいくことが肝要だと思います。
 私も、就任早々、台中で大地震がありまして、知己であります李登輝前総統に請われて、東京の建築の専門家と同伴して、視察に行き、すべき援助もいたしましたが、あのときにやっぱり震源地に近いところでの中学校が、三階建てですが、完全につぶれておりまして、案内された人が、もしこれがやっぱり、子どもの通っている日中だったら、とんでもないことになった。あなたが視察された学校も幸い夏休みということで助かったんでしょうが、やっぱりいつ地震が来るかわかりませんから、子どもたちのためにも安全対策は肝要だと思います。
 次いで、東京の震災対策についてでありますが、東京を災害に強い都市にしていくためには、ハード、ソフト両面からの取り組みが必要であります。このため、都では、災害に強い都市構造とするために、都市の再生を推進しておりますが、一方、みずからの命は自分で守るという自助、自分たちの町は自分で守るという、いわゆる共助があって初めて、都なら都が乗り出した公助も生きてくるというわけであります。そのための訓練や啓発を通じ、災害に強い地域社会づくりを促進しております。
 今後とも、首都東京の一層の安全性を目指して、災害への備えに万全を期すつもりでございます。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁します。
 〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 学校施設の耐震に関します三点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、区市町村に対する補助制度の創設についてでございますが、公立小中学校の耐震化につきましては、設置者である区市町村が、子どもたちの身体、生命の安全を確保するために、それぞれの責任において対応すべきものであると考えます。お話の新たな補助制度につきましては、財政上の理由からも困難でありますことから、区市町村は、国の助成制度を十分に活用して、公立小中学校の耐震化を適切に推進していくことが必要であると考えます。
 次に、体育館の耐震性強化に関する国への要望や都の支援策についてでございますが、体育館の補助率のかさ上げにつきましては、体育館の耐震化を促進するため、平成十二年度より、地震補強事業予算額の拡大などとともに国に対して要望しておりまして、今後とも強く要望してまいります。
 また、お話の区市町村に対する支援につきましては、都教育委員会としましても、区市町村が国の助成制度を十分活用して学校施設の耐震化を適切に推進するよう、指導、助言しますとともに、耐震化に関する講習会を実施するなど、引き続き行ってまいります。
 次に、学校防災マニュアルの補強と全都一斉の安全点検等についてですが、学校防災マニュアルの学校施設、設備等の点検リストは、過去の震災等を教訓に点検項目を設けておりまして、今後も必要に応じて改定をしてまいります。また、都立学校では、学校防災マニュアル等に基づきまして、施設、設備等の安全確認を行ってきております。
 なお、区市町村教育委員会に対しまして、学校防災対策等の一層の充実が図られるよう、学校防災マニュアルを配布しておりますが、区市町村の小中学校の安全対策等につきましては、設置者でございます区市町村がそれぞれの責任において適切に対応していくべきものと考えております。
 〔住宅局長高橋功君登壇〕

○住宅局長(高橋功君) 木造住宅密集地域の整備についてのご質問でございますが、都が区市と連携し、木造住宅密集地域整備促進事業を六十四地区を対象に実施しております。この中で、老朽化した木造住宅の建てかえ促進や、道路、公園の整備などに伴う代替地や代替住宅の確保など、これまでさまざまな支援を行ってきております。
 今後も、これらの手法を活用いたしまして、木造住宅密集地域の整備を進めてまいります。
 〔都市計画局長勝田三良君登壇〕

○都市計画局長(勝田三良君) 木造密集地域の対策等につきます五点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、区市町村への支援についてでございますが、防災都市づくりは、震災時における都民の生命、財産を守ることを目的としておりまして、早期に安全性を確保していくことが重要でございます。特に、密集地域におきましては、現在改定中の防災都市づくり推進計画におきまして、関係区市と連携を図り、重点整備地域を選定し、事業を重点化して実施することとしております。
 都といたしましては、主要な延焼遮断帯となります都市計画道路を整備するとともに、区市が実施をいたします事業について、技術的支援や補助金を交付するなど、防災都市づくりの推進に努めております。
 次に、木造住宅の耐震、耐火補強についてでございますが、耐震診断等は、本来、建築物の所有者等の責任において行われるべきであると考えております。都といたしましては、耐震診断講習会の開催や診断機関の紹介、所有者みずからが診断できる簡易診断方法の周知等を行ってまいりました。また、耐震診断等に関するパンフレット、ビデオ等を作成し、区市町村の窓口を通じまして都民に配布をいたしております。
 今後とも、耐震診断、改修への助成等を行っている区市町村と連携をいたしまして、木造住宅の耐震性の向上及び都民への普及啓発に、より一層努めてまいります。
 次に、超高層建築物の安全性についてでございますが、建築基準法では、高さ六十メートルを超える建築物を超高層建築物と定めております。これらの建築物は構造上の安全性につきまして国土交通大臣の認定が必要でございまして、一般の建築物を上回る高い安全基準が適用されております。
 防災性につきましては、避難誘導を初め、ビルの災害対策を指揮する防災センターとしての中央管理室の設置が義務づけられておりまして、高い安全性が確保されております。また、超高層建築物は、総合設計制度などの開発手法により計画されることが多く、その際、構造上の強度、防災性以外にも、道路など交通環境に与える影響、風害、落下物対策など、周辺環境に与える影響につきまして、特定行政庁が審査をしております。
 このように、震災対策には万全を尽くしておりまして、今後とも超高層建築物の安全確保に努めてまいります。
 次に、地下施設の安全確保についてでございますが、都内の地下鉄は、これまで、関東大震災クラスに対応できる耐震設計を行ってまいりましたが、阪神・淡路大震災後は、各鉄道事業者が震度七程度の地震にも対応できるよう補強工事を完了しております。また、地下街につきましては、建築基準法及び東京都建築安全条例に基づきまして、火災拡大の防止並びに避難安全性の確保を行っております。
 今後とも、都といたしましては、国など関係機関と連携を図りまして、これら地下施設の安全確保に努めてまいります。
 最後に、地震災害に関する調査についてでございますが、都は、防災まちづくりを進めるため、超高層ビルが集中する地域も含め、五年置きに地域危険度測定調査を実施しておりまして、昨年十二月には、建物倒壊危険度、火災危険度、避難危険度などを第五回危険度測定調査結果として公表いたしました。この結果を防災都市づくり推進計画に反映させることによりまして、危険度の高い地域で早期に防災性の向上を図っていくこととしております。
 なお、ただいま申し上げましたとおり、超高層ビルなどは最新の技術基準に基づき設計、施工されるため、震災時も十分安全が確保されると考えております。

○議長(内田茂君) この際、議事の都合により、おおむね二十分間休憩いたします。
   午後三時三十五分休憩

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