平成十五年東京都議会会議録第十四号

○副議長(中山秀雄君) 三十九番中嶋義雄君。
 〔三十九番中嶋義雄君登壇〕

○三十九番(中嶋義雄君) 知事は、今定例会の所信表明におきまして、エイズ問題に触れられました。
 かつて清水幾太郎氏は、古来からの天譴思想を紹介し、日本人にとって地震は世の混乱を正す天の譴責であったと書いたことがございます。それに倣っていえば、エイズこそまさに天譴であるのかもしれません。
 それはともかく、近年、エイズへの関心が低下しておりますが、知事が指摘するとおり、事態は深刻でございます。献血からエイズ感染が発見される割合は依然として高く、また、先進国の中でエイズ感染者の増加率が上昇している国は日本のみでございます。
 こうした指摘を通して、長年、エイズ問題の深刻さを訴え、ボランティアで無料相談やエイズ検査を行ってきたのが、赤枝六本木診療所の赤枝恒雄医師でございます。マスコミ等でも紹介され、ご存じの方も多いかもしれませんが、昨年、公明党の女性局が同医師を訪問し、私も二十一日の日曜日に訪ねてまいりました。赤枝医師から聞かされたエイズ問題の実態には、身の毛のよだつ思いがいたします。
 同医師によりますと、二十五歳以上のエイズ感染者はほとんどが男性であるのに対し、二十歳から二十四歳までは約六〇%が女性であり、十代ではそれが約七〇%に上るといいます。しかも、十代の女性の感染者の多くは中学生や高校生であり、いわゆる援助交際という名の売春行為でエイズに感染し、親に相談するわけにもいかず、したがって公的な助成等は一切受けられません。
 現在、感染者の治療は発症抑制剤の投与が中心ですが、これにはおよそ月三十万円かかります。この費用を賄うために、再び売春行為に走る十代の女性が少なくないといいます。これは紛れもなく深刻な悪循環であり、エイズ感染のひそかな拡大の可能性を物語っております。
 赤枝医師は個人の立場でエイズの問題に立ち向かっておりますが、こうした個人の善意の行動に依存するだけではなく、行政的にも対応を強化する必要がございます。
 まず第一に求められることは、エイズ検査体制の整備であります。
 現在、各区市町村の保健所等でエイズ検査が行われております。しかし、世田谷区は毎週木曜日の九時から十時三十分、千代田区は第一金曜日の九時から九時三十分などと、各自治体間の連携はとれておりません。サラリーマン等のためには時間帯にも工夫が必要であります。都が各自治体間の調整を図り、夜間・休日を含め、いつでもどこでも検査を受けられる体制を整備すべきであります。あえて地元の保健所を避けて遠隔地で検査を受ける人も多く、都内全域を単位とした検査体制の整備が不可欠であります。
 懸念されることは、自覚がない感染者の増大であります。
 感染の自覚がなく出産に臨んだ場合、通常の分娩で出産すると、三〇%の確率で胎児感染の悲劇に直結しますが、帝王切開などで出産すれば、感染率は二、三%に激減いたします。悲劇を再生産しないためにも、まず検査体制を整備すべきであります。さらに、妊娠時には検査を行うルールづくりを進めるべきです。所見を伺います。
 次に必要な対策は、教育と相談体制の整備であります。
 さきに述べた、十代の女性のエイズ感染がふえていることを考え合わせ、小学校高学年、中学、高校での性教育のあり方を改めて検証する必要があります。学校では、担任以外に養護教諭の取り組みを工夫するとか、学外の医師や医療機関、行政機関の協力を仰ぐ方法も考えられます。さらに、保護者に対して、エイズ問題への啓発や情報提供なども、保健所等と連携して実施する必要があります。学校、家庭、地域、行政、医療機関、民間団体、NPOなどさまざまなチャンネルを用意して、教育、意識啓発、相談等に取り組んでいかねばなりません。教育長の所見を伺います。
 赤枝医師へ相談に訪れた十代の女性に、公明党女性局の議員が、なぜ援助交際などを行うのかと尋ねたところ、そのときにしか充足感が得られない、こういう答えが返ってきたそうでございます。果たしてこれは、個人的な問題なのか、社会の病理なのか、判断は微妙でありましょうが、エイズ問題の背景には、社会総体のあり方に深くかかわる課題が存在し、文明論的あるいは社会論的アプローチが必要であるかもしれません。政治、行政による対応には限界があるとはいえ、東京都としても、深刻な問題意識に立って対策に臨む必要があります。知事の所見を伺いたいと思います。
 次に、水道局への新たな会計制度の導入について質問いたします。
 現在、公会計制度の改革の必要性が各方面から強調されております。公明党は、国においても、また都議会におきましても、民間手法を導入した公会計制度の改革を一貫して訴えてまいりました。そしてここでは、特に、公営企業会計の改革、とりわけ水道局の会計制度の改革に触れたいと思います。
 よく一般に、電気、ガス、水道と一くくりに表現されます。この中で、水道事業は、公共性が高く、生命、健康、安全に直結するという事業の性質から、電気、ガスが民営であるのに対して、地域独占の公営企業体という形態をとっております。したがって、水道事業は、より以上に効率的な経営に努め、会計制度の改革等を行い、むだと非効率を省き、利用者サービスの向上を図る責任がございます。
 かつて私は、水道局に対して、この本会議におきまして、環境会計やPFIの導入を促したことがございます。その結果、環境会計では、十五年度予算ベースで二十一億三千九百万円のコストメリットを確保し、金町浄水場のPFIによる発電施設では、二十年の契約期間で十四億円、約五%のコスト削減の効果が期待できるそうでございます。
 そこで、次は、米国の製造業から導入され、最近、非製造業や行政部門でも採用が相次いでいるABC分析、つまり活動基準原価計算の手法の導入を提案したいと思います。
 これは例えば、料金徴収のコストについて、一度の訪問で徴収できず、二度、三度と通った場合、通った回数をコストとして計上する仕組みでございます。その結果、従来の会計処理では表面化しなかったコストや非効率が浮き彫りになり、厳格なコスト管理の結果、事業のアウトソーシングや職員定数の見直しなどの行革が可能になる仕組みであるとされています。これに加えて、資金等の流れを明確にするキャッシュフロー計算書を導入して、より一層効率的な水道事業の展開に当たるべきであります。
 依然として厳しい経済状況が続く中、冒頭述べたとおり、地域独占の公営企業体である水道局は、新たな会計制度を導入して、他の部局や民間以上に効率性を追求し、事業の公共性や安全性、そして収益性などがバランスのとれた経営を目指すべきでございます。局の見解を伺います。
 次に、三宅島の水産業復興と、海と河川の再生について質問いたします。
 三宅島の全島避難から、この九月でちょうど三年になります。帰島に向けた対策がさまざまな角度から検討されておりますが、その重要な要素の一つが、漁業の再生であります。かつて日本一の品質を誇ったテングサを初め、イセエビ、トコブシなどの三宅島の主要な漁場は、火山灰や土砂で大きな被害を受けております。現在、三宅島では、砂防ダムや道路を初めとしたライフラインの復旧は進められておりますが、帰島後の経済の立て直しに関しては、取り組みが十分とはいえません。
 最近、産業労働局が、中間まとめとして発表した水産業振興プランでは、海からの三宅島復興というプログラムが盛り込まれております。確かに漁業こそ、帰島後の島の経済を支える産業として重要であり、したがって、復興の牽引役として第一に再生させる必要があります。そのためには、被害を受けて放置されている漁場の早期回復、冷蔵施設など生産施設の早期復旧など、漁業環境の再整備などが不可欠でございます。三宅島の漁業復活への都の見解を伺います。
 また、三宅島に限らず、東京の島しょ部における漁業は、重要な産業でございます。食料自給率の低い日本にとって、食料安全保障の観点からの小笠原までの一千キロに及ぶ日本海を凌駕する広大な海域で展開される東京の漁業は、その意味を見直されるべきであります。
 さきに挙げた水産業振興プラン中間まとめでは、東京の漁業は、平成元年に比べ、漁獲量で約五〇%、漁獲金額では約六〇%も落ち込んでいると指摘されております。原因は、水産資源の減少、輸入水産物の増加、経済状況の悪化による漁価の低迷などであるとされています。
 そこで、同プランでは、漁業の復興、さらに、都民に喜ばれる漁業の展開などを目指すとしていますが、そのためには、例えば、東京産の旬の魚を都民の食卓へ届けるなどといった、生産、流通、消費までを視野に入れた事業展開が必要でございます。所見を伺います。
 また一方で、漁業資源を回復し、東京の漁業の永続性を担保するため、漁業資源管理の具体策を構築すべきであります。あわせて所見を伺います。
 今回のプランは、海を舞台にしたものでございますが、同様に、河川における新たなプランの策定が必要でございます。
 世田谷区を流れる多摩川は、かつて、アユの多摩川と呼称されていたそうでございます。水辺の環境の整備、水質の向上、河川流量の確保、しゅんせつ、堤防等の整備が都市の課題となっておりますが、ここでは特に、アユやウグイなどを呼び戻すことができる河川環境の整備を求めたいと思います。
 多くの魚が戻ってこそ、真の河川の再生であります。関係する国や建設局、環境局などとも連携して、多摩川などの河川に関する新たなプランを策定すべきです。産業労働局の見解を伺いたいと思います。
 最後に、島しょ地域におけるブロードバンドの導入について質問いたします。
 公明党はこれまで、八丈島や大島の住民から、ブロードバンドの導入について強い要望を受け、関係各方面への強い働きかけを行ってまいりました。都議会においても、平成十四年、第四回定例会以来、藤井一議員などが再三にわたってこの問題を取り上げ、都に対して積極的に支援を行うよう主張してまいりました。
 島しょ部の発展のためには、外界孤立型離島として点在する伊豆諸島における情報通信基盤の整備が不可欠であります。最近、こうした取り組みと島民の皆さんの熱意が実を結び、ソフトバンク社並びにNTT東日本が、八丈島におけるブロードバンドサービスの提供開始に向けて準備を始めたと聞いております。
 そこで、八丈島でのブロードバンドサービス導入の見通しを明らかにするとともに、大島を初め、八丈島以外の島しょ部へのサービス導入について、都は積極的に通信事業者に働きかけるべきでございます。都の所見を伺い、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
 〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 中嶋義雄議員の一般質問にお答えいたします。
 私も、この先進国、世界第二の経済大国の日本で、ともかく一日一人のペースでエイズの感染者がふえているということを、最近改めて耳にしまして、愕然としました。本当にこれは、異常な、先進国の社会で異常な出来事だと思いますが、まあ、いろんな原因があるんでしょう。
 いずれにしろ、先ほども、セックスでしか生きがいを感じないということを公言する若い女性がいると。どうしてそういう事態が到来したかということを考える必要があると思いますが、仮に性に限っても、非常に行き過ぎた情報がまた非常にはんらんしている、それがさらに性というものを極端に開放してしまう、それがまた若年層のエイズ感染拡大にもつながっているということなんでしょうが、いずれにしろ、この異常な非常に危険な社会現象に対しては、保健医療に限らず、教育、労働、福祉など、ラインを超えた複合的な多方面からの取り組みがもう必要だと思います。
 とにかく、この厳しいといいましょうか、恐ろしい現実というものをしっかり受けとめて、これは国家社会の一種の恥でもありますから、私たち、それを克服するために、複合的な感染拡大防止の努力を、性根を据えて行っていかなくてはならぬと自戒しております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
 〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 学校教育におけますエイズ対策の取り組みについて、お答えを申し上げます。
 児童生徒がエイズに対する正しい知識を持ちまして、感染を防ぐために適切な行動をとり、エイズに対する偏見や差別を払拭しますことは、極めて重要なことでございます。
 都教育委員会としましても、エイズ理解、予防に関する児童生徒用のパンフレット及び教師用指導資料を作成、配布したり、文部科学省の委託事業としてエイズ教育推進地域事業を行うなど、指導の推進に努めてまいりましたが、今後とも、こうした事業の成果を踏まえまして、養護教諭を含む教員研修を充実させますとともに、関係機関とも連携しまして、より効果的な相談体制や指導のあり方について検討するなど、エイズ理解、予防に関する指導の充実を図ってまいります。
 〔健康局長平井健一君登壇〕

○健康局長(平井健一君) エイズ問題に関し、HIV検査体制の強化についてでございます。
 都は、東京都南新宿検査・相談室において、平日、夜間に検査を行ってまいりましたが、今年度からは新たに、土日の午後にも検査を実施しております。さらに、平日には、都内のいずれかの保健所で必ず検査が受けられる体制を目指すとともに、受診しやすい雰囲気づくりを進めるなど、各保健所に働きかけてまいります。
 また、妊娠時の検査は、母子感染のリスクを低減させる上で有効でございますので、区市町村と連携し、母親学級など、妊娠前後のさまざまな機会を通じまして、検査に関する普及啓発の強化に努めてまいります。
 〔水道局長飯嶋宣雄君登壇〕

○水道局長(飯嶋宣雄君) 新たな会計手法の導入についてお答え申し上げます。
 これまで水道局では、水道事業経営プランに基づき、職員定数の削減はもとより、PFIや環境会計の導入など、経営の効率化に努めてまいりました。
 今後とも、独立採算を経営原則とする地方公営企業として、公共性と経済性の両立を目指した経営を進めていくためには、より一層民間的な経営手法を導入していく必要がございます。
 ただいまご提案がございましたABC分析手法やキャッシュフロー計算書は、コスト管理を徹底し、効率化を図る上で有効な会計手法であることから、その導入に向けて、早急に、積極的かつ具体的に検討してまいります。
 〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 水産業の振興に関する四点のご質問にお答えいたします。
 最初に、三宅島の漁業の復活についてでございますが、漁業は島の主要な産業であり、帰島後の経済の立て直しに大きな役割を果たすものと考えております。三宅島の漁場は、土砂の堆積等により回復がおくれているところから、また、生産施設につきましても、火山ガスなどの影響による傷みが大変進んでおりまして、これらに対する施策が望まれております。
 現在、速やかな漁業再開に向けまして、トコブシの放流や海藻類の再生に向けた調査を行っておりますが、今後、この調査を踏まえまして、資源や漁場の早期回復を図ってまいります。
 また、生産施設につきましては、被害の状況を踏まえまして、その復旧について検討するなど、漁業環境の復旧、復興を図ってまいります。
 次に、都民に喜ばれる漁業への展開についてであります。
 島しょの漁業経営は、漁獲高の落ち込みなどにより、大変厳しい状況にございます。この再生のためには、従来の生産面を重視した取り組みだけではなく、都民とのつながりを強化し、生産、流通、消費を一体化した事業の展開が必要であります。このため、島しょ産魚介類の産地表示や、鮮度向上などによりブランド化を進めるとともに、都民が旬の魚を手軽に購入できるよう、IT販売や商店への直接販売なども進めていきたいと考えております。また、島での漁業体験や、島の幸を生かした観光産業との一体的な取り組みを積極的に展開していく考えでございます。
 次に、資源管理の具体策の構築についてでありますが、島しょの海域は、日本を代表する漁場であり、近隣県を初めとする全国各地の漁船が操業を行っております。中には、乱獲や密漁をする漁船もあり、水産資源の枯渇が懸念されておりますが、広い海域での取り締まりや水産資源の調査は、都だけの対応では限界がございます。今後、密漁など、悪質な違反操業に対しては、航空機による取り締まりのほか、海上保安庁や関係県等と合同の監視、取り締まりを実施してまいります。
 また、近県の協力を得まして、仮称、海の広域圏協議会を設置しまして、資源管理や漁場の利用のあり方などにつきましてコンセンサスを築き、東京ルールとしてまとめていきたいと考えております。
 最後に、河川に関する新たなプランの策定についてでございます。
 東京の川は、アユやヤマメ、ニジマスなどの漁業や釣りなどの遊漁が行われ、多くの都民に親しまれてきました。しかし、都市や河川環境の変化に伴い、川の本来の機能が失われ、水産資源も減少してきております。この東京の川を、魚など多くの生き物が生息し、都民が親しめる豊かなものにしていくことは大変重要でありますが、一方で、水質の改善や水量確保など、大変困難で時間を要する課題の多いのも事実でございます。このため、豊かな川の復活と水産業の振興を目指したプランの策定に向けまして、今後、国や関係各局と十分調整を図ってまいります。
 〔総務局長赤星經昭君登壇〕

○総務局長(赤星經昭君) 伊豆諸島地域におきますブロードバンドサービスの導入についての質問にお答え申し上げたいと思います。
 都といたしましても、これまで、通信事業者に対しまして、島しょのブロードバンドサービスを推進するように積極的に働きかけてまいりましたが、先ほどご指摘ありましたように、ソフトバンク社及びNTT東日本の二社が、八丈島におきます来年度からのサービス開始に向け具体的な準備を始めたと聞きました。私どもといたしましても、大いに歓迎しているところでございます。
 今後とも、八丈島だけでなく、大島など他の島しょにおきましても、ブロードバンドサービスが提供され、その活用によりまして島の振興と発展が図られるよう、関係者に対して働きかけてまいります。

ページ先頭に戻る