平成十五年東京都議会会議録第十号

○議長(三田敏哉君) 四十二番田代ひろし君。
   〔四十二番田代ひろし君登壇〕

○四十二番(田代ひろし君) 医師の立場から、セクシュアリー・トランスミッテッド・ディジーズ、STD、いわゆる性行為感染症といわれる病気を少子化問題の一因として取り上げ、質問をいたします。
 STD、性行為感染症とは、性行為などにより血液、体液、粘膜などが相互に接触することで細菌、ウイルス、寄生虫、原虫などにより感染する病気で、ウイルス性肝炎、疥癬、梅毒、クラミジア、ヘルペス、コンジローム、淋菌感染症、エイズなどが知られています。
 現在、確実な治療薬が未開発であり、発症するとエイズになるHIV感染症は、我が国での感染が確認された当時は、入浴やトイレでうつるとの誤解から、各地でパニック的な反応が発生しましたが、その後、通常の日常生活では感染しないということを多くの人が知るところとなりました。
 しかし、その反面、STDとしてのHIV感染症の怖さまでもが忘れ去られようとしています。血友病患者に対して非加熱製剤が投与されたことにより、薬害エイズ患者、いわゆるホーリーエイズの感染者がかなりの割合を占め、また、同性愛者間の感染者が多かったことから、STDであるにもかかわらず、HIV感染症は限られた一部の人たちの問題として、世の中の関心が薄れてしまったのです。
 現在、国内では、発症者を含め七千九百十人の感染者が確認されており、東京都では二千八百二十八人と全国の三割以上を占め、さらなる増加が予測されておりますが、その予防対策は十分とはいえず、このまま放置しておけば手おくれとなってしまいます。
 また、大きな問題として、エイズの関心が薄れるとともに、古典的性病も一緒に忘れ去られようとしており、特に同じ性行為感染症の中でも、HIVに比べると驚くほど感染者が多いSTDにクラミジアがあります。我が国の性感染症学研究の第一人者である札幌医科大学の熊本悦明教授は、クラミジアに感染すると、その症状がほとんど出ないため、気づかないまま性的パートナーへ感染させていき、次々に広まっていくと述べております。
 性病というと、男性の病気という誤ったイメージがあるのですが、その理由は、性感染症についての動向調査が男性の多く訪れる泌尿器科や性病科を中心に行われており、女性症例を扱う産科、婦人科での報告を見落としているためで、今回、医科大学を中心とした産婦人科外来での調査をしたところ、十五歳から三十五歳までのクラミジア、性器ヘルペスの症例では、女性が男性の三倍から四倍も多く、未治療患者がふえています。ちなみに、二十代の女性は二十人に一人が感染しており、全国では二十代に限っても女性の約四十万人が感染しているという予測も報告されております。
 東京都予防医学協会が職業別に調べたところ、学生のクラミジア陽性率は性風俗従事者よりも高いことがわかりました。これほどクラミジアは潜在的に爆発感染が広がっているのですが、感染に無自覚のまま放置すると、七、八年で卵管閉塞不妊や子宮外妊娠を起こすことがあり、不妊症の原因として知られており、少子化の一因をなしております。
 さらに、クラミジアなどのSTDに罹患していると、HIVに十倍以上も感染しやすくなるといわれ、欧米では、これらの事実を重視し、婦人科を訪れた三十歳以下の女性に対し、積極的にSTDの検査を実施するよう行政指導を行って、予防キャンペーンを展開しています。その結果、HIV感染を含めたSTDはかなりその流行が抑制されていると報告されています。
 都では、保健所を中心に、無料検査やカウンセリングなどを通じて性感染症の予防に努めておりますが、具体的な対応策の広報については皆無のようです。
 性行為感染症の予防には、行政が正確な情報を国民に開示し、国民みずからが予防意識を持たなくてはなりません。プライバシーに配慮しつつ正確な情報を収集するためにも、都は、現実に即した定点観測などの見直しを含め、実態を正確に把握し、都民の健康管理、医療費問題、少子化対策のためにも、シンポジウムなどを通じて、都民が具体的にどのようにすれば性行為感染症から身を守ることができるかをわかりやすく理解していただくために、具体的な対応策を打ち出すことが必要かと思われますが、都の所見を伺います。
 我が国の三十歳代以下の性感染症患者は、平成八年を境に急激に増加してきておりますが、この平成八年という年は、携帯電話の普及率が一〇%台に達した年であり、両者には密接な関係があると思われます。ことし四月における携帯電話の普及率は六〇・三四%で、今や小学生までも所有しており、出会い系サイトなどを通じて、誤った性の知識のはんらんに拍車をかけているのです。
 熊本教授によると、北海道における性体験調査で、中学三年生で一〇%から二〇%、高校三年生で三五%から七〇%に性体験があるという結果が出ました。また、宮崎県の複数の大学で行った調査では、性的パートナーが四人以上いるという経験を持つ学生が全体の約三分の一にも達しており、これらの調査結果は、大都市以外でも青少年の性行動が非常に活発化してきていることを物語っています。
 心身ともに未完成である子どもたちにSTDの恐ろしさをどのように伝えるか、我々は危機感を持って考えていかなくてはなりません。身近な存在である家庭での性教育が最も望ましいことですが、現実にはSTDの知識が乏しいことからも難しい面があります。
 そこで、昨今、学校での性教育の必要性が叫ばれ、現場の先生方は熱心に取り組んでおられると思いますが、我が党の古賀議員や、また、先ほど土屋議員が指摘されたように、問題のある性教育も行われております。また一方、都内のある小学校では、地域の保護者と連携して出産を取り上げ、母の愛情や生命の重さを実感させる授業を実践しています。
 性教育は、性感染症の予防や避妊といった技術面と道徳指導という精神面が車の両輪となって初めて実を結ぶものであり、理解力と年齢に適さない技術面の指導だけでは、かえって性に対する興味本位の好奇心を駆り立てるだけで、思春期という心の成長過程にある子どもにとっては百害あって一利なしといえます。
 都としては、少子化対策の一環としても、心の東京革命と連動した学校での性行為感染症予防教育が必要と思われますが、所見を伺います。
 次に、外郭環状道路について質問いたします。
 知事が所信で表明されたように、外環道路は、首都圏の渋滞解消、流通合理化のためにも必要な路線であり、国と合意した大深度地下の利用で早急な整備が必要です。
 しかし、その計画予定地は、区部と多摩地域にまたがった自然環境の豊かなところであり、地域住民の理解を得るためにも自然環境との調和が必要不可欠と考えますが、都の見解を伺います。
 また、地下利用とすることによって、騒音、振動、大気汚染など、環境を破壊しないための配慮がなされているのは結構なことですが、緑豊かな国分寺崖線や野鳥が多く生息する野川との間に計画されており、地下にも当然自然があることから、新たに地下水への影響が懸念されます。
 住民不安解消のためには、早急に詳しい現地調査を行い、その影響と対策を示す必要があると思いますが、都の見解を伺います。
 次に、北朝鮮問題ですが、北朝鮮をめぐる状況は、昨年の小泉総理訪朝以降一転し、今まで全く見向きもしなかったマスコミが手のひらを返したように報道を開始し、また、北朝鮮問題を利用した選挙対策としか思えないものが突然ふえ始めたといわれております。拉致被害者家族の蓮池透さんが著書「奪還」の中で、見たこともない議員から突然、お互い頑張りましょうといわれて、あきれたと述べていますが、私たちも、にわか仕立てのグループを見るにつけ、驚きを禁じ得ません。
 その中にあって、石原知事、中川昭一自民党代議士、西村真悟自由党代議士、また、政府では安倍晋三内閣官房副長官は、平成九年から行っている私たちの拉致解決運動を当初から理解され、積極的にご支援いただいてきたことに対し、拉致被害者家族とともに心から敬意を表します。
 拉致問題の解決に不可欠なことは、国民世論の統一と拉致関連法規の制定の二点であり、単に「万景峰号」入港阻止、北朝鮮籍船の入港阻止だけを唱えても実効は期待できません。私たち拉致被害者救出地方議員の会は先日、官邸に安倍官房副長官を訪ね、港湾法の改正、外国為替法の改正、スパイ防止法の制定を古賀、土屋両都議とともに小泉総理に書面で申し入れました。
 法整備を急ぎ、同時に経済制裁を断行することが必要ですが、国会は肝心な法整備に無関心です。独立国としては当たり前のそうした法整備に関して、知事はどのようなお考えをお持ちなのか、ぜひお聞かせください。
 最後に、教育庁主催の人権講座について伺います。
 人権講座のあり方については長年追及してまいりましたが、さきの予算特別委員会の拙問に対して、それまで拉致は人権講座では取り上げることができないと主張していた部局の誤った考えを知事の英断で正すことができ、今月十九日に横田ご夫妻などのご参加を得て人権講座が開講される運びとなりました。
 講師の選定に関しては、以前、天皇が死んだら祝杯を挙げようと発言した講師を人権を語るにふさわしいと恣意的に選んだことがあり、その反省を込めて選定過程の見直しを約束したにもかかわらず、特定の新聞社を変則的に選定してしまいました。
 それに対し、都民からは、なぜ意図的に新聞社を一社だけに限定するのか。どうしてほかの代表的な新聞社の意見を聞こうとしないのか。また、現在、我が国にとって極めて重要な国際問題であるにもかかわらず、新聞社を一社だけに限定し、あたかも東京都の意見を代表させているような講座のあり方に疑問を持つという意見を私は受けております。
 こうした感覚で今後も人権講座のテーマや講師が選定されるとすれば、石原知事、横山教育長の理念とも乖離し、都民が目を離せば、また偏向した選定に後戻りすることも予想されます。
 この際、人権講座のあり方、運営などを抜本的に改正する必要があると考えますが、教育長のお考えを伺って、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 田代ひろし議員の一般質問にお答えいたします。
 拉致問題についてでありますが、北朝鮮には、状況証拠を踏まえれば、百五十人近い同胞が拉致されておりまして、しかも、今なお多量の覚せい剤や麻薬が北朝鮮から運び込まれ、我が国の子弟の精神と肉体がむしばまれ、異常な犯罪を引き起こしてもおります。
 我々は、この国の正体が、目的のためには手段を選ばない犯罪国家であるという認識を共有すべきだと思います。
 この北朝鮮の従来の行為をテロと断ずることのできない政府に私はもう疑義を感ぜざるを得ませんが、いずれにしろ、拉致問題に対する国民の関心は極めて高くなりました。私も出席しましたが、五月に開催されました、あの国際フォーラムでの拉致被害者救出のための国民集会では、もうたくさんの数、多分二万人を超したと思いますが、会場に入り切れない方々が建物周辺を埋め尽くすほどの盛り上がりを見せておりました。
 拉致問題の解決のためには、こうした世論の高まりを背景に、あらゆる手段を行使して、外務省は嫌がっているようでありますけれども、なぜこの言葉を選択するのを嫌がるのか、我々は、はっきり我々の意思として、意思表示として、北朝鮮にいろいろな圧力をかけていく必要があると思います。
 東京都は、朝鮮総連関連施設に対して固定資産税の課税の準備を進めておりますが、これは決して経済制裁じゃありません。当たり前のことを法的にやっているだけのことでありまして、これは課税権者として当然のことをしたまででありますが、国はやはり、あの多発テロのときにアメリカが行いました、アルカイダに対する海外からの資金の流入に対する凍結その他、積極的な経済制裁も考えなければ、この問題の本当の解決はないと思います。国は、国家の独立と国民の安全のために、拉致問題の解決の障害となる法律の不備を改めることは、何らちゅうちょすることはないと思います。
 ちなみに、改正されるべき法律は幾つもありますが、何といっても、厄介な船が年じゅう行ったり来たりしているあの状況を阻止するためにも、港湾法の改正、それから外為法の改正、これは送金の規制とか輸出の規制というものを積極的に行うために必要な措置だと思いますし、また、スパイ防止法等の制定も必要になってくると思います。
 こういった措置を、私は果断に行うことが政府の国民に対する責任の履行、つまり国民の生命と財産を守るという、国政の最大眼目の履行につながると思いますし、私は私で、かつては属しておりました自民党の総裁選挙が、この問題をもって、要するにこの問題を一つの争点として争われることを大いに歓迎する、期待するものであります。
 なお、私に対する質問ではございませんが、先ほど田代議員が話された性感染症ですね、これは性が解放され過ぎたこの現代において、これからの将来のある若い世代のためにも、非常に重要な問題として憂慮していることを申し上げておきたいと思います。
 その他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 教育に関します二点の質問にお答え申し上げます。
 まず、性教育の改善についてでございますが、学校における性教育は、知事が進めております心の東京革命と同様に、人格の完成を目指す人間教育の一環でございまして、児童生徒の発達段階に即して、組織的、計画的に進めることが重要でございます。
 現在、都教育委員会では、新たな性教育プログラムの開発や性教育に関する指導資料を作成、配布するなどして、特定の主義主張に偏ることなく、適正な性教育の推進に努めておりますが、一部に、児童生徒の健全育成上、不適切な内容の性教育が行われている実態がございます。
 今後、都教育委員会としましては、適正な性教育を実施するため、指導計画を作成し、感染症の予防に関する能力の育成とともに、人間としての感性や道徳的な判断に基づいて適切に行動する力を育てていくよう、各学校及び区市町村教育委員会に対し、強く指導、助言してまいります。
 次に、人権学習公開講座についてでございますが、さきの第一回都議会定例会におきまして、田代議員から、拉致事件が重大な人権侵害をはらむ事件である、こういうご指摘をいただきまして、今回、人権学習公開講座でこの問題を取り上げることとしたところでございます。
 なお、講師の人選につきましては、これまでの拉致事件の経過の中でさまざまな人々や団体が取り組んできたということを考えますと、ご指摘のように、一つの新聞社だけを選んだことについて、配慮が足りなかったものと考えております。
 今後、このようなことがないよう、講師選定システムの変更を含め検討してまいります。
   〔健康局長平井健一君登壇〕

○健康局長(平井健一君) 性感染症の予防対策についてでございます。
 クラミジアなど各種の性感染症につきましては、その流行状況を把握するため、東京都医師会や医療機関の協力も得ながら、感染症発生動向調査を実施しておりまして、その結果をホームページなどを通じて都民に迅速に情報を提供しているところでございます。また、パンフレットなどによる普及啓発や、保健所では匿名での健康診断なども行っているところでございます。
 ご指摘のとおり、潜在的な感染者の存在をより正確に把握することは極めて重要でございまして、今後とも、ご提言の趣旨を踏まえ、定点観測のあり方などにつきまして、国に働きかけるとともに、都としても性感染症の予防に積極的に取り組んでまいります。
   〔都市計画局長勝田三良君登壇〕

○都市計画局長(勝田三良君) 外環に関する二点のご質問にお答え申し上げます。
 外環整備における自然環境との調和についてでございますが、外環は、首都圏の渋滞解消、環境改善、ひいては首都圏の再生にも寄与する大変重要な路線でございます。一方、既成市街地のほか、緑豊かな公園や崖線など、良好な環境を有する地域を通ることから、これら自然環境などとの調和を図る必要があると認識しております。
 去る三月に公表いたしました大深度地下方式による整備は、こうした観点からも、最も適切な案と考えております。
 今後とも、国と連携を図り、地元区市や地域住民を初めとするさまざまな方の意見を伺い、早期に計画を具体化してまいります。
 次に、外環整備に当たっての地下水対策でございますが、国分寺崖線や野川の周辺は、良好な水辺環境が形成され、都民の憩いの場として親しまれております。外環はこれら地域の近くを通ることから、自然環境の保全に特段の配慮が必要と考えております。
 ご指摘の地下水への影響と対策につきましては、現地調査や地盤調査を早期に実施し、十分実態を把握した上で、国とともに方策を検討してまいります。

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