平成十五年東京都議会会議録第十号

   午後四時六分開議

○議長(三田敏哉君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 九十四番立石晴康君。
   〔九十四番立石晴康君登壇〕

○九十四番(立石晴康君) 先月十七日に発表された政府税制調査会の中期答申では、相続税について、課税範囲を拡大すべしとの増税方針が出されました。これは都議会でも幾度か議論されてきたことではありますが、明らかに、時代の強い要請にまさに逆行するものであります。不動産地価のまだ高い東京においては、今なお相続税は大変な負担となっています。今年度の全国相続税の総額は約一兆五千億円、その四分の一が都民の皆さんの負担するところであります。
 いうまでもなく、この高い税制、相続税は、中小企業の円滑な事業形成、特にすぐれた工業技術や伝統工芸の工房を奪い、その技術の伝承を困難にするばかりでなく、貴重な歴史的、文化的財産の旧家や町並みに残る商家のたたずまいが、相続税支払いのために消失の危機にさらされています。マスコミでも話題になった品川池田山の旧正田邸など、枚挙にいとまがありません。良好な住環境や緑の保全を妨げる、この税制の大きな欠点をもはや見過ごすことはできません。
 江戸開府四百年の首都東京がせっかく築いてきた町並みを、相続税支払いのために切り売りされ、旧家、商家、工房を破壊し、中小企業の職場を奪い、中小企業の職場を奪い、家族のきずなを崩壊せしめる悪法といってもいい過ぎではありません。現世代が苦労して築き上げてきたものを次の世代に引き継ぐことは、経済発展のみならず、潤い、いやし、物を大切にする心とともに、住み続けられるコミュニティの形成に欠かすことのできない基本的条件です。
 国際税制研究所の二〇〇二年の調べによれば、イタリア、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコなど、相続税が存在しない国がたくさんあります。これらの国々では、豊かな個人が社会全体に活気をつくり出しています。資源に乏しい我が国にとって、働く人々のやる気と夢と希望こそが、重要な人的資源であります。
 アメリカでも、相続税は二〇一〇年には廃止されることになっています。その理由は、生きている間に稼いだ所得に所得税がかかり、死んでからも相続税がかかるのは不公正という伝統的な発想からきています。つまり、二重に課税されるということです。
 都は、相続税の大幅軽減を、さらには廃止を国に強く求めるべきと考えますが、まず、知事の所見をお伺いいたします。
 次に、都市観光東京の実現について何点か質問いたします。
 去る五月三十一日の産經新聞朝刊一面トップに、ロシアの古都サンクトペテルブルグの建都三百年を祝う写真が掲載されていました。ネヴァ川にかかるはね橋が開いて、すばらしい古都の風景を映し出して、思わず私は隅田川にかけられた勝鬨橋をダブらせてイメージしました。昭和四十五年ごろから、交通量の増大によって勝鬨橋があかずの橋に変わり、あれから三十年以上が経過しています。交通量の少ない正月の元旦を初め、祝祭日にぜひ開いて、見事な水辺空間のランドマークとして、また東京都市観光のシンボルとして、このはね橋の雄姿を再現してほしいと考えます。地域の大勢の方々からも強い要望も出ています。また、地元区の中央区では、区長や区議会でも、この橋をあけてほしいとの希望があります。知事のご所見をお聞かせください。
 また、勝鬨橋に限らず、都内各所には、都市観光の資源となり得る多くの風景が生かされずに放置されているといってもいい過ぎではないと思います。景気が低迷して閉塞感の強い今、千客万来の東京こそ、まさに重要な景気刺激策の一つであります。よくいわれる言葉ですが、観光産業は自動車産業に匹敵するとのことであります。東京は、江戸開府以来、隅田川や東京湾など、水辺の景観を最大限に生かし、いわば水の都、東洋のベニス的なまちづくりがかつて進められてきました。しかし、近年は産業優先ゆえに、都市景観や歴史的建造物に対する配慮を欠いた、機能、効率を重視した開発が行われ、都市の美観が損なわれてきていることは否めません。名橋日本橋にかかる高速道路は、その典型的な例といえます。
 石原知事の力で国を動かし、国土交通省と都であり方検討委員会を立ち上げ、景観回復の機運が進められております。これらの貴重な方向で都市資源の破壊を阻止し、いわば都市型エコツーリズムが守られる必要があります。また、他の例を挙げれば、皇居清水門と同じ桝方で、常盤門の自然の石垣が日銀の前に残されています。これらの復旧、復元も大切な観光資源の一つであります。そこで、首都東京の観光資源に対する都の基本的な考え方をお伺いいたします。
 観光資源は、いうまでもなく、ただ単に景観や歴史的建造物にとどまるものではありません。文化、芸能、魅力あるイベント、地場産業など多岐にわたることはいうまでもありません。パリやロンドンを初めとする観光先進諸都市では、ファッションショー、ミュージカル、オペラなど、地域の特徴を生かしたさまざまなイベントを展開することにより、文化の香り高いイメージを定着させています。
 一方、東京では、歌舞伎や能、相撲から先進的なファッション、演劇、アニメに至るまで、世界に誇る多彩な文化、芸術を持っていますが、そのよさは海外では意外に知られていません。パリコレクション、ロンドンコレクションに匹敵する東京コレクションの知名度も、まだまだ低い水準にとどまっています。今後は、こうしたイベントなどの観光資源を積極的に世界に発信し、東京のイメージアップを図ることが、外国人旅行者を誘致する上で何よりも重要と考えますが、所見を伺います。
 また、外国人にとって日本観光の大きな障害となっているものの一つに、言葉と交通費の高さがあります。中央区の銀座、日本橋地域では、都の観光税の応援で、海外旅行者にもわかりやすい観光案内標識を整備し、旅行者が大変重宝しています。しかし、せっかく旅行者が観光案内標識で行く先を確認できても、レストランやホテルを利用する際に十分な案内が得られなければ、魅力ある都市として、旅行者の増大につながることはありません。また、だれからもよくいわれることに、東京の交通網は大変充実しているにもかかわらず、その費用の高さを嘆く声が強いのであります。せっかくある観光情報センターでの宿泊予約ができないことの不満、不便さについてもよくいわれます。これらの点を、都は今後どのように対処しようとしているのか、所見を伺います。
 次に、創業に意欲的な人々に対する都の施策について質問いたします。
 戦後五十年の順調な経済発展を支えてきた終身雇用制、年功序列型賃金、護送船団方式、中央集権型の経済運営システムからの脱皮が緊急の課題であります。また、二〇〇三年国民生活白書の報告にあるように、若年層の雇用状況も悪化の一途をたどっています。五人に一人が失業者、フリーターという悲惨な状況です。この数字は、失業率の高い欧州の国々と同様の水準であるといえます。次世代に担うビジネスマンの育成からも憂慮する状況であります。
 果たしてだれが好んで、若者が安定した収入の望めない状況で結婚して子育てをしようと考えるでありましょうか。フリーターの名のもとに、ファストフードショップやコンビニで技能の身につかないバイトを、若者が本心から望んでいるわけがありません。都は、次世代を担う若手の育成について真剣に受けとめ、実効ある策を早急にとらなければなりません。将来の首都東京の産業振興のため、二十一世紀の志士たる自立的、実践的ビジネスマン育成の政策が必要です。
 くしくも今年度のNHK大河ドラマは、戦国乱世を果敢に駆け抜けた宮本武蔵であります。作家司馬遼太郎氏の「この国のかたち」に書かれている戦国時代においては、七たび牢人せねば一人前の男ではないといわれたりしたとの記述がありました。
 現在の我が国の経済は、まさに経済乱世です。果たして、七たび牢人して挑戦できる環境、仕組みがあるでしょうか。形式的施策はともかくとして、ベンチャー、中小企業育成のための、失敗を恐れず、果敢に挑戦できるフロンティア精神をはぐくむような施策がとられなければなりません。挑戦する新たな事業計画がすぐれ、成長性ある創業に支援していくことが必要であると考えます。この意味で、都の創業支援策を改めてお伺いいたします。
 次に、時代はまさに知価社会であります。都において、中小企業の知的財産の創造、保護、活用に取り組むため、民間から、知的財産に関する知識と経験を有する豊富な所長を迎え、知的財産総合センターが、先ほども出ましたが、この四月開設されました。私もセンター所長を訪れ、いろいろとセンターの内容を聞いてきました。全国的に見ても充実した民間スタッフが中小企業の支援を行うという力強さを感じました。今後、都は、このセンターを生かして、中小企業の真に知的財産に関する政策をどのように取り組んでいこうとしているか、お伺いをいたします。
 また、最後に、産業活性化のためには、製造業に対する技術開発支援だけでなく、商業に対しても新たな支援が必要です。しにせブランドと若い力が融合して商業の活性化を促進しようとする事例があります。日本橋横山町の問屋街では、ファッションデザイン系の学生とコラボレートし、日本一のファッション問屋街にしようとの試みが進められています。若手経営者の中で、若者の新鮮な発想と問屋街のしにせブランドがミックスして地域経済の活性化を図ろうとする前向きな取り組みで、大いに期待しています。こうした取り組みに対しても都としてどのような応援ができるか、所見を伺って、質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 立石晴康議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、政府税調の中期答申における相続税の問題でありますが、私はこれはほんとに論外だと思います。国家の大計を欠いたまま、取れるところからまたむしり取るという、非常に安易な施策でしかないと思います。かつて議員時代に、私、この問題について、名前はいいませんが、大蔵省の次官を含む、そのときの中枢にいる官僚たちと話したことがありますが、真顔で、日本は自由経済国家だから個人資産の構築は認めるが、それがそのまま相続されて水増しに膨らんでいくのは許せない、我々の理想は、相続税をかませて、三代たったら初代が構築した個人資産というのはゼロになることが望ましい。こんなものは、隣の中共でもソビエトでも、こんなばかなことをいう役人はいるわけはないので、私はたまげたんですが、それを真顔にいわれたことに本当に辟易いたしました。
 そういう財務省の価値観というのはいまだに続いているのでしょうが、それがまた後押しして、非常に安易な税制を施行しようと思っていることは、ほんとに怒りも感じる次第であります。
 いずれにしろ、ご指摘のように、これは優良な中小企業の相続の問題で、企業をつぶしたり、メモリアルな建物というもの、あるいは庭園というものが相続されることで分割されて、ちゃちな、非常に規模の小さな住宅に変わってしまう。非常に残念なことでありまして、大体、日本ドリームというんでしょうか、国民の努力によって自分の夢を築こう、人生を築こうという、そういう意欲というものを阻害する、非常に安易な考え方だと思います。
 次いで、勝鬨橋をはね橋として再現する件でありますが、これは、昭和十五年に国家的なイベントとして計画された万博とオリンピックのシンボルとしてつくられたようでありますが、結局、この二つのイベントは時の情勢で実現しませんで、いずれにしろ、以来、はね橋ということで非常に個性的な構造もありまして、都民から親しまれてまいりましたが、非常に巧緻にできたメカニズムなようでありますけれども、ただ、余り開かないままに時間がたち過ぎて、どういうメンテナンスを今までしてきたかわかりませんが、たまたま実は私のヨットのクルーの一人が、この橋守さんのお嬢さんと結婚して、私、結婚式でお父さんから話を聞いたことがあるんですが、彼もまた、一回二回、とにかく今ごろから上げていかないと、将来はさびついて動かなくなるんじゃないかと懸念を表していましたが、いずれにしろ、企画としては大変おもしろいので、今後、地元の区や警察等の関係機関、民間を含めて相談しまして、ちょっと交通は渋滞するかもしれませんが、しかしやっぱり、閉塞した気分をぱっと広げ、あげるためにはいいイベントではないかと思います。
 他の質問については、産業労働局長から答弁いたします。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 観光、中小企業支援など六点のご質問にお答えいたします。
 まず、首都東京の観光資源に対する基本的考え方についてでございます。東京は、現代日本の政治、経済、文化の中心でありますし、ITなど世界に誇れる先端的な産業が集積するとともに、江戸東京四百年の歴史や文化を感じることができる風格のある都市であります。このため、古いものと新しいものとが混在し、魅力的な観光資源が豊富にございます。しかし、率直に申し上げまして、これまで、個々の観光資源の意義を十分に認識し活用してこなかった嫌いがございます。今後は、旅行者のニーズを把握しながら、訪れるたびに新たな東京が発見できるように、豊富な観光資源を生かした観光施策を積極的に展開してまいりたいと思います。
 次に、イベントなどの観光資源の世界への発信についてのお尋ねでございます。
 外国人旅行者の誘致を図るため、これまでも都はウェブサイトを開設いたしまして、英語など四言語により、東京の魅力ある観光情報を提供しているところでございます。
 さらに、観光関連の民間事業者と海外の主要都市に出向いてシティーセールスを行うとともに、海外の旅行会社等を東京に招きまして、東京の魅力を体感してもらうことにより、そのよさを伝える努力も始めたところでございます。
 今後は、これらの施策を充実させるとともに、海外に外国人旅行者の誘致の拠点を設けるなど、さまざまな機会を活用いたしまして、東京の魅力を積極的に世界に発信してまいります。
 次に、外国人旅行者に対する言葉や交通費、宿泊予約についての課題でございますが、これらの解決には、都民や業界の協力が不可欠でございます。ホテルや食堂などでの案内につきましては、各業界にふさわしい外国語の応対マニュアルを作成し、業界団体を通じて研修もし、周知もするなど、言葉の問題の解消に努めてまいりたいと思います。
 また、東京の交通費につきましては、現在、「東京フリーきっぷ」などの割安なものがありますが、今後、外国人旅行者がさらに利用しやすい切符となるように、関係機関に働きかけてまいります。
 東京観光情報センターでは、現在、外国人旅行者に対しましてスタッフが丁寧に宿泊案内をしております。宿泊予約につきましては、今後、さらに前向きに検討してまいります。
 次に、創業支援の取り組みについてでございます。
 お話にございましたように、東京の経済活性化のためには、高い志と旺盛な意欲を持って新分野の創業に挑戦する人々を支援していくことが大変重要でございます。このため都は、創業者の事業に対しまして、民間の経営専門家などによる可能性評価と継続的なアドバイスのほか、アイデアを製品化するための技術開発資金の助成や、その開発製品の市場開拓支援などを行っております。
 また、事業活動の場といたしまして、都の空き庁舎を活用したベンチャーKANDAなどの施設を設置するとともに、区市町村が行う、学校の空き校舎などを活用した創業支援施設の整備に対する助成も行って、支援に努めているところでございます。
 次に、知的財産に関する施策についてでございますが、お話にもございましたけれども、中小企業の知的財産の活用を総合的に支援するために、発明の日の本年四月十八日に、東京都は、知的財産総合センターを秋葉原に、そして支援室を城東、城南、多摩の各地域に設置いたしました。このセンターでは、企業出身の経験豊かな人材を活用しまして、知的財産の取得、保護などにつきまして積極的に相談を行っております。知的財産制度の普及啓発、特許情報の提供などを積極的に行っていきます。
 それから、この下に、ニューマーケット開拓支援事業ということで、六十名のナビゲーターの方をお願いしまして、中小企業の製品の試作品の製品化だとか、販売の拠点をつくるために、いろんな支援をしています。この知的財産総合センターとニューマーケット支援事業をセットにしまして、より実効性のある総合的な施策を実行してまいりたいと思っております。
 また、知的財産活用本部が策定する施策戦略をもとに、センターは今後さらに具体的な施策を積極的に実施してまいります。
 最後に、問屋街などの活性化への取り組みに対する支援策でございます。
 地域経済の活性化を図るためには、意欲あるさまざまな創意工夫が重要でございまして、お話しの問屋街での取り組みは大変評価できると考えております。特に、世代や地域を超えて活発な情報交換や人的交流を行うことは、新たな発想や活力を生み出す貴重な挑戦であると受けとめております。
 都といたしましては、お話しのような、問屋街等がみずから行う活性化に向けた積極的な取り組みに対しまして、商品ディスプレーや色彩コーディネートの技術、あるいは販路拡大の経験など専門家を派遣する事業を通じまして、積極的に支援してまいります。