平成十五年東京都議会会議録第十号

○議長(三田敏哉君) 三十七番藤井一君。
   〔三十七番藤井一君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○三十七番(藤井一君) 初めに、新生児の聴覚検査について伺います。
 生まれたばかりの赤ちゃんの聴覚障害を早期に発見し、療育するため、新生児の聴覚検査を実施するよう我が党は訴えてまいりました。これにこたえて、都は、種々の検討を重ね、本年一月から豊島区と立川市の二カ所でモデル事業をスタートしました。この間の関係者の努力に対し敬意を表したいと思います。
 先日、私は、新生児の聴覚検査を考えるシンポジウムに参加いたしました。このシンポジウムでは、小児科医や大学教授、聾学校の先生などの専門家の発表が行われましたが、特に私が考えさせられたのは、聴覚障害のお子様を持つ親の会の代表の方のお話でした。その内容は、次のようなものでした。
 聴覚検査を受けて、あなたの赤ちゃんは耳が聞こえていないといわれた親は大きなショックを受け、不安と混乱の中に突き落とされます。母と子の関係に大きな影響を与える出産直後の聴覚検査が本当にいいのかどうか。親の心理面へのケアや親の支援システムがつくられているのか、早期療育の受け入れ先は整っているのかなど、聴覚障害児の育て方について情報を親に与え、不安を取り除いてほしいという切実な訴えでありました。
 このように、聴覚検査による早期発見を意義あるものにするには、きめ細かいサポート体制と充実した療育システムの整備が何よりも重要であると痛感させられました。
 そこで、伺います。
 第一に、東京都の新生児等聴覚検査モデル事業について、現在までの実施状況はどうなっているのか。
 第二に、新生児に聴覚障害があると疑われた場合の新生児や保護者に対するフォローが重要と考えますが、それに対する都の具体的な取り組みについて伺います。
 第三に、我が党にも、この新生児等聴覚検査事業をもっと拡大してほしいとの要望が寄せられております。そこで、今後この事業をさらに拡大すべきと考えますが、都の所見を伺います。
 次に、既存の階段室型都営住宅へのエレベーター設置について伺います。
 我が党は、高齢社会への対応として、特に高齢化が著しい都営住宅のバリアフリー化やエレベーターの設置を強く訴えてまいりました。その結果、廊下型の都営住宅については順次エレベーター設置が進んできましたが、残念ながら、階段室型の都営住宅は手つかずでありました。そこで私は、平成十一年第四回定例会で初めて、階段室型都営住宅にもエレベーターを設置すべきであると訴えました。その後、我が党は、毎年、定例会でこの問題を取り上げてまいりました。
 これに対し都は、平成十三年十月に階段室型の都営住宅にエレベーターをモデル事業として設置し、建築物の構造、地盤条件や費用対効果などの課題について検討していると聞いております。
 そこで、何点か伺います。
 第一に、都内にある階段室型都営住宅で、エレベーターの設置が必要とされる棟数は何棟あるのか。
 第二に、階段室型エレベーターの設置に向けての課題は何か、また、その検討状況はどうか、伺います。
 第三に、都は、これまでの検討結果を踏まえ、階段室型都営住宅にエレベーターを積極的に設置すべきであると考えますが、今後の具体的な取り組みについて伺います。
 次に、中小企業対策について伺います。
 高度な技術が集積している大田区でも、仕事量が激減しているだけではなく、異常な勢いで技術が流出しています。特に、金型技術は不公正な形で行われています。
 金型は、プレス、鋳造、プラスチック成型、ダイカストなど、あらゆる分野に必要な部品を大量生産するためになくてはならない基盤技術であります。高度で複合的な熟練のわざを必要とする金型は、日本が最も得意とするところであり、現在、世界の四〇%以上のシェアを占めています。
 ところが、最近、この金型技術が急速にアジア、特に中国へ流出し、日本の中小企業が大打撃を受けています。
 問題は、デジタル技術の発達により、コピーが容易になったことです。例えば、日本では百万円台もする三次元CADソフトが、知的所有権の保護が厳格ではないアジア諸国で、わずか数千円でコピーされて売られています。コピーは中国が最も得意とするものであります。
 そして、日本の大手メーカーが中小企業に金型を発注する際に、納品のときに設計データを提出させることが多くなっています。この設計データには、金型技術者の経験を生かした貴重なノウハウが盛り込まれています。ところが、その結果はどうなるかといえば、納品した金型企業には、その後の発注は来ません。なぜなら、中国の現地企業にそのデータを渡して安くつくらせるからです。コストは日本の半分以下であります。これでは日本の金型産業は全く太刀打ちできません。日本の大手メーカーの姿勢にも問題はありますが、企業の知的財産ともいえる金型技術を、正当な報酬もなく、ただ同然で海外に流出させ続けていれば、日本、そして東京の誇れる金型産業は滅亡の一途をたどることになります。
 そこで、このような現状に対する知事の認識と、世界の中の日本のものづくりの今後のあり方について所見を伺います。
 また、こうした不公正なやり方に対し、国が積極的に取り組むよう厳正に申し入れを行うとともに、都ができる支援策についても考えるべきであります。所見を伺います。
 第二に、多大な労力と費用をかけて開発した日本製品が、中国などの海外において模倣されたりコピーされても、対抗できずに泣き寝入りする中小企業がふえています。
 厳しい国際競争の中で中小企業が生き抜いていくためには、独創的な技術や新製品を絶えず生み出していくことが必要であります。しかし、海外における特許の出願費用は高額であり、自己資金が乏しい中小企業では特許の取得が難しいのが現状です。
 我が党は、本年の第一回定例会の代表質問で、石井幹事長が、知的所有権の保護、活用について具体的な提案を含め強力に訴えたのを初め、この問題を何度も取り上げてまいりました。
 そこで、東京の産業活性化のため、都は、中小企業が海外において知的財産の取得、保護、活用が積極的にできるよう支援すべきと考えます。所見を伺います。
 次に、シックスクールについて伺います。
 校舎の建てかえや耐震補強工事に伴い、シックスクールと呼ばれる有害化学物質の健康被害が続いております。
 最近、耐震補強工事を行った江東区内のある小学校が新校舎に引っ越した後、子どもたちから頭痛や目の痛みなどの訴えがありました。そのため、大規模な引っ越しをした後でしたが、校長の英断で、旧校舎に戻り、授業を続けております。
 この小学校では、補強工事が終了した後、民間の会社が室内の空気環境測定を行い、安全基準値以内と記録されておりました。ところが、専門的な環境分析能力のある保護者が検査をしたときには、その数倍の数値が測定されたのであります。
 このように、測定検査をどの段階で、どのような手法で行うかによって検査結果も違ってまいります。そこで、都は、室内化学物質濃度の測定方法を見直すなど、検査体制を早急に整備し、客観性と透明性を高めていくことが重要と考えます。所見を伺います。
 また、現在使用されている塗料や溶剤の中には、トルエンやキシレン、ホルムアルデヒドといった有害化学物質が含まれているものが多く、時間の経過とともに揮発するものもありますが、夏季休業中の短期間の限られた日数の工事では、子どもたちの安全を保障できません。
 子どもたちが安心して学習ができる環境にするためにも、シックスクール対策として、環境に配慮した、有害化学物質の発生しない溶剤、塗料などを積極的に採用できるよう特記仕様書の中に明記すべきであります。所見を伺います。
 最後に、島しょ地域におけるブロードバンドの導入について伺います。
 ブロードバンドは、高速かつ大量の情報を通信できるアクセスネットワークです。
 都が本年四月に策定した離島振興計画には、今後十年間で島しょ地域においてブロードバンドネットワークが利用できる環境を整備するという方針が示されております。
 我が党は、島しょ地域を視察した際、八丈島や大島の若い人たちから、本土との情報格差をなくすために、ぜひともブロードバンドサービスを早く受けられるようにしてほしいという要望を受けてまいりました。今回の離島振興計画の中にも、大島や新島、八丈島が将来ブロードバンドを導入する方針が盛り込まれております。
 今後、これらの島しょがブロードバンド環境の整備を進めていくためには、ぜひとも都の支援が必要であります。
 そこで伺います。
 第一に、今後、島しょ地域のブロードバンド化を早急に実現するための課題と、それに対する都の支援策について伺います。
 第二に、今後、島しょのブロードバンド化を進める検討会を立ち上げたらどうかと考えます。所見を伺い、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 藤井一議員の一般質問にお答えいたします。
 日本のものづくりの今後のあり方についてでありますが、これはもう最終的には私は国の責任、国の問題だと思います。
 ただ、あなたの選挙区の大田区は私の選挙区でありましたし、また、この東京はやはり非常に優秀な、可能性に富んだ中小企業があるわけでありまして、昨日の質問にも答えましたが、ケースは違いますけれども、金型ではありませんが、新しい、絶対に手を切ることのないような缶詰を、要するに缶を発明した中小企業が大田区にありますけれども、これも簡単にアメリカにパテントを盗まれてしまう。
 特に中国は、いってみれば札つきでありまして、この間、アメリカが随分熱心に、中国がWTOに加入するのにクリントンの時代に支えましたが、私は、政権がかわって、先般、ワシントンに行きましたときに、通商代表のゼーリックとも話したんです。そのときには、これはよほど注意しないと全部盗まれるぞと。今までそういう事例はもうたくさんありまして、そういうことで、私はやっぱり中国の知的なノウハウというものに対する無神経さというものをよほど先進産業国は気にしなければならないということを申しましたら、全く同感だといっておりましたが、一時期、堺屋太一さんが、知価革命という、その知価は、知識の知に価値の価、つまり、付加価値というものの源泉であるノウハウというんでしょうか、そういったものをもっと大事にすべきだ、そういう時代になったということをいっておりましたけれども、まさにこれにかかわる問題だと思います。
 藤井さんはよくご存じでしょうけれども、ちまたの中小企業は本当に創意を尽くして、そこらの立派な研究所でやっていないような発想で新しいノウハウを開発している。それを実は肝心の国が守ろうとしないところに大きな問題があると思います。
 いずれにしろ、都は都なりに、今年度、知的財産総合センターを開設しまして、相談体制を充実し、積極的にそれを啓発していこうと思っております。今後とも、知的財産への支援強化を通じて、日本のものづくり産業が高度な技術力を十分に発揮して、国際競争力を高めることを期待して、都は都なりに努力をし、その実績を踏まえて、国にも強い提言をしていきたいと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁します。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) シックスクール対策に関します二点の質問にお答え申し上げます。
 まず、都立学校における室内化学物質濃度の検査体制についてでございますが、学習環境におきます児童生徒の安全を確保するために、検査の客観性、透明性をより一層高めていくことが重要でございます。
 このため、室内化学物質濃度の検査体制につきましては、事業者に第三者の専門機関による測定検査を義務づけることや、その実施に当たっては、測定方法、回数の見直し、計画書の提出、監督員の立ち会いの徹底など、検査体制の一層の充実が必要であると考えております。
 現在、室内化学物質対策につきまして、新たに設置をした検討委員会において総合的な検討を進めているところでございますので、その検討結果を踏まえまして、検査体制の整備を早急に進めてまいります。
 次に、環境に配慮した塗料等の採用についてでございますが、都立学校の工事におきます化学物質の発生を抑えまして、室内環境を改善するために、揮発性有機化学物質の含有量の少ない、環境に配慮した塗料や接着剤の採用に努めているところでございますが、さらに、ことし夏の耐震補強工事からは、新たに開発されました、鉄部にも使用できる環境対応形水性塗料を使用することといたしております。
 今後とも、児童生徒の健康を守るため、トルエン等の含有量のより少ない塗料を積極的に選定、採用するなど、環境への配慮に一層努めてまいります。
   〔健康局長平井健一君登壇〕

○健康局長(平井健一君) 新生児の聴覚検査についての三つの質問でございます。
 まず、東京都新生児等聴覚検査モデル事業の実施状況についてでございます。
 現在、豊島区と立川市の二つの地区で事業を実施しておりますが、本年一月の事業開始から四月までの四カ月間にこの検査を受けた新生児等は、豊島区百二十六人、立川市百八十四人でございました。なお、聴覚障害が疑われ、精密検査が必要とされた新生児等はございませんでした。
 次に、聴覚障害が疑われた新生児等や保護者の方に対するフォローについてでございます。
 モデル事業を実施している区市の保健師等が相談に応ずることとしているほか、精密検査を行う医療機関や家族会などへの紹介を行うこととしております。
 また、現在、これらの区市が、都及び関係医療機関、療育機関から成る連絡会を開催いたしまして、検査前から検査後に至る各段階に応じまして、きめ細かな対応のあり方などについて検討しているところでございます。
 最後に、新生児等聴覚検査事業の今後についてでございます。
 都は、モデル事業を平成十六年度末まで二つの地区で実施いたしまして、事業の評価及び検証を十分に行いますとともに、国や他県の動向なども踏まえまして、事業のあり方について検討してまいります。
   〔住宅局長高橋功君登壇〕

○住宅局長(高橋功君) 既存の階段室型都営住宅へのエレベーターの設置について、三点のご質問にお答えいたします。
 最初に、階段室型都営住宅のエレベーター設置対象でございますが、これまで実施してまいりました廊下型エレベーターの設置基準を当てはめてみますと、対象となる棟数は約千三百棟でございます。このうち、建築物の構造や地盤条件、また日影規制等、その他の法的規制等を考慮いたしますと、エレベーターの設置が可能と考えられる棟数は一割弱と見込んでおります。
 次に、設置に向けての課題及び検討状況についてでございますが、階段室型エレベーターの設置に当たりましては、建築物の構造等の適合性に加えまして、地盤条件等による費用対効果の検討、さらには、居住者による合意の形成などが大きな課題でございます。
 現在、これまでに行ってまいりました二つの団地での試行結果を踏まえまして、実施に向けた条件整理を鋭意進めております。
 最後に、今後の取り組みについてでございますが、高齢化が進行する中で、都営住宅におきましても、高齢者や体の不自由な方が容易に住まい、活動できるよう、バリアフリー化を進めることは重要なことであると認識をしております。
 階段室型エレベーターにつきましては、費用対効果等の実施条件を早期に整理した上で、財政状況等を十分勘案しながら、今年度、実施可能な住棟から設置してまいります。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、金型などの技術の海外への流失防止についてでございます。
 国におきまして、本年三月に技術流出防止指針を発表いたしましたけれども、十分に周知されているとは必ずしもいえない状況にございます。今、具体的にこれをどう実効性あるものとするかが問われていると思っております。このため、都は、秘密保持契約の締結や、知的財産権の活用による保護の促進などについて、積極的に普及啓発を行うとともに、弁護士などの専門家の相談による権利の保護に努めております。
 また、これまで国に対しまして、技術流出の結果生ずる被害対策の充実について、提案要求を行ってまいりました。
 今後とも、意図せざる技術流出がないように、施策の充実を強く申し入れたいと考えております。
 次に、中小企業の海外における知的財産の取得等への支援についてでございますが、高い技術を有する中小企業が厳しい国際競争を生き抜いていくためには、その製品、技術を外国企業の模倣から守ることが重要でございます。しかし、ご指摘のように、外国特許の出願は、中小企業の大きな経済的負担となっております。
 このため、都は、知的財産総合センターでの特許の取得、保護、活用に係る相談を実施するとともに、今年度、できるだけ早い時期に、翻訳料など外国特許の出願費用に対する助成を行う予定でございます。
   〔総務局長赤星經昭君登壇〕

○総務局長(赤星經昭君) 島しょ地域におきますブロードバンド化についての二点の質問にお答え申し上げます。
 まず、ブロードバンドの導入についてでございますが、島しょ地域におきましては、採算性の問題などから、民間事業者によりますサービスは現在行われておりません。こうした状況に対応するためには、まずブロードバンドに対する地元のニーズや、費用負担のあり方などが明確にされる必要があります。
 都といたしましては、こうした課題への地元町村の取り組みや、伊豆諸島全体の状況などを把握いたしまして、技術支援や国、事業者等関係機関との調整など、支援を行ってまいります。
 次に、検討の場についてでございますが、島しょ地域のブロードバンド化につきましては、ただいま申し上げたとおり、さまざまな課題がございます。これらを克服してまいりますためには、地元におけます機運の高まりとともに、地元町村の積極的な取り組みが不可欠でございます。都といたしましては、これらの取り組みの進展を見定めつつ、適切に対応してまいります。