平成十五年東京都議会会議録第三号

○議長(三田敏哉君) 三十三番清水ひで子さん。
   〔三十三番清水ひで子君登壇〕

○三十三番(清水ひで子君) 都政にとって、多摩振興と格差の是正は、引き続き重要課題となっています。しかし、石原都政の四年の間に、福祉施策の切り捨てや都立施設の廃止縮小によって、革新都政以来積み上げられてきた成果が崩されようとし、新たに、本格的な少子高齢化時代を迎えての多摩格差が広がろうとしています。
 そこで、とりわけ解決が急がれている子どもの施策に絞って質問します。
 初めに、格差が広がろうとしている小児医療の充実です。
 多摩地域では、不採算に伴う小児科の縮小廃止が続き、小児医療体制は崩壊につながりかねないといわれるまでになっています。その中でも、小児科の病院、診療所の数は、区部二千四百三十五カ所に対し、三分の一の八百四十カ所にすぎません。未熟児の命を救うNICUは、区部百四十一床に対し、多摩地域はわずか二十七床という現実です。
 この冬はインフルエンザが猛威を振るい、全国から既に三十人もの幼い命が奪われ、発熱からわずか半日で意識障害を起こし、死に至ったケースも報告されています。かけがえのない子どもたちの命を守る小児医療体制の格差是正は、まさに急務だと思いますが、知事の認識を伺います。
 このような深刻な現状にもかかわらず、多摩地域の数少ない中核的な小児医療施設である八王子、清瀬の都立小児病院を廃止するという石原知事の決定に対し、自治体と市民を挙げて反対の声が上がったのは当然のことです。身近にあってこそ小児病院であり、府中に立派なセンターをつくるからよいというものではないのです。
 ところが、都は、都立病院改革実行プログラムで、廃止を強行する方針を明らかにしました。これに対し、八王子市は引き続き都立八王子小児病院の存続を求めています。
 昨年十一月の厚生委員会で、病院経営本部は、都立の施設の廃止あるいは移転統合について、それが所在する自治体の同意をとるということはございませんなどと答弁しました。これに八王子市が強く反発したのは当然のことです。この答弁は撤回し、地元自治体と誠意ある協議を行うよう求めるものです。
 八王子、清瀬の小児病院は、地域小児医療の中核施設としてますます重要なものとなっています。だからこそ、自治体と市民を挙げて存続を願う切実な要望が出されているのであり、廃止は中止すべきです。お答えください。
 多摩地域の小児医療の危機を打開するには、都立小児病院など病院の充実を進めつつ、地域の小児科診療所など開業医との連携システムを整備することが重要です。都は、幾つかの病院が輪番で行っていた小児救急を固定制に切りかえ、休日、夜間も小児科医が常駐する休日・全夜間救急診療事業を開始しました。しかし、都内四十七施設のまま推移しており、この事業に参加する病院をふやすことは緊急課題です。
 また、小児科医が確保できないなどの理由で、休日・全夜間救急事業に移行できなかった病院が、日野市立病院を初め十三施設に及びます。その結果、西多摩や南多摩医療圏は小児救急体制がとりわけ不足した地域となっています。
 これを改善するため、夜間救急を週二日だけ実施しているなど、休日・全夜間診療事業には該当しないところにも補助ができる仕組みをつくることを提案するものです。
 小児科医が救急車に同乗して駆けつけるドクターカーは、現在、八王子小児病院に一台配備されていますが、多摩地域に複数配備することも必要です。
 さらに、区市町村が医師会などの開業医と協力して休日夜間急患センターなどを開設する都の小児初期救急医療事業は、区部六カ所に対し、多摩で実施しているのは町田市だけです。年間わずか三百六十七万五千円の運営費補助では、財政力の弱い市町村はなかなか実施できません。補助を拡充し、全区市町村で実施できるようにする必要があると思いますが、以上の四点について答弁を求めます。
 小児科医の育成確保も急がれる課題であり、都立小児病院を活用した魅力ある都独自の小児科専門の研修制度の確立、地域で開業している小児科医の研修体制の整備、小児科医の育成奨学金の創設など、思い切った取り組みを行うことを提案します。お答えください。
 次に、乳幼児医療費助成の充実です。
 区部では二十区が所得制限を撤廃していますが、多摩地域では九市が一部の年齢で撤廃しているのにとどまっており、新たな格差となっています。このため、改善の要望が、多摩市長会を初め、多くのお母さん方から寄せられています。調布市が新たに就学前まで所得制限の撤廃に踏み出しますが、このような取り組みを都が支援することが急がれているのではないですか。
 昨年十一月に、福祉局は、所得制限撤廃に六十四億円の予算が必要になるとの推計を示しましたが、来年度予算案をもとに試算すれば、就学前まで所得制限をなくすのに四十五億円、三歳未満なら二十億円ぐらいではありませんか。
 乳幼児医療費の負担は、若い子育て世帯にとって重い負担になっています。所得制限はなくし、就学前までのすべての乳幼児が医療費助成を受けられるようにすべきです。見解を伺います。
 母子保健事業を強化し、そのためにも多摩地域の十二カ所の保健所を存続することは重要です。
 九七年の法改定で母子保健は市移管されましたが、母子保健法の九条では、妊娠、出産、育児に関して相談に応じ、必要な指導や助言を行い、地域住民の活動を支援することを都道府県の役割としています。
 しかも、国は二〇〇〇年に健やか親子21の報告書をまとめ、思春期の心のケアや、育児不安、児童虐待への対応など新しい課題が生まれていることを示し、保健所の役割は重要であると明記しました。
 八王子でも、多摩ニュータウンを初め、たくさんの若いお母さんたちから、育児相談や子育て支援の母子保健事業を充実してほしいという強い要望が出されています。一方、市は、母子保健の移管に伴う都の財政支援措置がことしで打ち切りとなり、重い財政負担となります。
 私は、多摩地域の保健所統廃合は中止して、十二カ所を存続し、思春期相談や不妊治療の相談、児童虐待対策など、母子保健の分野における都の保健所の役割を強化するよう求めるものです。
 また、市町村の強い要望にこたえて、母子保健事業に対する都の財政措置は存続すべきですが、見解を伺います。
 都立社会教育施設の多摩地域からの撤退も、目に余るものがあります。多摩地域には都立の施設はほとんどないというのが多摩都民の実感です。
 例えば、図書館のように身近な市町村に整備されているものであっても、都立図書館の広域的、専門的な役割は重要なものがあると考えます。
 そこで、私は、多摩地域に都立子ども図書館をつくることを提案します。子どもの読書推進法ができて一年が経過しました。本との出会いを通して、子どもたちの豊かな情操や人間性を培うことができるように、東京都が本格的な支援策に踏み出す必要があるのではないでしょうか。
 知事は、二年前に我が党の質問に答えて、子どもにとっての読書というのは大きな人生の糧であり、それを習慣として取り戻す試みを、衆知を集めて都としても努力していきたいと答弁されました。具体的な条件整備についてはどう考えているのですか。知事の答弁をお伺いいたします。
 大阪府は、府立国際児童文学館を吹田市に設置しています。ここは、一年間に出版されたすべての児童書が展示されていて、手にとって見ることができます。児童文学の研究センターの機能を持ち、児童文学講座やシンポジウムなどを旺盛に開催しています。保育園や幼稚園、小中学校の読書活動への支援も行うほか、独自の児童文学賞も主催しています。
 東京では、子ども読書年を記念して、上野公園に国立国際子ども図書館が開設されましたが、多摩地域に、子どもたちがわくわくするような、そして子どもの読書活動を推進する東京の拠点となる施設を検討してはいかがですか。多摩地域に都立子ども図書館をという私の提案について見解を伺います。
 子どもの読書推進法に基づいて、大阪府は既に子ども読書推進計画を策定しました。岡山県は、計画案を発表し、県民の意見を公募しています。東京都子ども読書推進計画を都民参加で策定すべきだと考えますが、お答えください。
 今回、多摩地域における子どもの問題を中心に取り上げましたが、これにとどまらず、二十三区と多摩地域の間には、鉄道やモノレールなどの公共交通を初め、歩道整備や橋梁などの社会基盤整備、さらには、ケアハウスやホームヘルプなどの高齢者福祉、中学校給食や児童館などの教育の分野など、さまざまな格差が広く存在しています。多摩モノレールはいまだにシルバーパスが使えません。経済事務所や労政事務所、勤労福祉会館などの統廃合も強行されました。
 多摩市町村は、厳しい財政のもとでも、これらの格差を是正し、住民サービスを少しでも向上させるために努力していますが、一方の石原都政は、都心部での都市再生に力を入れることには熱心でも、多摩の支援には冷たい姿勢をとり続けています。
 財政力の弱い市町村が、東京都の支援なしにすべての行政サービスを賄うことは困難です。それは、市町村の財政力が、二十三区と比べて固定資産税収入が四分の一、法人住民税収入に至ってはわずか一割にとどまっているからです。
 知事、都民が、住んでいる場所が違うだけで基本的な住民サービスが受けられないなどということがあってはなりません。広域行政としての東京都には、基本的な住民サービスの格差を是正するためには市町村を財政的に支援し、さらにはその仕事を補完、場合によってはサービスを代行することの責務があるのではないですか。見解を伺います。
 石原都政になって、市町村との関係が、話し合いから東京都のトップダウン方式による押しつけにさま変わりしていることに、多くの市長からも異議が唱えられています。知事及び東京都がこのようなやり方を改め、市町村との関係を尊重し、協調と共同、話し合いと合意を基本とするよう要望して、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 清水ひで子議員の一般質問にお答えいたします。
 多摩地域における小児医療体制の格差是正についてでありますが、少子高齢化が進む中で、次の世代を担う子どもたちを健全に育成することは、親はもとより、社会の責務であります。また、安心して子どもを育て、親の不安を解消するためにも、小児医療を充実することは重要な課題であると認識しております。東京発医療改革の柱として、引き続き小児医療体制の充実に取り組んでまいります。
 次いで、子どもの読書についてでありますが、子どもが読書をすることは、豊かな感性や情操、思いやりの心などを身につける上で欠くことのできないものと考えております。
 従前から、子どもの読書離れが指摘されておりますが、近年の情報メディアの普及などにより、読書を通じて得てきた情報の量が相対的に減少していることは、極めて憂慮すべき状況であると認識しております。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 子どもの読書に関します二点の質問にお答え申し上げます。
 まず、多摩地域の子ども図書館の設置についてですが、子どもの読書の場を確保するには、地域に身近な区市町村立図書館が直接サービスを行うものと考えております。既に多摩地域の市町村立図書館におきましては、児童図書コーナーの設置や読み聞かせなど、地域特性に応じた児童サービスが行われております。
 都教育委員会は、平成十四年度から、都立多摩図書館の重要な機能の一つとして、児童図書を中心とした多様な資料を収蔵し、閲覧や読書相談、区市町村立図書館への協力支援などに努めております。
 こうした状況から、新たに子ども図書館を設置することは考えておりません。
 次に、東京都子ども読書活動推進計画を都民参加で策定することについてですが、この計画につきましては、都教育委員会を中心に、関係各局を初め、区市町村や学校等の関係者で構成する検討委員会において策定作業を進めております。
 計画素案は、既に都教育委員会ホームページに掲載しまして、都立図書館でも閲覧に供しているところでして、都民への周知を図るとともに、広く都民から意見を伺い、今年度末には計画を策定する考えでございます。
 なお、計画素案の検討段階におきましても、公募した都民を含む都立図書館協議会からご提言をいただいているところでございます。
   〔病院経営本部長櫻井巖君登壇〕

○病院経営本部長(櫻井巖君) 都立病院に関する二点のご質問にお答えします。
 まず、都立病院の廃止等に関する地元自治体との協議についてであります。
 都立病院の廃止や移転統合につきましては、施設の設置主体であります東京都が、都立病院の役割や都民の医療ニーズあるいは関係者の意見など、さまざまな条件や事情を総合的に勘案した上で、責任を持って判断していくべきものと考えています。
 なお、これまで都立小児病院が実態として提供している地域の小児医療の確保等につきましては、区市町村との役割分担を踏まえ、引き続き関係する自治体と十分協議を行ってまいります。
 次に、八王子小児病院、清瀬小児病院の移転統合についてであります。
 都民が安心して利用できる小児医療体制を確保するためには、都と区市町村がそれぞれの役割に基づき、基礎的自治体である区市町村が地域の小児医療に主体的に取り組み、一方、都は広域自治体として、都全域を視野に入れた高度、専門的な小児医療を担っていく仕組みを構築していく必要があります。
 そのため、都は、心から体までの小児医療の拠点である小児総合医療センターを整備するとともに、区市町村が取り組む地域の小児医療提供体制の整備を支援してまいります。
   〔健康局長長尾至浩君登壇〕

○健康局長(長尾至浩君) 小児医療など七点の質問にお答えいたします。
 まず、小児科の休日・全夜間診療事業についてでありますが、都全体で六十施設七十床の整備を目指しており、現在は四十七施設七十三床であります。必要な病床数は確保されているものの、施設数が整備目標に達していないため、事業実績の動向や地域の医療機関の実情等を勘案し、参画施設の確保に努めていきます。
 次に、休日・全夜間診療事業には該当しない病院への補助についてでありますが、この事業は、原則として、固定・通年制により、常時小児科医師による診療が可能な医療機関を確保することを目的としております。ただし、地域によりましては、こうした施設の確保が困難な場合もあることから、例えば、複数の医療機関の輪番制で体制を確保した場合も事業の対象としております。
 次に、多摩地域へのドクターカーの複数配備についてでありますが、新生児搬送用のドクターカーは、現在、八王子小児病院に一台配備しており、現状では出動要請にほぼ対応できております。今後の複数配備につきましては、運行実績等を見きわめた上で対応してまいります。
 次に、市町村に対する小児初期救急医療事業の運営費補助についてであります。
 この事業では、診療報酬の収入のみでは不足するスタッフの人件費相当分等を補助することとしております。区市町村での取り組みがおくれているのは、小児科医師の不足など、さまざまな原因があると考えられますが、現在設置しております小児初期救急医療事業推進協議会の分析結果も踏まえ、これらの課題の検討を行っていきます。
 次に、小児科医の育成確保についてでありますが、平成十四年度から、小児の二次救急を実施している医療機関におきまして、地域で開業している内科医等を対象に、小児の救急疾患等に関する研修事業を開始しております。また、都立小児病院でも、既に平成十四年度から、高度医療を担う小児科医師を養成することを目的として専門臨床研修を行っております。今後とも、地域における小児医療の確保に努めてまいります。
 次に、多摩地域の保健所の機能強化についてでありますが、地方分権のさらなる進展や新たな健康課題の発生という近年の状況を踏まえ、都の保健所は、二次保健医療圏における総合的な保健医療施策の拠点として再編整備していきます。
 母子保健分野につきましては、市町村に対する技術的な支援や、児童虐待等の新たな健康課題への対策など、取り組みを強化していきます。
 最後に、母子保健事業に対する財政措置についてでありますが、これは、平成九年度の母子保健事業の市町村移管に伴いまして、母子保健サービス水準の維持向上を図るため、平成十三年度までの五年間の時限措置として、市長会及び町村会との協議を踏まえて実施したものであります。これを存続する考えはございません。
   〔福祉局長川崎裕康君登壇〕

○福祉局長(川崎裕康君) 乳幼児に対する医療費助成制度について、二点にお答えいたします。
 まず、本制度における所得制限の撤廃に要する経費の試算についてであります。
 所得制限を撤廃する考えはございませんが、仮に、お尋ねの条件で撤廃するために新たに必要となる額を試算いたしますと、未就学児全員を対象とする場合には約四十三億円、三歳未満児のみを対象とする場合には約十六億円と見込まれます。
 次に、乳幼児に対する医療費助成制度における所得制限の撤廃についてでありますが、乳幼児に対する医療費助成制度は子育て家庭への経済的な支援策であり、一定の所得制限は必要と考えており、撤廃する考えはございません。
   〔総務局長赤星經昭君登壇〕

○総務局長(赤星經昭君) 市町村が行います住民サービスに対します支援についての質問にお答え申し上げます。
 住民に身近なサービスの提供は、第一義的には、基礎的自治体でございます市町村が、みずからの責任で自主的、主体的に実施すべきものでございます。都は、広域自治体としての立場から、多摩の各市町村の自主性、自立性が向上できるよう、多岐にわたるさまざまな支援を行っております。このことは皆様ご承知のとおりでございます。

○議長(三田敏哉君) この際、議事の都合により、おおむね二十分間休憩いたします。
   午後三時四十五分休憩

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