平成十五年東京都議会会議録第二号

   午後六時四十五分開議

○議長(三田敏哉君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 百五番渡辺康信君。
   〔百五番渡辺康信君登壇〕

○百五番(渡辺康信君) 日本共産党を代表して、質問します。
 石原都政が誕生して四年がたちました。この四年の間、都民はかつて経験したことのない不況に苦しめられ、加えて、小泉内閣の医療改悪、社会保障負担増、不良債権処理の加速が追い打ちをかけています。
 都内企業の倒産は過去最悪を記録し、ものづくりの拠点である大田区では、この一年間で一割の製造業者が工場を畳んだといわれています。完全失業率も、昨年、過去最悪の四十一万人、六・一%を記録し、今でも三十九万人の人が仕事が全くなく、路頭に迷っています。
 勤労者世帯の実収入も五年連続で後退し、六十八万円もの減収になっています。国民健康保険料の滞納は激増し、二十三区の加入者の四人に一人、私の地元足立区では三五%、江戸川区では三七%に及んでいます。年の暮れに町金業者から取り立てを受け、店を乗っ取られ、新年を、テント生活や車の中で迎えた方も何人もいます。こうした本当に痛ましい話を耳にするたびに、事態が、小泉内閣の一年、いやこの半年の間にますます悪化していることを実感させられています。
 いうまでもなく、地方自治体の責務は、住民の福祉の増進にその眼目があります。しかも、今日のような未曾有の不況のときだけに、福祉、医療の拡充を初め、都民の就労と中小企業の営業を守ることを通じて、都民の生活の安定を実現することは、地方自治体の最優先の課題といわなければなりません。実際に、全国で少なくない自治体が、厳しい財政であっても、知恵を出して、積極的に住民の生活を防衛するための模索が始められているのです。
 長野県では、田中知事の発案で、脱ダムの取り組みの一環として、従来型の公共事業にかわる雇用創出事業として、十万人の雇用創出を目指す、森しん世紀ニューディール政策が提案され、お年寄りが幼児と一緒に過ごす宅幼老所や、特別養護老人ホームの増設に重点的に財源を配分しようとしています。
 北海道では、ことしの新卒者を一年間、北海道庁が雇い、職業訓練をした上で社会参加を進める、スタートワーキング・サポート事業を開始いたしました。
 一方、石原都政はどうでしょうか。都民の暮らしを守るどころか、本当に冷たい姿勢をとり続けてきました。福祉の分野では、老人医療費助成を初めとする経済給付的事業を次々に切り捨ててきました。失業対策では、国の特別雇用創出交付金事業から一歩も出ようとせず、中小企業対策も、見るべき不況対策は講じられず、必死に頑張っている業者の支援は棚上げされ、予算も、この四年間に一割以上も削減されました。都民の暮らしと営業は待ったなしであります。
 東京都が、自治体本来の姿勢に立ち返って、何よりも、不況に苦しむ都民の生活の防衛に全力を挙げることを強く求めるものですが、知事の見解を伺います。
 私たちが町を歩いている中で寄せられる要望は、本当に切実で緊急です。知事が切実な都民の要求にこたえることを心から求めるものであります。
 初めに、医療費の負担軽減です。
 小泉内閣が、昨年十月に高齢者の医療費の自己負担を三千億円もふやした上、サラリーマンの医療費の自己負担を、ことし四月から三割に引き上げることを計画していることに対し、国民の批判が渦巻いています。
 注目すべきは、日本医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護婦協会の四団体がそろって、サラリーマンの三割負担の実施凍結や、高齢者医療費の自己負担軽減などを求める共同声明を発表し、患者負担増反対の国民運動を開始したことであります。
 日本の医師会の副会長は、高齢者医療費の自己負担の引き上げにより、在宅で療養しているお年寄りは、三倍から四倍の自己負担増という危機的な状況になっている、これは財政的な問題ではなく、命のやりとりの問題となりつつあると、厳しく指摘しています。
 私は、高齢者の医療費について、三十人を超える方から話を伺いましたが、その七割以上が、負担が大変重くなったと訴えています。在宅酸素を中止したい。家族への負担を考えると心苦しい。訪問医療は絶対に減らすわけにいかないので、食事を削っている。医者にかからず早く死ねといっているに等しいではないかなど、切実な声が寄せられました。
 知事、国に対して物を申すというなら、サラリーマンの三割負担の実施凍結と高齢者の自己負担軽減を迫る、そういう行動を起こすことこそ求められているのではありませんか。見解を求めます。
 次に、中小企業の営業を守る問題とサービス残業についてです。
 不況と小泉改革のもとで、業者の方から異口同音に訴えられるのが、銀行の貸しはがし、貸し渋りのひどさです。ある業者の方は、まじめに返済しているのに利息の引き上げを迫られ、断ると、融資を引き揚げると迫られたそうです。そればかりか、今回の不良債権処理の特徴は、たとえ黒字の企業であっても、将来可能性のある会社であろうと、お構いなしに引きはがして企業をつぶすというむごいものであります。
 知事、都内の銀行に対して、貸しはがし、貸し渋りの是正を改めて強く働きかけるべきではありませんか。東京都の取扱銀行については、とりわけ厳しい態度で臨むことが必要だと思いますが、答弁を求めます。
 幾つも借りている債務の借りかえ一本化は、業者の強い要望です。制度融資については、国は昨年、債権回収機構送りとなった業者のためのセーフティーネット保証や、借りかえ保証制度をスタートさせました。不良債権処理に対応したセーフティーネット保証は、新規融資も受け付けており、借りかえ保証制度と組み合わせることで、融資の一本化と、新たな資金繰りが可能となるものです。
 また、銀行からの直接のプロパー融資についても、京都府がこの一月から始めた、あんしん借りかえ制度は、制度融資と一本化できるし、返済期間の延長や利息の引き下げなど、業者の都合に合わせた条件変更も可能にしています。府のモデルでは、一本化の効果で、利息が四分の一程度で済むようになるそうです。また、この制度は、不良債権が正常債権化されることになるので、金融機関からも喜ばれているそうです。
 東京都が、国の新しい制度の徹底と、保証協会が積極的に保証に応じるように指導を強めるよう求めるものです。加えて、都として、プロパー融資の一本化のための融資をスタートさせることを提案するものです。それぞれ答弁を求めます。
 雇用創出に当たって、法律違反のサービス残業の改善は重要です。先日も、特別養護老人ホームでのサービス残業の強制が摘発されました。知事は、この問題について、こういった残業手当も出さないようなていたらくの経営というのは、どこか問題がある、民間ではあり得ないことでもあると発言しました。知事の発言とは裏腹に、東京では、二〇〇一年一月からの一年半の期間だけでも、NEC、沖電気を初め大企業を中心に、六十七社で十五億円のサービス残業が認定され、未払いが是正されたことを指摘しないわけにはいきません。
 重大なことは、このサービス残業は、総定数抑制政策のもとで人が減らされているために、都庁にも広く残されており、中には、都が裁判で未払い是正を命じられた例もあるなど、深刻です。多くの職員がサービス残業を強いられているのが実態です。法律を守らせるべき東京都がサービス残業を放置することは許されません。民間企業などにサービス残業を是正させるとともに、雇用を拡大するよう働きかけをすること、また、直ちに、都職員のサービス残業については知事の責任で是正すべきと考えますが、どうでしょうか。
 石原都政の四年で最大の問題は、東京の福祉を大きく後退させたことといわなければなりません。知事は、就任直後に月刊誌で、何がぜいたくかといえば、まず福祉だと述べ、真っ先にやったのが、高齢者や障害者の命綱である、マル福などの医療費助成や福祉手当の切り捨てであり、シルバーパスの全面有料化でした。その影響は、我が党の試算でも、おおよそ百二十万人の都民に及び、二〇〇〇年度以降の三年間で、合わせて一千億円もの負担増となっています。
 知事は、年金の充実など、社会経済状況が変化したから、医療費助成や福祉手当は時代おくれになったとか、所得保障は国の責任だなどといいましたが、これが全く陳腐な議論であることは今や明白です。年金は、充実どころか、戦後初めて支給額が削減されます。社会経済情勢は一層悪化し、都民生活の危機は深刻化しています。その中で、国は、所得保障を強めるどころか、所得が下がっているときに大幅な負担増を押しつけようとしているのです。
 革新都政以来、都独自の努力で実施してきた医療費助成や福祉手当から手を引き、政治の責任を果たそうとしない国にげたを預けて、あとは都の知ったことではない。石原知事、こんな姿勢でいいと考えているのでしょうか。お答えください。
 介護保険が実施されて三年がたち、さまざまな欠陥が明らかになっているもとで、欠陥是正への都の対応も鋭く問われています。現行制度では不十分だからこそ、保険者である多くの区市町村が、最初は保険制度になじまないなどとしていた姿勢を変化させて、都内の三十二自治体が保険料軽減に、五十五の自治体が利用料軽減に足を踏み出しているのです。
 我が党は、保険料については、都が一定の基準を定め、区市町村への財政支援も行うことで、少なくとも第二段階以下の方への減免制度を設けること、都独自の利用料軽減策は、所得、資産制限を緩和するなど、拡充を図ると同時に、区市町村が実施している利用料軽減策を支援する本格的な制度の創設を提案してきましたが、都はこれを拒否しています。
 保険料は、この四月から八割の自治体で値上げとなり、低所得者のホームヘルプ利用料も三%から六%へ、負担は倍増します。事は深刻であり、知事の決断が緊急に求められているのです。
 都は、保険料軽減について、現行制度においてきめ細かい配慮がされているといいますが、保険料の第二段階は幅が広過ぎて、困窮世帯が多く含まれていることは、今や常識であります。六段階制が活用できるといいますが、これは、高額所得者が多い一部の地域でしか役に立たないものです。
 利用料軽減については、都独自の区市町村支援を実施しており、十分対応しているといいますが、都の制度は、所得や資産の基準は余りにも厳しいため、利用者はわずか千四百人にすぎません。これで十分だというのでしょうか。知事、介護保険の負担軽減のため、都として本格的な対応に踏み切ることを改めて求めるものです。お答えください。
 知事は、介護保険が始まることを理由に、寝たきり高齢者への老人福祉手当を毎年削減し、この三月で廃止しようとしています。その結果どうなったか、改めて調べてみましたが、手当の削減に対応するため夜間の巡回ヘルパーを断り、家族は介護疲れでくたくたになっている、預金を取り崩し底をついたなど、痛ましいほどの実態が明らかになりました。だからこそ、練馬区、江戸川区は独自の制度を創設し、政令市の半数が介護手当を存続しているのです。知事、決まったことだといって済ますのではなく、この間の削減の影響を検証し、何らかの救済策を講ずることも含めて、廃止を再検討する必要があるのではないですか。知事の答弁を求めます。
 石原知事が、福祉改革だといって次にやろうとしているのが、都立福祉施設からの撤退や、民間福祉施設に対する都独自補助の廃止、削減であります。
 施政方針で、知事は、入所施設を中心とした対応から、地域での生活を支える体制に改めると述べましたが、これまで都と福祉関係者が協力して進めてきた方向は、在宅福祉、地域福祉という新しい課題に光を当てるとともに、そのための拠点として施設を積極的に活用していこうというものでした。また、在宅、施設とも、福祉サービスの質の向上にとって、よい人材の確保、定着は不可欠の条件であり、そのために都が積極的な役割を果たす必要のあることが確認されてきました。ところが、石原知事の福祉改革は、こうした本来の立場を投げ捨て、施設の役割を否定し、人材の確保、定着に対する最も重要な支援策である人件費補助をも否定するものであります。
 入所施設についていえば、特別養護老人ホームの入所希望者は二万五千人を超えており、一日も早く入所したいとの、高齢者と家族の切実な声が渦巻いています。老人保健施設の整備率は全国最下位です。一方、知事は施政方針で、地域での生活を支えるためグループホームなどを整備してきたといいました。しかし、その実態は、介護保険対象の痴呆性高齢者グループホームの整備状況は、要介護高齢者に対する定員の割合で見ると、東京都はいまだ全国最下位であります。
 知事は、真の意味での都民福祉の充実を進めるのだといいますが、そのためには、施設も在宅サービスも、両方を質、量ともに拡充していくことが必要ではありませんか。都立社会福祉施設からの撤退方針を見直すとともに、特別養護老人ホームや老人保健施設を大幅にふやすよう求めるものであります。
 グループホームについては、三月末に策定する第二期介護保険事業支援計画で、整備目標を抜本的に引き上げることが必要です。
 また、今年度から用地費助成事業としてスタートした暮らしの福祉インフラ整備事業は、品川区の五カ所が指定を受けたにとどまっています。多くの区市町村が利用できるよう、枠を広げるなど積極的な対応が必要です。お答えください。
 石原知事の福祉改革が、営利企業を中心とした市場競争に福祉を投げ込み、都民の願いにも自治体としてのあり方にも逆行することは、保育の分野を見れば明らかであります。
 都は、営利企業による認証保育所の数をふやすことばかり熱心で、肝心の認可保育所の拡充は、わきへ追いやる方向を強めています。しかし、我が党が明らかにしてきたように、認証保育所は、保育料が高い、施設が狭い、保育士の賃金が低く、働く条件が悪い、人材の確保、定着に大きな困難があるなど、認可保育所に比べ多くの不十分さがあります。しかし、少子化対策が重要な課題となっている今、大事なことは、子どもたちのために最善の環境を整えることであります。
 保育園を考える親の会が行った調査によれば、埼玉、千葉、神奈川県下の市で、公立、私立を含め、国基準の職員配置だけで保育を行っているところは、皆無といって過言ではありません。どこでも、何らかの独自の充実する努力をしており、ゼロ歳児の職員配置の加算を初め、かつての都基準を上回る独自加算を行っている自治体もあります。
 秋田県は、少子化対策のため、第一子の保育料を、ゼロ歳児の一年間、無料にする思い切った政策を打ち出しました。保育所運営の都基準を廃止して、国基準まで質を低下させ、さらに、国基準にも満たない認証保育所を推進するという都の姿勢とは大違いではありませんか。
 知事、認可保育所における職員配置の国基準について、現場の実態とかけ離れた低過ぎるものと思いませんか。国基準の緩和でなく、かつての都基準に見合った都独自の都加算補助を堅持することを求めるものです。知事の見解を伺います。
 保育料については、区市町村が独自の努力で負担軽減を行っていることに対し、福祉局が、受益と負担の公平という観点から課題があると認識しているなどと、値上げを誘導するような答弁をしたことは重大であります。少子化対策としても、保育料の負担軽減のための区市町村の努力を都として支援することこそ求められていると思います。見解を求めます。
 福祉の最後に、石原都政の四年間で、福祉予算がどうなったかという問題であります。現時点で発表されている他府県の来年度予算案と比較すると、九九年度の福祉の予算に対し、千葉県が二二%、二百五億円の増、京都府が一四%、八十三億円の増、その他広島県、兵庫県、神奈川県、宮城県、埼玉県など、現時点で把握できた政令都市を抱える府県では、すべて増額となっています。これに対し石原都政の東京都は、マイナス一六%、三百三十億円の減額であります。来年度、児童扶養手当が市移管されるのはどこも同じです。
 第四回定例会で、来年度予算に向けた福祉局要求が大幅減額となっていることを我が党が指摘し、増額を求めたことに対し、知事は、うそっぱちなどと公党を誹謗する暴言を吐いて、開き直りました。結果としては、まともな説明ができず醜態をさらした上、知事が発表した予算案で、福祉予算は一層の減額になったのであります。知事に冷静な答弁を求めたいと思います。
 東京の福祉予算の減額が突出していることは、これは事実であります。そのことをどう考えますか。厳しい財政状況のもとでも、自治体として、福祉予算は増額の努力を尽くす必要があると思いませんか。お答えください。
 子どもたちの教育も、福祉とともに自治体にとって大事な仕事です。今、東京の子どもたちは、差別と選別、詰め込み教育の押しつけや大学を頂点とする受験競争のもとで、伸び伸びと学校生活を楽しみ、わかったと喜び合えるような学習を送るゆとりを奪われようとしています。このため、学力不振や心のケアを必要とする子どもたちがふえ、中学校での不登校や都立高校での中途退学は、生徒の二割近くに達しています。
 このように大事な教育の仕事で、石原都政がこの四年間に行ったことは、事態を改善させるどころか深刻化させるものでした。例えば、都民の三十人学級を実施してという願いに背を向け続けています。また、障害児教育では、学校の建設を怠り、教室不足で一つの教室を二つのクラスで使ったり、往復三時間以上のスクールバスなどが放置されたままです。
 その一方で知事が進めたのが、都立高校改革では、どんどん高校をつぶし、受験競争を一層激しくさせることであり、心の東京革命などといって、専ら子どもへの管理、統制を進めることでありました。
 こうした方向が、子どもたちが必要としている教育とほど遠いものであることは、三十人学級が少なくない自治体で実行に移されていることや、県、父母、教職員、子どもたちの共同で進められている、高知県の子どもを中心にした教育などと比べてみると明らかです。
 まず、三十人学級ですが、長野県では信州こまやか教育プランとして、昨年四月から、小学校一年生に三十人規模学級を導入しました。これまで都教委は、習熟度別少人数授業を推進し、少人数学級を拒んできましたが、その理由として、学習は少人数がよいが、生活集団としては、一定の人数で切磋琢磨が必要といってきました。しかし、このいい分が成り立たないことは、長野県の実践が証明しています。
 私どもは、実際に長野県を訪ねて調査を行いましたが、長野県教育委員会では昨年、三十人規模学級編制の成果と課題と題する報告書をまとめており、子どもたちの様子、担任の反応、保護者の反応など、詳しく子どもたちと学校の変化が報告されています。子どもたちの様子では、学習内容の定着がよいなどとされ、担任の反応では、じっくり教えられる、平仮名学習で、だれが、どの字を間違えているかが記録を見なくても頭に入っているので、指導が能率的にできると報告され、保護者の声では、少人数で先生の手がよく入り、ありがたいとか、兄や姉のときよりはるかに落ちついて取り組んでいるなどと報告されています。
 生活集団とのかかわりでは、基本的生活習慣が定着したという報告が寄せられ、教職員団体の報告では、仲よく遊んだり、学級の問題をみんなで話し合うなど、学級のまとまりがよくなった、一人一人の存在感が強くなり、お互いに関心を持つようになったなども、成果として報告されています。こうした成果を踏まえて、県教育委員会では、財政が許せばさらに制度の充実を検討するとしています。
 財政負担については、我が党として試算をしてみましたが、その結果は、長野と同じように行うことで、小学校一年だけならば、約三十一億円で三十人規模学級に踏み出せます。三十人学級を求める署名は、毎年、百数十万を超える規模で東京都にも提出されています。問題は、知事の姿勢と決断です。
 知事、都として三十人学級に踏み出すことを拒む理由はありません。少なくとも来年度の一年生からスタートさせることを求めるものですが、見解を求めます。
 石原知事が進めてきた都立高校改革も、子どもたちに深刻な影響を与えています。今、この改革に沿って都立高校の統廃合が進められていますが、この計画によって、二百八校あった高校が百八十校に廃止、統合され、定時制高校に至っては半分にされようとしています。また、ことしの入試から学区制が廃止され、全都一本の受験とされました。こうした改革の結果、子どもたちの学校生活にゆとりが生まれたでしょうか。果たして学力が向上するでしょうか。甚だ疑問であります。
 実際に、これまでの高校進学者のほとんどは、居住地の近くの学校を選んでいるのであり、しかも、これまでは、たとえ一次試験で失敗しても、学区内のどこかの学校に進学できるという安心がありました。ところが、学区制の廃止は、底辺校に子どもたちが殺到する、これまで通えていた地域の子どもたちが玉突きで追い出されるという事態を生み出そうとしているのです。その上、学校がどんどん減っていくわけですから、大変なことです。
 ことしの都立高校受験は、まさに一発勝負です。このため、中学校では、先生が偏差値と進路指導に追われ、子どもたちは、本来の志望をあきらめて、安全と思われる学校に志望変更せざるを得なくなっているのです。知事は、志望状況だけを見て、エンカレッジ校に多くの志望者が集まりましたと自慢しましたが、とんでもありません。そこなら大丈夫ではないかと子どもたちが殺到したのではありませんか。
 知事は、施政方針で、戦後の教育界を支配したあしき平等主義は、生徒を甘やかすだけの結果しか招かず、教育の荒廃の元凶と述べました。しかし、憲法と教育基本法に定められた教育における平等、機会均等の原理とは、日本国民であれば、だれもがその能力と適性に応じた教育の場を保障される権利を持つということであり、この考え方は世界共通のものであります。このどこがあしき平等というのでしょうか。
 もちろん、この理念にもかかわらず、そのやり方には問題や試行錯誤もあったでしょう。しかし、今日の教育と子どもたちが直面している問題の多くは、国連の子どもの権利に関する委員会の勧告も指摘しているように、過度に競争的な教育制度のストレスにさらされているためと見るべきものです。日本政府も批准した条約に基づく国連の子どもの権利に関する委員会の勧告について、知事はどう受けとめているのですか。
 知事がいう競争原理の徹底を中心とする教育改革こそ、東京の教育を一層荒廃させることになることを厳しく指摘しておくものです。
 石原知事が、この四年間に福祉、教育などの自治体の仕事を大きく後退させる一方で、東京をよみがえらせるといって強力に推し進めてきたのが都市再生です。もともと都市の再生という課題は、東京だけが直面している問題ではありません。ヨーロッパの諸都市も、発展の過程で避けて通れないテーマになっています。そして、ヨーロッパの諸都市が選んだ都市の再生の道は、環境との共生、居住の継続、伝統と文化の継承を柱に、住民参加で都市の再生を進めるというものであります。
 また、アメリカでも逆流もあります。都市政策の中に、成長を管理するという取り組みが進められています。スクラップ・アンド・ビルドで超高層ビルを無軌道につくり、集中を加速させることを都市再生といっているのは、世界広しといえども東京だけではありませんか。知事は、こういうと、共産党は文明工学的な考え方が欠落しているなどと、わけのわからない悪罵を浴びせますが、その文明工学という考えからいっても、環境との共生や安心して暮らせる都市づくりが、その本来の目指すものです。
 ある大学教授の方は、社会基盤のよさは社会の活動の効率性を間違いなく高めると、社会的インフラの整備の役割を評価しながらも、土木工事をやり過ぎると、負債を生み出し、国は滅びる、二十一世紀の科学技術の目標として、地球と調和した人類の共生、安心して暮らせる潤いのある社会の構築が必要だといわれています。知事の文明工学論、都市再生論は、明らかに開発だけに偏ったいびつなものといわざるを得ませんが、見解を求めます。
 いうまでもなく、東京では、政治、経済、人口の一極集中によって、深刻な環境破壊、住宅難、慢性的な交通渋滞など、都民の生活が脅かされ、さらには九〇年代に入ってからは、製造業の空洞化と地域商業の衰退が顕著にあらわれるようになりました。環境では、ヒートアイランド現象が顕在化し、この百年間に年間平均気温が三度も上昇し、都市型水害が頻発、自動車公害では、二酸化窒素の測定局で、全国ワーストテンの中に東京が七カ所も占め、東京公害裁判では、東京都の道路設置者としての責任が断罪されました。
 バブルによる住民追い出しと住環境破壊も進みました。経済の衰退も深刻です。機械金属、印刷製本などの製造業の集積は、世界の首都の中で東京だけに見られるものですが、それもピーク時の六割に落ち込み、商店もシャッター通りがふえています。まさに、東京の環境、住宅、地域経済の再生は、世界のどの都市と比べても待ったなしの課題であります。
 ところが、石原知事が選んだ超高層ビルと大型幹線道路が中心の都市再生の道を進めば、おおむね、首都高速道路中央環状線内側のセンター・コア内での開発中もしくは計画中のものだけで、臨海副都心の約八倍の地域が開発され、そこにつくられる超高層ビルは、延べ床面積で、五十五階建ての新宿三井ビル五十棟分にもなります。我が党の推計によれば、これによって二酸化炭素が六%近く押し上げられ、自動車交通もほぼ二十五万台も呼び込まれることにもなります。
 三環状道路についても、たとえこれによって、知事がいうように都内への自動車の流入が抑制されたとしても、その内側で大量の自動車需要が発生するわけですから、イタチごっこというべきでありませんか。そもそも東京の社会基盤についていえば、地下鉄を初めとする公共交通網は網の目のように張りめぐらされ、都市部の幹線道路や高速道路も、環状道路を含めてトータルに見れば、世界と比べて決して見劣りするものではなく、むしろ自動車のふえ方の方が異常なのです。
 知事は、第四回定例会で、東京では、大気汚染、産業の空洞化、改善されない住宅事情などさまざまな問題が先鋭的にあらわれていると述べましたが、知事がやっているのは自動車交通をふやす開発であり、工場を追い出してオフィスを建て、都心居住といって低所得者を都心から追い出すことであり、あなたが述べた問題を一層ひどくすることではありませんか。
 問題を解決する気があるのなら、私たちが提案しているように、ヨーロッパやアメリカの先進的な取り組みに学んで、都市の成長をコントロールし、環境との共生、低所得者や高齢者、サラリーマンが住み続けられる住宅の保障、ものづくりや商店街を初めとする地域経済の再生の道にこそ踏み出すことが必要なのではありませんか。答弁を求めます。
 都市再生によるオフィスビルの過剰供給について、各方面から警告が発せられています。最近、民間による調査結果が発表されましたが、それによれば、都心を中心にした民間オフィスの大量供給によって、オフィスの空き室率が七・七五%に達し、都心五区の大型新築ビルに限った空き室率は、約三割に達しているという深刻さです。しかも、二〇〇三年問題といわれる本格的な超高層ビルの供給はこれからで、ことし供給される高さ百メートル以上のビルは、二十三棟、面積二百五十三万平方メートルに及びます。
 既に汐留や六本木などの開発が進んでいる港区では、固定資産税の高額化や中小マンションに空き室など、区民の生活に深刻な影響が生まれ、江東区や大田区では、都心の開発に合わせたマンション建設ラッシュで、学校や保育園の不足が深刻な問題となっています。この上、都市再生で約二千三百七十ヘクタールに及ぶ都市再生緊急整備地域の開発が進められたら、一体どうなるのでしょうか。
 知事の進める都市再生は、東京をよみがえらせるどころか、大企業や大手開発会社は潤う一方、地域経済が破壊され、深刻な東京の経済を取り返しのつかないことにしてしまいます。知事も昨年九月の記者会見で、ビルを建てたから人が入ってくるわけではないと認めました。過去に計画されたビルだけでこれだけ問題になっているわけですから、都市再生緊急整備地域について見直すべきではありませんか。見解を伺います。
 都市再生の目玉として都市再生緊急整備地域に指定されたのが、臨海副都心開発です。しかし、臨海副都心開発は、今後の推移を見るまでもなく、既に破綻は明らかです。重要なことは、この問題は、既に過去に責任を押しつけることが許されない、石原知事自身の責任に属する問題になっていることです。すなわち、石原知事が就任後行ったことは、まず、都民の反対を押し切っての有明北地区の埋め立てであり、臨海会計救済のために三会計統合を行い、新たな都財政投入に道を開いたことであります。また、臨海道路の第二期工事の着工や臨海高速鉄道への資金援助も行いました。
 一方、これだけの手厚い支援を行いながら、石原知事のもとで、契約、売却に至った土地は、有明南地区のP街区のたった一つにすぎません。このため、臨海副都心開発の会計は、来年度、実質二百七十億円前後の赤字となり、売却した土地の収益を充てて、やりくりで間に合わせるにすぎません。
 来年度以降、有明の丘など幾つかの区画での売却が見込まれているようですが、それらは本来、二〇〇九年から本格化する七千億円の借金の原資として積み立てておかなければならないものです。しかし、現実には、毎年発生することが予想される巨額な赤字の埋め合わせのための資金繰りに使われて、なくなってしまう可能性が高いものです。土地を売れば売るほど、借金返済の目途は遠くなっていかざるを得ないのではありませんか。
 知事、このまま開発を進めることは、都財政に決定的な打撃を与えることになるのではありませんか。改めて臨海副都心開発の都民参加での見直しを提案するものでありますが、どうでしょうか。答弁を求めます。
 来年度予算案は、長期不況に加え、小泉内閣の社会保障負担増や不良債権処理加速策から、都民の暮らしと営業を守るという緊急課題にどうこたえるのかが問われました。しかし、知事が提案した予算案は、残念ながら、これまで指摘してきたように、福祉や医療、雇用や中小企業対策の充実などの切実な都民要望にこたえるものとはなっていないばかりか、都市再生や臨海開発には重点的に予算をつぎ込むという逆立ち予算というべきものであります。
 大型開発が温存された結果、投資的経費に、経常的経費に含まれる首都高速道路公団への貸付金や公債費などを合わせた投資型経費は、一兆五千億円に達し、予算の四分の一を占めるに至っています。
 知事は、来年度予算案で一千億円、都債残高が減額となると誇らしげにいいましたが、それは過去のピーク時の借金の返済期が来ただけであって、最終補正を合わせれば五百億円の減額であり、しかも、四年間を通して見れば、五千五百六十七億円の借金を積み増ししたのが事実ではありませんか。
 知事は、選挙のときに、借金財政ノーと公約されましたが、巨額な借金の積み増しは、公約に反するのではありませんか。答弁を求めます。
 我が党は、税金の使い方を切りかえれば、切実で緊急の都民要求にこたえられるという立場から、今定例会に予算の組み替えの提案を行うものです。この提案は、大型公共事業の見直しやむだや浪費にメスを入れることで財源を確保し、わずかな予算の組み替えでも、切り捨てられた福祉の復活や介護保険の減免の拡充、子育て支援、三十人学級の実現、環境対策、生活優先の公共事業、緊急の雇用、中小企業対策などに踏み出すことが可能であることを示すものであります。
 我が党の提案した方向こそが、福祉の増進を目的とする自治体が目指すべき予算の方向であることを申し述べ、再質問を留保して、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 渡辺康信議員の代表質問にお答えいたします。
 ご質問を伺っておりまして、あることを思い出しました。昨年、東京都のシティーセールスに浜渦副知事がベルリンに参りました。かつてのベルリン、今EUの中心になろうと思っているベルリンでありましたが、向こうの市長、知事に会って話したところが、対等の提案ではなしに、むしろ、さまざまな東京からの援助に対する陳情がほとんどであったと聞いております。そのときにそのわけなるものをただしましたら、向こうの当事者が、とにかく戦後五十年間、共産主義、社会主義のもとで過ごしてきた国民の三分の一が、にわかに自由主義経済体制に組み込まれても、かつてのおんば日傘の悪習が抜けずに、幾ら働けといっても働かない、そして、能率が上がらないということを慨嘆したそうでありますけれども、むべなるかなという感じがいたします。
 さて、都民の生活の防衛に全力を挙げよというお言葉でありますが、中小企業支援に冷淡であるとか、福祉分野の切り捨てとか、皆さんの指摘は、いつものことながら、全く当たっておりません。私は、就任以来、都民生活向上を目指して職務に精励してきたつもりでありますが、福祉については、政策内容はもとよりでありますけれども、予算に占める割合を見ても、今ほど高いときはございません。
 ちなみに、一般会計に占める福祉の割合を見ますと、私の代になりましてから、平成十五年度、九・二%、青島都政のときには、平成十一年度、八・九%、共産党がしきりに支持されました美濃部都政のとき、昭和五十三年度、六・五%であります。
 また、中小企業の振興については、平成十五年度の制度融資について、過去最大となる一兆七千五百億円の融資目標額を設定いたしました。環境対策については、本年十月からディーゼル車規制の対応として、新たな融資制度の導入など、五万台の買いかえを支援するつもりでございます。これ以上、財政的にどう算段していいのか、方法があるならば教えていただきたいと思います。
 都民福祉をより積極的に向上させるためには、長い目で見た場合、都市の再生が不可欠であると思います。三環状道路や羽田空港の整備、都市再開発などを積極的に進めることが都民生活の向上にまさにつながると思います。
 木を見て森を見ない批判、ためにする批判ではなくて、私たちのやっていること全体をとらえて批判していただきたいと思います。
 医療保険制度についてでありますが、高齢化の進展によって国民医療費が増大する一方、少子化により若年世代の負担が高まる中で、各制度、各世代を通じた給付と負担の公平化を図ることが不可避であると思います。昨年の健康保険法や老人保健法などの改正は、安定した医療保険制度を今後とも維持していくため、給付の一元化を行うとともに、国民に適正な負担を求めたものと理解しております。
 次いで、貸しはがし、貸し渋りの是正に向けた銀行への働きかけでありますが、銀行の指導監督は国の役割であります。しかし、国は十分に果たしていないとは思います。例えば、地方の末端での金融に取り組んでいる信用組合などに、過去に不祥事がございました、それによってここの監督権が国にまた還元され、そしてこの信用組合に非常に厳しい融資の基準が当てはめられたなどということは、私はやっぱり今日の時代に逆行するというか、地方における金融の事情を理解しない国の措置だと思ってはおります。このため、国に対して、昨年十一月に中小企業の資金調達の円滑化に向け、事業再生融資の創設等を提案、要求いたしました。
 都は、来年度の制度融資では、クイック型融資などの創設とともに、融資目標額を過去最大の一兆七千五百億円とし、中小企業の資金調達を強力に支援いたします。また、都の働きかけとして、制度融資を取り扱う金融機関に、昨年五月及び十月に積極的な資金供給を要請いたしました。
 次いで、都の福祉施策についてでありますが、戦後、枠組みができ上がってから基本的に見直されることがなかった国の画一的な福祉システムは、制度疲労をもはや来しておりまして、都は福祉改革を実施してまいります。
 国に先駆けた都独自の取り組みであります認証保育所や、民間企業に対する痴呆性高齢者グループホームの整備費補助の創設など、着実な成果を上げていると思っております。都民が地域の中で必要とするサービスを利用しながら自立して生活できるようにしていくことこそが、真の意味での都民福祉の充実に資するものと思っております。
 一連のばらまきの経済給付的な事業の見直しは、こうした利用者本位の福祉の実現を目指す福祉改革の一環として実現し、既に都民の理解を十分に得ていると確信いたしております。
 都民福祉の充実についてでありますが、都が目指す福祉改革は、都民が高齢や障害などでケアを要する状況になっても、地域の中でさまざまなサービスを利用しながら自立して生活できる、ごく当たり前の世界をこの東京で実現することであります。こうした地域での自立生活を支えるセーフティーネットとしての施設の重要性は、いわれるまでもなく認識しております。
 都は、これまで手厚い特別助成により、高齢者や障害者の施設を着実に整備してまいりました。また、事業者間の競い合いにより、施設サービスの質の向上を実現することが重要と認識しております。こうした一連の福祉サービスの質と量の拡充を目指す取り組みについて、ご指摘を待つまでもなく、福祉改革の一環として実現していくつもりでございます。
 次いで、福祉予算についてでありますが、来年度の都の予算編成は、財政構造改革に全力を挙げて取り組みつつ、緊急課題や重点課題に集中的に対応してまいります。福祉予算についても、見直すべき事業は見直し、重点事業である障害者地域生活支援緊急三カ年プランなど、福祉改革の推進に必要な予算は十分に確保しております。また、十一年度以降、一般会計全体に占める福祉予算の構成比は着実に伸びており、福祉施策はむしろ充実していると心得ております。
 都は、大都市特有の福祉ニーズを踏まえた独自施策を積極的に展開しておるわけでありまして、サイズも、都市としての性格も違う他の地方自治体と福祉予算を単純に比較することは、余り当を得ていないと私は思います。
 さて、三十人学級についてでありますが、学級編制基準については、教育委員会が、学習集団や生活集団としての教育効果などを総合的に判断して定めているものでありまして、私としては、こうした教育委員会の方針を尊重してまいりたいと思います。
 戦後の教育界を支配したあしき平等主義についてでありますが、戦後教育の弊害の一つは、機会の平等よりも結果の平等重視という、あしき平等主義によって画一的な教育が行われ、子どもの個性や創造性など、さまざまな可能性の芽を摘んでしまってきたことであります。
 結果の平等主義を教育から大胆に排除し、あくまでも結果に対する平等ではなく、子どもにそれぞれの個性、能力に応じた教育の機会の均等を保障し、それぞれが持つ可能性を存分に発揮させるような教育こそが今求められていると思います。その具体的な取り組みの一つが、都立高校の学区制の撤廃であり、個性ある高校、進学指導重点校や体験学習などを取り入れたエンカレッジスクールなどに多くの志望者が集まったことは、都の改革が都民に支持されている証左だと思っております。
 新しい時代を担う人材を育成するため、東京都は、あしき平等主義や画一的な知識詰め込み型の教育などを改め、子どもたちの持っている能力、個性を伸ばしていく教育を率先して進めていきたいと思っております。いずれにしろ、競争を悪とするような価値観は、社会や人間そのものの可能性を殺し、ダイナミズムを喪失させるものだと思っております。
 次いで、国連の子どもの権利に関する委員会の勧告についてでありますが、教育の荒廃はだれもが認めるところでありますが、過度に競争的な教育制度が事態を悪化させたという短絡的な原因だけではないと思います。戦後教育のさまざまな要因が重なり合い、現況がもたらされたと思っております。
 画一的詰め込み型の教育を改めなければなりませんが、互いにやはり切磋琢磨し、成長していくための競争も、学校では当然必要であります。子どもの適性に応じた多様な教育を実施し、個性や創造性に富んだ人材を育成するために、東京から新しい教育改革を発信していきたいと思っております。
 次いで、都市再生の考え方についてでありますが、そもそも都市の開発を進めることが環境対策や中小企業対策、福祉対策と相反するという考え方は、全くの見当違いでありまして、良好な都市の開発は、環境、中小企業、福祉などの面にも必ずよい影響を及ぼすものであります。
 もちろん、私は、冒頭に申し上げたとおり、環境対策や中小企業対策、福祉対策などを重要な柱に据えながら、都政運営を行っているつもりであります。ことし十月からは、国に先駆け、ディーゼル車の走行規制を開始するし、中小企業制度融資としては、過去最大規模となる一兆七千五百億円の融資目標を設定いたしました。
 教育や福祉についても、時代にそぐわなかった点を見直しているだけで、平成十五年度の予算を見ればわかるように、障害者地域生活支援緊急三カ年プランや、新しいタイプの高校の開校など、必要な予算は措置しております。
 一方、道路については、社会活動の効率性を高めるため、パリ、ロンドンに比べ、立ちおくれている環状道路の整備を急いでいるものでありまして、首都高速その他幹線道路の建設をやめることは、渋滞対策と大気汚染対策を放棄することにほかならず、都民は決してそのようなことを望んではおりません。
 都市の成長をコントロールせよとのことでありますが、都市に対する文明工学的な考えを持たずに、都市が置かれた状況を踏まえないままに、いたずらに変化や成長を押さえ込もうとするごとき主張は、到底受け入れることができません。今必要なことは、首都東京のポテンシャルを引き出し、その活力や国際競争力を回復させ、成長を促すことであります。それなしに、都民の豊かで快適な安心できる生活を確保することは難しいと思います。
 今後とも、都は、絶対的に不足する道路や空港などの交通インフラの整備を推進し、民間の力を引き出しながら、都市の機能更新を進めることにより、大都市東京を再生していきたいと思っております。このことが地域経済の再生や都民生活の向上に必ずつながると思っております。
 次いで、都市再生緊急整備地域を見直すべきとのことでありますが、東京のオフィスビルは、世界的に見ると、IT化や執務環境の快適さなどにおいて、まだまだ見劣りがしており、良質なオフィスに対する需要は極めて大きい状態であります。世界の都市間競争に打ち勝つために、また耐震性の向上という防災の観点からも、大胆に更新されていくべきものだと思います。まさにスクラップ・アンド・ビルドが今日必要とされていると思います。
 都市の更新を実現するために、公共によるインフラ整備と優良な民間プロジェクトの促進を組み合わせて進めるのが、都市再生緊急整備地域のねらいであります。都市は、それぞれの時代の要請にこたえて更新されていくこと、都市としての生命力を維持していけるものであり、それが都市のダイナミズムであると思っております。引き続き、都市再生の取り組みを積極的に進めてまいります。
 臨海副都心開発についてでありますが、この開発の目的は、業務、商業、居住、文化など多様な機能を備えた都市の形成であり、開発当初からいささかも変わりはございません。三会計を統合し、さらに財政基盤強化プランを策定し、バブル崩壊後の事業のあり方を見直してまいりました。りんかい線が全線開通したのと軌を一にして、民間企業の進出意欲が高まり、数社の進出が確実となるなど、今後の展望を切り開く上で手ごたえを強く感じております。
 広域交通基盤を整備し、魅力を生かした開発戦略を打ち出していけば、都市再生の拠点として必ずや飛躍的な発展を遂げ、国民全体の財産になると確信しております。近々、ある大きなプロジェクトを都のイニシアチブと、ある企業の提携で実現したいと思っておりますが、これが実現すれば、さらに大きな吸引力になると思っております。
 次いで、都債の発行についてでありますが、私の財政運営が、借金漬け都政にノーの公約に反するとのご指摘については、全く見当外れのことだと思います。都債は、バブル経済崩壊後の景気対策などに伴う多量発行により残高が累増し、十四年度以降、その償還が急激に増加することから、就任以来この四年間、将来の財政負担の軽減を図るため、新たな都債の発行を抑制してまいりました。
 具体的な数字を挙げていえば、平成四年度から十一年度までの都債発行額は、年平均七千六百億円に上っておりましたが、この四年間の平均では、半分の三千七百億円程度にとどめており、その結果、十五年度の予算では、実に十三年ぶりに都債残高は減少する見込みとなりました。
 また、十五年度予算では、歳入に占める起債の割合である起債依存度も、都は七・六%と極めて低くなっておりますが、一方、国は歳入の半分近くを国債に頼り、しかもその八割を赤字債が占めるなど、大きな違いがあると思います。
 都債は、発行しなければよいというものではなく、公共施設の整備などを進めるための貴重な財源であり、今後ともこれまでのような適切な取り組みを続けていけば、償還額も平準化され、健全な財政運営につながるものと確信しております。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 中小企業対策など三点のご質問にお答えいたします。
 まず最初に、国の新しい制度や保証協会への指導についてでございますが、従来から都は、国の制度改正が中小企業の資金調達に具体的に反映できるように、迅速に制度融資の拡充を行ってまいりました。昨年十二月には、整理回収機構に債権が譲渡された中小企業者のうち、再生可能性のあるものに対する融資などを制度融資に加えました。また、今般の国の制度改正を受けまして、昨年十月から実施しておりました借りかえ融資を拡充することにいたしました。保証協会に対する要請などについては、これまでも行ってきたところでありまして、引き続き適切に対処してまいります。
 次に、制度融資とプロパー融資の一本化についてでございますが、都の制度融資におきましては、債務者が支払い不能となり、保証協会に損失が生じた場合に、都が中小企業施策の一環としまして、その損失の一部を補てんしております。金融機関のプロパー融資を都の制度融資に含めて一本化すると、金融機関の自己責任で融資した部分まで、都が損失を補てんする義務を負うことになります。都民の税金をこのような形で投入することは好ましくないと考えております。
 したがって、ご提案がありましたけれども、金融機関の自己責任によるプロパー融資を制度融資にまとめて一本化する制度は、実施できないと考えております。
 最後に、サービス残業の是正と雇用の拡大についてでございますが、サービス残業の是正など、労働基準法に基づく指導監督権限は、国が所管するものでございます。
 都としても、労働セミナーや職場改善訪問事業などの取り組みを通じまして、労働時間管理の適正化のため、普及啓発に努めるとともに、緊急地域雇用創出特別基金を活用いたしまして、雇用の拡大を図っているところでございます。
   〔総務局長赤星經昭君登壇〕

○総務局長(赤星經昭君) 都職員の超過勤務についての質問にお答え申し上げます。
 都におけます職員の超過勤務時間は、超過勤務命令簿により適正に管理しております。
 また、超過勤務の縮減につきましても、機会あるごとに各局に対して通知、指導しております。
 今後とも、管理職によります事前命令、事後確認を一層徹底してまいりますとともに、全庁一斉定時退庁日やノー超勤ウイークなどの効果的な実施によりまして、超過勤務そのものの縮減に取り組んでまいります。
   〔福祉局長川崎裕康君登壇〕

○福祉局長(川崎裕康君) 介護保険など福祉施策に関します七点のご質問にお答えいたします。
 まず、介護保険の負担軽減についてでありますが、介護保険料につきましては、低所得者の負担を緩和するため、五段階制を変えて、六段階制を導入することが可能とされております。これにより、現在、都内では新たに十五の自治体が六段階制の導入を予定しております。
 利用料の軽減につきましては、都では、国の特別対策をもとに、対象サービスを四種類から九種類に拡大するなど、都独自の支援策を行っており、利用者も拡大をしてきております。
 都としては、これらの制度が活用されるよう、保険者である区市町村を引き続き支援していくこととしており、ご提案のような新たな支援を行う考えはございません。
 次に、老人福祉手当の廃止についてでございますが、老人福祉手当を初めとする一連の福祉施策の見直しは、先ほど知事が答弁したとおり、利用者本位の福祉の実現を目指す福祉改革の一環として実施したものであり、既に都民の理解を得ていると確信をしております。したがって、再検討する考えはございません。
 次に、都立福祉施設の改革等についてでございますが、都は、直接サービスを供給することではなく、新しい福祉の枠組みを整え、その実現に向け、区市町村や民間事業者を支援していくことに比重を移す必要があると考えております。都立福祉施設は、民間移譲等を進めていくことを基本に、昨年七月に示した改革方針について着実に具体化を図ってまいります。
 なお、老人福祉施設など地域の介護基盤の整備につきましては、今後とも区市町村と十分調整し、その整備に努めてまいります。
 次に、痴呆性高齢者グループホームの整備目標についてでありますが、痴呆性高齢者グループホームは、都が推進しておりますケアリビングの重要な柱の一つであることから、TOKYO福祉改革STEP2において大幅に拡大していくこととしております。具体的な整備目標については、この考え方に基づき、区市町村と協議の上、今回改定します介護保険事業支援計画で確定をしてまいります。
 次に、暮らしの福祉インフラ緊急整備事業についてでございますが、本事業は、痴呆性高齢者グループホームや知的障害者生活寮など、地域のケアつき住まいの整備に取り組む区市町村を支援する制度であり、小規模民有地の活用、社員寮等の既存建物の改修等、区市町村がそれぞれの地域の実情に応じた多様な手法を用いることができる仕組みとなっております。
 これまで、本事業の特別推進地区として、品川区の五地区を指定しており、今後とも、区市町村の意向を踏まえ、指定を行ってまいります。
 次に、保育所の運営費補助についてであります。
 都では、多様な事業者の参入を促進する観点から、平成十二年度に、都の保育所設置認可基準を国基準と同様といたしましたが、都加算補助につきましては、基本的には従前どおり、国基準を上回る手厚い独自の補助を行ってきております。
 こうした補助につきましては、真に利用者本位の福祉を実現するという福祉改革の理念に基づき、大都市特有の保育ニーズに的確にこたえ、サービス向上に効果を発揮していくものにすべきと考えております。
 次に、区市町村の保育料負担についてでありますが、国の認可保育所の保育料設定の考え方は、保育に要した費用のおおむね二分の一を利用者全体が負担することとし、個々の保育料は所得に応じて段階的に定めております。しかし、都内区市町村は、さらに利用者の負担を軽減した独自の基準を定めており、実際の徴収額は、平均して国の徴収基準の約半分程度となっております。
 保育料の負担につきましては、基本的には、地域の実情に応じてそれぞれの区市町村が自主的に判断すべき問題でありますが、都としては、こうした実態を、受益と負担の公平という観点から課題があると認識しており、保育料について負担軽減を図る考えはございません。
   〔百五番渡辺康信君登壇〕

○百五番(渡辺康信君) 再質問をいたします。
 知事は、私の質問にまともに答えず、いろんなすりかえを、あるいは、ごまかしの答弁を行いましたけれども、二点だけに絞って再質問をしたいと思います。
 知事は、四定で、我が党の福祉予算が減ったとの指摘を、うそだとまでいいました。ところが、本日は、福祉予算が大幅に減っていることには触れず、構成比は着実に伸びており、福祉施策はむしろ充実したと述べました。来年度予算案では、福祉予算額は、児童扶養手当の支給分を控除しても前年比でマイナスです。四定でうそをついたのは知事ではありませんか。四定の発言は撤回すべきです。
 また、福祉予算の構成比が伸びたと取り上げた数字は、九九年度分は分母に都営住宅関係が入り、来年度には入っておりません。同じ条件にすれば、構成比はほとんど変わらない。しかも、知事は四定では、当然減を差し引けば予算額がふえたといったが、もしその論法を使うのだったらば、当然増も引かなければおかしいと思います。九九年比でいえば、国の制度改定によって介護保険の予算が五百九十九億円もふえている。この当然増だけでも差し引けば、明らかに福祉予算は減るんです。これをどう説明するんでしょうか。同じ条件で比較するのが予算のイロハじゃないかと私は思います。この点について質問を一ついたします。
 それから、もう一つ、知事は、またまた文明工学的な考えを持たずなどと述べられましたが、私が先ほどもいいましたように、文明工学というのは、本当は、地球と調和した人類の共生、安心して暮らせる潤いのある社会の構築といったことを含んでいることはいうまでもありません。だから、都市の成長をコントロールせよといったのであって、とにかく超高層ビルや高速道路をどんどんつくればよいという政策はおかしいと私は思います。住民のために都市の成長を管理することを受け入れないということであれば、知事、あなたの都市再生というのは、開発野放し、都市計画なき都市再生ということになるのではないでしょうか。その点について質問をいたします。
 以上、二点にわたって再質問といたします。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 共産党は、共産党ご自身の数字のレトリックをお持ちのようですけれども、福祉予算について正確な認識をお持ちでないようですから、正確な数字について局長から答弁いたします。
 次いで、都市の整備の問題でありますけれども、都市の成長をどうやって抑制するんですか。それは、人口の増殖というものは、これは要するに、隣の中国やソビエトがやっているみたいに検問を設けて制限するわけにいかない、基本的な人権の問題でもありますから。ならば、都市の機能が増殖していく中で人口がふえる、それに対応した都市の整備というのは、必然的にこれはやっぱり必要でしょう、それをしなければ、都市における生活というのは人間化しないわけでありますから。どうかそれをご理解いただきたいと思います。
   〔福祉局長川崎裕康君登壇〕

○福祉局長(川崎裕康君) 今回の質問は、十一年度の予算と十五年度の予算の比較でございまして、それにつきましては、当然減の経費を引きますと、十一年度、それから十五年度の予算額を比較しますと、十五年度の予算額が百七十七億円の増となっております。これは十一年度と十五年度の予算の比較でございます。
 十四年度と十五年度につきましては、四定で知事が答弁したとおりでございます。

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