平成十四年東京都議会会議録第十九号

○副議長(橋本辰二郎君) 五十三番富田俊正君。
   〔五十三番富田俊正君登壇〕

○五十三番(富田俊正君) 私は、都市づくりと屋外広告物の活用について、この一点に絞って質問をさせていただきます。
 これまでの公営企業委員会で、バリアフリーにかかわって質疑を行ってまいりました。そこで、地下鉄のエレベーター、エスカレーターなどのバリアフリーを推進するための補助制度としては地下高速鉄道整備事業費補助があり、国及び都の一般会計からの補助があること。そして、その補助率は、国庫補助が約二六%、都の一般会計からの補助が約二九%となっており、このほか、都の一般会計からの出資金が二〇%となっていること。また、バリアフリー化に要する経費が、この地下高速鉄道整備事業費補助の対象となったのは平成十年からであり、そのときの補助率は先ほどの率の二分の一であったものが、平成十二年度から改善され、現行の補助率となっていると伺いました。
 改善されたとはいえ、事業者負担が二五%もあるのでは、現行補助制度でバリアフリー化を進めるのは限界があり、ワンルートを確保することさえがやっとだというふうに思われます。
 都営地下鉄全百六駅で、いわゆるワンルートが確保されている駅は現在五十一駅と、全体の四八%にしかすぎません。また、ワンルートさえ確保すればそれでよいといえないことも事実であります。
 私の地元の新宿区で、厚生年金病院に大江戸線の飯田橋駅から向かおうとした場合、エレベーターが設置されている出入り口は、ハローワーク飯田橋のある文京区側にしかなく、ここから厚生年金病院までは、神田川と目白通りを歩道橋で越え、さらに大久保通りの坂を上らなければなりません。車いす利用の障害者が一人で行くことは困難な状況です。こうした例は幾つもあるものと思われます。
 こうした状況を根本的に解決するためには、すべての出入り口と歩道橋にもエレベーターを設置し、さらに歩道の改善も図らなければなりません。しかし、現在ではこのことは夢物語だというふうに思います。
 さて、エレベーターの設置費用ですが、既存の駅にワンルートを確保するとした場合、二億円から五億円程度が必要であるということですから、平均では三億円前後の工事費が必要となると思われます。また、経費はこれにとどまらずに、維持管理経費として、エレベーター一基当たり概算で百万円が必要となります。これを都営地下鉄全百六駅、全出入り口三百五十カ所程度、そして横断歩道橋千百カ所に設置した場合、大づかみで何と一千八百億円もの工事費と約十五億円の維持管理経費が必要だということなります。
 実は、このほかにも、JRや、あるいは営団地下鉄などの私鉄にもつけなければならないということですから、難しいというのは、おのずと知れたところだというふうに思います。それでなくても鉄道事業の経営は苦しいわけですし、東京都も財政が逼迫しているわけですから、この数字を見れば無理だといわざるを得ません。しかし、考え方を変えてみれば、実現できる可能性もあるのではないでしょうか。
 私は、先日、都議会民主党の一期生の仲間たちとともに、東京スタジアムに視察に伺いました。視察の目的は、ネーミングライツであります。全国どこの競技場でも頭を悩ませているのは、減価償却費と維持管理費です。東京スタジアムは、他の多くが赤字である中、昨年度は約一億円の黒字を計上したということですが、経営が苦しいことは同じです。今回導入されたネーミングライツにより、五年間で十二億円、一年で計算すれば二億四千万円の収入を得ることができます。また、この収入は、五年という長期に安定したもので、経営基盤を確立するのに寄与するものであり、知事の英断を称賛したいと思います。
 こうした広告の活用例として、これも知事が進められた都バスのラッピング広告があります。平成十三年度では約九億六千万円の収入を得ています。また、都営地下鉄でも、車体や駅構内の壁、柱、そしてエスカレーターの側壁、また三田線のホームドアなどで約三十一億七千万円を収入として計上するなど、すばらしい実績を上げています。
 こうした広告媒体はまだまだ存在するわけです。ここでヨーロッパの例を見ていただきたいと思います。(パネルを示す)これはフランスのパリ、シャンゼリゼ通りのバス停です。このバスシェルターにつけられている広告がありますが、皆さん、見てどう思われるでしょうか。目ざわりだと思われるでしょうか。
 導入月日は一九七三年で、二十年契約。現在は二回目の契約で、一九九三年から二〇一二年までの契約となっています。そして、このバスシェルター、全部で千八百六十七基。そのほかにも、行政情報パネルとして三千六百七十一基、多機能広告塔として七百九十二基、そして、自動公衆トイレというものも設置されておりまして四百十一基、そして、ごみ箱は一万一千六百四十三個というような、こうしたものが設置されております。
 また、ほかの例も見ていただきたいと思います。これは、アメリカのサンフランシスコに設置されている完全自動洗浄型のバリアフリータイプの公衆トイレです。これにも広告がつけられておりますが、どのようにお感じになるでしょうか。
 車いすでも入ることが可能な自動公衆トイレの整備を目的として導入されております。一九九五年から二〇一四年の契約ということになっておりまして、このタイプのトイレが二十二基導入されているということだそうです。そして、多機能広告塔として九十五基が設置されているということで聞いております。
 そして、お隣の韓国の例でございますけれども、これを見ていただきたいと思います。これは、ワールドカップの開催に伴って海外からの観光客が多く来るということで、タクシーの乗り場を整備する目的で導入されたものです。タクシーシェルターというふうに申しておりますけれども、これが四百二十二基導入されているということでございます。これから観光が重要になってくるという状況の中で、こうした取り組み、非常に注目できるのではないかなというふうに思います。
 実は、驚いたことに、ここに紹介しましたバスシェルターや公衆トイレに、自治体からの支出は一切ありません。この手法は、既にヨーロッパを中心に世界で幅広く行われているPFIの手法を使い、民間がバスシェルターなどの社会資本、いわゆるストリートファニチャーを建設し、さらに運営から管理まで行っているのです。そして、この事業は完全独立採算型で運営されています。これにかかわる経費が広告収入で賄われているというわけです。基本的に設計、製作、建設、そして運営管理まで、すべて民間部門が受け持ち、民間部門は建設物に附帯する協賛広告面からの収入で原資回収を行います。この場合、建造物の所有者は原則民間事業者で、公共部門は、政策立案、管理監督者となり、公共サービスの購入者となります。
 また、協賛広告面の確保が困難な街路灯やベンチなどについても、この民間事業者が他の広告面で原資回収を行い設置しています。この考え方は、広告があることがふさわしくない地域など、そうした建造物には広告をつけずに、都心の広告収入で賄うことが可能だということであります。
 こんな画期的な事業になぜ今まで踏み出せなかったのでしょうか。それは、昭和二十四年、一九四九年に制定された東京都屋外広告物条例の中の第二条で、道路や鉄道、公共機関などの敷地は、広告自体に規制がかけられているからなのです。先ほど述べさせていただきましたように、バスのラッピング広告など、従来は規制の対象となっていたものを大幅に緩和するなど、東京都屋外広告物条例を一部改正しているわけです。
 私は、何が何でも無秩序に広告をつけろといっているわけではありません。それぞれの地域に合わせ、調和がとれたもので、都市景観との融合が必要です。そして、何よりも考えていただきたいのは、冒頭に触れたまちづくりの一環としてのバリアフリー化であります。
 ここに一つ提案として、駅前広場を図式化したものをつくってまいりました。これは、地上部と地下、さらにペデストリアンデッキを結ぶエレベーターです。エレベーターの筐体、躯体上に、今、石原知事の首都移転反対というポスターを使わせていただきましたが、これを広告というふうに仮定させていただきたいと思います。この透明なエレベーターの筐体の中を、エレベーターそのもの自体に広告をつけまして、これが上下するという中身でございます。
 この形態でやりますと、広告は三面つけることができます。この広告に対して、例えば一面、一カ月五十万円の広告料を取ったとしますと、このエレベーター自体の建設費、そして維持管理費が約十五年でペイしてしまうという状況です。先ほどご説明をいたしましたように、これだけですべてを賄うということではないわけですから、ほかの広告からもこのことに回すということですから、もっと早くこれが減価償却もできるということにつながります。
 このように民間資金、そして広告収入を使って施設を整備していくことは、景気が低迷し、税収が上がらないという状況を踏まえれば、まさに画期的な手法ではないかと思います。ぜひともまち全体のバリアフリー化を、この手法を使って現実のものとして近づけていただきたいと思っています。
 そこでお尋ねいたします。これまで述べさせていただいたことについて、知事はどのような感想をお持ちでしょうか。ぜひともお聞かせいただきたいと思います。
 次に、このような手法も含め、広告物規制のあり方について検討されているということでございますので、その内容についてぜひお示しいただきたいというふうに思います。
 前向きな答弁を期待いたしまして、これで私の一般質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 富田俊正議員の一般質問にお答えいたします。
 非常にわかりやすく、おもしろい事例を挙げて、大変有益な質問だったと思います。
 私は、環境庁のときには、実は、まちにはんらんしている広告を時限立法で一回全部なくせという乱暴な提案をしまして、通産省の猛烈な反対でつぶれましたが、その後、東京に限ってみても、まさに黙示録的な混乱でありまして、こうなりゃやけだということで都営のバスのラッピング広告もあれしたんですが、あれはあれで、なかなかおもしろいものがありまして、よかったんじゃないかと思うんですけれども、確かにおっしゃるように、バリアフリーのための施設というものを企業の協力で賄うというのは、非常に可能性のあるいい案だと思います。
 ただ、そのために余計な規制があるのは、それは変えればよろしいんで、いずれにしろ、都市の景観との調和や地域の特性というものを阻害してもいけませんし、都民サービスの向上などの観点も含めて多角的な検討が不可欠であると思いますし、現にそれに必要な指示を出しておりますが、こういう経済状況でありますから、都市を完全にバリアフリーにするためにそういう協力を仰いでも、幾ばく企業そのものがピンチに瀕しているので、どこまではかがいくかわかりません。しかし、ただこれは、やってみる、試みるに足る非常にいい案だと思いますので、鋭意前向きに検討させます。
 ありがとうございました。
   〔都市計画局長勝田三良君登壇〕

○都市計画局長(勝田三良君) 広告物規制のあり方についてのご質問にお答え申し上げます。
 広告技術の進歩や都市景観に関する都民意識の高まり、都市再生の推進など、屋外広告物を取り巻く状況は大きく変化しております。
 そこで、本年十月、東京都広告物審議会に対しまして、観光、防災、交通施策等に配慮し、都市景観と調和した新たな広告物規制のあり方について諮問いたしました。審議会では、広告物規制のあり方だけではなく、広告収入を活用した公益的施設の整備等、幅広い検討を行っております。
 今後、審議会の議論を踏まえまして適切に対応してまいります。

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