平成十四年東京都議会会議録第十九号

   午後四時四十二分開議

○議長(三田敏哉君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 四十三番川井しげお君。
   〔四十三番川井しげお君登壇〕

○四十三番(川井しげお君) 私は、東京都議会自由民主党と良識ある都民の立場で質問をいたします。
 まず、教育問題についてお伺いをいたします。
 終戦後五十年余りが経過しましたが、今、戦後教育を振り返ってさまざまな議論があり、まさにその軌道修正が求められているところであります。
 振り返ると、戦後教育は、戦争の反省に立って、日本の国民が日本人であることを否定すること、恥じることから始まったのではないかと思われます。こうしたことが出発点となって、戦後の復興から高度成長、バブル経済とその崩壊などの時代の変遷を経る中で、日本の国を大切にし、日本人であることに誇りを持たせるという、最も基本的かつ重要な教育をしっかりと行ってこなかったのではないかということを痛切に感じております。
 このことについて、十一月十六日の読売新聞朝刊の「編集手帳」に、次のようなことが述べられています。
 佐藤春夫に「病」と題する詩がある。我が身を省みて、欠点を数え上げている。「うまれし国を恥づること。古びし恋をなげくこと。否定をいたくこのむこと。」古びし恋はともかくとして、戦後の教育は春夫の詩にどこか似ている。軍国主義を反省したのは当然だが、否定を好んだ余り、国が愛する対象から恥ずる対象に転落した嫌いも、なしとしない。自分の国が、どんな国になってほしいか。日本青少年研究所などが先月まとめた中学生の意識調査がある。外国に信頼される国、米国二五・八%に対して日本六・三%。経済的に豊かな国、米国一二・一%に対して日本三四・八%。信頼されなくても構わない。満ち足りて暮らせる経済大国ならばそれでいい。というのであれば、個人重視、個人大事のかけ声の陰で、国を思う心がないがしろにされてきた病の症例であるに違いない。中教審が教育基本法改正の中間報告をまとめた。郷土や国を愛する心が理念に盛られている。おくればせながらの処方の道しるべだろうと述べながら、国を思う心がないがしろにされてきたことを憂えています。
 こうした問題については、子どもたちの教育に責任を持つ私たち親や大人が自戒しなければなりません。教育の大綱を築き、教育行政を担ってきた文部科学省はもとより、それを基盤として東京の教育を進めてきた都教育委員会は、これからの時代に進むべき教育の方向を改めて考え直す必要があると考えます。
 そこで、お伺いをいたします。
 石原知事、日本の戦後教育についての感想をお聞かせ願いたい。
 次に、国を愛する心を育てる教育の重要性について、都教育委員会の見解と今後の方向づけをお伺いいたします。
 私は、現在の日本の混乱、経済不況、そして子どもたちの現況を振り返ると、大切なものはまさに教育であり、この状況からの脱出は教育しかあり得ないと考えております。
 確かに、教育の成果はすぐにあらわれない。その結果は、三十年、五十年あるいは百年かかるともいわれておりますが、私たち大人が、社会が、大人への信頼、人間への愛情、道徳観、そして心の教育や国を思う心へと教育の方向を変えていくとき、人間形成の基礎を培う子どもたちだけでなく、大人たちが大きく変わることになるのであります。石原知事が唱えた心の東京革命は、まさしく大人たちへの呼びかけだったように思います。
 その中で最も大事なのが、幼児教育であろうと考えます。約三十万の対象者の四割の保育園入所児童の教育を扱える場がありません。福祉局にも教育庁にもないのであります。国の縦割りが起因してきたとしても、だからよいというものではありません。幼児期の教育の重要性について、基本的認識と今後の方針をお伺いいたします。
 例えば、教育庁がリードして、福祉局、生活文化局に声をかけ、その枠を外した議論の場、あるいは検討委員会をつくるような積極的な考えがないものか、お聞かせを願いたいと思います。
 特に幼児期の教育が大切であることの例を二つほど申し上げます。
 一つは、情報化が進展し、マスコミを初めさまざまな情報がはんらんしていますが、こうした中で、これからの時代に生きる子どもたちは、新聞やテレビなどの情報を絶対視するなど、いたずらに情報に流されることなく、情報をしっかりと分析して、必要な情報を選択し、主体的に活用する能力を育てることが大切だと考えます。
 特に、メディアリテラシーの定義を考えると、メディア社会における生きる力であるという視点から出発していると考えるとき、私は、メディアを主体に読み解く能力、いわゆる情報を伝達するメディアそれぞれの特徴を理解する能力と、メディアから発信される情報について、社会的文脈で批判的、クリティカルに分析、評価、吟味し、能動的に選択する能力が大事だと考えております。こうした教育は、アメリカでは小学校のうちから実施されていると聞いています。日本においても、幼児期からのこのような教育を行う必要があると考えます。
 もう一つは、これからの社会において地球規模での環境問題に対応するために、環境を大切にする教育を推し進めることが重要だと考えます。
 ドイツでは、三十年前から幼児に対するエコ教育、環境教育、いわゆる環境を大切にする教育を進めております。例えば、大地から生命をもらっていること、大地を汚してはいけないことなど、体験を通して教育をしています。このような教育は、大きくなってからでは習慣化されないため、三歳や四歳ぐらいから行い、分別収集やごみの処理の仕方などをしっかりと体にしみ込ませなければならないと考えるわけであります。
 そこで、お伺いをします。
 情報を分析し活用する能力や環境を大切にする態度などは、幼児期から教育をする必要があると考えますが、その見解と、区市町村教育委員会に働きかけの意気込みと内容をお聞かせ願いたいと思います。
 次に、学校の教育内容についてお伺いをいたします。
 新聞でも報道されておりましたが、国立市立国立第五小学校において、性教育にかかわって非常識な授業が行われていた。一年生の生活科の授業で、心と体の学習として、男女の生殖器の具体的な名称や働きを説明するとともに、いわゆる男女の区別が明確でない性をあらわすインターセックスなどについても取り上げていたことが明らかになりました。しかも、この学習の理解を深める資料として、覚せい剤所持で逮捕された歌手の歌まで、学年便りに掲載をしているのです。
 保護者の中には、帰宅したお子さんの口から男性や女性の生殖器の名称やインターセックスなどの言葉を聞き、驚きやショックを受け、なぜ小学校一年生の段階でこのような授業をする必要があるのか、強い憤りを訴えております。
 子どもの成長の段階を考慮しないこのような性教育は、子どもの健やかな成長にとって有害であるばかりでなく、公立学校の信用を失墜させるものであります。今回の国立市立国立第五小学校の授業について、教育長の所見をお伺いいたします。
 また、都内の小学校において、このような授業を行っている学校が数多くあるとするならば、重大な問題であります。そのような学校があるのかどうか、お伺いをいたします。まして、一部左翼分子グループが意図的にやっているとするならば、断じて放置しておくわけにはいかない。今後の調査等の対応をお聞かせ願いたいと思います。
 次に、環境問題についてお聞きをします。
 石原知事は、先日の第四回定例会初日の本会議にて、所信表明の第一に、大気汚染対策の加速、いわゆる環境問題を取り上げております。
 また、環境局では、本年二月二十日に、地球温暖化阻止東京作戦を始めます、百年後の地球と人類の存続をかけた東京からの提案です。本年十一月十五日には、二つの温暖化の阻止に向けた新たな挑戦、都市と地球の温暖化阻止に関する基本方針を策定しました。その中で、全庁挙げたヒートアイランド対策を進めていくこととしておりますが、私は前から大地の力強さを訴え、大地を信じようと、建設局、そして環境局にいってまいりました。土の中のバクテリア、ミミズを初めとする土中生物、草、花、樹木が自然界に与える大きな働き、土の自浄作用、土の呼吸、大気汚染にさえ影響を与える大きな生命を信じようと訴えてまいりました。都市を土に戻したい、東京を土に戻す運動を訴えてまいりました。
 現在の都市型水害は、河川対策の問題よりも、下水道の噴き上げ、オーバーフローにあります。アスファルト舗装やコンクリ舗装で、水の行き場がない状態であります。
 降った雨を土に返し、三百六十五日二十四時間、土壌内水分が蒸発するときの気化熱を利用することが、最もヒートアイランド現象に効果的であると考えております。この視点から、現道においての歩道部の植樹ます間などを土に戻し、その場所を、今までのようにただ単に低木などを植えるのではなく、地元住民が花などを植栽できるようにする。加えて、拡大した植樹帯は地域の皆様に管理を任せる。
 また、一般の通行部でも、廃棄物処理で問題となっている、例えば古タイヤなどを加工し活用した芝生の舗装など、新しい舗装構造を検討すべきであると提案してまいりました。その一つが、古タイヤと芝舗装、そして古タイヤと荒木田舗装、古タイヤとダスト舗装などであります。路床、路盤とその舗装面まで模型をつくり、道路管理部や土木技術研究所の方々にお見せをし、提案をしてまいりました。この新しい舗装構造の研究が環境新税につながるものと、現在、主税局にも検討をしていただいております。
 そこで、お伺いをいたします。
 都道の歩道において、自転車、バイクなどが放置され、実質的に利用されていない場所を、ヒートアイランド現象を考慮し、土に戻し、植栽スペースを拡大してはどうか。加えて、維持管理費の節減も考えて地域管理を試みてはいかがでしょうか。
 歩道舗装に廃ゴムタイヤを利用し、芝生舗装を提案してきたが、その進捗状況をお聞きします。また、首都高中央環状新宿線に関連して整備している環状六号線で試験的に実施してみてはいかがでしょうか。
 最後に、最近の政治情勢については、大変残念でありますが、十五年第一回定例会の同僚議員の質問に託すとして、私の本日の質問をすべて終了したいと思います。
 ご清聴ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 川井しげお議員の一般質問にお答えいたします。
 日本の戦後の教育についてどう思うかというご質問ですけれども、結果として、日本の戦後の教育というものは、いろいろな弊害を生んできたと思います。そして、その最たるものの一つに、ご指摘のように、国家、民族としての極端な自己否定といいましょうか、それが誘発する卑屈さ、あるいは自信喪失というものが、今日の日本の非常にひ弱な本質というものを造成してきたんではないかという気がします。
 国家というものは、英語ではネーションというわけですけれども、そのネーションの語源は、ラテン語のナチオという言葉だそうでありまして、これはローマ帝国の時代に、広大なローマの所領から、いろんな民族、いろんな地方の若者たちが選ばれてボローニャ大学に集まってきて、そこで古代ラテン語で勉強した。しかし、やはり暇なときには、同郷の仲間が集まって、それぞれの故郷の言葉で話をし、また故郷のしきたりをひそかに、限られた仲間で、恐らく寮に入ったんでしょうけど、そこで催したりした。そういうところから、いわば県人会という形でナチオという言葉ができてきたそうですけれども、これはやはり自分の出所である国家、民族の言語、あるいはそれが培った伝統、文化というものが、さらに培ったさまざまな共通項、共通性というものを踏まえての親近感、別の言葉でアイデンティティーであると思います。
 いかに世界が時間的、空間的に狭くなっても、真にナショナルなものでなければ、インターナショナルたり得ない。その端的な事例が、日本でいえば相撲であったり、歌舞伎であったり、茶道であったり、お能であったり、さまざまな私たち国家、民族としてのアイデンティティーを持っているわけでありまして、それを否定することで非常にマゾヒスティックな快感を感じる。特に、戦後の左翼と呼ばれる愚かな連中はその傾向がありましたが、その発想は、一体何を生産的に生んだかというと、振り返ってみて慄然とせざるを得ません。
 そういう点で、私たち今こそ、時間が経過し過ぎましたが、やはり戦後の教育というものをもう一回反省し、これを本質的に立て直していく努力をしなければならないと思っております。
 他の質問については、教育長及び建設局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 教育に関します六点の質問にお答え申し上げます。
 まず、国を愛する心を育てる教育についてですが、教育というものは、国家の礎を築き、日本の将来を担う人間を育成する営みでございまして、国を愛し、国家の発展に努め、伝統の継承と文化の創造に貢献する人間の育成を目指して行われるものでございます。
 しかしながら、戦後の我が国の教育は、国家社会の形成者としての自覚、権利と責任に対する正しい認識、それから道徳性の涵養などが十分でない面があったと考えております。
 このため、都教育委員会では、平成十三年度に教育目標を全面的に改定をしまして、郷土に対する愛着や誇り、多様な文化に対する理解を深めるなどの教育の充実を図っております。
 今後とも、教科及び特別活動等の学習や社会体験など、さまざまな教育活動を通しまして、世界の中の日本人としてのアイデンティティーを育てる教育を推進し、二十一世紀を切り開く、心豊かでたくましい人間の育成を目指してまいります。
 次に、幼児期の教育の重要性についてでございますが、幼児期は、生涯にわたる人間形成の、まさに基礎を培う極めて重要な時期でございます。幼稚園や保育所が家庭や地域社会と十分に連携しまして、基本的生活習慣、人への愛情、信頼感、道徳性などをはぐくむことが大切でございます。
 都教育委員会としましては、幼稚園や保育所における教育内容や保育内容の充実を目指しまして、幼稚園教諭と保育所保育士の合同研修や研究協議会を実施いたしておりますが、今後こうした研修等を一層充実させますとともに、お話の、幼稚園と保育所を含めた幼児教育のあり方を総合的に検討するため、関係部局との連携を図ってまいります。
 次に、幼児期からの情報や環境の教育についてですが、これからの社会において、メディアから発信される情報を主体的に読み取る能力、そういったメディアリテラシーの育成を図りますことは、幼児期から情報を正しく受けとめるなどの能力を培うことが大切でございます。
 また、ご指摘のように、環境問題の解決に積極的に取り組む実践的な能力や態度を養うためには、幼児期から自然との触れ合いや、ごみの分別、リサイクルなどを通して、環境を大切にする心を育てることは極めて重要でございます。
 都教育委員会としましては、各区市町村教育委員会を対象とします連絡協議会を新たに設置するなど、幼児期からの発達段階に応じて、メディアリテラシーの育成や環境を大切にする教育を一層推進してまいります。
 次に、国立市立国立第五小学校の性教育に関する授業についてでございますが、ご指摘の授業につきましては、先般、国立市教育委員会から報告を受けております。
 今回、国立第五小学校で行われた性に関する指導は、児童の発達段階を十分に踏まえていなかったことや、生活科の内容として適切でなかったことなどから、教育課程の編成、実施及び管理上、問題があったと認識をいたしております。
 学校におきます性教育は、人格の完成を目指す人間教育の一環でございまして、児童生徒の発達段階に即して計画的に進めることが重要であることから、これまでも性教育の指導資料や教材ビデオの作成、研究地域指定事業などを実施してきたところでございまして、今後とも適正な性教育の実施に向けて指導の徹底を図ってまいります。
 次に、小学校における性教育についてでございますが、都教育委員会としましては、これまで学校における性教育が組織的、計画的に実施されるよう、区市町村教育委員会や学校に対して指導助言を行ってまいりましたが、今回、国立市の小学校で行われた、児童の発達段階を踏まえない性教育が児童に混乱を与え、保護者の信頼を失わせた事態を重く受けとめております。
 都教育委員会は、今後区市町村教育委員会に対し、性教育についての指導の徹底と、問題が発生した場合の速やかな対応と報告を求める趣旨の通知文を改めて出しまして、各学校における性教育が学習指導要領の趣旨に基づいて適切に行われるよう、指導助言に努めてまいります。
 最後に、性教育に関する今後の対応についてでございますが、先ほど申し上げました通知の趣旨の徹底を図るとともに、国立市の小学校で行われたような発達段階を踏まえない指導が二度と行われることのないよう、区市町村教育委員会に対して、調査も含めまして指導助言を行ってまいります。
 また、新学習指導要領の趣旨を踏まえた性に関する指導資料を新たに作成をいたしまして、組織的、計画的な指導が行われるよう、区市町村教育委員会との連携協力を図ってまいります。
   〔建設局長小峰良介君登壇〕

○建設局長(小峰良介君) 環境面からの歩道整備についての二点の質問にお答えいたします。
 まず、歩道の植栽スペースの拡大と管理についてでございますが、植樹ますや植樹帯は、歩行者や車いすのすれ違いなど、安全な通行を考慮した東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアルなどに基づき設置しております。
 ご提案のヒートアイランド対策としての植栽スペースの拡大については、安全で歩きやすい歩行空間が確保され、沿道住民の理解が得られる箇所で試験的に実施してまいります。また、その管理については、地域の住民や企業、団体等が道路清掃や植栽の維持を行う、いわゆる道路里親制度を活用してまいります。
 次に、歩道の舗装についてでございますが、これまでも、より安全で快適な通行を確保するため、透水性舗装やゴムチップ舗装の施工など、さまざまな取り組みを行ってまいりました。
 お話の芝生舗装につきましては、歩きやすさや耐久性など、歩道舗装としての適性を検証するため、土木技術研究所において試験施工を予定しております。
 今後、試験結果を踏まえ、環状六号線などでの導入の可能性を検討してまいります。

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