平成十四年東京都議会会議録第十九号

○議長(三田敏哉君) 百四番池田梅夫君。
   〔百四番池田梅夫君登壇〕

○百四番(池田梅夫君) 障害児教育について質問します。
 どんな障害を持つ子でも、すべての子どもたちに教育を受ける権利を保障し、その子が一人の人間として成長、発達し、その能力を最大限伸ばしていけるよう、教育条件の充実を図ることは、障害児教育の基本であります。
 ところが、最近の東京の養護学校では、生徒の増加に施設の整備が追いつかず、どの学校も満杯状態、教室不足、施設不足で、大変な状況が生まれています。それは、九七年に開校したあきる野学園養護学校以降、生徒数は九百四十八人、一七%もふえているのに、障害児学校が一つもつくられてこなかったからであります。
 先日、私が訪問した養護学校は、教室が足りず、細長く、出入り口が一つしかなく、しかも窓も小さくて暗い準備室を、重度・重複学級の教室として使っていました。このような転用教室は、四十一教室のうち九教室にもなります。
 また、普通教室も、つい立てで仕切って二学級で使ったり、体の大きな高等部の生徒が小学部の教室を使わざるを得ないという問題も起きています。建築後十五年もたったプレハブ校舎が使われているほどであります。
 職員室もまさに過密状態です。百人の先生が、開校時には七十人で使っていた部屋に押し込められ、事務机も幅を短くしたものを使っているために、書類も先生の体もはみ出しそうでありました。設置を義務づけられている先生の休養室も、生徒が使う訓練室を充てざるを得ないという状況でありました。
 その上、この学校では来年度、高等部だけでも二十名以上の生徒増が予想されるそうですが、これ以上転用できる教室がありません。校長先生は、生徒が来たいという以上、受け入れるのが教育だと思うが、学校の努力ではこれ以上どうにもならないといっていました。
 東京都の障害児学校のほとんどが、このような劣悪な条件に置かれているのです。知事は、このような障害児教育の劣悪な教育条件が放置されていてよいと考えているのか、答弁を求めます。
 子どもたち一人一人が大切にされる、行き届いた教育条件を整備するのは、行政の責任であります。
 しかも、子どもたちの状況は、年々障害が重くなり、複数の障害を持つようになってきています。東京都は、知的障害養護学校の重度・重複学級を、この四年間、一学級もふやしていませんが、障害に応じた対応が必要な重い障害の子どもは四百四十一名もふえているのであります。この生徒数は、都の基準に基づけば、百五十二学級の重度・重複学級に相当するものです。
 その上、許せないことは、重度・重複学級の設置基準に、最近、予算の範囲内という文言をわざわざ入れ、初めから予算の枠内しか設置を認めようとしていないことです。
 私は、何人もの関係者に話を伺いましたが、共通して訴えられる要望の第一は、学校の増設です。都はお金がないといいますが、障害児学校の建設費の負担額は五十億円前後で、毎年の運営費も十一億円程度と考えられます。この程度であれば、毎年四百億円を超えて投じられる直轄事業負担を断り、学校増設に予算を振り向けることは十分可能ではありませんか。
 都は、このような状況を改善するために、まず、緊急に学校の改修、改善を行うこと、また、学校不足を解消するため、整備計画を立て、実行することが必要と考えますが、答弁を求めます。
 教員不足も深刻です。この間、都教委が重度・重複学級をふやそうとしないことから、普通学級にも重い障害の子が在籍せざるを得なくなり、本来、重度・重複学級であれば配置される先生が配置されず、大変な事態になっています。例えば、目配りをして継続的に指導すればトイレや食事も自立できる子がいるのに、手が回らない。また、子どもが、先生も大変だと遠慮をしてトイレを我慢してしまうということもあり、教師としてはつらいという話も聞きました。
 夏のプールも、先生がきちんと配置されていれば一時間入れるのに、交代で二十分ずつしか入れないこともあるそうです。
 このような状況を放置しておいてよいと考えているのですか。子どもたちの実情に見合った教育が実施できるよう、教員を増配置するよう求めます。所見を伺います。
 また、給食調理の民間委託を、来年度から肢体不自由養護学校にまで広げようとしていることは認められません。医療ケアが必要な、最重度といわれる子どもたちも多い肢体不自由校では、命にかかわる問題です。既に民間委託を導入したところでは、異物が混入したり、調理員がパートでたびたび交代するために、安心、安全が求められる給食調理が難しくなるなど、問題が起きています。
 給食の民間委託の肢体不自由児養護学校への拡大はやめるべきです。答弁を求めます。
 スクールバスの長時間通学の改善は、待ったなしです。スクールバスの運行時間は、平均運行で一時間五分、最長一時間四十五分と、一向に短くなっていません。
 私も、この月曜日、肢体不自由校の一時間二十九分のコースのバスに乗せてもらいました。雪の中の運行でしたが、道路わきのバス停では、大きな車いすに乗った子がぬれないようビニールをかぶってじっと待っていました。家からバス停までは、十分以上もお母さんが車いすを押して歩いてくるのだということです。バスの中では、しばらくすると、我慢できず、上体や腕をゆすったり、声を上げたり大変です。晴れた暖かい日であったとしても、片道九十分、往復三時間は、余りにも長過ぎる乗車時間だと実感しました。
 大型車や学校間の共同利用は見直し、小、中型車両を中心に、少なくとも三十分以内で通学できるように改善することを強く求めます。見解を求めます。
 この問題の最後に、障害児教育のあり方について一言申し述べておきます。
 東京では、保護者や教職員を初めとする都民の粘り強い運動の中で、一九七四年、国に先がけて全員就学に踏み出し、その後も、国の重複学級の基準に重度を加え、教員を増配置するなど、都独自の財政負担で、全国に誇り得ることのできる制度を充実させてきました。
 ところが、石原都政のもとで、この基本が崩されようとしていることは重大です。今紹介した革新都政以来築き上げられてきた取り組みと成果に、しっかりと立脚し、障害児教育を充実させていくよう求め、次に移ります。
 知事が本議会に提案している、公営住宅法に基づく都営住宅に期限つき入居を導入する条例改正に対して、法曹界を初め、住宅関係団体、都民から疑問と批判の声が広がっています。
 そもそも、公営住宅法は社会保障法の一つであり、国及び地方公共団体が協力し、健康で文化的な生活を営むに足る住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に低廉な家賃で賃貸しまたは転貸すること、これを目的に掲げています。したがって、同法は、高額所得者への明け渡し義務は規定されていますが、入居者に期限を限って明け渡しを求めるような規定はどこにもありません。
 この点で、政府は、衆議院における質問趣意書に対する答弁で、公営住宅は定期借家制度にはなじまないと明確に述べており、今日もなお、これが国の変わらない見解であることは、私自身、十二月六日に、国土交通省を訪ね、住宅局総務課公営住宅管理対策官と指導係長から直接確認してきたところであります。
 自由法曹団東京支部が知事に対して提出した意見書では、公営住宅法の予定していない定期借家を東京都が条例で導入することは、権利保障、社会保障の見地からして、法の要求する基準を下回るものを下位規範である条例で制定することになり、その適法性について重大な疑義が存在すると指摘しているものです。
 また、知事自身、昨年、特定都営住宅への期限つき入居を導入するに当たって、期限つき入居制度を公営住宅で本格的に導入するには法律の改正が必要と、所信表明で述べていたではありませんか。
 知事、今定例会に提出される都営住宅への期限つき入居制度の導入は、公営住宅法に違反していると考えますが、どのように認識しているのですか。法律に違反した条例案は直ちに撤回すべきです。あわせて所見を伺います。
 若年ファミリー世帯の都営住宅への入居を促進することは、子育て支援の上でも、都営住宅におけるソーシャルミックス、すなわち世代交流を図る上で極めて重要です。
 そもそも、子育て最中の若年ファミリー世帯が、十年たったからといって、簡単に次の住宅を自力で確保するなど、無理なことは明らかではありませんか。また、子育て最中なのに、転居を迫ることは、子どもの保育園、学校の変更など生活環境の激変を招くことになりかねません。このように、若年ファミリーの入居に期限を設けることは、子育て支援という制度の趣旨とは、相入れるものではありません。
 若年ファミリー向けの住宅公募をふやすというなら、期限つきなどではなく、現在もやっている一般公募で行い、安心して子育てできるようにすべきです。見解を求めます。
 マンション建てかえへの対応についても、都内では民間マンションの空き室がふえており、これを活用することが重要です。空きマンションを借り上げて、家賃補助をするなど、積極的な対応を検討することこそ求められていると思いますが、見解を伺います。
 また、重要なことは、期限つき入居の一つとして、住宅政策上特に必要があるものまで認めようとしていることです。事前の住宅局の説明では、要件は、マンション建てかえに類似したもので、期限を付すことが必要なものとされており、対象について規則でも明記しないとしています。
 これでは、都の考え方一つで、都市再生によるビル開発や大型道路などによる一時立ち退きにも、期限つき入居を拡大することができることになるではありませんか。
 石原知事が進める都市再生の推進と住民追い出しのために都営住宅を使うなど、断じて認められないことを改めて申し述べて、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 池田梅夫議員の一般質問にお答えいたします。
 障害児教育の教育条件についてでありますが、全体の児童生徒数が減少する中で、さまざまな要因によって、知的障害養護学校に在籍する児童生徒数が増加していることはよく承知しております。
 現在、都教育委員会では、そうした状況を踏まえて、今後の心身障害教育のあり方について検討しており、その成果に期待をしております。
 次いで、都営住宅の期限つき入居制度についてでありますが、この制度を導入できるよう、国に対して法改正を提案要求してまいります。国には、大都市の現場についての認識がおくれているせいか、改正の模様がございません。ゆえにも、可能なものについて独自に制度拡大に踏み切るべきと判断しております。
 この制度の導入により、都民共有の財産である都営住宅の利用機会の公平性の確保を図るとともに、地域の活性化にも寄与すると考えております。
 都は、地域の特性を踏まえた独自の対策を積極的に推進してまいります。条例案の撤回をとのことでありますが、考慮のらち外であります。
 他の質問については、教育長及び住宅局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 障害者教育に関します四点の質問にお答え申し上げます。
 まず、今後の教育環境の整備についてですが、盲・聾・養護学校の教育環境の確保と改善のあり方につきましては、本年七月に設置しました東京都心身障害教育改善検討委員会において、盲・聾・養護学校全体の再編整備を含めまして、総合的に検討しているところでございまして、来年五月を目途に報告を取りまとめる予定でございます。
 また、緊急に対応が必要な改修等につきましては、今後とも各学校の状況を考慮の上、適切に実施をしております。
 次に、教員の増配置についてですが、都立盲・聾・養護学校の教職員定数につきましては、各学校における学部ごとの重度重複学級も含めた総学級数に応じて配当しております。今後とも国の教職員定数改善計画や都の財政状況を踏まえまして、適切に対応してまいります。
 次に、肢体不自由養護学校の給食調理業務委託についてですが、肢体不自由養護学校の給食については、児童生徒の障害に応じたきめ細かな給食の提供、献立の多様化による給食の質の向上、教員が行っている再調理を、調理員が調理室で行うことによる衛生管理の徹底などを図る必要がございます。
 このため、都教育委員会では、これまでの盲・聾・養護学校における委託の成果を踏まえ、新たに平成十五年度から三カ年計画で肢体不自由養護学校の調理業務を委託することとしまして、給食内容の一層の充実を図ってまいります。
 最後に、スクールバスの乗車時間の短縮についてですが、スクールバスは、一人通学が困難な児童生徒の通学を確保することを目的に運行しておりまして、配車に当たっては、各学校ごとの利用者数、児童生徒の障害の状況、交通事情等を考慮しまして、効率的、効果的な運行が行えるように努めているところでございます。
 運行時間の改善につきましては、学校の実態を踏まえ、運行コースの見直しや複数校によるバスの共同利用、バスの車両の大きさ等を総合的に検討する中で、効果的に時間短縮が図れるよう努めてまいります。
   〔住宅局長橋本勲君登壇〕

○住宅局長(橋本勲君) 住宅行政に関する二点のご質問にお答えいたします。
 最初に、都営住宅若年ファミリー向け期限つき入居制度についてでございますが、期限つき入居制度は、都営住宅の利用機会の公平性を確保することを目的としております。今回の一般都営住宅への拡大は、若年ファミリー世帯に利便性の高い地域の住宅を提供する機会を広げるものであり、子育て支援や地域の活性化にも寄与するものと考えております。
 次に、マンション建てかえにおける対応についてでございますが、建てかえに際して必要となる仮住居は、本来、居住者等がみずから確保すべき性格のものでございます。
 しかし、低所得であり、みずから仮住居を確保できず、建てかえが困難となる場合に限り、既存の都営住宅ストックを活用し、仮住居として提供する制度を導入することといたしました。したがって、都としては家賃補助を行う考えはございません。

○議長(三田敏哉君) この際、議事の都合により、おおむね二十分間休憩いたします。
   午後三時五十分休憩

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