平成十四年東京都議会会議録第十九号

○副議長(橋本辰二郎君) 七十八番河西のぶみさん。
   〔七十八番河西のぶみ君登壇〕

○七十八番(河西のぶみ君) まず、食品の安全確保対策についてご質問いたします。
 既に、昨日の代表質問におきまして、食品安全条例を早期に制定していくことが、知事答弁で明確にされました。国における食品安全行政の新しい方針を見据えつつ、東京都が率先して、予防措置原則など、リスク分析に基づく独自の仕組みを構築することは、関係団体のみならず、すべての都民が期待しているのではないでしょうか。
 東京都の食品関連の条例は、基本的に食品衛生法に基づく機関委任事務に対応するものという性格を残しています。地方分権一括法で法定受託事務に変更された今、東京都は、国の法律の不備や法のすき間を埋める実効性の高い条例をつくり上げていくことが可能です。
 事件が起きた後で対処するという、事業者の取り締まりを中心とした、後手に回っていたのが、これまでの行政でした。今後は、予防に力点を置き、毒性がはっきりしないものは認めないという、消費者が安心して食べ物を口にすることができるための行政に転換させることです。
 そこで、新しい食品安全施策の積極的な推進に向けて不可欠なものが、体制の整備です。国においては、食品衛生を担当する厚生労働省と、農業生産を担当する農林水産省との縦割り行政の弊害が指摘されてきましたが、東京都においても、縦割りになりがちな行政を見直し、統一的、一体的に取り組むことが重要です。現在、食品の安全に関する事業は、健康局、生活文化局、産業労働局、中央卸売市場、そして教育庁など各局が行っており、食品安全行政連絡会議で連絡調整しています。しかし、今後は、単なる連絡調整にとどまらず、総合的、一体的な、また柔軟な食品安全行政の推進体制の整備と強化がぜひとも必要です。ご所見を伺います。
 次に、今回の重要施策の中で、監視検査体制の再構築という事業が示されております。都内流入食品の約七割が、輸入倉庫や大規模流通施設、卸売市場を通過している現状を踏まえ、監視検査の重点をこうした施設に移すという都の考え方は理解できるところですが、膨大かつ大変なスピードで流通している食品を監視していくことは、決して容易ではありません。都は、監視検査体制の再構築を通して、どのような食品の安全監視検査体制をつくり上げようとしているのか、お伺いいたします。
 次に、食品関係営業者の衛生管理について伺います。
 食品安全確保の具体策として、食品衛生法に基づく総合衛生管理製造過程、いわゆるHACCPの承認制度があります。一方、東京都では、平成十一年四月に改定された基本方針において、HACCPの考え方を取り入れた自主管理を促進するための技術的な支援に努めることを明らかにしています。さらに、来年度の重要施策の中で、食の安全・安心確保に向けた都独自の仕組みの構築の一つとして、食品衛生自主認証制度の創設が掲げられています。
 今回、東京都が創設しようとしている独自の認証制度は、国の制度としてのHACCP承認制度とどのような違いがあるのか、また、その制定の意図について伺います。
 さらに、現在、食品が広域的に流通している中で、都民の食卓に農産物を供給している首都圏の自治体が連携を強化し、消費者への情報提供などを通じて、食の安全、安心を図っていくことは非常に重要な課題です。
 さきに発表された来年度の重要施策、重点事業の一つとして、都民のための生産情報提供プロジェクト事業が挙げられています。この事業は、協賛企業との連携により、輸入食品等にかかわる生産地や使用農薬などの情報提供を促進し、首都圏産品の安全確保のために、関係都県との広域的な協力体制を確立することを、その内容としています。
 そこで、知事に伺います。
 食品の安全には行政の取り組みが欠かせませんが、今回、この生産情報プロジェクト事業に示されているように、企業倫理を大切にし、企業の自主的な取り組みを促していくことも不可欠と考えます。ご見解はいかがでしょうか。
 次に、安全な農産物の供給に関して、東京都が取り組むことができる施策についてです。
 本年七月に、都内産のキュウリから基準値を超えた残留農薬が検出され、都民の不安を増大させました。そこで、都では、この農薬の土壌の残留状況を把握するために、都内八百カ所の土壌調査を実施していると伺っておりますが、現在どのような状況か、お伺いいたします。
 また、農家みずからが誇りを持って安全な農産物を生産し販売するために、自主的に土壌の残留農薬調査を実施する場合には、ぜひとも都は支援をするべきだと考えますが、ご所見を伺います。
 近年、農薬を使わない地場野菜の人気が高まっている中で、都として、有機農法や無農薬、低農薬栽培など、生産方式の改善や土壌改良の指導などについて支援を行うことが必要ではないでしょうか。ご見解を伺います。
 最後に、食品安全条例づくりは、ぜひとも都民との協働作業で進めていただくことを要望したいと思います。
 一九八九年、平成元年に、私たち五十五万人の都民の署名により、食品安全条例の直接請求を行いました。このときの条例制定は否決されましたが、これを機に東京都は、食品安全行政を見直し、食品安全行政連絡会議を設置しました。九〇年、平成二年には、食品安全確保対策にかかる基本方針を策定しました。
 今回、東京都の食品安全条例を求める都民の運動は、十四年前の直接請求運動のパワーを上回り、消費者団体のみならず、農協関係者初め広範な分野の都民が参加しています。機は熟しているといえるのではないでしょうか。都民の命と健康を守ることに強いリーダーシップを発揮されている都知事を先頭に、東京都が全国に波及するような画期的な食品安全条例を都民との協働作業でつくり上げ、積極的な食品安全施策を展開することを期待して、この件についての質問は終わります。
 引き続き、教育問題についてお尋ねいたします。
 本年度から、総合的学習の時間の導入により、小中学生のボランティア活動、体験活動が活発化しています。
 先日、ある社会福祉法人が運営する特養ホーム、養護老人ホームにお邪魔して、施設長さんから現場の実情をお聞きする機会がありました。この施設では、これまでにも月平均で延べ三百人のボランティアを受け入れ、二人のボランティアコーディネーターを配置しているという実績を持っています。
 今年度に入り、地元の中学生の体験活動、見学などが急増し、忙しい日常業務の中で、できる限りの対応に努めているとのことでした。授業の一環で訪問した生徒が、その後、自発的にボランティアを申し出たこと、月に一回でもいいので定期的に長く続けて、介護の何たるかを実践で学んでくれる生徒が生まれてほしいなどのご意見をいただきました。一方、学校や教育委員会と一度もボランティア活動や奉仕活動の取り組みについて話し合ったことがなく、相互理解を深めることがまず必要であるということ、生徒の受け入れは、現在の職員体制では限界に来ているというご指摘もいただき、実践は緒についたばかりとの感を強くしたところです。
 ことし七月の中央教育審議会答申「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」が出され、そこでは、子どもたちのさまざまな体験活動を充実していくために、学校と地域が連携することが、地域の教育力を向上させていくことにつながると述べられています。
 また、先週、十二月四日、東京都生涯学習審議会において、地域教育サポートネット事業の推進が提言されています。この事業は、平成十四年度から都内五区市をモデル地域として、地域のNPO団体、学校評議員などの地域の住民が、地域と学校との間のコーディネート役を担い、総合的な学習の時間を初め学校教育活動を支援する取り組みと伺いました。これは、地域住民が主体となって地域の教育力を向上させるためには、意義のある取り組みであると考えています。
 まず、この事業を推進する上での課題と、その対応について伺います。
 次に、学校が保護者や地域住民等の信頼にこたえ、家庭と地域が連携して、子どもたちの健やかな成長を支えていくためには、今後も一層、地域に開かれた学校づくりを推進していくことが重要です。画一的な学校運営の弊害をなくし、地域住民の意思と参加、決定に基づいた個性あるコミュニティスクールとして学校を運営するためには、法律の改正も待たなければなりません。国においても、今年度から三カ年の事業として、新しい学校運営のあり方に関する実践研究のモデル校を全国で九校指定し、都内では、足立区立五反野小学校が指定を受けています。この実践の成果を期待したいと思います。
 そこで、現在、公立小中学校で実施されている学校評議員制度の現状と今後の取り組みについてお伺いいたします。
 続いて、学校における室内化学物質対策についてお尋ねします。
 東京都は、ディーゼル車規制など大気環境保全の対策を全国に先駆けて進めていますが、児童生徒が長い時間を過ごす学校の教室内の空気にも目を向ける必要があります。今、我が国の将来を担う児童生徒を健全にはぐくむべき学校において、シックハウス症候群など室内環境にかかわる問題が指摘をされています。
 我が国では、第二次ベビーブーム以降に建築された学校が老朽化し、改築の時期を迎えています。また、少子化に伴って学校が統合されるなど、多くの学校の改築等が想定されます。改築により校舎の安全性と快適性の向上が期待される反面、室内化学物質等による被害の発生を防ぐ対策が急務となっているのではないでしょうか。
 本年二月五日に、国の学校環境衛生の基準が改定され、学校の教室等について、ホルムアルデヒド等四種類の化学物質の基準値が設けられました。同基準では、毎年定期的に各化学物質の濃度を検査することとしており、また学校の新築、改築等の際には、ホルムアルデヒドなどの濃度が基準値以下であることを確認させた上で、引き渡しを受けるものとしています。
 東京都は、今年度から都立学校において、ホルムアルデヒドの測定を開始したと聞いていますが、最近の状況の変化に対応し、児童生徒の健全で安全な学習環境を確保するために、まず都立学校における室内化学物質対策の強化について、教育長の見解を伺います。
 また、公立の小中学校においても、室内化学物質対策が円滑に実施されるよう、教育委員会として、区市町村教育委員会を支援すべきと考えますが、教育長の見解を伺います。
 成長期にある児童生徒は、化学物質によって大人より強い影響を受けることが指摘されています。ことしの夏にも、都内のある統廃合による新築校舎で、基準値を超えるトルエン、ホルムアルデヒドの発生事故がありました。児童を初め関係者に大きな不安と混乱をもたらし、いまだ終息を見ていないという残念な事態が引き起こされています。今後再び、有害化学物質の危険に子どもたちをさらすことのないよう、対象全校で早期に測定を完了させるなど、シックスクール対策に万全を期していただくことを強く要望し、質問を終わります。
 ありがとうございます。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 河西のぶみ議員の一般質問にお答えいたします。
 食の安全確保に向けての取り組みについてでございますが、今日ほど食の安全への信頼が失われた時代はないと思います。原因としてはいろいろありますが、行政の対応の不十分さもさることながら、牛肉偽装表示事件などに見られるような、食品を提供する企業自身のモラルの低下によるところが多いと思います。
 企業に限らず、戦後の日本の社会では、個人も含めて、他者に対する責任というか、時代、立場を超えて垂直に貫かなくちゃならない倫理というものまでが毀損されてきましたが、この事件を起こしている企業の堕落ぶりを眺めますと、企業を構成している人たちがいかなる教育を施されてきたかということまで、遡行して考えざるを得ないような気もいたします。
 いずれにしろ、日常の食の安全を確保していくためには、行政の対応も必要でありまして、企業自身が都民の立場に立って意識をみずから改革し、みずから生産などに関する具体的な情報を提供するなど、積極的な取り組みを行うことが不可欠と思います。それを促すべく、都としても今後、総合的な取り組みの仕組みづくりを進めていきたいと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁します。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 教育に関します四点の質問にお答え申し上げます。
 まず、地域教育サポートネット事業の課題とその対応についてですが、この事業は、中央教育審議会の答申に先立ちまして、都が本年度から先導的に実施しています区市町村に対する補助事業ですが、この事業を円滑に推進するためには、学校と地域をコーディネートする人材の確保が課題であると認識しております。このため、コーディネーター養成に関するプログラムの作成を進めますとともに、地域社会におけるボランティアや学校支援人材の育成に役立つ内容を都立学校公開講座に設けることなどによりまして、区市町村を支援をしてまいります。
 次に、学校評議員制度の現状と今後の取り組みについてでございますが、学校評議員制度は、学校運営について、保護者や地域住民等の意向を把握しまして反映しますとともに、学校に関する情報の発信などを通して、適正な学校運営を進めることを目的といたしております。この制度は、平成十二年度より区市町村や学校の状況に応じて順次導入されまして、現在、公立小中学校の九〇%を超える学校で実施されております。学校運営、教育内容、学校と家庭、地域との連携等につきまして意見交換がなされております。
 今後とも、都教育委員会としましては、研究実践校の成果の普及啓発を図りますとともに、区市町村教育委員会に対しまして、学校評議員制度を活用した学校の自己評価や評価結果の公表などについて指導助言しまして、開かれた学校づくりをより一層推進してまいります。
 次に、都立学校における室内化学物質対策についてですが、都教育委員会としましては、都立学校の新築、改築等の際に、化学物質の放散量の少ない建材や施工方法を採用しますとともに、竣工時に室内化学物質濃度の測定を実施をいたしております。
 また、過去十年以内に改築等を行った学校について、今後、計画的に室内化学物質の濃度を測定しますとともに、その他の学校につきましても、コンピューター教室等を対象に、ホルムアルデヒドの測定を行ってまいります。
 こうした環境調査とあわせまして、室内化学物質に対する正しい理解や、教室における適切な換気方法、化学物質を発生するおそれのある製品の情報等をマニュアルとして取りまとめまして、説明会や研修会等を通して学校に周知をしてまいります。
 最後に、区市町村教育委員会に対する支援についてですが、小中学校における室内化学物質対策は、国の学校環境衛生基準に基づきまして、設置者でございます区市町村教育委員会が適切に対応していく必要がございます。
 都教育委員会としましては、学校建築等における材料や工法の技術指導に関する相談会を開催しますとともに、学校薬剤師会などと連携協力しまして、室内化学物質の検査方法や健康への影響につきまして研修の充実を図ることによりまして、区市町村教育委員会を支援をしてまいります。
   〔健康局長長尾至浩君登壇〕

○健康局長(長尾至浩君) 食品の安全確保に関する三点の質問にお答え申し上げます。
 まず、食品安全行政の推進体制の強化についてでございますが、生産から流通、消費のすべての段階で食の安全を確保するには、食の安全にかかわる関係局が連携して対応することが必要でございます。都は、これまでも庁内の連絡組織による調整を行うとともに、BSE問題など個別の事例についても協力し、対処してきたところでございます。今後、新たに関係局による食品安全対策推進調整会議を設置するなどして、庁内連携の一層の強化を図ってまいります。
 次に、新たな監視検査体制についてでございますが、都における食品の監視検査体制は、保健所が行う地域監視、卸売市場における拠点監視、都の食品機動監視班による広域監視により行われております。今後は、都が行う広域監視の重点を、小売店等流通の末端から大規模流通施設等の流通の川上部分にシフトし、より効果的、効率的な監視検査体制を構築してまいります。
 次に、食品衛生自主管理認証制度についてでございますが、国のHACCP承認制度は、高度な衛生管理を必要とする牛乳やハムなどの大規模な製造業を対象としております。都内で承認を受けた施設は十二施設でありまして、飲食店等多くの施設はこの制度の対象とはなっておりません。
 一方、今回検討しております食品衛生自主管理認証制度は、営業者による自主管理の一層の推進を図るため、都の定める衛生管理基準を満たした施設を認証するものでありまして、今後、飲食店等、HACCP制度の対象となっていない中小規模の施設を中心に対象の拡大を図っていく予定でございます。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、土壌の残留農薬調査についてでございますが、都は、土壌における残留農薬の状況を把握するため、農業協同組合の協力を得まして、約八百カ所の畑から土壌を採取し、現在、農業試験場を中心に分析を進めており、来年一月末には終了する予定でございます。
 また、農家や農業協同組合が自主的に行う土壌の残留農薬調査については、農産物の安全を確保し、都民の信頼を高める観点から、支援を検討してまいります。
 次に、有機農法などへの支援についてでございますが、都はこれまで有機農業の普及、拡大を図るため、十二カ所の有機農業モデル生産団地を指定しまして、施設整備への助成、堆肥の供給、土壌の分析などを実施してまいりました。また、農業試験場が作成した有機農業栽培指針に基づきまして、団地内の農家に対して栽培技術を指導してきたところでございます。
 今後とも、都民に安全で安心な農産物を提供するために、有機農産物等の生産に取り組む農家に対して、農業改良普及センターを通じて積極的に技術的な助言、指導を行ってまいります。

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