平成十四年東京都議会会議録第十三号

   午後四時三分開議

○議長(三田敏哉君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 四十六番高島なおき君。
   〔四十六番高島なおき君登壇〕

○四十六番(高島なおき君) 私は、都議会自由民主党の一員として、都政の課題について何点か質問いたします。
 まず初めに、規制緩和について伺います。
 バブル経済の崩壊から既に十二年、我が国経済の疲弊は都民のさまざまな生活に暗い影を投げつけ、ジャパン・アズ・ナンバーワンとうたわれた社会システム、すなわち終身雇用、年功賃金などの慣習は、今崩れようとしています。経済は全世界と結びつき、産業の空洞化は歴史の必然とまでいわれるようになっています。
 そうした社会変化を背景に、これまでの社会のルールを変更すべきという声が高まり、アメリカを標準とするグローバルスタンダードを我が国でも基準とすべきという声は、私も耳にしております。
 グローバルスタンダードと呼ばれる基準の一つは、できるだけ規制をなくして、自由な活動を保証しようというものです。確かに規制というものは人々の行動を制約するものであり、政治活動、経済活動や文化活動などを制限するさまざまな種類があります。したがって、社会が停滞していると思われるときに、その活動に対する規制のあり方を見直すことは、活性策の一つになり得るものであります。
 そこで、知事に伺いますが、都政運営において、規制をどのようにとらえておられるのか伺いたい。
 ところで、どうして規制をするようになったのかといえば、自由という名の暴力から社会全体を防御する必要があったからにほかなりません。私たちは、みずからのわがままを知性と理性とによって制御するために、規制という名の社会ルールをつくってきました。とりわけ経済活動というものは社会のあり方を大きく規定するものであることは、世界の歴史の示すところであり、時代とともに大きく変化し得るダイナミックな営みであるということから、経済的規制は憲法の解釈においても広く容認されているものなのです。
 そうした背景のある経済的規制について、単なるムードや流行といった感情的なものによって、規制緩和が取り上げられているのではないかと危惧する現象が、至るところで見られます。人々の生活に直接かかわる社会システムの変更を意味するという観点から、一つ一つの規制の緩和がどのような結果をもたらすのか、十分に吟味しなければならないと考えます。
 例えば、アメリカの圧力に屈して、大型店の出店に関する規制が緩和されましたが、その結果はどうなったでしょうか。多くの商店街が衰退の一途をたどり、まちの触れ合いがなくなり、地域コミュニティが崩壊の危機に立たされているのです。人材派遣に係る規制の緩和は、職域の拡大をもたらした一方で、雇用の安定を奪い、労働単価の低下を招いていることは否定できません。
 しばしば規制は既得権に対する保護策だという声を聞きますが、私はいたずらに現状を凍結せよというのではなく、さまざまな社会的弱者の活動を保証するための規制や大資本の独占的な行動に規制をかけることは、決して身勝手な既得権の保護とは別のものであるということを訴えるものであります。
 そこで、都は、規制の存続や強化、そして緩和との区別をどのような基準で考えているのか伺いたい。
 また、規制は単に経済活動を縛るだけではなく、新たな産業を振興するきっかけとなるものです。自動車に対する厳しい排ガス規制は、低公害車の開発を促進し、自動車産業の新たな時代を切り開く例でもあります。福祉サービスの民間参入は、福祉ビジネスという新たな産業分野をつくり上げました。産業振興の観点から、全庁的に取り組む石原都政であればこそ、補助金の支給や融資の充実といった、これまでの産業振興策に規制の見直しを加えるべきと、私は強く考えます。
 そこで、先般開かれました産業力強化会議では、規制改革から取り組むこととしたそうですが、どのような規制改革に取り組もうとなされているのか伺いたい。
 次に、構造改革特区について質問いたします。
 今月二十日に、内閣官房構造改革特区推進室から基本方針が示されたところであります。九月五日現在、特区推進室あてに、地方公共団体等の公的団体二百三十一団体、民間企業、大学等十八団体から、四百二十六件の提案があったと報道されております。東京都及び区市においては、都が二件、特別区が九区、市が四市八件の提案がなされたそうであります。また、今回は構想内容を詰め切れずに、時間切れとなり、提案を見送った区などにおいても、関連法整備などの動きをにらみながら、正式な募集時には申請したいと、検討を進めている団体があると伺っております。
 一方、石原東京都知事は、東京から日本を変えるというスローガンのもと、既存の規制に対する各種の果敢な挑戦を続けております。例えば都市再生事業、都市再生特区、規制改革を含む港湾改革、債券市場改革、福祉改革、教育改革、外形標準課税等税制改革、カジノ構想、ロードプライシングなどがあります。
 国が構造改革や規制改革、特区構想に取りかかる以前から、東京自体を一つの巨大な特区、日本の政治、経済、文化のダイナモと見立てて、我が国のこの閉塞状態を打ち破るため、日本再生に向けた大胆な取り組みを構想し、既に実現し始めていると私は考えております。
 さて、今回提案された特区は、大きく分けて四つのタイプがあると考えます。
 一つは、都の国際港湾特区などに代表される、拠点開発型ともいえるものであります。これは、当初、国が示したIT特区、バイオ・ライフサイエンス特区、港湾特区など、その立地についてかなり限定された環境を前提とするものであり、国がいう地域特性を踏まえるという趣旨に合致したものであります。
 二つ目は、都心再生を含めた面的なまちづくりに関するものであり、三つ目は、IT等を含めた産業創出に関するものであります。
 四つ目は、教育や福祉、雇用等、都民生活に直接かかわる具体的な特区であり、区及び市の提案の中では、これが最も多かったようであります。
 そこで、以下、何点か質問をいたします。
 まず初めに、今回提案された都民の生活に直接かかわる生活サービス関連分野、教育分野などの特区については、国が大きく分けた三つの定義のうちの一つである、一定の規制を試行的に特定地域に限って緩和するケースに該当するものが多いと思われますが、このように本来全国一律で行うべき規制緩和を、特区という形で、特定地域において試行的に行うことについてどのように考えているのか、都の考え方を伺いたい。
 次に、さきの地方分権一括法の施行に際し、都は都区制度改革を同時進行の形で実施いたしました。今回の特区構想は国の法的権限の一部を一定の条件のもとに自治体に移譲する性格を持っていますが、都と区市との間にも同様の構図があると思います。その意味から、都と区市との関係をどう考えるのか。仮に特区構想が部分的にしか実現されなかった場合であっても、区市への分権を粛々と進め、各自治体の健全な競い合いと活性化を図るべきと思いますが、都の見解を伺いたい。
 さらに、規制改革については、従来、公的部分あるいは準公的部分が独占または寡占しているサービス等の規制を改革し、民間開放するという公的サービス開放分野と、本来、民間中心の市場における規制のうち、国の後見的規制が時代とミスマッチあるいは過剰となっているものを改革するという、民間活性分野の二つがあると思われます。
 前者の公的サービス開放により生じる市場は、第三次産業の四分の一を占めているとされており、我が国において、アメリカ並みに民間への開放が行われると、最大で八百万人の雇用が創出されるという国の推計もあるようであります。
 都は、福祉改革を初めとして、こうした公的サービスの民間開放を先行して実施してまいりましたが、特区構想を契機として、区及び市のレベルとともに、協働、連携して推進する考えはないのか、お伺いをいたしたい。
 最後に、新聞などでは関係業界の反発の予想に加え、構造改革特区に関して、一部の省庁の激しい抵抗があると報道されております。現に昨日、九月二十五日、内閣官房構造改革特区推進室から発表されましたが、各組織の規制緩和要望千四十五件のうち、緩和の要望が可能とされたのは一割にも満たない、わずか九十件どまりであることは非常に残念なことであります。
 これまで、都は、さまざまな分野において国に問題提起を行い、先導的なモデルの提示や取り組みを行ってまいりました。特区構想をきっかけとして、規制改革全般についても、都として国に対し強力な申し入れを行うべきと考えますが、都の見解を伺いたい。
 以上で私の質問を終了いたしますが、東京から日本を変えるというかたい決意の中、規制緩和という言葉に縛られず、都民の求める施策を実行していかなければならないと考えます。
 さらに、構造改革特区においても、東京都の確実な行動が今問われていると考えます。石原知事に大いに期待をして、私の質問を終了させていただきます。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 高島なおき議員の一般質問にお答えいたします。
 規制なるものを基本的にどうとらえるかということでありますが、これは政治における哲学的な命題とも思います。
 本来規制は、できるだけ自由な社会経済活動を確保するため、無用な社会的混乱や損失を防ごうとするものでありまして、豊かで、魅力のある、安定した社会を実現するための一つの方策だと思います。
 したがって、規制のありさまは、本来、社会の豊かさや成熟度、経済活動の変化に対応して、弾力的に見直す必要があると思います。これまでの規制が不要となる場合もあれば、新たな規制が求められる場合もあると思いますし、また、従来存在している規制を保つべきケースもあると思います。
 しかし、どうも国は、一たん規制を決めると、時代がいかに変わろうと、全国一律にこれを墨守しようとしておりまして、こっけいな例では、例えば昭和の初期に決められました、社会活動の中で鉢巻きをしちゃいかぬなんという、つまり物情騒然とするので、これを禁じた法律までありますが、こんなものはまさに死文化しているわけですけれども、考え、洗い直してみますと、当然撤廃されるべき規制もありますし、しなくていい規制もしたうらみがないでもありません。
 私の議員在任中に、例のビッグバンが盛んに世界で喧伝されまして、何か自民党はわけのわからぬままはしゃいで、ビッグバン、ビッグバンとやりましたが、私の知人のドイツのブンデスバンクの幹部が、果たして日本はそれをやっていいのか、本当に考えてやるんだろうかという危惧を表明しておりましたけれども。ドイツは部分的にとどめましたが、日本は全面開放というんでしょうか、アメリカの圧力に屈して、ビッグバンを要するに招来したために、例えば生命保険なんかは、外国の企業が日本で活動するようになりましたけれども、日本もそのまねをして、がんの保険を掛けようとすると、アメリカが圧力を加えて、日本の生命保険会社が人気の商品になっているがん保険を日本で掛けられないような、非常にゆがんだ状況も生じて、皮肉な結果になりました。
 私は、就任以来、東京の大都市としての特性を踏まえた、独自な改革に取り組んできたつもりでございますけれども、今後とも、以上のような観点に立って、規制というものを心得、結果としては都政の大きな構造改革を進めていきたいと思っております。
 他の質問については関係局長から答弁いたします。
   〔知事本部長前川燿男君登壇〕

○知事本部長(前川燿男君) 四点のご質問にお答えをいたします。
 まず、規制の強化と緩和を区分する基準についてでありますが、規制には、財、サービスの適切な供給を目的とするもの、国民の生活の安全を守ることを目的とするものなど、さまざまな分野でいろいろな形態がございます。
 本来、規制の目的は豊かで魅力ある社会の実現であり、社会経済状況の変化に即して、柔軟かつ弾力的に見直す必要があります。規制を強化すべきか、あるいは緩和すべきかにつきましては、経済の活性化、文化の振興、都民活動の拡大など、都民サービスの実質的な向上と生活の安心、安全の確保を図る観点から、総合的に判断すべきであると考えております。
 次に、構造改革特区について、まず都民生活にかかわる特区についてでありますが、今回の構造改革特区の趣旨は、本来全国一律で行うべき規制緩和を、地域を限定して、試行的に行うところにあります。自治体などの提案には、教育、福祉などの分野に関するものも多いようでありますが、特区での試行を待つまでもなく、全国的に実施すべき段階に来ているものも中には見受けられるわけであります。
 こうした規制の改革については、国のより積極的な取り組みが望まれるわけでありますが、今回の試行は、これを突破口として全国に広げようとするものであり、現状改革を進めようという趣旨は評価できると考えております。
 次に、区市との協働、連携についてでありますが、東京のような大都市におきましては、お話がありましたとおり、福祉など従来行政が中心となってきた分野につきましても、民間企業を含む多様な事業者が存在をしており、豊かで、多様な、質の高いサービスを実現できる条件が整っているわけであります。
 こうした分野におきましては、規制改革を推進し、民間参入を促進することにより、業者相互の競い合いを通じて、サービス水準の向上が図られるとともに、新たな雇用が創出されるなど、東京の経済の活性化にも大きな効果が期待できます。
 都は、こうした観点に立ちまして、これもお話がありましたように、区市と協力をしながら、認証保育所の創設など、先駆的な事業を推し進めてまいりました。
 今後とも、意欲ある自治体との協働、連携を進め、都民サービスの充実を図ってまいります。
 最後に、規制改革についての国への申し入れについてでありますが、構造改革特区についてはさまざまな評価がございますが、都は、国の構造改革特区の動きを待つまでもなく、産業、環境、福祉などの分野で、規制の強化と緩和の両面にわたり、都独自の制度を創設し、都民生活の向上に努めてまいりました。こうした都の取り組みが全国的なサービスの向上へと波及し、国レベルでの規制改革に向けた牽引力となることを目指しております。
 今後とも、都として規制改革に積極的に取り組み、国の規制が障害となる場合は、他の自治体とも連携して、改革を強く働きかけてまいります。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 産業力強化会議における規制改革についてのご質問にお答えいたします。
 企業の活動にかかわる諸規制について見直しを行い、企業の事業環境を整備することは重要でございます。産業力強化会議では、まず、地方への工場等の移転を促す国の産業立地政策や既成市街地における工場の建てかえ、増改築にかかわる都市計画に関する規定などの諸規制について検討してまいります。
 その際、ご指摘のような新たな産業の振興に資することとなる規制改革についても視野に入れ、産業力を強化する立場から、全庁的に規制のあり方を検討し、国への提案要求や都としての規制改革を実現してまいりたいと考えます。
   〔総務局長赤星經昭君登壇〕

○総務局長(赤星經昭君) 区市への分権の推進についてのご質問にお答え申し上げます。
 構造改革特区構想も地方分権も、自治体の自発性を尊重し、活力ある地域の実現を目指す点では共通するものがございます。
 ご指摘のように、特区構想の規制改革が部分的にしか実現されない場合でありましても、都といたしましては、分権の理念に基づきまして、引き続き区市町村の自主性、自立性を高めるよう、区市町村の要望も踏まえながら、事務、権限の移譲を推進し、地域の活性化を図ってまいります。

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