平成十四年東京都議会会議録第十三号

○議長(三田敏哉君) 三十四番かち佳代子さん。
   〔三十四番かち佳代子君登壇〕

○三十四番(かち佳代子君) まず、中小企業振興対策審議会がまとめました、ものづくり振興に関する答申に関連して質問します。
 今日の東京の製造業は、答申でも示されているように、この十年間に、北海道の製造業を上回る規模の一万八千の工場と二十四万人もの雇用が消滅しました。大田区でも、従業員五人以上の企業が、昨年一年で三百社も閉業に追い込まれています。このような製造業の衰退は、地域経済や都民生活に深刻な打撃を与えるだけでなく、長引く景気低迷の大きな要因となっているのです。
 私は、この質問に当たって、地元大田区の製造業者の方々や専門家の方からお話を伺いました。そこで改めて痛感させられたのは、都内の製造業の置かれている状況の深刻さと、その製造業の復活こそが、東京の、ひいては日本経済の活性化のかぎを握るということです。
 このようなときに、ものづくり振興の答申が出されたことは重要です。ところが、中対審の答申には、肝心の製造業の集積にふさわしい位置づけと対策が見当たりません。そこで、改めて機械金属、印刷製本、アパレルなどの世界に冠たる製造業の集積の役割とその振興の重要性について、知事はどう認識されているのか伺います。
 また、工業集積の生き残りと振興に着目した中長期の戦略プランの策定を求めるものですが、知事の所見を伺います。
 都内製造業の生き残りと再起のために、企業ニーズに応じられる高度な設備と人材を備えた試験研究機関が、今日ほど必要とされているときはありません。
 東京では、北区にある産業技術研究所が開発、研究の仕事の多くを引き受けて頑張っていますが、遠隔地からの調査依頼も少なくありません。都の工業集積活性化事業を活用してペットボトル再生機を開発した大田区の業者、また介護用排尿・排せつシステムを開発した、知事の技術大賞を受けた江戸川区の業者は、どちらも遠いところから通わざるを得なかったのです。
 一方、全国には、複数の工業技術試験場、研究機関が設置されているところも少なくありません。北海道は、製造業の規模は東京の五分の一にもかかわらず、道立の工業試験場と工業技術センターが札幌と函館に設置されています。また、長野県には、県立工業試験場に加え情報技術試験場、精密工業試験場など、四つの試験研究機関が活動しています。
 最近、経済産業省が技術開発支援を行った企業へのフォローアップ調査を行いましたが、それによれば、仮に一千億円の技術開発助成費を投じた場合、五年後には、五倍の五千二百億円の生産誘発効果と二万六千人の就業者の誘発が期待されるといわれています。それだけに、身近なところに研究所があれば、少なくとも城南、城東、中央、多摩など、工業の集積地ごとに研究所があればというのは、関係者の切なる願いです。
 そこで、主要な工業集積地ごとに試験研究機関を設置すること、とりわけ危機的な状況に置かれている大田、品川地域に急いで設置することを提案するものです。知事の答弁を求めます。
 最近、京浜工業地帯で、産・学・公連携や企業の試験研究機関の誘致など、二十一世紀のものづくりを展望した新たな挑戦が始まろうとしていることに注目する必要があります。
 川崎市では、JR新川崎駅前の旧国鉄跡地を活用して、慶応大学のキャンパスを誘致しましたが、そのキャンパスには十二の研究室が入り、電気自動車やプラスチック製光ファイバーなど、製品実用化の研究が始められています。また、JR鶴見線浜川崎駅前にあるNKK京浜製鉄所の不用になった古い体育館が、文部科学省の肝いりで、ロボット研究の拠点として生まれ変わろうとしています。さらに、横浜市では、一年半前に空き倉庫を改装し、産学共同研究センターを立ち上げ、一回の充電で三百キロも走る電気自動車の開発を手がけるなど、成果を上げています。
 ところが、同じ京浜工業地帯でも、多摩川を渡った東京側では、京浜島では工場閉鎖後の土地が虫食い状態のまま放置されていたり、マンションが相次いで建てられるなど、見る影もありません。
 同じ京浜工業地帯の横浜市や川崎市におくれをとらないよう、京浜島などの空き工場や遊休地を活用した、試験研究とインキュベーション機能を合体した総合研究ゾーンの建設なども東京都が積極的に音頭をとってよいのではありませんか。知事の見解を伺います。
 中小業者の緊急で切実な要望に、積極的にこたえる姿勢も重要です。第二期の工業集積地域活性化事業を来年度からスタートさせること、また、ものづくり答申でも強調されている知的財産や、企業が持つ熟練の技術、技能などを担保力として評価する新たな融資の創設、大銀行による融資の貸しはがし対策、年末の越年資金など、中小企業が切実に求めている対策を急ぐべきではありませんか。あわせて見解を伺います。
 大企業による下請業者いじめについても、答申では改善の方向が示されていません。国に対して、悪質な法違反に対する罰則の強化など、下請保護関連二法の改正を求めるとともに、独自の下請保護条例を制定することを強く求めるものです。
 あわせて、法の遵守を大企業に申し入れること、悪質な企業の公表による社会的制裁など、ルールの確立に都として積極的に取り組むことを提案するものです。知事の答弁を求めます。
 次に、食の安全確保の問題です。
 BSE問題に端を発し、産地偽装や品質保持期限のごまかし、三十年間も違法添加物を使用し続けたなど、企業のモラルハザードが蔓延しています。
 輸入野菜の残留農薬、無許可添加物が使用された輸入食品なども問題になっています。私は、輸入ホウレンソウに生鮮野菜の二百五十倍もの農薬が残留していることを最初に発見した農民連に行き、中国の現地では、収穫間際に農薬が散布されていたこと、こうした事態も、基準がないということで放置されていた実態を伺いました。
 輸入食品の水際でのチェック体制の不十分さ、安全基準の未整備、情報公開の不十分さについても、都民は不安と不信と、そしていら立ちを募らせており、七月の都が実施した都政モニターアンケートでも、六五%の人が表示の偽装に不安を抱いていることが示されました。
 このように、相次いで明らかになった食の安全をめぐる深刻な現状と、消費者の健康よりも利益最優先という企業のモラル喪失について、知事はどう考えていますか。
 世論に押されて、国もようやく法整備に取り組むことになりましたが、食の安全、安心を確保する取り組みを、都が国に先駆けて抜本的に強化する必要があると考えますが、知事の見解を伺います。
 私は、何点か緊急に対応が求められている問題について提案を行います。
 まず、急がれているのは、問題が起きる前に対処する予防原則に立った取り組みです。都民の食料の七割を輸入食品に頼っている今日、とりわけ出荷前でのチェックが重要となっています。都内輸入食品業者は約千二百、それに対し、都の食品監視員の輸入班はたった三人というのが実態です。国の水際での検査率もわずか七%です。安全性の確保という点では、極めて乏しい状況です。
 輸入食品などの監視体制の強化を国に求めると同時に、東京都の食品監視員の増員や検査体制の拡充が必要です。所見を伺います。
 ベビーフードからも農薬が検出されたことは、都民に衝撃を与えました。ベビーフードの原材料は輸入品が多くを占めているにもかかわらず、規制対象外の加工食品のため、残留農薬の法的規制も安全基準もありません。輸入小麦で、アメリカでは既に使用を禁止している農薬のクロルピリホスメチルがたびたび検出されながら、厚生労働省は十年以上も基準をつくらず放置しています。
 こうした事実を知ったお母さんたちは、体が小さく内臓器官が未熟で免疫力も弱い赤ちゃんは、わずかな農薬でも心配ですと訴えています。食品添加物や農薬の残留基準設定に当たっては、乳幼児、妊婦、病弱者への影響を最大限配慮して定めることを国に求めること、そして、少なくともベビーフードについては、都として早急にその実態把握に努めるべきですが、お聞きします。
 成長期である子どもたちの学校給食の主食についても、ポストハーベストによる残留農薬や遺伝子組みかえの心配のない国産小麦や野菜の使用を模索する動きが全国各地で始まっています。
 埼玉県は、指定工場での研究開発を重ね、県産小麦一〇〇%のパンを導入したところ、残留農薬がゼロで、しかも、これまでと同じようにおいしいパンをつくれるようになりました。
 文部科学省では、来年から、子どもたちの健康保持の立場から、安全な国産の食材選択のモデル事業に取り組む方針を明らかにしています。東京都では、学校給食会が都内の小中学校の八割に輸入小麦のパンを供給しています。これを安全な国産小麦のパンに切りかえていくよう、首都圏近県とも連携して取り組むことを提案いたします。所見を伺います。
 食の安全と信頼を高める上で、お店に並んだ食肉や野菜がどこでどのように生産されたのか、飼料はどうか、農薬は何を何回散布したのかなど、その食品の情報や履歴がわかることが重要です。ところが、都が五月に実施した調査では、食品メーカーが自社製品の原材料について生産地などを把握しているのは、わずか一割にすぎません。その上、栽培方法や飼育方法に至っては、ほとんどわからないというのが実情です。
 この履歴追跡制度、いわゆるトレーサビリティーでは、長野県が昨年十一月から、県産牛の履歴表示と、店頭で消費者が確認できる安心シールの取り組みに踏み出し、協力店が広がっています。
 消費者が安心、安全な食べ物を選ぶことができるようにするために、トレーサビリティーのシステムは重要だと思いますが、見解を伺います。
 また、食品の安全度をどこにするかなど、リスク評価を初め、食をめぐるあらゆる問題について、事業者、行政、消費者が相互に情報提供をし合い、対話ができる仕組みが必要です。
 消費者も含め、双方向型対話のリスクコミュニケーションは、消費者の知る権利、参加する権利を保障するためにも実現が急がれていますが、所見を伺います。
 知事、巨大消費地である首都東京の都民の食の安全確保は、先送りが許されない緊急の課題です。
 以上、私が提案してきたことを含め、都の食品安全確保対策にかかわる基本方針を実効あるものにするために、条例をつくる必要があると考えますが、知事の所見を求めて質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) かち佳代子議員の一般質問にお答えいたします。
 東京における製造業の集積は、従来は我が国の産業の宝ともいうべき存在でありまして、ものづくりを牽引し、技術の発展に大きく寄与もしてまいりましたが、近年、生産拠点が中国を含めた外国に移るような傾向の中で、産業構造が大きく変化しております。
 先般、NHKの非常に印象的な報告をテレビで目にしましたが、何しろ共産党の独裁下における労働条件を無視したチープレーバーには、これはもうかなうわけがない。そういう点で、非常に日本は大きなハンディキャップを負っているわけでありますけれども、いずれにしろ、今般、中小企業振興対策審議会から都市型のものづくりの育成などについても答申を得ましたので、今後、答申の趣旨を生かし、何をいかにつくるかということを主眼にものづくり産業の振興に取り組んでいきたいと思います。
 次いで、食の安全、安心を確保する取り組みについてでありますが、行政の最も重要な使命は都民の生命と健康を守ることでありまして、その意味で、食の安全対策は都政の最重要な課題であります。
 多くの企業のモラルが喪失されておりまして、都民の食の安全に対する不安、不信を招いていることは大変遺憾で、猛省を促したいと思います。
 都としては、国に食品安全対策の強化を求めるとともに、今後とも、消費者保護の立場から、多角的に監視、指導などの危機管理体制の強化を図り、食の安全、安心の確保に努めてまいります。
 なお、他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 東京都学校給食会によります国産小麦を使用した給食用パンの供給についてのお尋ねでございますが、東京都学校給食会は、給食用物資を学校等に安定的かつ廉価に提供する役割を果たしておりますが、給食に使われる食材の内容につきましては、お話の国産小麦のパンを含めまして、使用する区市町村教育委員会や学校が、品質、安全性、栄養価、経済性、保護者や地域の状況などを総合的に勘案して選定をいたしております。
 都教育委員会としましても、区市町村教育委員会や学校が食材に対する正確な知識が得られるよう、今後とも、研修などの機会を通じまして、必要な情報を提供してまいります。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) 中小企業対策に関する五点のご質問にお答えいたします。
 まず、工業集積地域ごとの試験研究機関の設置についてでございますが、都は、産業技術研究所を中心に、城東、城南、多摩の各工業集積地域に中小企業振興センターを設置して、さまざまな技術支援に取り組んでおります。
 大田、品川地域については、既に設置している城南地域中小企業振興センターを活用して、経営、技術の支援を積極的に行っております。このため、新たな試験研究機関を設置する考えはございません。
 次に、試験研究とインキュベーション機能についてでございますが、インキュベーター施設については、都は、空き庁舎の活用を図るとともに、今年度から区市等が行う創業支援施設の整備に対する助成を開始しております。
 城南地域の産業振興は、中小企業振興センターを中心に、既に地元の区と連携を図りながら総合的な技術支援に取り組んでおり、お話の総合研究ゾーンの建設については考えておりません。
 次に、工業集積地域活性化支援事業についてでございますが、この事業は、サンセット事業として、指定後、五年間で事業を実施するものであり、平成十六年度に事業がすべて終了いたします。その時点で成果を総括した上で、地域の工業振興施策のあり方について検討していきたいと考えております。
 次に、中小企業に対する融資についてでございますが、都では平成十二年度から、中小企業の技術力や将来性などを積極的に評価する審査方法を取り入れた技術・事業革新等支援資金融資を実施しております。中小企業を取り巻く金融情勢が厳しいことは認識しており、今後とも適切に対応してまいります。
 最後に、下請企業に対する取り組みについてでございますが、都は、中小企業振興公社とともに、関係法令に基づき、下請取引の適正化に努めております。親企業に対する講習会等の実施に加え、下請取引の相談や苦情紛争の解決に取り組んでおります。したがって、お話の下請保護条例の制定については考えてございません。
 今後とも、公正取引委員会等と十分に連絡をとりながら、適切な措置を講じてまいります。
   〔健康局長長尾至浩君登壇〕

○健康局長(長尾至浩君) 食の安全に関する二点の質問についてお答え申し上げます。
 輸入食品の監視体制に係る国への提案等についてでございますが、都はこれまでも、国に対し、食品の輸入時における監視体制の充実について提案してまいりました。
 今後とも、保健所における監視、指導に加え、輸入食品への監視を重点的に実施するなど、効果的、効率的な監視、検査に努めてまいります。
 次に、基準設定に係る乳幼児への配慮等についてでございますが、都はこれまでも、農薬等の残留基準を整備するに当たりまして、食生活の実態、特に乳幼児について配慮するよう国に提案してまいりました。
 また、都内に流通しておりますベビーフードについては、これまでも農薬や食品添加物等の検査を行ってまいりましたが、今後とも検査を継続し、実態の把握に努めてまいります。
   〔生活文化局長三宅広人君登壇〕

○生活文化局長(三宅広人君) 食の安全に関する三つの質問にお答えいたします。
 まず、食品に関するトレーサビリティーの仕組みづくりについてのお尋ねでございますが、近年、多発している食品偽装事件などによりまして、都民の多くが食品に対する不安を抱いております。この不安を解消するため、表示等に対する監視、指導の強化などに加えまして、都民自身が原産地や流通履歴について正確な情報を得ることのできる仕組みづくりが求められております。
 そのため、全国的な仕組みを早急に構築するよう国に提案要求しておりますが、今後、国の検討状況を見きわめ、都としても適切に対応してまいります。
 次に、リスクコミュニケーションについてのお尋ねでございます。
 食品のリスクを正しく理解し、食品の安全性に対する信頼を取り戻すためには、行政や専門家、消費者、事業者も参加し、それぞれが持つ情報について意見交換し、情報を共有するリスクコミュニケーションが重要になってまいります。
 東京都消費生活条例においては、消費者の権利として、必要な情報を速やかに提供される権利を規定しておりますが、これに基づきまして、都は、食品の安全性に関する情報の提供や消費生活対策審議会などの場を活用した都民意見の反映に努めてまいりました。
 今後とも、さまざまな機会を通じて、食品のリスクコミュニケーションの充実に努めてまいります。
 最後に、東京都における食品安全確保対策に係る基本方針についてのお尋ねでございます。
 国は、昨年来の食に関するさまざまな事件を踏まえ、法制度や組織体制の見直しを進めております。
 都といたしましては、現在、基本方針の見直しに取り組んでおりますが、今後とも、国の動向を見据えながら、食品の安全、安心対策の充実に向け、適切に対処してまいります。

○議長(三田敏哉君) この際、議事の都合により、おおむね二十分間休憩いたします。
   午後三時三十九分休憩