平成十四年東京都議会会議録第十三号

○副議長(橋本辰二郎君) 三十九番中嶋義雄君。
   〔三十九番中嶋義雄君登壇〕

○三十九番(中嶋義雄君) 最初に、母子保健院の廃止について質問をいたしたいと思います。
 本題の前に、一言申し上げます。
 母子保健院については、ある団体が大量のチラシを配り、そこには、投書のあて先として、複数の議員の名前や住所が無断で記載されておりました。議員への投書自体は忌避すべきものではありませんが、何の断りもなく人の名前や住所を掲載したチラシを不特定多数に大量に配るやり方は、実に失礼であり、印象はいささか陰湿であります。新宿区でも同様の問題がありましたが、このような体質は改めるべきであると、まず申し上げたいと思います。
 さて、母子保健院の廃止条例をめぐっては、さまざまな動きがございました。既存施設の廃止が利用者や周辺住民に不安感を与えるのは、ある意味で当然でございます。しかし、そのような不安感に乗じ、あるいはそれをあおるような運動を展開することは、誠実な政治的態度とはいえません。また、情緒的な反応のみに依存して事の是非を論じるのは、政策的合理性を欠いた議論であり、余りにも無責任でございます。重要なことは、地域における小児医療をどのように確保するのかを厳密に議論することであります。
 一つは、昨日の代表質問 でも指摘したとおり、国立成育医療センターの果たす役割であります。
 先日、四人の我が党議員で同センターを訪れました。特に救急診療科が印象的でありました。よく一般の病院には夜間受付とか、あるいは時間外受付等の掲示がありますが、ここにはございません。救急診療科が一年三百六十五日二十四時間体制で受け付けを行うのは当然という考え方に基づいて、常時、受付窓口を開いているそうでございます。このドクターの説明には心から感服いたしました。
 さらに、診療室には、消防署から届けられたという地図が張ってあり、それは、世田谷、狛江、杉並南部の消防署の管轄図でございました。この救急診療科を訪れる人は、現在、一日平均七十人、そのほとんどが世田谷区とその周辺部の都民であるそうでございます。
 一方、世田谷区は、母子保健院に隣接する梅丘の都有地に、仮称子ども準夜初期救急医療施設を整備し、小児の初期救急に対応することを決定いたしました。したがって、国立成育医療センターと世田谷区が新たに設置する小児医療施設の連携により、母子保健院を上回る医療サービス提供体制を、都も関与して整備すべきでございます。所見を求めます。
 次に、世田谷区が初期救急医療施設を整備し運用を開始するのは、平成十五年三月末であり、その前の本年十二月に母子保健院を廃止する計画であります。しかし、これでは、区の施設が開設するまで約三カ月間の空白が生じます。この空白を埋める必要があり、区並びに医師会、成育医療センターとの綿密な協議、連携が不可欠でございます。都の見解を求めます。
 次に、国立成育医療センターとの今後の連携のあり方が問題であります。同センターはあくまで国のナショナルセンターではありますが、実態として地域小児医療に対応していることは、再三指摘してきたとおりであります。そこで今後は、国のナショナルセンターとしての役割を果たしつつ、都の事業である周産期医療ネットワークや、休日・全夜間診療事業などに参画し、その診療機能をより有効に活用することが重要であります。都の医療構想との連携に関して、国立成育医療センターに具体的な働きかけを行い、可能ならば継続的に協議を行う場を設けるべきでありますが、所見はいかがでありましょうか。
 付随して、母子保健院が担ってきた高度医療、とりわけ新生児の生死にかかわるNICUの確保、そして、専門医が乏しく、母子保健院に多くを依存してきた夜尿症やアレルギー等の治療についても、具体的な確保策を明示すべきであります。見解を伺います。
 続いて、若年雇用の促進、つまり若年無業者対策について質問いたします。
 文部科学省の調査では、平成十四年春の大卒者の二二%、約四人に一人が進学も就職もしない無業者であり、高卒でも無業者が一〇%を超え、この傾向は年々拡大いたしております。また、新卒で就職しても三年以内に離職する割合が、高卒で何と四六・七%、大卒でも三二%に上っております。近い将来、日本人の二人に一人は無業者になるという深刻な事態を予測する研究者まで存在いたします。
 こうした無業者の増大は、生産性の低下や社会保障制度の崩壊などを容易に予測させ、幾分誇張していえば、明らかに日本社会崩壊の危機、あるいはその兆しの一つであるといえます。
 さらに、無業者の増大を放置することは、社会が蓄積してきた過去の遺産を食いつぶしながら今を生きていることにほかならず、将来世代への責任放棄でもあります。したがって、この問題に正面から対峙する必要がございます。しかし、きちんと職業を持って働くべきであるという大人に対して、最近の若者は、なぜ働かなくてはいけないのかと当然のごとく反問してまいります。この問いに、何人の大人が説得力を持って答えることができるのか、疑問がございます。
 二十代前半ならば、フリーターでもまだ許されます。しかし、その間にジョブトレーニングなどの機会がなければ、三十歳前後になって改めて就職を目指しても、仕事に対応する能力に欠ける、あるいは必要なスキルが身についていないなどの理由で、希望する職業にはなかなかつけません。その結果、若者が意欲を失ってドロップアウトしてしまう可能性が増大しつつあります。手おくれにならないうちに対策を講じなくてはなりません。
 都内の若年無業者の実態を把握し、その原因、影響を調査した上で、対策の確立に取り組む必要があります。若年無業者の増大とその就業支援について、まず知事の、若者にも大変信任の厚い知事の所見をまず伺いたいと思います。
 米国では労働力投資法あるいは学校から職業への機会法等による対策、ドイツでは有名なデュアルシステムの活用、デンマークでは十八カ月の学校・企業内訓練などを行っており、イギリス、フランスでも若年雇用に力を入れております。
 中でも注目すべきは、年少の時代から職業観を身につけるためにアメリカで行われているジョブシャドーイングであり、その東京版をぜひとも試みるべきであります。これは、年に一度、少年たちが職業を持つ大人と影のように行動をともにして、身をもって仕事の内容、社会的意味、手ごたえなどをつかむチャンスを提供する事業であり、東京の学校でもぜひとも実施すべきであります。見解はいかがでしょうか。
 二つ目は、我が党の提案で導入されたキャリアカウンセラーの活用でございます。
 厚生労働省は、今後五年間で五万人のキャリアカウンセラーを配置する計画ですが、都も具体的な活用を検討すべきであります。一般の離職者対策とともに、高校や大学への派遣、これからキャリアを積みたいと考えている人への対応、さらに、卒業直後の離職者対策への活用、フリーター対策、ジョブトレーニングの支援などを検討し、実施すべきであります。見解を求めます。
 続いて、いわゆるQ熱対策について質問いたします。
 先月十三日、一般紙が、慢性Q熱と診断、三歳児が死亡との見出しで、一昨年三月に高知医科大学で感染症Q熱と診断された三歳男児が死亡したと報じ、関係者の注目を集めました。聞きなれない病気ではありますが、本年三月には、NHKの「クローズアップ現代」でも「謎のQ熱 広がるペットからの感染症」と題する番組が放映されました。そこでは、原因は、コクシエラ菌という犬や猫の一割が保有している細菌であり、日本においても十年前から存在が確認され、ペットなどを介しての感染者が相当数推定されると指摘しておりました。今のところレアケースではありますが、牛や羊の未殺菌の乳を摂取して感染することもあると聞いております。感染すると、風邪やインフルエンザに似た症状があらわれ、肺炎、気管支炎などを引き起こします。最近では、慢性的な体調不良を訴える人から、調べてみたらQ熱の病原体が検出される事例も報告されました。
 国立感染症研究所によると、Q熱の発生件数は、昨年で四十件、ことしに入ってからは三十三件が確認されています。都内では、それまでゼロ件だった報告が、十三年に十九件、ことしは二十八件に上っております。したがって、今後、さらに汚染、感染例が拡大する可能性があります。死亡例が報告された以上、都の試験研究機関などの能力を生かして可能な対策を講じるのは当然であります。
 そこで、食品感染の問題を初め、ペットへの感染、体調不良者の再検査、医療機関への意識啓発など、今後必要な措置を検討し、実施すべきであります。答弁を求めたいと思います。
 最後に、これは要望にとどめますが、二点申し上げたいと思います。
 都立梅ケ丘病院移転跡地の問題が第一点であります。
 世田谷区梅丘は、福祉のまちづくりのモデル地域であり、世田谷区は、総合福祉センターに隣接して、先ほど申し上げた小児医療施設を設置いたします。また、区立梅丘中学校は、隣接の都立光明養護学校と交流事業を行い、相互の生徒の教育によく活用いたしております。こうした地域の特性を生かして、梅ケ丘病院跡地は活用すべきであります。
 また、世田谷区にはこのほか、都立明正高校跡地の問題があります。これも東京都は、区との綿密な協議を重ね、有効活用の方途を探っていただきたいと思います。
 もう一点は、先ほども触れられましたが、本年三月の予算委員会で、我々公明党は、都営住宅と木造住宅密集地帯の整備を組み合わせた事業を提案いたしました。都は三カ所で計画をしておりますが、ぜひとも早期具体化を求めたいと思います。
 以上二点を要望して、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 中嶋義雄議員の一般質問にお答えいたします。
 若年無業者の増大と若年者の就業支援についてでありますが、一つの自己主張として、自分を生かして社会のために尽くしたいと、そういう意欲を持って仕事につきたいと思いながら、また、それによって社会に貢献したいと思っている若者が仕事につけないということは、本人にとっても大変不幸なことであると同時に、社会にとっても大きな大きな損失であります。
 ただ、また一方、最近のこの若者の価値観の変化というんでしょうか、それによって、継続性のある仕事というものをあえて選ばない、フリーターで過ごすという――ご指摘のように、これがある年齢に達すれば、非常に不安な人生になってくると思うんですけれども、それでもなお若年のころはそういう道を選ぶという人もふえてきているわけであります。これもまた一つの社会問題であると思いますが、いずれにしろ、若年者の就業については、いろんなケースがあると思いますし、いろんな価値観もあると思いますが、いずれにしろ、各方面からの意見を聞きながら、安定した就労の確保が意欲のある方のためには図られるように、就業相談や技能の習得など、総合的な支援に努めていきたいと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) ジョブシャドーイングについてのお尋ねでございますが、児童生徒が、職場におけます体験学習を通して、望ましい職業観、勤労観を育成することは極めて重要でございます。
 現在、小中学校では、総合的な学習の時間や特別活動、トライ>チャレンジふれあい月間などにおきまして、地域の商店街や保育園などで職場体験を行っておりますし、また、都立高校等におきましては、工場や福祉施設などでインターンシップを実施しております。これらの中には、職場で個別に指導を受けながら行動をともにする、お話のような形態のものも一部はございます。
 ご提案のジョブシャドーイングにつきましては、これからの課題として検討してまいります。
   〔病院経営本部長櫻井巖君登壇〕

○病院経営本部長(櫻井巖君) 母子保健に関する四点のご質問をいただきました。お答え申し上げます。
 最初に、世田谷区における小児医療サービス提供体制の整備についてであります。
 区内に開設されました国立成育医療センターの救急患者の実績を見ますと、本年七月において一日当たり約七十五人、休日・夜間では四十四人となっており、母子保健院の実績の約九倍に上っております。
 また、世田谷区は、小児初期救急医療施設を整備し、都が、都有地の貸し付け、施設の整備及び運営に対する補助等、必要な支援を行っていくこととしています。この施設により、小児救急患者の大半を占める初期救急患者への対応が充実していくものと期待しています。
 また、区の施設と国立成育医療センター、都立広尾病院等、近隣の小児二次救急医療施設との密接な連携を図るなど、都としても区と協力し、地域住民が安心できる小児医療の提供体制を構築してまいります。
 次に、世田谷区の施設が開設されるまでの三カ月間の対応についてであります。
 区は現在、地元医師会の協力を得て、土曜、休日における小児の夜間診療事業を実施しています。さらに、世田谷区が属する区西南部二次保健医療圏においては、三百六十五日二十四時間、小児科の専門医による診療が可能な国立成育医療センターや都立広尾病院など四つの病院があります。都立広尾病院を初め、これらの医療機関が区や医師会との密接な連携をとることにより、地域における小児医療のニーズに十分対応できるものと認識しており、都としても引き続き連携の強化に取り組んでまいります。
 次に、医療連携に関する国立成育医療センターへの働きかけについてであります。
 都は、同センターの開設前から、国等に対しまして、周産期医療ネットワークや休日・全夜間診療事業など、都の医療提供体制への参加協力要請を精力的に行い、実態的に地域医療への協力をいただいているところであります。同センターに対しましては、引き続き都の事業への参画を要請するとともに、区の参加も得て、世田谷区における地域医療の実態等に関する情報交換や分析を通じ、住民の方々が安心できる相互の協力関係の構築などについて話し合う場の設定を、ご指摘の趣旨も踏まえまして、積極的に働きかけてまいります。
 最後に、NICUなどの高度医療や専門医療の確保についてであります。
 母子保健院のNICU三床につきましては、都立大塚病院に移転し、医療機能の集約化による充実を図ってまいります。また、母子保健院が有している専門外来機能のうち、夜尿症外来につきましては母子保健院に、アレルギー外来については広尾病院に機能移転する予定であります。
 このように、母子保健院が提供してきた高度医療や専門医療については、都立病院の再編整備の一環として、全都民を対象とした都立病院の担うべき役割としてさらに充実してまいります。
 なお、国立成育医療センターにおきましては、NICU十二床や、全国でも数少ない小児ICU二十床を備えており、高度かつ専門的な医療が十分に確保されていると考えております。
   〔産業労働局長有手勉君登壇〕

○産業労働局長(有手勉君) キャリアカウンセラーの活用についてのご質問にお答えいたします。
 キャリアカウンセラーは、労働者個人の主体的なキャリア形成や、求人と求職の効果的なマッチングを支援する役割が期待されており、国は今年度から本格的に養成及び活用を推進することとしております。
 都におきましては、昨年度から、いわゆるフリーターを対象としたヤングワーカーズフォーラムにおいて、キャリアカウンセラーを活用して、自己発見、職業選択に向けたカウンセリングを実施しておりまして、本年度も実施を予定しております。
 今後、こうした事業における効果等を検証しつつ、若年者対策におけるさらなる活用の可能性について検討してまいります。
   〔健康局長長尾至浩君登壇〕

○健康局長(長尾至浩君) 動物由来感染症の一つであるQ熱に関する三点の質問にお答え申し上げます。
 Q熱は、平成十一年四月に施行されました、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律において、全症例を把握すべき感染症として位置づけられ、診断した医師の届け出が定められております。都では、これに基づく感染症発生動向調査の中で、患者の発生状況を把握しており、これらの情報については、適宜医療機関等に提供しております。
 また、Q熱を含む各種感染症の症状や診断、治療法等をまとめた、東京都感染症マニュアルを作成するなど、広く医療機関等への情報提供に努めております。
 次に、犬や猫などペットからの感染状況に係る調査についてでございますが、都は平成十二年度から、飼育動物等に関するQ熱病原体の保有状況実態調査を実施しております。十二年度は犬、ウサギ、鶏など百七検体を、十三年度には犬、猫、インコなど百四十七検体を調査いたしましたが、いずれもQ熱病原体は検出されておりません。十四年度は二百十検体を調査中であり、今後とも調査を継続してまいります。
 次に、Q熱の医療機関へのさらなる意識啓発、情報提供や飼い主への普及啓発についてでございますが、都は今後とも、感染症発生動向調査の情報及びQ熱を含む感染症に関する最新の情報を医療機関等に迅速に提供してまいります。
 また、飼い主がペットなどと仲よく暮らすためには、飼い方に関する正しい知識を持っていただくことが重要でございます。このため、最新の知識と予防策を盛り込んだホームページや、Q熱を含む動物由来感染症のパンフレット及び各種講習会を通じまして、都民が不安を来さぬよう普及啓発に努めてまいります。

○副議長(橋本辰二郎君) 訂正があります。
 病院経営本部長櫻井巖君。
   〔病院経営本部長櫻井巖君登壇〕

○病院経営本部長(櫻井巖君) 先ほど、母子保健院の有している専門外来機能のうち、夜尿症外来について、一部訂正をさせていただきます。
 夜尿症外来につきましては、都立大塚病院に機能移転する予定でございます。おわびし、訂正させていただきます。

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