平成十四年東京都議会会議録第十二号

   午後六時四十分開議

○議長(三田敏哉君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 八十一番吉田信夫君。
   〔八十一番吉田信夫君登壇〕

○八十一番(吉田信夫君) 日本共産党を代表して質問します。
 九月十七日の日朝首脳会談で、日朝共同宣言が交わされ、国交正常化交渉の再開が合意されました。北朝鮮が、国際社会におけるルールについて、国際的常識が通用しない国だけに、対話のルートを開き、交渉を通じて両国の間にあるさまざまな問題の解決を図ることが何よりも求められていました。今回の合意は、その道を開くものとして重要な前進です。
 我が党は、一九九九年一月の国会質問で、日朝両国間の対話のルートを開き、ミサイル、拉致問題、過去の植民地支配の清算などの問題を交渉によって解決していく道を進むよう提案した党として、心から歓迎するものです。国民の多くの皆さんも今回の合意を支持し、国際的にも高い評価を受けています。
 今回の大きな問題に、北朝鮮が、日本人拉致問題など国際的な無法行為をきちんとただすかどうかがありました。その点で、北朝鮮が拉致問題を初めて認め、謝罪したことは、重要な一歩です。しかし、安否が気遣われていた被害者のうち、既に八名の方が亡くなっていたという痛ましい事実が明らかにされたことは、余りにも衝撃的でした。
 我が党は、拉致という許すことのできない犯罪が行われたことに対し、厳しく抗議するとともに、帰国を果たせず亡くなった方々とそのご家族に、心からお悔やみを申し上げます。
 発表されたものがすべてなのか、事実に相違ないのか、拉致問題を犯した責任者はだれで、被害を受けた方々がどのような扱いを受けたのかなど、真相の解明はこれからです。
 我が党は、国交正常化交渉によって、日朝間の懸案が道理ある形で解決され、日朝間の関係が敵対から協調に転換することを強く願うものです。そして、この中でこそ、拉致問題の真相解明と責任者の厳正な処罰、被害者への謝罪と補償などの解決が図られることを強調するものです。
 本都議会は、本日、北朝鮮による日本人拉致問題に関する意見書を採択しました。自民党などの意見書案は、政府が北朝鮮との国交正常化交渉の前に全力を挙げて拉致問題の全容を解明することを求めるものです。この文案では、小泉首相の、正常化交渉の中で拉致問題の全容を解明するという方針とは異なり、政府の手を縛るものです。そればかりか、拉致問題の全容を解明することを正常化交渉の前提にすることになれば、話し合いそのものをストップさせることになり、結果的には問題の解決の道をふさぐことになりかねません。
 我が党は、この立場から、議会運営委員会理事会において、正常化交渉の前ではなく、正常化交渉の中でと文案の修正を提案し、全会一致で採択するよう主張しました。残念ながらこれは不調となり、我が党の修正案を本会議に上程するに至らなかったことは極めて遺憾です。
 我が党は、全力を挙げて拉致問題の全容を解明することは当然必要なことであるという大局の立場に立って、今回の意見書に賛成しました。
 今後とも、小泉政権が、国交正常化交渉の中で、拉致問題の全容の解明を初め、さまざまな懸案事項の解決を図るという道を切り開くことを心から望むとともに、国政上の基本問題では小泉内閣と一番対決している党ですが、国益にかかわるこの問題については、協力を惜しまないことを申し述べておきます。
 長期不況と大企業のリストラの嵐のもとで、都民の暮らしと営業はますます苦しさを増しています。都内製造業は、この十年間に北海道分の事業所と従業員が消滅、都内勤労者の消費支出は前年を二%も下回りました。失業者も六%を超え、生活保護受給者は十五万人を超え、この十年間に一・七倍も増加しました。
 加えて、小泉政権は、この十月からの医療費改悪を初め、年金支給額の削減、介護保険料引き上げなど三兆円を超える負担を国民に押しつけ、消費を一層冷え込ませる政策を推し進めようとしています。
 このようなときに、東京都に求められているのは、都民の暮らしと営業を守るために全力を尽くすことではありませんか。ところが、石原知事が福祉、医療、教育の相次ぐ切り捨てを一層大規模に進めようとしていることに、都民の怒りが広がっています。
 医療の問題では、今定例会に母子保健院の廃止条例を提案し、さらに今後、都立病院を半分に減らそうとしています。
 母子保健院は、小児科、産科と福祉施設である乳児院を併設しており、妊娠から出産、子育て支援まで総合的に取り組む母と子の安心センターとして、都民から厚い信頼を受けています。そして、三百六十五日二十四時間、いつでも救急の子どもを受け入れて、世田谷区民はもちろん、杉並区を初め周辺住民にとってもかけがえのない役割を果たしています。
 だからこそ、存続を求める署名は九万を超え、母親が安心して産み育てられる条件整備が少子化を食いとめる必要条件です。このようなときに、母子保健院のような施設をなくさないでください。子どもの救急医療機関はふやすべきで、減らすなんて絶対にあってはならないと思いますなどの声が続々と寄せられているのです。
 東京都は、国立成育医療センターがあるから大丈夫だといってきましたが、それだけでは不十分だから、世田谷区は小児初期救急医療施設の開設を提案しているのではありませんか。しかし、この施設も、夜七時から十時までの初期対応しかできず、入院ベッドもありません。母子保健院のかわりになるものではないのです。
 深夜に突発的な病気を発症することが多く、急変しやすい乳幼児にとって、いつでも対応できて入院ができる小児救急医療機関が身近な地域にあることは欠かせません。不採算で小児科や産科が減少し、夜間の診療から撤退しているときに、都立病院がその役割を担うのは当然のことです。母子保健院の廃止は、小さなとうとい命の一つ一つが守られるかどうかに直結した問題であります。
 知事は所信表明で、夜間突然の発病にも対応できる小児救急医療機関の確保は切実な願いであり、三百六十五日二十四時間の医療を実現していくと発言しました。それなら、母子保健院の廃止は全く逆行ではありませんか。廃止条例は撤回し、都立病院と民間医療機関、区市町村との連携も含めた小児医療、小児救急の総合的な拡充策の検討をまず行うよう提案するものです。見解を伺います。
 福祉の問題では、民間福祉施設への補助の抜本見直しと都立福祉施設からの撤退を、福祉改革だといって進めようとしています。これは全国で有数の水準を築いてきた東京の福祉を支える仕組みを根底から覆すものです。
 例えば保育園の場合、今まで東京都は、公立も私立も同じように質の高い保育ができるように、低過ぎる国基準に加えて、保育士をふやしたり、ゼロ歳児保育をするときは保健師を配置するなどの運営費補助や人件費補助を行ってきました。これは、保育園が、人格形成に大きな影響を及ぼす乳幼児期の生活と成長を保障する役割を発揮できるようにするためでした。
 ところが、福祉局が設置した委員会は、私立保育園を初め民間福祉施設への人件費補助の廃止とその他の都独自補助の全面見直しを提言しました。そして東京都は、この問題提起を受けとめて、検討していくという方針を表明したのであります。
 多くの都民から、保育の充実が大事なときに、なくてはならない補助を削らないでという声が上がったのは当然のことです。
 私立保育園連盟が、人件費を減らせば児童の処遇に多大な影響を及ぼすことは明らかであるとして、人件費補助の廃止に反対を表明したのを初め、現在の保育、福祉の水準の維持を求める声が大きく広がっています。
 東京都市長会も、福祉サービスの維持向上を図る視点からは、民間福祉施設への適切な配慮が必要だとの見解を明らかにしました。知事はこうした声をどう受けとめているのですか。
 知事は所信表明で、福祉に対する都の役割を、区市町村や民間事業者を支援していくことに比重を移すといいましたが、実際にやろうとしていることは全く逆で、私立保育園など民間福祉施設への支援の大後退ではありませんか。民間事業者を支援するというなら、人件費補助の廃止や運営費補助の削減はしないことを明言すべきであります。お答えください。
 しかも、知事は週刊誌で、社会福祉法人なんて、もう東京みたいな大都市では役立たなくなってきたと発言しました。しかし、ゼロ歳児保育や延長保育、子育て支援について、社会福祉法人が運営する私立保育園は率先して取り組んでいます。今、東京都が最も力を入れている知的障害者や痴呆性高齢者のグループホームに、全国に先駆けて取り組んだのは東京の社会福祉法人ではありませんか。このような努力を無視して、役立たなくなってきたなどというのは、暴論というほかありません。
 東京都は、一貫して民間社会福祉法人と協力して東京の福祉を前進させてきました。都の支援があればこそ、社会福祉法人は思い切って先進的事業に取り組み、新しいサービスを切り開くことができたのです。実際に東京の保育園の四割、児童養護施設の八割は、社会福祉法人を中心とした民間福祉施設です。安定的、継続的にサービスを確保することや、弱者への配慮が必要な福祉事業にとって、営利の追求ではなく、公益性の立場から福祉事業に取り組む社会福祉法人の役割は、東京においても今後とも重要なものです。
 知事、社会福祉法人の役割を否定する発言は撤回し、社会福祉法人と協力して東京の福祉を前進させる姿勢に立つよう求めるものです。
 知事は、これからの福祉は、多くの事業者が競い合いの中から多様なサービスを提供し、利用者は自分に最も合ったサービスを選択できる仕組みとすべきだと述べています。いわばそのモデル事業として導入されたのが、営利企業による経営を基本とした認証保育所でした。そして、認可保育所はわきに追いやり、認証保育所を中心にしようという方向を強めています。これはとんでもないことです。営利企業による保育が中心のアメリカでは、払える保育料の額で、保育サービスの質や量が左右される状況が生まれています。
 認証保育所の状況はどうでしょうか。我が党は、現在五十三カ所の認証保育所A型のうち四十一カ所を訪問し、お話を伺いました。与えられた条件の中で頑張っている施設もたくさんありました。しかし、何よりも保育料が高いことが大きな問題点です。一日十一時間、週に六日利用した場合の保育料の月額を調べましたが、ゼロ歳児の場合に、一番安いところが四万三千円で、高いところは十二万円、このほか入会金もかかります。ちなみに、杉並区の認可保育園利用者の平均保育料は二万三百円です。まさに、高い保育料を払える人でないと利用できないという実態が浮き彫りになりました。
 そして、そのほかでも、一つは、施設の狭さの問題があります。都は、国基準に沿ったものだといいますが、施設整備の国基準が、子どもたちの成長、発達を保障することから見れば、いかに不十分なものかが浮き彫りになりました。
 二つに、保育士の賃金や働く条件が低いことです。正規職員でも年収で二百万前後、認可保育所と比べて比率が高い契約社員やパート職員の多くは、時給八百円から九百円程度となっています。これでは、保育の質を高めるために大事な人材の確保、定着に大きな支障があることは明らかです。
 三つに、保育内容では、認可保育園では義務づけられている園児一人一人に対する指導計画を持たず、実態としては、ただ預かるだけというところもありました。
 今回の調査で、保育の質を高めたいと真剣に努力している施設では、保育園は本来認可でやる仕事、しかし、圧倒的に足りないので、認証保育所は補完する役割がある、認証保育所の形でよいとは思っていないなど、その限界をはっきり指摘し、認可保育所の役割を率直に評価する意見が少なからず出されたことも印象的でした。
 以上のことを見れば、若いファミリー世帯にとって、認証保育所は、安心して預けられるという条件では、やはり認可保育所に比べて多くの不十分さがあることは否めません。認証保育所は、あくまでも認可保育所の不足を補完する役割であって、これを保育の中心にすべきでないと考えますが、知事の見解を伺います。
 都民の保育への要求に真にこたえるには、安心できる質の高い認可保育所の新設や増改築を基本に据えて取り組む姿勢を明確にし、認可保育所でのゼロ歳児保育や延長保育の充実ができるよう、あらゆる支援を強めることが必要だと考えますが、お答えください。
 都立福祉施設からの撤退も重大です。特別養護老人ホームだけで二万五千人が入所待ちをしているのを初め、まだまだ施設が不足しているのに、都は、都立福祉施設の廃止や民間移譲を全面的に行う方針を打ち出しました。
 私は先日、多摩療護園を訪問しましたが、最重度の障害者の入所施設で、大半の人が電動車いすやストレッチャーであり、介助なしに生活できない状態です。しかし、施設では、一人一人の入居者の要望に沿って、個別に買い物などの外出ができるよう職員が対応するなど、できる限り地域の普通の暮らしに近づけたい、ノーマライゼーションの理念を実現したいという努力を職員が一丸となって続けていることに感動しました。現場の方々は、入居者二・五人に職員一人という国の配置基準を大幅に上回る、入居者一人に職員一人という都立基準の職員配置が保障されているからこそできることだと、強く訴えていました。
 知事は簡単に、東京都は直接サービスの提供から手を引くといいますが、重度障害者施設のように、対象となる人数は少なく、採算もとれないために、民間や区市町村任せにすることができず、人間としての生活と命を守るため、どうしても都が責任を持たなければならない施設があるのではないですか。しかも、都立施設の民間移譲とは、民間施設への補助を削減する中でのものですから、現行の福祉水準の大幅な低下を招くことは明らかであります。知事、どうですか。
 結局、今、知事が進めている福祉改革のねらいは、福祉を市場原理の中に投げ込むこと、民間福祉施設への補助四百億円、都立施設の運営費三百七十億円を極力削りたいということを指摘せざるを得ません。
 教育も、石原都政の切り捨てにさらされています。
 来年度の高校受験を目前に、都内の受験生に深刻な不安が広がっています。それは、改革の名による都立高校再編の結果、来年の受験の様相が一変し、高校進学希望者は、これまで以上に厳しい受験競争を強いられることになるからです。
 都教委が十月に決定を予定している都立高校改革推進計画によれば、二〇一〇年までに、全日制高校が二十八校削減され、夜間定時制も半分に減らされることになります。その一方で、進学重点校や中高一貫校を大幅にふやして、すべての高校を進学指導重点校、中堅校、教育課題校などに序列化することで、進学率や応募倍率などの目標で競争させようというものです。そして、この方向に沿って特色を出した学校には、人、物、金の配分を優遇しようというのです。
 これとあわせて実施される都立高校の学区全廃も、その影響が憂慮されています。
 都知事選挙の際の石原知事の確認団体の選挙政策には、公立中学、高校の学区制は、学校間に一種の競争原理を持ち込むためにも廃止されるべきとありましたが、まさに東京の教育はそのとおりになろうとしています。これまでのグループ選抜であれば、志望校の受験に失敗しても、いずれかの学区内の都立高校に安心して進学できました。しかし、今は、子どもにとっては、学区なしに東京じゅうの受験生と争う単独選抜試験で、志望校に落ちたら行くところがないという、失敗の許されない一発勝負を強いられるのです。
 このような受験競争中心の日本の教育について、国連の、経済、社会、文化的権利に関する委員会は、過度の競争で子どもを苦しめ、自殺にまで追い込んでいると指摘しています。ところが、知事は、この是正に取り組むのではなく、子どもたちをさらなる受験競争に追い込もうとしているではありませんか。多くの生徒や父母の願いにこたえて、都立高校の学区廃止などのやり方をやめ、希望するどの子も都立高校に入れるようなシステムをこそつくるべきだと考えますが、答弁を求めます。
 また、知事は、同じ選挙政策で、水準の低い都立高校は思い切って削減し、民間の教育機関に移譲して、独自の個性的な教育機関に変貌させるともいっています。本来、希望する子どもたちに高校教育を保障するため最大限努力すべき自治体が、学校を、水準が低いからなどといって切り売りするとはどういうことですか。知事は、何を基準に水準を判断するというのですか。知事のいう水準以下の高校にしか入れない子どもは、都立高校から排除し、行き場がなくてもよいということですか。はっきりお答えください。
 都立高校を十年間で一割以上削減するという都の推進計画には、都民からの批判が集中しています。とりわけ、今回、夜間定時制高校を三十三校廃校し、将来には全廃するという問題は重大です。現実に、夜間の生徒はバイトも含め六割以上が働いており、少人数教育の中で自分の成長の場を見出している生徒、不登校経験などの生徒にとって、かけがえのない存在となっているのです。
 廃止が計画されているある高校の生徒会長は、自分のペースで学べるのがよい、新しい三部制では、通学時間、学級人数、施設の利用、働く条件、先生との近さなど、定時制のメリットがない、自分たちならやめてしまうだろうといっています。さまざまなハンディを抱える若者にとって、定時制高校は、そこにしかない教育の場です。東京の高校教育の重要な財産である夜間定時制の廃止計画は撤回すべきです。知事の所見を伺います。
 統廃合計画の中身もひどいが、やり方も全くひどいものです。これまで都は、学校現場や都民からどんなに反対があっても、問答無用で強行してきました。都教委は、トップダウンでの上からの押しつけをやめるべきです。今回も、廃止対象校を初めPTA連合会などから、性急な決定を避け、慎重な議論を求める声が広がっています。北、板橋、文京区などの議会を初め二十三区の文教委員長会でも、同趣旨の要望や意見書が採択されました。推進計画の十月決定は取り下げ、これまでの統廃合計画未実施分も含めて、時間をかけて広く都民的な議論を尽くすべきと考えますが、見解を求めます。
 石原知事が推し進めようとしている都市再生についても、都民生活と都政に重大な支障を与えるものになりかねないという警告が発せられています。
 その第一は、ヒートアイランドなど環境破壊の問題です。
 我が党が第二回定例会で指摘した、ヒートアイランド現象の深刻化と対策の緊急性は、この夏の異常気象として改めて証明されました。この夏、最高気温が三十度を超えた真夏日は、年平均の三十八日を十五日も上回る五十三日に及び、七、八月の間に熱中症で搬送された都民は、過去最多の六百五十五人に達しました。加えて集中豪雨も増加しましたが、これらの事実は、バブル崩壊後も続く都市開発によって、ヒートアイランド現象が一層激しさを増していることを示しています。
 今定例会で石原知事は、ヒートアイランド対策は重要な都市政策との認識を示し、来年早々に今後の取り組み方針を策定したいと述べました。我が党がかねてから提案してきたように、東京都がヒートアイランド対策に踏み出すことは重要です。しかし、問題は、大量の排熱や二酸化炭素を排出する超高層ビルや大型道路などの建設が、ヒートアイランドの解消と両立できるのかという問題です。
 我が党は、石原知事が進めようとしている都市再生によって、どれだけ二酸化炭素が発生するのか、今回、改めて試算したところ、二十三区内で現在計画中もしくは開発中のビルの延べ床面積は、七十五地区、千四ヘクタールに及び、そこから新たに排出される二酸化炭素百十万トンによって、二十三区の二酸化炭素が六・七%も押し上げられることが推定されます。これでは、二〇一〇年までに、一九九〇年比で六%削減という東京都の目標達成は、到底及びもつかないではありませんか。しかも、自動車発生交通量も五・六%も押し上げられ、ビルや道路から排出される熱量も激増することは明らかです。
 環境省が九月に発表した報告書は、ヒートアイランド現象の要因となる排熱の多くが都心三区や副都心などの再開発地域に集中し、しかも、空調機器や自動車によるものがその半分を占めていること、さらに、これらのビルで、ヒートアイランド対策として屋上緑化や壁面緑化などを講じた場合でも、その効果は、二十三区で気温を〇・二度下げるにすぎないことを明らかにしました。この報告書が示したものは、個別の対策も重要ですが、その一方で、都市再生で大規模な超高層ビルを林立させるというのであれば、焼け石に水にすぎなくなるということです。
 知事、であるならば、何よりもまず、都市再生による開発が東京の環境にどのような影響を与えることになるのか、温室効果ガスがどれだけ増大し、気温がどれだけ上昇するのか、そして、そのことが都民生活と地球環境にどのような影響を及ぼすのかについて科学的な予測を行い、都民に示すべきではありませんか。見解を求めます。
 同時に、都市再生が経済に与える影響にも、疑問と心配の声が上げられています。
 都内のオフィスビルは、二〇〇三年問題と騒がれているように、来年だけで、バブル期の二倍のオフィス床が供給されることから、供給過剰による、空き室率の上昇と賃貸料の大幅な値下がりが予想されています。その上、都市再生によって膨大なオフィスビルが供給されることになれば、本格的なビル不況が到来することは避けられません。
 知事は十三日の定例記者会見で、都市再生の質問に答えて、オフィス需要について、だれにも予測できない、そこにビルを建てたから人が入ってくるというわけでもないと発言しました。これは、都市再生を推進した当事者として、余りに無責任な態度とは思いませんか。知事の見解を伺います。
 本来、都市再生というなら、総合的な都市政策の視点からとらえるべきという、都市政策の専門家の指摘にもあるように、環境への負荷、居住の確保、地域経済振興、都財政、都民負担など、あらゆる角度からの検討が欠かせません。
 また、景気対策や大企業のための基盤整備としての日本の都市再生に対し、ヨーロッパの都市再生は、都市を人間の生活の場として再生しようというもので、自然環境の再生を初め、まちの歴史的伝統や文化などに着目したものです。今、東京都にとって、ヨーロッパでの都市再生に学ぶことこそ重要だと考えますが、あわせて答弁を求めます。
 都財政への影響も重大です。
 知事は所信表明で、三環状道路の建設について、国が責任を持つべきとした上で、相当の覚悟を持って整備の促進を働きかけていきたいと述べ、あくまでも促進を図っていくことを表明されました。しかし、今日、高速道路を初めとした大型公共事業の見直しは、国民的な大きな流れとなっており、国の道路四公団の見直しの中でも、これらの三環状道路の見直しが検討され、専門家委員の中からも、計画の必要性について疑問が出されています。
 しかも、三環状道路は、残事業費がおおむね九兆円といわれ、この推進は、借金地獄に苦しむ国及び都の財政に重い負担となってのしかかります。既に、三環状道路に関連する都の支出はふえ続けています。我が党がかねてから指摘している、国直轄事業負担金や首都高速道路公団への支出は、石原都政の三年間だけでも、既に二千二百億円を超える規模に膨らんでいるのです。
 しかも、国は、高速道路についても地方負担の導入をいい始めています。例えば、外郭環状道路が圏央道と同じように道路公団と国の分担方式ということになるだけでも、国の直轄事業負担金として都の負担が義務づけられることになります。
 今、東京都がやるべきことは、三環状道路に固執することではなく、大型公共事業を見直す道に踏み出すことではないでしょうか。また、交通渋滞の解消をいうなら、何よりも、都心への交通を激増させる超高層ビル建設のための大型開発を改めるとともに、適正な交通総量規制を行うことではありませんか。知事の所見を伺います。
 全国の地方自治体の中で、住民が主人公の方向への新たな変化と胎動が起き始めています。田中知事が再選を果たした長野県では、脱ダム宣言など、土木型公共事業重視をやめ、福祉・環境重視型の公共事業への転換、福祉の充実や三十人学級などが進められています。徳島県や高知県、鳥取県などでも、これまでの国の公共事業追随の姿勢から抜け出して、乳幼児の医療費の無料化や三十人学級、住民参加の推進など、住民本位の自治体への模索が始められているのです。
 それと比較して、東京都の場合はどうでしょうか。石原知事のもとで進められているのは、大規模開発の推進と、福祉改革の名による、福祉、医療の大後退ではありませんか。都財政も、知事の、借金漬けの都政にノーの公約にもかかわらず、借金はふえ続けています。来年度予算編成に当たっても、財源が大幅に不足するなどとして、都民施策の一律一〇%マイナスシーリングを求め、さらには、財政支出が高い水準にとどまり高どまりしているなどといって、私学助成や区市町村補助の事実上の見直しを迫るなど、あからさまな施策の削減を打ち出すなど、住民の暮らしと福祉を守るという自治体の責務の放棄ともいうべき方向を強めています。
 私は、改めて、東京都が自治体のあるべき姿に立ち戻り、都政の重要施策はもとより、来年度予算の編成に当たっても、何よりも今日の都民の置かれている苦境を直視し、福祉や教育、中小企業など、都民生活を支える上で欠かせない分野の拡充に目を向けることを強く求めて、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 吉田信夫議員の代表質問 にお答えします。
 まず、母子保健院の廃止条例と、小児医療の総合的な拡充策についてでありますが、母子保健院の廃止に当たりましては、地域の小児医療を確保するため、地元世田谷と十分に協議を行い、区の小児初期救急医療への取り組みを都が支援するという形で合意を得ました。
 都における小児医療の充実には引き続き取り組んでいきますが、母子保健院の廃止条例を撤回する考えはございません。
 今後とも、東京発医療改革の核として、都立病院の改革を着実に推進していきます。
 今まであったものがなくなった。住民にとっては非常に不安でしょうけど、それを解消するために十分な説明をこれからも尽くしてまいります。
 次いで、社会福祉法人に関する私の発言についてでありますが、東京のような大都市には、地方にないさまざまな可能性がありまして、福祉の事業者は、民間企業などたくさん存在しております。国は、大都市の状況を踏まえず、全国一律のさまざまな規制を設けて、民間企業等の参入を抑制しておりますが、都においては、利用者本位の福祉を目指して、大都市の特性を生かし、多様な事業主体を参入させ、競争の中で、サービスの質の向上と量の拡大を図りたいと思っております。こうした競争の中、これまでサービス提供の中心を担ってきた社会福祉法人であっても、サービス向上に努力しなければ、利用者に見放され、振り落とされる、これらのことを踏まえたものであります。
 先般も、国の労働局が、社会福祉法人の就労問題について立入検査もいたしました。こういった残業手当も出ないようなていたらく経営というのは、どこかに問題があるわけでありまして、民間ではあり得ないことでもあると思いますし、そういう意味で、いろんな競争の状況を設けて、よりよいサービスというものを福祉を通じて行っていきたいと思っています。
 それから、私の確認団体が私の選挙公約で言及しましたが、当然、学区の廃止は行わなくちゃいけないと思います。そもそも、学校という大事な事業の中で、競争原理が働かないということそのものが面妖でありまして、結果としては、先ほど申しましたが、そういうものに腐心している私学に都立の高校が完全に抜かれた。相対的に水準が下がった。それを立て直すために、現在、東京都の教育委員会では、さまざまな案を講じて、東京全体の教育の水準というものをとにかく上げようということで努力しているわけでありまして、そのためにも、学校がそれぞれの特色性を持って、そこに就学する子どもたちの選択の幅をやはり考える必要があると思います。
 それから、都市のオフィス需要でありますが、オフィスの需要は、必ずしもそこに入るテナントの問題だけではございませんで、そのテナントが、特に、例えば外国の企業などが、新規に設けられた高層ビル、オフィスに来るか来ないかということは、その吸引力であります日本の経済状況というものが左右する、そういう大きな要因もあります。こういう複合的なことは、単細胞というか、発想の一元的な共産党には理解に遠いことかもしれませんが、いずれにしろ、オフィスの需要というものは複合的なものでありまして、それを理解しなければ問題の解決にはならないと思います。
 それから、都市再生についてでありますが、首都東京には、我が国が抱えるさまざまな危機の本質が日本の縮図として先鋭的にあらわれておりまして、例えば、環境汚染など環境の悪化、慢性的な交通渋滞、経済力の低下など、さまざまな問題に直面しております。こうした問題を解決し、東京を魅力のある活力に満ちた都市とすることが、我々が取り組んでいる都市再生の目標であります。
 都市の再生を強力に推進していくためには、道路などの都市基盤の整備とあわせ、拠点となる地域に集中的、戦略的に民間の力を振り向け、これにより、新たな需要を喚起することが不可欠であります。
 こうした取り組みがスピード感を持って展開されていくことが、首都東京、ひいては我が国の再生につながるものと確信しております。
 次いで、自然、伝統、文化などに着目した都市再生についてであるが、こんなことは自明のことでありまして、別に外国のまねをしなくても、東京が江戸以来持っている特性というものを、私たちは十分に生かした形で都市の再生というものを図っていく必要があると思います。
 それから、公共事業についてでありますが、共産党はいつまでも変わらないね、これ。この東京の致命的な問題であります渋滞というのは、だれが引き起こしたか。あなた方が支持した美濃部さんが、全部環状道路を切ったからじゃないか。そのために、みんな都民、四苦八苦しているんですよ。
 来年度予算編成に向けての私の基本姿勢についてでありますが、大きな時代変化の真っただ中にありまして、首都東京の再生や都民サービスの向上を実現するためには、都政の構造改革を実現し、大都市東京にふさわしい独自の施策展開をすることが不可欠であります。私は就任以来、こうした立場に立って都政運営に当たってきました。
 そのため、都市基盤の着実な整備とあわせて、環境、福祉、産業などさまざまな分野で改革を進め、都民の求める施策を実施してまいりました。現在策定を進めている重要施策は、こうした取り組みをさらに積極的に推進しようとするものであります。
 都政を取り巻く環境は極めて厳しゅうございますが、来年度予算編成に向けても、この姿勢を堅持してまいります。
 他の質問については、教育長及び関係局長から発言します。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 教育に関します三点の質問にお答え申し上げます。
 まず、学区廃止や進学校指定についてですが、都教育委員会はこれまでも、価値観が多様化している生徒の能力や個性を伸ばすため、特色ある学校づくりを進めてまいりましたが、そうした中で、学区制の廃止は、生徒の学校選択幅が広がること、また生徒が主体的に学校を選択することにより、都立高校の活性化を図ることができるものでございますことから、本年度の入学者選抜から実施をいたします。
 また、進学指導重点校の指定は、都民の期待にこたえるため、進学対策を重点にした特色ある学校づくりの一環として導入したものでございます。
 今後とも、それぞれの都立高校が創意工夫を凝らし、互いに切磋琢磨して、生徒、保護者に選ばれる学校づくりを進めていくよう、必要な改革を実施してまいります。
 次に、夜間定時制高校についてですが、勤労青少年に後期中等教育の機会を提供するため、主に夜間に設置された定時制課程では、現在、生徒数は減少し、不登校経験のある生徒や高校の中途退学者など、生徒の多様化が進んでおります。こうした生徒の実態に対応し、保護者、生徒の新たなニーズにこたえますとともに、全・定併置校が抱える施設利用や指導時間の確保等の課題解決を図っていくことが強く求められていると認識しております。
 今回の都立高校改革・新配置計画案は、昼夜間定時制独立校を周辺の夜間定時制課程を統合して設置することによりまして、こうした課題に対応していくものでございまして、計画の着実な推進を通して定時制課程の教育条件を改善してまいります。
 最後に、都立高校改革の新実施計画の決定時期についてでございますが、実施計画の策定に当たりましては、改革の対象となる学校の新配置計画案を計画決定に先立って六月に発表し、保護者、同窓会、教職員等の学校関係者や地元自治体等への説明を積極的に行っておりまして、今後とも関係者の理解を得るよう努め、十月には実施計画を決定することとしております。
   〔福祉局長川崎裕康君登壇〕

○福祉局長(川崎裕康君) 福祉改革についてのご質問にお答えいたします。
 まず、福祉サービス提供主体の改革への取り組みに関します各種団体の意見についてでありますが、この件についてさまざまな意見が寄せられていることは承知しています。都が進める福祉改革の目指すものは、行政が広範囲にわたってコントロールする既存の仕組みを根本から改め、利用者本位を徹底する新しいシステムを構築することであります。
 社会福祉法人改革もその一環であり、この理念に沿って、広く都民の視点から利用者本位の新しい福祉の実現を目指し、サービス向上に向けた法人の主体的な自己改革への取り組みを支援する観点に立って進めてまいります。
 次に、民間社会福祉施設サービス推進費補助等についてでございますが、利用者本位の新しい福祉の実現のためには、社会福祉法人も社会経済状況等の変化に対応し、自己改革を実行する必要があり、東京都はこれを支援してまいります。
 この観点に立って、民間社会福祉施設サービス推進費補助の検討に当たっては、これまでの画一的な仕組みを、サービス向上に向けた努力が真に報われるものとするよう、施設の代表者の意見などを聞きながら進めてまいります。
 次に、認証保育所の役割についてであります。
 現行の認可保育所は、ゼロ歳児保育や延長保育の実施率が低いなど、都民のニーズにこたえ切れておりません。
 認証保育所制度は、こうした大都市特有の利用者ニーズに柔軟かつ的確にこたえるために創設したものであり、直接契約を導入するとともに、すべての保育所におけるゼロ歳児保育や十三時間開所を義務づけており、多様な事業者の参入による運営上のさまざまな創意工夫によって、利用者本位のサービスの提供を目指しております。したがって、認証保育所の役割は、認可保育所の補完ではなく、本来、認可保育所が実施すべきサービス内容を先導するものと考えております。
 次に、認可保育所の待機児解消についてであります。
 都内の認可保育所の入所児童数は定員を下回っており、待機児発生の原因は、年齢や保育時間等の保育内容のミスマッチと地域での需給の不均衡によるものであります。
 待機児解消のためには、保育の実施主体である区市町村が、その地域の保育ニーズを的確に把握、分析し、受け入れ枠の拡大、定員の弾力化など、実情に即した対策を講ずるとともに、認可保育所自身がゼロ歳児保育、延長保育などの充実に取り組んでいく必要があると考えております。
 都としては、これまでもその支援に努めてまいりましたが、今後とも区市町村や認可保育所が積極的に取り組むよう働きかけてまいります。
 次に、都立福祉施設の改革についてであります。
 これからの福祉は、多くの事業者が競い合いの中から多様なサービスを提供し、利用者は、自分に最も合ったサービスを選択できる仕組みとすべきであります。
 その中で、都は直接サービスを供給することではなく、新しい福祉の枠組みを整え、その実現に向け、区市町村や民間事業者を支援していくことに比重を移す必要がございます。
 こうした考えのもとに、七月に示した方針に基づき、都立福祉施設の改革を進めるとともに、競い合いの中で努力したものが真に報われるシステムを構築し、東京の福祉全体のレベルアップを図ってまいります。
   〔環境局長小池正臣君登壇〕

○環境局長(小池正臣君) 温暖化が東京の環境にもたらす影響についてのご質問にお答えいたします。
 東京には、温暖化やヒートアイランド現象など、環境の危機的状況が集約的にあらわれております。このため、都は既にエネルギー使用の抑制等の観点から、既存の大規模事業所を対象として、地球温暖化対策計画書の提出や新築建築物を対象とした建築物環境計画書の制度をスタートさせています。また、本年七月からは、ヒートアイランド現象を広域的に解明するため、区部を中心に百二十カ所で温湿度等のモニタリングを開始したところでございます。
 今後、こうした取り組みを踏まえ、温暖化の状況とその影響の把握に努め、環境に配慮した都市づくりを推進してまいります。
   〔都市計画局長勝田三良君登壇〕

○都市計画局長(勝田三良君) 都市再生に関連をした交通渋滞の解消についてでございますが、東京の魅力と国際競争力を高めるため、都市の機能更新や都心居住の推進など、多様な機能が複合した都市開発を促進することは極めて重要でございます。これにより、職と住が近接した市街地が形成され、通勤混雑の緩和など交通負荷の軽減にも寄与するものと考えます。
 また、三環状道路などの基盤整備や交通需要マネジメントを着実に推進することにより、都心部への交通の過度の集中を抑制し、交通渋滞の解消に積極的に取り組んでまいります。

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