平成十四年東京都議会会議録第九号

○議長(三田敏哉君) 六十九番北城貞治君。
   〔六十九番北城貞治君登壇〕

○六十九番(北城貞治君) まず初めに、首都圏における都市国家的経営についてお伺いいたします。
 私は、二月に、都議会自由民主党の一員としましてシンガポールに視察に行きました。マーライオンに象徴される観光先進国というイメージだけでなく、規制緩和や情報技術化を大胆に推進しながら経済的な成功をおさめている国でありました。
 もちろん、二十三区程度の比較的狭い面積のため、集中投資が可能な側面もありますが、成功の秘訣は、都市国家としての経営理念にあります。例えば情報技術戦略を見ても、世界に先駆け、都市全体に高速、大容量ネットワークを整備したことにより、今の情報技術先進国の地位が築き上げられ、電子裁判の実現、港湾の情報技術化による飛躍的な生産性の向上、商取引の電子化の実現に結びついております。まさにその原動力は、短期間に集中投資を進めた都市国家としての指導力にあるのではないでしょうか。
 しかし、我が国では、国土の均衡ある発展という間違った認識により、一極集中は是正しろ、東京に投資するより地方の道路をつくった方が効率的だなど、まともとは思えない主張を堂々と展開する向きもあり、まさに首都機能移転の論議は、地元開発に伴う目先の利益を期待するだけの話で、日本全体の国益を守るという発想は全くありません。
 こうした彼我の差を見ると、日本には都市という視点で経営を考える土壌が、まだまだ熟成をされていないことが残念でなりません。
 知事も、四月末にシンガポールの情報技術戦略等の状況を視察されたと聞いておりますが、都市国家的な経営理念につきまして、知事のご所見をお伺いいたします。
 次に、首都圏における自治体の新しい仕組みづくりについてお伺いいたします。
 日本の行政システムは、至るところで制度疲労が露呈をしていることは論をまたないわけであります。例えば、都道府県レベルでも課題を抱えており、その最たるものは行政区域です。渋滞緩和のため、せっかく四車線の都道を整備しても、川を越えて埼玉県に行くと、二車線に幅員が減少したりして、ボトルネック状態が見られ、渋滞は解消せず、物流や環境の面でも大いに問題があります。
 また、国際会議などのコンベンション施設は、アジア諸国を見ると、二十万平方メートルぐらいの施設を中核都市に一つつくって国際イベントを誘致していますが、我が国では、東京にはビッグサイト、千葉には幕張メッセ、横浜にはパシフィコ横浜があり、面積はどれも数万平方メートル程度です。日本では海外と競うわけでもなく、自治体間で誘致の引っ張り合いをしているようでは、国際間競争に勝てるわけはありません。国際会議や大規模イベントが日本から逃れていくことは自明の理であります。
 こうしたむだを調整するのが、本来、国の役割ですが、残念ながら、都道府県間のバランスを見て補助金をばらまくことが得意で、逆に非効率的な行政を助長していることに気づいてもいないのが現状でありましょう。このまま放置をしていては、東京や首都圏、ひいては我が国の発展は望むべくもありません。
 こうした広域的な行政課題へ対応するため、私は、東京から自治体の新しい仕組みづくりを提案していくべきだと考えます。例えば、七都県市首脳会議を活用し、専門知識を有する職員を派遣し、民間にも優秀な人材を求め、広域的な都市問題を解決する都市経営システムを構築するのです。さらに、システムを円滑に運営するために、七都県市首脳会議を独自の政策決定権限を有する機関に格上げをし、第三者機関による審査などを踏まえ、各自治体に必要な予算の拠出を義務づける首都圏予算枠制度創設なども考えられます。
 問題を先送りすることが許されない今日、広域的な視点に立脚した行政運営について、実効性のある体制づくりを構築することが必要不可欠と考えますが、知事のご見解をお伺いいたします。
 次に、中小企業応援団銀行の創設を初めとする中小企業への円滑な資金供給についてお伺いいたします。
 平成六年、二信組の破綻以来、東京都内だけでも三十を超える信金、信組が破綻をしました。私たちには、信金、信組の破綻の実態と、東京の活力の源泉である中小企業への影響とを検証し、その対応策を講じる責務があると確信をしております。
 第一は、信金、信組の破綻により生ずる取引先中小企業の連鎖倒産であります。
 自転車操業の資金繰りが当たり前の中小企業にとって、取引先金融機関の破綻は命取りであります。不良債権として整理回収機構に引き継がれれば、金融機関からの融資は事実上ストップしてしまいます。また、正常債権として受け皿の金融機関に引き継がれた場合も、従来のように融資を受けることは困難であると聞いております。意欲を持って堅実な経営を行ってきた中小企業が当座の資金繰りに行き詰まり、不渡りを出す構図であります。
 第二は、先ほど我が党の中西議員の一般質問にもありましたように、地域経済を支える信金、信組の役割に配慮することなしに国の検査基準が適用され、破綻処理が行われているということであります。
 東京には、世界に誇れる優秀な先端技術を持った中小企業が数多く存在します。しかし、こうした企業も、金融機関の破綻の影響を逃れられないだけでなく、金融庁の金融検査マニュアルが機械的、画一的に適用され、技術力や成長性が十分考慮されず、財務状況の悪化のみを理由に破綻懸念先に分類されております。
 同時に、金融機関には引当金を計上する義務が発生します。その額が大きくなると、信金、信組も債務超過となり、破綻に追い込まれます。生き残った金融機関も、検査をおそれ、貸し渋りが横行します。
 金融機関の破綻、中小企業の資金調達難と経営悪化、マニュアルに基づく債権分類、これらの悪循環が地域の活性化や東京の産業再生の大きな阻害要因であることは、紛れもない事実ではないでしょうか。
 そこでまず、こうした現状に対して、東京都はどのように対応されようとしているのか、お伺いをいたします。
 私は、この悪循環を断ち切る突破口として、まず、担保第一主義である従来の金融制度を改革し、世界にも通じる技術力、特色ある企業経営、しにせとしてのブランド性などを重視して融資が実行できるような、新たな審査基準を構築すべきであると考えます。そして、その先導役、融資実行機関として、いわば中小企業応援団銀行といった新たな金融機関を早期に創設することを提唱いたします。
 都の直貸しが非効率きわまりないことはいうまでもありません。一方で、市中の金融機関だけでは、東京の産業再生という政策目的は実現できません。都と金融機関との連携による新たな仕組みの構築が望まれます。具体的には、運営主体は地域経済に精通した信金、信組の協力をいただいて民営とし、経営指導面での目きき役として、東京経済界から英知を結集してもおもしろいのではないでしょうか。
 資金の捻出方法が問題ですが、まず第一に、融資を受け事業に成功したベンチャー企業には助け会い協賛金をお願いする。また、下請の中小企業があってこその大企業であります。中小企業の恩恵を受けている大企業には、資本提供を義務化してもよいのではないでしょうか。もちろん、都市銀行も積極的に資金を投入し、中小企業振興に貢献をしなければなりません。さらに、何よりも東京都の信用力を積極的に活用すれば、ペイオフ解禁に伴って新たな運用先を求めている個人預金を、新たな金融機関の原資として預けてもらうことができるはずであります。
 これまで申し上げてきたような地域の活性化や東京の産業再生を阻害する悪循環が存在をし、こうした問題についての国の動きが鈍い今、東京の産業は東京都が守るという強い信念のもと、国に対して警鐘を鳴らす意味におきましても、中小企業応援団銀行の設立など、さまざまなアイデアを取り入れながら、中小企業への円滑な資金供給に積極的に取り組んでいくことが必要であると考えますが、知事のご見解をお伺いいたします。
 次に、日暮里地域のまちづくりについてお伺いいたします。
 質問に入る前に、荒川、足立八十万区民の念願であります日舎線の開業が平成十九年に延期をされたわけでありますが、開業時期が早まることがあっても、再々再度延期されるなどということが決してないよう、強く要望をしておきます。
 さて、日舎線に歩調を合わせるべく、日暮里地域では、ひぐらしの里としての下町情緒を残しながら、広域的な交通結節点としてのまちづくりが着々と進められております。さらに、平成二十二年には、京成線から北総開発鉄道を経由することによって、日暮里駅は成田空港と三十六分で結ばれ、成田空港と二十三区の初めての接点となる日暮里駅は、まさに世界に向けた東京の玄関口として大きく生まれ変わろうとしております。
 こうした状況の中、昨年、東京都は観光産業振興プランを策定され、外国人旅行者を五年間で倍増することを目的に、新たな観光資源の開発や受け入れ体制の整備等の施策を積極的に進めることとしておりますが、一方、私の地元荒川区でも、この四月から新たに観光の専門セクションを設置し、観光を起爆剤にして、荒川の魅力を世界に発信できるよう積極的に取り組んでおります。
 例えば、外国人観光客の多様なニーズに対応した宿泊施設はもとより、玄関口としての立地を生かした東京観光インフォメーションセンターの設置や、航空会社や旅行代理店の誘致など、観光や国際交流の拠点となる機能の導入が検討されており、地元では大きく夢が膨らんでおります。
 そこで、お伺いをしますが、日暮里を成田空港、すなわち世界への玄関口にするという構想は、新しい東京の顔を創出することにより、首都圏及び東京の再生という視点からも大きな役割を果たすものでありますので、この際、日暮里を世界への玄関口として東京の新しい顔をつくる、こういった視点から、東京都としてもぜひ積極的に取り組んでいくべきであると考えますが、ご所見をお伺いいたします。
 次に、都市再生緊急整備地域制度における東京都の国への指定申請について、この際、強く要望しておきます。
 日暮里地区のように周辺に木造密集市街地を抱えた地域特性の中で、また全体の再生を図るためには、従来型の駅前開発にとどまらず、周辺地域も含めた総合的な開発が効果的であり、民間の力を十二分に活用していく仕組みが求められております。
 そんな折、我が党の代表質問にもありましたように、先ごろ都市再生特別措置法が施行され、民間の力により経済再生をもたらすため、手続の短縮や都市計画についての提案を可能とする都市再生緊急整備地域制度が創設をされました。地域指定に当たり、大規模な土地利用転換、交通の結節点、密集市街地の総合開発、民間都市開発などのイメージが提示されておりますが、まさに日暮里地域にこそふさわしいものと確信をしております。
 しかしながら、全く残念なことに、先ごろ東京都から国に申し入れた七つの地域には含まれておりませんでした。日暮里は、七つの指定地区と同様に、東京の都市再生にとって必要不可欠な地域でございますので、国への指定申し入れはもちろんのこと、千客万来の東京を実現するためにも、東京都の積極的な支援をこの際強く要望をしておきます。
 以上、三点にわたり質問を申し上げましたが、今、私たちが肝に銘じなければいけない言葉は、成功者の悲劇という言葉ではないでしょうか。成功した人間や組織というものがどこで失敗をするかというと、かつて成功したやり方を踏襲し続けることによって失敗するそうです。すなわち、過去十年、二十年、五十年と、社会経済状況が変化したにもかかわらず、同じような方法、制度を続けていくと、まさに成功したやり方、考え方で失敗をすることになるのです。しかし、成功を実現するさまざまな過程におきましては、既得権益が生じ、自分が座っている座布団を座ったまま取り除くことは難しいように、制度、方法を変えることは、大変勇気の要ることであります。しかしながら、今その勇気が必要だと、私は確信をしております。
 そのような視点に立脚をしまして、三点につきまして前向きなご答弁をお願い申し上げ、私の質疑を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 北城貞治議員の一般質問にお答えいたします。
 都市国家的な意味での東京の経営理念についてでありますが、シンガポールと違いまして、東京は上にというか、国家とのかかわりががんじがらめにありまして、なかなか、東京のために短期集中的な投資というのは難しい政治状況にあります。
 いずれにしろ、しかし、その中で何といっても首都でありまして、日本の心臓部、頭脳部であるわけですから、国も、東京の自負と同じような認識というものを持って、東京のためにいろんな配慮をすべきだと思います。それはまた、みずから国家のためにもなることでありますけれども、なかなかその認識を国が持ち得ないところに、いろんな問題、ジレンマが生じております。
 例に引かれましたシンガポールも、私、先般、限られた目的のためでありますけれども、視察もいたしましたが、繰り返して申しますように、あすこで活用されているハードもソフトも、ほとんど日本製でありました。非常に歯がゆい思いを日本に対して抱いて戻ってまいりましたが、いずれにしろ、この首都圏に、東京を中心にした三千三百万の人口があるわけで、それが表象する、世界に比類のない重層的な集中、集積があるわけであります。
 これを、日本人自身が社会工学的に評価するということがどうも足りないので、歯がゆい思いをいたしますが、皮肉なことに、前にもお話ししましたが、就任早々、ビル・ゲイツのような外国人が、こういった首都圏のポテンシャルに着目して、いろんなオファーをしてまいりましたが、これは日本独自でできることでありまして、ITを中心にした情報網というものを外国の資本にゆだねることは、ある意味で非常に危険でありますから、小渕総理にも建言して、棚上げにして、とにかく日本独自でやろうじゃないかということで準備をしておりますが、いずれにしろ、我が国の再生のためにも、東京を初めとする首都圏が世界的な都市間の競争に勝ち抜いていく必要があります。そのためにも、ご指摘のように、経済効率の高い都市部への集中投資が行われることが緊急の課題であると思っております。
 そのためにも、首都圏の自治体が、その権限と財源を効率的に行使して、自主的、自立的な都市経営を行っていくことが肝要だと思っております。
 次いで、広域行政の体制づくりについてでありますが、道州制ということがいわれて久しゅうございますけれども、依然として、明治政府が発足した太政官以来の都道府県の区割りが続いているわけで、道州制というのは、願ってもなかなか百年河清を待つ状況にありますが、昨年来、首都圏である七都県市の首脳会議で、例えば大気汚染対策や産業廃棄物対策、あるいは高速道路を活用した一つの新しい税制などについて、共同事業としてこれを行おうと、提案がなされました。東京からいたしまして、今、検討中でありますが、私は、これは実質的な広域行政、ひいては、やがては道州制にもつながる一つの試みであると自負しております。
 先般、あるところで会いました、古い知己であります、非常に有能な、力量を発揮しております大分県の平松さんもこれに着目して、自分たちも負けずに、九州の北部でこういう試みをしようということをいっておられましたが、日本のあちこちで、こういう県境をまたいだ広域行政というものが展開されることで、日本の政治の体質も変わってくるんではないかと思っております。
 次いで、中小企業応援団銀行の設立でありますが、必ずしも中小企業応援団としてではなくて、一種のリージョナルバンクをつくったらどうだという提案もあちこちからあります。私の古い友人でもあります大前研一君なども、しきりにこの案を持ち込んでおりますが、いわれなくとも、そんなものを、都の幹部としても、合意し、考えてもおりますけれども、これは決して可能性のない話ではないと思いますし、我々が、信用を獲得すべく多岐にわたる努力をすれば、東京に対する信頼感が、銀行の経営にも大きく役に立つのではないかという気がいたします。
 もし仮に東京のリージョナルバンクができますと、別に国際業務を行うわけではありませんから、日本がはまった、わなの一つであります、例のBIS規制なども受けることなく、弾力的な運営ができるわけであります。ただ、銀行の営業免許を握っている国との交渉など、さまざまな障害もあると思います。
 現在、研究を重ねていますが、市中銀行の信用が薄れてきて、郵便貯金に対する信頼が高まっている云々という論もありますけれども、郵貯そのものも実は、千数百兆の預金が総量としてあるかもしれませんが、例えば、何に詳しく使われたかは存じませんけれども、大方想像のつくことではありますが、四国に三本の橋みたいな、ああいうばかげたプロジェクトの本四架橋公団に融資した財投のお金なんていうのは、これはもう実質的には不良債権でありまして、返るすべもない。私は環境庁のときに反対したんですけれども、こういった問題を精査すると、ますます東京に対する期待が高まって、リージョナルバンクも……(発言する者あり)まあまあ、そう簡単にいわないでください。決して夢ではないなと思っておりますが、いずれにしろ、それも一つの解決案として、打開案として、今、検討中でありますということだけご報告させていただきます。
 その他の質問については関係局長から答弁いたします。
   〔産業労働局長浪越勝海君登壇〕

○産業労働局長(浪越勝海君) 中小企業への円滑な資金供給についてでございますが、これまで都は、取引金融機関の破綻により事業活動に影響を受ける中小企業のための融資制度を設け、対応してきているところでございます。このような環境変化に対応した取り組みを今後も継続することにより、ご指摘のような悪循環の是正に努めてまいりたい。
 なお、金融機関の検査については、国が現在、金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編を策定中と聞いており、中小企業の実態に即した検査が行われるものと期待、注視しているところでございます。
   〔都市計画局長木内征司君登壇〕

○都市計画局長(木内征司君) 日暮里駅周辺のまちづくりについてのご質問にお答えします。
 日暮里駅周辺は、日暮里・舎人線や成田新高速鉄道の整備が予定されており、交通結節点として、今後重要な役割を担っていくことが期待されております。
 荒川区では、駅周辺のまちづくりについて、広域的な位置づけや整備の方向、整備手法などを検討するため、近々、調査検討会を発足させる予定でございまして、都としても、国などの関係機関とともに、これに参画するなど、積極的に協力してまいります。

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