平成十四年東京都議会会議録第九号

   午後一時開議

○議長(三田敏哉君) これより本日の会議を開きます。

○議長(三田敏哉君) この際、あらかじめ会議時間の延長をいたしておきます。

○議長(三田敏哉君) 次に、日程の追加について申し上げます。
 知事より、東京都公安委員会委員の任命の同意について外人事案件二件が提出されました。
 これらを本日の日程に追加いたします。

○議長(三田敏哉君) 昨日に引き続き質問を行います。
 九十五番立石晴康君。
   〔九十五番立石晴康君登壇〕

○九十五番(立石晴康君) 私は、まず、日本という国家のありようについて、知事は既に所信表明でも触れられていましたが、改めて考えをお聞きしたいと思います。
 一体この国は国家としての体をなしているのかと思わせる出来事が相次いでいます。中国瀋陽の日本総領事館に亡命を求めて駆け込んだ北朝鮮の家族ら五人が中国の武装警官に連行された事件では、国家主権の明らかな侵害に対して毅然とした姿勢を示そうともしなかった日本外交の事なかれ主義が露呈しました。この万事穏健にという事なかれ主義は、外務省に限らず、社会全体に蔓延しているのではないかと思われます。ちょうど私は東京の翼訪中団に参加して、五月十日から十四日まで北京と大連にいました。現地で通訳を通して瀋陽の事件についてまちで何人かに質問をしてみましたが、この事件を知りませんでした。中国国内のマスメディアで報道されていなかったと直感しました。
 また、我が国の領海を侵犯して海上保安庁の巡視船に撃墜され、沈没した不審船の引き揚げにも及び腰でありました。中国では日本製の乗用車や電化製品の模造品が出回って日本企業が大きな被害を受けているにもかかわらず、手をこまねいているだけで、中国に取り締まりを強く要請するといったこともしない、こうした甘い対応が、日本では何をやっても許されるという風潮となって広がり、外国人の密入国者による犯罪の増大を生む要因となっているのではないかと思われます。
 あるいはまた、首都機能移転問題についても、国会や政府には既にこの問題に真剣に取り組む気持ちはなく、国民の関心もないにもかかわらず、白紙撤回という当然の決定を見送り、与野党協議で移転候補地の自治体や地元選出議員に対する政治的配慮で結論を先送りしています。これも無責任極まる対応といえます。
 明確な国家戦略を欠く政治の事なかれ主義は、石原知事が、東京から日本を変えるという気概で打ち出している独自政策の実現にも厚い壁となるケースが見られますが、知事は、こうした国のありようをどのようにとらえ、いかにあるべきと考えているか、所見をお伺いいたします。
 次に、羽田空港の早期国際化の見通しについてお伺いいたします。
 首都圏の空港機能の充実は、まさに都市間競争の成否を左右する大切な問題です。昨年三月にソウルの仁川空港が四千メートル級の滑走路二本を擁して開港しました。シンガポール、クアラルンプール、香港もそれぞれ二本の四千メートル級滑走路を持ち、アジアの都市間競争を戦っています。この二月、私も都議会調査団の一員としてシンガポールのチャンギ空港を視察しましたが、空港の規模のみでなく、空港がIT化されているなど、設備、ソフト両面で目を見張るような充実ぶりでした。中でもトランジット客用にリラクゼーション施設や、短時間無料の市内観光まで用意されており、空港に対する明確な戦略を感じとることができました。
 一方、我が首都圏に目を転じると、今春、成田空港二本目の滑走路が供用されたとはいえ、暫定の短い滑走路で、ジャンボジェット機すら離陸することができません。このような状況で、国際的な投資を呼び込み、都市としての活力を維持していくことができるとは思いません。先ほど申しましたように、東京の翼が羽田の現国際線ターミナルから出発しましたが、そのアクセスの便利さを肌で感じて、改めて羽田空港の一日も早い国際化を急ぐ必要があると感じました。
 そこで、まず、羽田空港の早期国際化について、都はどのように見通しを持っているのかお伺いいたします。
 羽田空港の再拡張については、滑走路整備の工期について関係業界団体から二年半程度で可能との提示がなされておると仄聞いたしております。早期実施に弾みがついていることから、一刻も早く新しい国際線ターミナルの整備を急ぐ必要があります。
 知事は、旧ターミナル地区をこの候補地として挙げておられます。ここは更地になっており、すぐにでも建設に着手できる上、鉄道や道路のアクセスも条件が整っています。さらに、空港市街地とも近く、連携がとりやすいほか、敷地が広く、我が国の玄関にふさわしいターミナル建築が可能です。適地はここをおいてないといえます。
 都として、この場所での整備を急ぐよう国に対して一層強力に申し入れすべきです。所見を伺います。
 なおまた、地下鉄都営浅草線の東京駅八重洲口での接着による成田、羽田両空港へのアクセスの一層の充実も強くここで要望しておきます。
 次に、日本橋地区を中心とした首都高速道路のあり方について伺います。
 現在、名橋日本橋の上部を首都高速道路が覆っていますが、日本橋は、ロンドンのテムズ川にかかるロンドンブリッジや、パリ、セーヌ川の名橋の一つポン・ヌフのように、その都市の景観を象徴する存在です。仮にこれらの橋の上に高速道路が覆っている状況を想像するとき、ロンドンやパリの都市景観に大きなダメージを与えます。
 この首都高速道路は、昭和三十年代、東京の経済復興を支える基盤施設として、また、アジアで初めて開催された東京オリンピックによる交通需要のため整備されました。その当時、非常に限られた時間と財源のもと、東京はもとより、首都圏の社会経済活動を支える大動脈をつくり上げていった先人たちの決断と実行力には大いなる敬意を払うものであります。
 しかしながら、都市景観等の面で問題が残されていることもまた事実であります。このため、近い将来訪れる鉄とコンクリート製の首都高速道路の寿命更新に際しては、都市景観の改善を考えた再構築が求められます。また、再構築によって形成された良好な都市景観を次世代に継承していくことは、我々の世代の大きな使命であります。
 このような中、ことしの四月、東京都心における首都高速道路のあり方委員会から日本橋地区を主体とした首都高速道路の将来ビジョンについての提言がありました。この委員会は、石原知事の英断と扇国土交通大臣の決断によって設置されたと聞いております。提言では、この首都高速道路の再構築案として、都市の再生、交通円滑性並びに事業の技術的、経済的フィージビリティーを勘案すると、周辺建物との一体整備案がより適切であると考えられるとしていますが、この案に対する都の見解をお伺いいたします。
 また、この地区を中心とした首都高速道路の将来のあり方が示された今回の提言を受け、都としては、今後、日本橋地区の首都高速道路の再構築に対してどのような対応を図るつもりかお伺いいたします。
 次に、LRT、次世代路面電車構想についてお尋ねします。
 国の都市再生本部は、都市再生特別措置法に基づく緊急整備地域指定や整備方針の決定を近く行うこととしています。また、知事は、所信の中で都市再生への強い意思を示されました。高容積の再開発プロジェクトが目立ちますが、いうまでもなく、それだけが都市再生への道ではありません。都市は、そこに働く人々のためにも、住む人はもちろん、訪れる人にとっても魅力あるものでなくてはなりません。そのためのインフラをしっかりとつくり込んでいくことが東京の都市再生に重要です。
 ドイツのフライブルクやフランスのストラスブールなど、自動車の乗り入れを原則的に禁止し、LRTを環境時代の都市の顔として売り出す都市も多くあります。ウィーン、ベルリンのような大都市でもLRTのネットワークの強化に力を入れています。それが欧州の都市交通政策の潮流です。
 そうした中、民間の月島をよくする会がLRT構想を提案しています。東京駅から銀座、築地を経由して月島へ、さらに晴海、豊洲へ至る十キロメートル余りをレールで結ぶという提案です。勝鬨橋や晴海通りはかつての都電のルートでしたが、都電を復活させようという懐古趣味ではなく、超低床車両の導入や、ハイテク技術を活用した運行管理システムによって、生活手段として、また、交通弱者の方々のためにも十分に機能し得る公共交通を都市再生の切り札として導入すべきとしています。東京を代表するこれらの地区やウオーターフロントをつなぐことでパノラマを楽しむことができ、都市観光の目玉ともなります。
 財政学者神野直彦先生の言葉をかりれば、ヨーロッパでは今、混沌の渦中から人間の新しい歴史の偉大な物語が始まろうとしている。ヨーロッパを舞台に偉大な物語とは、都市再生のドラマである。
 都市再生には二つの道、いわば二都物語がある。一つは、人間の生活の場としての持続可能性を目指すヨーロッパの都市再生である。もう一つは、アメリカや日本のように、経済成長の持続可能性を目指す都市再生である。
 ヨーロッパ都市再生の優等生であるストラスブールでは、汚染された大気を浄化するために、市民の共同事業として、次世代路面電車を創設して、自動車の市内乗り入れを原則的に禁止してしまう。自然的、文化的、人間的都市の魅力を輝かせたストラスブールは、経済界の懸念をよそに、都市経済も活性化している。自動車の進入しない、人間が歩きたくなるような市街地の地価は上昇し、高級ブランド店が進出して、商店街は活況を呈している。市場主義による都市再生によって、市街地の地価が下落し、かつ商店街が荒廃している日本の現状とは好対照をなしている。しかも、新しい産業が芽生え、ストラスブールでは雇用も増大している。日本では構造改革が順調に進んでいる証拠として、倒産が相次ぎ、失業が激増している。こうした現実も好対照的であると述べています。
 そこで、環境に優しい、人に優しい交通機関を都市のインフラとして導入すべきと考えます。都は、都市計画局や産業労働局、交通局など関係局が集まって、こうしたLRT構想を地元区とともに調査研究し、実現に向けて乗り出すべきと考えますが、所見を伺います。
 次に、子育て環境の整備について伺います。
 過日、北京に視察に行った際、中国国内で五つ子が誕生したことが大きなニュースになっていました。一人っ子政策が続く中国でも、子どもの誕生を率直に喜ぶ、人間としての自然の感情なのだなあと改めて感じました。
 中国のように子どもを持つ数に制限がないにもかかわらず、過日の新聞報道にもあったように、合計特殊出生率は一・三三、東京は一・〇という我が国では、少子化に歯どめがかからない状態が続いています。さきに発表された総務省の人口推計でも、総人口に占める子どもの割合は一四・三%と過去最低を記録し、先進諸国の中でも最低の水準となっております。
 その背景には、親の、子育てにかかる経済的負担が大きいという原因に加え、都市化の中で家庭が孤立し、周囲からの支援が余り期待できないため、若い人々が出産や子育てに大きな不安を抱いているという今日の子育て環境そのものがあります。少子化は社会の活力をも低下しかねない重要な問題であり、国を挙げて子育て環境の条件整備に取り組んでいくことが必要であります。
 そこで、まず、都として、少子化に対応した子育て環境の整備についてどのような考え方で取り組んでいくのかお伺いいたします。
 また、その際、親になろうとする若い人々の置かれている状況に的確にこたえていくことは申すまでもありません。働きながら子育てをしようとする人々にはもちろんですが、家庭で子育てをしようとする人々にとっても、近くに相談する人がいない等いろいろなケースに対応した、きめ細やかな支援策が講じられていくべきだと思います。これまで都は、認証保育所制度の創設や、子ども家庭支援センターの設置、促進等、子育て支援のためのさまざまな施策を展開してきました。これからも子育て環境の条件整備に一層積極的に取り組み、国を先導していくことが必要であると考えますが、所見をお伺いして質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 立石晴康議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、国の政治や政府など国家のありようについてでありますが、すべてとは申しませんけれども、今日、多くの政治家、国会議員や国の官僚を眺めておりますと、どうも無責任体質といいましょうか、非責任体質と申しましょうか、これが加重していっている感を否めません。また、そのツケはすべて国民が受けることになっていくわけでありまして、常に国益を考え、国家を背負って行動することこそが国を預る者たちの肝要だと思います。
 その、無責任といいましょうか、非責任、結果としての体質の原因は、どうもすべての物事に対する複合的、重層的な分析、認識がいかにも乏しいという気がいたします。そもそも、すべての物事は国益につながっているわけでありまして、そしてすべての物事は決して単一にあるわけではなしに、こういう近代社会、現代社会でありますから、いろいろな要因が加わって複合的、重層的にでき上がっているものでありますけれども、東京都もそういう弊害はございますが、国はもう非常に、各官庁、行政機構のライン化が徹底してしまいまして、その結果が露骨に露呈している感じを否めません。つまり、そういった行政のラインをまたいでの複合的な行政が必要なのに、それを束ねる政治家がその責任を果たし得ない。それはなぜかといえば、政治家自身の見識、力量が、すべて官僚におんぶしているために発揮されない、不可能になっているという現象だと思います。非常に残念なことですが、そういう、現代の先進国にあり得ない、あってはならない現象が国政には露呈してきていると思います。国にはこれまでもいろんな案件等の交渉でいらいらさせられてまいりましたが、しかし、あくまでも国あっての東京でありまして、都民、国民のためにも、東京から、これから国の改革にもつながる行動を、策を講じて起こしていきたいと思っております。
 次いで、羽田空港の国際化についてでありますが、国は昨年、都の提案を受けとめて再拡張の決定をいたしました。国際化を視野に入れることを表明しておりますが、現在、経済財政諮問会議でも、二〇〇〇年代の後半までには国際定期便を就航させることが議論されておりますが、これはいささかちょっと遅きに失する話でありまして、早期に羽田の再拡張が行われれば、繰り返して申しますけれども、現在二十五万便の便数が四十万には最低ふえます。それによって、キャパシティーがふえることで国際線というものが導入され、また、念願であります横田の最低限の官民共同使用というのが実現しますと、新宿や東京駅から至近の距離にあります横田が国内線にも活用されることで羽田の国際化というのが推進されるわけであります。
 いずれにしろ、ようやく国も国際化に向けて動き出しましたが、今後は早急に再拡張の工事に着手するとともに、一日も早く国際化を進めるよう、国に強く求めてまいります。
 ただ、最近、財務省が、羽田の再拡張は結構だろうが、東京がいい出したことだから、東京にも半分ぐらい財源を持たせろなんていう筋違いのことをいい出しております。これは成田の性格からいってもおかしな話でありますし、ただ、当地の財界の強い要請でプロジェクトが展開しました関西空港や中京の常滑空港とは性格の異なるものでありますが、しかし、首都としての機能の充足のためには、国際化された羽田というのは、私は不可欠だと思います。ならば、余計なことをいわずに、全部羽田を東京に預けてくれたら、これはいろんな方法を講じて十分に採算のとれるプロジェクトの展開をしてみせますが、そこまで国も勇気がありそうもない。事の成り行きを見て、東京の主張をこれからも重ねていきたいと思っております。
 次いで、羽田空港の新たな国際線ターミナルについてでありますが、空港は国家の玄関口として、その国の文明を表象する施設であります。羽田空港の旧ターミナル地区は、お説のとおり、交通アクセスや用地確保などの面で非常に立地条件もすぐれておりまして、我が国が各国からの訪問者を迎えるのにふさわしい施設をつくることができると思っております。
 今後、旧ターミナル地区に一日も早く、東京にふさわしい国際線ターミナルを新設するように、国に強く求めていくつもりでございます。
   〔都市計画局長木内征司君登壇〕

○都市計画局長(木内征司君) 三点のご質問にお答えします。
 まず、日本橋地区の首都高速道路の再構築についてでございます。
 いわゆる一体整備案とは、日本橋川沿いのビルと首都高速道路を一体的、連続的に整備するものであり、日本橋地区の良好な都市景観を創出し、東京の魅力を高めるものでございます。
 一方、具体化に向けましては、日本橋川に沿って数キロにわたる連続した再開発となることから、開発を誘導する仕組みや、沿道地権者との合意形成、さらには事業主体や財源確保の方策等、検討すべきさまざまな課題がございます。
 次に、再構築の案に対する今後の対応についてでございます。
 あり方委員会から提案された複数案をもとに、関係者のさまざまな意見を伺い、コンセンサスを得ることが重要であると考えております。このため、来月には、日本橋地域ルネッサンス百年計画委員会や名橋日本橋保存会等に対し、国や公団とともに、提言内容について説明を行う予定でございます。
 今後とも、再構築について関係者間で協議を進めてまいります。
 次に、LRT構想についてでございます。
 LRTは、超低床車両の導入により、高齢者などにも利用しやすいこと、環境負荷が少ないことなどの特徴がございます。LRTは、基本的には地域交通を担う公共交通機関として有効であることから、地元自治体が主体となるべき課題と認識しております。
 ご提案につきましては、地下鉄など既存の公共交通との競合や、導入空間の確保など、課題が多いものと考えられ、都といたしましては、地元区による取り組みを期待し、適切に対応してまいります。
   〔福祉局長前川燿男君登壇〕

○福祉局長(前川燿男君) 少子化に対応した子育て環境につきまして、二点のご質問にお答えいたします。
 まず、環境整備の考え方でございますが、少子化にどう対応すべきか、これは大変難しい課題でありますが、子どもを産み育てたいと願う都民が、安心して子どもを育てられる環境を整備することは重要であると考えております。
 そのためには、女性の社会進出が進む中、子育てと仕事の両立を可能とする環境づくりを図るとともに、社会的に孤立しがちな親たちに対し、子育てを地域の中でバックアップする仕組みを構築することが必要でございます。
 こうした観点から、これまで都は、大都市の保育ニーズにこたえる都市型保育サービスの充実に努めるとともに、子育てを地域社会全体で支援するための相談、支援の仕組みの確立に向け努力をしているところでございます。
 次に、具体的な取り組みについてでありますが、昨年八月、都が創設いたしました認証保育所は、この六月時点で八十八カ所、総定員は約二千五百人に達し、そのうち駅前型は四十五カ所となっており、年度内にはさらに多くの開設が見込まれております。
 また、都独自の施策として、子育てを地域の中で支援する仕組みの核となる区市町村の子ども家庭支援センターは、既に三十六カ所が設置され、平成十六年度までに全区市町村に設置する計画といたしております。
 さらに、虐待を受けた子どもなどへの対応を的確に行う体制の整備を図るため、児童福祉司の大幅な増員など、児童相談所の改革を推進するとともに、社会的なケアを必要とする子どもに対しては、都独自の里親制度である養育家庭制度の大幅な拡充に努める方針でございます。
 今後とも、こうした大都市東京の特性を踏まえた独自の政策の展開を図ってまいります。

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