平成十四年東京都議会会議録第三号

○議長(三田敏哉君) 十三番初鹿明博君。
   〔十三番初鹿明博君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○十三番(初鹿明博君) 先月末、東村山市で、ホームレスの男性を、中学生を中心とする数名の少年が暴行を加え、殺害するという、非常に陰惨な事件が起こりました。被害に遭われた男性には謹んでご冥福をお祈りいたします。
 さて、この事件は、現在我が国が抱えている二つの深刻な問題を改めて私たちの現前に明らかにいたしました。一つは、この厳しい経済情勢の中、増加し続けるホームレスの問題、そしてもう一つは、少年犯罪に代表される教育の問題であります。
 本日は、まずこの二点に関して質問をさせていただきます。
 平成十三年度の全国のホームレスの数は、二年前の平成十一年度と比べ約二〇%も増加し、二万四千人を上回っております。政府が有効な経済政策を打ち出せない中、景気の落ち込みはより一層深刻化しており、今後の動向も予断を許しません。路上生活の長期化は、心身を大きく疲弊させ、社会復帰をますます困難にいたします。また、今回の事件でも明らかなように、地域社会との摩擦やトラブルもたびたび発生をいたしております。
 東京都は、二十三区と共同し、ホームレスおのおのの就労意欲や能力などの実情に応じ、緊急一時保護センター、自立支援センター、そしてグループホームの三つのステップから成る自立支援のシステムの構築に取り組み、ホームレスの社会復帰を促進しています。
 現在、三カ所ある自立支援センターの就労自立実績が四六%に達するように、非常に高い成果を示していることは評価に値し、全国では伸び続けているホームレスの数が、この二十三区では、若干ではあるが減少をしているという成果にも結びついております。この東京における自立支援システムが全国のモデルケースとなるように、今後のより一層の事業の推進を期待するものであります。
 さて、ホームレス問題は、この厳しい不況や産業、就業構造の変化に起因をして、近年では、大都市特有、固有の問題から、県庁所在地のみならず、中堅の都市にまで広がる全国的な社会問題となっており、また、社会のセーフティーネットのあり方にもかかわりますことから、問題解決の第一義的な責任は当然国にあります。しかし、その責任を国が放棄し、そして、毎日毎日ブルーシートの家がふえている現状にもかかわらず、問題を放置してきた責任、放置してきた結果が、この現在の深刻な状況を招いているのではないでしょうか。
 我が党は、昨年、国会に、ホームレスの自立の支援等に関する臨時措置法案という法律を提出いたしました。その中で、安定した雇用や居住の場の確保などを含む総合的な施策の策定を国の責務とするとともに、地方自治体やNPOなどの民間団体に対して、必要な財政的支援を行うことを提案いたしております。
 東京都としましても、この動きの鈍い国に対して、責務に見合う積極的対応、とりわけ充実した財政支援を求めていく必要があると考えますが、ご所見を伺います。
 さて、それぞれ個別の問題を抱えているホームレスへの自立支援には、柔軟性にすぐれ、一人一人にきめ細やかなサービスを提供できるNPOなど民間団体の活動が重要な役割を果たすと考えます。
 現在、福祉分野のみならず、さまざまな分野でNPOの活力が発揮され、高い評価を得ておりますが、東京都におけるこのホームレスの自立支援システムにおいても、NPOとの連携を積極的に図っていく必要があります。特に、安定した地域生活につなげていくグループホーム事業は、まさにNPOの特性を最大限に生かすことのできる事業であります。
 昨年末、私は、元ホームレスの入所者にホームヘルパーの資格を取得させるなど新たな職業能力を習得させたり、アパートを借りる際の身元保証や、その後のアフターケアを行っているNPOのグループホームを視察してまいりましたが、路上生活への再ドロップを防止する非常にすぐれた成果を上げています。
 そこで、NPOの能力を活用したグループホームを各地域により多く整備していく必要があると考えますが、ご所見を伺います。
 ホームレス問題を考える上で、東村山の事件でも明らかなように、都民のホームレスに対する偏見や無理解をいかに解消していくかも大きな課題であります。都民のホームレスに対する見方は非常に厳しく、好きでやっているんではないか、怠け者だ、怖いといった偏見がはびこっています。今後、緊急一時保護センターや自立支援センターを計画どおり着実に整備し、事業効果を発揮していくためには、このような誤った差別心や偏見を解消していくことが必要であります。
 特に、施設設置場所の地域住民の理解と協力を得ることは不可欠であります。都民や地域住民の理解促進に向けた働きかけの必要性について、ご所見を伺います。
 ホームレスの自立支援の取り組みはスタートしたばかりですが、軌道に乗りつつあります。しかし、ホームレス問題を抜本的に解決するためには、ホームレスになってしまう瀬戸際で助け、これ以上新たなホームレスを生み出さないことが必要であります。
 そのためには、住居を借りる際の身元保証の問題、生活保護制度の問題、公営住宅のあり方など、政府が検討すべき課題が数多くあります。できるだけ早急にホームレスの予防策を構築することを国に強く強く求めるものであります。
 さて、今回の東村山市の事件を含め、重大な少年犯罪が繰り返される現状に、私は大変心を痛めると同時に、改めて心の教育の重要性を強く感じます。
 近年、重大な少年犯罪が増加している原因については、家庭や地域社会の問題を抜きにして語ることはできません。しかし、戦後の学校教育が学力をつけることに偏重し、規範意識、生命の尊重、相手を思いやる心、人権尊重の精神など、いわゆる心の教育を軽視してきたことも大きな要因であると感じております。
 教育委員会の方針には、確かに、お題目のように道徳教育、人権教育が掲げられておりますが、現状はどうでしょうか。現場の教師自身が具体的な手法を理解しておらず、何をどう指導してよいのか戸惑っているのが現実ではないでしょうか。
 偏差値至上主義の時代に学校教育を受けた私などは、道徳の時間といえば、テレビを見るだけ、単なるお説教の時間、それならまだよい方です。ほかの進度のおくれている授業に振りかえられることが当たり前だった記憶しかありません。四月から学校週五日制が始まりますが、学力低下が問題視される中、授業時間が減少し、道徳教育や人権教育などの心の教育を指導する時間がほかの教科の犠牲となりはしないか、懸念をいたしております。
 今回の事件を考えると、心の教育をより一層推進をしていかなければならないと考えますが、東京都教育委員会の見解と今後の取り組みについて、具体的にお答えください。
 さて、次に、現在の日本が抱えているもう一つの大きな問題、少子化についてお伺いをいたします。
 厚生労働省の研究機関である国立社会保障・人口問題研究所は、一月三十日に将来推計人口を発表し、二〇五〇年の推計出生率を一・六一から一・三九に下方修正しました。少子化が進むと、国の年金制度など社会保障制度を抜本的に見直す必要に迫られることは当然のこととして、労働力は減少し、消費も減退するなど、GDPを押し下げる要因になります。まさに少子化は国の存亡を左右する非常に深刻な問題であります。先ほど、残り時間が少ないことを知らせるベルが鳴りましたが、まさに少子化は、この日本にとってタイムリミットが迫っている問題だと感じております。
 さて、少子化の一因として、子育てに金がかかる、女性の社会進出が進み、仕事と子育ての両立が難しいなどが考えられます。都では、都独自の認証保育所の設置をするなど、子育ての負担を軽減する施策を打ち出しています。この認証保育所は、都内の待機児童の減少に貢献しており、今後も推進すべき重要な施策だと考えます。都では、平成十六年度までの設置目標数を定めておりますが、この際、前倒しをして推進すべきと考えますが、ご所見を伺います。
 ところで、子育てにかかる経済的な問題や、仕事と子育ての両立の問題を解決したからといって、少子化傾向に歯どめがかかるかといえば、大きな疑問を感じます。
 そもそも、子どもなんか要らない、家族など煩わしい、結婚自体したくない、そう考えている若者が増加していることが大きな問題ではないでしょうか。私と同じ三十代、またその下の二十代の多くに共通して、家族を持つことは負担だ、子どもに自分の時間を奪われたくないという考えが広がっているのです。
 なぜこのような感覚を、私と同じ、もしくは私よりも若い世代が持つようになってしまったのか、さまざまな理由が考えられます。
 そちらに並んでいる皆さんが、そういう世代の親の世代になるんでしょうけれども、皆さんの世代がみずからの子どもに、家庭の温かさ、家族といることの安心感、幸福感などを与えることができなかったことが要因ではないでしょうか。家族のために家族との時間を犠牲に働く父親の後ろ姿、家族の犠牲になって家事を行う母親の横顔を見て育ったとき、将来結婚して子どもをつくり、自分の家族を持つことに抵抗を感じても、何ら不思議はありません。
 ところで、知事は昨年、「僕は結婚しない」という小説を発表されましたね。私も読ませていただきました。自分の周りにもこの小説の登場人物のような友人がいるなあと、納得こそいたしましたが、二人の子どもを育て、子育ての喜びや楽しみ、家族がいるという安心感や充足感を得ている私には、到底共感できるものではございませんでした。恐らく、著者の知事自身も、この小説の主人公に感情移入して書き進めるというよりも、アンチテーゼとしてこの作品を世に発表したのでしょう。知事の雑誌などでのインタビューや、二十四日に放映された知事のお母様のドキュメンタリー番組の発言から受ける知事の家族観からそう感じる次第です。あのようなすばらしい母親に育てられた知事だからこそ、子ども思いの父親になっているのだと納得させられました。
 さて、知事は、何が少子化の原因と考えますか。地球環境を守るためにリンゴの木を植えることも大切ですが、そこに住む子孫がいなくなっては意味がありません。リンゴの木を植えることと同様に、この国の子孫を残していくことも必要です。少子化によって国が滅ぶような事態に陥ることがないよう、小泉人気が下降線をたどり、田中真紀子元外務大臣も表舞台から去ったこの今、最も発言が注目されている石原知事の発言に期待をするものであります。
 この議場に向かって答えるのみならず、ぜひとも知事自身のお言葉で、東京都民、そして国民全体に語りかけるつもりで、特に、若者に対して語りかけるつもりでお答えいただきますよう求めまして、私の質問を終わらせていただきます。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 初鹿明博議員の一般質問にお答えいたします。
 少子化についてでありますが、この問題の切り口は実にたくさんあろうと思います。いずれにしろ、その出生率の低下の原因は、まあいろんな切り口があると思いますけれども、とにかく社会が豊かになり、女性の経済的自立が進んで、必ずしもそれがフェミニズムに直結とはいいませんが、結婚観が変わってきまして、そしてまた住宅、教育費の問題、核家族による家庭機能の低下などがこもごも大きな原因になっていると思います。
 少子化に歯どめをかけるといっても、子どもを何人産もうかというのは夫婦の問題でもありまして、いずれにしろ家庭や地域社会、職場において、安心して子どもを産み、育てやすい環境をつくっていくことが必要だと思いますが、しかし、しょせんこれは個々人の人生の設計、人生観の問題、価値観の問題だと思います。これは国家的には取り組まなきゃならない問題かもしれませんが、しかし、やはり帰するところは個人の問題だと思います。
 都としても、現在、認証保育所や小児救急医療、あるいは子どもの家庭支援センターの整備など、教育改革など、環境づくりを進めております。今後とも、都としての立場でできることには労を惜しまず取り組んでいき、それが少子化の歯どめになれば幸いだと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 心の教育の推進についてでございますが、心の教育は、生命を尊重する心、他者への思いやりや規範意識、倫理観や正義感、美しいものや自然に感動する心など、豊かな人間性の育成を目指しておりまして、学校教育において取り組むべき重要課題であると認識をいたしております。
 お話の道徳教育につきましては、都の教育委員会としましては、区市町村教育委員会と連携をしまして、道徳教育のすぐれた実践を公開をすることにより、指導者の養成を図りますとともに、家庭、学校、地域社会が連携した心の教育の推進に努めているところでございます。
 今後とも、道徳授業地区公開講座を全校に広げるなど、心の教育の一層の充実を図ってまいります。
   〔福祉局長前川燿男君登壇〕

○福祉局長(前川燿男君) 四点のご質問にお答えいたします。
 まず、ホームレス対策につきまして、最初に国の対応についてでありますが、近年、いわゆるホームレスが急増する中、都は二十三区と共同して、東京独自の自立支援策に取り組んでまいりました。
 しかし、ホームレス問題は、大都市を中心とする広域的な課題であり、雇用や所得保障など、社会全体のセーフティーネットのあり方にかかわる問題でもあります。解決のためには、国による広域的、総合的対策が必要となります。
 これまでも、国に対し、提案要求等の機会に積極的な対応を求めてまいりましたが、引き続き、就労、住宅、福祉、保健、医療等にわたる総合的な対策の確立と財政負担の抜本的拡充を求めてまいります。
 次に、グループホーム事業についてでありますが、都と二十三区が共同して実施しているホームレス自立支援事業におきましては、グループホームの役割は、自立支援センター利用後のアフターケアとして生活訓練や就労指導等を行い、就労自立を目指すものと想定をいたしております。平成十四年度は、モデル事業として二カ所設置する予定でございます。
 次に、都民理解の促進についてでありますが、いわゆるホームレスの多くは就労意欲を有しており、本人の自助努力を基本とした自立支援システムを構築することが重要と考えております。こうしたホームレスの実態や施策の基本的方向について都民の理解を得るため、都は、昨年三月に、実態調査に基づくホームレス白書を発表いたしました。
 また、自立支援センター等の建設、運営に当たっては、区と協力しながら、住民への説明会を積み重ねるとともに、住民参加による連絡協議会を設置いたしております。
 今後とも、二十三区と連携しながら、都民の理解と協力を得られるよう努めてまいります。
 最後に、認証保育所制度についてでありますが、昨年八月にスタートした認証保育所は、当初予定数の十カ所を大きく上回りまして、本年度中に、利用ニーズの高い駅前等で二十三カ所が設置される見込みでございます。これは、立地の利便性、質の高いサービス、保育環境などを評価し、増設を求める都民の声にこたえ、民間事業者が意欲的に参入してきた結果と考えております。
 こうした都民の期待や事業者の熱意にこたえるため、十四年度は、福祉改革推進プランの計画数の二倍に当たる四十カ所の設置を計画をいたしております。

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