平成十四年東京都議会会議録第三号

○議長(三田敏哉君) 五十八番丸茂勇夫君。
   〔五十八番丸茂勇夫君登壇〕

○五十八番(丸茂勇夫君) 東京、ひいては日本の経済の基盤をなしている製造業の支援についてです。
 長引く不況と、大企業などの生産拠点の海外移転、さらには単価の四割カットなどの下請いじめによって、都内製造業はピーク時の六割に落ち込み、東京の活力の衰退の一因となっています。しかも、かつて経験したことのないデフレスパイラルが東京の経済を直撃しています。
 そこでまず、知事が、現在の厳しい社会経済情勢下において、物づくりを初めとするこれからの東京都内の産業をどのように育成していこうとしているのか、所見を伺います。
 私は、当選後、初の本会議質問以来、質問のたびに物づくり支援をテーマに取り上げ、石原知事とも議論を行ってきました。石原知事からは、機械金属、印刷製本、アパレルなどを三大地場産業として位置づけること、工場制限法の緩和を働きかけることなどの表明も行われるなど、変化も感じられるときもありました。
 こうしたもとで、昨年十月から、中小企業対策審議会において物づくり支援の検討が行われていますが、私も可能な限り、小委員会にも出席させていただいています。一月二十五日の小委員会では、東京の物づくりが目指す方向、物づくりのネックについて議論が交わされており、私も飛び入りで討論に参加させていただきました。小委員会の皆さんは本当に熱心で、東京の物づくりの衰退を憂い、何とかしたいという思いがひしひしと伝わってきました。改めて、この熱意を生かさなければならないと、思いを強くしました。
 そこで知事も、諮問をして答申を受け取るだけでなく、ぜひ機会をつくってこうした議論の場に参加されることを要望しておきます。
 そこで、中小企業対策審議会に参加し、中小企業団体と懇談を行い、地元城南地区や葛飾などの経営者を訪ねた中でお聞きしたこと、また、日本共産党として検討したことなど、提案したいと思います。
 現在、中小企業対策審議会では、この六月をめどに答申をまとめることとして議論を行っていますが、現下の厳しい状況を反映して、議論はどうしても当面の支援に重きを置かざるを得ません。しかし、委員の方の中には、十年後を展望した戦略的検討の必要を訴えられている方もいます。
 実際に物づくりを再興させようとするならば、新たな技術や分野の開拓、人材の育成、経営環境など、一定の期間が必要であり、時間をかけた議論と準備、そして公的支援がどうしても必要となります。
 今、国際競争力が激化するもとで、どういう人材を育成するかは喫緊の課題です。そこで、十年後、二十年後の東京の物づくりを戦略的に位置づけ、そのための技術開発、人材育成や基盤整備などを今から計画的に進めることがどうしても必要と考えますが、どうか。そのために、中小企業対策審議会でも、中期的課題についてはもっと時間をかけて十分検討することを提案するものですが、あわせて、知事の答弁を求めます。
 人材育成では、北海道の函館市などが一部組合をつくって、公立はこだて未来大学を設立して、取り組みを始めています。この大学では、従来の科学技術だけではこれからの時代に追いついていけないとして、情報学科や複雑系学科などを組み合わせた授業を行っています。こうした新しい取り組みに、北海道だけでなく全国から学生が集まってきているとのことです。
 そこで、東京都として、将来の戦略的課題として、技術、情報、経営など総合的な、物づくりの継承者や人材を育成するための教育機関を設立することを提案するものです。知事の所見を伺います。
 将来開拓すべき分野を見定めることも重要です。東京都は、成長産業の一つとしてバイオ産業を挙げていますが、ある中小企業の経営者は、バイオ産業は重要だが、大企業が取ってしまうだろうといっていました。また、既に大阪など全国の自治体の産業政策に位置づけられ、競合も始まっています。また、この方は、むしろ中小企業にとっては超微細技術であるナノテクノロジーの方が向いているといっていました。ナノとは単位のことで、十億分の一の世界、原子一個から数百個の単位で物をつくるものです。
 この技術によって、これまでになかった性質の物質をつくる可能性が切り開かれ、新材料を開発したり、新材料を使った超高密度の半導体集積回路や、副作用がなく治療効果の高い医薬品を実現させることなど、期待されています。ナノテクは、ライフサイエンスや環境、IT、エネルギーなど、幅広い分野の基幹技術となるために、この技術を握ることが、将来の物づくりの世界で決定的な影響力を持つことになります。現在、この分野は、日本がアメリカを一歩リードしているといわれています。
 しかし、これだけ重要な分野でありながら、残念ながら日本では国家戦略に位置づけられていません。東京の物づくりの戦略的課題として、ナノテク産業の育成を提案するものですが、答弁を求めます。
 中長期の課題とあわせて、当面の製造業の危機を乗り切るための施策も重要です。その一つは、東京都の独自の仕組みとして実施されている工業集積地域活性化支援事業を、どう発展させるのかです。この事業は、既に大田区や品川、墨田、足立などは事業が終了していますが、これらの地域では、区が予算の上乗せをするなど、積極的にこの事業を活用し、実際に新製品が開発され、業者を大きく励ましています。
 しかも、大田区や葛飾区を初め、指定を受けた区市からは、この事業の延長もしくは第二期事業としての実施が強く要望されています。これだけ要望がある事業をなぜやめる必要があるのか、どうにも説明がつきません。知事、このように待望されている事業をなぜ拒み続けるのか、所見を伺いたい。
 中小企業の現場が必要としている支援にこたえるスピードも必要です。その一つは、販路拡大のためのホームページの外国語版の作成援助です。実際に、ある業者のホームページを見た海外の業者から発注があり、驚いたといっていました。同時に、小さな業者では、役立つとわかっていても、外国語のホームページをつくる余裕はありません。海外販路のため、中小企業が苦手とするホームページの外国語対応の支援を都として行ってはどうか。
 また、私の地元に城南地域中小企業振興センターがあり、業者に対して研究や開発試験、研修を実施しています。しかし、専門の職員が限られているため、希望するときに対応できない場合があります。研究、研修などをいつでも受けられるようにするための、中小企業振興センターの体制を強化することなどは、すぐにも実行できると思うが、どうか。あわせて答弁を求めます。
 大田、品川は、国の工業集積地域活性化事業の指定を受けており、大田区は最近この制度を活用し、国の補助を受けて住宅併存の工場ビルを建設しました。その際、工場の建設費の半分が区負担となるため、東京都の支援も切望されます。都として積極的にこの声にこたえるよう要望しておきます。
 東京都中小企業団体中央会を訪ねた際に、同会が窓口になっている企業組合制度を、ぜひ東京都でも位置づけてほしいとの要望を受けました。この制度は、会社を設立する際に、法人登録なしで、仲間で仕事を始めたり、失業者がグループで企業を起こしたりすることができるものです。この制度の普及と、企業組合制度の支援は、雇用対策としても役立つものであり、対策を求めるものです。
 不況を乗り切る上で欠かせないのが、資金調達です。多くの業者が何らかの形で融資を受けており、しかも、複数化していることも特徴です。このため、返済金利がかさむなど、経営をますます苦しくするものとなっています。そこで、新たな融資の仕組みが必要となっているのです。
 京都府が最近実施した中小企業経営改善借りかえ制度融資、京都府や京都市の制度融資からの借り入れを一本化し、借りかえられるようにするもので、返済口数を減らして、毎月の返済金額の軽減を図るものです。
 これに対して、都が実施した借りかえ融資は、一本化できるものの、都の制度融資に限られています。区市や国の特別保証制度などの融資も含めて借りかえできる融資を立ち上げることは、大きな支援になると思いますが、見解を伺います。
 今、中小企業を訪ねるとどこでも持ち切りとなるのは、ダイエーなど大企業の破綻に対して、一社で五千二百億円もの金融支援をしようとしていることです。結局これは公的資金の注入ということで、国民の税金がつぎ込まれることになります。中小企業の経営者はだれもが、大企業にむだ金をつぎ込む金があるのだったら、中小企業安定化特別保証制度を延長すべきだといっています。当然の声です。この声にこたえるよう、国に強く働きかけるよう求めるものですが、答弁を求めます。
 最後に、アトピー、アレルギー対策について伺います。
 都が設置したアレルギー性疾患対策検討委員会は、二〇〇〇年三月の中間まとめで、アレルギー専門相談員の育成を提言しました。さらに、昨年六月の最終報告では、これをさらに発展させて、地域のアレルギー性疾患対策を推進する保健活動のリーダーの役割を担う人材として、アレルギー事業推進員の育成を提言しています。
 保健所や病院、診療所、さらに保育園や幼稚園、学校などが連携して、地域でのアレルギー対策を強め、情報の提供や相談体制の強化を図る上で、貴重な役割を果たし得るものと関係者の期待が高まっています。
 都が行った調査結果でも、三歳児の実に四割以上が、アトピーなど何らかのアレルギー性疾患にかかっていることが明らかになっています。また、アレルギー疾患は、たくさんの原因が複雑に絡み合って起こり、都市にアレルギー患者が多いことから、都市化に伴うさまざまな生活環境の変化がアレルギー疾患患者の増加の原因とも指摘されています。対策の強化は都民的課題であり、急務であります。
 アトピー、アレルギーの相談や情報提供などに取り組むアレルギー事業推進員の育成について、直ちに具体化することが必要であります。答弁を求め、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 丸茂勇夫議員の一般質問にお答えいたします。
 都内産業の育成、なかんずく中小企業の育成についてでありますが、東京の産業が活力を取り戻し、日本の経済を牽引していくためには、物づくり産業だけではなくて、新たな成長分野においても、それを扱う企業を育成することは急務であると思っております。
 そのために、既に墨田区に「ベンチャー・SUMIDA」という一種のインキュベーターを施設として設けて、無償で提供しておりますが、あと二カ所そういった施設をつくって、意欲のあるベンチャー技術を開発している方々に機会を与えたいと思っています。
 中には、もう既に賞も取ったり、製品化にこぎつけたものもございますが、そういった試みも複合的に進めることで、東京発の新しい企業の育成、それからまた、今日まで、日本を見えないところで支えてきた中小企業の地名的な意味合いのある技術というものも温存しながら、そういう企業を育てていきたいとも思っております。
 さらに、都としては、観光産業、IT産業、アニメあるいはバイオなども戦略的な産業として位置づけて、その振興を図ることにしておりますし、ご指摘のナノテクも、私も幾つかそういうものを扱うすぐれた会社を知っておりますが、こういう方々が、技術を持ち、すばらしい製品をつくりながら、企業として存続をするための融資で非常に足踏みして、つらい状況にあるということもよく存じております。そのために、CLOを含めて、都独自の融資体制もつくっておりましたが、なお、改良すべきものは改良し、実は地名的な意味合いを持つ中小企業、東京における中小企業というものを守っていきたいと思っております。
 今後、これらの産業が国際的な競争力を持ち、さらに強い産業に育つように、都としても多様な振興策を講じていきたいと思っております。
 なお、ご指摘の大田区にあります中小企業振興センターは、時間の問題などで使いにくかったものですから、私、視察しまして、その場で、ユーザーの便宜にこたえるような体制を整えましたが、なお、足りない部分があれば、意見を聞いて、これを補充し、充足させていきたいと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁します。
   〔産業労働局長浪越勝海君登壇〕

○産業労働局長(浪越勝海君) 中小企業に関する九点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、物づくりに対する中長期的課題についてでございますが、東京の物づくりは危機的な状況にあり、その対策を早急に講ずるため、昨年十月に、中小企業振興対策審議会に都の物づくり振興のあり方について諮問をしたところでございます。
 現在、同審議会において、幅広い観点から審議をいただいており、計画的に進めるべき人材の育成や基盤整備など、中長期的な課題についても検討されております。六月に予定されています答申を受けまして、そうした課題の解決に取り組んでまいりたいと思います。
 次に、物づくりの継承者を育てる教育機関の設立についてでありますが、現在、都内には、工業高校、工業高等専門学校、大学など、物づくりに関連する教育機関が数多くあります。また、都立技術専門校や専修・各種学校などにおいても、基礎から高度実践的な知識、技能の習得のため、さまざまな科目を設置するなど、時代に即応した産業振興を担う人材の育成を行っているところでございます。したがって、都としては、ご指摘のような新たな教育機関を設置する考えはございません。
 次に、ナノテクノロジー産業の育成についてでありますが、ナノテクノロジーは、物づくりだけではなく、IT産業やバイオ産業など、広範な産業分野にわたる融合的かつ総合的な科学技術として期待をされておりますが、現在、いかに産業に結びつけるかについて検討がなされている段階と認識をしております。
 次に、工業集積地域活性化支援事業についてでございますが、本事業については、平成八年度から毎年四地域、合計二十地域を指定し、平成十二年度をもって地域指定を終了したところでございます。
 これは、サンセット事業として、指定後、五年間で事業を実施するものでございまして、事業がすべて終了する平成十六年度にその成果を総括した上で、地域の工業振興施策のあり方について検討をする予定であります。したがって、新たな地域の指定については、現時点では考えておりません。
 次に、外国語ホームページへの支援についてでございますが、外国語版ホームページの作成などにより、海外販路の開拓を図ることは重要なことと考えております。
 社団法人東京産業貿易協会や財団法人東京都中小企業振興公社において、ホームページを立ち上げ、外国語による企業情報や商品情報をインターネットによって世界に発信をしております。また、中小企業の海外への事業展開についても、セミナーや専門家による相談などを実施しております。
 次に、中小企業振興センターの体制強化についてでありますが、本センターは、機器の開放や試験、経営・技術の相談、各種セミナーの開催などを通じて、地域の中小企業の経営安定と技術力の向上に努めているところでございます。
 平成十一年十一月からは、開発支援室と開放機器の夜間利用を実施しております。また、平成十四年度からは、管理運営を財団法人東京都中小企業振興公社にゆだね、機動的、弾力的な事業運営を確保することとしたところでございます。
 次に、企業組合制度への支援についてでありますが、企業組合は、組合員になろうとする個人が、お互いに資本と労働を持ち寄り、共同事業を行う組織で、中小企業等協同組合法に定められた組合制度の一つでございます。
 このメリットとしては、少額の資本で簡易な法人組織での創業が可能であり、税制上の優遇措置もございます。
 東京都中小企業団体中央会では、企業組合の設立や運営について相談に応じるなどの支援をしており、都としても、中央会とともに、企業組合制度の普及に努めております。
 次に、借りかえ融資についてでありますが、都では、昨年十二月の緊急金融支援対策において、複数借入金の一本化を推進することとしたところです。これにより、既存の信用保証つき融資の借り入れが複数ある場合、制度融資の新たな借り入れに際して、これらの借入金を一本化することで、毎月の返済額の負担を軽減して、中小企業の経営安定を図っているところです。
 なお、国の安定化特別保証については、この借りかえの対象にする考え方はございません。
 最後に、国の安定化特別保証制度についてでありますが、国は、安定化特別保証制度の復活については、追加的な財政負担が発生するため、デフレ対策には入れないと聞いております。
 なお、都は、中小企業を取り巻く厳しい金融環境に即応して、昨年の秋以降、制度融資の金利の引き下げ、景気対策緊急融資の創設など、数次にわたる緊急経済対策を実施しているところでございます。
   〔衛生局長今村皓一君登壇〕

○衛生局長(今村皓一君) アレルギー事業推進員の育成についてでございますが、アレルギー性疾患対策の推進に当たっては、都民に身近な地域保健の現場で、事業推進の中心的役割を担う人材の育成が重要であります。
 そのため、都は、平成十四年度に、都及び区市町村の保健婦等を対象に、アレルギー事業推進員育成のための実務研修を計画しております。

○議長(三田敏哉君) この際、議事の都合により、おおむね二十分間休憩いたします。
   午後三時二十七分休憩

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