平成十三年東京都議会会議録第十三号

○議長(三田敏哉君) 二十二番小美濃安弘君。
   〔二十二番小美濃安弘君登壇〕

○二十二番(小美濃安弘君) 去る九月十一日、米国の経済の中心地であるニューヨーク及び首都ワシントンで同時多発テロが発生いたしました。犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、一日も早い復興を心からお祈りいたします。
 しかし、こうした事件は、私どもにとりましても決して対岸の火事ではなく、石原都知事の所信表明演説にもありましたように、首都東京の治安と危機管理は、都政の最重要課題として取り組むべき問題であると考えております。
 そこで、第一点目の質問といたしまして、未来の東京を担う子どもたちの危機管理の一つであります、学校の安全対策についてお伺いいたします。
 去る六月八日に、大阪教育大学附属池田小学校において大変悲しい事件が発生いたしました。私も小学生の子どもを持つ父親の一人として、やりきれない思いであります。このたび、仮校舎のもとで授業が再開されましたが、犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、子どもたちの心の傷が一刻も早くいやされ、教育活動が正常な状態に戻るよう願っているところであります。果たして学校は安全なのか、子どもたちの安全対策は十分に行われているのかということが、今改めて問われており、子どもたちはもとより、都民や保護者は大きな不安を抱えているわけであります。
 さて、このような中で、東京都においては学校における安全対策は万全なのでしょうか。都教育委員会は、児童生徒の安全確保について、学校や区市町村教育委員会に対してどのような指導を行っているのか、まず一点目としてお伺いをいたします。
 次に、学校等に対する非常通報体制、いわゆる学校一一〇番についてお尋ねをいたします。
 今回のような不測の事態を想定した場合、特に凶器を使った犯罪等に対しては、警察などの関係機関の協力がなければ、児童生徒の安全確保は十分にできないと思われます。これについて教育委員会が、自動火災報知器を不測の事態に対応させるものとして、消防庁の使用許可を得たことを初め、全国に先駆け、警視庁と直結した非常通報装置、学校一一〇番を配置することを決めました。都教育委員会の迅速な判断に対し、評価をいたします。
 さて、この学校一一〇番の設置対象は、区市町村立及び私立の小中学校、幼稚園、保育所、盲・聾・養護学校及び児童館となっております。しかし、こうした学校や施設以外にも、低学年が終業後夕方まで集団生活する学童クラブや、不測の事態には一番危険が予想されるさまざまな障害児童施設、また、本年度から都が創設した認証保育所などなど、児童生徒が家庭以外で利用、生活するところは多数存在をいたしております。
 学校一一〇番は、今年度に限った緊急的施策であり、財源措置を予備費から充当するということもあり、設置対象をどこまで広げるかは大変難しいところであったと存じますが、今回対象とならなかった児童施設や障害児施設などについても、安全対策の必要性は同じことだと考えております。
 そこでお尋ねをいたしますが、こうした施設も含めて、都は今後どのような安全対策を講じていくのか、ご所見をお伺いいたします。
 さて、これまで学校は、施設開放等開かれた学校づくりを積極的に推進してまいりました。このことは、学校の教育活動を活発化することや、地域に学校の教育機能を還元する意味において非常に大切であり、引き続き推進していただきたいと考えております。しかし、今回の事件を契機に、開かれた学校づくりが後退するのではないかという懸念があります。
 そこで、都教育委員会としては、学校の安全対策の強化と開かれた学校づくりをどのように整合性を持って推進していくのか、ご所見をお伺いいたします。
 次に、治安の根幹であります犯罪の抑制についてお尋ねいたします。
 年々多様化、または凶悪化する犯罪に対して都民の生活をどう守っていくのか、これは今後の都政の重要課題であります。警察白書によりますと、平成七年から刑法犯の総数は増加しており、この傾向は東京都においても同様であります。犯罪は増加する一方で、検挙率は微減現象が続いており、この現状を何としても打破していかなくてはなりません。今回の質問に際し、さまざまな関係機関に取材を申し入れ、私なりに現状を分析した結果、犯罪数や検挙率には、関係機関及び地域との連絡、連携不足が大きな問題になっていることが推察されました。
 地域では、何が起きようと我関せずといった無関心の人が増加し、個人の権利意識が高くなることにより、地域内の情報は閉鎖的なものになっております。また、行政間でも関係機関の連携が十分できていない場合があるようであります。
 例えば、某市で原付バイクによるひったくりが発生したとき、警察からバイクのナンバー照会を当該市役所に求めたところ、個人名はプライバシーなので教えられないといったやりとりが実際にあったと聞いております。これからますます多様化するであろう犯罪に対して、このような現状を改善していかなくてはなりません。そのためにも、犯罪を未然に防止するシステムづくりが今後求められてまいります。
 都にはさまざまな機関が存在し、中には犯罪未然防止のために必要な情報を持っている機関も多々あろうかと存じます。例えば、警察を初めとして消防署、保健所、そして地元の市区町村の役所などであります。私は、こうした関係機関が連携し、犯罪の未然防止を目的とした連絡会をつくり上げ、地域住民と協力体制をとりながら治安を守っていくことが、最も必要であると考えております。このため、知事のリーダーシップにより、東京都が中心となって、この連絡会を立ち上げていくことが望まれます。
 知事は、所信表明で、最近の国民に、非常に享楽的でせつな的な行動ばかり目立つ、こうした状況が少年非行や凶悪犯罪の温床となっていると指摘しております。犯罪を未然に防止するためには、地域社会を含めた関係者全員のつながりが重要であると考えますが、知事のご所見をお伺いいたします。
 さて、人口割合から見ますと、他県と比較して警視庁の職員数は多いようであります。しかし、外国の要人の警備を初めとした国の仕事や、大都会東京の犯罪発生件数などを考えるならば、決して多過ぎるということはありませんし、むしろ都民の多くは、警視庁の対応能力の強化を求めております。凶悪犯罪を中心とした犯罪件数が都内に集中している現状の中、警視庁では、より犯罪が多い地区への警察官の配置転換を余儀なくされ、人員配置が八人から十二人必要な交番から、二人で済む都市型駐在所への変更をモデル的に実施いたしました。かつては駐在所から交番へという流れが一般的でございましたが、人員不足の折、仕方のないことかもしれません。
 そんな中でも、去る八月末から九月の初めにかけ、警視庁は、刑事部で凶悪事件を扱う捜査一課を三十人、外国人絡みの犯罪を担当する国際捜査課を二十四人、計五十四人を緊急増員いたしました。財政逼迫の折、この決断は高く評価をするところであります。
 私は、財政的な問題ももちろんございますが、東京都の犯罪状況を考えますと、地域の安全を確保するための警察力の強化を積極的に行っていくべきであると考えております。最近、外国人の犯罪や、世田谷区の一家殺人事件などの凶悪犯罪が毎日のように報道されています。都民をこのような犯罪から守るためには、都が中心となり、関係機関と連携し、地域住民と協力しながら犯罪を未然に防止していくことが不可欠であります。
 都知事のリーダーシップにより、犯罪防止連絡会を早急に立ち上げていただきますよう、また、東京の警察力を一層強化していただきますよう重ねて強く要望し、東京の治安に対する質問は終わります。
 次に、悪質かつ美観風致を乱す屋外広告物の撤去についてお伺いをいたします。
 近年、目立って町中に違法な屋外広告物、いわゆる捨て看板が多数見受けられるようになりました。これらの多くは、その内容が青少年に与える影響が極めて悪質であるだけでなく、所構わず設置されているため、町の美観が大きく損なわれております。これら捨て看板は、その名のとおり設置しっ放しで、ほとんどの看板業者は撤去しないため、その多くは各地方自治体が税金により処分をしております。ちなみに、私の居住する武蔵野市は、年間の捨て看板処理枚数が約二万三千枚にも上り、常時職員を二人専属でつけないと、とても追いつかないということであります。
 現在、屋外広告物は、屋外広告物法で基準が定められております。第七条では、広告物の表示及び広告物を掲出する物件の設置を禁止または制限することが明記されており、四項では、特に張り札、立て看板といった、いわゆる捨て看板に対する規制が書かれております。ここで問題になりますのが、違反をした看板を除去するに当たっての観察期間が条文に盛り込まれている点であります。
 要約いたしますと、違反した張り札、立て看板は都道府県知事みずから除去し、またはその命じた者、もしくは委任した者に除去させることができる。ただし、その張り札、立て看板が表示されてから相当の期間を経過し、かつ管理されずに放置されていることが明らかなものという内容であります。この相当な期間というところが大変な問題点であります。そもそもが、捨て看板の多くは短期広告の場合がほとんどであります。例えば金曜日に広告を打って、土日にイベントを終えてしまうといったことが多く、用済みの捨て看板はそのまま放置されてしまいます。
 また、「相当の期間」の判断が地域によっても異なってくるものと思われます。都心部と農村部では、捨て看板の使用目的も異なってくるはずであり、国の法律一本で規制するのは余りにも乱暴であります。
 現在、屋外広告物に関しては、市町村における東京都の事務処理の特例に関する条例により、市町村が基本的には処理することになっております。市町村は、違法な捨て看板に対しては、即時撤去によりその効果を緩和し、再発防止に努めたいところでございますが、屋外広告物法の「相当の期間」により、思い切った取り組みができない状況であります。ある市の担当者に聞いてみたところ、捨て看板を即時撤去し、相手側に訴えられた場合、屋外広告物法の解釈では、裁判に負けてしまうということであります。このままでは、捨て看板は野放し状態であります。
 この状況を打開するためにも、まず、屋外広告物法の第七条四項を改正しなければなりません。これまでも、大都市屋外広告物協議会議長会や関東甲信越屋外広告物協議会議長会などなど、七条の改正を求める要望書を提出しているところでありますが、国は一向に重い腰を上げようとしていないのであります。
 恐らくは捨て看板の問題で一番苦労しているのは、都内の区市であると思われます。東京都がさらなるリーダーシップをとって、屋外広告物法七条の改正にぜひ取り組むべきと思いますが、ご所見をお伺いいたします。
 東京の美観風致を守り、安全で快適なまちづくりに向け、議会、行政ともども、ともに頑張ってまいりましょうと申し上げ、私の一般質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 小美濃安弘議員の一般質問にお答えいたします。
 犯罪の未然の防止についてでありますが、治安が悪化を続ける中で、犯罪を抑制するのは非常に難しい。取り締まりの強化と同時に、事前の予防が重要な要素となります。
 しかし、今の社会では、犯罪を予防するには、それぞれの人々が余りに利己的になりまして、他人に無関心過ぎるという例がございます。
 何年か前でありましたけれども、丸の内をある会社を訪ねて歩いておりましたときに、白いつえをついた全盲の方が、つまり、ブロックとブロックの間が長過ぎるものだから、とにかくどこがどこだかわかんなくなっちゃいまして、立ち往生して、だれか、だれかといっているのに、みんなけげんな顔をするけれども、通り過ぎていく。私が声をかけまして聞きましたら、たまたま私が行くビルと同じだったので、手を引いてさしあげて行きましたが、随分長いこといたんですかといったら、いや、十分ぐらいここにおりましたと。時間も時間でしたから、随分通行人が多い時間でしたけれども、非常に暗然とした気持ちになった記憶がございますが、こういう社会の荒廃が、ますます犯罪の増加につながっているという気がいたします。
 いずれにしても、こういう要素も含めまして、東京の治安というものは総体にたがが緩んできて、それが外れたときに、一体、一挙に何が起こるかわからないという懸念もいたします。
 犯罪の抑制とあわせて、現在の自己中心的な風潮を改めていくことも、これは肝要であると思います。このため、東京は、心の東京革命を主唱して取り組みまして、社会の基本的なルールを、次の世代を担う子どもたちに伝えていこうと努力もしております。
 こうしたさまざまな取り組みを通じて、倫理観のある社会を築くことが、ひいては犯罪の防止につながっていくとも考えております。
 一方、ニューヨークのジュリアーニ市長が、わずかの年月の間に、非常に悪名の高かったニューヨークの治安というものを非常に良好なものに戻しました。これは、いろいろいわれておりますが、一つは、警察官の数を思い切って増加させたわけですけれども、一方、案外気がつかれていないのは、警察の機能をIT化することで、今までデスクワーク、オフィスワークをしていた警察官に非常に余裕ができまして、例えば、資料の作成であるとか、そのために必要な過去のデータなどの取得がインターネットで簡単にできるものですから、一々資料室へ出かけたり、そういう人の手を煩わさずに済むものでして、その浮いてきた時間を、ジュリアーニが督励して、外に出させまして、例えば、町で目にするチンピラのけんかとか、あるいは学生同士、若者のけんかとか、あるいは、通報があったら夫婦げんかでも仲裁に行きますよということで、家庭にまで行って、まあまあ奥さんとかだんなさんとかいって仲介をしまして、まさに民事に介入して、そして、そこで事をおさめると。
 そういう努力の集積が、実はそれから誘発される大きな犯罪を抑制するのに非常に効があったというデータがございまして、これも、やがて東京都庁も、おくれておりますけれども、IT化いたしますが、そういうときに、もちろん警察もそれに倣ってIT化されますけれども、時の総監に諮って、そういう浮いた時間を都民のために有効に使っていただきたいと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 二点の質問にお答え申し上げます。
 まず、学校の安全確保を図る指導についてでございますが、都教育委員会は、大阪での事件発生の六月八日に、子どもたちの安全を確保するために、都立学校及び区市町村教育委員会に対しまして、安全管理の再点検を実施すること、また、家庭と協力して児童生徒への指導に当たること、さらに、地域ぐるみで安全対策に取り組むことなどの徹底を図ったところでございます。
 その後、六月二十二日に区市町村教育委員会との緊急対策会議を開催しまして、学校の安全確保について改めて確認しますとともに、警視庁、消防庁との連携強化などについて、各学校への指導を要請いたしてまいりました。
 今後とも、子どもたちが安心して通える学校づくりのための指導助言を行ってまいります。
 次に、学校の安全対策の強化と開かれた学校づくりの推進についてでございますが、お話のように、これからの学校は、教育活動等を広く外部に示すとともに、家庭や地域社会の意向を反映させまして、地域の協力を得ながら、安全管理を含めた学校運営を進めていくことが重要でございます。
 開かれた学校づくりを積極的に進めますことは、家庭や地域社会が、子どもの教育により深くかかわることになりますことから、地域の子どもの安全を地域で守ろうとする意識を高め、学校の安全を強化することにつながるものと考えております。
 今後とも、都教育委員会は、区市町村教育委員会と連携しまして、開かれた学校づくりを一層推進していくよう、積極的に指導助言してまいります。
   〔福祉局長前川燿男君登壇〕

○福祉局長(前川燿男君) 児童福祉施設などの安全対策についてのお尋ねにお答えいたします。
 児童の入所、通所施設におきましては、お話にもありましたとおり、不時の犯罪や災害などから子どもを守るよう、日ごろから万全の体制を整える必要がございます。
 具体的な対策のあり方は、施設の性格、児童の年齢、施設の開放度や職員の配置状況等によりそれぞれ異なってまいりますが、いずれも、管理者が日ごろの施設運営に当たって、細心の配慮をしていくことが必要であります。
 都は、かねてから、また今回の事件を契機として、これらの施設が地域と一体となった安全対策に万全を期するよう指導をいたしておりますが、今後、さらに引き続き徹底するよう指導いたしてまいります。
   〔都市計画局長木内征司君登壇〕

○都市計画局長(木内征司君) いわゆる捨て看板を即時に除却することについてのご質問にお答えします。
 捨て看板は、電柱や街路樹等に取りつけられ、美観風致を損なっているばかりでなく、通行の妨げにもなっております。
 屋外広告物法では、違反広告物が張り紙であれば直ちに除却することが認められておりますが、捨て看板については、表示されてから相当の期間を経過し、かつ、管理されず放置されているものに限られております。
 しかし、違法である捨て看板も即時に除却できるようにする必要があり、引き続き、国に対し強く法改正を求めてまいります。また、区市とも協議して、実質的に速やかに撤去することができるよう、取り組んでまいります。

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