平成十三年東京都議会会議録第十三号

○副議長(橋本辰二郎君) 六十五番遠藤衛君。
   〔六十五番遠藤衛君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

○六十五番(遠藤衛君) 二十一世紀は、まさに環境と教育であります。きょうを生きる私たちの責任において、緑豊かな環境をしっかりと守っていかなければならないと強く感じているところであります。
 今日、緑の果たしている役割は、水の確保、温暖化防止、大気の浄化あるいは防災面からも、そしてまた、我々の日々の生活に対する潤いの面からも、私たち人間が生きていく上ではかり知れないものがございます。その緑、山の森林、また、まちの森林ともいうべき樹林地、農地が今日的な大きな問題により、存亡の危機にあります。その一例は山の荒廃であり、また、樹林地、農地に対するとらえ方と相続税の矛盾であります。
 そこで、まず初めに、山の森林の保全と保存についてお聞きいたします。
 七月三十一日の読売新聞に、農協、漁協、生協が交流を活発にという記事がございました。この中に、漁師が山を守るという言葉が出てました。
 私は、八月十七日に、松島漁協に行きまして、大山組合長さん、そして青年部の岡田さんにお会いいたしまして、新聞で紹介された様子をつぶさに聞き、見学をしてまいりました。青年部の岡田さんは、海は山があってこそ生きられる、山が荒れてしまえば、やがて漁場にも影響が及ぶことを理屈でなく実感したといわれておりました。また、昔から、山は海の恋人といわれております。松島湾に流れ込む川は、高城川一本しかない、この川の水がカキの養殖を大きく左右する。そこで、会員二十三名が、森林組合の指導で荒廃している山に入って、下草刈りあるいは下枝刈り、間伐作業等行い、栄養豊富な水を松島湾に流入させることによって、カキの養殖にすばらしい成果があるとおっしゃっておりました。
 ここで注目したいことが一つございます。それは、会員家族と子どもが一緒になって作業をしているということでございます。岡田さんは、子どものころから山の大切さを身をもって覚えることの重要性を強調されておりました。自然と共生する社会のためにも、教育的見地からも、森林の大切さ、森林保全、保存に対する意識の啓発、高揚等を子どものころから体験を通して学ぶことが大切であります。環境問題は、身近なところに解決のかぎがあるのではないかと思います。感性豊かな子どもの育成のためにも、授業の中に積極的に環境教育をふやすことが大切であると思いますが、まず、教育長のご所見をお伺いいたします。
 私は、森林の持つ公共性ともいうべき重要な役割について認識を高めることが大切ではないかと思います。我々都民の水がめの一つである小河内ダムの水は、多摩川の源流である山梨県小菅村を初め、奥多摩の森林等によって今日まで水が確保されてきました。その源流の森林をしっかりと守ることは、都民の大きな役割の一つであります。
 私は、山梨県小菅村との民間交流がきっかけで、小菅村の三分の一が都有林、水源涵養林であることを知りました。今回の質問に当たりまして、大変関心を持ちましたので、私は小菅村へ行き、村長さん、そして担当の課長さんと直接会い、お話を聞くことができました。この一帯は、日本でも最もすぐれた水源涵養林だとのことであります。
 しかし、今日、民有林は人手の問題、経営上の問題等で手入れができず、荒れ放題とのことでありました。私は、その実態を自分の目で確かめてまいりました。治水は治山なりといわれております。この山が荒れてしまえば、多摩川の水も心配であります。今まで個人が管理して、私たちが緑の恩恵に浴しておりましたが、今日では個人では管理ができません。林業をめぐる情勢は極めて厳しく、森林所有者の林業への意欲や関心が急速に減退しており、森林経営がまさに危機に瀕しております。荒廃した森林を再生し、守ることは、決して森林所有者のためだけでなく、その恩恵に浴しているすべての都民のためであります。
 こうした森林の問題解決は、関係局が一丸となって取り組まなければ解決はいたしません。多摩川流域四百二十五万人の水源である多摩川上流の民有地に対し、東京都が何らかの手当て策を講ずる必要があるのではないかと思います。私は、命の源、森林について、今後、都は多摩の森林の厳しい実情を踏まえ、どのような東京の森づくりをしていこうとするのか、知事の基本的な考えをお伺いいたします。
 ところで、昨日、我が党の代表質問に対して、知事は、相続税について見直すべき時期に来ていると答弁をされました。現行の相続税について、事業承継を含めさまざまな問題がありますが、私は平成十二年第三回定例会におきまして、相続税に対する疑問を投げかけました。今回のこの三回の定例会でも、我が党だけでも、この相続税に対して私で三人目の質問であります。この問題がいかに重要課題であるかということを、ご認識していただけるのではないかというふうに思います。
 私は、その中でも、特に焦眉の課題となっている農地や保存樹林地にかかわる相続税について取り上げたいと思います。
 近年、都市の樹林地や農地が著しく減少してきていますが、その理由を調べてみると、一番の原因が相続税にあるのではないかということがわかりました。
 具体的に申し上げますと、区市町村が保全を図っている樹林地の指定解除の状況を見ますと、判明しているだけでも、相続が原因となっているものは、これまでに区部において二十三件で、解除件数全体の一割、市部では百十九件、解除件数全体の二割に達しております。また、都の保全地域内の土地の買い取りについては、平成九年度から十三年度の五年間で八十一件、実に買い取り件数全体の約六割が相続のためとなっております。また、都のみどり率の推移を見ても、特に北多摩地域のみどり率の減少が著しくなっております。相続税の支払いのための売却が、そのかなりの部分を占めているであろうことは想像が容易にできるわけであります。
 緑の大切さ、都市農業の大切さを国は強調し、また、東京都も農林漁業振興対策審議会の答申においても、その大切さを認めているにもかかわらず、相続税によって大切な緑、農地が減少していくことはおかしいと思います。
 私たちは、山の森林とまちの森林、そして都市農業の大切さをもっともっと認識し、みんなで守っていかなければなりません。まちの森林を守るために、相続税が何といってもネックとなっています。そこでまず、樹林地を守るための相続税の廃止を、また、あわせて農地、空閑地を含めて、守るための相続税の廃止を提案いたしますが、ご所見をお伺いします。
 次に、緑地保全の面から、都、区市町村が交付している緑地奨励金などは非課税にすべきだと考えます。同様に、十二年度に全面改正された自然保護条例で制度化された屋上等緑化に関し、ヒートアイランド現象の緩和を目的とする、屋上や壁面などの建築物上の緑化施設に対する償却資産にかかわる固定資産税も非課税にすべきと考えますが、ご所見をお伺いします。
 次に、教師の研修についてお伺いします。
 多くの先生の中には、若い先生、中堅の先生でも、涙ぐましい努力をして、子どもを立ち直らせているケースもございます。都民の見た教師像には、平成十二年十月、青少年にかかわる世論調査がありますが、この中で、尊敬できる先生とは、本気になって話を聞いてくれる先生、これが六四%でトップ、そしてこの尊敬できる先生に出会いましたかという問いに、出会えたと答えた方は七二・九%、出会えなかったが二七・一%、この二七・一%の子どもは、自分の悩み等に対して、本気になって話が聞いてもらえなかったことになります。ここに大きな問題が潜んでいるわけであります。悩んだり苦しんだりしている子どもの話を本気になって聞いてくれない先生は、先生として失格であります。先生に適していないことになります。このような観点に立ってお尋ねいたします。
 まず初めに、新任教師の研修についてお尋ねいたします。
 既に、教育委員会として課題別研修を実施していることは承知をしております。その目的と内容については事前に資料をいただいておりますが、校外研修、校内研修につきましては、ただ研修の回数を消化しているだけにすぎない感じがいたします。果たして、教育委員会の目的としていることが十分に達しているのかどうか疑問に思います。
 新任教師は、学校を卒業して資格を取得してすぐに教鞭をとるのではなく、最初の資格は仮免許、一年くらいしっかりと社会体験を積んでから資格を与え、教鞭をとってもらう必要があるのではないか。学校で得た知識だけでは、教育者として不十分に思います。社会体験は絶対必要であります。教育長の所見をお伺いいたします。
 また、既に教師として教鞭をとられている中堅の先生にも、三年に一回くらいは特別研修というようなことを通して、社会の変化に即対応してもらえる知識を備えることも大切であります。
 昨日の新聞でも、都は校長の選考の面接委員に大手企業の人事担当者を委嘱するという記事もありました。学校という限られた社会では一般常識がおくれます。したがって、このような研修を通して視野を広め、あわせて感動体験を得ることが大切であります。それが説得力につながり、自信を生むはずであります。三年に一度の中堅の先生に対する特別研修というような制度について、教育長の所見をお聞きいたします。
 教育はすべての原点であります。先生には真の教育者としてもっともっと自信と誇りを持ってほしいと、大きな期待をするからであります。
 次に、部活の先生の質問に入ります。
 近くの小学校では、子どもたちが卒業式で、自分の将来の夢と決意を、お父さん、お母さん、先生の前でステージに立って胸を張って大きな声で真剣に訴えます。中には、中学校に行ったら部活で頑張る、プロ野球の選手になるんだ、サッカーの選手になる、あるいは音楽の先生になるんだといって、本当に頼もしい限りであります。しかし、この純粋な子どもたちの大きな夢を一瞬にして砕いてしまうのが、顧問の先生がいないということであります。部活が、部がなくなってしまうことであります。
 学校によっては、地域の方の指導者によって何とか部活は存在しているものの、対外試合ができず、練習をしているだけであります。子どもたちをがっかりさせず、子どもたちの夢を大きく伸ばすためにも、また、青少年の健全育成のためにも、部活の顧問の先生を置くことは、たとえどんな理由があろうとも、学校の責任においてしっかりと対応すべきではないかと思います。
 部活動の顧問になる先生がいないのは大きな問題であります。部活動の顧問の先生になり手のいない、その状況に対してどのような対応を考えているのか、また、そのことによる生徒への影響について教育長の所見をお聞かせ願います。
 最後に、おやじの会についてお伺いします。
 今日、スポーツなどを通して、おやじの会が各地で話題になっておりますが、これからは子どもたちとその学校ともかかわりをもっともっと持ってもらうこと、それがひいては地域の連帯意識を高め、地域活動の発展につながるものと思います。
 私は、このような会の活動こそ、まさに心の東京革命の原点であると思います。二十一世紀の東京を真に支える青少年を育てていくことになると信ずるものであります。局長の所見をお伺いして、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 遠藤衛議員の一般質問にお答えいたします。
 東京の森づくりの方向についてでありますが、たわわな緑に覆われた森にあこがれない人はいないと思います。古事記や日本書紀にも出てくる白鳥伝説の日本武尊も、死に際に白鳥になって、帰るべき倭を慕って、「倭は 国のまほろば たたなづく 青垣山隠れる 倭しうるわし」とうたって、白鳥になって魂は森に向かって帰ったわけでありますけれども、私は、以前、就任して間もなくでありますが、ホームレスの人たちも動員して、給料を払いながら下草刈り、下枝刈りで山の整備をしていただいている奥多摩の森を視察に参りました。
 その部分は、それで何とか持ち直すでしょうけれども、特に私有林の方がそういう手が入らずに、だんだん荒廃は進んでおりまして、非常に痛ましい思いをいたしましたが、東京の森林は水資源の涵養や大気の浄化など、都市部を含めた都民に――これは、都民自身がそれほど強く意識しておりませんけれども、実に厚い恩恵というものをもたらしているわけであります。
 しかし、近年の外材による国産木材の価格の低落を背景にしまして、林業、木材産業が停滞しまして、手入れの行き届かない森林が増加して、山そのものが荒廃をしております。
 都としましては、森林をより健全に保全するため、これまでの木材生産を基軸にした林業振興施策にとどまらずに、スウェーデンなどではやっているようでありますが、青少年に森林防衛隊というふうな組織をつくってもらいまして、彼らの情操教育のためにも基本的な技術を教えて、山に入って自分たちのために森を守るという、そういう試みなどもしながら、国土や環境を保全する機能、青少年の教育、都民との触れ合いなど、人の共生の場としての機能という意味で森林をとらえて、いろんな人の力を合わせながら、東京の新しい意味合いでの森づくりを目指していきたいと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 教育に関します四点の質問にお答え申し上げます。
 まず、環境教育を充実させることについてでございますが、お話のように、授業を通して子どもたちに自然や環境の問題に関心を持たせ、進んで自然保護や環境保全に参加する態度を育てることは重要なことでございます。
 都教育委員会は、環境教育に関する指導資料を作成しますとともに、子どもたちの環境問題についての関心を高め、実践的態度を育成する観点から、実践活動の発表会を開催しまして、環境学習の取り組みを奨励しているところでございます。
 今後とも、子どもたちが森林や水の大切さを体験し、その感動を広げるような学習を教育課程に位置づけることなどにつきまして、各学校を指導、助言してまいります。
 次に、新任教員に対する社会体験研修についてですが、教員が一定期間、企業等で社会体験を行いますことは、対人関係の能力を高めたり、視野を広げたりする上で意義がありますし、その体験を教育活動や学校運営に生かすなどの効果が期待できると考えております。
 国におきましては、現在、教員免許制度のあり方について中央教育審議会で検討が進められておりますが、今後、こうした動向も見据えながら、社会体験研修の効果的な実施方法につきまして、対象者、実施期間、受け入れ先等を含めまして検討してまいります。
 次に、中堅教員に対する特別研修についてですが、現在、教職員研修センターにおきまして、教員在職五年、十年及び二十年に達した教員を対象に、現職研修を各ライフステージに応じて体系的に実施をいたしております。現職研修におきましては、民間企業や社会福祉施設等を訪問し、企業における組織運営を学ぶ機会を設けることなどを行って、研修内容の充実を図っているところでございます。
 中堅の教員が研修を通しまして一層視野を広め、感動体験を得ることができるよう、今後、企業等における研修をさらに充実させるなど、現職研修や専門研修の工夫、改善に努めてまいります。
 最後に、部活動の顧問のなり手がいない状況への対応についてでございますが、部活動は、生徒の自主性、協調性などの育成や、生徒相互及び教員との触れ合いの場として、健全育成の視点からも意義を有するものでございます。
 都教育委員会は、学校の部活動を支援するために、指導者講習会を開催しますとともに、外部指導員の活用や複数校合同部活動の推進、規制の厳しい大会参加規則の弾力化等について、区市町村教育委員会や関係団体への働きかけを行っております。
 また、多くの生徒たちにスポーツ活動の機会と場を提供するために、学校を拠点とした地域スポーツクラブの設立を支援いたしております。
 今後とも、区市町村教育委員会や、地域や関係団体との連携を図りながら、生徒の立場に立って学校を指導し、部活動の活性化を図ってまいります。
   〔環境局長赤星經昭君登壇〕

○環境局長(赤星經昭君) 緑行政に関します二点の質問にお答え申し上げます。
 まず、樹林地等に対します相続税についてでございますが、都内の貴重な緑地を保全するためには、税制度の改善は重要でございます。
 このため、都はこれまでも、緑地保全地域や区市町村が指定します保存樹林地等に対する相続税の納税猶予を国に提案要求してまいりました。今後とも、改善に向かって粘り強く国に要求してまいります。
 次に、緑地奨励金等の非課税措置についてでございますが、都では本年新たに、緑地奨励金の非課税並びに屋上等緑化施設の償却資産に対する固定資産税の非課税について、国に提案要求いたしました。
 都内の貴重な緑地を保全し、緑化を推進するための税制度の改善を、今後とも国に対し強く働きかけてまいります。
   〔産業労働局長浪越勝海君登壇〕

○産業労働局長(浪越勝海君) 農地の相続税についてのお尋ねでございますが、東京の農地は生産基盤であるとともに、防災面や環境面からも大きな役割を果たしています。このような農地を確保する上で、都市地域を中心に相続税の負担が大きな課題となっていることは十分承知しております。
 都としても、都市農業を支える生産緑地について、市民農園や水耕栽培などの一部温室などに相続税の納税猶予制度が適用されるよう、国に提案してきたところでございます。今後とも、引き続き強く国に働きかけてまいります。
   〔生活文化局長高橋信行君登壇〕

○生活文化局長(高橋信行君) 子どもの育成につながるおやじの会の活動についてでありますが、心の東京革命を推進するためには、親や大人が近所の子どもたちにもっと関心を持ち、学校や地域等での活動に積極的にかかわっていることが大切であります。地域のつながりが薄れつつある今日、大人も参加する自然体験やスポーツなどの活動は、地域を活性化させ、子どもの育成に大きな力を発揮しております。
 ご指摘のように、特に、おやじの会の存在は、野外活動等で幅広い事業の展開が可能になるだけでなく、とかく子育てに父親不在などといわれますが、父親が子どもの育成にかかわることについては十分その役割を果たすことができ、非常に効果的だと考えます。
 今後、おやじの会が中心となって実施する地域ぐるみの取り組みを、心の東京革命推進モデルに指定し、都内の隅々までその活動を広め、次代を担う子どもたちの育成に努めてまいりたいと考えます。

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