平成十三年東京都議会会議録第十三号

○副議長(橋本辰二郎君) 百十七番矢部一君。
   〔百十七番矢部一君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

○百十七番(矢部一君) 去る九月一日未明に新宿歌舞伎町で発生いたしました雑居ビル火災において、四十四名ものとうとい人命が失われる大参事が発生いたしました。さらに、十一日にはニューヨークにおいてテロによる、一般常識では考えもつかぬ大参事が起こりました。
 それだけではなくて、日系二世のミノル・ヤマザキ氏が設計をしたワールド・トレード・センタービルが、それこそライブ放送による崩壊現場を、多くの人々とともに目の当たりにしたわけでございます。お亡くなりになられました皆々様に、心からご冥福をお祈り申し上げる次第であります。規模の違いはあるものの、近代都市、そのもろさを感じるとともに、建築にかかわる者として、何ともやりきれない思いであります。
 まず初めに、歌舞伎町の火災に関して、その再発防止の観点から、お尋ねをしたいと思います。
 数々のマスコミ等の解説等を聞く中で、まとめてみますと、階段が一カ所であり、防火戸の開閉に障害物があったり、排煙窓も機能していない、あるいは消防の指導を無視していた、避難口に目隠しがあった、消防進入口への天幕があり進入が不可能であった、内装材等によるガスの発生、避難器具の未設置などなど、数限りなく問題点が浮かび上がってくるのであります。
 この火災の重大性を受けとめて、東京消防庁では、都内約四千の雑居ビルを対象に、緊急特別査察を実施をいたしました。その中間報告のマスコミ報道では、都内の雑居ビル九割に法令違反、の活字が踊っておりました。
 内容は、四千の対象のうち千の対象を査察した結果、その約九割のビルに、一万二千件に及ぶ消防法などの法令違反があったとのことであります。防火管理者未選任や消防計画の未作成、さらには、消火器や自動火災報知器の未設置、防火戸の閉鎖障害、避難階段における障害物の放置など、何とも驚くべき結果であります。
 小規模な雑居ビルの実態は、建物所有者やテナント業者の頻繁な変更、複数のテナントでの共用等、責任の所在が極めて不明確なものがあります。当然のごとく、行政機関等への届け出の怠り、経営に重点を置いた結果、防火安全の軽視など、わかればわかるほど、何とも恐ろしい限りであります。
 このような雑居ビルに対して、今後、消防庁はどのように防火安全対策を行っていくのか、まず、お尋ねをしたいと思います。
 次に、建築指導の観点から、その特定行政庁であります各区におきましても、それぞれの繁華街の雑居ビルについて、積極的に緊急安全点検を行っていると聞いております。それらの結果はいかがでありましょうか。
 今回の火災により多くの死傷者を出した原因とされる有毒な煙やガス、避難路の確保について、お尋ねを申し上げます。
 高さや用途の違いによって内装の制限を受けるところがありますが、それらにつきましては、不燃や難燃、防炎加工等の物を用いることになっております。それらが出すガスについても、当然のごとく、発生までの時間等は違うものの、制約がされております。今回のような雑居ビルや、特に最近ふえてきております超高層マンション等においても、これは深刻な問題であります。しかし、現実、家具や調度品等については、何らの制限も加えられておりません。
 そこで、有毒な煙やガスなどの発生した場合に関する対策として、防火及び避難に関する規定を改めて見直す必要があると考えますが、いかがでございましょうか。今回のような雑居ビルにおいては、店舗の変更や用途の変更などが頻繁に行われており、建築行政の面では、なかなか指導ができない状況にあります。
 そこで、建築に関する事項について、お尋ねを申し上げます。
 雑居ビル内の飲食店などの営業許可に際して、チェックのできるような仕組みづくりが必要であると考えますが、ご所見を伺います。
 次に、ビッグサイトの前身であります、晴海の国際展示場に関しまして、お尋ねをいたします。
 昭和三十三年、東京都が見本市会場として、当時、時価六億円と評価された四万九千五百八十六・七五平米の土地を現物出資し、総額十二億円の資本にて、管理運営のための株式会社東京国際貿易センターが発足をいたしました。昭和三十四年三月に展示場の竣工、その後、労働経済局の所管地を買い増しして、昭和四十六年三月に新館を増設、以後、大変なにぎわいの中、多くの人々に親しまれてまいりました。その晴海の見本市会場もだんだん手狭になり、ビッグサイトの完成とともに、平成八年三月に閉場されました。平成八年の十月には、清掃局に土地の一部であります二万五千三百九十・一五平米を売却し、二百八十億円の売却益を得ておりました。
 その株式会社東京国際貿易センターの数年にわたる決算書によりますと、その剰余金を用いて、ピークでは百六十億円を超える株式等の運用を行っていた様子がうかがえます。その結果、多少の利益を得ていたものの、結果として、デリバティブなどで多額の損失を出し、監査等の指摘も踏まえ、平成十二年決算において三十一億円に及ぶ損金を計上し、役員等の引責辞任により、処理がなされたようであります。
 このことで思い起こしますのは、かつてモスクワを訪問したときに、当時の市長が、モスクワは東京よりも進んでいるところがいっぱいある、しかし、東京の空がきれいになり、水がきれいになったということはすばらしい、ソビエトでは取り締まる側も役所、指導を受ける側も役所、だから一向にできないということをいっておりました。社会主義の欠点をかいま見たような気がいたし、私の頭の中にいつまでも残っている言葉であります。
 役所の仕組みは予算を立て、それをいかに有効に使い切るかであり、株式会社は、少ない予算でいかに利益を上げるかであります。相入れない仕組みの中でお互いに理解し合うことは必要ですけれども、なれの中でルーズになってはなりません。発足当初、極めて慎重に半年決算で進められていた株式会社国際貿易センターも、余りにも大胆になり過ぎたといわざるを得ません。こうしたことが、氷山の一角でないことを祈るところであります。
 晴海の国際展示場の沿革とともに、株式会社国際貿易センターの生い立ち、現状、今後の進むべき方向、残された跡地利用、根本的な監理団体のあり方についてお尋ねをしたいと思います。
 次に、ISOの認証取得について、お伺いをいたします。
 近年、国際規格のISOが品質管理や品質保証のための規格についてルールづくりをし、一定のレベルを保つ仕組みとしてISO九〇〇〇シリーズができ、国際的な商取引の中でその認証を受ける必要から、我が国においても、現在、国内の一万九千余りの企業が取得をし、都内企業も三千に上るなど、大きく広がっております。
 また、これとは別にできました一四〇〇〇シリーズは環境マネジメントに関する規格ですが、環境を大切にする企業の代名詞のように使われております。とりわけ、この都庁も取得をしております一四〇〇一は、環境問題がクローズアップされている今日、大きなステータスにもなっていると思われます。資格保持者としての見解をお尋ねをいたします。
 その一面で、ISOの認証取得について高額な費用がかかることを見過ごすわけにはまいりません。産業労働局において、取得にかかる経費の補助の仕組みがあることは評価をいたしますが、聞くところによりますと、中小企業が認証取得に二百万から四百万以上かかっていることもあるということであります。年間の維持経費も多額に及んでおり、さらには、三年の更新のときには、ほぼ取得と同じくらいの金額がかかるようであります。負担の大きさから、ISO倒産というような言葉がささやかれることもあります。
 本当に大切なことは、ISOの認証を取得することではなく、品質の管理や環境に配慮した経済活動を、おのおのの企業が実践することであります。環境を重要視する石原都政にあって、費用がかかる制度を体力のない中小企業に強いるのは、決して本旨とするところではないと思います。
 現時点での東京都へ指名参加をされている業者のISO取得の動向について、お聞かせをいただきたいと思います。
 財務局や交通局、水道局、下水道局といった公営企業局は、建設工事等の競争入札の参加資格審査において、ISOの取得を格付に反映させています。また、下水道局には、ISOの取得を入札参加の条件にする工事もあります。その意図するところは理解できなくもありませんが、先ほど述べましたように、その費用負担ゆえに中小企業の経営圧迫要因になっているとすれば、角を矯めて牛を殺す結果にならないかと、心配されるものであります。
 今、長引く不況の中、実質的な企業の態勢などを考慮して、入札条件の見直しに取り組むべきと考えますが、ご所見をお伺いをいたします。
 最後に、税制についてお尋ねをするわけですが、税がいろいろなことに影響する例として、よく京都の間口税というものが挙げられます。京都には、間口が狭く、奥行きの長い建物が、今日もその痕跡として残っております。日本におきましても、日露戦争の戦費調達税として相続税はスタートいたしました。
 本年六月、ブッシュ大統領が大型減税法案に署名をいたしました。これにより、アメリカでは相続税が段階的に引き下げられ、二〇一〇年には廃止されることになりました。生前に稼いだ所得には所得税がかかっているのに、死後も相続税がかかるのは不公平だという考え方に基づくものと、伺っております。オーストラリア、カナダなど、相続税がない国はほかにもあります。
 一方、我が国の相続税は、最高税率、国民所得対比などを見ても、諸外国と比べて高くなっております。とりわけ、地価の高い東京の相続税負担は過重になっており、中小事業者の事業承継に大きな支障を来しております。相続が発生するたびに商店街から商店が消え、高い技術を持った中小工場が経営を断念しているという現状があります。これでは、東京の活力の維持は望めないのであります。
 相続税の廃止を前提に、まずは事業を継続する場合には相続税がかからないようにするなど、事業承継税制の是正を国に強く求めるべきと考えますが、所見をお伺いを申し上げます。
 次に、贈与税について申し上げます。
 贈与税は、相続税よりもさらに高い累進税率となっております。このため、死後における財産の分割や、家庭内の事情などを考慮し、例えば事業の後継者となる子どもにあらかじめ財産を贈与しておきたいと考えても、高い贈与税負担ゆえに、あきらめざるを得ないのが現状であります。後継者に計画的に財産移転を行い、その育成を図ることは、中小企業を存続していく上で極めて重要であります。
 アメリカ、ドイツ、フランスでは、贈与税と相続税は一本化され、税率構造は同一となっております。我が国においても、中小事業者の円滑な事業承継を図るとともに、社会経済の活性化を図る観点から、贈与税と相続税の一本化を含め、贈与税の負担軽減を図る必要があると考えますが、ご所見をお伺いをいたします。
 以上で私の質問を終わらせていただきます。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 矢部一議員の一般質問にお答えいたします。
 監理団体のあり方についてでありますが、本来、監理団体は、民間の資金や人材、経営ノウハウなどを活用することによりまして、役人や役人のOBばかりでするよりも、効率的、弾力的なサービスの提供が見込めるだろうということで設立し、活用もされてきました。
 しかし、ご指摘のようにいろいろな問題が発生しておりまして、昨年、各団体ごとに設立趣旨にまでさかのぼった抜本的な見直しを行い、その結果を、監理団体改革実施計画に取りまとめました。
 この計画では、効率的経営が実現できるものについては引き続き活用し、一方、必要性の薄れたものなどについては、団体そのものを統廃合することとしております。
 その他の質問については、関係局長から答弁いたします。
   〔消防総監杉村哲也君登壇〕

○消防総監(杉村哲也君) 小規模雑居ビルの防火安全対策についてのお尋ねですが、現在、東京消防庁では、管内一斉に緊急特別査察を実施中であり、中間の集計では、防火管理や消防用設備等の維持管理など、多くの指摘事項があることから、厳正に是正促進の徹底を図るとともに、臨時の防火管理者資格講習を実施し、防火管理者の選任を促進してまいります。
 また、火災発生時において、廊下や階段に避難障害となる物、防火戸の閉鎖障害となる物を置かない環境づくりを啓発することが重要であります。このため、秋の火災予防運動を中心に、廊下、階段等のクリーンキャンペーンを強力に実施することとしております。
 一方、外部の有識者で構成する小規模雑居ビル火災安全対策検討委員会を設置し、雑居ビルの防火管理や、消防用設備等の維持管理などに係る安全対策について検討しているところであります。
 今後、委員会の検討結果を踏まえて、同種火災の再発防止のため、所要の措置を講ずるとともに、関係行政機関とより連携を密にした、防火安全対策の充実を図ってまいります。
   〔都市計画局長木内征司君登壇〕

○都市計画局長(木内征司君) 新宿の火災に関連した、三点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、いわゆる雑居ビルを対象とした緊急安全点検の進捗状況などについてでございます。
 東京都と区市は、現在、地元消防署と連携をとりつつ、立入調査を実施しておりまして、既に調査対象のほぼ半数である約千五百棟を調査し、十月中には終了する予定でございます。
 調査時点において、避難通路などに荷物が置かれているなど、管理が不適切である場合には、直ちに除去等を指示し、改善をさせております。さらに、防火戸の不備など、施設、構造面に及ぶ問題がある場合については、今後、文書による改善指示と、そのフォローを行うなど、指導の強化に努めてまいります。
 次に、防火・避難規定の見直しについてでございます。
 家具などの可燃物から発生する煙やガスは避難を妨げる要因であり、人命の被害をも招きかねないと考えます。こうしたことから、建築基準法や建築安全条例では、煙やガスが発生しても建築物から安全に避難できるように、防火区画、排煙設備、内装制限などの規定を設けているところでございます。
 しかしながら、今回の火災では、結果的にはこれらの規定が守られなかったと考えられますので、今後、緊急安全点検等の結果を踏まえ、国及び関係機関と十分に協議し、建築安全条例も含めまして、防火・避難規定の見直しについて、必要な検討を進めてまいります。
 次に、雑居ビルに対する建築指導についてでございます。
 いわゆる雑居ビルにおいては、実態把握が困難な状況にあることは、ご指摘のとおりでございます。現在、風俗営業の許可に際しては、所轄警察署からの照会に基づいて、建築基準法の観点から、防火・避難の安全性をチェックすることとなっております。
 今回の火災を機に、飲食店等に関しても同様の取り扱いが必要であると考えておりまして、今後、関係部局とその実施に向けて検討してまいります。
   〔産業労働局長浪越勝海君登壇〕

○産業労働局長(浪越勝海君) 二点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、株式会社東京国際貿易センターについてでございますが、昭和三十三年、晴海国際展示場の運営を目的に、都が経済界の協力を得て設立した会社でございまして、現在は、東京ビッグサイト施設の維持管理、有明パークビルの管理運営などの事業を行っております。また、都庁改革アクションプランによりまして、平成十五年に社団法人東京国際見本市協会との統合を予定しているところでございます。
 なお、晴海国際展示場跡地については、現在、民間会社に暫定利用させておりますが、その後の利用計画は未定でございます。
 次に、事業承継税制の是正についてでございますが、相続税等の負担が中小企業者の事業の円滑な承継に影響を与えていることは、中小企業振興を図る上でも大きな課題であると認識しております。
 これまでも、その観点から、負担軽減を国に強く働きかけてきたところでありまして、平成十三年度の税制改正では、相続税における特定小規模宅地の特例の拡充や、贈与税の基礎控除額の引き上げが図られたところでございます。
 しかし、円滑な事業承継を進めていくためには、まだ不十分なところもあり、納税猶予制度の設置や土地の評価方法の見直しなど、引き続き相続税等の負担軽減措置を国に求めてまいります。
   〔環境局長赤星經昭君登壇〕

○環境局長(赤星經昭君) ISO一四〇〇一についてお答え申し上げます。
 東京都は、平成十二年二月、新宿都庁舎におきまして、環境マネジメントシステムの国際規格でございますISO一四〇〇一の認証を取得いたしました。環境マネジメントシステムは、企業などの組織が事業活動に伴います環境への負荷を継続的に低減していくための仕組みでございます。
 東京都は、ISOの取得を契機といたしまして、都庁舎において一層の省資源、省エネルギー、廃棄物の削減のほか、幅広く環境配慮の徹底に努めております。
   〔財務局長安樂進君登壇〕

○財務局長(安樂進君) ISOの認証取得に関する質問にお答えいたします。
 まず、入札参加資格者のISOの取得の状況でありますが、八月末現在の入札参加資格者の登録数は、工事関係が一万一千七百七十七、物品関係が一万五百二十三でありますが、このうちISO九〇〇〇シリーズの取得者は、工事関係では千九十で、取得率は九・三%、物品関係では三百三十一で、取得率は三・二%となっております。
 また、ISO一四〇〇〇シリーズの取得者は、工事関係では百六十七、取得率は一・四%、物品関係では百五十一、取得率は一・四%となっております。
 次に、ISO認証取得を入札条件にすることについてのお尋ねでございますが、東京都は、品質の向上や環境改善を進めるため、競争入札の参加資格の審査におきまして、ISO九〇〇〇あるいは一四〇〇〇シリーズの認証を取得しているかどうかを格付に反映させております。
 具体的に申しますと、認証を取得した者に対し、三%または五%の実績額の割り増しを行っております。これによりまして、認証取得者は、より上位に格付され、より大きな契約案件を受注する可能性が生ずることとなります。
 しかし、ISOの認証取得は、入札参加の条件ではなく、したがって、認証を取得していない企業が入札から排除されるものではないという点をご理解いただきたいと存じます。
 お話しありましたように、公営企業におきましては、難易度の高い大型工事につきまして、ISOの取得を入札条件とした例がございますが、これは大企業を対象としたものでありまして、中小企業が参加する案件について実施されたことはございません。
 今後とも、中小企業に対しましては、ISOを取得しないために入札参加が妨げられるような条件づきについては、これをしない方向で慎重に対応していきたいと思います。
   〔主税局長安間謙臣君登壇〕

○主税局長(安間謙臣君) 贈与税の負担軽減についてのご質問にお答えいたします。
 都においては、これまでも、社会経済の活力を維持する観点から、贈与税の負担を緩和するよう国に対して提案要求しており、今年度の税制改正においては、基礎控除が従来の六十万円から百十万円に引き上げられたところでございます。今後とも引き続き負担軽減について強く働きかけてまいります。
 また、ご提言の相続税と贈与税の一本化につきましては、相続税体系全体にかかわる問題ではございますが、事業承継の円滑化などの観点から、今後、都としても研究を深めてまいります。

ページ先頭に戻る