平成十三年東京都議会会議録第十三号

○議長(三田敏哉君) 三十二番酒井大史君。
   〔三十二番酒井大史君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○三十二番(酒井大史君) 第十六期都議会議員となり、この初めての定例都議会において、民主党の一番手として一般質問をさせていただくことに心地よい緊張感を覚えながら、質問通告に基づき質問させていただきますが、通告の三つ目については、今回は見送らせていただき、大きく分けて二つの質問をさせていただきます。
 まず初めに、犯罪被害者サポートについて質問いたします。
 私は、立川市議会議員の時代から、犯罪被害者の支援をライフワークとしております。また、我が民主党も同様に、犯罪被害者に対する支援の充実を訴えてまいりました。
 そうした中で、去る九月十一日、アメリカ合衆国において、何の罪もない多くの市民が犠牲になるという同時多発テロが発生いたしました。ここに、テロによって犠牲になった同胞やアメリカ市民を初めとする各国の市民に哀悼の意を表したいと思います。
 また、この東京都においても、地下鉄サリン事件というテロが起こったことは記憶に新しいと思います。
 このようなテロ事件ばかりではなく、現在、この東京都においては、知事も指摘をしているように、凶暴、凶悪な犯罪が急増している中で、その対策が急務の課題となっているのと同時に、人の命や身体に危害を加える犯罪の犠牲になっている都民の支援についても、これまで以上に取り組んでいく必要があると思います。
 しかるに、日本の現状を見ますと、従来、刑事訴訟法等、犯罪加害者に対する国家権力からの人権侵害を守るための法制度はあるものの、犯罪被害者の人権を守るための明文化された法律は存在しませんでした。
 昨年五月十二日、第百四十七回国会において、刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律案、犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律案が可決、成立し、ようやく犯罪被害者の権利を認めていく法律が整備されましたが、犯罪被害者の方々にとって大きくのしかかっている経済的な問題や、事件後、個人差のある心のケアの問題などについては、十分な対策がとられていない状況にあります。
 例えば、経済的な支援策として、犯罪被害者等給付金支給法に基づく見舞金のようなものがございますが、犯罪白書によると、この法律に基づく一九九九年度における支給決定者は二百六十五人、支給決定総額は六億四千四百万円、一人当たりの平均支給額は二百四十三万円と、犯罪加害者に対する国の予算と比べたとき、その一つである国選弁護人に対する予算五十六億円を見ても、不十分といわざるを得ない状況です。
 また、支給決定者についても、殺人事件による死亡者数約千二百人に、全くといっていいほど対応し切れていない状況にあります。そして、この支給決定者のほとんどは遺族に対してであり、けがを負った本人に対する支給決定は、たった六人にすぎません。
 さらに、犯罪被害者に重くのしかかる具体的な問題があります。
 第一は、犯罪によって被害者や家族に発生する医療費負担の問題です。ある日突然、犯罪の被害に遭い、長期に入院を余儀なくされた場合、病院に個室しかあいていない場合には、差額ベッド代だけでも月三十万円ぐらいの支払いが発生します。また、救命救急治療を一週間受けたものの、残念ながらお亡くなりになってしまった場合に、その遺族に残されるのは、悲しみと約百万円の医療費請求です。これらの負担については、将来的には加害者に求償することが可能としても、一時的負担としては大き過ぎるのではないかと考えます。
 また、人道的な問題として、現在、例えばレイプに遭ったときの検査料や避妊薬さえも個人負担となっている現状は、余りに理不尽であります。
 第二は、治療期間における生活支援策、例えばホームヘルパーの派遣などについても、すべて個人負担であることです。
 第三は、犯罪被害者の心のケア対策が不十分なことであります。現在、警察による相談窓口の設置や社団法人被害者支援都民センターなどで被害者支援を行っておりますけれども、警察関係の相談に抵抗感のある被害者も少なくない現状では、まだまだ相談窓口やケアを提供する施設などが不足しています。
 こうした問題は、本来、国において対応すべきものであると考えますが、一向に進まない国の対応を待っていては、この犯罪が急増している東京都における都民の権利は十分に保障されないのではないでしょうか。
 知事は、こうした犯罪被害者の現状をどのように認識されているのか、所見をお伺いいたします。
 我が党は、平成十一年第三回定例会での代表質問において、こうした問題に自治体も積極的に対応すべきと考え、犯罪被害者支援制度の条例化を提案しましたが、都からは色よい答弁がありませんでした。
 今回改めて、こうした犯罪被害者の抱える具体的な問題について、その支援策を何点か述べさせていただきます。
 第一点は、犯罪被害者への経済的支援、特に検査料や薬代を含む医療費への助成であります。この医療費支援は、ただ単に金銭を支給するというだけではなく、都が被害者の医療費について一時立てかえ払いを行い、その求償については、被害者にかわり加害者に代位請求を行う。そして、どうしても支払いがなされないときには税金で賄うというものです。これは、都が弱い立場にある被害者を支援し、加害者に対しては、その責任をしっかりと問うていくということにもつながります。
 第二点は、被害者相互扶助のため、現在、東京都市町村総合事務組合で行っている交通災害共済のような共済保険制度といったものを、東京都が市区町村に働きかけて創設できないかということです。
 第三点は、治療期間における生活支援策、例えばホームヘルパーの派遣などの補助制度の創設であります。
 第四点は、心のケア対策の充実であります。阪神・淡路大震災後の神戸において、ある団体が設置をしたり、海外においても見受けられる、犯罪被害者だけではなく、その遺族、特に遺児、また例えば、近年、この不況下で年間約三万人と、二十分に一人の割合でみずからの命を絶っている自殺者の遺児も含めた方々の悲嘆施設をつくることは考えられないでしょうか。
 さらに、これらの対策について、直接都が行えない場合には、被害者サポートを行っているNPOに対する支援は考えられないでしょうか。
 以上、具体的な方策について意見を述べさせていただきましたけれども、個別の対策についての答弁は、今回は求めません。しかし、私が都議会議員の地位にある限り、この問題を主張していきたいと考えております。
 私は、知事が常日ごろおっしゃっている東京都から国を変えるという姿勢に大いに期待するものであり、私が述べてきた犯罪被害者対策についての知事の感想をお伺いいたします。
 次に、電子都庁に向けた課題について質問いたします。
 現在、都が進めようとしている電子都庁化は、市民サービスの向上と行政システムの効率性を高めていくことにその意義があると思います。その中で、市民サービスの向上を考えていくための基本となる市民参加システムの充実に関する施策として、パブリックコメントの制度は非常に重要であると考えます。都においては、現在、ホームページの中でご意見募集のコーナーをつくり、平成十二年三月に策定した提案型広報マニュアルに基づき、完全とはいえないものの、都民の意見を求めていることは評価ができ、今後、各局において積極的かつ例外なくこの制度を取り入れてほしいこと、及び制度化に向けた検討をご要望申し上げ、ここでは、これとあわせて電子都庁化のもう一つの意義である行政システムの効率化を進めていく上で、行政経費の削減につながる可能性が期待できる電子入札の導入に関する課題について質問したいと思います。
 電子入札の導入においては、現在の入札制度が談合を生みやすい状況にある中で、入札状況を広く公開していくことにより、より多くの業者に入札機会を与えていくこと、及び市民の監視の目にさらすことにより、入札金額の低減化と、また、これまで入札における都と業者双方において大きくのしかかっていた人件費といった入札コストを削減できることが期待されます。しかし、この入札制度の電子化において、技術的な問題は、各メーカーの開発によってほとんど解決されると考えますが、具体的な手続にかかわる事柄については、これまでリアルの世界で行ってきた手続では想像もつかなかった諸課題の解決が求められています。
 そこで、いわゆる電子取引におけるG2B――ガバメント・ツー・ビジネスに当たる電子入札の課題に対するその対策方についてお伺いいたします。
 第一点は、都においては、平成十二年十二月に東京都電子調達システム導入に関する基本方針、平成十三年三月には東京都電子調達システム基本計画を策定し、取り組んでいますけれども、電子調達の効果を確実なものにしていくために、入札制度自体の改革には今後どのように取り組んでいくのか、お伺いいたします。
 第二点は、電子取引においては、通常の取引と異なり、到達時期、改ざん、成り済まし等への対応が重大な課題になります。電子入札の導入において解決しておかなければならない課題について、どの程度検討がなされているのでしょうか。
 電子入札における課題としては、第一に、電子入札においては、特に入札というものの性格上、期限が定められているため、到達時期の問題について民法の改正のみでは、業者やその代理人は、安心して入札に参加することができないことが考えられます。
 第二に、改ざんや成り済ましについては、電子認証、電子署名によって一応の対応はできますが、都の側における電子署名の管理において、無権限の職員が間違って情報を流した場合、民法上の表見代理のような問題が発生することが考えられます。
 第三に、都自身の電子認証はどの機関で取得をするのか。
 第四に、錯誤により入札した業者に対するペナルティーをどうするのか。
 第五に、到達時期との関係で、文書が到達しなかった場合の免責の問題等があります。
 これらの課題は、一般都民に対する電子都庁化、G2C――ガバメント・ツー・シチズンあるいはコンシューマーにも通じる課題であり、都が導入に向けて整理しておかなければ、都にとって多大な損失を招きかねない課題でもあります。これら課題への対処について、条例化などを含めてどの程度検討が進んでいるのか、お伺いをし、私からの質問を終わりといたします。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 酒井大史議員の一般質問にお答えいたします。
 近代刑法というのは、事件に際しての被害者の犯人に対する個人的な復讐というものを禁じることを要因の一つとして成立しているわけでありまして、それが今日の、結果として加害者の人権が過剰に守られ、被害者の立場が非常に逼迫されざるを得ないという状況を生んでいると思います。
 実は、私の親友であります著名な弁護士の岡村勲君も、山一の顧問弁護士をしておりますが、かつて山一のトラブルの際に、被害を受けたと称する男が、岡村君をねらって自宅を襲いまして、不在のために奥さんを殺害いたしました。そういう思いがけない事件が起きて、自分が生まれて初めて悲劇の当事者になり、被害者となったわけでありますが、なってみて初めて、彼は弁護士として、いかに加害者に比べて被害者というものの立場が弱いか、例えば、裁判に関する国費の支出も非常に加害者に偏っていて、被害者に薄いかという事例を痛感したわけで、弁護士として非常に強い責任を感じまして、周りに呼びかけて、そういう自分に似た事例というものを収集しました。その過程で、私たち友人が共感しまして、私も日本の経済界に働きかけまして、岡村君を会長とする大きな支援体制ができておりますので、酒井さん、もしそれにまだ所属されておらないなら、有力な新人議員として、ひとつぜひそれに参加して活動していただきたい。そうすることで、より一層大きな活動の効果が上がると思います。
 そして、この対策についてでありますけれども、やはり法律的に改めなきゃならぬ問題が随分あると思います。例えば、今般、非常に道交法がきつくなりまして、飲酒をして運転するだけで、酔っていなくても、酒気帯びだけで免許証が、たしか今度は没収されると。
 実は、先般、東名の出口の用賀の高速道路の上で、四国か関西方面の大型トラックの運転手、これは居眠りと飲酒運転の常習犯で、何度も事故を起こしているんですが、これが市民の乗用車に追突しまして、乗っていた家族のいたいけなお子さん二人を殺し、両親が大けがをしました。
 そのときの警察の措置も、加害者自身もけがをしたわけでありますから、救急車を呼んで真っ先に病院に運んだのは加害者の方でありまして、もう既に死亡しかかっている子どもは放てきされて、親のために警察官が気をきかしてタクシーを呼んでくれる、そういうていたらくであったそうでありますが、私は、この組織の発足のときに、神経症になって非常に回復にも手間取っている、いまだに後遺症が残っている若い奥さんから、目の前で、同じ車の中で二人の子どもを殺された親としての心痛の吐露を聞きまして、本当に、経済界の幹部たちもたくさんおりましたが、みんなかたずをのむ思いでありました。
 ご主張のいろいろ具体的なケースもありますけれども、いずれにしろ、私たち、加害者よりも被害者の方がはるかにつらいわけでありますから、そういう人たちの人権というものをきちっと守り、また、権利の保護といいましょうか、手当てだけではなくて、精神的にも、そういった人たちが周りの手当てによって支えられていく、そういう社会的な習慣というものを、法律の整備と並行して、ぜひとも確立していきたいと思っております。
 他の質問については、担当の局長から答弁いたします。
   〔財務局長安樂進君登壇〕

○財務局長(安樂進君) 電子都庁に関する質問にお答えいたします。
 まず、電子調達のための入札制度の改革についてでありますが、入札や契約をインターネットで行う、いわゆる電子調達システムを都に導入し、そのメリットを最大限に生かすためには、その前提として、現在の入札、契約制度を大きく変える必要がございます。
 第一には、手続のために一々都庁に出向いてくることを極力なくすことが必要であります。このためには、提出書類の簡素化や、パソコン画面でのやりとりができるような書類の標準化が必要であります。また、入札参加資格の対面審査をやめて、インターネットでできる審査方法に変更することも必要であります。
 第二には、取引の安全性、公正性を確保するために、印鑑にかわる本人確認の方法を開発し、これをシステム化する必要がございます。
 第三には、入札に参加できる資格や条件を大幅に緩和するとともに、入札情報を公開し、広く競争を促す必要があります。
 これらの入札、契約制度の改革につきましては、現在、庁内で鋭意検討を進めている段階であります。それと並行いたしまして、民間事業者に委託いたしまして、電子調達システムの開発を行っております。平成十五年度には新しいシステムで電子入札を実施する予定でございます。
 次に、電子取引における法的課題への対応についてのお尋ねでありますが、人間と人間が直接対面することのない電子取引におきましては、まず、本人かどうかの確認から始まりまして、データの改ざんの防止、個人情報の保護などが大きな課題でありました。しかし、最近では、公開かぎ暗号技術の発達によりまして、これらの問題はほぼ解決されてきておりまして、電子署名法の成立によって、電子取引を実施する法的な環境は整ったと考えております。
 したがいまして、今後は、電子取引における虚偽申請への対応や、あるいは錯誤による入札の場合の取り扱い、あるいは意思表示の到達時期の問題などにつきまして、民法による対応だけで十分なのか、あるいは新しい条例による対応が必要なのかなどを含めまして、現在まだ検討が初歩的段階にありますので、実務的な面から、今後、検討を進めていきたいというふうに考えております。