平成十三年東京都議会会議録第四号

○副議長(五十嵐正君) 二十七番大河原雅子さん。
   〔二十七番大河原雅子君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

○二十七番(大河原雅子君) 二十一世紀という新しい時代を未来への希望を持って切り開くには、二十世紀型の競争社会のゆがみを正すことがまず必要です。勝ち残りの競争原理よりも、他者の成功への献身が自分の成功にもつながるという協力の原理を社会システムの各所に組み込み、新世紀を、人々が助け合ってともに暮らす、人間のきずなで結ばれた協力社会に再生することが大切だと考えています。
 さて、今回の平成十三年度予算は、首都東京の再生と財政構造改革の二つの課題を目指して編成されています。この首都再生の課題の中で経費的にもウエートが高いものは、いうまでもなく長期構想で盛り込まれている環状メガロポリス構造と連動した、道路などの投資的経費です。これが基礎自治体から積み上げるまちづくりの課題や東京に集中するエネルギー消費の過大な環境負荷を軽減する課題との整合性において、まず疑問が多いといわざるを得ません。
 しかし、何より東京の再生という課題の内容に、高齢者、障害者が不自由なく暮らしていける社会の実現という生活面での想像力の不足を感じます。例えば、都の福祉のまちづくりは、バリアフリーの考え方により道が開けつつありますが、生活の観点でさらに視野を広げるなら、だれにとっても使いやすく配慮された製品やサービス、そして社会の仕組みを目指して、ユニバーサルデザインの考え方が都政と地域社会に必要です。
 しかしながら、都政運営の基本となる十三年度予算案や今定例会での知事の施政方針、さらには、首都東京を再生するための長期的戦略である東京構想二〇〇〇においても、こうした視点が希薄であり、不足していると感じます。障害の有無、性別、年齢での差別なく、だれもが無理なく公平に共生できる社会の実現に向けて、知事の基本的考え方を伺います。
 また、環状メガロポリス構造が導く投資的経費の重視にも懸念があります。いうまでもなく、都債の償還のピークは、平成十五年度に約八千五十億円にも達します。過去の旧来型公共事業に起因するものが多いとはいえ、都財政の将来を圧迫するおそれがある中、さらに投資的経費の増大を予想させます。一方の財政構造改革の課題との整合性において、財政の硬直化をどのように抑えていくのか、見解を伺います。
 次に、野川と野川下水処理場について伺います。
 武蔵野のわき水を集めて流れる野川は、東京の奇跡の川ともいわれています。都が地元の市とともに進めてきた水循環再生モデル事業を使って、雨水浸透ますの設置を積極的に進めてきた効果も徐々にあらわれ、現在では水量はまだまだ少ないものの、水質とともに良好な状況を保っています。
 しかし、都はこの野川に処理能力五十万トン規模の野川下水処理場の建設を予定しているのです。この処理場計画は、平成九年度に策定された多摩川・荒川流域別下水道整備総合計画のもとに進められており、バブル期のただ中の平成元年度に、将来予測として、平成二十二年の予測人口を一千四百二十一万人とした人口、産業の基礎フレーム調査から策定されたものです。
 また、聞くところによれば、用地の費用だけを見ても、都と関係市が受け持つ、それぞれ二分の一の負担額は、数百億円にも上るといわれ、将来の財政の負担増、公共事業のあり方やその優先順位など、総合的、客観的な見直しが必要です。さきの東京構想二〇〇〇での人口予測からも現行計画は過大であると考えられ、大幅に下方修正すべきと考えますが、いかがでしょうか。
 今後の野川について考えるとき、処理場計画は川のあり方に多大な影響を及ぼすものです。野川では、これまで市民と行政が野川のあり方について話し合う場が重ねられており、市民による野川の浄化、保全活動も活発です。市民と行政のパートナーシップで、現在のきれいな野川をつくり上げてきたことは、今後の河川行政のあり方を示すモデル的な例といえます。もし、一日流量二万トンの現在の野川に大量の処理水が流入すれば、わき水の川、野川の生態系は破壊され、さらに野川流域の地下水を飲み水としている周辺の市への悪影響や危険性なども、多くの市民や専門家から指摘されています。
 見直し中の流総計画の中間情報を含め、処理場計画に関する詳細な情報を積極的に提供しながら、市民の意見を取り入れた計画とすべきと考えますが、いかがでしょうか。
 次に、環境ホルモンを含む有害な化学物質対策についてです。
 私たち生活者ネットワークは、都民の不安や懸念が広がる一方の環境ホルモンなど、有害化学物質問題を解決するため、まず必要なことは、身の回りにあふれているこれら有害化学物質を回避し、そしていかに減らすかであると考えています。また、疑わしきは使用せずという未然防止の原則を実現する具体的な行動であると考え、これまでさまざまな提案をしてまいりました。
 さきの文教委員会事務事業質疑で、私は学校施設での環境ホルモン農薬の使用中止を提案しましたが、その後の対応を伺います。
 有害化学物質としての危険性は指摘されていても、環境ホルモンの例のように、超微量での健康への影響については、十分な知見が整っていません。しかし、健康への影響が明らかになるまで手をこまねいているわけにはいきません。PRTR法や環境確保条例では、化学物質の排出量や使用量を、事業者が報告することを義務づけていますが、こうした制度を有害化学物質の使用量削減に役立つものにすることが望まれます。法や条例に基づいて、具体的にどのように取り組んでいくのか、伺います。
 今後は、化学物質の移動排出量など情報公開が進みます。これまでもさまざまな調査結果が発表されてきました。化学物質による環境汚染のリスクをめぐっては、不安を募らせる住民と行政や企業との意思疎通はうまくいかず、トラブルになる例も多くあると聞いています。
 今後は、環境政策への市民参加を明確に位置づけ、住民と企業の協働による地域環境管理、リスクコミュニケーションが欠かせません。しかし、専門的な知識のない住民に化学物質の定量的な検証結果を上げて、そのリスクがいかに少ないかを主張するだけでは、幾らそのデータが信頼性の高いものであっても、住民の合意形成につながるとはいえません。
 環境省は、来年度から、化学物質の健康影響などのリスクを住民にわかりやすく説明する仮称化学物質リスクアドバイザーをつくると聞いています。実施された場合は、都としても積極的にこの制度を活用すべきと考えます。まずは、住民、行政、企業が、ともに化学物質の物性情報から危険度や危険性を理解し、環境への影響について考え、必要な対応を判断することが大切です。このリスクコミュニケーションの手法を都としても積極的に取り入れていく必要があると思いますが、見解を伺います。
 最後に、子育て支援についてです。
 少子高齢化の時代になり、介護保険制度など高齢者福祉はさまざまな課題を抱えつつも、徐々に進んでいますが、子育て支援の施策は、子育て中の若い親世代の幅広いニーズに対応できていません。社会的な構造要因と親の精神的な要因が複雑に重なり合い、かつてない子育て困難社会のはざまで、家庭での幼児虐待や保育関係者による虐待、傷害事件など、子どもが犠牲になる事件が多発しております。
 今こそ、男女がともに子育ての楽しさを実感できる社会に変えていくために、子育て中の女性の仕事のあるなしにかかわらず、子育てをハンディとしないで生きられるよう、具体的で幅広い多様な保育サービスが必要です。ゼロ歳児、一歳児保育の待機者を解消することや延長保育の拡大など、サービス量の充実と同時に必要なのが、地域の中で孤立化している親への支援です。都としての認識を伺います。
 都は、地域における子どもと家庭への支援として、子ども在宅サービス事業の一時保育事業によって、日中、保育所での預かりを行っていますが、まだまだその量は十分ではありませんし、その運営主体も限られています。しかし、一方では、このような孤独な子育てをしている母親に対して、一時預かりや子どもミニデイサービスの機能を地域につくることによって支えようとしている団体があると聞いています。
 このような当事者に近い人たちの取り組みは、孤立しがちな母親の気持ちに寄り添い、きめ細やかな対応が可能になり、母親だけでなく子ども自身のエンパワーメントともなります。
 今後は、地域の人材も活用した多様な実施、供給主体によって、利用者のニーズに合わせた保育サービスの拡充のため、ある一定の条件のもと、NPO法人や地域の市民団体を供給主体と位置づけて支援すべきと考えますが、いかがでしょうか。
 駅前保育所の整備が進められ、株式会社など、多様な事業者の参入が促進されようとしています。働く親にとっては、無理なく送り迎えができることは朗報ですが、その保育環境の質を心配する声も聞こえます。保育内容のチェックや指導、問題が起こった際の親の相談窓口の設置など、保育の質を保障する機関の設置は欠かせません。
 現在、市区町村レベルでの苦情解決の仕組みづくりが進められていますが、これとあわせて、第三者による客観的なサービス評価の実施が必要だと考えます。都では、保育所を対象に地域福祉サービス評価システム検討会がこの仕組みを検討しています。今後、認証保育所も対象に含め、保育サービス全体の質を確保するため、サービス評価制度を活用していくべきですが、いかがでしょうか。
 さらに、評価されたサービスについて、どのように情報提供するのかも、大きな課題です。その保育所の状況を第三者機関が客観的に知らせることは、利用者が保育の質を知る上でも重要ですし、保育所の関係者にとっては、よりよい保育への展開が可能です。だれにもわかりやすい情報を提供するために、当事者の意見を踏まえた提供方法を検討すべきと考えます。あわせてお伺いいたしまして、私の質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 大河原雅子議員の一般質問にお答えいたします。
 だれもが公平に共生できる社会についてでありますが、そうした社会の実現のための大前提は、やはり機会、条件の平等性ということだと思います。東京構想二〇〇〇におきましては、東京の未来を切り開くために、個人の意欲と能力に応じて多様な生き方が選択できる社会の実現を重要な柱といたしました。
 そのためには、いわれもないのに年齢や性別などによって差別をするような不合理な社会的制約を取り除き、意欲と能力に応じて就労や社会参加ができることが重要であると思います。
 また、今後ますますふえていく高齢者や、あるいは体にハンディキャップのある障害者の方々も含めて、だれもが利用できるような建物、空間等をデザインするという、私、ユニバーサルデザインというのは初めて聞いた言葉ですけれども、つまりそういうことのようでありますが、つまり、すべての人間に都合のいい、そういう施設というものをつくるという考え方を、まちづくりを進めることのためにも基本としたいと思います。
 なお、その他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 学校施設における環境ホルモン農薬の使用中止に向けたその後の対応についてですが、平成十三年一月四日付で、全都立学校長あてに、内分泌攪乱作用の疑いのある農薬の取り扱いについてという通知を出しまして、環境ホルモン系農薬散布を、専門業者に委託する場合も含めまして、全面的に使用禁止する旨、周知徹底を図ったところでございます。
 なお、環境ホルモン系農薬を保管している学校につきましては、今年度中に所要の経費を措置しまして、専門業者に委託して、安全に廃棄処理する予定です。
 今後とも、農薬等の適正管理には一層留意してまいります。
   〔財務局長木内征司君登壇〕

○財務局長(木内征司君) 社会資本整備と財政構造改革の整合性についてのご質問でございます。
 十三年度予算では、投資的経費について、事業の重点化を一層進めることなどにより、東京都の財政力で対応可能な範囲に抑制するとともに、都債につきましても、将来の財政負担の軽減を図るため、十二年度に引き続き減額を行っております。
 そうした中にあっても、環状メガロポリス構造の形成に向けての首都圏三環状道路や拠点的な空港などの整備は、産業の活性化や国際競争力の向上はもちろんのこと、生活基盤の質を高める上でも重要であります。
 今後とも、財政構造改革を進める中、限りある財源を重点的に投入し、財政の弾力性を確保しつつ、その着実な整備を図ってまいります。
   〔都市計画局長山下保博君登壇〕

○都市計画局長(山下保博君) 下水道に関する二点の質問にお答えいたします。
 まず、多摩川・荒川等流域別下水道整備総合計画の見直しについてでございますが、この計画は、河川、海域等の公共用水域の水質環境基準を達成するための、下水道整備に関する総合的な計画でございます。
 現行計画は、平成九年に策定されたものでございまして、現在、その後の水質環境基準の変更等を踏まえ、見直しを行っているところでございます。見直しに当たりましては、今日の社会経済情勢を踏まえ、将来の人口、産業などを推計し、下水道施設が適正な規模となるよう検討を進めてまいります。
 次に、仮称野川下水処理場の計画についてでございますが、野川下水処理場は、周辺処理場の処理能力あるいは処理区の将来人口などから、立地条件の適した調布基地跡地に計画し、その放流先を野川としております。この処理場の計画下水量につきましては、現在見直し中の流域別下水道整備総合計画におきまして定めることとしております。
 また、将来、この処理場計画を具体化する際には、放流先に予定されている野川の良質な水質にも十分配慮して検討を進めていく必要があると考えております。
 なお、それぞれの段階に応じまして、地元市及び関係機関と協議、調整を図るとともに、都民への情報提供や都民意見の反映にも努力をしてまいります。
   〔環境局長中野英則君登壇〕

○環境局長(中野英則君) 化学物質に関する二点のご質問にお答えします。
 まず、有害化学物質の使用量削減に向けた取り組みについてでありますが、平成十三年度からPRTR法や環境確保条例が施行されることに伴いまして、事業者から都に対して、化学物質の使用量、排出量等が報告されることになります。
 都は、これらの報告に基づいて、化学物質の環境中への排出実態を明らかにするとともに、事業者に対して有害性の少ない化学物質に関する情報の提供などを行うこととしております。このようなことを通じて、事業者に作業工程の改善や、より安全な物質への転換などを促すことにより、有害化学物質の使用量の削減に取り組んでまいります。
 次に、リスクコミュニケーションの導入についてでありますが、化学物質による環境影響の低減を図るためには、都民、事業者、行政が環境リスクに関する情報を交換し、共有する、いわゆるリスクコミュニケーションが必要であります。このため、都はこれまでも環境ホルモン作用が疑われる物質の調査結果を積極的に公表するなど、都民の不安の解消に努めてまいりました。
 化学物質対策を推進するためには、都民や事業者の理解を深めることが重要であることから、今後とも、リスクコミュニケーションの充実を図ってまいります。
   〔福祉局長高齢者施策推進室長兼務前川燿男君登壇〕

○福祉局長高齢者施策推進室長兼務(前川燿男君) 保育サービスに関連して三点のご質問にお答えいたします。
 まず、子育て支援策についてでございますが、女性の社会進出が進み、就労形態が多様化する中、延長保育など多様な保育サービスの充実を図ることが必要となっております。他方で、ご指摘のとおり、家族や地域の養育力の低下と相まって、社会的に孤立しがちな親に対する支援も重要になっていると認識をいたしております。
 今後とも、区市町村と協力をしながら、保育施策の充実を図るとともに、子ども家庭支援センターの設置促進など、子育ての支援に必要な施策の充実に努めてまいります。
 次に、保育サービスの供給主体についてでございますが、都は、保育サービスの充実を図るため、多様な事業主体の参入を促進する方針でございますが、既に認可保育所や都が新たに制度を創設する都市型駅前保育所につきましては、お尋ねのNPO法人の参入が可能であり、あるいは可能とする予定でございます。
 また、ご指摘の子ども家庭在宅サービス事業につきましても、本年度から実施主体である区市町村がNPO法人などと連携して、ショートステイ事業などを実施することを可能とした次第でございます。
 最後に、サービス評価制度についてでございますが、保育サービスの質の向上を図るとともに、利用者がサービスをみずから選択できるようにするためには、第三者によるサービス評価制度を整備し、定着させることが必要でございます。
 現在、有識者等により検討会を設け、評価の信頼性、公正性の確保や評価情報の提供方法など、評価の仕組みづくりをめぐる諸課題について検討を行うとともに、先進的な区市の協力を得て、試行事業を実施をいたしております。
 なお、制度化に当たっては、新たに創設する認証保育所についても、その対象に含めていく方針でございます。

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