平成十二年東京都議会会議録第九号

○議長(渋谷守生君) 二番中嶋義雄君。
   〔二番中嶋義雄君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○二番(中嶋義雄君) まず最初に、九月をめどに検討が進められている都立大学の改革について質問をいたします。
 過日、文教委員会で都立大学を視察いたしました。画像処理や新素材、あるいは乾燥に強い植物種の開発など、世界の最先端レベルの研究成果は実に興味深いものがございます。また、総長や各学部長との懇談の席では、人文学部長から次のような問題提起がありました。一般に学生の水準は高いが、受験科目の削減で、数学を専攻せずに入学する学生がふえた。私は心理学が専攻であるが、心理学では統計学が多用される。ところが、統計学を学んでいない学生もいて、困惑している。また、総長からは、全国的に、学生の理数系基礎学力の低下は実に深刻な事態にあるとの指摘もございました。
 知事は所信表明で、入りやすく卒業しづらい大学をうたい上げておりますが、それと入学する学生の一定水準の学力確保は、なかなか両立が難しい問題であると考えられます。さらに、独立採算制の導入や独立行政法人化なども、いざ実現するとなると、数多くの隘路が存在いたします。それでもなお、大学改革は避けて通ることはできない課題であり、新たな大学のモデルをぜひ東京から発信したいという、知事初め大学当局の一層の取り組みをまず求めたいと思います。
 その上で、何点か提案がございます。
 財政難の今日、大学改革に当たっても、現に保有する資源を有効に配分して、後ろ向きではない前向きなリストラクチャリングに努めることが重要であります。その意味で、八王子へ移転して以来、学生数が減少し、かつてのように需要が高いとはいえない夜間部、つまり、B類を見直して、都心部の既存施設、とりわけ都庁の会議室やホールなどを活用した、社会人向けの大学院の設置を検討すべきであります。
 国立でもなく、私立でもない、自治体立の大学の特性を生かし、アメリカのビジネススクールのような本格的な高等教育の機会を市民に提供することは、需要の高い事業であるといえます。従来、都民カレッジ等において生涯学習講座などを実施しておりますが、そこからさらに一歩進んで、本格的な専門知識や資格取得につながる社会人向け大学院の需要は、必ず増大してまいります。
 都庁の中に大学院のサテライトキャンパスが開設されたら、そのユニークさで、恐らく多くの都民の関心と話題を呼び、大学改革の象徴ともなるでありましょう。また、大学自体にも大変な刺激になるはずでございます。都庁を初め、都保有施設を活用しての社会人向け大学院設置に関して、都の見解を求めたいと思います。
 次の提案は、大学運営に関して、外部の意見、アイデアを取り入れるための独自システムの導入であります。
 法改正によって、国立大学には大学運営諮問会議の設置が義務づけられました。それを参考にして、都立大学特有の外部意見を取り込むシステムを構築すべきであります。大学が象牙の塔にとどまることなく、健全な競争原理のもとで発展を続けていくには、大学運営に外部意見を反映させることは極めて重要であります。現在、どのように取り組んでおられるのか、答弁をいただきたいと思います。
 続いて、教育関連で、病弱養護学校への高等部設置に関する質問をいたします。
 かねてより我が党は、都立の養護学校に在席する病弱な児童生徒の保護者の皆さんから、病弱養護学校への高等部設置を求める陳情を受けております。ここでいう病弱とは、ぜんそく、ネフローゼ、慢性腎炎、身体虚弱、心身症などの病を持ち、医療規制や生活規制が必要な児童生徒を指します。
 東京都の現状では、こうした小学生、中学生の児童生徒を対象とした、いわゆる病弱教育は、病弱養護学校、肢体不自由養護学校などで行われています。問題は、高校進学であります。都では、要請の強い久留米養護学校の生徒に関しては、公立の高校や肢体不自由養護学校の高等部で受け入れているとして、今のところ、病弱養護学校への高等部設置には消極的です。
 確かに、病弱児の進路を見ると、平成十一年の中学卒業者二十六人のうち、一般の都立高校に十八人、私立高校に五人、知的障害養護学校に二人、その他一人となっていて、目立った問題はないように思えます。しかし、保護者の皆さんからは、知的障害や肢体不自由などの障害を持つお子さんたちには、それぞれ障害別の養護学校があり、したがって、ほぼ一〇〇%高等部進学が保障されているのにもかかわらず、病弱児に対する高等部がない現状は理解しがたいとの訴えがございます。
 また、病弱養護学校を卒業して高校へ進学をしたものの、知的障害養護学校に進学した生徒の場合、体力的についていけず問題となったり、肢体不自由養護学校に進学したところ、一年以上も学校不適応となって登校できなかった生徒がいるとの指摘もあります。さらに、普通高校に進学した場合は、医療面での不安や受け入れ体制の不備、周囲の理解不足などで休みがちになり、中途退学に至るケースも少なくないとの報告もありました。
 本年五月現在の病弱養護学校の生徒数は、久留米養護学校で小学部一人、中学部十五人、同清瀬分室が小学部十六人、中学部三人、また、片浜養護学校では二十六人と伺っています。
 教育委員会では、この間、何度も保護者の皆さんと面談し、丁寧に対応をしてこられたことはよく理解しております。また、病弱児の現状や今後の推移等を十分に見定めなくてはならないことも承知をいたしております。その上で、まず目前に高校進学を控えた中学三年生への個別のきめ細かな対応を求めるとともに、高等部設置の検討を含めて、病弱教育体制全般の点検、見直し、再整備の作業に当たっていくべきであると考えますが、都の見解はいかがでありましょうか。
 高等部を設置している病弱養護学校は、既に全国で五十に上り、設置していない都道府県は東京、山梨、愛媛、佐賀の一都三県である現状を踏まえ、答弁をいただきたいと思います。
 次に、やはり知事が所信表明で述べた電子都庁に関連して質問いたします。
 我々公明党は、さきに電子政府の設立を提言し、衆院選挙の公約にも掲げております。政府も、盛んに国におけるIT革命の必要性を強調しております。その流れの上で、知事の電子都庁構想、つまり、三千台のパソコンを外部接続し、もちろん、インターネットとも接続して、効果的にネットワークを構築するという構想を評価いたします。しかし、そこで課題となるのはセキュリティーと都民サービスの向上、さらには国との連携でございます。
 今からおよそ十年前、全国の先進的な区市町村で盛んに、情報公開条例と、それとセットになる個人情報保護条例の策定を目指す動きが活発化いたしました。当時、それに関連して審議会に参加した経験がございます。
 そこで最も熱心に議論されたことは、行政のOA化に伴うコンピューターの外部接続の可否、そして行政情報の漏洩、悪用、さらには個人情報の保護のあり方でございました。今日では、さらに加えてハッカーの問題、例えば、つい先日、世界的に問題となったコンピューターウイルス「LOVE」などによる被害の問題が挙げられます。
 我が党はこれまで、都庁のコンピューター化の推進とセキュリティーの問題を再三取り上げてまいりました。知事が本格的に電子都庁を目指すのであれば、まさに通信情報技術の安全性の確保は不可欠であります。国においても、電子署名及び認証業務に関する法律が成立し、電子署名に法的根拠が付与された折でもあり、都民のプライバシーと個人情報の保護、公文書等の原本性の確保など、セキュリティーが万全である必要があります。
 そこで質問の第一は、IT化推進に当たって、最新の情報通信技術の安全性についてどのように認識し、いかに評価しているのか。そして、不正アクセスを防止し、通信の安全性を保つためには、例えばファイアウオール技術などがありますが、都はどのような技術を導入されようとしているのか、お答えいただきたいと思います。
 また、二点目の質問は、同じくIT化の推進によって都民にどのような利便性の向上がもたらされるのか、具体的に明らかにしていただきたいと思います。
 質問の三点目は、国では平成十三年度から、すべての自治体を結ぶ行政ネットワークを構築し、公文書等の交換を試行するようでありますが、それが都の行政に一体いかなる効果をもたらすのか、また、都の情報化基盤整備がそれに間に合うのかどうか、ご報告をいただきたいと思います。
 次に、高次脳機能障害について質問いたします。
 公明党は、既に繰り返しこの問題を取り上げてまいりましたが、脳血管疾患や交通事故で脳を損傷した高次脳機能障害者は、多様な後遺症のため自立した生活ができず、また社会的認知度が低いため、社会復帰が極めて困難な状況にあります。さらに、障害の態様が外見では判別しにくいケースが多く、既存の医療福祉保健制度では適切な治療や支援が受けられず、制度の谷間に置かれた存在となっております。
 我々公明党の主張により、都は全国初の実態調査を行い、その結果、都内でおよそ四千二百人に上る該当者が存在することが明らかになりました。さらに、いわゆる小規模作業所等の利用が高次脳機能障害者にも可能となるよう区市町村に通知を出すなど、施策の第一歩が踏み出されたばかりであります。
 そこで質問は、五月二十四日には実態調査の最終報告がまとめられたはずであり、まず、その内容を報告していただきたいと思います。
 また、今後の課題についてどのように認識されているのか、お答えいただきたいと思います。
 また、こうした患者の方々にとって重要なことは、失語症や記憶障害など認知障害の軽減を図るための認知リハビリテーションであります。しかし、こうした治療を受けている人は全体の約一割にすぎません。原因は、高次脳機能障害のリハビリテーションに対応できる医療機関が絶対的に不足しているためであり、今後、障害特性に応じた新たなリハビリシステムを構築すべきであると考えますが、見解はいかがでありましょうか。
 また、高次脳機能障害については、障害者手帳を受けることができる場合でも、その特性が複雑であるため、既存のサービスを受けられないケースが多く、その結果、必要な援助、リハビリ等の訓練が不可能になっている場合があります。こうした状況の早期解消が不可欠であり、そのためには、小規模作業所等のより一層の利用促進を図るとともに、都は全国に先駆けて行った実態調査の結果をもとに、高次脳機能障害に対する施策の創設、充実を国に強く働きかけていくべきでありますが、都の見解はいかがでありましょうか。
 最後に、世田谷区内の小田急線連続立体化事業について触れたいと思います。
 あかずの踏切の解消はもとより、地域分断の解消、さらには駅周辺まちづくりに伴う地域の活性化など、多様な効果が期待されている小田急線連続立体化事業は、既に二十年を超す歳月を費やしてなお決着を見ないという、極めて特殊日本的、複雑な様相を呈した公共事業となってしまいました。
 私は、十数年にわたってこの問題を注視してまいりましたが、この事業をめぐる状況が過度に政治化してしまったところに大きな問題があったと考えております。それはともかく、今は事業の早期達成こそが強く求められております。国との協議や、地元並びに世田谷区、そして鉄道事業者との調整等、難しい問題が山積していることは理解しておりますが、特に下北沢周辺に関していえば、重要なことは、駅周辺まちづくり構想の策定と、その前提となる構造形式の決定であります。
 高架、地下をめぐる構造形式の議論が、これまでさまざまな問題を引き起こしてきた経緯があり、都としても慎重な対応を心がけてきたことは理解しておりますが、それにしても結論を明らかにすべき時期に来たことは間違いございません。都は、この小田急線連続立体化事業の早期達成にどのように取り組んでおられるのか、答弁を求めて質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 中嶋義雄議員の一般質問にお答えいたします。
 都庁のIT化推進による都民サービスの向上についてでありますが、あくまでもご指摘のとおりの、セキュリティーというものを踏まえた上での話でありますけれども、IT化の推進は、都政運営全般に情報通信技術の成果を活用することで、必ず都民サービスの向上を図ることになり得ると思います。時間あるいは利便性、そしてその情報の正確性という点でも有効だと思います。
 都民サービスの面では、例えば、行政と都民との双方向の情報交換が活発化されることにもなりますし、情報提供を通して都政の透明性が格段に高まるなど、多くの分野で行政サービスの向上が図られるものと考えられます。
 また、例えば、今回初めて行いまして驚くほどのいろいろ成果がありました、また、想像以上に世間では通じない事態が横行しているものを指摘された外部監査のデータなども、これは公開することによって、専門性を持った多くの都民から非常に的確なご批判もいただくでしょうし、またいろんな建言もいただけ得ると思いますし、それを踏まえて都政というものを合理化していく大きなよすがにもなると思います。そして、それがまた新しい都民の世論を形成していくことにもなると思いますし、そういう意味で、できるだけ早くこれを実現することで、行政の合理化、能率化というものを図りたいと思っております。
 なお、その他の質問については技監及び関係局長から答弁いたします。
   〔東京都技監成戸寿彦君登壇〕

○東京都技監(成戸寿彦君) 小田急線下北沢駅付近の連続立体交差事業に関する取り組みについてお答えいたします。
 現在、都におきましては、構造形式や施工方法などに関する調査、設計を進めているところであります。また、沿線地域の活性化等を図るために、鉄道整備と一体的に駅周辺のまちづくりを進めることが重要であると認識しておりまして、都、区及び鉄道事業者から成る検討会で、沿線のまちづくりについて意見交換を始めております。
 今後とも、地元区と連携を図りながら、まちづくりの具体化を推進、促進いたしまして、早期事業化に向けて取り組んでまいります。
   〔都立大学事務局長土肥謙二君登壇〕

○都立大学事務局長(土肥謙二君) 二点の質問にお答えいたします。
 まず、夜間部の見直し及び都庁舎を含めた都心部の既存施設を活用した社会人向け大学院についてでございますが、高度専門教育を行う社会人向け大学院は、産業界の求める人材養成という観点からも必要性が高まっています。
 一方、学部の夜間部では、いわゆる勤労学生が減少し、その見直しが課題となっています。このため、都立大学では大学改革の取り組みの中で、夜間教育の重点を大学院に移し、都心部キャンパスでの社会人向け大学院の開設について検討を行っております。
 ご提案の内容は、大学改革を進める上で大変重要なことと考えており、都庁舎を含めた既存施設の活用についても、関係各局と相談しながら検討してまいります。
 次に、大学運営に外部の意見を反映させるための取り組みについてですが、都立大学では、これまでも開かれた大学を目指して、都民の期待や社会からの要請にこたえて、さまざまな取り組みを行ってまいりました。既に、昨年度には都市研究所におきまして、外部の有識者の意見を聴取する制度を創設したところでございます。
 ご指摘の、大学の運営に外部意見を取り込み、反映させていくシステムは、大学改革の重要な課題と認識しておりまして、その仕組みの具体化に向けて、現在検討を進めているところでございます。
   〔教育長中島元彦君登壇〕

○教育長(中島元彦君) 都立病弱養護学校高等部の設置についてでございますが、都における病弱教育は、病弱養護学校のほか、肢体不自由養護学校、病院内分教室、訪問教育など多様な場で行っております。
 しかし、病院内分教室の増加や訪問教育の拡充などにより、病弱養護学校と肢体不自由養護学校の役割分担が不明瞭となったため、病弱教育全体のあり方の検討を始めたところでございます。その中で、高等部設置につきましても、他県の実施内容や対象者の見込み数などを十分調査し、研究してまいります。
 また、今年度の中学部卒業予定者につきましては、進路の希望等を十分把握し、本人や保護者に対してきめ細かい進路相談を行ってまいります。
   〔総務局長横山洋吉君登壇〕

○総務局長(横山洋吉君) 情報化に関します二点の質問にお答え申し上げます。
 まず、情報通信技術の安全性についてですが、ご指摘のように、情報通信社会ではハッカーやコンピューターウイルスの脅威に対しまして、情報通信の安全性を確保することが最も重要な課題であると認識いたしております。
 個人を識別するための電子認証技術や不正なアクセスを防止する技術も、既に民間企業の電子商取引では実用化されておりますし、国におきましても、電子署名法の成立に伴いまして認証機関の設立が予定されております。都におきましても、これらの最新技術を適用しまして、安全性の確保に努めていく考えでございます。
 次に、総合行政ネットワークの基盤整備についてでございますが、国が計画しております総合行政ネットワークは、電子政府の一環として、電子公文書交換を目的とした、国と全地方公共団体を相互に接続する情報通信基盤でございまして、行政事務の効率化、迅速化や重複投資の抑制効果などが期待されております。
 国におきましては、本年度に実証実験を行い、平成十三年度には、当面、全都道府県を対象として本格実施を目指しておりますことから、都といたしましても、こうした動きに対応できるよう、国とのネットワーク接続のための整備を進めてまいります。
   〔衛生局長今村皓一君登壇〕

○衛生局長(今村皓一君) 高次脳機能障害者の実態調査報告についてのお尋ねでございます。
 今回の調査では、高次脳機能障害は診察の場面より日常生活の場面で障害があらわれやすいこと、福祉サービスの利用状況も低く、障害年金も受けていないなど経済的な問題を抱えていること、専門的なリハビリテーションを十分受けていないことなどの実態が明らかになりました。このため、高次脳機能障害者に対する適切かつ速やかな支援が必要であると認識しております。
 今後、日常生活場面を考慮した診断技法の確立、各障害に応じたリハビリテーションの開発や福祉サービスの提供が必要であると考えております。
 次に、リハビリテーションに関する取り組みについてでございますが、ご指摘のとおり高次脳機能障害については、障害の特性に応じたリハビリテーションを充実していくことが重要でございます。近々新たに、医師、作業療法士等で構成する高次脳機能障害者リハビリテーション調査研究会を設置し、専門的な認知リハビリテーションについて調査研究を行い、高次脳機能障害者に対する適切なリハビリテーションの提供を図ってまいります。
   〔高齢者施策推進室長福祉局長兼務神藤信之君登壇〕

○高齢者施策推進室長福祉局長兼務(神藤信之君) 高次脳機能障害者に対する施策についてのお尋ねでございますが、都といたしましては、高次脳機能障害者で障害者の手帳を取得していない場合であっても、いわゆる小規模作業所に受け入れることとしておりまして、今後とも区市町村と連携して、これらの方の受け入れを促進してまいります。
 また、お尋ねの国に対しては、平成十三年度に向けて、新たに高次脳機能障害者の障害特性に応じたきめ細かな施策の一層の推進を提案したところでございまして、引き続き強く要求してまいります。

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