平成十二年東京都議会会議録第九号

○副議長(五十嵐正君) 五十八番前沢延浩君。
   〔五十八番前沢延浩登壇〕

○五十八番(前沢延浩君) 初めに、多摩の振興について質問をいたします。
 急速に進む少子高齢化、都市化の進展など社会経済の急激な変化のもとで、二十一世紀の多摩地域の振興をどのように進めていくのかが大きな課題となっています。これまで多摩各市町村は、大都市東京を支える役割を果たすために、厳しい財政力のもとでも、各地域の特性を生かしながら、おくれた社会基盤の整備や社会保障制度の確立に全力を挙げてきました。東京都も、多摩格差是正八課題の設定や市町村交付金制度など、市町村の努力を支援する取り組みを行ってきました。
 二十一世紀を前に、今、都政に求められているのは、急速に進展する少子高齢化やおくれている公共交通など、新たな視点に立った多摩支援の仕組みを確立することであります。
 ところが、都がこの五月に発表した多摩の現状分析報告書は、三多摩格差八課題はかなりの課題で解消されたとして、今後は、多摩を区部との比較でとらえず、独自性や個性を生かした振興を図っていく必要があるとの考えを明らかにいたしました。
 八課題が設定されて三十年、義務教育施設や公共下水道など格差が解消されたのは当然であります。むしろ、我が党がこの間指摘してきたように、少子高齢化に伴う課題、公共交通の整備などが新たな区部との間の格差となりつつあります。中でも、小学校就学前までの乳幼児医療費助成は、区部が全区で実施しているのに、多摩では実現していないなど、財政力に起因する今日的格差の典型であります。また、介護保険でも、財政力に乏しい市町村では、区部で行われている対策がとれずに悩んでいます。問題は、現実に都民が格差を受けているかどうかなのであります。
 知事、八課題のみを格差是正の課題に限定した上で、現状に合わないとして棚上げするのは間違いであります。もともと八課題自体、いわゆるシビルミニマム、都民が共通して享受すべき行政の仕事を課題としたものであります。かつて学校建設に予算の半分近くが取られるという時期もあったように、このような支援があってこそ、都民が一定の水準の行政サービスを享受でき、各自治体が独自の行政サービスを都民に提供できることになるのであります。
 八課題の幾つかが改善されたからといって、現実に格差が存在し、また新たな格差が生まれようとしているときに、格差是正を棚上げしてしまうなど、とんでもありません。きっぱりと格差是正を都としての責務として改めて位置づけることを求めるものであります。知事の答弁を求めます。
 冊子は、地方分権の進展により、団体には自主、自立と個性、独自性が求められているとしていますが、これも改めて都にいわれなくても、各自治体が懸命に取り組んでいるものであります。知事が市町村の独自性をいうのであれば、ゾーンごとの地域特性に合わせた格差是正の課題を設定するなどをこそ急ぐべきではありませんか。
 また、財務局が先日発表した「財政構造改革の進展に向けて」という冊子は、都財政が引き続き危機に直面している、市町村に対する都の支出金は他の道府県の二倍の水準にあるのだといって、市町村支援をやり玉に上げています。これも、自分に都合のよいところをいっているだけのものであります。財務局は支出金の金額だけを問題にしていますが、予算に支出金の占める割合を全国道府県と都とで比較してみると、東京を除く道府県は平均で五%なのに、都の場合は都区財政調整、消防費、清掃費、港湾費など大都市行政を除いても三%と低くなっているのです。しかも、他県の場合は、地方交付税を初めさまざまな国の財政支援がありますが、都の市町村の場合それが少なく、市町村交付金などは、その足りない部分を都が補っている形となっているのであります。多摩の市町村に、臨海など浪費的な大型公共事業が生み出した財政難のツケを押しつけるものではありませんか。
 もう一つ指摘しなければならないことは、多摩市町村への支援は、東京都にとって特別の責務ということであります。これまでも我が党は、法人住民税が区部に集中していること、これが区と多摩市町村の財政格差となっていることを繰り返し指摘をしてまいりました。法人住民税収入の比率は四対一であります。その源泉が法人住民税なのであります。
 問題は、これらの税がだれの手によって生み出されているかということであります。私の地元の東久留米市では、就業人口五万七千六百四十七人のうち、実に二万三千三百五十九人、四〇・五%の人が二十三区で働いているのであります。清瀬市も同様です。この人たちが働いて生み出した財が税金のもととなり、都や区の財源となっているのです。多摩地域に住み、区部で働く都民が、区部で徴収される税金を生み出し、都の財政を支える上で大きな役割を果たしてきたのであります。
 一方、多摩市町村の方は、これらの勤労者の生活のためのインフラ整備や、学校、保育園などを必死の思いでつくってきたのであります。しかも、これから高齢化社会を迎えて、かつては区部で働いてきた人たちの社会福祉を一手に引き受けなければならないのであります。いずれにしても、二十一世紀の多摩地域の自立と発展を考えるとき、市町村の財政の確立は焦眉の課題となることは明らかです。今、都財政による市町村交付金や、区部と都の間での財政調整などが行われ、基礎自治体間の財政の水平的調整が行われています。こうした考えを発展させ、多摩市町村を含めた全都的な財政の水平調整による多摩振興など、将来的課題として検討に値するものと考えます。
 そこで、今ある制度としての市町村調整交付金や振興交付金などを、市町村の要望にこたえて抜本的に拡充することは最小限の責務です。ましてや切り下げたり廃止するなど決してやってはならないと考えますが、どうでしょうか。答弁を求めます。
 多摩の振興を進める上で重要な取り組みについて二点伺います。
 一つは社会保障、福祉の問題です。多摩地域は財政力が厳しいため、介護保険の対応など立ちおくれています。保険料、利用料の軽減やデイケアサービスセンターなどの整備など、やりたくてもやれないことが山積みです。しかも、多摩の場合は高齢化の進行が区部より早く進んでいます。九〇年代に入って以降の高齢者人口が、区部が四三%の増加に対して、三多摩は七一%の増加というスピードです。この高齢化に立ち向かうための財源が不足しているのです。知事、急速に進行する少子高齢化に対応するために、社会福祉を支援する強力な仕組みがどうしても必要だと思いませんか。答弁を求めます。
 もう一つは、都自身も認めている社会基盤整備の立ちおくれです。とりわけ生活道路や公園、公共交通網の整備です。例えば、道路の歩道設置率は区部が八一・五%であるのに、多摩は六四・八%と、これも大きくおくれています。また、自動車交通不能道路は、区部の三%に比べて多摩は三〇%を超えております。また、区部には地下鉄を初め縦横に鉄道が走っていますが、多摩地域は、武蔵野線を除くと、基本的に二十三区に向かう線ばかりであります。
 知事、いたずらに住民の反対や住環境破壊の幹線道路を押しつけるのではなく、多摩住民が求めている生活密着型の事業にこそ、優先して予算を配分することが多摩の本当の振興に役立つのではありませんか。見解を伺います。
 多摩振興を進める上で、今日の自治体財政の困難の大もとにある三割自治の解消も避けて通れない課題です。財源の裏づけなしの地方分権も、市町村財政を圧迫する新たな要因となっています。この点で、知事は所信表明で、国が地方税源の充実を先送りした、国がみずから改革する力を失っているのであればとして、新しい税制について発言をされました。国の厚い壁を何とかしてこじあけ、大幅な税源の移譲を実現するために全力を挙げるべきではありませんか。見解を求めます。
 次に、介護保険と障害者の福祉について伺います。
 一日も途切れることなく続く介護の苦労から少しでも解放されるかもしれないと、介護保険に期待した障害者と家族も少なくありません。しかし、実施から三カ月がたち、その期待は見事に裏切られました。
 多摩地域に住む八十五歳の女性は、障害認定一級、要介護度五の重度身体障害者です。介護保険が始まってからは、利用料プラス限度額を超えた分の自己負担が払える水準に合わせて、サービスを削らざるを得なくなりました。週に六日間の早朝巡回ヘルパーは週三日に、週二回の訪問看護は一回に減らしたのであります。サービスを削った分は、家族の介護の負担になりました。しかも、介護保険前の自己負担は月八万円、介護保険に入って十万円の負担になります。サービスが減って負担がふえた、これは決して例外ではありません。手厚い介護を必要とする重度障害者に共通している大問題であります。
 NHKもこの問題を繰り返し取り上げ、介護保険、続く障害者の窮状、こういうタイトルで、介護保険により障害者が厳しい状態に置かれていることを放映いたしております。
 東京の肢体障害者団体は、介護保険一一〇番を実施いたしました。五時間で五十通に及ぶ相談や問い合わせ、意見が寄せられております。例えば、ハンチントン舞踏病という難病による重い障害を持つ方は、介護保険実施後は、今まで利用してきたショートステイの利用を、大声を出すとの理由で断られたというのであります。これは、事業者が難しい介護を必要とする障害者の利用を選別する事態が起きていることを示しています。ほかにも、手間がかかる、こういってヘルパー派遣を断られた、こういう声がたくさん寄せられています。これまで障害者施設で受けていたリハビリとかデイサービスを、介護保険対象者は利用できなくなった、あるいは今後利用できなくなるという通知が来たなどの訴えも各地から上がっております。
 知事、こういう事態が起きていることをどうお考えですか。介護保険で障害者の介護サービスが逆に後退し、利用料負担がふえ、家族の介護の負担は重くなる。こんなことはほうっておいてよいはずがないと私は思うのであります。この問題での認識を伺うものであります。
 障害者医療費助成により無料だった医療系サービスが、介護保険に移行したために一割負担になった。このことは、障害者の方々のとりわけ重い負担になっているのであります。このため、横浜市では、障害者に対し介護保険の療養型医療施設、訪問看護、訪問リハビリ、病院と診療所で行う通所リハビリなどを引き続き無料にする利用料助成に踏み切りました。広島市も同様の措置をとり、喜ばれています。
 介護保険制度は、ホームヘルプサービスについて高齢者の多くがこれまで無料で利用していたことから、利用料一割の負担を三%に軽減する特別対策がとられております。それならば、障害者の医療系サービスも多くの人がこれまで負担が無料であり、横浜市や広島市のように利用料軽減の特別対策をとることがむしろ当然であります。
 都としても、少なくとも低所得の障害者に対し、同様の利用料助成を行うよう求めるものであります。見解を伺います。
 広島市では、障害者団体の要請を受け実態調査をした結果、介護保険により在宅の重度障害者に多額の負担が生ずることがわかったため、今回の利用料助成を行うことを決めたとの経過が市議会に報告されております。これは、住民の要望と生活の実態に誠実にこたえようとする行政としての当然の姿勢であると私は思うのであります。
 介護保険のもとで苦しむ障害者の介護、福祉の実態を、まずありのままにつかむことが出発点です。障害者のうち介護保険対象者は何人か、障害認定に対する要介護認定の状況はどうか、介護保険以前のサービスがどれぐらいできているか、医療系サービスと介護サービスの利用料、自己負担はどうかなどの調査を、都は区市町村と協力して早急に行うべきではないでしょうか。お答えください。
 最後に、三月の都議会定例会で可決された障害者医療費助成の有料化と所得制限強化及び重度手当、障害者福祉手当の所得制限導入強化は、介護保険による重い負担とサービス後退に苦しむ障害者の方々に追い打ちをかけるものであることは、この三カ月のうちに進行しつつある現実によってますます明らかです。今からでも遅くありません。切り下げたものはもとへ戻し、支援を強めることこそ必要であることを厳しく申し上げて、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 前沢延浩議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、税源移譲の問題でありますが、繰り返して申し上げてきましたけれども、地方主権の時代とはいえ、また、そのための法律が一応できはしましたが、肝心な税財源の分与はもう中長期の問題として棚上げされてしまいました。こういう状況の中で、やはり自治体は自治体なりの苦労、工夫というものをしなくちゃいけないと思います。昨日も答弁しましたとおり、都議会とも協力しながら、都独自の税源を確保するべく都税調で審議いただいて、これを有効に運用し、左右の他の自治体とも連携を図りながら、国に実現を迫っていきたいと思っております。
 次いで、介護保険制度のもとにおける障害者の介護サービスの現況についての認識でありますが、新しいシステムがスタートしたばかりでありまして、当事者にとっては心外なレアケースも間々あるのだと思います。しかし、それはやはり、当然できるだけ早く淘汰されなくちゃならないと思います。
 高齢障害者がその障害特性によって介護保険で定められた水準以上のサービスが必要と認められる場合には、区市町村は障害者施策の分野から必要なサービスを提供することができるとされております。したがって、区市町村においては適切な運用が図られるべきでありますし、また、図られなくてはならないと思いますし、そういう努力が続けられていると認識しております。
 なお、その他の質問については関係局長から答弁いたします。
   〔総務局長横山洋吉君登壇〕

○総務局長(横山洋吉君) 多摩振興に関します三点の質問にお答え申し上げます。
 まず、多摩地域の格差是正についてでございますが、多摩格差につきましては、都は市町村と協力しまして、これまで積極的に取り組んできた結果、現在ではかなりの部分で解消していると認識いたしております。今後は、これまでの格差是正という画一的な観点からの対応ではなく、社会経済状況の変化等により生じた新たな行政課題をも含め、多摩地域の個性、独自性を生かしていくという視点に立って、多摩振興に取り組んでまいります。
 次に、地域特性に合わせた格差是正の課題設定ですが、今後の多摩振興を効果的に推進するため、地域の個性や独自性を生かした多摩の将来像を今年度策定する予定でございます。その中では、格差是正としての観点からではなく、東京及び東京圏における多摩の位置づけを明らかにしますとともに、自然環境や産業、文化など多様な側面から地域像を示していくこととしております。
 次に、市町村調整交付金、振興交付金についてですが、都はこれまでその時々の都財政の状況や市町村の行政水準などを十分踏まえながら、市町村調整交付金や振興交付金を通じて財政支援に努め、多摩振興に一定の役割を果たしてきたところでございます。この両交付金につきましては、今後、市町村の行財政運営を十分考慮しながら、厳しい都財政の状況を踏まえつつ、適切に対処してまいります。
   〔高齢者施策推進室長福祉局長兼務神藤信之君登壇〕

○高齢者施策推進室長福祉局長兼務(神藤信之君) 多摩振興に関しまして、少子高齢化に対応する社会福祉の支援でございます。
 少子高齢化への対応は、区部、多摩に共通する東京全体の課題であると認識しております。都は、従来からそのため、さまざまな施策を展開してきておりますが、今年度はさらに区市町村の主体的な取り組みを支援するため、福祉改革推進事業及び高齢者いきいき事業等を創設したところでございます。
 今後とも、実施主体である区市町村と連携を図りながら、総合的な取り組みを進めてまいります。
 次に、障害者に対する介護保険の利用料についてでございますが、介護保険制度では、お話もありましたように、サービスを利用する人としない人との公平の観点から、かかった費用の一割を利用者が負担する仕組みになっておりますが、ホームヘルプサービスにつきましては、三%の負担に軽減する特別対策がとられているところでございます。また、高額介護サービス費支給の仕組みが設けられ、利用料負担が著しく高額とならないよう、所得に応じて上限額が定められているところでございます。したがいまして、制度的には低所得者に対する配慮がなされているものと考えております。
 次に、障害者の介護保険利用状況等に関する調査についてでございますが、介護保険制度を円滑、安定的に運営するため、区市町村は被保険者の状況、サービス受給状況等について、都に介護保険事業状況報告をいただけることになっております。
 都といたしましては、これらとともに、必要に応じて区市町村等から障害者の介護保険にかかわる情報収集に努めているところでございます。
   〔財務局長木内征司君登壇〕

○財務局長(木内征司君) 多摩地域の都市基盤整備についてのご質問にお答え申し上げます。
 整備に当たりましては、これまでも地元のニーズにこたえ、交通渋滞の緩和や住民の交通利便性の向上を図るため、多摩の南北方向の道路や多摩都市モノレールの整備などを進めてきました。今後も厳しい財政状況を踏まえ、事業の重点化を図り、こうした都市基盤整備を着実に進めてまいります。そして、そのことが多摩地域の振興に役立つものというふうに考えております。

ページ先頭に戻る