平成十二年東京都議会会議録第四号

○副議長(五十嵐正君) 二十六番藤田十四三君。
   [二十六番藤田十四三君登壇〕

○二十六番(藤田十四三君) 質問時間の制限もあり、銀行業等に対する外形標準課税の導入に絞って、石原知事並びに関係局長の所信をお伺いいたします。
 私は、今回の措置は単なる税制改正という枠組みを超え、地方主権の確立に向け、国と地方との関係に新たな一ページを開く大きな決断であり、東京の再生に向かって果敢に挑戦する知事の姿勢を明確に示すものであると受けとめています。
 同時に、この決断が、国や他の自治体をも巻き込んだ賛否両論が沸き立つ中で、内外の注目を集めていることを見据えるとき、都議会にも、行け行けどんどんではない冷徹な議論を行うことが求められ、したがって、もし都議会が財政、税制の基本に及ぶ徹底した議論をしなければ、都議会のかなえの軽重、ひいては地方分権の真価が問われかねないことを、改めて私自身にいい聞かせております。
 私は、このような認識の上に立って、基本的に知事の決断を支持しつつも、幾つかの疑問をただすことを通して、いわゆる石原新税に対する本質的な議論にみずからもかかわってまいりたいと思うのであります。
 まず、今回の外形標準課税の内容に踏み込んで二点お尋ねいたします。
 第一に、課税標準についてであります。
 石原新税では、課税標準に業務粗利益を採用していますが、果たして妥当性がありましょうか。業務粗利益も、所得ほどではないにせよ、変動要素が大きいことは明らかであります。私は、外形標準課税導入の目的は、本来的には税収をふやすことではなく、税収の安定化と負担の公平を確保するため、税の仕組みを応能課税から応益課税に変えていくことであると認識しております。換言すれば、企業が東京に事務所を構え、都市インフラを初めとするさまざまな行政サービスを享受して事業を行うための家賃をいただくようなものともいえましょう。したがって、課税標準、つまり外形基準には、より客観性の高い、例えば店舗数、店舗床面積、従業員数、給与総額あるいは資本金額などを採用した方が一層税収の安定化が図られ、かつ導入の目的も明確になると考えるが、いかがでしょう。
 第二は、分割基準についてであります。
 私が指摘したいのは、なぜその改善に踏み込まなかったかということであります。周知のとおり、地方税法第七十二条の四十八第三項で、現行のいわゆる所得課税のもとで、二つ以上の県において事業を行う法人の納税額を各県に配分するルールとして、分割基準が定められています。今回の石原新税は、この基準をそのまま適用して条例案に盛り込んでおりますが、私はこれにいささか疑問があります。
 そもそも現行の分割基準は、昭和四十五年の地方税法改正によって、資本金一億円以上の銀行業などについては、従業員の数で配分する際、本社の従業員の数を実数の二分の一に割り落としてカウントするなど、都に不利なように手直しされた。これらは、事実上国が分割基準を用いて地方団体間の財源調整を行っているものであり、都はその影響により、十一年度予算ベースで四百三十七億円もの減収となっているのであります。
 こうした措置について、都は国に対して、毎年その改善を求め続けてきたはずであります。ちなみに今年度の国への要望においても、外形標準課税の導入に際しては、分割基準を財源調整機能として用いないようにされたいと述べているのであります。しかるに、今回都が国に先駆けて導入を決めた石原新税の提案に当たって、今定例会に提案された条例案第二十二条で、その不合理を正す機会をみずから放棄をしたのはなぜか、その理由がどうしてもわからないのであります。ここは堂々と、これまで都の主張に即した公平な基準を構築すべきではなかったのかと思いますが、それぞれ関係局長のご所見を伺います。
 次に、石原新税の導入をめぐる影響、課題に関連して三点伺います。
 私は従来から、議会がその審議を通じて速やかな結論を出すべき重要かつ不可欠の前提は、議会に提案される議案の完成度の高さにあると考えてまいりました。さて、本件はいかがでしょう。当然のことながら、条例案自体は十分に吟味され、練り上げられたものでありましょう。しかし、私は念のために、この条例が成立、施行された場合、想定される外側からのさまざまなリアクションに対する備えはできているのかどうかということを、この際きちっと確かめたいのであります。
 第一に、地方特例交付金に対する影響についてであります。いち早く宮澤大蔵大臣が、都は恒久減税の補てんとして地方特例交付金の交付を受けている、国から何ももらっていないのだから、国に遠慮することは何もないという関係にはないと、都の行動を牽制するかのような発言をしておられます。この地方特例交付金は、十二年度予算で一千三百十九億円もあり、このうち法人事業税の減収一千四十六億円に対する補てん分は六百六十四億円と推定するが、実際に国がこれを調整すれば、都財政に対する影響は大きいと思うが、どうか。
 第二に、都と銀行の関係についてであります。石原新税に対して、対象となる銀行は、こぞって絶対反対の立場を表明しています。都はこれまで、これら大手銀行には、都債の引き受けや、主要な第三セクターに対する出資などを通じて密接な関係を保ってきました。今回の銀行側の主張には、例えば憲法違反の指摘など的外れで感情的な反発もありますが、知事サイドにも、大手銀行に絞った課税を正当化するための、ややトーンの高い発言や対応はなかったのか。確かに、地方税法第七十二条十九の規定により、課税自主権の行使は都の権限であることはいうまでもありませんが、しかし、税は納税者の理解と納得のもとに納めてもらうべきものという観点から、この石原新税の内容と意義にあわせ、その必要性をじっくり説明するという基本に立ち返った忍耐強い努力が都に一層求められると思うが、いかがでしょう。
 第三に、私は、大きな影響として、石原新税が法人事業税に対して全国一律に外形標準課税を導入する引き金になるという問題を重視しております。今や自民党税制調査会幹部の、全国的な外形標準課税を早急に導入すれば、都の銀行新税は吸収されるという発言をまつまでもなく、全国的波及を憂慮する政府が、二〇〇一年から全国一律の外形標準課税を導入することを目指して、本格的な検討に入ることは必至の情勢であります。一方で、都は、これまで全国知事会などを通じて外形標準課税の導入を要望しており、他方、都議会では全業種一律課税には反対が根強いなど、導入の時期が早まることはまさに悩ましいことでありましょう。しかし、私は別の観点からむしろ冷静に、景気の低迷によって法人事業税が極端に落ち込んでいるこの時期に導入の引き金を引くことが、本当に適切な措置であるといい切れるのか。外形標準課税という、地方税制にとっていわば切り札を今使ってしまってよいのだろうかという懸念を深めざるを得ないのであります。
 石原新税では、結果的に増税が見込まれるとはいえ、外形標準課税それ自体は、さきに述べたように、基本的に増税のために導入するのではなく、税収の安定化と負担の公平を確保するため、税の仕組みを変えることにあります。したがって、政府が反発を和らげつつ、仮に全国一斉にすべての業種に導入することを決意したときは、恐らくその水準は、現在の景気低迷による低レベルの税収額に固定してしまうおそれがないのでしょうか。したがって、長期的には今回の増収予定額一千百億余円にはかえられない、より大きな損失をこうむるという結果を招かないといい切れるのかどうか、十分検証されたのでしょうか。
 以上三点について、それぞれ知事並びに関係局長のご見解を伺っておきます。
 最後に、石原新税のような、東京都の極めて高度な政策決定に関する手法の妥当性にも関連する、知事の都政運営の基本姿勢について触れておきます。
 質問の冒頭に、まず、就任以来今日まで、東京発のメッセージを真摯に発信してこられた知事に、礼を失した発言になることをお許し願っておかなければなりません。
 既に明らかにしたように、私は今回の知事の決断を基本的に支持をいたします。だからこそ、この際、ぶしつけながら単刀直入に私の考えを述べて、知事の率直なご所見を伺いたいのであります。
 知事は今回の石原新税導入の措置を、特別秘書及び主税局長の四人だけで練った秘策であると説明、世論もこのやり方を知事の指導力のあらわれと好意的に受けとめているようであります。私も、ヘッドスライディング、ホームスチールを敢行した三人の方々のご健闘をたたえるにやぶさかではありません。また、それなりの理由と経過があって、知事がこの秘策を選択したこと、さらに、どなたと秘策を練ろうが、そのこと自体は知事の権限であることは私なりに承知をいたしております。にもかかわらず、私が余りこの手法を使っていただきたくないと、あえて知事に進言するのは、都庁という巨大な組織を上手に使い、その力を一〇〇%発揮させることも、知事に求められる大切なトップマネジメントであるという思いが強いからであります。今回のことはあえて問いませんが、今後秘策を練り上げるときは、余計なことを申し上げますが、その企画に副知事を加えた方がベストであると存じますが、いかがでしょう。
 私が知事の政策決定の手法に関連してこの提案をするのは、副知事が、地方自治法第百五十二条に定める知事の正当な職務代理者であるとともに、信頼して抜てきした知事の選任に議会が同意したという重みに加え、かかって次のような石原新税をめぐる現状認識に基づいていることをご理解いただきたいのであります。
 すなわち、二月二十二日の閣議で口頭了解した都の方針に五項目の疑問を投げかける政府見解の内容は、国の政策との整合性を地方にも求める大蔵省や、あの金融再生委員会の意見が色濃く反映されており、課税自主権の尊重など地方自治の側面は抜け落ちた形になっているだけでなく、ひところ保利自治大臣の指摘にあった一定の理解や厳しい財政状況などの認識は一切なくなり、都の措置に対する疑念を強く打ち出しています。この動きと連動するかのごとく、大蔵省薄井事務次官が二月二十四日の定例記者会見で、全国一律の外形標準課税導入で都の銀行新税がとめられなければ、課税自主権を制限する地方税法の改正を目指すことを示唆したという報道もあります。
 こうした一連の動向と、小骨一本抜かないとする知事の断固たる決意を重ねてみるに、状況によっては、今後国との全面対決は避けられません。このような情勢の中で、今強く求められているのは、都議会の全面的な支援のもと、事に当たっての全庁的な総力の結集であり、心すべきは、その折に、秘策にかかわった特別秘書、主税局長もさることながら、副知事の果たすべき役割は極めて大きいということであります。それぞれ知事の忌憚のないお考えをお聞かせいただきたいと思います。
 重ねて知事並びに関係局長の明快なご答弁を求めて、私の質問を終わります。
 ご清聴ありがとうございました。(拍手)
   [知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 藤田十四三議員の一般質問にお答えいたします。
 まことにご懇篤なるご配慮をいただきまして、確かに身にしみる忠告もございました。
 ただ、外形課税について、納税者たる銀行に理解を得るための努力についてでありますが、税制度の導入の経緯というのは必ずしも一様ではございません。近くは消費税や地価税の例にも見られるように、必ずどこかの段階で苦渋の決断があり、その上で新しい制度が日の目を見るというような側面も十分ありました。
 今回の都独自の外形標準課税については、公表前に納税者たる銀行とのコンタクトをとらなかったのは、それをすれば必ずばれる、そして必ず圧力がかかるという分析判断で、あえてこういう経緯を踏みました。でありますから、公表後には、担当局が全銀協や各金融機関に対して真摯な説明を積み重ねるとともに、関係機関にも十分な説明をしております。また加えて、来るべき予算委員会で参考人もお呼びいただいて、私も陪席し、十分な意見聴取をしていきたいと思っております。
 今後とも、必要に応じてあらゆる機会をとらえ、特定の銀行だけではなくて、これを見守る国民、都民、つまりすべて納税者でありますが、その理解を得る努力を継続していきたいと思っております。
 次いで、外形標準課税を全国的に導入する引き金になる可能性云々についてでありますが、藤田議員はよくご存じと思いますけれども、どうも世間一般では、国が従来考えていると称していた外形標準課税と、今回の都がとりました、同じ呼び名ではありますけれども、都が今度施行いたします外形標準課税は全然内容が違います。かなり違います。これをまず混同していただきたくない。
 今回の都の措置は、銀行業の税収が極めて不安定であり、応益課税としての事業税の機能を喪失しているなど、もはや看過できない状況にある中での決断でございました。
 これに対して全般的な外形標準課税については、景気の動向、中小法人の負担への配慮など勘案すべき課題が多く、近い将来、これが実現されることはまず難しい状況にあると思います。
 したがって、今回の措置が、停滞する国の議論にあるインパクトを与えることはあっても、全般的な外形標準課税に直ちに結びつくものではないと思っております。私なりに、あらゆる人脈を通じて情報も収集し分析いたしましたが、まず近い将来これが実現されることはあり得ないと思います。
 それから、今度の新しい税を決めた経緯についてのご批判でございますけれども、これは決して独善的なトップダウンではございませんで、かなり以前に大塚局長に、税の面での何か妙案はないかと。まあそれ以上のレトリックしますと問題が起こりますが、とにかく考えてくれということで宿題を出しまして、しばらくして答案が戻ってまいりました。それを二人で合議し、随分私も悩みましたが、結局四人だけでこれを進めたという理由、経緯は、この役所は大事なことが非常に漏れやすいとこなんですなあ。これは二人の、私が信任した副知事を決して信用しなかったわけじゃありませんけれども、そのお二方の周りにもいろんな人がいまして、これはどうも、やっぱりあるところまで煮詰めるまで、本当に限られた人間だけでやった方が、事が、何というのか、障害が入らずに済むだろうという判断でいたしました。でありますから、発表の直前に、両副知事と出納長をお招きしまして謝罪いたしまして、ご了解を得ました。そういう意味では、決してチームワークに乱れはないと思っております。
 私は決して独裁者じゃございません。これから、案件に応じては議会にも諮って衆知を集めたいと思いますし、場合によっては孤独な決断をしなくちゃならないときもあると思いますが、いずれにしろひとつ、どういうこれからの国との対決になるかわかりませんけれども、何度か質問に出ましたけれども、これに腹を立てて、この地方分権法もつくった時代に、地方税法を、国が頭にきたからといって、要するに削って、都を含めて地方自治体が持っている地方税における権限を剥奪するほど愚かじゃないと思います。それはまさに国政としての自殺行為だと私は思います。そのときは、都庁に籠城してでも戦おうじゃございませんか。よろしくお願いいたします。
   [主税局長大塚俊郎君登壇〕

○主税局長(大塚俊郎君) 二点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、外形課税の課税標準についてでございますけれども、ご指摘のとおり課税標準につきましては、資本金や資金量など客観性が高く、安定性の高いものがより望ましいと考えられます。
 しかしながら、課税対象行の資本金につきましては、各行ごとに見ると、一億円から一兆円台と大きな差異があり、また資金量につきましては、現実の銀行の活動量を十分に反映するものとはいいがたい実態がございます。
 業務粗利益は銀行の基本的業務をすべてカバーした指標でありまして、一般企業でいえば、売上高から売上原価を差し引いた売上総利益に相当いたします。銀行の事業活動の規模を的確に反映した客観的な基準であるとともに、銀行の収益力に裏づけられた担税力も一定程度反映をされております。
 これらの点を総合的に判断した結果、今回、課税標準として業務粗利益を選択をすることとしたものでございます。
 次に分割基準についてでございますけれども、ご指摘のとおり、都は従来から分割基準の是正を国に対して強く求めてまいりました。確かに、今回の都独自の外形標準課税の導入に当たって、別の分割基準を考えなかったわけではございません。しかしながら、現行の分割基準が所得課税のみに適用されるのか、それとも都が導入する新たな外形標準課税にも適用されるのかを、法文上一義的に判断できず、もし後者だとすれば、仮に分割基準を都独自に設けた場合には、適法、違法の問題が生ずる可能性が出てまいります。そのリスクを考えると、今回独自の分割基準を設けることは断念せざるを得なかったものであります。
 その後、条例公表後でございますけれども、最終的には、内閣法制局から後者の判断、すなわち所得課税のみならず、外形課税にも現行地方税法の分割基準が適用されるという見解が示されております。
 なお、分割基準の是正につきましては、今後とも、都として引き続き国に強く求めてまいります。
   [財務局長木内征司君登壇〕

○財務局長(木内征司君) 外形標準課税の導入に伴う地方特例交付金への影響についてのご質問にお答えいたします。
 地方特例交付金は、ご案内のとおり、平成十一年度の税制改正による恒久的な減税により減収となる地方税を補てんするために設けられたものでございまして、今回の都独自の税制改正とは制度上直接の関連を有するものではございません。したがいまして、地方特例交付金はルールどおり交付されるべきものと考えております。
 今後、国の動向を注視しつつ、必要に応じ、東京都の考え方を国に対して主張してまいります。

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