平成十二年東京都議会会議録第四号

   午後三時四十八分開議

○議長(渋谷守生君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 四十二番吉野利明君。
   [四十二番吉野利明君登壇〕

○四十二番(吉野利明君) 三鷹で農業も営んでおります吉野利明でございます。
 私は、農地に関する課題について何点かお伺いをいたします。
 学術的にいいますと、都市の人口密度は、一平方キロメートル当たり一万人が理想的といわれております。このくらいの密度であると、都市基盤や交通のアクセス、あるいは文化や芸術のようなソフトの面もまあまあ整備されていて、生活に潤いや豊かさが感じられる都市構造なのでしょう。
 さて、我が東京はといいますと、面積約二千百八十六平方キロメートルに約千百九十五万人の都民が住んでおります。数字の上でのみ計算しますと、一平方キロメートル当たり約五千四百人となり、理想的な人口密度の半分程度となります。
 今もいいましたように、これは計算の上での話で、現実には、都心部への集中によって、大都市におけるさまざまの問題を引き起こしているわけですが、周辺区市においても、緑の減少が都市景観や市民生活に大きな影響を与えています。
 そこでまず、都市農地の維持、確保について、知事はどのような認識をお持ちなのか、ご所見を伺います。
 農地の維持に関しては、国の制度として生産緑地制度がありますが、これとても、東京という都市的事情からして、必ずしも安全ネットとしての機能は万全ではありません。相続のあるたびに農地は減少の一途をたどり、都市の景観はさま変わりしてしまいます。
 知事も、さきの施政方針の中で、緑の保全の見地から農地の減少に言及されておりますが、その観点から、農地が農地として維持し続けられるための方法の一つとして、市民農園への利用の展開について伺いたいと思います。
 背景として二つのことを申し上げておかなければなりませんが、一つは、相続税法上、農地として相続を受けるためには、みずから耕作をしていることが条件であること、二つ目は、したがって、個人で市民農園として開放した場合、農地として相続できなくなることがあります。
 こうした法制度下にあって、さまざまの事情、例えば後継者がサラリーマンをしていたり、娘さんしかいないなどによって、農業継続が難しい状況がある場合に、住民要望の多い市民農園として利用が可能であるなら、都市の農地は少しでも多く維持されていくことになります。
 私の地元三鷹でも、老人レジャー農園等、市民農園が数カ所ありますが、六十歳からの応募の老人レジャー農園の抽せんに漏れた七十歳の方から、先の短い自分たちに優先的に使える制度に改めてほしい旨の笑えない陳情を、市議会議員当時に受けたこともありました。
 私は、今や都市の中の農地は、個人に所有権が帰属する不動産ではありますが、市民、都民全体の共有の緑地、空間地として認識し、その維持、保全にはみんなで取り組むべきであると考えています。
 余談ですが、武蔵野地域に古くからあった平地林としての雑木林は、残念ながら、相続税法上の扱いから、今やほとんどその姿を消してしまいました。太宰治や国木田独歩が愛した武蔵野の自然は、法の不備によって失われてしまったともいえます。
 話を元に戻しますが、市民農園についての課題は、都としても十分に承知していることと思いますが、ネックは何といっても国の法制度にあります。そこで、このことについての都の考え方、これまでの取り組みと今後について所見を伺います。
 次に、公共事業を、というより、道路や歩道の整備を進めるに当たっての課題について伺います。
 このことも、都としては既に認識していることでありますが、国の法の不備というか、粗雑さによって、公共事業の進捗に支障が起きています。
 一つは、相続税の納税猶予制度にのっている農地が、道路や歩道の対象地域として買収された場合、税額分を払うのは当然としても、さかのぼって利子税を支払わなければならないことになっています。通常、支払いが確定した税を遅延したら、延滞金を払うのは当然ですが、猶予制度にのっている土地を公共の事業に協力したことにより、制度から除外され、猶予された時点までさかのぼって利子税を課すというのは、ひどい話であると思います。このような状況をどう認識しているか、伺います。
 しかも、経過期間によっては、本来の税と利子税の合計が土地の売却代金を上回るのではないかと不安を持っている方がおります。つまり、土地がなくなった上に追い銭まで払わなければならないとなれば、協力したくなくなるのも無理はないと思います。こうした状況の解決に向けての都の取り組みを伺います。
 もう一つは、公共事業に伴う代替用地として、生産緑地の買い取りができるようにするということです。
 道路整備に伴う商店街の再生については、以前、前向きの答弁をいただいていたところですが、道路に接することになる生産緑地を、商店街再生のため都が代替地として取得できれば、道路整備に伴う商店街の消滅という事態も、ある程度解決できると思いますが、ご所見を伺います。
 さて次に、地域の教育力に関して質問いたします。
 知事は、さきの施政方針において、新世紀の原動力たる人材育成に向けた教育の再構築と題した方針を発表されました。その中で示された知事の認識は、まさにそのとおりであると思います。心の東京革命で提起された内容は、かつてはごく自然に行われていたことが、今は、改めてそれを提唱しなければならない社会になってしまっています。いわゆる戦後、民主主義という社会の中で、誤った個人主義が蔓延し、日本の社会が持っていたさまざまな美風が損なわれてしまった結果であります。しかも、そういう社会状況の中で育った人々が、今、親になって、自分の子どもですらしっかりとしつけをすることができないというのが現状であろうと思います。
 大方の学校では、その教育目標に、思いやりの心を育てるとか、個性を伸ばす教育という言葉が入っているはずであります。しかし、現実には学校現場を含め、子どもたちの心は決して健やかであるとはいえない状況にあります。
 一つには、今の教育基本法には、愛国心やら家族愛といった、中心に向かってまとまろうとする考え方がないからではないでしょうか。これでは、知事がいわれるような、地域や国家、国際社会に目を向け、進んで公に貢献する志を持つ若者は育ってこないと思い
ます。
 知育、徳育、体育といわれるように、三者バランスよく体得して、人間が、人が育っていくことを考えたとき、今の教育に一番欠けているのは徳育の部分です。そして、この分野が、人間が人間を教える教育の中で最も大切でありながら、一番難しい分野であると思います。
 これまで、学校における子どもたちの評価は、点数によるものが主であって、それは、知育における教育の効果を確認するための一つの手法にすぎません。徳育においてその成長を確認する方法には、先生が折に触れて児童生徒のよい点を褒めてあげるなどの方が、道徳教育においてはベターではないかと考えます。こうした点も含めて、道徳教育の促進について所見と取り組みをお伺いいたします。
 次に、保護者の意識改革について伺います。
 子どもたちの教育については、学校、家庭、地域が連携して取り組まなければならないといわれます。しかし、実際には、知事が心の東京革命を叫ばなければならないほどに、地域における教育力は低下しています。子どもを学校に通わせている保護者でさえ、子供のしつけ、教育に自信がなかったり、無関心である人たちが多い中ですから、地域においては、ましてやということです。
 もちろん、親がすべてそうというわけではありません。PTAが主催で家庭教育学級を開けば、必ず参加をして熱心に耳を傾ける保護者の方もいますが、ほとんどの人は無関心で、呼びかけても参加をしてくれません。本来、この参加をしてくれない人たちにこそ、ぜひ聞いてもらいたい内容の事業を計画するのですが、まずだめです。地域の教育力を高めていくためには、一人でも多くの人たちに、地域の一員としての自覚と、将来を担う子どもたちへの関心を持ってもらうことが重要と考えますが、所見と取り組みをお伺いいたします。
 また、私は、こうした保護者の意識の改革のために、知事みずからの積極的なアピールが有効であると思います。例えば、ことしの夏に武道館で開催される全国高等学校PTA連合会の東京大会など、一万人もの保護者や関係者が集まる大会に出席して、心の東京革命に対しての理解と協力を求めるなどは、マスコミの注目度を考えると大変大きな効果が期待できると思いますので、ぜひとも出席されるようお願いをしておきます。
 現実の地域社会を見てみますと、社会の変化に伴ってさまざまな課題が発生してきています。知事は、PTAに参加したことがおありでしょうか。男女平等参画社会の進行に伴い、女性の社会参加がふえてきた一方で、PTAの役員や地区委員会の委員の引き受け手がいなくて、どこの学校も苦心しているのが実情です。こうした最も子どもたちに近い、そして地域の核になるべき団体がこの状態ですから、問題は深刻です。
 かつて、十年以上前、私がPTAの役員をしていたころに、地区委員会やPTAが住民協議会とともに児童生徒健全育成推進協議会なるものを立ち上げ、地域の連携のもとに子どもたちを見守っていく活動が展開されたことがありましたが、残念ながら現在は余り機能しておりません。
 現状を分析してみますと、こうした地域社会の連携には、活動に積極的に取り組んでいく強力なリーダーの育成と、それを支えていく地域コミュニティの醸成に向けた取り組みが必要であると思います。子どもを地域の子としてとらえ、地域社会を構成する大人たちが連携協力し、地域社会全体で子どもを育てていく環境を整備していくことが重要と考えますが、ご所見を伺います。
 子ども自身への道徳教育の促進と、親としての意識の改革、そして地域社会全体で子どもを育てていくための強力な連携ができて初めて、子どもたちが社会で生きていく上での基本的なルールを教えることができ、なおかつ地域や国家への帰属意識も育っていくはずです。そして、そのことが、もう一方では、地方主権の真の担い手としての都民意識の高揚につながっていくことになります。また、目には見えない社会資本としての地域の力の強化になるものと思います。
 最後に、こうしたことも含め、心の東京革命の推進に向けた知事の決意をお伺いいたします。
 さきの定例会におきまして、我が党の中西一善議員から、議場において日の丸を掲揚する提案がなされました。私どもは都民の代表として、この議場に日の丸を掲揚し、国歌を斉唱して、ただいま卒業式で混乱をしている子どもたちに手本を示していく必要があるという認識を最後に申し上げて、私の質問を終わらせていただきます。(拍手)
   [知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 吉野利明議員の一般質問にお答えいたします。
 都市農地の維持、確保の認識についてでありますが、アスファルトジャングルの大都会の中で、都市の中の農地を見ますと、本当にほっとする思いがいたします。東京の農地は、都民に新鮮で安全な農産物などを身近に供給する生産の場としても重要でありますし、こうした生産活動を通じて緑や防災空間を提供し、都民の安らぎや潤いの場所となっております。良好な都市環境を形成する上からも重要な要因であると思っておりますし、また、この維持、確保に努めていきたいと思っております。
 新たな農業基本法においても、都市農業について、消費地に近い特性を生かし、都市市民の需要に即した農業生産の振興を図ると明記されたことは、都のこれまでの考え方と軌を一にするもので、力強い思いがいたしま
す。
 市民農園というのも非常にいい発想だと思いますが、やはり相続税などの税法というものがいろいろ障害になっていると思いますし、こういった農地の都市における意味合いというものは、地方から出てきている国会議員にはなかなかわからないところがありまして、これからも東京都として、こういった税制を基本的に考え直すような、そういう申し出というものを、折に触れて行っていきたいと思っております。
 次に、心の東京革命についてでありますが、これは本当にごく当たり前のことを当たり前にしようとしているだけのことでありまして、社会における基本的なルールを守れない子どもたちの増加は、親や大人の責任問題であり、社会全体のあり方が問われていると思います。このような現状を変革していくためには、地域の人々が社会人の先輩として、大人としての責任を自覚し、役割を自覚して、自分の子どもだけではなくて、他人の子どもに関心を持って、その育成に取り組んでいくことが必要だと思っております。
 先般、どなたでしたか、いただいたメモの中に、賀川豊彦の言葉が引用されておりましたが、子どもにはしかられる権利があると。まことに至言でありまして、同時に、それはひっくり返すと、私たち大人に子どもをしかる責任があるということでありまして、こういった人間社会の基本原理を踏まえて、心の東京革命を提唱し、その取り組みをこれから積極的に推進していくつもりでございます。
 他の質問については、関係局長から答弁をいたします。
   [労働経済局長大関東支夫君登壇〕

○労働経済局長(大関東支夫君) 市民農園を維持する場合にネックとなっている法制度についてお答えいたします。
 市民農園には、原則といたしまして、相続税の納税猶予制度や自治体への買い取り請求権が適用されないことなどが法制度上の障害となっております。このため、都は、こうした制度が適用される農家みずからが経営する、いわゆる体験型の市民農園の普及拡大を図るとともに、市民農園として開放した場合でも、農地保全の観点から、相続税の納税猶予制度が適用されるよう、今後とも国に強く働きかけてまいります。
   [建設局長古川公毅君登壇〕

○建設局長(古川公毅君) 都市農地と道路事業の用地取得のかかわりについて、三点お答え申し上げます。
 まず、相続税の納税猶予にかかわる利子税についてですが、これまでどおり農業を継続していれば免除される相続税について、道路などの公共事業に協力することにより、相続税のほか、猶予期間に応じた利子税を納付することになっております。このため、農地の所有者の理解がなかなか得られず、中でも多額の利子税をさかのぼって支払うことが用地取得の隘路になっており、事業促進の点から問題があると認識しております。
 次に、納税猶予制度の改善に向けての取り組みですが、都としても、公共用地の取得について農地所有者の理解と協力を得るためには、納税猶予を受けられることが重要であると考え、これまでも機会をとらえて、独自に、あるいは他の自治体や関係団体とも連携して、国に対して要望してきました。公共用地の円滑な確保を図るため、引き続き納税猶予の継続適用を要望するとともに、新たに利子税の免除についても国に強力に働きかけてまいります。
 生産緑地を代替地とすることについてですが、生産緑地内においては、公共施設等を除いて宅地としての利用が制限されており、生産緑地を道路整備に伴う代替地として直接取得することは難しゅうございます。したがって、生産緑地を活用した商店街の再生については、生産緑地の換地先の有無、関係権利者の意向、地域の状況等の条件が整えば、面的整備などの事業手法も検討してまいります。
   [教育長中島元彦君登壇〕

○教育長(中島元彦君) 三点のご質問にお答えをいたします。
 まず、道徳教育促進についての所見と取り組みでございますが、道徳教育は、社会生活上のルールや基本的なモラルなどの倫理観、我が国の文化や伝統を尊重する態度、国際協調の精神などを培い、子どもたちのよさを認め、励まし、人間としてよりよく生きていく力を育成することを目指しております。
 都教育委員会は、保護者や地域の方々の参加、協力を得た道徳の授業の公開を本年度百三十七校で行っており、平成十四年度までに全小中学校で実施する予定でございます。また、児童生徒の心をはぐくむため、トライ&チャレンジふれあい月間を設定し、地域清掃など、学校、家庭、地域が一体となった体験活動を全小中学校で実施いたしました。今後とも、道徳教育を初め、児童生徒の心の教育を積極的に進めてまいります。
 次に、保護者等の地域の一員としての自覚と子どもたちへの関心についてでございます。
 ご指摘のとおり、親を初め子どもたちが、子どもの主要な生活圏である地域社会で、子どもたちを社会の子としてとらえ、悪いことをしかり、よいことを褒めるなど、地域の一員としての自覚を持って子どもたちに積極的に働きかけることが、今、極めて大切であると考えております。
 このため、都教育委員会といたしましても、関係各局と共同して心の東京革命を推進し、「毎日きちんとあいさつさせよう」などの標語を用いたキャンペーンや、フォーラム、講演会、シンポジウム等を連続的に実施し、社会的ムーブメントを巻き起こすことにより、大人の意識啓発を図ってまいります。
 次に、社会全体で子どもを育てていく環境整備についてでございます。
 こうした環境を整備していくためには、地域社会の構成員である大人たちの積極的な社会参加が必要でございます。このため、学校運営連絡協議会など地域に開かれた学校づくりを進めるとともに、親子ふれあいキャンペーンを実施し、地域でのさまざまな触れ合いと交流の場や機会の創出を図ってまいります。
 さらに、地域における子育てグループや青少年健全育成団体の活動推進、ネットワークづくり、人材育成などについて、区市町村等への支援を行い、社会全体で子どもを育てる環境づくりに努めてまいります。

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