平成十二年東京都議会会議録第四号

○副議長(五十嵐正君) 五十六番小竹ひろ子さん。
   [五十六番小竹ひろ子君登壇〕

○五十六番(小竹ひろ子君) 初めに、下町の触れ合いを残したまちづくりについてです。
 私の住む文京区は、国や都、民間を挙げての都市開発のあらしのなかで、バブルの地上げによって住民が追い出され、マンションやオフィスビルが林立するまちになってしまいました。その一方で、商店街が寂れ、地場産業である印刷、製本業も衰退の道を歩まされています。この二十年間に住民が三万人も減り、商店は一割を超える七百件以上が店を閉じてしまいました。もうこれ以上の開発はごめんだというのが、文京を愛し、住み続けている住民の共通した思いです。
 しかし、石原知事は、国際競争力だとか東京の活力だとかといって、都市再開発を強力に進めようとしています。危機突破・戦略プランで打ち出されたような都市開発を進めるならば、文京区は再びあの悪夢のようなバブルと地上げに脅かされることになりかねません。私は、文京のような下町の雰囲気の残されたまちでは、開発優先のやり方ではなく、歴史と文化を大事にし、下町の風情と、人と人の触れ合いのあふれたまちとして、二十一世紀に伝えたいと考えるものです。
 そこで伺います。
 文京区内には、次代に伝えるべき景観や歴史的建造物が多く残されています。江戸時代からの小石川後楽園や六義園などの名勝や、夏目漱石、樋口一葉などの近代を代表する文化人の名残などは代表的なものです。こうした資産を有効に活用してまちづくりに生かしていくことが、今、大切になっているのではないでしょうか。この点について東京都都市景観マスタープランは、近年の開発やビルの高層化は次第に表情の似た景観になりつつあると、現状を憂えています。文京区をどこにでもある、当たり前の都市にしてはならないと考えています。
 知事、オフィス中心の再開発一本やりでなく、文京区のような下町の歴史と伝統を持つ地域では、歴史的遺産を残しながら、人の息づくまちづくりを進めることも、都市づくりの一つの方法と思いますが、所見をお伺いします。
 本郷菊坂地域には、明治文学の代表的作家である樋口一葉が住んでいた家や通っていた伊勢屋質店、昔ながらの長屋などが残されています。地元からは、このような建物を残してほしいとの声が寄せられ、週末には文学散歩の人たちがたくさん訪れています。そこで、このような場合、文化遺産を都の歴史的建造物として積極的に選定するとともに、周辺も含めた地域を下町文化ゾーンとして整備することは、地域の活性化にもつながると考えています。どうですか、答弁を求めます。
 また、文京区内には東大の安田講堂や大正年代の建物など、都内の二割に当たる十四件の建物が文化財として登録されており、そのうち七割が個人所有になっています。ところが、この文化財登録は、固定資産税の軽減以外には設計費の補助があるだけで、そこに住み、修繕を行わなければならない住人にとっては、いろいろと制約は受けるのに、負担は自分持ちの制度になっています。文化財を後世に引き継ぐことは社会的責任です。相続税の軽減や補修費などの補助制度などを、知事が国にかけ合ってやらせたらどうでしようか。また、都としても独自の補助などの支援策を組むことを求めるものです。いかがでしょうか。
 次に、中小企業の振興について伺います。
 政府は、さきの百四十六臨時国会で、三十六年ぶりに中小企業基本法の全面的な改定を行いました。新しい基本法は、施策の中心に、いわゆるベンチャービジネスへの支援策が据えられたことが特徴です。同時に、それまであった過当競争の防止とか、中小企業の組織化を図るとか、事業活動の機会の適正な確保などといった保護条項が皆なくなり、中小企業の経営環境改善の支援策が軒並み切り捨てられたことは重大です。新基本法は、大多数の小規模企業に対する対策については、適切な役割分担などといって、国の責務を後退させ、専らその責任を区市町村に押しつけるものになっています。
 一方、石原知事は、さきの施政方針で、ベンチャー企業や創業者に対して支援を行い、中小企業の一様な保護育成を図ってきたこれまでの産業政策を転換すると述べました。幅広く中小企業一般を守備範囲として、経営のレベルアップのてこ入れを図ってきたやり方を、ベンチャー企業など意欲ある企業に的を絞って支援するやり方に変えるということです。
 これでは、政府の方針と全く同じです。果たして、これが今、都に求められている中小企業支援の方向でしょうか。これでは、東京の地域と経済を支えてきた中小企業の多くが、都の政策的支援の対象外とされる危険性が強まり、東京の活力はますます失われることになるのではないでしょうか。
 我が党は、ことしに入ってからの活動で、都内一万一千を超える中小企業及び中小企業団体を訪ね、対話を重ねてきました。売り上げが半分に減ったとか、単価をたたかれ、企業主の賃金はパートタイマーより安いとか、どこへ行っても不況の厳しさが話題となりました。
 十年に近い長期不況の中で、大企業の海外移転による空洞化、逆輸入による価格破壊、規制緩和、銀行の貸し渋りなど、中小企業の経営環境は文字どおり激変し、深刻な危機が進行していることを痛感させられました。
 このようなとき、国がこれまでの中小企業への経営環境改善の支援策から撤退することに、多くの中小企業団体から心配の声が上がっています。今こそ、都が一層中小企業全体への政策的支援を探究し、拡大することが求められているのであります。
 この見地に立って、以下幾つか提案するものです。
 一つは、東京の産業振興の基軸をしっかりと定める問題です。
 それは、ベンチャーなどといった、日本じゅうどこの都市でも通用するような通り一遍のものではなく、まさに東京を代表する産業を基軸に据えて、国際的競争力にも打ち勝てる産業に育て上げることです。
 実際に、東京には、私の地元文京、新宿を中心とした印刷・製本、大田、品川を中心とした機械金属、そして墨田を中心としたアパレル・雑貨という、三つの極めて多様で大きな産業集積が形成されています。専門家に伺ったところ、世界のどこの大都市にも、これに匹敵する多様な産業集積は見られないという話でした。これは、どんな都市にも簡単にまねのできない集積であり、そこを支援して押し上げることで、東京の特色、東京の顔を持った産業として成長していくのではないでしょうか。これこそ、東京の活力をよみがえらせる大道というものです。
 また、知事がいうベンチャー企業が多面的に発展していく上でも、そのすそ野を形成するさまざまな産業の集積が地域経済に根づいていることが必要です。
 これら三つの地域に高度に集積した産業を、東京を代表する産業として位置づけ、それにふさわしい支援を行うことが東京都の責務であると考えますが、知事の認識を伺います。
 その際、支援策のかぎを握るのが、我が党が提案して実現した工業集積地域活性化事業です。これは、製造業を、これまでの業界団体という線からの支援であったものを、地域の集積に着目して面として支援すること、その際、区市町村が自由にメニューを決めるという新しい方式で始められたものです。この活性化事業について、墨田区などでチャレンジされている、中小企業がみずから製品を開発し販売のルートに乗せるという、いわば商工一体に進めるというやり方に学ぶ必要があります。
 工業集積地域活性化事業は来年度以降も継続させ、物づくり機能だけでなく、つくったものを流通させる機能である商業振興と連携させる新たな仕組みづくりも視野に入れることなど、内容的にも発展させる必要があると思いますが、どうですか。答弁を求めます。
 さて、文京区は、この工業集積地域活性化事業を来年度申請し、区内の印刷、製本業者の生き残りを支援していくとしています。区内の印刷、製本業者は千三百三十社、これに関連業種を加えると、二千二百七十一社が集積し、地域経済を支える重要な役割を担っています。工業集積地域活性化事業の指定に当たって、都が積極的な支援を行うことは当然ですが、加えて、印刷、製本という業種に着目した支援も望まれます。
 その一つが、大手業者の価格ダンピングや買いたたき、下請いじめなどの問題です。ある社長さんは、大手は、零細業者がやっている名刺印刷までとっていったり、原価を割った半値で仕事をとっていくと、その横暴ぶりを怒っていました。
 こうした事態の中で、昨年夏、印刷十二団体、五千七百社が参加した協議会がつくられ、大手に対して、業界のリーダーとして、ルールとモラルある行動が望まれると批判しているのです。
 そこで、少なくとも中小零細業者と大手が共存できるように、都としてのルールづくりと、必要な場合には、大企業のむちゃくちゃな下請いじめを是正させるなど、指導性を発揮すべきと思いますが、どうか。
 また、中小企業振興公社の位置づけを高め、下請取引の苦情相談の体制の強化や、集積地域内への出張所の設置、仕事確保などの機能を抜本的に拡充し、業者の要望にこたえるようにすべきではありませんか。あわせて答弁を求めます。
 もう一つ、支援が望まれているのが、技術革新に対する訓練、教育の問題です。
 印刷、製本をめぐる技術革新は、情報化時代の反映で激しく、企業として生き残っていく上で、従業員の教育は欠かせません。しかし、既存の技術教育は、昼間行われているものが多かったり、受講料も高価です。業者は、仕事を終えてから受けられるようなものを求めています。
 中小業者が日進月歩の技術革新に対応するために、技術専門校は、地域の中小企業と連携を一層深め、教育、訓練を支援することが求められていると思いますが、どうか。伺います。
 次に、官公需の発注の改善では、不況と大企業の下請いじめなどに苦しんでいる中小企業への発注率を大幅に引き上げるとともに、明らかに採算割れが予想されるような低価格入札による価格破壊を防ぎ、中小零細業者の育成を促進するために、最低価格制の対象をすべての印刷、製本に拡大すること、地元優先発注に努めることが急がれています。答弁を求めます。
 規制緩和の問題も重要です。
 我が党の訪問活動の中で最も多かった、零細企業に打撃を与え、大企業本位にマーケットを広げる規制緩和に歯どめをかける問題です。
 今、酒屋さんは、個人消費の不振で売り上げが落ちている上、スーパーや酒のディスカウントショップが進出し、店を閉めるところが相次いでいます。政府は、酒販免許の店舗間の距離基準の緩和などを推し進めようとしており、地域のコミュニティを支えてきた酒屋さんは、死活のふちに立たされています。酒販組合では、どこの国でも酒の販売には規制がある、野放しの販売は青少年への影響が心配されるからだともいっています。また、大型店の一方的な時間延長の問題も、商店街に重大な影響を与えています。
 知事は、このような規制緩和はストップするよう国に求めるとともに、地域社会への影響を考えて、適切な規制を含む東京独自のルールをつくるべきではありませんか。
 また、このような環境変化に対応するために、新たな商店街振興の方向と政策を検討する場を立ち上げて支援することが期待されています。
 あわせて答弁を求めて、質問を終わります。(拍手)
   [知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 小竹ひろ子議員の一般質問にお答えいたします。
 下町の歴史と伝統を持つ地域のまちづくりについてでありますが、お地元の文京区に愛着、大変ひとしおの感じがいたしますけれども、文京区というのは下町ですか、あれ。概念からいうと、ちょっと違うんじゃないかと思うんですが、いずれにしろ、これらの地域には、江戸期、近代期の建築物や大規模な公園、堀など、歴史的、文化的遺産や、これに根差している魅力のあるかいわいが受け継がれてきております。下町を含めて、いろいろな性格の町があるということが大都市の魅力だと思っております。こうした歴史や文化を生かしながら、活力あるまちづくりを進め、国際的にも特色のある地域を形成していくことが重要と心得ております。
 今後とも、地元区などと連携を図りながら、にぎわいと魅力にあふれる国際都市東京を創造していきたいと思っております。古い東京を残すことも、これは立派な文化事業と思っております。
 次いで、東京の地場産業についてでありますが、城南地域の金属加工業や、都心部に集積する印刷産業等は、東京の代表的な地場産業であり、都民の生活、文化、情報を担う重要な産業であると認識しております。
 都としても、これらの地場産業の振興を図るため、中小企業が意欲的に取り組む技術開発等の経営革新に対して支援も行っておりますし、産業振興ビジョンの策定に当たっては――これは地場産業とはいえ、それなりに競争原理があり、淘汰が働いているわけでありまして、これが自由主義経済の原理であると私は心得ております。あなた方のお家元のソビエトでも中国でも、やっとこのごろそれに気がついてきたようでありまして……(笑声)こうした視点から、都内各地に立地する多様な地場産業の振興について検討していきたいと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。
   [生活文化局長今沢時雄君登壇〕

○生活文化局長(今沢時雄君) 歴史的建造物の選定と、その周辺地域の活性化についてでございますが、歴史的に価値のある建造物は、東京の歴史と文化を伝える、都民の貴重な共有の財産でございますので、都は、これらの保存、活用を促すため、景観条例に基づきまして、昨年から三十四件の建造物を選定してきております。
 今後とも、この選定を進めますとともに、こうした都選定歴史的建造物が、区市町村などによるまちづくりに生かされるよう、働きかけてまいります。
   [教育長中島元彦君登壇〕

○教育長(中島元彦君) 国の文化財登録についてのお尋ねでございますが、文化財登録制度は、所有者が、日常的な管理を行いながら無理なく文化財を保護していく制度でございまして、文化財指定制度と比べ、規制は緩やかでございます。したがって、厳密な規制を前提として必要な補助等を実施する、文化財指定制度と同様の支援措置は想定されておりません。
 国は、登録文化財について、修理に係る設計監理費の二分の一を補助し、敷地の地価税を二分の一に減税するとともに、改修資金の低利融資を行っております。
 さらに、都も、国の登録文化財に対して、設計監理費の四分の一を補助するとともに、家屋の固定資産税の軽減措置を講じております。
   [労働経済局長大関東支夫君登壇〕

○労働経済局長(大関東支夫君) 中小企業対策にかかわる五点のご質問にお答えいたします。
 まず、工業集積地域活性化支援事業の継続、発展についてのお尋ねでございますが、工業集積地域活性化支援事業につきましては、ご承知のように、平成八年度から毎年四地域を指定いたしまして、平成十二年度までに合計二十地域を指定しまして、地域指定を終了することとなっております。
 お話の、物づくり機能と流通機能の連携は、重要なことと認識しておりますが、今後、地域の工業振興施策のあり方を検討する中での課題であろうと、このように考えております。
 次に、中小零細業者と大手業者の共存のための施策についてでございますが、産業構造の転換と長引く景気低迷の中で、地域経済を支えている下請中小企業は非常に厳しい状況にあることは認識しております。
 このため、都は、発注元企業や団体に対して、発注拡大や下請取引の適正化を要請するとともに、官公需について、中小企業の受注機会の拡大を図っております。
 今後とも、中小企業振興公社におきまして、仕事のあっせんや確保を図るとともに、苦情相談による下請取引の適正化等に努めてまいります。
 次に、中小企業振興公社の相談体制や仕事確保などの機能の強化拡充についてでございますが、これまでも、中小企業振興公社の本社を初め、城東、城南及び多摩の各支所における下請相談や受発注事業等に加え、さらに、新宿、文京、江戸川区など十八の区役所の下請相談窓口とも連携を図りながら、下請取引の適正化や仕事の確保に努めております。
 今後とも、これらのネットワークを活用し、下請企業に対して適切な対応を図ってまいります。
 次に、中小企業の教育、訓練に対する都立技術専門校の支援についてのお尋ねでございますが、技術専門校と地域の中小企業が連携して、技術革新に対応した教育、訓練に取り組むことは重要なことであると認識しております。
 都は、これまでも、技術専門校におきまして、事業主団体等で構成する協議会の意見を訓練内容等に反映するとともに、地元の事業主の相談に応じてまいりました。加えて、業界団体や地域の企業の要望に基づくオーダーメード訓練を実施しているほか、六校に人材開発センターを設置し、施設や設備の貸し出しなどを行っております。
 今後とも、地域の中小企業との連携を一層強め、中小企業の従業員の教育、訓練を支援してまいります。
 次に、規制緩和と商店街振興についてのお尋ねでございますが、規制緩和につきましては、現在、国の行政改革本部規制改革委員会におきまして、規制緩和推進計画の改定の中で検討されていると承知しております。
 都といたしましては、これまでも、規制緩和等の環境変化に適応し、営業の継続や業種の転換を図る事業革新に取り組む中小企業に対しまして、経営指導や制度融資、中小企業経営革新支援事業等の施策を通じて幅広く支援してまいりました。
 また、新たな商店街振興施策につきましては、平成十二年度に予定している二十一世紀商店街振興プラン作成事業の中で検討していく考えでおります。
   [財務局長木内征司君登壇〕

○財務局長(木内征司君) 中小企業への発注などについてのご質問にお答え申し上げます。
 東京都は従来から、分離分割発注の推進や、共同企業体方式の活用などにより、中小企業の受注機会の増大に努めてきたところであり、平成十年度の中小企業への発注実績は、件数で八六・一%、金額では五三・四%を占めまして、この比率は、国の実績を金額ベースで一〇ポイント以上上回っております。
 また、最低制限価格制度は、工事及び製造の請負契約について、その適正な履行を確保する観点から地方自治法上設けられているもので、都においては、これらに加えて、印刷物のうち、製造の請負に当たるような、例えば「東京都議会史」のような特別な仕様のものに限り最低制限価格制度を適用しているところであり、その拡大は考えておりません。
 また、地元優先発注については、従来から、地理的条件をも考慮した入札参加者の選定を行っているところでございます。

○副議長(五十嵐正君) この際、議事の都合により、おおむね二十分間休憩いたします。
   午後三時二十五分休憩

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