平成十二年東京都議会会議録第三号

○議長(渋谷守生君) 六十三番前島信次郎君。
   [六十三番前島信次郎君登壇〕
   [議長退席、副議長着席〕

○六十三番(前島信次郎君) 中小企業について伺います。
 初めに、製造業にとって基本となる物づくりについてであります。
 これまで東京の中小の製造業は、すぐれた技術力を生かして世界に通用する製品を生み出すとともに、我が国の産業発展の原動力として大きな役割を果たしてまいりました。しかしながら、急激な産業構造の変化と長期化する不況の板挟みに遭って、すぐれた技術力を生かした物づくりを続けることが大変厳しくなってまいりました。こうした物づくりの現場では、また、若者の製造業離れも進んでいます。
 都はこれまでも、技術専門校等において、技術の基盤となる技能者の育成を行ってまいりました。また、中小企業の物づくりへの対応として、技術開発のための融資、創造法に基づく助成など資金面での支援や、産業技術研究所など試験研究機関による指導、技術開発支援を実施してきたことは承知しているところであります。
 しかし、東京の中小企業における物づくりのためには、単に企業の技術開発を支援するだけではなく、経営、資金、情報提供など多面的な支援を行うことが重要と考えます。そこで、都の中小企業の物づくりに対する支援体制を伺います。
 第二には、産・学・公の協力体制についてであります。
 中小製造業が物づくり基盤技術を維持し、激しい競争を勝ち抜き発展していくためには、新製品や新技術の開発に積極的に取り組んでいくことが重要と考えます。しかし、大企業に比べると技術開発力が十分ではない中小企業では、独力で技術開発を進めていくには限界があります。
 このため、こうした中小企業の技術開発力を向上させるためには、さまざまな分野で研究開発を行っている大学や研究機関との情報交換を行いながらの連携や、そこに蓄積された技術や特許を活用したり、共同研究に取り組むなど、産・学・公の連携が必要と考えます。東京の物づくり活性化のため、都が中小企業の技術開発力を高める産・学・公の連携による支援を、今後どのように強化していこうとするのか伺います。
 また、過日の新聞報道によりますと、東京商工会議所は来年度、産・学・官交流ネットワークを発足させ、企業と大学の交流促進を図っていこうとしているようですが、都はこうした民間団体の動きにどう連携していこうとするのか、あわせて伺います。
 第三に、中小企業のデータベースについてであります。
 東京の中小企業には、独自の技術を持って世界的なシェアを確保している企業もたくさんあります。しかし、技術的には優秀なものを持ちながら、それが社会に知られていないために、伸び悩んでいる企業も多くあります。こうした企業の持つ技術を広く紹介し、それをさらに拡大させて、新しい技術開発に結びつけていくことこそが重要であります。
 都は来年度、都内の主要中小企業のデータベースを整備することにしております。私は、こうしたデータベースを整備して、都内中小企業の持つ技術力を国内外に発信していくことは、非常に有意義なものであると考えています。
 しかし、このデータベースが中小企業の物づくりに真に役立つものになるためには、中小企業の持つ技術情報など、現在世間には知られていないが、その中小企業にとっては売りとなる情報がデータベースによって発信されるとともに、さまざまな形で活用されることが必要であります。そうした意味で、都が構築しようとしているデータベースは、具体的に、中小企業のどのような情報を世界に向けて発信し、どのような役割を果たそうとしているのか、お伺いをいたします。
 第四に、技術の継承について伺います。
 中小企業の中には、独自の技術が受け継がれ、今でも企業経営の中核になっているところが少なくありません。しかし、こうした貴重な技術や技は、人から人へと受け継がれてきたものであり、長い時間と多くの労力が蓄積されたものであります。
 そこで、これからの情報産業化の中で十分に対応でき得る新しい人材の育成が必要であります。そこで、例えば技術者バンクのような、豊かな経験と技術の持ち主に登録をしていただき、必要に応じて中小企業の技術等の指南役として幅広く活動のできる体制を考えてはいかがと思いますが、ご所見を伺います。
 次に、都営住宅の管理について伺います。
 東京都が所管している住宅戸数は二十六万戸を超えたと聞いております。これは全国最大であり、第二位の大阪府の約二倍に当たります。このような膨大な数の都営住宅の管理をひとり都が行うことについて、適正かつ効率的な管理の観点から、疑問を呈する意見もあります。
 また、少子高齢化の進展を背景に、住宅施策と福祉施策の連携が求められる中、地方分権の推進と相まって、住民に身近な区市町村が公営住宅の施策の担い手として、その役割を果たすべきであると考えます。
 今日までの移管状況を見ると、決して順調に進んでいるとはいえません。区への移管が始まった昭和六十二年度から平成十一年度までに約六千戸が移管されたのが実態であります。これまで区が移管に積極的にならなかった主な原因は、新たな業務や財政負担の増大などがあります。一方、都営住宅団地の一部を子育て支援施設や高齢者向けの施設の設置に利用したいという声も高まっています。
 そこで、区が都営住宅の移管を進んで受け、それぞれの福祉や、まちづくりの計画や施策に活用できるよう支援をしていく必要があると考えますが、ご所見を伺います。
 次に、スーパーリフォーム事業について伺います。
 十年度千八十戸、十一年度計画では一千五百戸、さらに十二年度では一千六百戸と、四十年代に建てられた都営住宅を中心にして行われています。古かった住宅が生まれ変わった姿に、居住者の方々から大変に喜ばれています。
 しかし、今行われているスーパーリフォームの対象住宅は、二DKの間取りが多く、また、大改修しても、面積の増加にはなりません。しかし、今でも高齢者が多い団地などでは、スーパーリフォームを行っても、居住者の構成に変化はありません。
 そこで、大改修のスーパーリフォームを実施する機会に、若いファミリー世帯の入居など、多様な世帯が住めるよう、居住面積の増加を考えることも必要ではないでしょうか。
 次に、空き家住宅の効率的運用について伺います。
 本年一月末では、公募用、事業用と含めると約七千五百戸となっており、中には、長期にわたって空き家になっているとの声も聞かれます。この空き家対策については、これまでも都として努力を重ねられていることは十分承知しておりますが、より効率的な運用により、限られた住宅ストックを活用すべきであります。ご所見を伺います。
 次に、エレベーター設置促進について伺います。
 年々高齢化が進み、それに伴って、四、五階建ての都営住宅居住者から、エレベーターの設置希望が高まっています。まず、その状況について伺います。
 このたび、国において、我が党の提案により、バリアフリー化を推進する方策として、いわゆる階段室型住宅にもエレベーター設置を要求したところであります。この提案を受け、建設省では、エレベーターの基準を見直すなど規制緩和を含め、実現に向けて検討中であります。それによりますと、一基当たり約六百万円以下と、従来のものに比べてかなり低価格になっております。
 こうした動きに対して、都としても積極的に対応し、都営住宅の階段室型住宅や、要望の多い中層住宅へのエレベーターの設置が促進されると考えます。ご所見を伺います。
 次に、運輸政策審議会答申について伺います。
 去る一月二十七日、運輸政策審議会は、二十一世紀にふさわしい東京圏の鉄道整備計画を答申したところであります。答申では、二○一五年を目標年次に、混雑緩和や時間短縮、空港や新幹線へのアクセス機能など、幅広いものとなっています。
 今回の答申に対する都の対応について、ご所見をまず伺います。
 次に、区部周辺環状交通について伺います。
 この問題は、さきにも述べられましたが、地元にとっては大変大きな課題でありますので、あえて質問をいたします。
 この環状交通は、江戸川区、葛飾区、足立区を通過する環七の地下をルートとする路線のメトロセブンと、北区を経由し大田区に至るエイトライナーから成る、周辺九区、延長約七十一キロメートルという長大路線の構想になっています。関係する沿線の自治体では、多くの区民とともに促進協議会を結成し、このたびの運政審に十分反映されるよう、各方面に活動を展開してきたところであります。答申の中で、環状交通は効果的であると高く評価をされましたが、採算性や事業主体など課題を抱えているため、今後の検討路線と位置づけられました。
 しかし、多くの人たちの悲願が受け入れられ、運輸政策審議会答申に環状交通が明記されたことは高く評価するものであります。今後の取り組みについてご所見を伺います。
 都を中心として、これまでも活発な活動をしてこられた関係九区の連携を、今後どのように進めていくのか。
 次に、環状交通は地下鉄方式が考えられていますが、新交通やLRTなど、採算性の検討も必要と考えます。
 さらに、長大路線という物理的条件を緩和するため、地域の需要に応じた部分整備の検討も必要と考えます。都の取り組みを伺いまして、質問を終わります。
 ありがとうございます。(拍手)
   [知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 前島信次郎議員の一般質問にお答えいたします。
 中小企業の物づくりに対する支援体制についてでありますが、先般、あるテレビの番組で、よくご存じの松下、ナショナルの技術担当の重役をされ、今、東海大学の教授をしていらっしゃる唐津一さんと私、個人的に親しくしていただいておるんですけれども、いろいろお話を聞きました。
 そのときに非常におもしろかったのは、やっぱり日本の技術、物づくりの技術を支えているのは、非常に高度な技術でありながら、それを駆使している人たち、職人的なこだわりである。これがすばらしい技術を生んでいるんですが、案外、日本人がその価値を知らない。それで、アメリカの方がむしろそういうものに注目しまして、例えばアメリカのロケットの弾頭の部分のあの微妙な、何というんでしょうかね、曲線の弾頭の部分は、日本の技術をもってしないとできないそうであります。ただ、そういうものを、こだわる職人さんたちはいいんですが、こだわるがゆえに、非常に自分の持っている技術に対する無関心というんでしょうか、その価値についての無関心が片方ありまして、アメリカに容易にそのパテントを盗まれる。向こうの方はちゃっかりそれをパテント化して、上前をはねているという、非常に許せないような状況が多々あるという話でありましたが、まことにうなずけます。
 ですから、こういうものに対する援助、支援というのは、決してお金を出すだけじゃなしに、今おっしゃいました、多岐にわたる情報の交換を、国、都が促進することで、その人たちがもっと利益を上げながら、かつ自信を持って、さらに物づくりを開発していく、そういう総合的な支援機構というものをやっぱりつくっていく必要があると思いますし、今般整備しておりますデータベースも、そういうことのために大いに活用したいと思っております。
 今までも、物づくりを維持し発展させるために、技術、経営、資金、市場開拓など、都は各種の支援を行ってきたようでありますが、しかし、もっとこれを徹底して、しかも、日本の独自の物づくりの技術というものを、何も他国のためだけじゃなしに、我々自身のために活用して、もっと都なり国が収益を上げる、そういう体制をまず都からつくっていきたいと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。
   [東京都技監成戸寿彦君登壇〕

○東京都技監(成戸寿彦君) 都市計画に関します三点のご質問にお答えいたします。
 まず、運輸政策審議会答申の全般についてでございますが、今回の答申に至る過程で、都議会の先生方の大変な応援をいただきました。まことにありがとうございました。
 今回の答申に位置づけられた路線は、整備主体の見通しなどの鉄道整備に係る熟度に応じて、三種類に分類をされております。これらの路線の実現には、事業主体の確立、膨大な事業費の確保、事業採算性の向上など、それぞれの路線とその熟度に応じた課題があると考えております。
 このため、今後、国や地元自治体及び事業者などとともに、これら諸課題の解決に努め、答申路線の実現に向け取り組んでまいります。
 次に、区部周辺部環状公共交通の今後の取り組みについてでございますが、本路線は、広域交通ネットワークの形成や都市機能の分散化など、東京の均衡ある発展に大きく寄与する路線であると認識をいたしております。
 本路線の整備につきましては、採算性など事業上の課題に加え、沿線地域のまちづくりとの整合など、多くの克服すべき課題があることから、国の支援を初め、関係区等の積極的な取り組みが不可欠でございます。このため、今後とも国と連絡調整を深めるとともに、関係区との連絡会を通じて、協議、調整を進めてまいります。
 最後に、区部周辺部環状公共交通の採算性や整備方策の検討についてでございますが、本路線の整備につきましては、ご指摘いただきました点を含め、輸送需要の動向、導入空間の確保状況及び事業採算性などを見きわめるとともに、関係区の意向等を踏まえながら、今後、検討してまいります。
   [労働経済局長大関東支夫君登壇〕

○労働経済局長(大関東支夫君) 中小企業にかかわる四点のご質問にお答えいたします。
 まず、物づくりを活性化するための、産・学・公連携による支援の強化についてでございますが、お話しのように、独力で技術開発が困難な中小企業の技術開発力を高めていくためには、大学等の技術、特許の活用、あるいは共同研究などによる産・学・公の連携を進めていくことが大変重要でございます。
 都は、これまでも、産業技術研究所を中心に、連携推進会議や技術交流事業等を通じまして、連携を強化する仕組みづくりに取り組んできたところでございます。今後、さらにこれらの連携を促進するため、産業技術研究所内に新たに連携窓口を設置いたしまして、中小企業のニーズと大学等のシーズを結びつけるためのコーディネート機能を強化していきたいと、このように考えております。
 次に、産・学・公の交流事業における民間団体との連携でございますが、東京都はこれまでも、商工会議所や多摩の商工会などとも連携を図りながら、テクノフォーラムや技術協力サミット等の産・学・公の交流事業を共同で実施してまいりました。
 お話しの東京商工会議所の取り組みは、これまでの実績を踏まえ、産業界として主体的に、意欲ある研究開発型の中堅・中小企業の交流会等を通じて、企業の技術ニーズを把握し、交流の促進を図ろうとする動きでございます。
 産・学・公の連携を促進するためには、こうした民間の自主的、意欲的な取り組みこそ重要でありまして、都といたしましても、こうした動きに対しまして積極的に支援していきたいと、このように考えております。
 次に、都が構築しようとしている主要中小企業のデータベースの活用についてでございますが、このデータベースは、今回予定しております債券発行に参加する企業を初めとした約一万社をネットワーク化してスタートいたしまして、中小企業施策の共通インフラとしていきたいと、このように考えております。
 この中で、中小企業のすぐれたノウハウ、あるいは特許等の技術や財務などに関する情報を収集、整備していきたいと、このように考えております。
 また、これらの情報のうち、公開が可能なものにつきましては、国内外に発信いたしまして、投資等を呼び込むとともに、中小企業相互間での受発注などのビジネスチャンスにつながることを期待しております。
 次に、すぐれた技能者等を活用するための技術者バンクについてのお尋ねでございますが、ご指摘のように、技術を担い、受け継いでいくのは人でありまして、とりわけ、今日の中小企業においては人材の育成が急務であると、このように認識しております。
 都は、このため、技術アドバイザーの派遣などによる技術指導に加え、技能継承推進者支援事業により、高度な熟練技能の継承を支援するとともに、すぐれた技術者、研究者などの講師名簿を作成いたしまして、希望する企業の利用に供してきたところでございます。
 今後も、ご提案の趣旨を踏まえ、こうした取り組みを充実し、すぐれた技能・技術者が積極的に活動できる体制づくりを進めてまいります。
   [住宅局長戸井昌蔵君登壇〕

○住宅局長(戸井昌蔵君) 都営住宅の管理についての五点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、都営住宅の区への移管を推進し、区の福祉・まちづくり施策に活用できるようにすべきとのことであります。
 都では、これまでも、移管後の区の財政負担を軽減するために、移管対象住宅の計画修繕を前倒しして実施するなどの支援を行い、区への円滑な移管に努めてまいりました。
 平成十二年度には、都の体制を強化するとともに、引き続き各種の支援を通じて移管を推進し、区の福祉・まちづくり施策にも活用されるよう努めてまいりました。
 二点目は、スーパーリフォーム事業における居住面積の増加についてでございます。
 居住面積の増加を図る方法といたしましては、二戸を一戸に、または三戸を二戸に改造する方法がございます。この方法には、戸数が減少すること、入居者が他団地へ移転しなければならないこと、及びコストが増加することなどの幾つかの課題がございます。しかし、ファミリー世帯向けに居住面積を増加することの必要性は十分に認識をしているところでございます。このため、本年度に、一団地で、二戸を一戸にする改造を思い切って試行することとしているところでございます。この試行を通じまして、十分検証を行い、今後の進め方について検討してまいります。
 三点目は、空き家の効率的運用についてでございます。
 従来、空き家の入居登録者の募集は、抽せん方式を五月に、ポイント方式を六月と十二月に、単身者向けなどを十二月に行ってまいりました。
 このうち、抽せん方式につきましては、平成十一年度からは、募集回数を、これまでの年一回から二回にするとともに、応募者の少ない団地につきましては、追加募集や常時受け付けを行い、入居促進に努めているところでございます。
 さらに、平成十二年度からは、空き家期間の短縮を図るため、月一回の入居許可を月二回にするなど、空き家の効率的運用に努めてまいります。
 四点目は、既存の中層住宅へのエレベーターの設置状況についてでございます。
 これまで、約一千四十棟について、居住者からエレベーターの設置要望が寄せられております。このうち、約四百三十棟が設置可能でありまして、これに対する設置状況は、十一年度の設置予定も含めまして、三百十一棟でございます。
 五点目は、エレベーターの設置促進についてでございますが、階段室型住棟へのエレベーターの設置は、ご指摘のとおり、建設省の主導のもとに、公営住宅事業者等連絡協議会が提案募集を行っておりまして、現在、審査を行っております。
 都といたしましては、今後、この開発提案を踏まえまして、国とも連携しながら、設置の可能性について具体的に検討してまいります。
 なお、従来から実施しております廊下型住棟へのエレベーター設置につきましても、これらの検討の成果を参考に、今後、より一層コスト縮減に努め、できる限り設置要望にこたえていきたいと考えております。

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