平成十二年東京都議会会議録第三号

○副議長(五十嵐正君) 五十四番藤岡智明君。
   [五十四番藤岡智明君登壇〕

○五十四番(藤岡智明君) 昨日、我が党が、代表質問で、今回の福祉切り捨てのやり方のひどさについて、老人福祉手当の廃止問題を挙げてただしたのに対して、知事は、区市町村に対して見直しの趣旨と内容について十分説明し、理解を賜ってきているものであると答弁されました。いかにも、区市町村の側に福祉施策の見直しについて異論がなかったかのようなお答えでした。
 しかし、事実経過は違うのではありませんか。多摩の各市では、これらの福祉施策の切り捨てが住民に大きな影響を与えることが問題となり、市長会として、都に対して慎重な対応を求める要望も出されるなど、淡々と受け入れられたわけではありません。とりわけ老人福祉手当は、廃止条例がたとえ都議会で議決されたとしても、新年度との余裕期間はわずか一日しかなく、少なくない市が、都の制度として廃止も決まっていないのに、市として廃止条例を提案せざるを得ないという、全く関係者、住民に説明のつかないやり方か、住民福祉の根幹にかかわる条例廃止を、議決を経ずに市長の専決処分で決めなければならないのかという苦渋の選択に追い込まれたのであります。もちろん存続を決めた自治体もありますが、多くの自治体は、残したくても、今日の厳しい財政状況では自治体として抱えられないとして、廃止を選ばざるを得なかったのではありませんか。この苦しみが、知事、あなたにはわかりますか。
 従来、このような重要な都民施策の改定は、予算議会に先立って前の年のうちに提案し、市長会とも協議を重ねた上で、合意に基づいて、都議会での議決を経て、余裕を持って市側に提示されてきたものであります。実際に、行政改革大綱に基づく福祉作業所などの都施設の移管問題では、広域的役割や専門性などを指摘されて、市の合意が得られず、移管が見送られた経過があります。たとえどんなに都の側に理由があっても、合意なしに一方的に廃止を押しつけるなどということはやられてこなかったのです。
 ところが、今回は、これまでと違い、多くの自治体関係者が異口同音に、納得などしていないのに、都側に強引に押し切られたと述べています。二月十八日に行われた助役会では、出席した都の幹部が、老人福祉手当は三月二十一日の厚生委員会で決着がつくことになっていると発言。さすがに出席者から、そんな発言をこんな場所でするのはどうかとの意見も出たと聞いています。これが事実ではありませんか。本来、都と市町村の関係は対等であり、これまでは、相互の信頼関係を基礎に施策が進められてきたのではありませんか。今回のやり方が、これまでの信頼関係を踏みにじるものだという批判も当然であります。
 伺いますが、知事が地方分権というのならば、このようなやり方は二度とすべきではありません。答弁を求めます。
 次に、知事が提案している福祉切り捨ての影響が、区部の都民より、多摩都民により多く与えるという問題です。実際に、これまでも乳幼児医療費助成や児童福祉、高齢者施策などの多くの分野で多摩格差が生まれてきており、その是正が都政の課題の一つとして取り組まれてきたのです。
 例えば乳幼児医療では、二十三区の大半が都の助成に上乗せをしているのに比べ、多摩の自治体では上乗せは少数にとどまっています。保育料も多摩の方が全体として高くなっているのも、市町村の方が区に比べて財政力が乏しいからにほかなりません。これらの施策は、都が多摩と区部の行政上の格差を埋める役割を果たしてきたのです。今回の切り捨ては、この格差を埋める役割を果たしている施策を、あたかも階段を取り外してしまうようなやり方で、なくしてしまう点でも重大であります。
 加えて、都がかわるべき施策として提案している福祉の包括補助事業についても、事業費の二分の一を市が負担する仕組みでは、今でも財政が厳しくて施策の拡充が困難な市にとっては、手を挙げたくてもやれないのであります。制度のスタート時から、財政負担をめぐって立ち往生してしまうことも十分考えられます。
 知事、包括補助事業については、結果として都民が利用できないということがないように、とりわけ財政の厳しい多摩市町村については、大幅に負担の軽減を図ることを要望するものです。
 また、福祉の行政格差を埋める上で、市町村調整交付金の役割はますます重要になると思いますが、支援の拡充を含めて見解を伺います。
 阪神・淡路大震災から五年たちました。地震直後、我が党は調査団を派遣し、直下型地震対策を中心とした震災対策を提案、地震計ネットワークやハイパーレスキュー隊の新設、学校避難所機能の強化など、施策として実現をしましたが、同時に、必要とされた多くの施策がたなざらしにされていることは、厳しく指摘されなければなりません。また、この間に多摩地域でも立川断層の存在が明らかにされるなど、直下型地震を前提とした震災対策の確立が緊急の課題となっているのであります。
 そこで、震災対策について幾つかに絞って伺います。
 まず、障害者、寝たきりの高齢者など災害弱者といわれる人たちの対策です。この点では、災害弱者の対策を持っているのは区市町村の半分にすぎず、また、あっても極めて不十分なものにとどまっているのが現実です。それは、この課題が阪神・淡路大震災以降、注目され始めた分野であることと、障害者施策が全体として立ちおくれた分野であるためといえます。阪神・淡路大震災のときには、これらの障害者や寝たきり高齢者などが、倒壊した住宅から脱出できずに、長時間孤立する例がたくさんありました。また、避難場所に避難しても、障害に合わせた施設がないことなど、健常者以上の苦しみを味わわされたのです。
 都内には、三十九万人の障害者と六万二千人の寝たきりの高齢者が暮らしています。これらの人が阪神・淡路大震災と同じような苦しみに遭わないようにすることが、行政の責務であります。実際に、筋萎縮症で人工呼吸器をつけている障害者は、災害に遭ったらどうなるか大変不安だ、と語っていました。また、脳梗塞で寝たきりの家族を抱えた方は、非常の場合は、だれかの手をかりなければ、とても一人では外に運び出せない、いつも玄関はあけっ放しにしている、といっているように、災害弱者やその家族は、災害弱者を支える社会的仕組みが確立していないことに不安を感じているのであります。
 知事、障害者や寝たきり高齢者などの災害弱者を社会的に支える仕組みづくりは、都にとって重要な責務の一つだと考えますが、見解を伺います。
 こうした事態を打開するために、東京都障害者震災対策検討委員会が、「災害弱者防災行動マニュアルへの提言」を発表しています。この提言は、十の障害者団体の代表が参加して、足かけ三年をかけてつくり上げたもので、関係者から大変喜ばれているものです。それは、この提言が、行政がつくるものと違い、障害者や高齢者の実態を踏まえたものとなっているからです。ところが、このようなすぐれたものをつくりながら、配布先が一部の民間福祉施設や区市町村、消防署などにとどまっており、活用の範囲が限られていることは残念でなりません。「災害弱者防災行動マニュアルへの提言」は、すべての民間福祉施設を初め、病院や学校、警察署など、いざというときに障害者を支える組織や団体に配布し、活用してもらうことが急がれているのではありませんか。答弁を求めます。
 私は、地域社会が災害弱者を支えていく上で必要とされる幾つかの提案を行いたいと思います。
 阪神・淡路大震災のときにも、どこに支援を必要としている人がいるのかが掌握されておらず、救出のおくれを招きました。私の住む多摩地域は、多くの人が都心で働くベッドタウンであり、昼間に地震が起きれば、災害弱者は孤立させられることは明らかです。地域ごとに寝たきりの人や障害者の情報を集めるとともに、災害時にはどのような支援が必要なのか、家族との連絡はどうすればいいのかなど、実態をつかんでおくことが急がれています。
 そこで、震災時に真っ先に助けを必要とする視覚障害者、聴覚障害者、重度障害者、寝たきり高齢者など、自力では避難できない人たちの実態調査を早急に行うために、都が予算を用意して、区市町村が足を踏み出せるように支援してはいかがですか。
 阪神・淡路大震災のときには、ボランティアの活躍が被災者の救出や援護に大きな役割を果たしました。多摩地域は、区部と比べて保健所や病院が少なく、行政機関も多くありません。それだけに、日常的に地域で災害弱者を支え合う組織を確立していくことが必要です。また、地域の防災訓練に障害者の参加を呼びかけているところは、まだ限られています。そこで、あらゆる防災訓練に災害弱者やその家族の人などの参加を呼びかけ、防災行動に日常的に組み込んでいくことが必要だと思いますが、どうですか。
 さらに、まだまだおくれているボランティアの組織化やNPOへの支援を行い、全都的なネットワークづくりを進めることを提案したいと思います。
 都は、公的施設に加えて、民間福祉施設を第二次避難所に指定しているように、これらの施設は、いざというときの役割が期待されるものです。私も幾つかの施設を訪ねてみましたが、多くのところでは大規模地震に対応するような建物にはなっていません。また、当面の耐震対策を行いたくても、厳しい経営の中で苦しんでいるのが実情です。避難所として指定されているのですから、当然、耐震補強を含めた安全対策のための助成を行うのが筋ではありませんか。
 次に、消防力の強化です。
 消防が、被災者の救出や二次災害を防ぐ上で極めて大きな役割を果たすことが、改めて阪神・淡路大震災で示されました。ところが、東京都においては、消防署所やポンプ車の数が消防力の基準をはるかに下回っています。例えば消防署所の充足率は八四%、ポンプ車は八八%、救急車は九三%、大都市には欠かせないはしご車に至っては六七%の水準です。阪神・淡路大震災の後整備されたものでは、ポンプ車一台、はしご車三台、化学車は一台も増車されていません。都がこの問題で熱心に取り組んできたとはいえないのが現実です。現在の基準自体も満足できるような水準ではありませんが、とりあえず早急に基準を達成させるために全力を挙げることは、都として最小限の責務ではありませんか。
 また、あわせて、立ちおくれている多摩地域の消防力の引き上げを強力に図ることを検討することを求めます。
 さらに、私の地元の保谷消防署田無出張所のように、長年の住民の運動が実ってようやく消防署ができたのに、肝心の救急車が配置されていないなどの事態は、早急に改善されるべきだと思いますがどうか、答弁を願います。
 最後、多摩地域がとりわけ立ちおくれている公立学校施設の耐震対策です。
 多摩地域の小中学校で耐震診断が終わったものが四百九十七校中百五十九校で三二%、そのうち耐震補強が行われたのが百八校で、全体の二一%にすぎません。その原因は、市町村の厳しい財政力にあります。子どもたちが学び、災害時には避難所として大きな役割を負わされている学校施設の耐震対策がこのような状態に置かれていることは、放置することはできません。学校は、緊急の場合の一次避難所としての役割を負わされているわけですから、学校施設の耐震補強を防災対策として位置づけ、とりあえず都の支援で耐震診断を終わらせることが必要です。
 また、耐震補強についても、都として独自の補助制度をつくって、区市町村を支援するぐらいのことはやられてもよいのではありませんか。
 答弁を求めて、質問を終わります。(拍手)
   [知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 藤岡智明議員の一般質問にお答えいたします。
 障害者や寝たきりの高齢者などのための災害対策についてでありますが、大変重要なことでございまして、一体このまちのどこにそういう該当者がおられるかということを、災害の来る前に周囲の方が知っておくような、そういうシステムは必要だと思いますが、うっかりそういうステッカーでも張りますと、逆に今度盗難を誘発したりするようなことになりかねませんので、いずれにしろ災害発生時に備えて、区市町村が中心となってこれらの方々を救出、救護する体制を平時から確立していくことが必要だと思われます。
 都は、災害時に備えた地域での体制づくりに向けてマニュアルを示すなどして、区市町村を指導してまいっております。
 ただ、いろいろきめの細かい防災弱者に対する対策というものを質問されましたが、せっかくの質問でありますけれども、もっと基本的に大勢の人を救出する自衛隊の出動に何で共産党が反対なのか、どうも私は理解しかねる。(発言する者あり)
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。
   [高齢者施策推進室長福祉局長兼務神藤信之君登壇〕

○高齢者施策推進室長福祉局長兼務(神藤信之君) 最初に、福祉に関するご質問にお答えします。
 まず、老人福祉手当の見直しに関しましての区市町村との関係でございますが、今回の見直しに当たりましては、区市町村に対して、見直しの趣旨と内容について十分説明し、理解を賜ってきているものでございます。ご指摘のような点は当たらないと思います。
 今後とも、区市町村と十分連携しながら行政を進めてまいります。
 次に、福祉改革ビジョンで示した包括補助制度についてでございますが、新たに設けるこの制度は、都全域にわたって福祉改革を推進するため、区市町村の先導的、先駆的取り組みを支援するものでございまして、制度の趣旨から、地域により補助率に差異を設けることは考えておりません。
 次に、防災対策に関する三点のご質問にお答えします。
 まず、「災害弱者防災行動マニュアルへの提言」の活用についてでございます。
 本提言は、区市町村等の防災行動マニュアルに反映されるようにとの趣旨で、障害者団体等による検討会によりつくられたものでございます。
 都では、この提言を受け、災害要援護者防災行動マニュアルへの指針を本年一月に作成し、区市町村に対し配布して、その周知を図ったところでございます。
 今後とも、都は、区市町村と連携をとりながら、地域の防災体制の整備に努めていきます。
 次に、障害者や寝たきり高齢者などの実態の把握についてのお尋ねでございます。
 都としては、これらの方々の安全確保を図るため、災害要援護者への災害対策推進のための指針を作成し、区市町村に対して、本人からの申告や町会、自治会等を活用し、常日ごろからこれらの方々の所在の把握等を行うよう指導しているところでございます。
 最後に、民間福祉施設の安全対策についてでございますが、都は、東京都地域防災計画において、区市町村が災害時の二次避難所として社会福祉施設等を指定する場合には、耐震、耐火、鉄筋構造の建物とするよう定めております。
 民間社会福祉施設の整備に当たっては、従来から耐震性の確保等に十分に配慮して助成してきているものでございます。
   [総務局長横山洋吉君登壇〕

○総務局長(横山洋吉君) 「福祉施策の新たな展開」と市町村調整交付金の今後の役割についてでございますが、今回の福祉改革は、新しい時代に適合するために、区市町村の理解を得まして都全域にわたって進めるものでございます。
 一方、お話の市町村調整交付金は、都内の市町村の行政水準の均衡ある発展などを図るため、その時々の財政状況を踏まえながら、包括的に財政補完してきたものでございまして、こうした役割は今後とも変わらないと認識いたしております。
   [生活文化局長今沢時雄君登壇〕

○生活文化局長(今沢時雄君) 災害時におけるボランティア等のネットワークづくりについてでございますが、都は従前より、東京ボランティア・市民活動センターを、市民が行う災害救援活動の広域支援拠点と位置づけまして、支援を行っております。
 また、同センターと民間団体とにより設立されました東京災害ボランティアネットワークや、都民の知識、経験、資格を生かした各種の専門ボランティアとの情報交換や連携協力にも取り組んでいるところでございます。
 今後とも、これらの団体などと連携協力いたしまして、ボランティアなどのネットワークの充実拡大に努めてまいりたいと思います。
   [消防総監池田春雄君登壇〕

○消防総監(池田春雄君) 二点についてお答えいたします。
 まず、消防力配備の基準達成についてのお尋ねでございますが、当庁はこれまで、厳しい財政状況の中、消防力配備の基準に算定されていないヘリコプターや震災対策用の道路啓開重機などを整備するとともに、救急車やはしご車等についても増強してまいりました。
 今後とも、これまで同様、都民の生命、身体、財産を守るため、必要な消防力の整備に努めてまいります。
 また、多摩地域の消防力につきましても、市街地の進展や災害及び救急件数の状況を総合的に勘案いたしまして検討してまいります。
 次に、田無出張所への救急車配備についてでございます。
 救急車の配備につきましては、区市町村単位で行っているのではなく、東京消防庁の管轄区域を一体的に運用する体制により整備いたしております。保谷消防署田無出張所周辺の救急車の出場件数は、当庁の平均出場件数よりも少なく、当面整備する計画はございません。
 今後、救急車の出場件数の推移を見て検討してまいります。
   [教育長中島元彦君登壇〕

○教育長(中島元彦君) 学校施設の耐震診断及び耐震補強についての区市町村に対する支援についてでございますが、小中学校の施設整備については、原則として、設置者である区市町村がその経費を負担することとなっております。小中学校建物の耐震性の確保については、もとより重要なことであり、設置者が、国の特別措置による助成制度などを十分活用し、適切に対応を図っていくものでございます。
 都単独の補助制度等を創設することは、困難な状況でございます。

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